説明

近赤外線硬化型インク組成物およびこれを使用する印刷方法

【課題】ガラス面に破損の原因を生じさせず、手間をかけずにガラス面に印刷を行うことのできるインク組成物を提供する。
【解決手段】本発明によるインク組成物は、無機材料に適用される近赤外線硬化型インク組成物であって、シランカップリング剤の少なくとも1種、アルコキシシラン化合物の少なくとも1種、赤外線吸収剤の少なくとも1種および顔料または染料の少なくとも1種、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線硬化型インク組成物およびこれを使用する印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスへの密着性に優れた印刷方法として、シランカップリング剤と、樹脂を主成分とする紫外線硬化型塗料または熱硬化型塗料を使用する印刷方法がある。該印刷方法は以下のとおりである。
【0003】
1)ガラス面上にシランカップリング剤加水分解物をコートする。
2)80乃至120度(摂氏)の熱処理を行う。
3)紫外線硬化型塗料または熱硬化型塗料によって印刷を行う。
4)紫外線硬化型塗料または熱硬化型塗料を紫外線または熱によって硬化させる。
【0004】
該方法には、シランカップリング剤加水分解物をコートし、熱処理を行うことが必要であり手間がかかる。また、シランカップリング剤加水分解物は可使時間がある。紫外線硬化型インクについては、たとえば、特許文献1および2に記載されている。
【0005】
また、ガラスへのマーキング方法としてサンドブラスト法が実施されている。しかし、サンドブラスト法を実施すると、ガラス面に微小なクラックが発生し、破損の原因となりやすい。
【特許文献1】特開2000−37943号公報
【特許文献2】特開2004−18716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ガラス面に破損の原因を生じさせず、手間をかけずにガラス面に印刷を行うことのできるインク組成物および印刷方法は開発されていない。したがって、このようなインク組成物および印刷方法に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるインク組成物は、無機材料に適用される近赤外線硬化型インク組成物であって、シランカップリング剤の少なくとも1種、アルコキシシラン化合物の少なくとも1種、赤外線吸収剤の少なくとも1種、および顔料または染料の少なくとも1種を含む。
【0008】
本発明によるインク組成物は、赤外線吸収剤を含むので、ガラス面上に塗布した後に赤外線を照射すると、赤外線はガラスに吸収されずに、インク内に大きなエネルギーが発生する。インクに含まれるシランカップリング剤およびアルコキシシラン化合物がこのエネルギーを受けて硬化し、インクがガラス面上に定着される。
【0009】
本発明による無機材料の印刷方法は、インク組成物を無機材料面に塗布し、近赤外線を照射して定着させることを特徴とする。
【0010】
本発明による無機材料の印刷方法によれば、近赤外線を照射するだけでインクがガラスなどの無機材料面に定着するので、無機材料面に損傷を与えることなく、手間をかけずに印刷を行うことができる。
【0011】
また、本発明によれば、樹脂材料に対しても同様に印刷を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の位置実施形態によるインク組成物の構成は以下のとおりである。数字は重量比を示す。
【0013】
a)シランカプリング剤加水分解物 0.5
b)アルコキシシラン加水分解物 0.5
c)赤外線吸収剤 0.24
d)染料または顔料 0.3
e)樹脂 0.9
f)溶剤 4.56
合計 7.0
【0014】
インク組成物は、赤外線吸収剤を含むので、ガラス面上に塗布した後に赤外線を照射すると、赤外線はガラスに吸収されずに、インク内に大きなエネルギーが発生する。インクに含まれるシランカップリング剤およびアルコキシシラン化合物がこのエネルギーを受けて硬化し、インクがガラス面上に定着される。
【0015】
シランカップリング剤およびアルコキシシラン化合物は、加水分解物とするのが好ましい。その理由は、加水分解物は溶液の濃縮、熱などで高分子化してガラス成分に近づくが、非加水分解物ではガラス化反応が起きにくいからである。
【0016】
シランカップリング剤加水分解物およびアルコキシシラン加水分解物の合計100重量部に対し、シランカップリング剤は0.5重量部から25重量部である。シランカップリング剤がこれより少ないと、密着性の効果が小さくなり、シランカップリング剤がこれより多いと溶液がゲル化して使用できなくなり、共に都合が悪い。
【0017】
一例として、シランカプリング剤加水分解物の構成は以下のとおりである。数字は重量比を示す。
【0018】
a1)シランカップリング剤 1
a2)0.1N−HCl水 0.5
a3)メタノール 4
【0019】
シランカップリング剤は、一般に以下の式で表せる。
(RO)SiCHCHCH−X
ここで、ROは、メトキシ其、エトキシ其、アセトキシ其であり、Xは、アミノ其、メタクリロキシ其、ビニル其、エポキシ其、クロロ其、メルカプト其などである。
【0020】
ここでは、ROがメトキシ其であり、Xがメタクリロキシ其、ビニル其、エポキシ其の場合に効果があり、特にXがメルカプト其の場合に効果が大きい。
【0021】
アルコキシシラン加水分解物の構成は以下のとおりである。数字は重量比を示す。
【0022】
b1)エチルシリケート 1
b2)0.1N−HCl水 0.5
b3)メタノール 4
【0023】
アルコキシシラン化合物は、一般に以下の式で表せる。
(RO)Si
ここで、ROは、メトキシ其、エトキシ其、アセトキシ其である。
【0024】
ここでは、ROがエトキシ其であるエチルシリケートを使用する。その理由は、メトキシ其では加水分解速度が速いので溶液が不安定となり、アセトキシ其では、加水分解速度が遅いためである。
【0025】
シランカプリング剤加水分解物およびアルコキシシラン加水分解物は、別個に調整してもよいが、両者の組成物を混合して加水分解してもよい。
【0026】
インク組成物100重量部に対し、赤外線吸収剤は0.3から5重量部である。赤外線吸収剤がこれより少ないと、インクの固化が悪くなり、赤外線吸収剤がこれより多いとインク組成物の溶液が不安定となり、共に都合が悪い。
【0027】
赤外線吸収剤は、具体的に、シアニン系色素(日本化薬製、KAYASORB PS-228)である。他に、ジイモニウム化合物、イモニウム化合物、アミニウム化合物、ポリメチン化合物、フタロシアニン化合物、ミアニン化合物、メロシアニン化合物、イミダゾキノキサリン化合物、スリアリリウム化合物、キノン化合物、コロコニウム化合物などを使用してもよい。
【0028】
インク組成物100重量部に対し、染料または顔料は0.4重量部から7重量部である。染料または顔料がこれより少ないと、色目が薄くなり、染料または顔料がこれより多いとインク組成物の溶液が不安定となり、共に都合が悪い。
【0029】
使用している顔料は、具体的に C.I.Pigment Red 177である。
【0030】
インクの粘度を調整し、樹脂に対する密着性を向上するために、インク組成物に樹脂を加えてもよい。
【0031】
インク組成物100重量部に対し、樹脂は0から20重量部である。樹脂がこれより多いとインク組成物の溶液が不安定となり都合が悪い。
【0032】
樹脂は、アクリル系、エポキシ系およびウレタン系の樹脂である。分子量が比較的小さい樹脂が好ましい。印刷対象物がガラスの場合にはエポキシ樹脂が好ましい。印刷対象物が樹脂である場合には、ポリメチルメタクリレート樹脂が好ましい。また、印刷対象物が樹脂である場合には、印刷対象物と同じ樹脂を用いてもよい。
【0033】
インク組成物100重量部に対し、溶剤は48重量部から75重量部である。溶剤がこれより少ないと、インク塗布性能が低下し、溶剤がこれより多いと、インク塗布性能が低下し、共に都合が悪い。
【0034】
溶剤は、赤外線吸収剤、染料または顔料を溶かすアルコール類、ケトン類、塩化メチレン、ジメチルフォルムアルデヒドなどである。これらの混合溶剤でもよい。樹脂を溶かすためにメチルエチルケトン、ジメチルフォルムアルデヒドなどを用いる。ここでは、プロパノール80%、メチルエチルケトン20%の混合溶剤を使用する。
【0035】
図1は、本発明の一実施形態による印刷方法を示す流れ図である。
【0036】
図1のステップS1010において、本発明のインク組成物からなるインクによって、ガラス面上に文字・画像を形成する。本明細書で、文字・画像とは、文字、画像の他に記号など他の印刷対象を含むものとする。
【0037】
図1のステップS1020において、ステップS1010において形成された文字・画像にレーザ光を照射する。
【0038】
図3は、本実施形態の印刷方法に使用する印刷ヘッド100の構成の一例を示す図である。印刷ヘッド100は、インク塗布部101とレーザ照射部103とからなる。インク塗布部101およびレーザ照射部103は、印刷ヘッド100の走査方向に配列されている。図3において、印刷ヘッド100は左方向に移動し、インク塗布部101がガラス201上に塗布したインク203に、レーザ照射部103が近赤外域の波長のレーザを照射する。
【0039】
インク塗布部101は、インク塗布ノズル1011を備える。レーザ照射部103は、半導体レーザ1031および集光レンズ1033を備える。半導体レーザ1031は、たとえば、以下の仕様のものである。
【0040】
波長 805ナノメータ
最大出力 2ワット
ラインフォーカス 35x1000マイクロメータ
照射する光の波長は、0.7乃至2マイクロメータである。ガラス面における印刷は、出力2.9から5W/cm以上、樹脂面における印刷は、出力0.8から1.4W/cm以上で行うことができる。印刷ヘッド300の走査速度は、本実施例においては1ミリメータ/秒以上である。
【0041】
図2は、本発明の他の実施形態による印刷方法を示す流れ図である。
【0042】
図2のステップS2010において、ガラス面に均一にインクを塗布する。インクの塗布は、たとえば、スピンコート、ナイフエッジコート、スクリーン印刷、パッド印刷などによって行う。
【0043】
図2のステップS2020において、レーザによってガラス面上に文字・画像を形成する。先に説明したレーザ照射部103と同様の機構によって、ガラス面上に文字・画像を形成してもよい。
【0044】
図2のステップS2030において、レーザに照射されていない部分を溶剤などで除去することも可能である。
【0045】
図1の流れ図で示した印刷方法によって、インク組成物の構成を以下のように変化させて実験を行った。
【0046】
実施例 本発明の実施形態によるインク組成物(Aと呼称する)
比較例1 Aからアルコキシシラン化合物を除去したもの
比較例2 Aからシランカップリング剤を除去したもの
比較例3 Aからアルコキシシラン化合物およびシランカップリング剤を除去したもの
比較例4 Aから赤外線吸収剤を除去したもの
【0047】
印刷後、印刷面をメタノールで洗浄しインクの定着状態を確認した。結果は、以下のとおりである。
【0048】
実施例 インクは残る(定着している)。
比較例1 インクは一部溶解する。
比較例2 インクは大部分が溶解する。
比較例3 インクは全て溶解する。
比較例4 インクは全て溶解する。
【0049】
本発明によれば、ガラス面に破損の原因を生じさせず、手間をかけずにガラス面に印刷を行うことのできるインク組成物および印刷方法が得られる。
【0050】
本発明は、ガラス以外の赤外線を吸収しない無機材料の面への印刷にも同様に適用することができる。印刷対象の無機材料は、セラミック、陶磁器、石、金属(アルミ、銅、鉄など)などである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による印刷方法を示す流れ図である。
【図2】本発明の他の実施形態による印刷方法を示す流れ図である。
【図3】本実施形態の印刷方法に使用する印刷ヘッドの構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
100…印刷ヘッド、101…インク塗布機構、103…レーザ照射機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料に適用される近赤外線硬化型インク組成物であって、
シランカップリング剤の少なくとも1種、
アルコキシシラン化合物の少なくとも1種、
赤外線吸収剤の少なくとも1種、および
顔料または染料の少なくとも1種を含むインク組成物。
【請求項2】
シランカップリング剤をシランカップリング剤加水分解物として含み、アルコキシシラン化合物をアルコキシシラン加水分解物として含む請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
インク組成物100重量部中に、シランカップリング剤加水分解物を7から11重量部、アルコキシシラン加水分解物を7から11重量部を含む請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
インク組成物100重量部中に、赤外線吸収剤の少なくとも1種を0.3から5重量部、顔料または染料の少なくとも1種を0.4から7重量部を含む請求項3に記載のインク組成物。
【請求項5】
さらに樹脂を含む請求項1から4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のインク組成物を無機材料面または樹脂面に塗布し、近赤外線を照射して定着させることを特徴とする無機材料または樹脂の印刷方法。
【請求項7】
近赤外線をレーザによって照射することを特徴とする請求項6に記載の無機材料または樹脂の印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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