説明

送風機用羽根車

【課題】 送風機用羽根車の送風性能を向上させ、かつ騒音を低減させる。
【解決手段】 ハブ10の外周に複数枚のエアフォイル構造の厚翼の羽根11,11・・を設け、該羽根11,11・・の回転により軸流方向又は斜流方向に送風するようにしてなる送風機用羽根車において、各羽根11,11・・に、その前縁側圧力面部11bにおいて前縁から圧力面部11b側にかけて所定曲率のアール面を描いて膨出した肉厚部12を設け、前縁近傍の気流の流れを滑らかにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、送風機用羽根車の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、例えば空気調和機用送風機で採用されている軸流ファン又は斜流ファンなどの静圧の低い羽根車の翼には、一般に図10のような薄板翼構造(厚さが略均一な薄い板状の翼)が採用されている。そして、該薄板翼1では、その前縁1Aでの気流の剥離と後縁1Bでの気流の剥離を抑制するため、図示のような前縁側負圧面カットおよび後縁側負圧面カット構造を施している。
【0003】しかし、そのようにすると、前縁側エッジ部により、中少風量時に前縁1A側負圧面に気流の剥離が発生し(図11参照)、また大風量時には前縁1A側圧力面に気流の剥離が発生し(図12参照)、それぞれ強い圧力変動を生じさせて送風性能が低下するとともに空力騒音が発生する問題が生じる。
【0004】このような問題を解決するために、上記羽根1の断面形状を上述のような薄板翼構造から、例えば図13に示すように空力性能が非常によいエアフォイル構造、すなわち厚翼にすると、送風機の送風性能が大きく改善され、しかも騒音も低減できる。そして、このような厚翼の羽根車の場合に、その翼断面の形状は一般に次の方法で決められる。
【0005】すなわち、先ず、キャンバーラインを決めて、次に所定のデータベースから適切な厚さ分布を選び、上記キャンバーラインの負圧面側と圧力面側に均等にその厚さを割り当てて、最終的な羽根1の断面形状を決定する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のような従来のデータベースから決めた羽根1の断面形状では、羽根1の前縁部での曲率半径が小さいので、図13に示すように負圧面側羽根前縁部近傍の気流が滑らかでなく、また図14に示すように同負圧面側羽根後縁部近傍の剥離低減作用が不十分なため、騒音低減効果が不十分である。
【0007】本願発明は、上記のようなエアフォイルタイプの厚翼構造を採用し、かつ同厚翼の羽根の前縁側圧力面部に、前縁から圧力面にかけて所定曲率のアール面を描いて膨出する肉厚部を設けることによって、負圧面側羽根前縁部近傍の気流を滑らかにするとともに同負圧面側羽根後縁部近傍の剥離を可及的に低減するようにした騒音低減効果の高い送風機用羽根車を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本願各発明の送風機用羽根車は、上記の目的を達成するために、それぞれ次のような課題解決手段を備えて構成されている。
【0009】すなわち、先ず本願請求項1の発明の送風機用羽根車は、例えば図1〜図8に示すように、エアフォイル構造をなす厚翼の送風機用羽根車において、羽根11の前縁側圧力面部に、前縁11aから圧力面11b側にかけて所定曲率のアール面を描いて膨出した肉厚部12が設けられている。
【0010】したがって、該構成では、例えば中・小風量の時には、羽根車に流入した流れの淀み点が略肉厚部12の上に位置して形成されるようになり、その上流側はアール面となっているためにコアンダー効果が生じて負圧面11d側に入る流れが滑らかな流れとなる。
【0011】その結果、前縁11a側負圧面部での剥離が大きく低減され、それによる送風性能の低下、騒音も相当に改善される。
【0012】他方、大風量の時は、羽根車に流入した流れの淀み点が負圧面11d側にできる一方、圧力面11b側に流入する流れは肉厚部12のアール面に沿った滑らかな流れとなる。
【0013】その結果、圧力面11b側での剥離がなくなり、それによる送風性能の低下、騒音が相当に改善される。
【0014】また、全風量域において、各羽根11,11,11の肉厚部12部分で膨らむ流れが回転方向前側の各羽根11の負圧面11d側の上流部の流れを当該羽根11の負圧面11d方向に押え付ける作用を果すようになる。
【0015】その結果、回転方向前側の各羽根11の後縁11c側負圧面部での剥離が大きく低減され、それによる送風性能の低下、騒音も大きく改善される。
【0016】これらの結果、羽根車の運転領域全体に亘って、送風性能、静音性能が向上するようになる。
【0017】また、上記構成において、例えば請求項2の発明のように、羽根前縁側の負圧面と圧力面との連続面が、所定曲率半径の円弧面に形成されている場合には、上記コアンダー効果がより生じやすくなる。
【0018】また、上記各構成において、例えば請求項3の発明のように、肉厚部がハブ側からチップ側に到る前縁側圧力面部に設けられている場合には、ハブ側からチップ側に到る広い範囲で上述の作用が実現される。
【0019】また、上記各構成において、例えば請求項4の発明のように、肉厚部の後部面が、後縁側方向に緩やかなS字状のカーブを描いて連続している場合には、上記圧力面後方側への流れが、より滑らかとなる。
【0020】また、上記各構成において、例えば請求項5の発明のように、肉厚部の幅が、ハブ側ほど大きくなるようになっている場合には、ハブに対する羽根部の支持剛性が高くなり、より安定した送風性能、静音性能が実現される。
【0021】また、上記各構成において、例えば請求項6の発明のように、肉厚部の厚さが、ハブ側ほど大きくなるようになっている場合には、ハブに対する羽根部の支持剛性が高くなり、より安定した送風性能、静音性能が実現される。
【0022】また、上記各構成において、例えば請求項7の発明のように、肉厚部の幅とその厚さがハブ側ほど大きくなるようになっている場合には、さらにハブに対する羽根部の支持剛性が高くなり、より一層の安定した送風性能、静音性能が実現される。
【0023】さらに、上記各構成において、例えば請求項8の発明のように、羽根が中空構造となっている場合には、羽根自体の重量が軽くなり、駆動負荷が小さくなるとともに遠心力の作用に対する支持剛性が小さくて済むようになる。
【0024】
【発明の効果】以上の結果、本願発明の送風機用羽根車によると、厚翼の送風機用羽根車の更なる低騒音化を図ることができ、より送風性能、静音性能の高い送風機の実現が可能となる。
【0025】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)図1〜図5は、エアフォイル構造を採用した本願発明の実施の形態1に係る送風機用羽根車の構成および作用を示している。
【0026】先ず、図1は同送風機用羽根車の正面図を示している。図中、符号10は略円筒形のハブであり、該ハブ10の外周には複数枚(3枚)の中空エアフォイル構造の羽根(翼)11,11・・が送風方向に所定の傾斜角を有して所定のピッチで設けられている。
【0027】該羽根11,11・・は、それぞれ例えば図2および図3に示すように、その前縁11a側圧力面部において、前縁11aから圧力面11b側にかけて所定曲率のアール面を描いて膨出した厚さTおよび幅W1の肉厚部12が設けられている。そして、該肉厚部12は、例えば羽根11のハブ取付端側からチップ端側に到る前縁11a部側の剥離域の全域に位置し、その厚さTおよび幅W1をそれぞれハブ10側ほど大きくなるようにして設けられている。そして、該肉厚部12の圧力面前端から負圧面11d側にかけて形成される前縁11a部の圧力面11bと負圧面11dとの連続面12aは例えば所定半径(図3参照)の略正円弧面に形成されている一方、肉厚部12の後部面12bは、当該羽根11の後縁11c側方向に緩やかなS字状のカーブを描いて圧力面11bの後方に滑らかに連続している。
【0028】また、上記羽根11の前縁11a側および後縁11c側の各負圧面は、それぞれ気流の剥離を抑制できるように略従来同様のカット面に近い緩やかな曲面形状に形成されている。
【0029】したがって、以上の構成では、例えば図4に示すように、中・小風量の時には、羽根車に流入した流れの淀み点が略肉厚部12の上に位置して形成されるようになり、その上流側は所定半径の円弧面よりなるアール面となっているためにコアンダー効果が生じて負圧面11d側に入る流れが滑らかな流れとなる。
【0030】その結果、前縁11a側負圧面部での剥離が大きく低減され、それによる送風性能の低下、騒音も相当に改善される。
【0031】他方、大風量の時は、羽根車に流入した流れの淀み点が負圧面側にできる一方、圧力面側に流入する流れは肉厚部12面のアール面に沿った滑らかな流れとなる。
【0032】その結果、圧力面部側での剥離がなくなり、それによる送風性能の低下、騒音が相当に改善される。
【0033】また、図5に示すように、全風量域において、上記各羽根11,11,11の肉厚部12部分で膨らむ流れが回転方向前側の各羽根11の負圧面11d側の上流部の流れを当該羽根11の負圧面11d方向に押え付ける作用を果すようになる。
【0034】その結果、回転方向前側の各羽根11の後縁11c側負圧面部での剥離が大きく低減され、それによる送風性能の低下、騒音も大きく改善される。
【0035】これらの結果、羽根車の運転領域全体に亘って、送風性能、静音性能が向上する。
【0036】また、上記構成では、上記肉厚部12の幅W1とその厚さTがハブ10側ほど大きくなるように形成されているので、ハブ10に対する羽根11の支持剛性が高くなり、より一層の安定した送風性能、静音性能が実現される。
【0037】(実施の形態2)図6〜図9は、本願発明の実施の形態2に係る送風機用羽根車の構成と効果を示している。
【0038】該構成では、上記実施の形態1のものと同様の肉厚部12を有する羽根車を羽根11の内部を中空にしたエアフォイル構造のもので形成することによって、可及的に羽根11の重量の増加を生ぜしめなくて済むようにしたものである。
【0039】先ず、図6は同送風機用羽根車の側面図を示している。図中、符号10は略円筒形のハブであり、該ハブ10の外周には複数枚(3枚)の中空エアフォイル構造の羽根(翼)11,11・・が送風方向に所定の傾斜角を有して所定のピッチで設けられている。
【0040】該羽根11,11・・は、それぞれ例えば図8に示すように、その前縁11a側圧力面部において、前縁11aから圧力面11b側にかけて所定曲率のアール面を描いて膨出した前述の実施の形態1のものと同様のハブ10側ほど幅W1、厚さTが大きくなる肉厚部12が設けられている。また、前述の実施の形態1のものと同様に、該肉厚部12は、例えば羽根11のハブ取付端側からチップ端側に到る前縁11a部側の剥離域全域に位置して設けられている。そして、該肉厚部12の圧力面先端から負圧面11dにかけて形成される前縁11a部の圧力面11bと負圧面11dとの連続面12aは例えば所定半径(前述の実施の形態1の図3参照)の略正円弧面に形成されている一方、肉厚部12の後部面12bは、当該羽根11の後縁11c側方向に緩やかなS字状のカーブを描いて圧力面11bとして滑らかに連続している。
【0041】また、上記羽根11の前縁11a側および後縁11c側の各負圧面は、それぞれ気流の剥離を抑制するように略従来のカット面に近い緩やかな曲面形状に形成されている。
【0042】ところで、本実施の形態の場合、上記羽根11は、例えば図7および図8に示すように、中空部形成用の凹部21を形成した羽根本体の凹部21の開口部に対して蓋22を連続面を形成するように溶着接合して構成されており、それによってハブ10側からチップ側にかけて次第に空間面積の幅が大きくなる図8の断面構造のような中空部23が形成され、該中空部23によって図示の如きエアフォイル構造の羽根11が形成されている。
【0043】そして、該中空部23は、全体として上述のように肉厚の大きい前縁側に偏位させて形成されており、肉厚の小さい後縁11c側の非中空部の幅W2を前縁11a側の非中空部の幅W3よりも大きくすることにより羽根全体として十分な剛性を確保するように構成されている。
【0044】したがって、以上の構成では、例えば前述の図4のように、中・小風量の時には、羽根車に流入した流れの淀み点が略肉厚部12の上に位置して形成されるようになり、その上流側は所定半径の円弧面よりなるアール面となっているためにコアンダー効果が生じて負圧面11d側に入る流れが滑らかな流れとなる。
【0045】その結果、前縁11a側負圧面部での剥離が大きく低減され、それによる送風性能の低下、騒音も相当に改善される。
【0046】他方、大風量の時は、羽根車に流入した流れの淀み点が負圧面側にできる一方、圧力面側に流入する流れは肉厚部12面のアール面に沿った滑らかな流れとなる。
【0047】その結果、圧力面部側での剥離がなくなり、それによる送風性能の低下、騒音が相当に改善される。
【0048】また、例えば前述の図5に示すように、全風量域において、各羽根11,11,11の肉厚部12部分で膨らむ流れが回転方向前側の各羽根11の負圧面11d側の上流部の流れを当該羽根11の負圧面11d方向に押え付ける作用を果すようになる。
【0049】その結果、回転方向前側の各羽根11の後縁11c側負圧面部での剥離が低減され、それによる送風性能の低下、騒音も大きく改善される。
【0050】そして、以上の構成によれば、上記のような実施の形態1のものと全く同様の作用を、羽根重量を増大させることなく実現することができるので、羽根に作用する遠心力も小さくなる。その結果、可及的に軽量で高剛性の羽根を実現できる。また駆動力も小さくて済む。
【0051】また、上記構成では、上記肉厚部12の幅W1とその厚さTがハブ10側ほど大きくなるように形成されているので、ハブ10に対する羽根11の支持剛性が高くなり、より一層の安定した送風性能、静音性能が実現される。
【0052】次に図9は、本実施の形態の構成の送風機用羽根車の騒音低減効果を従来例と対比して示している。このグラフから明らかなように、本実施の形態の送風機用羽根車の構成では、送風性能が向上し、騒音も低減されていることが分る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の実施の形態1に係る送風機用羽根車の羽根車部の正面図である。
【図2】同羽根車の羽根の断面図(図1のA−A断面図)である。
【図3】同羽根車の羽根の要部の拡大断面図である。
【図4】同羽根車の羽根単体の気流分布を示す説明図である。
【図5】同羽根車の羽根相互の相対的な気流分布を示す説明図である。
【図6】本願発明の実施の形態2に係る送風機用羽根車の羽根車部の側面図である。
【図7】同羽根車の正面図である。
【図8】同羽根車の羽根の断面図(図7のA−A断面図)である。
【図9】同羽根車による騒音低減効果を従来例と対比して示すグラフである。
【図10】従来の送風機用羽根車の羽根の断面図である。
【図11】同図10の羽根の中小風量時の問題点を示す説明図である。
【図12】同図10の羽根の大風量時の問題点を示す図である。
【図13】図10の羽根の問題点を改良したエアホイル構造の羽根単体の作用と残された第1の問題点を示す図である。
【図14】図10の羽根の問題点を改良したエアホイル構造の各羽根の作用と残された第2の問題点を示す図である。
【符号の説明】
10はハブ、11は羽根、11aは前縁、11bは圧力面、11cは後縁、11dは負圧面、12は肉厚部、12bは後部面、21は凹部、22は蓋、23は中空部である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エアフォイル構造をなす厚翼の送風機用羽根車において、羽根の前縁側圧力面部に、前縁から圧力面側にかけて所定曲率のアール面を描いて膨出した肉厚部を設けたことを特徴とする送風機用羽根車。
【請求項2】 羽根前縁の負圧面と圧力面との間の連続面が、所定曲率半径の円弧面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の送風機用羽根車。
【請求項3】 肉厚部が、ハブ側からチップ側に到る前縁側圧力面部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の送風機用羽根車。
【請求項4】 肉厚部の後部面は、後縁側方向に緩やかなS字状のカーブを描いて連続していることを特徴とする請求項1,2又は3記載の送風機用羽根車。
【請求項5】 肉厚部の幅が、ハブ側ほど大きくなっていることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の送風機用羽根車。
【請求項6】 肉厚部の厚さが、ハブ側ほど大きくなっていることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の送風機用羽根車。
【請求項7】 肉厚部の幅と厚さが、それぞれハブ側ほど大きくなっていることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の送風機用羽根車。
【請求項8】 羽根が、中空構造となっていることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の送風機用羽根車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開平11−201091
【公開日】平成11年(1999)7月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−5019
【出願日】平成10年(1998)1月13日
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)