説明

逆ミセル分散系を用いてなるシリカナノ粒子の製造方法、該方法により得られたシリカナノ粒子、及びそれを用いた標識試薬

【課題】粒度分布の幅の狭く、平均粒径がnmオーダー(例えば、300nm以下)のシリカナノ粒子を廉価かつ高収率で製造する製造方法、及びそれにより製造されるシリカナノ粒子を提供する。測定結果の再現性に優れる、極微量標的試料の高感度分析が可能な標識試薬を提供する。
【解決手段】疎水性溶媒中の界面活性剤と、塩基性電解質を含有する水と、ポリオールとからなる逆ミセル分散系に、シランカップリング剤を添加し、前記水により前記シランカップリング剤を加水分解して重合させ、シリカナノ粒子を形成する、シリカナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質等の特定物質の検出用ないしは定量用の標識試薬として用いる、粒径が揃ったナノメートルサイズのシリカナノ粒子の製造方法に関する。より詳しくは、逆ミセル分散系を用いてなるシリカナノ粒子の製造方法、該方法により得られたシリカナノ粒子、及びそれを用いた標識試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラエトキシシラン(以下、TEOSということもある。)に代表されるシランカップリング剤に水を加えて加水分解するとシリカ粒子が形成されるが、その大きさにはある程度の統計的なばらつき、すなわち粒度分布が生じてしまう。このような粒度分布を制御することは、水が均一に希釈された溶媒(例えば、エタノール)中でシリカ粒子形成を行う従来のシリカ粒子の製造方法では困難であった。
一方、形成される粒子の大きさを揃える手法として一般的に、ミセル又は逆ミセル内部に粒子の原料を留めておくことを特徴とする、ミセル又は逆ミセルを用いた製造方法がある(例えば、特許文献1参照。)。シランカップリング剤によるシリカ粒子の場合は反応の際に加水分解のための水が必要になるので、疎水性溶媒中の水滴からなる逆ミセルを用いた製造法を採用することができる。例えば、ナノメートルサイズの超微小逆ミセルを形成できる疎水性溶媒と界面活性剤との組み合わせとしては、n−ヘプタンとジ−2−エチルヘキシルスルホこはく酸ナトリウム(以下、AOTということもある。)との組み合わせが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
このような逆ミセルを用いた製造の場合、シリカ粒子が大きく成長することにより逆ミセル構造が不安定化して破壊され、シリカ粒子の成長が停止するという機構によって、得られるシリカ粒子の大きさが制御されることになる。しかし、逆ミセル構造が破壊される限界の大きさに統計的なばらつきがあるため、製造されるシリカ粒子の大きさも同様に、統計的にばらついてしまうという問題があった。
さらに、このような逆ミセルを用いた製造の場合、シリカ粒子の原料であるTEOSは疎水性溶媒中に溶解しており、逆ミセル内部でシリカ粒子が合成されて内部のTEOSが消費されても逆ミセル外部から供給されてしまうために粒子の成長が停止することなく、シリカ粒子は逆ミセル構造を維持したまま元の逆ミセルの大きさ以上に成長してしまうので、粒径が揃ったナノメートルサイズのシリカ粒子が得られないという問題があった。
一方、製造されるシリカ粒子の内部に色素を含有させることでシリカ粒子に蛍光特性や吸光特性を持たせ、さらに標的分子に選択的に結合する分子で表面修飾することで、選択的に結合される前記標的分子を光学的な手法で高感度に検出することのできる標識試薬として用いることができる(例えば、特許文献2参照。)。このとき蛍光強度や吸光強度を定量的に測定すれば、単に標的分子の有無を調べるだけでなくその濃度を定量的に評価することも可能となる。しかし、標識試薬のシリカ粒子に大きいものや小さいものが混在している場合、標的分子の結合性に粒径依存性があると再現性ある測定結果が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開平07−062008号公報
【特許文献2】EP1036763B1公報
【非特許文献1】応用物理 第70巻 第9号(2001)P1087、「蛍光体材料のナノサイズ化による発光の高量子効率化」磯部徹彦
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑みて、逆ミセル分散系を用いることによる、粒度分布の幅が狭く粒径が揃った、平均粒径がnmオーダー(例えば、300nm以下)のシリカナノ粒子を廉価かつ高収率で製造する製造方法、及びそれにより製造されるシリカナノ粒子を提供することにある。また、本発明の目的は、測定結果の再現性に優れる、極微量標的試料の高感度分析が可能な標識試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は下記の手段により達成された。
(1) 疎水性溶媒中の界面活性剤と、塩基性電解質を含有する水と、ポリオールとからなる逆ミセル分散系に、シランカップリング剤を添加し、前記水により前記シランカップリング剤を加水分解して重合させ、シリカナノ粒子を形成することを特徴とする、シリカナノ粒子の製造方法、
【0005】
(2) 前記疎水性溶媒がn−ヘプタンであり、前記界面活性剤がジ−2−エチルヘキシルスルホこはく酸ナトリウムであり、前記ポリオールがエチレングリコールであり、前記シランカップリング剤がテトラエトキシシランであることを特徴とする、(1)に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
(3) 前記シランカップリング剤の他に、さらに、シラン化合物と化学的に結合した有機色素化合物を添加することにより色素含有シリカナノ粒子を製造することを特徴とする、(1)又は(2)に記載のシリカナノ粒子の製造方法、
(4) 前記逆ミセル分散系において、前記逆ミセルの内部の水と前記ポリオールとの体積比が3:7〜7:3の範囲にあることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製造方法、
(5) 平均粒径が100〜300nmであり、かつCV値が5〜25%であるシリカナノ粒子が得られることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の製造方法、
【0006】
(6) 前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたシリカナノ粒子、
(7) 平均粒径が100〜300nmであり、かつCV値が5〜25%であることを特徴とする、(6)に記載のシリカナノ粒子、及び
(8) 前記(6)又は(7)に記載のシリカナノ粒子を用いてなる標識試薬
を提供するものである。
本明細書及び特許請求の範囲において、「シリカナノ粒子」とは、平均粒径が300nm以下のコロイドシリカ粒子をいう。前記シリカナノ粒子を標識試薬として用いる場合、検出物質や検出法によって使用するのに好適な粒子径は様々であるが、100〜300nmの範囲内である場合が多く、この範囲にあるシリカナノ粒子であることが好ましい。
本明細書及び特許請求の範囲において、「逆ミセル分散系」とは、疎水性溶媒、界面活性剤、水及びポリオールを添加して、前記水及びポリオールからなる滴の周囲に形成される前記界面活性剤の球殻状集合体(いわゆる油中水型マイクロエマルジョン)の分散系をいう。
本明細書及び特許請求の範囲において、「色素含有シリカナノ粒子」とは、有機色素化合物を高濃度に取り込んだシリカナノ粒子をいう。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリカナノ粒子の製造方法は、前記ポリオールを逆ミセル内部に含有させることにより、得られるシリカナノ粒子の粒度分布の幅が狭く粒径を揃え、かつ平均粒径を制御できる。
本発明のシリカナノ粒子の製造方法は、逆ミセルを用いずに水が均一に希釈された溶媒中でシリカ粒子形成を行う従来のシリカ粒子の製造方法に比べ、有機色素化合物を高濃度に取り込んだ色素含有シリカナノ粒子を製造することができる。
【0008】
本発明の製造方法により得られたシリカナノ粒子は、平均粒径がナノメートルサイズであり、かつ粒度分布の幅が狭く粒径が揃っている。
本発明の色素含有シリカナノ粒子は、前記逆ミセル製造方法により得られるので、有機色素化合物を高濃度に取り込み、高感度標識を可能とする。
本発明の標識試薬は、平均粒径が揃った前記シリカナノ粒子を用いてなるので、測定結果の再現性に優れ、信頼性が高い極微量標的試料の高感度分析が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のシリカナノ粒子の製造方法について説明する。
本発明のシリカナノ粒子の製造方法は、疎水性溶媒中に界面活性剤と、塩基性電解質を含有する水と、ポリオールとからなる逆ミセル分散系に、シリカ原料となるシランカップリング剤を添加し、前記水により前記シランカップリング剤を加水分解して重合させ、シリカナノ粒子を形成することを特徴とする。
本発明の製造方法において、前記水は、逆ミセルを安定に形成するために必要であるとともに、シランカップリング剤によるシリカナノ粒子形成反応の基質としても必要である。したがって、本発明において、前記水が存在する逆ミセル内部でのみシリカ粒子形成反応が進行する。
【0010】
本発明に用いられる前記ポリオールが、粒度分布が狭窄化したナノメートルサイズのシリカナノ粒子製造を可能にする作用機構は定かではないが下記のように推定される。
前述の通りシリカナノ粒子の粒径及び粒度分布は、逆ミセル構造が破壊される限界で決まる。逆ミセルの安定性は一般に、界面活性剤の選択にもよるが、逆ミセルの内容物質が逆ミセル外部の疎水性溶媒と混合しない水であるとき最も高いと考えられる。
そこで、ポリオールを逆ミセルの内部に水と混在させることで逆ミセルを破壊しない範囲でその安定性を低下させ、かつ反応に供する水を削減することにより、シリカナノ粒子の過剰な成長を抑制することができると考えられる。すなわち、逆ミセルを破壊せず、かつ逆ミセルの内部にのみ存在しえるポリオールを用いて、逆ミセルが形成されるぎりぎりまで内部の水濃度を低下させた状態で粒子形成反応を行うことで、粒度分布の狭いナノスケールのシリカナノ粒子が製造できる。
なお、シリカナノ粒子が小さいうちは逆ミセルの安定性が高いため、逆ミセル内部の水濃度が低下してもその影響は小さい。
【0011】
本発明において、前記逆ミセルの内部の水と前記ポリオールとの体積比が3:7〜7:3の範囲にあることが好ましく、5:5〜4:6の範囲にあることがより好ましい。
水の量比が大きすぎると、粒径が大きくなりすぎ、かつ粒径のばらつきが大きくなりすぎる。一方、水の量比が小さすぎると、逆ミセル構造を維持できないとともに粒子形成反応が進行しがたく歩留まりが悪い。
本発明において、反応触媒として用いられる前記塩基性電解質としては、アンモニウムイオンが好ましく、前記塩基性電解質を含有する水としては、アンモニア水が好ましい。
前記塩基性電解質の含有量としては特に制限はないが、逆ミセルの内部の水に、3〜28質量%含有させることが好ましい。
次に本発明に用いられる界面活性剤について説明する。
前記界面活性剤としては、本発明に用いられる前記疎水性溶媒、前記ポリオールの種類に依存するが、例えば、ジ−2−エチルヘキシルスルホこはく酸ナトリウム(以下、AOTということもある。)、コール酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ソルビタンエステル、様々なトリトン(商品名、ロームアンドハース社製、例えば、トリトンX−100、トリトンX−114)などの非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウムなどの石鹸;塩化セチルピリジニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム(以下、CTABということもある。)、塩化ベンズアルコニウム、臭化セチルジメチルエチルアンモニウムなどの陽イオン界面活性剤;N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニオ−1−プロパンスルホン酸およびCHAPSの両性イオン界面活性剤が挙げられる。前記界面活性剤としては、AOT、トリトンX−100又はCTABが好ましく、AOTがより好ましい。
本発明において、前記逆ミセル分散系を構成する前記水に対する前記界面活性剤の質量比(水:界面活性剤)は、後述するように逆ミセルの平均粒径が適切な値になるように調節するため、適切な質量比に適宜調節することが好ましい。
次に本発明に用いられる疎水性溶媒について説明する。
前記疎水性溶媒の具体例としては、アルカン(例えば、n−ヘプタン、n−ヘキサン、イソオクタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの液状のもの)、シクロアルカン(例えば、シクロヘキサン、シクロペンタンなど)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、そして前記の混合物(例えば、石油、石油誘導体)が挙げられる。前記疎水性溶媒として、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン又はイソオクタンが好ましく、n−ヘプタン又はn−ヘキサンがより好ましく、n−ヘプタンがさらに好ましい。
本発明において、前記逆ミセル分散系を構成する前記水に対する前記疎水性溶媒の体積比は、逆ミセル分散系が形成される限り特に制限はないが、1:10〜1:50の範囲であることが好ましい。
本発明において、前記逆ミセル分散系は、前記疎水性溶媒に前記界面活性剤、前記水、及び前記ポリオールを添加後、例えば、機械的に十分に撹拌するか超音波処理することで形成することができる。
【0012】
次に本発明に用いられるシランカップリング剤について説明する。
前記シランカップリング剤としては、特に制限はないが、テトラアルコキシシラン(例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン)、メルカプトアルキルトリアルコキシシラン(例えば、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン)、アミノアルキルトリアルコキシシラン(例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS))、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、及び3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシランを挙げることができる。中でも、TEOSが好ましい。
本発明において、前記逆ミセル分散系を構成し、かつ粒子形成反応の基質である前記水に対する前記シランカップリング剤の質量比は、水100質量部に対してシランカップリング剤50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。なぜならば、シリカ合成時に副生成物(TEOSを用いる場合はエタノール)が生じ、この副生成物が逆ミセルを不安定化させるからである。
【0013】
本発明の製造方法の逆ミセル分散系の好ましい具体例としては、
[1]前記界面活性剤がAOTであり、前記疎水性溶媒がn−ヘプタンである逆ミセル分散系、
[2]前記界面活性剤がトリトンX−100であり、前記疎水性溶媒がシクロヘキサンであり、共界面活性剤としてn−ヘキサノールである逆ミセル分散系、
[3]前記界面活性剤がAOTであり、前記疎水性溶媒がイソオクタンである逆ミセル分散系、
[4]前記界面活性剤がCTABであり、前記疎水性溶媒がn−ヘキサン、共界面活性剤としてn−ヘキサノールである逆ミセル分散系等が挙げられる。
中でも、[1]前記界面活性剤がAOTであり、前記疎水性溶媒がn−ヘプタンである逆ミセル分散系であることがより好ましい。
本発明の製造方法において、前記疎水性溶媒がn−ヘプタンであり、前記界面活性剤がAOTであり、前記ポリオールがエチレングリコールであり、前記シランカップリング剤がTEOSであり、かつ前記塩基性電解質を含有する水が、アンモニア水溶液であることが特に好ましい。
【0014】
本発明の製造方法によれば、球状、もしくは、球状に近いシリカナノ粒子が製造できる。球状に近いシリカナノ粒子とは、具体的には長軸と短軸の比が1.2以下の形状である。
【0015】
本発明の製造方法で得られるシリカナノ粒子は、前述のように前記ポリオールを用い、逆ミセル中におけるその組成比を制御することにより粒径が揃ったnmサイズの平均粒径とすることができる。
本発明において、前記平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から直接各粒子の直径を測定し、その平均値を計算して求めたものである。
本発明により得られたシリカナノ粒子の粒度分布の変動係数(以下CV値)は、25%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。ここで、前記CV値は、粒度の分布の標準偏差を平均粒径で割った値をいう。
本発明において、前記逆ミセルの内部の水と前記ポリオールとの体積比が3:7〜7:3の範囲にある場合、CV値25%以下とすることができる。また、5:5〜3:7の範囲にある場合、CV値20%以下とすることができる。
本明細書及び特許請求の範囲において、単分散とはCV値20%以下の粒子群をいう。
【0016】
次に、本発明の特に好ましい態様として、色素含有シリカナノ粒子の製造方法について説明する。
本発明の製造方法において、前記逆ミセル分散系に、シリカ原料となる前記シランカップリング剤の他にさらに、シラン化合物と化学的に結合した有機色素化合物(以下、単に「色素シラン複合化合物」ということもある。)を添加することにより、得られるシリカナノ粒子を色素含有シリカナノ粒子とすることが特に好ましい。
本発明における前記逆ミセル分散系は、前述のように、逆ミセルを用いずに水が均一に希釈された溶媒中でシリカ粒子形成を行う従来のシリカ粒子の製造方法に比べ、離散的な狭領域である逆ミセル内部に水が高濃度に存在する。また、前記水が存在する逆ミセル内部でのみシリカ粒子形成反応が進行することから、前記色素シラン複合化合物も前記逆ミセル内部でのみ反応し、その結果得られるシリカナノ粒子は前記色素シラン複合化合物が高濃度に存在することになる。
したがって、本発明の製造方法は、有機色素化合物を高濃度に取り込んだ色素含有シリカナノ粒子を製造することができる。
本発明の製造方法において、前記色素シラン複合化合物と前記シランカップリング剤との前記逆ミセル系への添加割合は、特に制限はないが、前記色素シラン複合化合物1モルに対するシランカップリング剤のモル比として、50〜40000が好ましく、100〜2000がより好ましく、150〜1000がさらに好ましい。本発明の製造方法によれば、この添加割合により、得られる色素含有シリカナノ粒子中の有機色素化合物の含有量を制御できる。
前記シラン化合物と化学的に結合した有機色素化合物である前記色素シラン複合化合物は、前記有機色素化合物とシラン化合物とを反応させ、共有結合、イオン結合その他の化学的に結合させることにより調製することができる。
ここで、前記有機色素化合物としては発色する限り特に制限はなく、蛍光色素化合物、吸光色素化合物等が挙げられる。具体例として下記式でそれぞれ表されるTAMRA、カルボキシローダミン6G(以下「CR6G」ということもある。)等が挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
前記色素シラン複合化合物は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、マレイミド基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、アルデヒド基、パラニトロフェニル基、ジエトキシメチル基、エポキシ基、シアノ基等の活性基を有する前記有機色素化合物と、それら活性基と対応して反応する置換基(例えば、アミノ基、水酸基、チオール基)を有するシラン化合物とを反応させ、共有結合させることにより調製することが好ましい。
【0019】
前記活性基を有する前記有機色素化合物の具体例として、下記式でそれぞれ表される5−TAMRA−NHSエステル、5−CR6G−NHSエステル(商品名;Invitrogen社製)等のNHSエステル基を有する有機色素化合物を挙げることができる。
【0020】
【化2】

【0021】
前記NHSエステル基を有する有機色素化合物は、商業的に市販のものを入手することも可能である。
前記置換基を有するシラン化合物の具体例として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル-トリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシラン化合物を挙げることができる。中でも、APSが好ましい。
前記NHSエステル基を有する有機色素化合物と前記アミノ基を有するシラン化合物との反応は、DMSOや水等の溶媒に溶解した後、室温(例えば、25℃)条件下で攪拌しながら反応することによって行うことができる。
反応に用いる前記NHSエステル基を有する有機色素化合物とシラン化合物との割合は特に制限されないが、前記NHSエステル基を有する有機色素化合物:前記アミノ基を有するシラン化合物=1:0.5〜4(モル比)の割合が好ましく、1:0.8〜1.2(モル比)の割合がより好ましい。
斯くして、有機色素化合物のカルボニル基と、アミノ基を有するシラン化合物のアミノ基とが、ペプチド結合(−NHCO−)して、色素シラン複合化合物が得られる。すなわち、前記色素シラン複合化合物は、ペプチド結合を介して有機色素化合物とシリカ成分が結合している。
【0022】
次に、本発明の製造方法により得られた色素含有シリカナノ粒子について説明する。
本発明の製造方法により得られた色素含有シリカナノ粒子は、有機色素化合物とシリカ成分とが化学的に結合してなる。
本発明の製造方法により得られた色素含有シリカナノ粒子は、前記有機色素化合物が、前記シリカナノ粒子の中心から表面まで前記シリカナノ粒子全体に分布させることができる。
ここで、「有機色素化合物がシリカナノ粒子全体に分布する」とは、シリカナノ粒子中に少なくとも1種の有機色素化合物が高濃度に固定化された状態をいい、単位重量あたりのシリカナノ粒子に含まれる有機色素化合物の濃度が150〜300μmol/gとすることができ、170〜240μmol/gであることが好ましい。
遊離の有機色素化合物は、1分子で1つの色素標識を行うのに対し、本発明の製造方法により得られた色素含有シリカナノ粒子中に固定され、分布した前記有機色素化合物群は、一体となって色素標識を行なうことができるので、遊離の有機色素化合物よりも感度を上げることができる。例えば、有機色素化合物が蛍光色素化合物である場合、遊離の蛍光色素化合物よりも輝度を増加させることができる。また、蛍光色素化合物である場合、自己消光を起こすことなく、多くの蛍光色素化合物をシリカナノ粒子内に固定し、包含させることができる(例えば、特願2004−356608)。このため、微小な領域でも使用可能な、高感度な標識が可能である。
【0023】
次に「シリカナノ粒子表面修飾」について説明する。
シリカは、一般に、化学的に不活性であると共に、その修飾が容易であることが知られている。本発明の製造方法により得られたシリカナノ粒子もまた、容易に所望の物質を表面に結合させることが可能であり、またその表面をメソポーラスや平滑にすることもできる。
【0024】
前記シリカナノ粒子の表面修飾について、具体的には、上記シランカップリング剤の種類に応じて、所望の物質と結合可能なアクセプター基を表面に有するシリカナノ粒子とすることができる。前記アクセプター基として、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、マレイミド基、スクシンイミジルエステル基等が挙げられる。
前記シランカップリング剤と、それによって得られるシリカナノ粒子の表面に形成されたアクセプター基との関係を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
なお、上記得られるシリカナノ粒子について、前記シランカップリング剤によって表面に導入されるアクセプター基とは異なるアクセプター基を導入したい場合には、得られたシリカナノ粒子を、さらに前記シランカップリング剤とは異なるシランカップリング剤で処理することにより達成できる。この処理は、前記シランカップリング剤とは異なるシランカップリング剤を用いて、本発明の製造方法と同様な操作を行うことにより実施することができる。
【0027】
本発明の製造方法により得られたシリカナノ粒子は、表面に有するアクセプター基の種類に応じて所望の標的生体分子を分子認識する物質を表面に結合もしくは吸着させ、修飾させることができる。
前記シリカナノ粒子が前記有機色素化合物を含有する場合、検体(例えば、任意の細胞抽出液、溶菌液、培地・培養液、溶液、バッファー)中の標的生体分子(生理活性物質を含む。)を色素標識付けすることができる。
前記シリカナノ粒子を修飾する前記標的生体分子を分子認識する物質としては、抗体、抗原、ペプチド、DNA、RNA、糖鎖、リガンド、受容体ペプチド、化学物質等が挙げられる。
ここで、分子認識とは、(1)DNA分子間又はDNA−RNA分子間のハイブリダイゼーション、(2)抗原抗体反応、(3)酵素(受容体)−基質(リガンド)間の反応など、生体分子間の特異的相互作用をいう。
【0028】
ここで、リガンドとはタンパク質と特異的に結合する物質をいい、例えば、酵素に結合する基質、補酵素、調節因子、あるいはホルモン、神経伝達物質などをいい、低分子量の分子やイオンばかりでなく、高分子量の物質も含む。
また化学物質とは天然有機化合物に限らず、人工的に合成された生理活性を有する化合物や環境ホルモン等を含む。
本発明の製造方法により得られたシリカナノ粒子の表面に、前記標的生体分子を分子認識する物質を結合させ、修飾する方法として特に制限はないが、下記(i)〜(iii)の例が挙げられる。
(i)MPS等を用いて調製したチオール基を表面に有する前記シリカナノ粒子は、ジスルフィド結合、チオエステル結合、またはチオール置換反応を介した結合を介して、その表面を前記標的生体分子を分子認識する物質で修飾することができる。
(ii)特に前記標的生体分子を分子認識する物質がアミノ基を有する場合には、前記シリカナノ粒子が有するチオール基と、前記標的生体分子を分子認識する物質が有するアミノ基とをスクシンイミジル−トランス−4−(N−マレイミジルメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)等の架橋剤を用いて結合することもできる。
(iii)APS等を用いて調製したアミノ基を表面に有する前記シリカナノ粒子は、前述と同様に、このアミノ基と前記標的生体分子を分子認識する物質が有するチオール基とをSMCC、EMCS等の架橋剤を用いて結合することができる。また、このアミノ基と前記標的生体分子を分子認識する物質が有するアミノ基とをグルタルアルデヒド等の架橋剤で結合することもできる。さらに、ペプチド結合やチオウレア結合を介して、その表面を前記標的生体分子を分子認識する物質で修飾することもできる。
すなわち、前記シリカナノ粒子を修飾した標的生体分子を分子認識する物質は、それ自体が受容体部位となって、例えば抗原−抗体反応、ビオチン−アビジン反応、塩基配列の相補性を利用したハイブリダイゼーションなどの特異的な分子認識を利用して、標的生体分子に特異的に結合することができる。
【0029】
次に、本発明の標識試薬について説明する。
本発明の標識試薬は、本発明の製造方法により得られたシリカナノ粒子を用いてなる。前記色素含有シリカナノ粒子を用いて、蛍光ないし吸光色素標識を付与することが好ましい。さらに前述のシリカナノ粒子表面修飾により抗体やホルモンなどの標的生体分子を分子認識する物質でシリカ粒子表面を修飾し、光学特性を検出する装置又は目視によって前記標的生体分子が評価されるべき試料中に存在するか否か等の評価を可能にする標識試薬として利用することができる。
本発明の標識試薬の具体例としては、生体分子検出試薬、生体分子定量試薬、生体分子分離試薬、生体分子回収試薬または免疫染色用試薬が挙げられる。
前記標的生体分子を検出、定量、分離または回収する分析試薬とすることができる。また、前記標的生体分子との分子認識が、抗原−抗体反応である場合は、前記シリカナノ粒子を用いてなる免疫染色用試薬とすることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1(本発明の逆ミセル法によるシリカナノ粒子の調製)
n−ヘプタン4.0mlにAOT0.40gを溶解させ、水0.10mlと等量のエチレングリコールとを添加して十分に撹拌することにより逆ミセル分散系を作製した。ただしこのとき添加した水には、シリカ合成反応の触媒となるアンモニアが質量濃度で水に対して14質量%溶解させてある。このとき形成される逆ミセルの大きさをゼータサイザーナノ(商品名;マルバーン社製)を用いて動的光散乱(DLS)法で測定したところ、平均粒径が20nm前後であった。この逆ミセル分散系にTEOS40μlを添加して室温(25℃前後)で24時間撹拌してシリカ合成反応を行った。
【0031】
合成終了後逆ミセル分散系に等量のエタノールを添加すると逆ミセルが破壊され、シリカナノ粒子は凝集してゲル化する。このシリカナノ粒子を含む分散液を遠心分離処理にかけてシリカナノ粒子を沈降させて溶媒を除去、さらにエタノールと水で2回ずつ同様の処理を行ってシリカナノ粒子の洗浄を行った。遠心分離処理の条件としては、いずれの溶媒でも6000gの遠心力で30分かければ粒子のほとんどを沈降させることができた。最終的には純水中にシリカナノ粒子を分散させた。得られたシリカナノ粒子群には、粒径が100nm以下の微小粒子もわずかに含まれていた。純水中に分散させたこのシリカコロイド分散液に対して200gの遠心力で30分の遠心分離処理を施したところ、100nmよりも大きな粒子のみを沈降させることができたため、上述のような微小粒子を分離・除去することができた。
以上の結果、平均粒径207nm、CV値16%の粒度分布を有するシリカナノ粒子が製造された。収率89%。
図1に得られたシリカナノ粒子のSEM画像を示す。なお、図1中のスケールバーは1.0μmを示す(倍率3万倍)。
図中、白く見える球状物質が、得られたシリカナノ粒子である。図1から明らかなように、CV値16%の粒度分布で粒径が揃っていることが分かる。
なお、前記平均粒径は、SEM画像に写っている各粒子の直径を測定し、その平均値を計算して求めたものである。
【0032】
比較例
親水性の有機溶媒として、アルコール類である1−ブタノールについて実施した。
水0.10mlと等量のエチレングリコールを添加する代わりに、1−ブタノールを前記水と等量添加すること以外は実施例1と同様にして、逆ミセル分散系の作製を試みた。しかしDLS測定の結果、1−ブタノールは、ヘプタン‐AOT逆ミセル系では疎水性溶媒側に分散してしまい、所望の逆ミセル分散系は得られず、シリカナノ粒子を製造することができなかった。
【0033】
実施例2(本発明の逆ミセル法による蛍光シリカナノ粒子の調製)
ローダミン系色素である5−TAMRA−NHSエステル(商品名;Invitrogen社製)1.0mgを240μlのDMF溶媒に溶解した。ここに0.45μlのAPSを加え、室温で1時間反応を行うことによりAPSとペプチド結合したTAMRA(以下、TAMRA−APS)を得た。
実施例1で得られた逆ミセル分散系4.0mlに、得られたTAMRA−APS溶液( 濃度8.0mmol/l)10μlとTEOS40μlとを添加して、実施例1と同様の合成を行うことで、粒子内部に前記ローダミン系色素TAMRAを取り込んだ蛍光シリカナノ粒子を製造することができた。収率80%、平均粒径224nm、CV値7%の粒度分布。
シリカナノ粒子に取り込まれた前記ローダミン系色素TAMRAも取り込まれる前と同様の蛍光特性を示すことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施例1で得られたシリカナノ粒子のSEM画像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性溶媒中の界面活性剤と、塩基性電解質を含有する水と、ポリオールとからなる逆ミセル分散系に、シランカップリング剤を添加し、前記水により前記シランカップリング剤を加水分解して重合させ、シリカナノ粒子を形成することを特徴とする、シリカナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記疎水性溶媒がn−ヘプタンであり、前記界面活性剤がジ−2−エチルヘキシルスルホこはく酸ナトリウムであり、前記ポリオールがエチレングリコールであり、前記シランカップリング剤がテトラエトキシシランであることを特徴とする、請求項1に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤の他に、さらに、シラン化合物と化学的に結合した有機色素化合物を添加することにより色素含有シリカナノ粒子を製造することを特徴とする、請求項1又は2に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記逆ミセル分散系において、前記逆ミセルの内部の水と前記ポリオールとの体積比が3:7〜7:3の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
平均粒径が100〜300nmであり、かつCV値が5〜25%であるシリカナノ粒子が得られることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたシリカナノ粒子。
【請求項7】
平均粒径が100〜300nmであり、かつCV値が5〜25%であることを特徴とする、請求項6に記載のシリカナノ粒子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のシリカナノ粒子を用いてなる標識試薬。

【図1】
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【公開番号】特開2009−46330(P2009−46330A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211980(P2007−211980)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】