説明

透光性セラミックス及びその製造方法

【課題】酸化イットリウムを主成分とする、光透過率のより優れた透光性セラミックス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】実質的にY,Si,Taの酸化物からなる透光性セラミックスであって、前記Siを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有し、前記Taを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有し、平均結晶粒径が10μm〜200μmであることを特徴とする。Siを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有することにより、焼結体の結晶粒径を制御することができ、またTaを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有することにより、結晶組織中のポア(気孔)の存在量を制御することができる。その結果、光透過率が高く、耐熱性、耐食性、低発塵性、高強度の特性を有した透光性セラミックスを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性セラミックス及びその製造方法に関し、例えば、放電ランプ用材料、レーザ用ホスト材、半導体製造装置のプラズマ処理装置の窓材料などに使用される透光性セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透光性セラミックスは、前記したように種々の用途に用いられているが、例えば、半導体製造装置のプラズマ処理装置の窓材料として用いる場合には、透光性のみならず、耐熱性が必要とされる。また、前記半導体製造装置のプラズマ処理装置にあっては、ハロゲンガス等の腐食性ガスやプラズマに曝されるため、腐食性ガスやプラズマに対する耐食性も必要とされる。
【0003】
このような透光性、耐熱性、耐食性等の特性を有する透光性セラミックスとしては、従来から、酸化イットリウムが知られており、既に、本出願人においても特開2007−145702号公報(特許文献1)において、酸化イットリウムを主成分とする、光透過率の優れた透光性セラミックスを提案している。
【0004】
この特許文献1に示した透光性セラミックスは、酸化イットリウムを主成分とし、少なくともタンタル若しくはニオブのいずれか一方又は双方を含有し、厚さ1mm時の可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が60%以上であることを特徴とするものであり、またタンタルを、金属単体換算で0.1wt%以上1.3wt%以下含有している。
【0005】
また、特許文献2には、透光性を有する酸化イットリウム焼結体として、YAG、スピネル、Al、SiO、Y、ZrO、Si、AlN、ZnS、CaFおよびBaFのうち少なくとも1種を含有し、結晶粒径が100nm以下の酸化イットリウム焼結体が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−145702号公報
【特許文献2】特開2006−315878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載された発明では、直線透過率が60%以上の透光性酸化イットリウム焼結体が得られる。
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、直線透過率が80%以上の酸化イットリウムを得ることが困難であった。また同様に、特許文献2に記載された発明においても、直線透過率が80%以上のものを得ることが困難であった。
【0008】
本願発明者らは、上記課題を解決するために、酸化イットリウム焼結体の透過率について鋭意研究を行った。
その結果、透過率向上のためには、粒界により光の散乱を抑制する必要があり、焼結体の結晶粒径を大きくする必要があることを知見した。また透過率向上のためには、結晶組織中のポア(気孔)の存在量を抑制する必要があることを知見した。
即ち、本願発明者らは、透過率向上のためには、結晶粒径の制御、結晶組織中のポア(気孔)の存在量の制御を、SiO及びTaの添加することにより行い、より透光性の優れた酸化イットリウム焼結体が得られることを知見し、本発明を想到するに至ったものである。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、酸化イットリウムを主成分とする、光透過率のより優れた透光性セラミックス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明に係る透光性セラミックスは、実質的にY,Si,Taの酸化物からなる透光性セラミックスであって、前記Siを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有し、前記Taを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有し、平均結晶粒径が10μm〜200μmであることを特徴としている。なお、「実質的に」とは、原料に含まれる不可避不純物を除いたものであることを示す。
このように、Siを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有することにより、焼結体の結晶粒径を制御することができ、またTaを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有することにより、結晶組織中のポア(気孔)の存在量を制御することができる。その結果、光透過率が高く、耐熱性、耐食性、低発塵性、高強度の特性を有した透光性セラミックスを得ることができる。
【0011】
また、上記目的を達成するためになされた本発明に係る透光性セラミックスの製造方法は、酸化イットリウム粉末にシリカ粉末および酸化タンタル成分を同時に添加し、成型し、還元雰囲気下、1400℃〜2100℃の温度で3時間以上焼成することを特徴としている。
このように1400℃〜2100℃の温度で3時間以上焼成することにより、焼結体の結晶粒径を制御することができ、上記のような透光性セラミックスを得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
上述したとおり、本発明によれば、酸化イットリウムを主成分とする、光透過率のより優れた透光性セラミックス及びその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる透光性セラミックスについてより詳細に説明する。
本発明にかかる透光性セラミックスは、実質的にY,Si,Taの酸化物からなる透光性セラミックスであって、前記Siを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有し、前記Taを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有している。
なお、「実質的に」とは、原料に含まれる不可避不純物を除いたものであることを示す。
【0014】
ここで、本発明にかかる透光性セラミックスは、酸化イットリウムを主成分としている。具体的は、酸化イットリウムは80wt%〜99wt%含有している。酸化イットリウムが80wt%未満では、イットリアの特性が得られなく、また酸化イットリウムが99wt%を超える場合には、高額(高コスト)となるため、好ましくない。
また、酸化イットリウム粉末の純度が低いと、得られる透光性セラミックスのポアの存在量が多くなるため、酸化イットリウム粉末の純度は95%以上のものが用いられる。
【0015】
また、本発明にかかる透光性セラミックスは、含有されるSiによって、焼結体の結晶粒径が制御され、またTaによって、結晶組織中のポア(気孔)の存在量が制御される。そのため、Siを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有し、前記Taを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有していることが好ましい。
【0016】
前記Siを酸化物換算で含有量が0.5wt%未満である場合、透光性セラミックス(透光性酸化イットリウム焼結体)の平均結晶粒径が、10μm未満と小さくなり、光の散乱を生じやすくなるため好ましくない。
一方、Siを酸化物換算で含有量が10wt%超である場合、透光性セラミックス(透光性酸化イットリウム焼結体)の平均結晶粒径が、400μmと大きくなり、十分な強度が得られないため好ましくない。
このように、Siを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有している場合には、焼結体の結晶粒径を平均結晶粒径10μm〜200μmになすことができる。そして、平均結晶粒径が、10μm〜200μmである場合には、高い透過率を有すると共に、十分な強度を有している。特に、前記平均結晶粒径は、50μm〜200μmであることが好ましく、更には100μm〜150μmであることがより好ましい。
尚、焼結体の前記結晶粒径の分布範囲は、透光性を向上させる観点から狭い方が好ましい。即ち、結晶粒径が均一化していることが望ましい。
【0017】
また、Taを酸化物換算で含有量が0.5wt%〜10wt%である場合には、結晶組織中のポアが1mm当たり20個以下となり、好ましい。尚、ポアの1mm当たりの個数は、プラニメトリック法での面積換算での個数を意味している。
また、前記Taを酸化物換算で含有量が0.5wt%未満である場合には、結晶組織中のポアが1mm当たり1500個以上となり、光りの散乱を誘発するため好ましくない。
一方、前記Taを酸化物換算で含有量が10wt%を超える場合には、結晶粒界にTaの偏析が生じるため、光の散乱を誘発するため好ましくない。
【0018】
また、本発明の透光性セラミックスは、以下の製造方法によって製造される。
まず、酸化イットリウム粉末に、酸化タンタル粉末、シリカ粉末を添加し、スラリーを調製する。そして、このスラリーにバインダー溶液を混合した後、スプレードライヤーにて造粒し、得られた造粒粉をラバープレスし、仮焼し、真空あるいは還元雰囲気下(例えば、水素雰囲気下)で、1400℃〜2100℃の温度で3時間以上焼成することにより、酸化イットリウム焼結体を得る。
【0019】
ここで、前記酸化イットリウム粉末の純度が低いと、得られる透光性セラミックスのポアの存在量が多くなるため、酸化イットリウム粉末の純度は95%以上のもが用いられる。
また、酸化イットリウムは80重量部〜105重量部用いられる。
【0020】
酸化タンタル(Ta)粉末は、0.5重量部〜10重量部用いられる。また、シリカ(SiO)粉末は、0.5重量部〜10重量部用いられる。尚、シリカ(SiO)の添加には、粉末に限らず、水ガラスやTEOS(テトラエトキシシラン)等を用いても構わない。
また、バインダー溶液としては、一般的な樹脂溶液、例えばPVA(ポリビニルアルコール)が用いられる。
尚、焼結性の観点から原料粉末は、平均粒径2μm以下であることが好ましい。
【0021】
また、前記焼成温度は、SiOの含有率と同様に、焼結体の結晶粒径に影響を与える。
即ち、前記焼成温度が1400℃未満の場合、焼結体の粒成長が進まず、結晶粒径が小さいために、結晶粒界における光の散乱を抑制することができず、優れた透光性を得ることができない。
一方、前記焼成温度が2100℃超の場合、Ta、Siが気化してしまうため所望の結晶粒径やポアの存在量とすることができず、前記した焼成温度の場合と同様に、結晶粒界における光の散乱を抑制することができず、優れた透光性を得ることができない。
また、焼成時間も、焼結体の結晶粒径に影響を与える。即ち、焼成時間が3時間未満の場合、粒成長が十分に進まず、結晶粒径が小さいために、結晶粒界における光の散乱を抑制することができず、優れた透光性をえることができない。
尚、焼成後に、大気熱処理(例えば、温度1400℃で3時間熱処理)することによって、イットリア結晶構造中の酸素欠陥部位に酸素原子を再注入することができるため、これにより透光性をより高めることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
表1の実施例1に示すように、平均粒径1.0μm、純度97%の酸化イットリウム粉末101重量部に、平均粒径1.0μm、純度99%の五酸化タンタル粉末1重量部、及び平均粒径1.0μm、純度99%のシリカ粉末1重量部を添加し、イオン交換水を加え、スラリーを調製した。
このスラリーにバインダー溶液(ポリビニルアルコール)を加え混合した後、スプレードライヤーを用いて平均粒径20μmの造粒粉を作製した。得られた造粒粉をラバープレスし、仮焼し、真空炉にて1800℃、3時間で焼成し、酸化イットリウム焼結体を得た。
得られた焼結体は、Y換算で98wt%、SiO換算で1wt%、Ta換算で1wt%の含有量であった。焼結体の含有量は、ICP発光分光分析を用いて算出した。なお、得られた焼結体の含有量の算出には、原料粉末に由来する含まれる不可避不純物は除いている。
そして、得られた焼結体を直径20mm、厚さ1mmで両面光学研磨品へと加工し、これを分光高度計を用いて可視光領域波長における直線透過率を測定した。
さらに、光学研磨試料の一部を大気中1500℃にて3時間サーマルエッチングを行い、微構造を電子顕微鏡にて観察し、1mm中のポアの存在量を測定し、プラニメトリック法により平均結晶粒径を算出した。
また、耐食性及び曲げ強度を測定した結果、エッチングレート(耐食性)が0.3μm/h、曲げ強度が105MPaであり従来の透光性セラミックスと劣らなかった。
【0023】
[実施例2〜11]
実施例1と同様にして、表1の実施例2〜11に示す条件で酸化イットリウム焼結体を作製し、実施例1と同様にして、直線透過率の測定、ポアの存在量の測定、平均結晶粒径の測定を行った。
また、耐食性及び曲げ強度を測定した結果、エッチングレート(耐食性)が0.3μm/h、曲げ強度が105MPaであり従来の透光性セラミックスと劣らなかった。
【0024】
[比較例1〜6]
実施例1と同様にして、下記表1の比較例1〜6に示す条件で酸化イットリウム焼結体を作製し、実施例1と同様にして、直線透過率の測定、ポアの存在量の測定、平均結晶粒径の測定を行った。
【0025】
【表1】

【0026】
前記実施例1乃至11、及び比較例2,3、6から、前記Taを0.5wt%〜10wt%含有している場合には、直線透過率が80%以上と高いことが認められた。
また、前記実施例1乃至11、比較例4,5、6から、前記SiOを0.5wt%〜10wt%含有している場合には、直線透過率が80%以上と高いことが認められた。
実施例1乃至11及び比較例4、6から、平均結晶粒径が10μm〜200μmである場合には、直線透過率が80%以上と高いことが認められた。
また、前記実施例1、3乃至11、及び比較例2,4から、結晶組織中のポアが1mm当たり20個以下であるある場合には、直線透過率が80%以上と高いことが認められた。
【0027】
次に、酸化イットリウムの純度、焼成温度、焼成時間を下記表2に示す条件で変化させ、酸化イットリウム焼結体を得た。そして、得られた焼結体を直径20mm、厚さ1mmで両面光学研磨品へと加工し、これを分光高度計を用いて可視光領域波長における直線透過率を測定した。さらに、光学研磨試料の一部を大気中1500℃にて3時間サーマルエッチングを行い、微構造を電子顕微鏡にて観察し、1mm中のポアの存在量を測定し、プラニメトリック法により平均結晶粒径を算出した。
尚、表2中、比較例8のポア量はポア量が多く測定できず、また比較例9は、焼成温度が高く、酸化イットリウム焼結体を得ることができなかった。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例12乃至20及び比較例8,9から、1400℃〜2100℃の温度で焼成する場合には、直線透過率が80%以上と高いことが認められた。
実施例12乃至20及び比較例10から、1400℃〜2100℃の温度で3時間以上焼成時間した場合には、直線透過率が80%以上と高いことが認められた。
【0030】
このように、前記SiOを0.5wt%〜10wt%含有し、前記Taを0.5wt%〜10wt%含有し、平均結晶粒径が10μm〜200μmである酸化イットリウム焼結体によれば、光透過率が80%以上と良好であることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にY,Si,Taの酸化物からなる透光性セラミックスであって、
前記Siを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有し、前記Taを酸化物換算で0.5wt%〜10wt%含有し、平均結晶粒径が10μm〜200μmであることを特徴とする透光性セラミックス。
【請求項2】
請求項1記載の透光性セラミックスの製造方法であって、
酸化イットリウム粉末にシリカ粉末および酸化タンタル成分を同時に添加し、成型し、還元雰囲気下、1400℃〜2100℃の温度で3時間以上焼成することを特徴とする透光性セラミックスの製造方法。

【公開番号】特開2012−214319(P2012−214319A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80022(P2011−80022)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)