説明

透光性希土類ガリウムガーネット焼結体及びその製造方法と磁気光学デバイス

【課題】600nm〜1500nmにおいて特異吸収波長以外で透光性を有する透光性希土類ガリウムガーネット焼結体及び製法の提供。
【解決手段】一般式R3Ga5O12(RはYを含むSm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLu群の少なくとも1種類の希土類元素)で表される透光性希土類ガリウムガーネット焼結体に、焼結助剤として金属換算で、SiとGeを合計で10wtppm〜1000wtppm、Si及びGeを各々5wtppm以上含有させ、波長600nm〜1500nmの、特異吸収波長以外での、直線透過率を77%以上、平均結晶粒径を0.4μm〜3μmとする。焼結体は、純度99.9%以上の高純度希土類ガリウムガーネット粉末とバインダーとSi、Ge原料を用いて、成形密度が理論密度比55%以上の成形体を成形し、熱処理によりバインダーを除去した後真空中で1250℃〜1450℃、0.5時間以上焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表せられる透光性希土類ガリウムガーネット焼結体、及びその製造方法に関する。本発明の焼結体は、例えば磁気光学デバイスの磁気光学素子として好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
光通信システムでは、半導体レーザーから出た光が、光伝送路途中に設けられる接続部などからの反射光として、一部分が半導体レーザーに戻ってくると、レーザー発振が不安定となり、場合によってはレーザーを破壊する恐れがある。したがって、反射光を遮断し、安定なレーザー光を得るために、ファラデー効果を利用した光アイソレーターが用いられる。
さらに高出力レーザーシステムに利用されるファラデーローテーターでは、
(1)ヴェルデ定数が大きく、(2)高出力動作に耐える熱特性があり、(3)大型化が可能であること、などが要求される。
【0003】
例えば、光アイソレーターとして波長1000nm帯の高出力レーザーに最もよく利用されるのは、テルビウム・ガリウム・ガーネット単結晶(Tb3Ga5O12:以下、TGG単結晶と記す。)である。TGG単結晶のヴェルデ定数は、大型化が可能であるTb添加ガラスのヴェルデ定数より、2倍程度大きい。例えば波長1064nmの光りに対する 、TGG単結晶のヴェルデ定数は-40rad・T-1・m-1程度で、Tb添加ガラスのヴェルデ定数は-20rad・T-1・m-1程度である(非特許文献1)。さらに熱特性を表す物性値の熱伝導率は、TGG単結晶の方がTb添加ガラスよりも優れており、TGG単結晶の熱伝導率は7.4Wm-1K-1程度で、Tb添加ガラスの熱伝導率:0.7Wm-1K-1程度である(非特許文献1)。しかしTGG単結晶は、融点が1725℃(非特許文献1)と比較的高く、チョクラスキー法によって作製されるため、従来の結晶成長技術では光学的に優れた大型の単結晶を得ることは難しい。
【0004】
一方、セラミックス(多結晶体)は、原料粉末を固めて焼成するため、単結晶のように原料を溶融させて作製する必要はなく、結晶の融点よりも遥かに低い温度で作製できる。さらにセラミックスでは、CIP(静水圧成形)により大型のセラミックスを作製することが可能である。したがって、TGGセラミックスは、上記の高出力レーザーシステムに利用されるファラデーローテーターに求められる条件を満たしている。
【0005】
透光性セラミックスを作製する場合、焼結の際に、気孔を充分排出するために粒成長を必要とし、粒成長を制御するための焼結助剤が使用される。一般的に透光性を得るためには、粒界における光散乱の影響を防ぐため、結晶粒径を大きくする傾向がある。例えば非特許文献2には、結晶粒径が20μmを十分に超える、Siのみ添加したY3Al5O12ガーネットセラミックスの透光性が報告されている。一方、結晶粒界での格子の乱れが、1nm以下の極めて狭い粒界幅であれば、光の透過性に影響しないことが、非特許文献3で記されている。したがって、結晶粒径の大きさに関係なく、結晶粒界の幅が極めて狭ければ、粒界における光散乱の影響を受けない、透光性セラミックスを作製することが可能である。
【0006】
セラミックスは単結晶粒子の集合体であるため、構成する個々の結晶粒子径を小さくすることによって、式(1)のように強度を増加させることができる。
σ=kd-1/2 (1) (σ:強度、k:定数、d:結晶粒子径)
さらに強度σを増加させることによって、式(2)のように熱衝撃破壊抵抗、つまり耐熱衝撃特性を向上させることができる。
R=σ(1-ν)/Eα (2)
(R:熱衝撃破壊抵抗、ν:ポアソン比、E:ヤング率、α:熱膨張率)
【0007】
また入射した直線偏光が、熱複屈折などの影響によって、出射光が楕円偏光になる現象があり、この現象は「偏光解消」と呼ばれる。偏光解消は、レーザー出力を大幅に低下させるとともに、ビーム品質を低下させる。偏光解消をセラミックスによって解決する手段として、結晶粒子のマイクログレイン化が有効であることが、非特許文献4に報告されている。したがって、結晶粒子径を小さくした透光性セラミックスは、優れた機械的特性及び光学特性を備えていることが期待される。
【非特許文献1】Northrop Grumman, TGG data sheet (2003)
【非特許文献2】Journal of the Ceramic Society of Japan 103, P.P.489-493 (1995)
【非特許文献3】OPTRONICS No.4,P.P.168-173(2001)
【非特許文献4】Applied Optics, Vol.43, No.32, pp6030-6039(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、工業的に実用可能な手法により、600nm〜1500nmに渡って特異吸収波長以外で良好な透光性を有する一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表される透光性希土類ガリウムガーネット焼結体と磁気光学デバイス、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表される透光性希土類ガリウムガーネット焼結体であって、
前記焼結体は、金属換算で、SiとGeを焼結助剤として合計量で10wtppm〜1000wtppm含有すると共に、SiとGeを各々5wtppm以上含有し、
かつ前記焼結体は、波長600nm〜1500nmにおける、特異吸収波長以外での、直線透過率が1mm厚の焼結体で77%以上、平均結晶粒径が0.4μm〜3μm、であることを特徴とする。
なお透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の平均結晶粒径は、好ましくは0.5μm〜1μmとする。
【0010】
上記の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体は磁気光学デバイス中の磁気光学素子として用いることができ、例えば光アイソレーターのファラデー素子として用いることができる。
【0011】
本発明の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の製造方法では、焼結助剤として、金属換算でSiとGeを合計量で10wtppm〜1000wtppm含有し、かつSiとGeを各々5wtppm以上含有する、純度99.9%以上の高純度希土類ガリウムガーネット粉末を、バインダーを用いて、成形密度が理論密度比55%以上の成形体に成形し、該成形体を熱処理してバインダーを除去した後、水素、アルゴンガスあるいはこれらの混合ガス雰囲気中、もしくは真空中で、1250℃〜1450℃、0.5時間以上で焼成する。
より透光性を改善するために、前記焼成後に、1000℃〜1450℃の処理温度及び49MPa〜196MPaの圧力で、熱間静水圧加熱処理(HIP)を実施することが好ましい。
【0012】
用語法
この明細書で、SiやGeの添加量は、SiやGeを金属に換算した重量で、焼結体中の濃度をwtppm単位で示す。また直線透過率は表面を鏡面研磨した厚さ1mmの試料で測定し、測定波長をnm単位で示す。平均結晶粒径の単位はμmである。焼成時間は最高温度への保持時間で示し、HIPの処理時間は最高温度でかつ最高圧力に保持する時間である。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため種々検討を行なった結果、波長600nm〜1500nmの領域で、特異吸収波長以外での直線光透過率が1mm厚で77%以上の、希土類ガリウムガーネット焼結体を見出した。焼結機構の詳細は不明であるが、本発明では、焼結助剤として、金属換算でSiとGeを合計で10wtppm〜1000wtppm、SiとGeを各々5wtppm以上、焼結体に含有させる。すると粒成長を制御して、平均結晶粒径が0.4μm〜3μmの範囲において焼結体を緻密化でき、光透過率を向上させることができる。一方、焼結助剤として、SiとGeの合計が金属換算で10wtppm未満または1000wtppm超の場合、またはSiもしくはGeが5wtppm未満の場合、良好な透光性希土類ガリウムガーネット焼結体を作製できない。
【0014】
焼成温度が1250℃未満の場合、焼結助剤の有無に関係なく、粒成長に伴う緻密化が充分に行なわれないため、不透明あるいは半透明の焼結体しか得られず、結晶粒径は0.4μm未満であった。焼成温度が1250℃〜1450℃で、焼結助剤として、SiとGeの合計が金属換算で10wtppm〜1000wtppmで、Si及びGeを各々5wtppm以上含有すると、焼結体の平均結晶粒径は0.4μm〜3μmとなり、透光性に優れた焼結体が得られた。一方、焼結助剤として、SiとGeの合計が金属換算で5wtppm未満の場合、10wtppm〜1000wtppmの場合よりも低い透光性しか得られない。またSiとGeの合計が、金属換算で1000wtppmを超えると、著しい粒成長促進効果による異常な粒成長により、気孔を充分に排除できず、満足な透光性が得られない。
【0015】
焼成温度が1250℃〜1450℃で、焼結助剤として、SiとGeを合計で10wtppm〜1000wtppm含有しているが、SiまたはGeの含有量が5wtppm未満の場合、満足な透光性が得られない。1450℃を超える温度で焼成すると、微構造組織の一部に異常粒成長が生じるため、満足な透光性が得られず、平均結晶粒径は3μmを十分に超える。したがって、焼結助剤として、金属換算でSiとGeを合計で10wtppm〜1000wtppm含有し、かつSi及びGeを各々5wtppm以上含有する場合、1250℃〜1450℃の焼成温度範囲で、平均結晶粒径が0.4μm〜3μmの優れた透光性焼結体が得られる。
【0016】
成形密度が55%未満の成形体は、1450℃以下の焼成温度で、透光性を有する焼結体を作製できない。成形体のパッキングが不充分なため、十分に気孔を排除できないためと思われる。一方、成形密度が55%以上の成形体は、1450℃以下の焼成温度でも、透光性に優れた燒結体を作製できる。成形体が充分にパッキングされているため、1450℃以下の焼成温度で、気孔を排除できるためと思われる。したがって、成形体の成形密度は好ましくは55%以上で、より好ましくは58%以上とする。
【0017】
適切な焼成条件の選択により、十分な直線透過率を有する焼結体が得られる。しかし炉内の温度分布等により焼結体全体が均一に焼成されず、部分的に気孔の排除が充分に行なわれない場合、サブミクロン以下の小さい気孔が焼結体内に多数存在するため、可視領域の透過率が低下する。このような焼結体は、熱間静水圧加圧(HIP)処理により、可視領域の透過率を改善できる。加圧ガスは通常Arガスが用いられ、処理温度は1000℃〜1450℃である。1000℃より低いとHIP処理による効果がなく、1450℃よりも高いと微構造組織の一部に異常粒成長が生じるため透過率が低下する。また、処理圧力は49〜196MPaとし、49MPa未満では効果がなく、196MPaを超えると装置に大きな負荷をかける。
【0018】
以下に焼結体の作製方法を説明する。使用する原料粉末の比表面積は3 m2/g〜20m2/gが好ましく、より好ましくは5 m2/g〜10m2/gとし、原料粉末は凝集が少なく粒度分布が均一なものが好ましい。比表面積が20m2/gを超える微紛は、活性が高く比較的低温で緻密化できる反面、成形手法が限定され、凝集粒子が多くなるため、成形密度を高くできない。一方、比表面積が3m2/g未満の粗粉は、成形が容易である反面、活性が低いため、低温で緻密化させることができない。
【0019】
希土類ガリウムガーネット原料粉末を用いて所望の形状に成形する場合、セラミックスの成形方法として、プレス成形、鋳込み成形、押し出し成形、射出成形などがある。成形方法は限定されず、成形密度が55%以上となり、不純物が混入しない方法で実施すればよい。また焼結助剤を添加する際は、各種成形方法に適した手法で行なう。例えば、プレス成形の場合、ボールミル等の混合粉砕機を用いて混合を行なう際に、焼結助剤を添加する。そしてスラリー状態にした後、スプレードライなどの噴霧乾燥によって得られた成形用顆粒を用いてプレス成形を行なう。
【0020】
焼結助剤の添加は、成形体内部に均一に焼結助剤が分散させることができる手法であれば良い。例えば、原料合成段階や仮焼段階で添加しても良い。焼結助剤として、Si及びGeの元素を含む化合物を用いる。焼結助剤の純度は、添加量が微量であるため特に重要ではないが、原料粉末同様、高純度なものを使用するのが好ましい。また焼結助剤を粉末で添加する場合は、その一次粒子径が原料粉末と同じ程度、若しくはそれ以下のものを使用するのが好ましい。
【0021】
成形には、成形補助剤としてバインダーが必要であり、それを焼成工程の間ですべて除去する必要がある。その際、処理温度、時間、雰囲気は、使用する成形補助剤の種類によって異なるが、成形体表面が閉空孔化するまでに、バインダーを除去しないと、焼結体にひび割れが生じたり、焼結不良を及ぼす恐れがある。そのため表面の閉空孔化しない温度以下で充分に時間をかけて、バインダーを除去する。したがって処理温度は、使用原料粉末の焼結性及び成形体の粒子の充填性によるが、上限を通常900℃〜1150℃とし、それ以下の温度が好ましい。また雰囲気は大気が一般的であるが、必要に応じてN2やAr、若しくは減圧雰囲気を用いても良い。
【0022】
バインダーを除去した後、成形体を水素、希ガスあるいはそれらの混合雰囲気もしくは真空中で、1250℃〜1450℃の温度で焼成する。焼成時間は0.5時間〜10時間が好ましい。更に透光性の良い焼結体を得るためには、1000℃〜1450℃の処理温度及び49MPa〜196MPa圧力で、HIP処理を行なう。HIP処理で最高温度及び最高圧力に保持する処理時間は0.5時間〜10時間が好ましい。
【0023】
以上の操作によって、波長600nm〜1500nmにおける、特異吸収波長以外での、直線透過率が1mm厚の焼結体で77%以上、平均結晶粒径が0.4〜3μmの透光性希土類ガリウムガーネット焼結体を作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1
純度99.9%以上の酸化テルビウムを硝酸で、硝酸ガリウムは超純水で溶解させ、濃度1mol/lの硝酸テルビウム溶液と、濃度1mol/lの硝酸ガリウム溶液を調製した。次に、硝酸テルビウム溶液を300ml、硝酸ガリウム溶液を500ml及び濃度1mol/lの硫酸アンモニウム水溶液を150ml混合し、超純水を加えて全量を10Lとした。得られた混合液を撹拌させながら、濃度0.5mol/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を5ml/minの滴下速度でpH8.0になるまで滴下し、撹拌を続けながら室温で2日間養生した。養生後、濾過及び超純水を用いて水洗を数回繰り返した後、150℃の乾燥機に入れ2日間乾燥した。得られた前駆体粉末をアルミナ坩堝に入れ、電気炉で1100℃ 3時間仮焼を行なった。その結果、比表面積6.0m2/gのテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)原料粉末が得られた。
【0026】
得られた原料粉末75g、溶媒としてエタノール50g、結合剤としてポリビニルアルコール(PVA)0.75g、可塑剤としてポリエチレングリコール(PEG)0.75g、潤滑剤としてステアリン酸0.375gを加え、焼結助剤としてSiO2及びGeO2を添加した。添加量は焼結体に対する金属換算で、Si100wtppmとGe100wtppm等とした。ナイロンポットとナイロンボールを用いて、100時間ボールミル混合を実施した。得られたスラリーを噴霧乾燥機(スプレードライ)にかけ、乾燥球状体を作製する。乾燥球状体を直径10mmの金型に入れ、20MPaで一次成形を行った後、250MPaの圧力で冷間静水圧(CIP)法により成形を行った。この成形体を10℃/hrで600℃まで昇温し、この温度で20時間保持して脱脂を行った。この成形体の相対密度は、アルキメデス法により測定した結果、59.8%であった。さらに充分脱脂を行うために、この成形体を1100℃まで昇温し、10時間保持した。その後、真空炉で1350℃、最高温度で8時間焼成した。炉内の真空度は10-1Pa以下とした。
【0027】
上記と同じ条件で、SiやGeの含有量を変えた焼結体(実施例2〜13,比較例1〜8)を調製した。得られた焼結体の両面をダイヤモンドスラリーで鏡面研磨し1mm厚の試料を得、分光光度計で直線透過率を測定した。表1に、波長600nm及び1500nmにおける直線透過率(1mm厚)を示す。この試料を大気中で1200℃ 2時間熱処理を行い、SEMにより微構造組織を観察した。図1に代表例として実施例1の微構造組織のSEM画像を示す。ここで平均結晶粒径は以下の式から算出した。
d= 1.56C/(MN)
(d:平均粒径、C:SEM等の高分解能画像で任意に引いた線の長さ、N:任意に引いた線上の結晶粒の数、M:画像の倍率M)
また、アルキメデス法により焼結体密度を求めた結果、相対密度は99.9%以上であった。
【0028】
実施例2〜13及び比較例1〜8
SiやGeの含有量が5wtppm未満の場合、平均結晶粒径や透過率は、焼結助剤無添加のTGGとほぼ同様で、焼結助剤の添加効果は見られなかった。しかしSiとGeの合計含有量が10wtppm〜1000wtppmで、Si及びGeを各々5wtppm以上含有する場合、平均結晶粒径は3μm以下で、大部分の場合2μm以下であり、600nm及び1500nmの透過率は77%を十分に越える。一方、SiとGeの合計が金属換算で1000wtppmを超えた場合、固溶できなかった一部のSi及びGeが粒成長促進効果をもたらし、平均結晶粒径は5μmを越え、微構造組織内の一部で異常粒成長が生じる。そして透過率はSiとGeの含有量が10wtppm〜1000wtppmの場合よりも低い。SiとGeとを共に50wtppm以上含有し、これらの合計含有量が100〜500wtppmで、測定波長600nmでの直線透過率が78%を越えるので、この条件が特に好ましい。
【0029】
表1 実施例1〜13、比較例1〜8
試料 試料 平均結晶粒径 直線透過率 直線透過率
Si Ge /μm /%T(600nm) /%T(1500nm)
比較例1 0 0 0.70 60.4 68.8
比較例2 2 2 0.71 71.1 74.5

実施例1 100 100 0.74 78.6 80.7
実施例2 5 5 0.72 77.1 80.2
実施例3 50 50 0.73 78.3 80.4
実施例4 250 250 1.2 78.2 80.7
実施例5 500 500 2.9 77.8 80.2

比較例3 600 600 5.1 76.2 78.3
比較例4 750 750 6.8 74.3 76.9

実施例6 50 5 1.9 77.5 80.1
実施例7 50 100 0.75 78.3 80.2
実施例8 50 250 1.3 78.1 80.0
実施例9 50 500 1.5 77.9 79.9

比較例5 50 2 0.81 75.4 78.7
比較例6 50 1000 5.2 75.8 77.8

実施例10 5 50 0.73 77.6 80.0
実施例11 100 50 0.76 78.5 80.3
実施例12 250 50 1.1 78.3 80.1
実施例13 500 50 1.6 77.9 80.0

比較例7 2 50 0.72 75.9 78.5
比較例8 1000 50 5.3 76.0 78.1
* Si及びGeの含有量は、焼結体中の含有量をSiやGeの金属に換算し、wtppm単位で示す.
* 粒径はμm単位で示し、直線透過率での波長は測定波長を示し、試料の厚さは1mmである.これらの点は明細書全体に渡って同様である.
【0030】
適度のSiとGeが含まれることによってTGGの焼結性が向上した理由は、以下のように推測される。例えば、ガーネット構造をもつY3Al5O12(YAG)をカチオンの配位数別に分類すると、Yは8配位、Alは4及び6配位位置を占有する。Si4+がガーネット構造をもつYAGのAl3+の4配位位置に置換することは公知であり、その理由の一つとして、Si4+の4配位のイオン半径0.40Åに対して、Al3+の4配位のイオン半径は0.53Åであり、Al3+がSi4+よりも大きい。TGGをカチオンの配位数別に分類すると、Tbは8配位、Gaは4及び6配位位置を占有する。Ga3+の4配位のイオン半径0.61Åに対して、Si4+の4配位のイオン半径は0.40Å、Ge4+の4配位のイオン半径は0.53Åで、Ga3+の4配位位置にSi4+もGe4+も置換できる。Si4+及びGe4+が単独で置換するよりも、イオン半径の異なるSi4+とGe4+の両方が4配位のGa3+を置換する方が、結晶格子内に欠陥が生じやすくなり、結晶格子間の物質移動が容易になると思われる。したがって、低温で結晶粒径が小さい緻密な焼結体を得ることが可能になる。
【0031】
実施例14〜23
Tb元素からY, Eu, Gd, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuの希土類元素に替えた以外は、実施例3と同様の手法(成形体密度59.8%、真空炉で1350℃、8時間焼成、Si及びGeを各50wtppm含有)で作製した焼結体の、平均結晶粒径と直線透過率を表2に示す。なお600nmあるいは1500nm付近に特異吸収が存在する焼結体では、測定波長を変えて、その旨を表2に記載した。測定結果から、すべての焼結体において優れた透光性を有することが判る。
【0032】
表2 実施例14〜実施例23
試料 化合物 平均結晶粒径 直線透過率 直線透過率
/μm /%T(600nm) /%T(1500nm)
実施例14 Y3Ga5O12 0.81 78.1 80.1
実施例15 Sm3Ga5O12 0.79 77.8 80.2(1300nm)
実施例16 Eu3Ga5O12 0.83 77.5(900nm) 79.9
実施例17 Gd3Ga5O12 0.79 78.0 80.3
実施例18 Dy3Ga5O12 0.77 77.6 80.1
実施例19 Ho3Ga5O12 0.79 77.8 79.7
実施例20 Er3Ga5O12 0.75 77.9 79.8(1200nm)
実施例21 Tm3Ga5O12 0.78 77.1 79.9
実施例22 Yb3Ga5O12 0.82 78.2 80.1
実施例23 Lu3Ga5O12 0.73 77.4 79.7

【0033】
実施例24〜26及び比較例9〜11
成形圧力を種々変更してCIP成形を行った以外は、実施例1(真空炉で1350℃、8時間焼成、Si及びGeを各100wtppm含有)と同様にしてTGG焼結体を作製した。得られた焼結体の成形密度と透過率と関係を表3に示す。成形密度の向上に伴い透過率が向上している。成形時の成形密度が低いと、緻密化した部分以外に焼結不良による残留気孔が存在するため、透過率が低下すると推測される。したがって表3の結果から、透過率77%以上の透光性に優れた焼結体を得るためには、成形密度を55%以上にすることが必要である。
【0034】
表3 実施例24〜26 比較例9〜11
試料 成形密度 平均結晶粒径 直線透過率 直線透過率
/% /μm /%T(600nm) /%T(1500nm)
比較例9 47.3 0.73 71.9 76.4
比較例10 50.2 0.72 73.0 77.5
比較例11 53.4 0.74 74.5 78.3

実施例24 55.3 0.75 78.5 80.6
実施例25 60.5 0.78 78.7 80.7
実施例26 63.2 0.76 78.6 80.7

【0035】
実施例27〜33 及び比較例12〜17
焼成温度及び時間を種々変更した以外は実施例1(成形体密度59.8%、Si及びGeを各100wtppm含有)と同様にして、TGG焼結体を作製した。得られた焼結体の、焼成温度と平均結晶粒径及び透過率との関係を表4に示す。その結果、焼成温度が1100℃では緻密な焼結体が得ることができず透過率を測定できず、焼成温度が1200℃では焼結体の相対密度は99%以上であったが、透光性が不十分で、SEMで焼結体の微構造組織を観察したところ、結晶子よりも大きな気孔が多数存在していた。焼成温度が1250℃〜1450℃で、透過率が77%以上の焼結体を得ることができ、焼結体の平均結晶粒径は0.4μm〜3μm以下であった。しかし1250℃〜1450℃の焼成温度でも、焼成時間が0.5時間未満の場合、結晶粒径は十分に成長しているが、気孔が十分に除去できていないため、満足な透光性焼結体を得ることができなかった。焼成温度が1450℃を超えると、焼結体の平均結晶粒径は5μmを超え、微構造組織の一部で異常粒成長が生じるため、気孔の排除が十分できず、透過率が低下する。以上の結果、焼成温度は1250℃〜1450℃、平均結晶粒径は0.4μm〜3μm以下で、良好な透過率を得ることができた。
【0036】
表4 実施例27〜33 比較例12〜17
試料 焼成温度 焼成時間 平均結晶粒径 直線透過率 直線透過率
/℃ /hr /μm /%T(600nm) /%T(1500nm)
実施例27 1250 8 0.42 77.0 79.0
実施例28 1350 2 0.65 77.5 80.1
実施例29 1350 5 0.70 78.5 80.5
実施例30 1400 8 1.5 78.0 80.1
実施例31 1450 0.5 1.8 77.2 79.2
実施例32 1450 1 2.2 77.4 79.5
実施例33 1450 8 2.5 78.0 79.9

比較例12 1100 8 0.30 − −
比較例13 1200 8 0.35 59.1 68.5
比較例14 1250 0.2 0.40 73.3 77.3
比較例15 1450 0.2 1.0 74.8 78.1
比較例16 1500 8 5.8 74.3 77.9
比較例17 1600 8 10.3 72.3 76.2

【0037】
実施例34〜45
実施例1と同様に作製したTGG焼結体(Si100wtppm,Ge100wtppm、成形体密度59.8%、真空中1350℃で8時間焼成)をHIP処理することによって、透過率の改善を図った。HIP処理時間を3時間に固定して、種々の温度及び圧力で行った場合の、平均結晶粒径及び波長500nmと600nmの透過率(1mm厚)を表5に示す。図2に実施例38の波長500〜1500nmまでの直線透過率スペクトルを示す。HIP処理は、圧力媒体としてArガスを使用し、同時昇温昇圧法により、800℃/hrで昇温し、所望の保持温度で3時間処理した後、1000℃/hrで冷却した。1000℃〜1450℃の処理温度及び49MPa〜196MPa圧力でHIP処理を行なった場合、測定波長600nm、及びサブミクロン以下の小さい気孔の影響を受けやすい測定波長500nmでも、直線透過率は75%以上であった。しかし処理温度が950℃で圧力が196MPaの場合、または処理温度が1200℃で圧力が45MPaの場合では、焼結体内部の微細な気孔を十分に排除できなかったため、測定波長500nmで直線透過率は75%未満となり、透過率の改善は全くみられなかった。更にHIP処理温度が1500℃以上では、雰囲気焼成の場合と同様に、微構造組織の一部に異常粒成長が生じたため透過率が低下した。以上の結果より、1000℃〜1450℃の処理温度及び49MPa〜196MPa圧力でHIP処理を行なうことが好ましい。
【0038】
表5 実施例34〜43及び比較例18,19
試料 処理温度 圧力 平均結晶粒径 直線透過率 直線透過率
/℃ /MPa /μm /%T(500nm) /%T(600nm)
実施例34 1020 196 0.75 75.0 78.6
実施例35 1200 49 0.74 75.2 78.6
実施例36 1300 100 0.76 77.8 79.1
実施例37 1300 196 0.77 78.0 79.5
実施例38 1350 150 0.79 78.2 79.8
実施例39 1400 100 1.6 77.5 79.2
実施例40 1450 100 2.6 77.2 79.0
実施例41 1450 196 2.9 77.0 78.8

実施例42 950 196 0.74 73.1 78.6
実施例43 1200 45 0.73 74.9 78.6
比較例18 1500 49 6.7 73.7 76.9
比較例19 1550 196 12.9 72.8 75.7

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1の微構造組織に関するSEM画像
【図2】焼結助剤としてSiを100wtppm、Ge100wtppm添加し、150MPaのAr雰囲気中で1350℃、3時間HIP処理したTb3Ga5O12(1mm厚)での、波長500nm〜1500nmまでの直線透過率スペクトルを示す特性図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表される透光性希土類ガリウムガーネット焼結体であって、
前記焼結体は、金属換算で、SiとGeを焼結助剤として合計量で10wtppm〜1000wtppm含有すると共に、SiとGeを各々5wtppm以上含有し、
かつ前記焼結体は、波長600nm〜1500nmにおける、特異吸収波長以外での、直線透過率が1mm厚の焼結体で77%以上、平均結晶粒径が0.4μm〜3μm、であることを特徴とする、透光性希土類ガリウムガーネット焼結体。
【請求項2】
請求項1の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体を磁気光学素子として用いたことを特徴とする磁気光学デバイス。
【請求項3】
焼結助剤として、金属換算でSiとGeを合計量で10wtppm〜1000wtppm含有し、かつSiとGeを各々5wtppm以上含有する、純度99.9%以上の高純度希土類ガリウムガーネット粉末を、バインダーを用いて、成形密度が理論密度比55%以上の成形体に成形し、該成形体を熱処理してバインダーを除去した後、水素、アルゴンガスあるいはこれらの混合ガス雰囲気中、もしくは真空中で、1250℃〜1450℃、0.5時間以上で焼成する、透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記焼成後に、1000℃〜1450℃の処理温度及び49MPa〜196MPaの圧力で、熱間静水圧加熱処理(HIP)を実施することを特徴とする、請求項3に記載の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の製造方法

【図2】
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【図1】
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