説明

通信ケーブル用内部補強部材

【課題】これまでにない優れた難燃特性およびドリップ抑制効果を有し、通信ケーブルの内部補強部材として十分な物理特性を持つ通信ケーブル用内部補強部材の提供。
【解決手段】ポリエステル樹脂100重量部に対し、ある特定のシリコーン系化合物0.1〜10重量部を配合したポリエステル系樹脂組成物からなる繊維を構成素材とすることを特徴とする通信ケーブル用内部補強部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規特性を有する難燃性繊維を使用した通信ケーブル用内部補強部材に関するものである。さらに詳しくは、高い難燃性を有し、且つ通信ケーブル用内部補強部材として十分な物理特性を持つと共に、低コストで製造可能な通信ケーブル用内部補強部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FTTH(fiber to the home)に使用される通信ケーブルには、近年増加する莫大な情報量と情報伝達の高速化に伴い、光ファイバケーブルが主に使用されている。
【0003】
光ファイバケーブルには、これを電柱から宅内に引き込むために抗張力体またはテンションメンバと呼ばれる内部補強部材が使用されており、従来からその素材としては鋼線が使用されていた。
【0004】
しかし、雷などの発生により、電圧誘引が電柱から光ファイバケーブルを伝わると、宅内のルーターやパソコンなどの家庭電化製品の故障や破損の原因となるため、抗張力体などの内部補強部材を鋼線から絶縁体に互換する要請が高まっている。
【0005】
この要請に対して、繊維強化プラスチックやポリエステルモノフィラメントを使用した内部補強部材(例えば、特許文献1参照)を使用した光ファイバケーブルが開発されている。
【0006】
しかし、内部補強部材としてポリエステルモノフィラメントを使用した場合、電圧誘引による宅内のルーターやパソコンなどの家庭電化製品の故障や破損を防ぐことができるが、難燃性を有していないため、落雷や火災等により通信ケーブルが燃焼した場合には、家電に延焼する可能性がある。
【0007】
そこで、難燃性に優れた素材として繊維強化プラスチックが知られているが、折れやすい性質を有するため、通信ケーブルを曲げると破断する場合があり、その結果、通信ケーブルの強度が著しく低下するなどの問題を抱えていた。
【0008】
また、難燃性や強力に優れた素材としては、ポリエーテルエーテルケトンやポリイミドなどが知られているが、これらの樹脂原料は高価であり、これらを使用した通信ケーブルは製造コストの増加に繋がるという問題があった。
【0009】
かかる状況に鑑み、難燃性と高強力を有し、低コストで製造可能な通信ケーブル用内部補強部材の開発が強く要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−200073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、これまでにない優れた難燃特性およびドリップ抑制効果を有し、通信ケーブルの内部補強部材として十分な物理特性を持つ通信ケーブル用内部補強部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリエステル樹脂100重量部に対し、下記シリコーン系化合物0.1〜10重量部を配合したポリエステル系樹脂組成物からなる繊維を構成素材とすることを特徴とする通信ケーブル用内部補強部材が提供される。
【0013】
シリコーン系化合物:式RSiO0.5、RSiO1.0、RSiO1.5およびSiO2.0(Rは有機基)で示される単位の少なくともいずれかから構成され、Rで示される有機基が芳香環を含み、且つこの芳香環の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対して80モル%以上であり、シリコーン系化合物に含まれるシラノール基が2〜10重量%である。
【0014】
なお、本発明の通信ケーブル用内部補強部材においては、
前記ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートまたはポリブチレンナフタレートから選ばれた少なくとも1種であること、
前記シリコーン系化合物の重量平均分子量が500〜300000であること、および
前記シリコーン系化合物がRSiO1.5の単位を含み、且つRSiO1.5の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対して87.5モル%以上であること
が、さらに好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、これまでにない優れた難燃特性およびドリップ抑制効果を有し、通信ケーブルの内部補強部材として十分な物理特性を持つ通信ケーブル用内部補強部材を得ることができ、この通信ケーブル用内部補強部材を使用した通信ケーブルは、落雷や火災等による延焼を十分に防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0017】
本発明の通信ケーブル用内部補強部材は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、下記シリコーン系化合物0.1〜10重量部を配合したポリエステル系樹脂組成物からなる繊維を構成素材とすることを特徴とするものである。
【0018】
シリコーン系化合物:式RSiO0.5、RSiO1.0、RSiO1.5およびSiO2.0(Rは有機基)で示される単位の少なくともいずれかから構成され、Rで示される有機基が芳香環を含み、且つこの芳香環の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対して80モル%以上であり、シリコーン系化合物に含まれるシラノール基が2〜10重量%である。
【0019】
まず、本発明で使用するポリエステル樹脂は特に限定はされないが、上記シリコーン系化合物を添加せしめた場合に、通信ケーブル用内部補強部材として十分な物理特性が得られ易いことから、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートが好ましく、これら2種類以上含む混合物であっても良い。
【0020】
また、本発明で使用するシリコーン系化合物における芳香環とは、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、非ベンゼン系芳香環、複素芳香環などの芳香族に属する環の総称を示し、耐熱性や汎用性の点から、ベンゼン環が好ましく、ベンゼン環を含む有機基としてはフェニル基がある。
【0021】
そして、本発明においては、この芳香環の含有量が難燃特性およびドリップ抑制効果を左右する重要な条件となる。
【0022】
つまり、シリコーン系化合物を構成する全有機基に対して、芳香環の含有量を80モル%以上とすることで、難燃特性およびドリップ抑制効果をより一層高めることができる。
【0023】
これは、シロキサン鎖と有機基の脱離温度が高くなり、燃焼時にシリコーン系化合物の有機基が高温で脱離することにより、ポリエステル樹脂とポリシロキサン鎖が効率よく架橋構造を形成し、難揮発性成分が炭化成分になるために、難燃特性およびドリップ抑制効果が高くなると推定している。つまり、芳香環の含有量が上記範囲を下回るとドリップ抑制効果が得られ難く傾向にあり、通信ケーブル部内部補強材として十分な難燃特性が得られにくくなる。
【0024】
さらに、本発明で使用するシリコーン系化合物は、シラノール基を2〜10重量%含有していることが必要であり、更に好ましくは3〜8重量%である。
【0025】
シリコーン系化合物中のシラノール基は、燃焼時に効率よくポリエステル樹脂と架橋構造を形成し、その量によってポリエステル樹脂との反応に影響が現れる。
【0026】
そのため、シラノール基の含有量が上記範囲を上回ると、成型時にポリエステル樹脂と反応して、ゲル化が発生し易くなり、逆に上記範囲を下回ると、難燃特性およびドリップ抑制効果が得られ難くなる傾向にある。
【0027】
さらにまた、本発明で使用するシリコーン系化合物は、その配合量が多いと通信ケーブル部内部補強材としての物理特性が低下する傾向にあり、逆に少ないと難燃特性およびドリップ抑制効果が得られ難くなる傾向にあることから、ポリエステル樹脂100重両部に対して、0.1〜10重量部の範囲で配合されていることが必要であり、好ましくは0.5〜8.5重量部、更に好ましくは1〜7重量部である。
【0028】
また、本発明の効果をより一層高めるためには、本発明で使用するシリコーン系化合物の重量平均分子量は500〜300000であることが好ましく、更に好ましくは1000〜100000であり、より一層好ましくは6000〜50000である。
【0029】
つまり、シリコーン系化合物の分子量が上記範囲を下回ると、溶融粘度が低いために、成型の際にポリエステル樹脂への分散性が悪くなる傾向にあり、逆に上記範囲を上回ると、溶融粘度が高いために、かえってポリエステル樹脂への分散性が悪くなるばかりか、紡糸性も難しくなり易い傾向にある。
【0030】
さらにまた、式RSiO0.5、RSiO1.0、RSiO1.5およびSiO2.0(Rは有機基)で示されるシリコーン系化合物のうち、RSiO1.5(T単位)が多く含まれると、通信ケーブル用内部補強部材の難燃特性およびドリップ抑制効果がより高まるばかりか、耐蒸熱性も向上しやすいことから、本発明においては、RSiO1.5で示される単位を含み、且つRSiO1.5の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対して87.5モル%以上であることが好ましく、更に好ましくは90%以上であり、より一層好ましくは100%である。
【0031】
次に、本発明の通信ケーブル用内部補強部材の構成素材となる繊維の製造方法について説明する。
【0032】
まず、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂は、ごく一般的な公知の重合方法で製造することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物を主たる触媒として、ジカルボン酸及び/またはそのエステル形成誘導体とジオール及び/またはそのエステル形成誘導体からエステル化反応により製造することができる。
【0033】
一方、シリコーン系化合物もごく一般的な公知の重縮合によって製造することができ、例えば、RSiCl(トリオルガノクロロシラン、M単位に相当)、RSiCl(ジオルガノジクロロシラン、D単位に相当)、RSiCl(モノオルガノトリクロロシラン、T単位に相当)、SiCl(テトラクロロシラン、Q単位に相当)をモノマーとして用い、これらを所望のモル比で酸もしくはアルカリの触媒下で縮合せしめることにより製造することができる。
【0034】
また、シリコーン系化合物中の芳香環は、前記したモノマー中のRを、所望の量だけ芳香環で置換することにより製造することができる。
【0035】
さらに、シリコーン系化合物中のシラノール基の含有量は反応時間によって制御可能であるが、シラノール基を制御するために封鎖剤として、RSiClやRSiOHをシラノール基と反応させることでシラノール基の含有量を制御することも可能である。
【0036】
なお、シラノール基の含有量の測定は29Si−NMRなどにより測定可能である。
【0037】
また、シリコーン系化合物の重量平均分子量は、製造時の反応時間によって制御可能であり、分子量の測定はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定可能である。
【0038】
シリコーン系化合物をポリエステル樹脂中に配合する方法としては、例えばシリコーン系化合物をポリエステル樹脂の重合時に添加する方法、ポリエステル樹脂とシリコーン系化合物を2軸押し出し機やバンバリーミキサーなどの溶融混練機で混練する方法が挙げられ、特に限定はされない。
【0039】
また、通信ケーブル用内部補強部材の構成素材となる繊維は、ごく一般的に知られる溶融紡糸法で製造することがでる。
【0040】
例えば、具体的には溶融押し出し後、冷却固化、延伸および熱処理することにより製造することができる。
【0041】
この際、溶融押し出された未延伸糸を、40〜90℃、好ましくは50〜80℃の冷却浴に導き急冷することで、冷却浴内の未延伸糸の蛇行や線径バラツキを抑制し、真円性の高い繊維が得られ易い。
【0042】
また、冷却媒体としては、未延伸糸の表面から容易に除去できるものであって、ポリエステル樹脂組成物を物理的/化学的に変化させず、上記の冷却液温度範囲で液状のものであれば特に限定はされず、例えば、水、パラフィン、エチレングリコール、グリセリン、アルミアルコールおよびキシレンなどが挙げられる。
【0043】
そして、溶融押し出し後、冷却固化された未延伸糸は、引き続いて通信ケーブル用内部補強部材に必要な高引張強度を得るために2段階以上に延伸され、引き続き熱処理される。
【0044】
ここで、延伸および熱処理に使用される熱媒体としては、繊維の表面から容易に除去できるものであって、ポリエステル樹脂組成物を物理的/化学的に変化させないものであれば特に限定はされず、また、加熱装置としては、例えば高沸点の不活性液体を有する液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉、高周波炉および金属炉などが挙げられる。
【0045】
なお、通信ケーブル用内部補強部材の構成素材となる繊維の直径は、使用目的に応じて様々であるが、通信ケーブル用内部補強部材に使用する場合は0.2〜2.0mmの範囲のものが最もよく使用される。
【0046】
また、繊維の断面形状は、丸形、楕円形、中空形、三角・四角・六角などの多角形、またはこれらの形状に突起を有する形状のほか、星型、十・Y・H型、2葉・5葉・6葉・8葉などの異形断面であってもよく、さらに、構造も芯鞘構造や海島構造などの複合構造であってもよい。
【0047】
こうして得られた繊維を通信ケーブル用内部補強部材として使用した場合には、これまでにない優れた難燃特性およびドリップ抑制効果を有し、通信ケーブルの内部補強部材として十分な物理特性を得ることができる。そして、この通信ケーブル用内部補強部材を使用した通信ケーブルは、落雷や火災等による延焼を十分に防ぐことができる。
【実施例】
【0048】
まず、実施例および比較例におけるシリコーン系化合物の調製を下記の通り行なった。得られたシリコーン系化合物を表1、2に示す。また、表1に示すシリコーン系化合物は実施例で使用するシリコーン系化合物を示しており、表2は比較例で使用するシリコーン系化合物を示している。
【0049】
<M、D、T、Q単位の割合の調製>
SiCl(M単位に相当)、RSiCl(D単位に相当)、RSiCl(T単位に相当)、SiCl(Q単位に相当)を所望のモル比にて縮合し、M、D、T、Q単位の割合が異なるシリコーン系化合物を製造した。
【0050】
<フェニル基、メチル基の割合>
前記のR部分をそれぞれフェニル基、メチル基で置換し、モル比でフェニル基、メチル基の割合の異なるシリコーン系化合物を調製した。
【0051】
<シラノール基の含有量>
シリコーン系化合物を縮合する際の反応時間を各々調整した。シリコーン系化合物中のシラノール基の含有量(重量%)は、29Si−NMRにより、CDCl(標準物質として1%TMS含有)を溶媒とし、積算256回の条件により−SiO1.0(OH)、−SiO1.5の積分ピーク比から求めた。
【0052】
また、シラノール基の含有量が0%の場合はシラノール基の封鎖剤としてトリフェニルクロロシラン((CSiCl)を過剰に添加し、シラノール基の含有量を0%とした。
【0053】
<重量平均分子量>
シリコーン系化合物を縮合する際の反応時間を各々調整した。シリコーン系化合物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
また、各実施例における燃焼評価、物理特性評価については下記の通り行った。
【0057】
<難燃性の評価>
長さ10cmの繊維を重量1gにしたものを試験片とし、JIS L1091 D法に準じて、接炎回数をカウントした。
【0058】
<ドリップ性の評価>
上記難燃性の評価時のドリップ回数を評価した。
【0059】
<直径>
繊維50mを綛状に取り、試料長50cmにカットした。ここから任意に10本のサンプルを取り出し、MITUTOYO製デジタルマイクロメーターで1本につき5点ずつ測定し、その平均値で示した(単位:mm)。
【0060】
<引張強度>
JIS L1013−1999の8.5および8.7に準じて引張強さを測定し、繊度で割り返した値を引張強度(単位:cN/dtex)とした。
【0061】
[実施例1〜35、比較例1]
ポリエステル樹脂として固有粘度(IV)が0.70のポリエチレンテレフタレートを使用し、シリコーン系化合物として前記した製法によって得られる表1のシリコーン1〜35を使用した。
【0062】
ポリエチレンテレフタレート100重量部に対して、シリコーン系化合物を5.3重量部配合し、混練温度:275℃、L/D:30、スクリュー回転数:300rpmの条件で、これらを2軸押し出し機で混練し、ポリエチレンテレフタレートとシリコーン系化合物からなる樹脂組成物を作製した。
【0063】
その後、上記樹脂組成物をエクストルーダー型の紡糸機を用いて、紡糸温度280℃で溶融混練し、紡糸口金(口金孔径:2.8mm−8H(ホール))から溶融ポリマーを押し出し、直ちに70℃の温水浴中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0064】
引き続き未延伸糸を93℃の温水中で3.6倍に一次延伸し、さらに120℃の熱風雰囲気下で1.39倍に二次延伸を行って、トータル延伸倍率が5.0倍の延伸を行い、さらに230℃の熱風雰囲気下で0.90倍の熱セットを行って、平均直径0.600mmのポリエステル繊維を得た。
【0065】
得られたポリエステル繊維の接炎回数、ドリップ回数および引張強度の結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示すとおり、比較例1のシリコーン系化合物を含まないポリエステル繊維は、接炎回数が1回、ドリップ回数が10回であり、難燃性が低く、ドリップも多いのに対し、実施例1〜35のポリエステル繊維は、接炎回数が6回、ドリップ回数が0回であり、優れた難燃性、ドリップ抑制の効果を有していた。
【0068】
また、実施例1〜35のポリエステル繊維は、比較例1のものと比べても物理特性の低下は認められず、力学的にも安定していた。
【0069】
[比較例2〜7]
シリコーン系化合物中のフェニル基含有量の影響を比較例2〜7で示す。シリコーン系化合物として表2のシリコーン36〜41を用いた以外は、実施例1〜35と同様にしてポリエステル繊維を作製し、接炎回数、ドリップ性および物理特性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
表4に示すとおり、比較例1に比べてドリップ抑制効果は多少改善されているが、実施例1〜24と比較すると、本実施例とM、D、T、Q単位の組成比率、シラノール基量、分子量が同じであっても、フェニル基含有量が本発明の規定範囲を下回ると難燃性およびドリップ抑制効果が低い結果となった。
【0072】
[比較例8〜13]
シリコーン系化合物中のシラノール基量の影響を比較例8〜13で示す。シリコーン系化合物として表2のシリコーン42〜47を用いた以外は、実施例1〜35と同様にしてポリエステル繊維を作製し、接炎回数、ドリップ性および物理特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
表5に示すとおり、比較例1に比べてドリップ抑制効果は多少改善されているが、実施例1〜24と比較すると本実施例とM、D、T、Q単位の組成比率、フェニル基含有量、分子量が同じであっても、シラノール基含有量が本発明の規定範囲を下回ると難燃性およびドリップ抑制効果が低い結果となった。
【0075】
[実施例36、比較例14]
ポリエステル樹脂としてIVが0.65のポリプロピレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1〜35と同様にしてポリエステル繊維を得た。その評価結果を表6に示す。
【0076】
【表6】

【0077】
表6に示すとおり、比較例14のシリコーン系化合物を含まないポリエステル繊維は、接炎回数が1回、ドリップ回数が12回であり、難燃性が低く、ドリップも多いのに対し、実施例36のポリエステル繊維は、接炎回数が6回、ドリップ回数が0回と大幅に改善され、難燃性、ドリップ抑制効果に優れていた。
【0078】
[実施例37、比較例15]
ポリエステル樹脂としてIVが2.00のポリブチレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1〜35と同様にしてポリエステル繊維を得た。その評価結果を表7に示す。
【0079】
【表7】

【0080】
表7に示すとおり、比較例15のシリコーン系化合物を含まないポリエステル繊維は、接炎回数が1回、ドリップ回数が11回であり、難燃性が低く、ドリップも多いのに対し、実施例37のポリエステル繊維は、接炎回数が6回、ドリップ回数が0回と大幅に改善され、難燃性、ドリップ抑制効果に優れていた。
【0081】
[実施例38、比較例16]
ポリエステル樹脂としてIVが0.79のポリエチレンナフタレートを用い、シリコーン系化合物として表1のシリコーン1を用いた。
【0082】
そして、ポリエチレンナフタレート100重量部に対して、シリコーン系化合物を5.3重量部配合し、混練温度:280℃、L/D:30、スクリュー回転数:300rpmの条件で、これらを2軸押し出し機で混練し、ポリエチレンナレフタレートとシリコーン系化合物からなる樹脂組成物を作製した。
【0083】
その後、上記樹脂組成物をエクストルーダー型の紡糸機を用いて、紡糸温度280℃で溶融混練し、紡糸口金(口金孔径:8.5mm−6H(ホール))から溶融ポリマーを押し出し、直ちに70℃の温水浴中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0084】
引き続き未延伸糸を140℃の熱風雰囲気下で6.5倍に一次延伸し、さらに180℃の熱風雰囲気下で1.15倍に二次延伸を行って、トータル延伸倍率が7.5倍の延伸を行い、さらに240℃の熱風雰囲気下で0.95倍の熱セットを行って、平均直径0.600mmのポリエステル繊維を得た。
【0085】
得られたポリエステル繊維の接炎回数、ドリップ回数および引張強度の結果を表8に示す。
【0086】
【表8】

【0087】
表8に示すとおり、比較例16のシリコーン系化合物を含まないポリエステル繊維は、接炎回数が1回、ドリップ回数が5回であり、難燃性が低く、ドリップも多いのに対し、実施例38のポリエステル繊維は、接炎回数が6回、ドリップ回数が0回と大幅に改善され、難燃性、ドリップ抑制効果に優れていた。
【0088】
[実施例39、比較例17]
ポリエステル樹脂としてIVが0.82のポリブチレンナフタレートを用いた以外は、実施例1〜35と同様にしてポリエステル繊維を得た。その評価結果を表9に示す。
【0089】
【表9】

【0090】
表9に示すとおり、比較例17のシリコーン系化合物を含まないポリエステル繊維は、接炎回数が1回、ドリップ回数が5回であり、難燃性が低く、ドリップも多いのに対し、実施例39のポリエステル繊維は接炎回数が6回、ドリップ回数が0回と大幅に改善され、難燃性、ドリップ抑制効果に優れていた。
【0091】
[実施例40〜44、比較例18〜22]
実施例1、36、37、38、39および比較例1、14、15、16、17で得られたポリエステル繊維を実際に内部補強材として用い、通信ケーブルを作製した。その結果、表10に示すとおり、実施例1、36、37、38、39のポリエステル繊維を用いた通信ケーブル(実施例40〜44)は、比較例1、14、15、16、17のポリエステル繊維を用いた通信ケーブル(比較例18〜22)に比べて、いずれも高い難燃性と十分な物理特性を有しており、通信ケーブル用内部補強部材として十分に効果を発揮するものであった。
【0092】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のポリエステル系樹脂組成物からなる繊維を用いた通信ケーブル用内部補強部材は、高い難燃性を有し、燃焼時の有毒ガスの発生や力学特性の低下の問題を解決したものであり、従来の通信ケーブル用内部補強部材には見られない安定的な品質を備えている。
【0094】
したがって、本発明の通信ケーブル用内部補強部材は、これまでにない高い難燃性能と十分な物理特性を有し、安全性と高強力を兼備しており、通信ケーブル用内部補強部材として極めて優れた効果を発揮する。
【0095】
また、本発明の通信ケーブル用内部補強部材は、内部補強材用途のほか、光ファイバケーブルの隙間を埋める介在線、通信ケーブルの外層被覆を剥離する引き裂き線、光心線を取り出す際の刃物による光心線の損傷を防護する保護材、さらには電気部品結束材料などにも展開できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂100重量部に対し、下記シリコーン系化合物0.1〜10重量部を配合したポリエステル系樹脂組成物からなる繊維を構成素材とすることを特徴とする通信ケーブル用内部補強部材。
シリコーン系化合物:式RSiO0.5、RSiO1.0、RSiO1.5およびSiO2.0(Rは有機基)で示される単位の少なくともいずれかから構成され、Rで示される有機基が芳香環を含み、且つこの芳香環の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対して80モル%以上であり、シリコーン系化合物に含まれるシラノール基が2〜10重量%である。
【請求項2】
前記繊維がモノフィラメントであることを特徴とする請求項1に記載の通信ケーブル用内部補強部材。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートまたはポリブチレンナフタレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の通信ケーブル用内部補強部材。
【請求項4】
前記シリコーン系化合物の重量平均分子量が500〜300000であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信ケーブル用内部補強部材。
【請求項5】
前記シリコーン系化合物がRSiO1.5の単位を含み、且つRSiO1.5
含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対して87.5モル%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の通信ケーブル用内部補強部材。

【公開番号】特開2012−201992(P2012−201992A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65605(P2011−65605)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】