説明

通信機用鋳造ケース及び通信機用鋳造ケースの製造方法

【課題】従来のアルミニウム合金ダイカスト材と比べ製品の抜き勾配を極端に小さくでき、また、亜鉛の特質を活かしつつ、同時に比重が軽減された精密合金を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題を解決するため、アルミニウム、シリコン、および亜鉛を含み、全体を基準として、前記アルミニウムの含有率が40質量%以上45質量%以下であり、前記シリコンの含有率が2質量%以上8質量%以下である、ダイカスト用精密合金を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精密合金、特にダイカスト用精密合金、これを用いた精密合金ダイカスト部品、およびダイカスト用精密合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器に使用される部品のうち、屋外に使用される筐体部品や電子回路素子を搭載したプリント基板の内蔵を含む高周波回路機器は、通常、電磁波のシールドの必要性から金属ケースと金属製カバーを介した機能デバイスとして構成される。また、耐食性の観点からアルミニウム合金ダイカスト材のうちJIS指定のADC3が材料として使用されていた。
前記機構部品の製造方法としては切削加工、ダイカスト工法等があり、金属材料ではアルミニウムが最も一般的である。特に、大量生産の場合はダイカストによる製造が不可避である。但し、鋳造ケースの形状(外形、内側の仕切り壁)はさまざまであり、鋳抜きのためには製品に勾配(通常片側2〜3°)をつけないと鋳抜くことができないということが最大の欠点であった。ADC3は鋳造性に劣るため、部位によってはさらに大きな抜き勾配が必要であった。
解決方法としては、以下のものがある。
1)鋳造後に機械加工を施し、必要な形状に加工する。
2)鋳造用の材料に亜鉛基のダイカスト合金を使用する。これにより、必要な部位の勾配をなくし二次加工を軽減する。このような亜鉛基のダイカスト合金としては例えば、JIS指定のZDC2(Zn−4Al−0.04Mg)がある。
【0003】
上記1)は、二次加工後の鋳造欠陥(鋳巣)を回避するのが難しく、加工要素の種類や数によっては狙い通りのコストダウン効果を得られない可能性がある。また、勾配形状を含めた事前評価が必要であり、製品化までに時間を要するという問題がある。
【0004】
上記2)は、亜鉛(Zn)はアルミニウム(Al)に比べ比重が大きく(Al 2.7g/cm3に対し7.1g/cm3と2.6倍)、質量設計への制約が大きい。また、耐食性やクリープ特性の問題を考慮すると、高周波部品としての要求機能、特に、導波管回路部、同接合部を満足するものではなかった。特に、屋外用として筐体を兼用する製品に対しては亜鉛の犠牲防食作用の観点からZDC2の使用は満足のいくものではなかった。
【0005】
特許文献1は、引張強度が45kgf/mm以上であり、時効軟化を引き起こさず、且つ鋳造可能温度が500℃以下であるダイカスト用高強度亜鉛合金に関する技術を開示する。ここで、特にZn合金のうち高Alのものは時効軟化を引き起こすので好ましくないとされており、Alの含有量は12〜30質量%が好ましいとされている。また、銅含有量は6〜20重量%とされている。
【0006】
特許文献2は、クリープ抵抗を向上させるために、亜鉛(Zn)−アルミニウム(Al)系合金においてニッケル(Ni)またはマンガン(Mn)を含有させる、ダイカスト用亜鉛合金に関する技術を開示するものである。ここで、Al含量は2〜10重量%とされている。
【0007】
特許文献3は、溶融亜鉛めっき用合金に関し、溶融めっき工程において亜鉛めっき浴に補給するSiを含有する合金を開示している。
【0008】
特許文献4は、合金ビレットの温度を250〜350℃に設定して押出すことを特徴とするAl−Zn−Si系合金材の製造方法を開示している。特許文献4に開示の技術は低温ろう材などに用いられる合金材に関するものである。これに対し、ダイカスト用合金の場合、放熱特性、軽量化、および抜き勾配等の鋳造性を満足させるために、含有元素の質量比を極めて限定しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−49572号公報
【特許文献2】特開平9−272932号公報
【特許文献3】特開2001−288519号公報
【特許文献4】特開平5−255822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
亜鉛合金ダイカスト材は元々その成形性の良さから古くから使用されている材料であり、近年は成形性と相反する欠点であるクリープ特性の改善等を主眼とした亜鉛合金が開発されている。
しかし、固体金属として非常に鋳造性の良い特質を持つ亜鉛合金でありながら、精密に鋳抜くという視点から開発された亜鉛合金はなかった。すなわち、機械加工と同様の形状精度を達成できるような亜鉛合金は従来なかった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、従来のアルミニウム合金ダイカスト材と比べ製品の抜き勾配を極端に小さくでき、および亜鉛の特質を活かしつつ、同時に比重が軽減された精密合金を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、アルミニウム、シリコン、および亜鉛を含み、全体を基準として、アルミニウムの含有率が40質量%以上45質量%以下であり、およびシリコンの含有率が2質量%以上8質量%以下である、ダイカスト用精密合金が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、アルミニウム40質量%以上45質量%以下、シリコン2質量%以上8質量%以下、および残部が亜鉛と不可避の不純物からなることを特徴とするダイカスト用精密合金が提供される。
また、本発明によれば、アルミニウム40質量%以上45質量%以下、シリコン2質量%以上8質量%以下、銅0.1質量%以上0.2質量%以下、マグネシウム0.01質量%以上0.1質量%以下、および残部が亜鉛と不可避の不純物からなる、ダイカスト用精密合金が提供される。
【0014】
さらに、本発明によれば、本発明のダイカスト用精密合金からなる精密合金ダイカスト部品が提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、アルミニウム、亜鉛、シリコン、銅、およびマグネシウムを含む溶湯を得る工程と、合金の全質量に基づいて、アルミニウム40質量%以上45質量%以下、亜鉛30質量%以上57.89質量%以下、シリコン2質量%以上8質量%以下、銅0.1質量%以上0.2質量%以下、マグネシウム0.01質量%以上0.1質量%以下、および不可避の不純物を含むダイカスト用精密合金を得る工程とを含む、ダイカスト用精密合金の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、亜鉛の特質を活かしつつ、同時に比重が軽減されたダイカスト用精密合金であって、さらに、従来のアルミニウム合金ダイカスト材と比べて製品の抜き勾配を極端に小さくできる、ダイカスト用精密合金が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0018】
【図1】実施例A6にかかる精密合金ダイカスト部品を示した断面図である。Aは正面図、Bは右側面図、Cは正面図上下の口径部の断面、Dは正面図中心の断面、およびEは裏面図であり、図中断面のGおよびF部は裏面図の白抜きの導波管路を流れる電波の伝搬の向きを変える部分である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態におけるダイカスト用精密合金は、アルミニウム、シリコン、および亜鉛を含み、全体を基準として、アルミニウムの含有率が40質量%以上45質量%以下であり、およびシリコンの含有率が2質量%以上8質量%以下である。
さらに、本実施形態におけるダイカスト用精密合金は、銅0.1質量%以上0.2質量%以下およびマグネシウム0.01質量%以上0.1質量%以下を含んでもよい。
【0020】
また、本実施形態において、亜鉛の含有量は、下限値が好ましくは30質量%、より好ましくは35質量%、さらに好ましくは48質量%である。また、亜鉛の含有量は、上限値が好ましくは58質量%、より好ましくは57.89質量%、さらに好ましくは57質量%、さらにより好ましくは50質量%である。
または、亜鉛の含有量は、アルミニウム、シリコン、亜鉛、および不可避の不純物からなる合金の残部としてもよい。または、アルミニウム、シリコン、亜鉛、銅、マグネシウム、および不可避の不純物からなる合金の残部としてもよい。
【0021】
このような範囲内で亜鉛を含むことにより、合金の精密鋳造性が向上する。このような精密鋳造性の効果が得られることにより、二次加工の必要性がなくなり、その結果、コストダウンにもつながる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例において本発明を説明する。
以下の実施例において、実施例A1〜A4およびB1〜B4は本発明にかかるダイカスト用精密合金を説明するものであり、また、実施例A5は本発明にかかるダイカスト用精密合金の製造方法を説明するものである。また、実施例A6〜A9は本発明にかかるダイカスト用精密合金を用いたダイカスト部品を説明するものである。
ここで、「〜」を用いて示される数値範囲は、「以上」および「以下」の意味を表し、その数値も含んだ範囲とする。
【0023】
(実施例A1)
アルミニウム、亜鉛、シリコンを含む合金1を調製した。
【0024】
本発明は、精密鋳造、特に抜き勾配の大幅な軽減を主眼として、固体金属潤滑としての機能を有する亜鉛の特質を活かし、同時に比重の軽減を念頭においたものである。すなわち、本発明のダイカスト用精密合金は、主要な金属としてアルミニウム40〜45質量%および亜鉛30〜57質量%を含み、さらにシリコン2〜8質量%、任意の成分調整金属、および不可避の不純物の構成としている。
【0025】
シリコン(Si)は、鋳造(湯流れ)改善効果を有し、また、Alと亜鉛の金属元素が均一に分散するよう分離抑制の働きを持たせるために役立つ。本発明においては、Alの含有量が従来の亜鉛合金より大きくなっているが、Siを添加し、Alの含有量増による鋳造性悪化を防いでいる。上述の通り、Siは通常のJISの亜鉛合金やJIS以外の亜鉛合金にはまったくといっていいほど添加されていない元素である。しかしながら、本発明は亜鉛合金に関して機械加工と同様の形状精度を達成するという視点に基づき、新たにSiを添加することについて見出したものである。本発明においてSiは、Alと亜鉛との元素間で格子の機能を果たすと同時に凝固収縮を抑制させ、それにより精密鋳造、すなわち抜き勾配の大幅な軽減を可能とすると考えられる。
【0026】
Siの含有量は合金全体の質量に基づいて、Alの重量も考慮して、好ましくは2〜8質量%の間で添加し、さらに好ましくは、4〜7質量%である。
【0027】
また、Siの含有量はAlの質量比に対して約6〜15質量%の範囲が好ましい。Al重量比に対してSi重量比が小さすぎると、合金の流動性が劣り、一方、Al重量比に対してSi重量比が大きすぎると、流動性は問題ないが靱性が悪化し、脆くなる傾向にある。
【0028】
アルミニウム(Al)は合金の強度、硬さを増加させるとともに合金としての軽量化に寄与する。本発明の精密合金において、Alの含有量は合金全体の重量に基づいて、好ましくは40〜45質量%であり、さらに好ましくは、42〜45質量%である。Alの含有量が少なすぎると上記特性が十分に得られず、また、流動性が低くなる傾向にある。一方、Alの含有量が多すぎると精密に鋳抜く(抜き勾配片側1/10以下)ことが困難になる。なお、従来、亜鉛合金においてAlの含有量が多すぎると時効軟化を引き起こすので好ましくなく、12〜30質量%程度が好ましいとされていた(特許文献1)。しかしながら、本発明においては、Siを添加することにより、Alの含有量増による鋳造性悪化を防ぐことができる。従って、Alの含有量は従来の亜鉛合金よりも多くなっている。
【0029】
亜鉛の含有量は、合金全体の重量に基づいて、好ましくは30〜57質量%であり、さらに好ましくは、48〜50質量%である。
【0030】
本発明の精密合金はさらに、不可避の不純物を含み得る。不可避の不純物とは、製造工程時に意図せずに材料に混入する物質をいい、例えば、鉄、鉛、カドミウム、錫等が挙げられる。
【0031】
(実施例A2)
アルミニウム、亜鉛、シリコン、銅、およびマグネシウムを含む合金2を調製した。本実施例の合金成分を表1に示す。
【0032】
本発明の精密合金はさらに、所望により成分調整金属として他の元素を含有していてもよい。成分調整金属としては、例えば、銅、マグネシウムの一種以上を含むことができる。
【0033】
銅(Cu)は機械加工性を向上させる働きがあり、本発明の精密合金に含有させる場合、亜鉛との重量比0〜0.5質量%となるのが望ましい。本発明の精密合金においては、合金全体の重量に基づいて、好ましくは0.1〜0.2質量%であり、さらに好ましくは、0.1〜0.17質量%である。銅の含有量が少なすぎると上記特性が十分に得られず、一方、含有量が多すぎると流動性を低下させるおそれがある。
【0034】
マグネシウム(Mg)は、Alを含有する亜鉛合金に生じやすいとされている粒間腐食を防止する働きがあり、本発明の精密合金に含有させる場合、合金全体の重量に基づいて、好ましくは0.01〜0.1質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.07質量%である。Mgの含有量が少なすぎると上記特性が十分に得られず、一方、含有量が多すぎると溶湯の酸化を促進させ、結果として衝撃強度の低下を招くおそれがある。
【0035】
(実施例A3)
表1に示す配合比でアルミニウム、亜鉛、シリコン、銅、およびマグネシウムを含む合金3を調製した。
【0036】
(実施例A4)
シリコンを3.0質量%含む、アルミニウム、亜鉛、シリコン、銅、およびマグネシウムを含む合金4を調製した。
【0037】
(実施例B1)
本実施例は、アルミニウム、亜鉛、およびシリコンを含むダイカスト用精密合金の例について説明する。
【0038】
本発明は、精密鋳造、特に抜き勾配の大幅な軽減を主眼として、固体金属潤滑としての機能を有する亜鉛の特質を活かし、同時に比重の軽減を念頭においたものである。本実施例のダイカスト用精密合金は、アルミニウム、シリコン、および亜鉛を含み、合金の全質量に基づいてアルミニウム40〜45質量%およびシリコン2〜8質量%を含む。
【0039】
Siの含有量は合金全体の質量に基づいて、Alの重量も考慮して、好ましくは2〜8質量%の間で添加し、さらに好ましくは、4〜7質量%である。
【0040】
また、上述の通り、Siの含有量はAlの質量比に対して約6〜15質量%の範囲が好ましい。
【0041】
本発明の精密合金において、上述の通り、Alの含有量は合金全体の質量に基づいて、好ましくは40〜45質量%であり、さらに好ましくは、42〜45質量%である。
【0042】
亜鉛の含有量は、合金全体の質量に基づいて、好ましくは35〜58質量%であり、さらに好ましくは、48〜50質量%である。または、亜鉛の含有量は、アルミニウムおよびシリコンを上記の範囲で含み、さらに不可避の不純物を含む合金の残部とすることができる。
このような範囲内で亜鉛を含むことにより、合金の精密鋳造性が向上する。このような精密鋳造性の効果が得られることにより、二次加工の必要性がなくなり、その結果、コストダウンにもつながる。
【0043】
本発明の精密合金はさらに、上記に例示したような不可避の不純物を含み得る。
【0044】
ダイカスト用合金として要求される特性としては、(1)機械的強度および機械加工性、(2)放熱特性、(3)耐クリープ特性、(4)耐食性、(5)軽量化、および(6)鋳造性(抜き勾配が小さい等)があり、これらを全て満たす必要がある。特に、上記(2)、(5)、および(6)はAl合金ダイカスト材に代わるものとしては非常に重要であり、これらを同時に満足させるためには、合金成分の質量%を極めて限定しなくてはならない。本発明の精密合金はダイカスト用合金に要求される特性をバランスよく備える。
【0045】
(実施例B2)
本実施例において、アルミニウム、シリコン、銅、マグネシウム、および亜鉛を含むダイカスト用精密合金の例について説明する。
【0046】
本実施例における亜鉛の含有量は、合金全体の質量に基づいて、好ましくは35〜57.89質量%であり、さらに好ましくは、48〜50質量%である。または、亜鉛の含有量は、アルミニウム、シリコン、銅、マグネシウム、および不可避の不純物を含む合金の残部とすることができる。
上述の通り、このような範囲内で亜鉛を含むことにより、合金の精密鋳造性が向上し、その結果、二次加工の必要性がなくなり、コストダウンにもつながる。
【0047】
本実施例の精密合金は、実施例B1の合金成分に加えてさらに、銅およびマグネシウムを含む。
【0048】
上述の通り、銅(Cu)の含有量は、本発明の精密合金に含有させる場合、亜鉛との重量比0〜0.5質量%となるのが望ましい。本発明の精密合金においては、合金全体の重量に基づいて、好ましくは0.1〜0.2質量%であり、さらに好ましくは、0.1〜0.17質量%である。
【0049】
上述の通り、マグネシウム(Mg)の含有量は、本発明の精密合金に含有させる場合、合金全体の質量に基づいて、好ましくは0.01〜0.1質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.07質量%である。
【0050】
また、本発明の精密合金において、上記の範囲内でCuおよびMgをさらに含んだ場合、ダイカスト用精密合金として必要な特性のバランスのさらなる改善を図ることができる。特に、CuおよびMgを添加した場合、上記の(1)機械的強度および機械加工性、(3)耐クリープ特性、および(4)耐食性をさらに改善することができる。特に、ADC3のような既存のAl合金と比較して、同等またはそれ以上の耐クリープ特性を達成しつつ、その他の機械的強度が向上され、機械的特性のバランスに優れたダイカスト用精密合金を得ることができる。
【0051】
【表1】

【0052】
(実施例B3)
表2に示す配合比でアルミニウム、銅、マグネシウムおよびシリコンを含み、および残部が亜鉛と不可避の不純物からなる合金5を調製した。
【0053】
【表2】

【0054】
合金5の機械的強度および鋳造性能について測定した。結果を表3に示す。
ここで、引張強度測定はJIS Z2242に準拠、および高温クリープ測定はJIS
Z2271に準拠して行った。硬度測定は、JIS B7725のビッカース硬さ試験に準拠して行った。
【0055】
低温脆性破壊は以下の試験手順で測定した。
断熱ボックス(大きさ400mm×200mm×150mm)1個とドライアイス(100mm×100mm×100mm)2個を用意した。合金3の試験片(6mm×6mm×80mm)をドライアイスでサンドイッチして、他のドライアイスと共に断熱ボックス中に約1時間放置した。このとき、セッティング治具(ピンセット)も同じ断熱ボックス内に放置して冷却した。次いで、断熱ボックス内で試験片とドライアイスとを分離し、ピンセットで試験片を取り出した。試験片をJIS B7779規定のシャルピー衝撃試験機の所定の位置に装着した。断熱ボックスから試験片を取り出して試験装置に装着するまでにかかった時間は約3秒であった。装着後、試験片が破壊するまで衝撃を与えた。装着から破壊が生じるまでの時間は約5秒であった。
【0056】
(比較例1)
市販のADC3を用意した。実施例B3と同様の試験手順を用いて機械的強度および鋳造性能について測定した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、合金5は既存の合金(ADC3)と比較すると、引張強度および低温脆性破壊および硬度において良好な結果を示している。また、合金5の高温クリープはADC3と同等レベルを達成しており、合金5は全体として機械的強度のバランスに優れた良好な特性を示した。また、合金5の比重は、亜鉛ベースの合金でありながら、従来の亜鉛合金ダイカスト材と比較して、かなり低くなっており、軽量化が達成されている。さらに、抜きテーパは、ADC3と比較して合金5は極端に小さくなっており、合金5の鋳造性が向上されていることがわかる。
【0059】
(実施例B4)
主な成分として、アルミニウム、亜鉛を含み、さらにシリコン、銅、およびマグネシウムを含んだ合金を調製した(シリコン含有量、3.0質量%)。この合金についても合金3と同等の機械的強度および鋳造性が得られると考えられる。
【0060】
これらの実施例で得られる合金の特徴としては、亜鉛ベースの合金でありながらその比重が3.8g/cm3と従来の亜鉛合金ダイカスト材に比べ約54%とおよそ半分の比重となっていることである。工業用途に使用される一般的な金属比較でいうとマグネシウム(1.74)、アルミニウム(2.70)についで三番目に軽い金属となる。このような成分比により、鋳造時に必要であった製品に付ける抜き勾配(通常、片側2〜3°の傾斜)を1/5〜1/10にすることができる。さらに、金型と金属の接触長が20mm以下であれば勾配ゼロも可能となる。従って、二次加工が省略でき、また、勾配により内部の仕切り壁の先端が細くなる等の制約が生じず、設計上の制約が大幅に改善される。
【0061】
(実施例A5)
本実施例において、本発明のダイカスト用精密合金の製造方法について説明する。
本発明のダイカスト用精密合金は、アルミニウム、亜鉛、シリコン、および任意で銅、およびマグネシウムを含む溶湯を得ることにより調製することができる。例えば、黒鉛坩堝中に、アルミニウム−シリコンの二元合金、いわゆる母合金の形でその他の金属とともに溶解させて調製でき、またはベースとしての電気亜鉛と所要量のAl、Cu、およびMgを母材(または、母合金)の形で溶解させた溶湯を得てSiを該溶湯に直接添加して溶解させて、調製することもできる。
【0062】
本実施例の方法に従って、黒鉛坩堝中、亜鉛を含むアルミニウム−シリコン二元合金のいわゆる母合金の形で溶解させることにより、合金を調製することができた。
【0063】
(実施例A6)
図1に、実施例A1の合金1を用いて製作した高周波回路を持つダイカスト機構部品を示す。これは高周波回路部品の一例であり、従来はアルミダイカスト工法により製作するのが一般的であった。図中のGおよびF部は、図1(E)の白抜き部分で示される導波管路を流れる電波の伝搬の向きを変える部位である。従来は、鋳物によりある程度の形状を形成した後、側面の抜き勾配を切削加工や放電加工する等により除去して寸法精度を確保していた。つまり、従来のダイカスト用合金では鋳物化しても、二次加工手順が省略されるということにはならなかった。
【0064】
ここで、図1(E)の白抜きの部分は最も重要な導波管路であり、左側に電波の出入りとなる口径部(上部と下部の左右に2ヶ所)がある。従来のアルミ合金材を使用したダイカスト工法だと、抜き勾配が必要なため、ほとんど全ての穴あけ部、角穴部、溝部、および導波管路部に二次加工が必要であった。しかし、本実施例では唯一、ねじ加工(下穴は鋳抜き)とプリント基板の接触面の面加工をするだけでよかった。これにより、従来比−40%のコストダウンが達成された。
【0065】
(実施例A7〜A9)
実施例A2〜A4で製造した合金2〜4を用いて、実施例A6と同様の方法により高周波回路を持つダイカスト機構部品を製作した。実施例A6と同様に、二次加工の必要性がほとんどないダイカスト部品を製造できた。
【0066】
以上、実施例を用いて本発明について説明した。本発明の第1の効果は、従来のアルミニウム合金ダイカスト材と比べ製品の抜き勾配を極端に小さくできということである。その結果、二次加工(機械加工)要素を極端に減らすことが可能となる。穴あけ加工、角穴加工、溝加工、およびポケッティング加工のほとんどの部位をストレートに近い(場所によっては勾配ゼロ)形で鋳抜くことができるため、非常に簡単で安価に部品製作が可能となる。
【0067】
本発明の第2の効果は、勾配を付けた機械加工部品で事前に電気評価をしなくても、いわゆる部品の精度(大きさや形状)そのままに電気的評価の事前検証が可能であり、製品化が素早くできるということである。特に、超高周波の導波管路を形成する機構部品に対しては開発のリードタイムを大幅に短縮できる。
【0068】
本発明の第3の効果は、既存の金型で勾配付の製品用として製作された金型を追加加工することで精密鋳造用の金型に改造できる点である。これにより、既存製品のコストダウンがさらに可能となる。
【0069】
本発明の第4の効果は、従来のアルミ合金ダイカスト材(例:ADC3)より鋳造性に優れているという点である。本発明の精密合金は、比重は約1.4倍だが製品の平均肉厚を70%にすることができるため、製品質量には影響を与えない。従って、製品質量としてはアルミニウム合金と同等にすることができる。
【0070】
このように、本発明の精密合金を使用することで、従来の切削加工部品と同等の製品をダイカスト工法にて提供できるという大きな効果を生じる。
本発明のダイカスト用精密合金を用いることで機械加工精度に匹敵する精密な鋳造が可能となり、切削加工部品と同等の形状を鋳物単体で実現することにより、大幅なコストダウンと開発評価の短縮を提供できる。
【0071】
以上、実施例を用いて説明したが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0072】
G、F 導波管路を流れる電波の伝搬の向きを変える部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、シリコン、および亜鉛を含み、
全体を基準として、前記アルミニウムの含有率が40質量%以上45質量%以下であり、前記シリコンの含有率が2質量%以上8質量%以下である、ダイカスト用精密合金。
【請求項2】
前記亜鉛の含有率が30質量%以上58質量%以下である、請求項1に記載のダイカスト用精密合金。
【請求項3】
前記亜鉛の含有率が30質量%以上57質量%以下である、請求項1に記載のダイカスト用精密合金。
【請求項4】
前記亜鉛の含有率が35質量%以上58質量%以下である、請求項1に記載のダイカスト用精密合金。
【請求項5】
さらに、銅0.1質量%以上0.2質量%以下、マグネシウム0.01質量%以上0.1質量%以下、および不可避の不純物を含む、請求項1乃至4のいずれかに記載のダイカスト用精密合金。
【請求項6】
前記亜鉛の含有率が35質量%以上57.89質量%以下である、請求項5に記載のダイカスト用精密合金。
【請求項7】
アルミニウム40質量%以上45質量%以下、シリコン2質量%以上8質量%以下、および残部が亜鉛と不可避の不純物からなる、ダイカスト用精密合金。
【請求項8】
アルミニウム40質量%以上45質量%以下、シリコン2質量%以上8質量%以下、銅0.1質量%以上0.2質量%以下、マグネシウム0.01質量%以上0.1質量%以下、および残部が亜鉛と不可避の不純物からなる、ダイカスト用精密合金。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のダイカスト用精密合金からなる精密合金ダイカスト部品。
【請求項10】
アルミニウム、亜鉛、シリコン、銅、およびマグネシウムを含む溶湯を得る工程と、
合金の全質量に基づいて、アルミニウム40質量%以上45質量%以下、亜鉛30質量%以上57.89質量%以下、シリコン2質量%以上8質量%以下、銅0.1質量%以上0.2質量%以下、マグネシウム0.01質量%以上0.1質量%以下、および不可避の不純物を含むダイカスト用精密合金を得る工程と
を含む、ダイカスト用精密合金の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−75332(P2013−75332A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−277715(P2012−277715)
【出願日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【分割の表示】特願2008−536278(P2008−536278)の分割
【原出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)