説明

通信装置

【課題】無線通信システムにおける通信装置を提供すること。
【解決手段】サブキャリア信号を検査することにより得られた減衰情報に基づき、関連する伝送チャンネルにおける減衰が小さい場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を大きくし、関連する伝送チャンネルにおける減衰が大きい場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムにおける通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直交周波数分割多重(orthogonal frequency division multiplexing:以下、OFDMという。)方式の無線通信システムにおいて、例えば基地局等の通信装置は、OFDM信号を用い、無線通信リンクを介して、例えば移動端末装置等の他の通信装置と通信を行う。OFDM方式は、マルチキャリア変調方式の一種であり、伝送すべき情報は、異なる周波数の複数の直交するサブキャリア信号にマッピング(例えば位相偏移変調(phase shift keying))され、これらのサブキャリア信号が合成されてOFDM信号が形成される。各サブキャリアの周波数は、伝送チャンネルを定義し、情報は、この伝送チャンネル内の通信リンクを介して伝送される。OFDM方式に関しては、例えば、1996年、ビー・ジー・シュトゥットゥガルト、S.174〜176記載のケー・デービッド、ティー・ベンクナー著「デジタル移動通信システム」(K. David, T. Benkner:“Digitale Mobilfunksysteme”, B.G. Teubner Stuttgart, 1996, S. 174−176)に開示されている。
【0003】
通信リンクにおける、例えば高速フェージング(fast fading)又は遅延拡散(delay spread)によって、伝送されるOFDM信号には望ましくないレベルの変動や歪みが生じる。ダイバーシチ法により、フェージングの望ましくない影響を軽減することができる。ある僅かな距離だけ離間して設けられた複数のアンテナ素子を用いて、これらのアンテナ素子が受信した信号を適切に合成することにより、通信リンクにおける1以上の伝送パスにおいてフェージングが発生しても、他の通信機器から送信されてきたベースバンド情報を高い信頼度で再生することができる。これを受信機ダイバーシチ(receiver diversity)と呼ぶ。また、複数のアンテナ素子から同一の信号を時間的に遅延させて送信することにより、ビーム形のアンテナパターンを形成し、受信側の受信信号パワーを増加させる方法もある。これを送信機ダイバーシチ(transmitter diversity)という。受信機ダイバーシチ及び送信機ダイバーシチに関する詳細は、例えば欧州特許公開公報EP0881782A2号に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アレーアンテナ又はこの他のダイバーシチアンテナによりOFDM信号を受信する場合、ダイバーシチアンテナのうちの1つの(又は複数の)アンテナ素子において、OFDM信号全体に亘る深刻な振幅フェージングが発生する場合がある。ここで、通常、OFDM信号内の全てのサブキャリアに対する振幅フェージングの程度が同じではないことが知られている。例えば、特定の1つのサブキャリアのみに振幅フェージングが発生し、その他のサブキャリア信号及びOFDM信号全体に深刻な振幅フェージングは発生しないといった現象が観察される。
【0005】
この現象を図4に示す。図4は、周波数選択性高速フェージングの具体例を示す図である。図4において、水平軸は、サブキャリア番号nを示し、垂直軸は、整列されたプリアンブルOFDM信号(aligned preamble OFDM subcarriers)の振幅Aを示している。なお、この具体例では、8つのアンテナ素子が円形に配置されている。なお、中央の窪みは、フェージングの影響ではなく、このシミュレーションの基礎となるブランハイパーラン2法(Bran Hiperlan2 approach)においては、中央のサブキャリアは使用しないために生じたものである。ベースバンド信号にDC成分を含めないことにより、復調処理を容易にすることができる。しかしながら、図4は、周波数選択性フェージングは、アプリケーション環境に応じて現れることを示している。
【0006】
本発明の目的は、上述の現象を利用して、送信側におけるエネルギ消費量を低減する通信装置を提供することである。さらに、本発明の目的は、受信側のアンテナにおいて信号エネルギを最適化できる通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、無線通信システムにおいてOFDM信号を送信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて複数の伝送チャンネルを伝播する前記OFDM信号を送信する複数のアンテナ素子を含むアンテナ手段と、前記複数の伝送チャンネルを介して送信されたOFDMのサブキャリア信号の各々の特性に関するチャンネル情報を取得する手段と、前記チャンネル情報に基づいて前記OFDMのサブキャリア信号の振幅および/または位相を制御する手段と、を備える通信装置が提供される。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいてOFDM信号を送信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて受信装置へ複数の伝送チャンネルを介して前記OFDM信号を送信する複数のアンテナ素子を含むアンテナ手段と、OFDMのサブキャリア信号の各々に適用される複素重み係数を生成する手段と、前記複素重み係数に基づいて前記OFDMのサブキャリア信号の振幅および/または位相を制御する手段と、を備える通信装置が提供される。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいてOFDM信号を送信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて、受信装置へ複数の伝送チャンネルを介し、複数のサブキャリア信号を含む前記OFDM信号を送信する複数のアンテナ素子を含むアンテナ手段と、前記サブキャリア信号の各々に適用される複素重み係数であって、かつ、前記サブキャリア信号の各々の振幅および/または位相を制御するための複素重み係数を生成する手段と、を備え、前記複素重み係数は、前記複数の伝送チャンネルを介して送信されるOFDM信号全体のパワーを最大化するようよう選択される、通信装置が提供される。
【0010】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいてOFDM信号を送受信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて複数の伝送チャンネルを介して送信され、複数のサブキャリアを利用して送信される前記OFDM信号を送信する複数のアンテナ素子を含むアンテナ手段と、前記複数の伝送チャンネルを介して送信されるOFDM信号の全体のパワーを最大化するように前記OFDM信号の複数のサブキャリアの各々の振幅および/または位相を制御する手段と、を備え、前記OFDM信号の全体のパワーは、重みベクトルと、チャンネルベクトルを含むエルミネート行列とにより表現され、前記重みベクトルは、前記エルミネート行列の最大固有値の固有ベクトルに応じて選択される、通信装置が提供される。
【0011】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいてOFDM信号を送受信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて複数のサブキャリアに関連する複数の伝送チャンネルを介して送信される前記OFDM信号を送信する複数のアンテナ素子を含むアンテナ手段と、前記OFDM信号の複数のサブキャリアの各々の振幅および/または位相を、エルミネート行列の最大固有値の固有ベクトルに応じて選択される重みベクトルを利用して制御する手段と、を備える通信装置が提供される。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいて送信されたOFDM信号を受信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて、複数のアンテナ素子を含み、複数の送信アンテナにより複数のサブキャリアに関連する複数の伝送チャンネルを介して送信された複数のOFDM信号を受信する受信手段と、OFDM信号の全体のパワーが最大化されるように選択された重みベクトルにより重み付けされたOFDM信号の全体のパワーを最大化する手段と、を備える、通信装置が提供される。
【0013】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいて送信されたOFDM信号を受信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて、複数のアンテナ素子を含み、複数の送信アンテナにより複数の伝送チャンネルを介して送信された複数のサブキャリア信号を含む複数のOFDM信号を受信する受信手段と、チャンネル推定処理、および受信された前記複数のOFDM信号のデコード処理を行う手段とを備え、前記受信された複数のOFDM信号は、重みベクトルおよびチャンネルベクトルにより表現される前記受信された複数のOFDM信号の全体のパワーを最大化する重みベクトルにより重み付けされている、通信装置が提供される。
【0014】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいてOFDM信号を送受信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて、複数のアンテナ素子を含み、複数の送信アンテナにより複数のサブキャリアに関連する複数の伝送チャンネルを介して送信された複数のOFDM信号を受信する受信手段と、重みベクトルの各々により重み付けされており、受信された前記複数のOFDM信号の全体のパワーを最大化する手段と、を備え、前記OFDM信号の全体のパワーは、重みベクトルと、チャンネルベクトルを含むエルミネート行列とにより表現され、前記重みベクトルは、前記エルミネート行列の最大固有値の固有ベクトルに応じて選択される、通信装置が提供される。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいてOFDM信号を送信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて、複数のサブキャリア信号からなる前記OFDM信号を複数の伝送チャンネルを介して送信するための複数のアンテナ素子を含むアンテナ手段と、前記複数のサブキャリア信号の各々に適用される複素重み係数を取得する手段と、前記複素重み行列に基づいて前記OFDM信号の前記複数のサブキャリア信号の振幅および/または位相を制御する手段と、を備える通信装置が提供される。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の観点によれば、無線通信システムにおいてOFDM信号を送信する通信装置であって、前記無線通信システムにおいて、複数のOFDMサブキャリアに関連する複数の伝送チャンネルを介して受信装置へ前記OFDM信号を送信するための複数のアンテナ素子を含むアンテナ手段と、前記OFDM信号は前記複数のOFDMサブキャリアを利用して送信されることと、前記OFDM信号に各々適用される複素重み係数を取得する手段と、前記OFDM信号の送信に利用される前記複数のOFDMサブキャリアの各サブキャリアにおける、前記OFDM信号の振幅および/または位相を前記複素重み係数に従って制御する、通信装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用した通信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す通信装置内における周波数領域のチャンネル推定処理を説明する図である。
【図3】(a)〜(c)は、複素重み係数の生成を説明する図である。
【図4】整列されたプリアンブルOFDMサブキャリア信号の振幅をサブキャリア番号の関数として示す図である。
【符号の説明】
【0018】
10 ダイバーシチアンテナ、12 アンテナ素子、14 ダウンコンバータ及びA/D変換器、16 FFT回路、18 復調器、20 送信信号生成回路、22 IFFT回路、24 アップコンバータ及びD/A変換器、26 チャンネル推定器、28 メモリ、30 信号調整器、31 乗算器

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1に示す本発明を適用した通信装置は、例えば、時分割多元接続(time division multiplex access:以下、TDMAという。)及び時分割複信(time division duplex:以下、TDDという。)技術を採用した無線TDMA/TDD通信システムにおける基地局又は移動端末装置であり、これらの通信装置は、直交周波数分割多重(orthogonal frequency division multiplexing:以下、OFDMという。)信号により、通信システム内の他の様々な通信装置と通信を行う。通信装置は、受信OFDM信号を処理し、及び送信OFDM信号を生成するために必要な全ての回路を備える。特に、通信装置は、ダイバーシチアンテナ10を備え、このダイバーシチアンテナ10は、例えば、一般的に設計されたアレーアンテナである。ダイバーシチアンテナ10は、互いに離間して配設された複数のアンテナ素子12から構成される。なお、図1には、2つのアンテナ素子12のみを示している。遠隔に存在する移動端末装置(図示せず)又はその他の通信装置から送信されてきたOFDM信号は、各アンテナ素子12により受信される。一般的には、異なるアンテナ素子12に入力されるOFDM信号間には、位相差が存在する。受信OFDM信号は、本発明に基づいて、個別に処理される。具体的には、受信OFDM信号は、ダウンコンバート及びアナログ/デジタル変換回路14、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transforming:以下、FFTという。)回路16、復調器18、及び例えばデインタリーバ、チャンネルデコーダ及び音声コーデック等の後続する処理回路(図示せず)に順次供給され、これにより遠隔の基地局又は端末装置から送信されてきたベースバンド信号が再生される。信号処理系の途中に合成回路を設けてもよく、合成回路は、従来より知られる合成技術から適切に選択された技術に基づいて、異なる受信OFDM信号を合成する。
【0020】
また、通信装置が遠隔の基地局又は端末装置にOFDM信号を送信する場合、OFDM信号は、送信信号生成回路20により生成される。送信信号生成回路20は、チャンネル符号化、インターリーブ、及び変調等の処理を実行する。送信信号生成回路20により生成された信号は、逆フーリエ変換(Inverse Fast Fourier Transforming:以下、IFFTという。)回路22及びアップコンバート及びデジタル/アナログ変換回路24に順次供給される。そして、OFDM送信信号は、各アンテナ素子12から、それぞれ異なる位相で送信される。送信時の位相差は、信号受信時の異なるアンテナ素子12における受信信号間の位相関係に基づいて決定され、これにより、遠隔の基地局又は端末装置における信号パワーを強め、他の場所における信号パワーを弱めることができる。
【0021】
OFDM信号は、それぞれ異なるサブキャリア周波数を有する複数のサブキャリアを重畳したものである。本発明に基づく通信装置内に設けられたチャンネル推定器26は、受信OFDM信号のそれぞれのアンテナ素子12に対する各サブキャリア信号(又は、それぞれのサブキャリア周波数に関連付けられた各伝送チャンネル)の減衰値を別々に検出する。この減衰値は、遠隔の基地局又は端末装置から本発明に基づく通信装置の各アンテナ素子12にOFDM信号が伝送されている間に各サブキャリア信号に生じた減衰を測定することによって得られる。この減衰は、例えば高速フェージング又は低速フェージング等に起因して発生するものである。チャンネル推定器26は、少なくとも1つのサブキャリア信号のプリアンブル部と、メモリ28に予め記憶されている既知の基準プリアンブルシンボルとを比較して、この減衰値を検出する。特に、チャンネル推定器26は、図2に示すように、サブキャリア信号のプリアンブル部の振幅(magnitude)を、高速フーリエ変換された基準プリアンプルシンボルの振幅と比較して、振幅比を算出する。なお、必要に応じて、チャンネル推定器26は、振幅の比較を行う前に、基準プリアンプルシンボルに対するサブキャリア信号のプリアンブル部の位相調整処理(phase alignment)を実行する。
【0022】
ここで、チャンネル推定器26は、例えば、各アンテナ素子12が受信したOFDM信号の全てのサブキャリア信号のうち、限られた数のサブキャリア信号の振幅比のみを算出する。この場合、チャンネル推定器26は、例えば推定により算出した振幅比を用いて補間又はフィルタリングを行うことにより、これ以外のサブキャリア信号の減衰値を検出する。このようにして、各アンテナ素子12に関する全ての伝送チャンネルの減衰値が検出される。なお、上述の処理に代えて、チャンネル推定器26は、全てのサブキャリア信号に対して振幅比を算出するようにしてもよい。
【0023】
チャンネル推定器26は、上述のようにして検出した減衰値を信号調整器(signal adjustment means)30に供給し、信号調整器30は、各減衰値に対応する振幅調整係数を決定する。振幅調整係数は、各アンテナ素子12に関する各伝送チャンネルに対して、個別に決定される。各振幅調整係数は、乗算器31に供給され、乗算器31は、アンテナ素子12から送信すべきOFDM信号の各サブキャリア信号にこの振幅調整係数を乗算する。このようにして、OFDM送信信号の各サブキャリア信号の振幅は、対応する伝送チャンネルの減衰状態に応じて、個別に調整される。具体的には、減衰値が小さくなる程、対応する振幅調整係数の値が大きく設定され、これにより、各アンテナ素子12における対応するサブキャリア信号の振幅が大きくされる。逆に、推定された減衰値が大きくなる程、対応する振幅調整係数の値が小さく設定される。ここで、特定の伝送チャンネルに関して検出された振幅比と対応する振幅調整係数の値とが線形的な関係になるようにしてもよい。これに代えて、非線形的な関係となるようにしてもよい。例えば、この関係は、振幅比が所定の閾値以下の場合、各アンテナ素子12において、対応するサブキャリア信号を抑圧するような設定としてもよい。この場合、振幅比が所定の閾値を超える場合、対応するサブキャリア信号には、所定の一定の振幅が与えられる。包括的には、本発明の開示に基づいて、当業者は、振幅比(すなわち減衰値)及び振幅調整係数の間の適切な関係を容易に設定することができる。
【0024】
上述の振幅調整は、各アンテナ素子12から送信すべき各サブキャリア信号に対して、必要に応じて個別に実行され、これにより、振幅フェージングにより大幅に劣化すると判定された伝送チャンネルにおける無駄なエネルギの送信を回避することができ、したがって、通信装置自体の消費電力を低減できるとともに、無意味なエネルギの伝送に起因する受信側の通信装置以外の通信装置に対して干渉による障害が発生する可能性を低減することができる。
【0025】
さらに、チャンネル推定器26は、各アンテナ素子12の各伝送チャンネルについて個別に位相差を検出するようにしてもよい。この位相差は、対応する受信サブキャリア信号について、遠隔の基地局又は端末装置から本発明に基づく通信装置の各アンテナ素子12への伝送時に生じた位相シフトを表している。この場合、チャンネル推定器26は、各サブキャリア信号のプリアンブル部と、上述した予め記憶されている基準プリアンブルシンボルとの間の相対位相差を検出してもよい。さらに、チャンネル推定器26は、各サブキャリア信号について個別に相対位相差を検出してもよく、選択されたサブキャリア信号のグループに対してのみ位相差を検出し、続いて残りのサブキャリア信号に対して推定処理を行ってもよい。信号調整器30は、各アンテナ素子12から遠隔の基地局又は端末装置に送信されるサブキャリア信号に生じる相対位相差を補償するために、チャンネル推定器26により検出された位相差に基づき、OFDM伝送信号のサブキャリア信号に適用すべき適切な位相調整係数を決定する。
【0026】
特定のアンテナ素子12に関連付けられた特定のサブキャリア信号用の振幅調整係数及び位相調整係数は、各サブキャリア信号に適用される複素重み係数(complex weight coefficient)により表してもよい。図3(a)〜(c)は、重み係数生成の3つの具体例を示す図である。いずれの具体例においても、重み係数の位相は、対応する受信サブキャリア信号に対してチャンネル推定器26が検出した位相と絶対値が等しく、逆の符号を有する値である。重み係数の振幅は、図3(a)に示すように、チャンネル推定器26により検出されたサブキャリア信号の振幅に等しくてもよく、あるいは図3(b)に示すように、チャンネル推定器26により検出されたサブキャリア信号の振幅に比例する値であってもよい。これに代えて、重み係数の振幅は、例えば閾値又は平方関数(square function)等の非線形関数により求めてもよい。この場合、図3(c)に示すように、非線形関数には、チャンネル推定器26により検出されたサブキャリア信号の振幅を示す値が入力される。
【0027】
上述のように、本発明によれば、送信側の通信装置において、不必要なエネルギの消費を低減することができる。さらに、本発明によれば、数学的表現に基づいて以下に説明するように、受信側のアンテナにおける受信エネルギを最大化することができる。受信側でOFDM信号全体のエネルギを最大とするためには、送信側の各アンテナにおける振幅比及び位相を最適化する必要がある。ここで、第jのサブキャリア(jth subcarrier)について考察する。M個の異なる送信アンテナからOFDM信号が送信されてくる。これらのOFDM信号は、既に値wjkにより重み付けされている。合成された信号は、以下のように表現できる。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、「*」は共役を表し、ajkは、第kのアンテナから送信されてきたOFDM信号の第jのサブキャリア信号の複素チャンネル表現(complex channelexpression)である。ベクトル表現では、合成されたOFDM信号は、以下のように表される。
【数2】

【0030】
ここで、aj=[aj0,aj1,・・・ajM]はチャンネルベクトルであり、wj=[wj1,wj2,・・・wjM]は第jのサブキャリア用の重みベクトルである。また、「’」は、エルミート共役行列(転置複素共役行列)を表す。
【0031】
合成信号のパワーは以下のように表される。
【0032】
【数3】

【0033】
行列Aは、以下のように定義されるエルミート行列である。
【0034】
【数4】

【0035】
合成されたOFDM信号の第jのサブキャリアを最大化するためには、重みベクトルwjは、行列Ajの最大固有値(maximum Eigenvalue)の固有ベクトル(Eigenvector)に比例するように選択するとよい。
【0036】
一方、エルミート行列Hは、以下のように表すことができる。
【0037】
【数5】

【0038】
ここで、λは固有値を表し、vは固有ベクトルを表す。行列Ajとエルミート行列Hとを比較すると、行列Ajは、0ではない固有値、通常最大の固有値を1つのみ含み、その固有ベクトルは、ajである。行列Ajの固有値は、aja’jの内積であり、固有ベクトルは、通常aj/(aja’j)1/2として正規化される。
【0039】
ここで、合成されたOFDM信号の第jのサブキャリアを最大化するためには、重みベクトルwjはベクトルajに比例している必要がある。
【0040】
他のサブキャリアに対しては、各チャンネル(アンテナ)の複素チャンネル表現の組であるチャンネルベクトルは、重みベクトルとする。各アンテナ及びサブキャリアの複素チャンネル表現は、チャンネル推定法において既知である。ここでは、アンテナ及びサブキャリア間の比が重要であるため、ベクトルを正規化する必要はない。
【0041】
続いて、以上説明した本実施形態の概念を以下にまとめる。
【0042】
本実施形態に係る通信装置は、無線通信システムの各伝送チャンネルに割り当てられた複数のサブキャリアからなる直交周波数分割多重信号を受信及び送信する。より詳細には、当該通信装置は、複数のアンテナ素子を有するダイバーシチアンテナ手段と、各アンテナ素子が受信した受信直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号を検査し、サブキャリア信号の検査から各アンテナ素子に関する少なくとも一部の減衰特性に関する減衰情報を得る検査手段と、減衰情報に基づき、各アンテナ素子から送信される直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号の振幅を調整する振幅調整手段であって、関連する伝送チャンネルにおける減衰が小さいことを減衰情報が示している場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を大きくし、関連する伝送チャンネルにおける減衰が大きいことを減衰情報が示している場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を小さくする振幅調整手段とを備える。
【0043】
本実施形態は、振幅フェージングがサブキャリア毎に異なることに着目し、特定のアンテナ素子におけるOFDM伝送信号のうち、振幅フェージングの影響を受けると考えられるサブキャリア信号の振幅を低下させる。ある伝送チャンネルが全てのアンテナ素子において同時に深刻に劣化する可能性は極めて低く、1つのアンテナ素子から送信される特定のサブキャリア信号の振幅を低下させても、他のアンテナ素子から同じサブキャリア信号が通常又は十分な大きさの振幅で送信されるので、このように1つのアンテナ素子において特定のサブキャリアの振幅を低下させても、受信側における情報再生の信頼性に与える影響は、全くないか、あるいは無視できるほどに小さいものである。このように、フェージングの影響により、通常のパワーで送信しても受信側の通信装置において十分な振幅レベルに達しないサブキャリア信号の送信パワーを予め低減することにより、無駄なエネルギの消費を回避することができ、さらにこのような無駄なエネルギの送信による他の通信装置との干渉の発生の可能性を低下させることができる。送信OFDM信号のどのサブキャリア信号が振幅フェージングの影響を受け、したがって、どのサブキャリア信号の振幅を低減するかに関する評価は、送信OFDM信号の送信先となる通信装置から送信されてきたOFDM信号を検査することにより実行できる。この信号の検査は、各アンテナ素子毎に個別に実行される。
【0044】
また、本実施形態に係る通信装置において、振幅調整手段は、各アンテナ素子から伝送される直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号に関連する伝送チャンネルにおける減衰が所定の閾値を超えていることを減衰情報が示している場合、サブキャリア信号を抑圧してもよい。
【0045】
さらに、本実施形態に係る通信装置は、所定の基準信号を表すデータを格納する記憶手段を備え、検査手段は、受信直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の所定の部分と基準信号とを比較し、この比較により減衰情報を得てもよい。特に、基準信号は、基準プリアンプルシンボルを有し、検査手段は、受信直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の所定のプリアンブル部分と基準プリアンブルシンボルとを比較してもよい。
【0046】
さらに、検査手段は、サブキャリア信号を検査して、各アンテナ素子に関連する少なくとも一部の伝送チャンネルの位相シフト特性に関する位相シフト情報を導き出し、通信装置は、位相シフト情報に基づいて、各アンテナ素子について、直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号の位相を調整する位相調整手段を備えていてもよい。
【0047】
また、本実施形態に係る通信方法は、無線通信システムにおいて、無線通信システムの各伝送チャンネルに割り当てられた複数のサブキャリアからなる直交周波数分割多重信号を受信及び送信する複数のアンテナ素子を有するダイバーシチアンテナを備える通信装置により直交周波数分割多重信号を送受信する。より詳細には、当該通信方法は、各アンテナ素子が受信した受信直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号を検査し、サブキャリア信号の検査から各アンテナ素子に関する少なくとも一部の減衰特性に関する減衰情報を得るステップと、減衰情報に基づき、各アンテナ素子から送信される直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号の振幅を調整し、関連する伝送チャンネルにおける減衰が小さいことを上記減衰情報が示している場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を大きくし、関連する伝送チャンネルにおける減衰が大きいことを減衰情報が示している場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を小さくするステップとを有する。
【0048】
さらに、本実施形態に係る通信方法は、各アンテナ素子から伝送される直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号に関連する伝送チャンネルにおける減衰が所定の閾値を超えていることを減衰情報が示している場合、サブキャリア信号を抑圧するステップを有していてもよい。
【0049】
また、通信装置が所定の基準信号を表すデータを格納するメモリを備える場合、検査を行うステップは、受信直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の所定の部分と基準信号とを比較し、この比較により減衰情報を得るステップを有していてもよい。特に、この基準信号は、基準プリアンプルシンボルを有し、検査を行うステップは、受信直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の所定のプリアンブル部分と基準プリアンブルシンボルとを比較するステップを有していてもよい。
【0050】
さらに、本実施形態に係る通信方法は、サブキャリア信号を検査して、各アンテナ素子に関連する少なくとも一部の伝送チャンネルの位相シフト特性に関する位相シフト情報を導き出すステップと、位相シフト情報に基づいて、各アンテナ素子について、直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号の位相を調整するステップとを有していてもよい。
【0051】
さらに、通信装置のプロセッサにより実行されて上述の通信方法を実行するコンピュータプログラムも提供される。
【0052】
以上のように、本発明に係る通信装置は、各アンテナ素子が受信した受信直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号を検査し、サブキャリア信号の検査から各アンテナ素子に関する少なくとも一部の減衰特性に関する減衰情報を得る検査手段と、関連する伝送チャンネルにおける減衰が小さいことを減衰情報が示している場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を大きく、関連する伝送チャンネルにおける減衰が大きいことを減衰情報が示している、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を小さくする振幅調整手段とを備える。これにより、送信側において、無駄なエネルギの消費を回避することができ、さらにこのような無駄なエネルギの送信による他の通信装置との干渉の発生の可能性を低下させることができる。
【0053】
また、本発明に係る通信方法は、各アンテナ素子が受信した受信直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号を検査し、サブキャリア信号の検査から該各アンテナ素子に関する少なくとも一部の減衰特性に関する減衰情報を得て、この減衰情報に基づき、各アンテナ素子から送信される直交周波数分割多重信号の少なくとも1つのサブキャリア信号の振幅を調整し、関連する伝送チャンネルにおける減衰が小さい場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を大きくし、関連する伝送チャンネルにおける減衰が大きい場合、直交周波数分割多重信号のサブキャリア信号の振幅を小さくする。これにより、送信側において、無駄なエネルギの消費を回避することができ、さらにこのような無駄なエネルギの送信による他の通信装置との干渉の発生の可能性を低下させることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信システムにおいてOFDM信号を送信する通信装置であって:
前記無線通信システムにおいて、複数の伝送チャンネルを介し、前記OFDM信号を送信する複数のアンテナ素子を含むアンテナ手段と;
送信されるOFDMサブキャリア信号の各々に適用される複素重み係数を生成する手段と;および
前記OFDMサブキャリア信号が前記複数の伝送チャンネルを介して送信されるように、前記複素重み係数に基づいて、前記OFDMサブキャリア信号の各々の振幅および/または位相を制御する手段とを備え、
前記複素重み係数は、送信されたOFDMサブキャリア信号が結合された全体信号のパフォーマンスを向上させるように選択される、通信装置。
【請求項2】
無線通信システムにおいてOFDM信号を送信する通信方法であって,
前記無線通信システムにおいて、複数の伝送チャンネルを介して前記OFDM信号を送信する段階と;
送信されるOFDMサブキャリア信号に各々適用される複素重み係数を生成する段階と;
前記OFDMサブキャリア信号が前記複数の伝送チャンネルを介して送信されるように、前記複素重み係数に基づいて、前記OFDMサブキャリア信号の各々の振幅および/または位相を制御する段階とを備え、
前記複素重み係数は、送信されたOFDMサブキャリア信号が結合された全体信号のパフォーマンスを向上させるように選択される、通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−253796(P2012−253796A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172744(P2012−172744)
【出願日】平成24年8月3日(2012.8.3)
【分割の表示】特願2008−184515(P2008−184515)の分割
【原出願日】平成13年8月24日(2001.8.24)
【出願人】(598094506)ソニー インターナショナル (ヨーロッパ) ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (29)
【Fターム(参考)】