説明

通電加熱装置及びそれを有する熱間プレス成形装置並びに通電加熱方法

【課題】通電加熱によるワークの歪みを可及的に防止することができると共に、通電加熱の下流工程へ通電加熱済のワークを安定供給することができる通電加熱装置及びそれを有する熱間プレス成形装置並びに通電加熱方法を提供すること。
【解決手段】熱間プレス成形されるワークWをクランプ機構(30,31等)によってクランプしてテンションを印加しながら通電加熱する通電加熱装置3であって、クランプ機構(30,31等)は、固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31と、固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31の昇降用シリンダ32と、可動クランプ部材31をワークWの面方向に沿って駆動するテンション用シリンダ33a,33bと、を備え、通電加熱時、固定クランプ部材30は、ワークWの一側を固定位置でクランプして保持し、可動クランプ部材31は、ワークWの熱変形と共にワークWの他側を保持しながら移動することにより、ワークWにはワークWの熱変形に応じたテンションが印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電加熱装置及びそれを有する熱間プレス成形装置並びに通電加熱方法に関し、特に、熱間プレス成形装置に組み込まれる通電加熱装置及び熱間プレス成形装置で実行される通電加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度が要求される車両部品を量産する工法の一つとして、熱間プレス成形工法ないしダイクエンチ工法が採用されている。ダイクエンチ工法は、鋼板を約900℃まで加熱した後、プレス成形と同時に急冷して、成形品を焼入れする工法である。また、上記鋼板の加熱には、従来、プレス成形装置とは別に設置された連続加熱炉が一般的に用いられている。
【0003】
一方、特許文献1には、鋼板の加熱に通電加熱機構を用いた熱間プレス成形方法が開示されている。詳細には、特許文献1には、「金型内部又は金型外の型近傍において、金属板の両端部に各々一箇所以上の電極を取り付け、電極間に電流を印加することにより、ジュール熱により金属板を所定の加工温度まで加熱した後、熱間プレス成形を行う」金属板の熱間プレス成形方法が開示されている。
【0004】
特許文献1の通電加熱機構は、ワークの長手方向に沿って移動する一対の左右クランプ電極を有し、一対の左右クランプ電極は、通電加熱時、ワークの長手方向両端をそれぞれクランプすることにより、ワークに対して、ワークの長手方向に沿って左右両方向に向かって引張力を印加している。一対の左右クランプ電極はいずれも、通電加熱時、停止しており、一対の左右クランプによるクランプ間隔は固定である。
【0005】
【特許文献1】特開2002−18531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の通電加熱機構によれば、通電加熱時、ワークに引張力が印加されているにもかかわらず、ワークが大きく歪んで、特に、ワーク中央部が垂下するという問題がある。
【0007】
その理由は、通電加熱時、ワークは昇温に伴って伸張するにもかかわらず、一対の左右クランプによるクランプ間隔が固定であるからである。すなわち、通電加熱時、ワークの両端が固定位置で拘束されているため、結局、昇温により熱変形し易くなったワークの中央部が自重により垂下してしまうことになる。
【0008】
このため、特許文献1の通電加熱機構によれば、通電加熱の下流工程にワークを安定供給することが困難である。その理由は、通電加熱によるワークの歪みが大きいため、ワークの位置決めが困難となり、又大きく歪んだ部分が、搬送機構の保持具や熱間プレス機構の型と干渉するおそれがあるからである。
【0009】
本発明は、通電加熱によるワークの歪みを可及的に防止することができると共に、通電加熱の下流工程へ通電加熱済のワークを安定供給することができる通電加熱装置及びそれを有する熱間プレス成形装置並びに通電加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の視点において、熱間プレス成形されるワークをクランプ機構によってクランプしてテンションを印加しながら、通電加熱する通電加熱装置であって、前記クランプ機構は、前記ワークの一側をクランプして該ワークの一側を保持自在であると共に所定方向に沿って位置固定ないし位置固定自在な固定クランプ部材と、前記ワークの他側をクランプして該ワークの他側を保持自在であると共に前記所定方向に沿って移動自在な可動クランプ部材と、を有し、通電加熱時、前記固定クランプ部材は固定位置で前記ワークの一側を保持し、前記可動クランプ部材は前記ワークの前記所定方向に沿った熱変形と共に前記ワークの他側を保持しながら該所定方向に沿って移動することにより、該ワークにテンションが印加される、通電加熱装置を提供する。前記所定方向は、前記ワークが熱変形により伸張し易い主方向であり、例えば、ワークの長手方向、ワークの上下面ないしプレス面に沿った方向と同方向となる。
【0011】
本発明は、第2の視点において、熱間プレス成形されるワークをクランプ機構によってクランプしてテンションを印加しながら通電加熱する通電加熱装置であって、前記クランプ機構は、前記ワークをそれぞれ異なるクランプ位置でクランプして前記ワークにテンションを印加する第1及び第2のクランプ部材と、前記第1及び第2のクランプ部材を駆動して前記ワークをクランプさせるクランプ方向駆動機構と、通電加熱時、前記ワークの熱変形に応じて、前記第1及び第2のクランプ部材によるクランプ間隔を可変するクランプ間隔可変機構と、を有する通電加熱装置を提供する。
【0012】
本発明は、第3の視点において、本発明による通電加熱装置と、前記通電加熱装置によって加熱された前記ワークを熱間プレス成形する熱間プレス機構と、を有する熱間プレス成形装置を提供する。
【0013】
本発明は、第4の視点において、熱間プレス成形されるワークをクランプしてテンションを印加しながら通電加熱する通電加熱方法であって、前記ワークの一側と他側をそれぞれクランプして該ワークを保持しながらテンションを印加するクランプ工程と、前記クランプされた前記ワークを通電加熱する通電加熱工程と、前記通電加熱工程において、前記ワークの一側を固定位置でクランプすると共に、該ワークの他側をクランプしている位置を熱変形する該ワークと共に移動させることにより、該ワークにテンションを印加する通電加熱時のテンション印加工程と、を含む通電加熱方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通電加熱中、ワークの熱変形、特に、熱膨張又は伸張に応じて、ワークを保持しているクランプ位置又はクランプ間隔を、熱変形するワークと共に好ましくは熱変形分に応じて移動又は可変する。これによって、通電加熱中、ワークに対して適正なテンションが印加され、昇温によるワークの歪みが抑制され、特に、ワーク中央部が大きく垂下することが抑制され、ワークが可及的にフラットな状態が維持される。この結果、通電加熱済のワークを下流の熱間プレス機構へ搬送する場合、ワークと搬送機構又は熱間プレス機構の構成部品との干渉が防止される。
【0015】
本発明によれば、通電加熱中、固定クランプ部材により、ワークの一側を固定位置でクランプする。これによって、ワークの熱変形或いは可動クランプ部材の移動に起因する、ワーク位置決め位置のずれが防止される。この結果、通電加熱済のワークを下流の熱間プレス機構へ搬送する場合、搬送機構又は熱間プレス機構へのワークの引渡しが容易であり、熱間プレス成形工程においてはワーク位置決めが容易となる。すなわち、通電加熱されたワークの安定供給が達成される。
【0016】
かくして、本発明は、下流工程へ通電加熱済のワークを安定供給することができるため、熱間プレス成形、特に、ダイクエンチのハイサイクル化に貢献するものである。また、クランプが電極兼用クランプである場合、上述したように、本発明によれば、通電加熱時、ワークが可及的にフラットな状態が維持されるため、ワークの均一加熱が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の好ましい実施の形態によれば、前記クランプ機構は、前記固定クランプ部材及び前記可動クランプ部材を、前記ワークの厚み方向に沿って昇降自在に駆動して該ワークをクランプさせる昇降方向駆動機構と、前記可動クランプ部材を、前記所定方向に沿って移動自在に駆動する可動クランプ部材駆動機構と、を有する。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態によれば、前記固定クランプ部材及び前記可動クランプ部材は、前記ワークの厚み方向に沿って対向して該ワークを挟持自在な一対の上下クランプを、それぞれ具備する。この形態によれば、ワークのクランプが安定し、又可動クランプ部材の移動ストロークを確保することが容易となる。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態によれば、前記固定クランプ部材及び前記可動クランプ部材がそれぞれ具備する前記一対の上下クランプのうち、前記所定方向ないし前記ワークの長手方向に沿って互いに離間した該下クランプが、前記ワークに通電をする一対の電極である。この形態によれば、省電力、省機構及びワークの均一加熱が期待される。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態によれば、前記固定クランプ部材及び前記可動クランプ部材はそれぞれ、前記ワークの厚み方向に沿って対向して該ワークを挟持自在な一対の上下クランプを、具備し、前記上クランプの前記ワークを挟持する部分が凸曲面状であり、前記下クランプの前記ワークを挟持する部分が平面状である。この形態によれば、クランプが安定する。また、クランプが電極を兼用する場合には、電極のワークに対する片当りが防止され、ワークの局部過熱が防止される。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態によれば、通電加熱中の前記ワークの中央部下方に配置され、該中央部を支持自在な垂下防止部材を備える。さらに、好ましくは、前記垂下防止部材は、鉛直方向に沿って立設された複数のピンである。このような形態によれば、ワークの通電加熱装置への供給又はその下流への取り出しを妨げずに、通電加熱時においてワーク中央部の垂下を防止又は抑制することができる。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態によれば、前記クランプ機構は、前記ワークを弾性的にクランプするクランプ又は電極兼用クランプを有する。さらに好ましくは、前記クランプ機構は、前記クランプ又は前記電極兼用クランプが取り付けられる支持部材ないし支持柱を有し、前記支持部材は、基部と、前記基部に直接又は間接的に接続されると共に前記クランプ又は前記電極兼用クランプが取り付けられる取付部と、前記基部と前記取付部との間でクランプ方向に沿って弾性力を作用するよう、該基部と前記取付部との間に直接又は間接的に挿入された弾性部と、を含む。この形態によれば、クランプとワークの接触面積が増大すると共に、均一なクランプ荷重がワークに作用することにより、クランプが安定し、又電極とワークの接触面積が増大してワークの局部過熱が防止される。
【0023】
本発明の実施の形態において、通電加熱は、熱間プレス可能な温度にワークを加熱すれば十分である。例えば、ワークが鋼材の場合、A1変態点から液相析出点の間、例えば、850から1200℃の間で通電加熱すればよい。
【0024】
本発明は、通電加熱、及び熱間加工が可能な種々の材質のワークの加熱さらには加熱成形、特にダイクエンチに好適に適用され、例えば、鋼系、アルミニウム系などの種々の金属材の成形に適用される。本発明は、一般鋼板の他に、めっき鋼板(例えば、亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板など)の加熱、さらには熱間成形にも好適に適用される。
【実施例】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例に係る通電加熱装置が組み込まれた熱間プレス成形装置の外観図である。
【0026】
図1を参照すると、この熱間プレス成形装置1においては、装置1内に、ロボット式の投入機構2からワークが一枚ずつ供給される通電加熱装置3と、通電加熱装置3の下流に熱的に離隔して配置されたダイクエンチ式の熱間プレス機構4と、少なくとも、通電加熱装置3から熱間プレス機構4に通電加熱されたワークを搬送すると共に熱間プレス機構4から取出位置へ向かって成形品を搬送するトランスファ機構5と、が組み込まれている。なお、熱間プレス成形装置1には、同装置1の払出位置から成形品ないし完成品を取り出すための搬送コンベヤ7が付設されている。
【0027】
ワーク投入機構2は、ロボット機構であって、複数枚のワークないしブランクが収容されたマガジンから一枚ずつ取り出して、ワークを一枚ずつ通電加熱装置3に供給する。
【0028】
通電加熱装置3は、投入されたワークのクランプ及びクランプ解除を行うと共に、クランプによるテンションが印加されたワークに通電を行い、ワークを加熱する。
【0029】
熱間プレス機構4は、加熱されたワークを熱間プレスし且つ急冷することにより、ワークから成形品を形成する。
【0030】
トランスファ機構5は、熱間プレス成形装置1ないし通電加熱装置3内にワークが投入される投入位置、通電加熱装置3がワークに通電する通電位置、熱間プレス機構4がワークを熱間プレス成形する加工位置、及び、熱間プレス成形装置1から成形品が払い出される払出位置で、ワーク又は成形品を保持又は保持解除すると共に、前記投入位置と前記通電位置、前記通電位置と前記加工位置、及び前記加工位置と前記払出位置の間をそれぞれ往復動する、複数の保持機構ないし保持具を備えている。
【0031】
図2(A)〜図2(C)は、図1に示した通電加熱装置ないし熱間プレス成形装置の機械的な構造を説明するための三面図であり、図2(A)は上面図、図2(B)は正面図、図2(C)は側面図である。図3は、図2(C)の拡大図である。なお、図2(C)は、上クランプ30a,31aが上昇位置にあり、可動クランプ部材31が端部に移動した状態を示している。
【0032】
図2(A)〜図2(C)及び図3を参照すると、熱間プレス成形装置1においては、搬送方向に沿って上流から下流に向かって順に、ワークWが投入される投入位置P0、通電加熱装置3による通電加熱が行われる通電位置P1、熱間プレス機構4による熱間プレス成形ないしダイクエンチが行われる加工位置P2、熱間プレス成形装置1から成形品が払い出される払出位置P3が等ピッチで設定されている。
【0033】
通電加熱装置3は、後述するクランプ機構(30,31,32,33a,33b,34)と、ワークWに接触する電極、電極と電源との間を電気的に接続する配線及び通電スイッチを備える通電機構(図4の通電機構37参照)と、通電加熱中のワークWの中央部下方に配置され、鉛直方向に沿って立設されて、ワークWの中央部を支持自在な垂下防止部材である複数のピン35と、を有している。
【0034】
クランプ機構(30,31,32,33a,33b,34)は、固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31(第1及び第2のクランプ部材)と、固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31の昇降方向駆動機構ないしクランプ方向駆動機構である昇降用シリンダ32と、可動クランプ部材31を前記所定方向に沿って移動させる可動クランプ部材駆動機構ないしワークWの熱変形に応じたクランプ間隔可変機構である上下のテンション用シリンダ33a,33bと、可動クランプ部材31の移動を案内する上下の直動ガイド34,34と、を備えている。
【0035】
固定クランプ部材30は、ワークWの一側をワークW長手方向ないし左右方向に沿って固定位置でクランプして同一側を保持自在であると共に、ワークWの位置決め機能も有する。可動クランプ部材31は、ワークWの他側をクランプして同他側を保持自在であると共に前記所定方向ないし左右方向に沿って移動自在である。通電加熱時、固定クランプ部材30は固定位置でワークの一側を保持し、一方、可動クランプ部材31はワークWの熱変形と共にワークWの他側を保持しながら移動する。このような固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31によって、通電加熱時、ワークWには、ワークW中央部の垂下が可及的に防止されるようテンションが印加され、特に、可動クランプ部材31の移動方向前方へ向かって作用する、テンションが印加される。
【0036】
固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31はそれぞれ、ワークWの厚み方向に沿って対向してワークWを挟持自在な一対の上下クランプ30a,30b,31a,31bを具備している。固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31がそれぞれ具備する一対の上下クランプ30a,30b,31a,31bのうち、ワークWの長手方向に沿って互いに離間した一対の下クランプ30b,31bが、ワークWに通電をする一対の電極である。
【0037】
昇降用シリンダ32は、固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31の上クランプ30a,31aをワークWの厚み方向に沿って昇降自在に駆動してワークWをクランプして保持させる。上下のテンション用シリンダ33a,33bは、可動クランプ部材31を、前記所定方向、すなわち、ワークWの長手方向ないし左右方向に沿って移動自在に駆動する。上下のテンション用シリンダ33a,33bは、通電加熱時、可動クランプ部材31を移動させる際、可動クランプ部材31がワークWに対して滑らないよう、可動クランプ部材31に対して付勢力を及ぼす。なお、固定クランプ部材30は、前記所定方向に沿って、位置固定に設ける、或いは、エアシリンダやモータ等によって、ワークWの形状に応じてその初期位置を可変できるよう設ける。
【0038】
クランプ30a,30b,31a,31bは、それぞれ上下支持柱39a,39bの端部に取り付けられている。上支持柱39a,39aは昇降自在な上フレーム38aに取り付けられ、上フレーム38aは昇降用シリンダ32に接続されている。下支持柱39b,39bは不動の下フレーム38bに取り付けられている。上下フレーム38a,38bには、それぞれ上下の直動ガイド34,34及びテンション用シリンダ33a,33bが配置されている。なお、可動クランプ部材31の上下クランプ31a,31bを一つのシリンダなどで駆動することも可能である。
【0039】
熱間プレス機構4は、通電位置P1でワークWが通電加熱された後、トランスファ機構5によって通電位置P1から搬送されたワークWを加工位置P2で熱間プレス成形して急冷する冷却ダイ41を備えている。
【0040】
トランスファ機構5は、ワークWの搬送方向に沿って延在する一対の平行アーム51と、一対の平行アーム51を、搬送方向、搬送方向に直交する昇降方向、及び搬送及び昇降方向に直交する幅方向に沿って往復動自在に駆動する駆動手段である不図示のシリンダと、一対の平行アーム51に搬送方向に沿って所定間隔毎に複数個取り付けられ、一対の平行アーム51が幅方向に沿って接近する際にワークW又は成形品を保持し、同離隔する際に保持解除する保持機構ないし保持具である不図示の複数のクランプと、を有している。複数のクランプは、投入位置P0、通電位置P1、加工位置P2及び払出位置P3間の間隔に対応して、一対の平行アーム51上に等ピッチで配置されている。なお、駆動手段であるシリンダに代えて、駆動手段としてサーボモータ等を採用することができる。
【0041】
さらに、トランスファ機構5は、通電位置P1と加工位置P2の間に、通電加熱により中央部が垂下する状態に熱変形したワークWを支持ないし案内する支持棒54を有している。支持棒54は、通電位置P1側に比べて加工位置P2側が高くなるよう、搬送方向下流側に向かって高く傾斜している。支持棒54の傾斜角度は、ワークWの材質、加熱温度及びトランスファ機構5の昇降方向ストローク幅に応じて設定される。
【0042】
図4は、図3に示した通電加熱装置3の制御構成を説明するためのブロック図である。図4を参照すると、通電加熱装置3は、固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31(第1及び第2のクランプ部材)と、昇降用シリンダ32と、上下のテンション用シリンダ33a,33bと、ワークWに通電される電流量を検出する電流センサ36aと、ワークの温度を検出する温度センサ36bと、固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31の昇降方向位置を検出する昇降用位置センサ36cと、可動クランプ部材31の移動方向位置を検出する可動クランプ部材用位置センサ36dと、ワークWへの通電を制御する通電機構37と、センサ36a〜36dが検出した情報に基づいて昇降用シリンダ32、上下のテンション用シリンダ33a,33b及び通電スイッチ37aを制御する手段である制御盤(マイクロコンピュータ)36eと、を具備している。通電機構37は、電極兼用である一対の下クランプ30b,31bと、直流又は交流電源Pと、直流又は交流電源Pと下クランプ30b,31b間に接続されワークWへの通電をオンオフする前記通電スイッチ37aと、前記電流センサ36a及び前記温度センサ36b、を含んで構成されている。
【0043】
次に、通電加熱装置3の動作について説明する。図5(A)〜図5(F)は、図3及び図4に示した本発明の一実施例に係る通電加熱装置の動作を説明する工程図である。なお、図5(A)〜図5(F)では上下支持柱の図示を省略しており、図5(E)では上下フレームの図示を省略している。また、図5(F)は図5(E)の上面図である。図6は、比較例に係る、クランプ間隔Lが固定な通電加熱装置の問題点を説明するための工程図である。
【0044】
[クランプ工程]
図5(A)〜図5(B)を参照すると、ワークWは、トランスファ機構5が備える一対の平行アーム51の保持具53によって保持されて、シリンダ52aによって、図2(A)に示した通電加熱装置3の通電位置P1に搬送され、一対の下クランプ30b,31b上に載置される。続いて、一対の平行アーム51はシリンダ52cによって互いに離間された後、シリンダ52bによって上昇され、かくしてワークWは通電加熱装置3側に受け渡される。
【0045】
図5(C)〜図5(D)を参照すると、上昇位置にある固定クランプ部材30及び可動クランプ部材31の上クランプ30a,31aは、昇降用シリンダ32によって下降させられ、これによって、固定クランプ部材30側では、一対の上下クランプ30a,30bによってワークWの一側が固定位置でクランプされて保持されることにより、ワークWの位置決めがなされ、一方、可動クランプ部材31側では、一対の上下クランプ31a,31bによって、ワークの他側がクランプされて保持される。なお、最初のクランプ間隔は“L”に設定されている。
【0046】
なお、固定クランプ部材30の一対の上下クランプ30a,30bの初期位置を設定ないし保持する別のシリンダを一対の上下支持柱39a,39bにそれぞれ接続してもよい。なお、これらのシリンダに代えて、位置決め可能なサーボモータ等を採用することができる。
【0047】
[通電加熱工程]
ワークWの長手方向に離間する下クランプ30b,31bは電極を兼用しており、一対の下クランプ30b,31bこれらを介してワークWに通電が開始される。なお、上クランプ30a,31aがワークWをクランプする部分は凸曲面状に形成され、下クランプ30b,31bがワークWをクランプする部分は平面状に形成されていることにより、クランプ能が向上され、又均一加熱が期待される。
【0048】
また、上下クランプ30a,30b,31a,31bには、ワークWの幅方向ないしワークの搬送方向に沿って十分な長さを有するバー状クランプないしバー状電極が用いられていることにより、クランプ能が向上され、又均一加熱が期待される。ワークWの幅に対して、クランプ30a,30b,31a,31bの幅は、ワークWの幅と同じか、或いはワークWの幅よりも多少長く設定されており、ワークWの幅を長く設定する場合には、例えば、数%から20%程度長く設定することが好ましい。
【0049】
[通電加熱工程におけるテンション印加工程]
図5(E)及び図5(F)を参照すると、通電時間の経過、通電電流の積算又はワークWの昇温に従って、通電加熱中、上下のテンション用シリンダ33a,33bによって、可動クランプ部材31の一対の上下クランプ31a,31bは、ワークWの他側を保持しながら、熱膨張するワークWの伸張分、同期してワークWの長手方向端部に向かって徐々に移動していく。これによって、特に、可動クランプ部材31の移動方向前方に向かって、ワークWにテンションが作用する。また、通電開始時のクランプ間隔“L”に対して、通電終了時のクランプ間隔は“L+”に拡大している。すなわち、通電加熱時、ワークWの伸張分、すなわち、“L+”−“L”分、クランプ間隔は拡大される。なお、図5(D)の通電開始時における上下クランプ31a,31bによるクランプ位置とワークWの図中左端との間隔を“D”、図5(E)の通電終了時における上下クランプ31a,31bによるクランプ位置とワークWの図中左端との間隔を“E”とすると、“D”と“E”は同じ長さか、熱膨張後の間隔である“E”の方が熱膨張前の間隔である“D”よりも若干長くなる。
【0050】
このようにして、本発明の一実施例に係る通電加熱装置によれば、通電加熱中、昇温に伴って伸張するワークWに対して、適切なクランプ位置で適正なテンションを常時印加することができるため、通電加熱によるワークW中央部の垂下が可及的に防止される。
【0051】
これに対して、図6に示した比較例に係る通電加熱装置によれば、二つのクランプ位置が固定であって、両者のクランプ間隔は“L”で一定である。すなわち、ワークW長手方向両端の拘束位置が不変であるため、通電加熱時、昇温に伴って伸張するワークWに有効なテンションを印加し続けることができず、その中央部が垂下したり、上方へ反り上がったりしてしまうことになる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明による通電加熱装置は、熱間プレス成形装置、特に、ダイクエンチ装置に好適に組み込まれる。また、本発明による通電加熱装置及び通電加熱方法は、熱間プレス成形される金属製板材、特に、長さを有する板材の加熱に適用され、具体的には、量産性が要求される車両用部品の成形前の加熱、例えば、車両ボディの各種補強材、特に、ドアビーム及びバンパーリインフォース等の熱間成形前の加熱に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例に係る通電加熱装置が組み込まれた熱間プレス成形装置の外観図である。
【図2】(A)〜(C)は、図1に示した通電加熱装置ないし熱間プレス成形装置の機械的な構造を説明するための三面図であり、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【図3】図2(C)の拡大図である。
【図4】図3に示した通電加熱装置の制御構成を説明するためのブロック図である。
【図5】(A)〜(F)は、図3及び図4に示した通電加熱装置の動作を説明する工程図である。
【図6】比較例に係る、クランプ間隔Lが固定な通電加熱装置の問題点を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0054】
1 熱間プレス成形装置
2 投入機構
3 通電加熱装置
4 熱間プレス機構
5 トランスファ機構
6 制御機構
7 搬送コンベヤ
30 固定クランプ部材
30a,30b 上下クランプ
31 可動クランプ部材
31a,31b 上下クランプ
32 昇降用シリンダ(昇降方向駆動機構)
33a,33b 上下のテンション用シリンダ(可動クランプ部材駆動機構、クランプ間隔可変機構)
34,34 上下の直動ガイド
(30,31,32,33a,33b,34) クランプ機構
35 支持棒
36a 電流センサ
36b 温度センサ
36c 昇降用位置センサ
36d 可動クランプ部材用位置センサ
36e 制御盤(制御手段,マイクロコンピュータ)
37 通電機構
37a 通電スイッチ
38a,38b 上下フレーム
39a,39b 上下支持柱(支持部材)
41 ダイ,冷却ダイ
51 一対の平行アーム
52a〜52c シリンダ(駆動手段)
53 保持具(クランプ、保持手段)
54 支持棒
L,L+ クランプ間隔
P 電源
P0 投入位置
P1 通電位置
P2 加工位置
P3 払出位置
W ワーク
D 通電開始時における可動クランプ位置とワークWの図中左端との間隔
E 通電終了時における可動クランプ位置とワークWの図中左端との間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間プレス成形されるワークをクランプ機構によってクランプしてテンションを印加しながら、通電加熱する通電加熱装置であって、
前記クランプ機構は、
前記ワークの一側をクランプして該ワークの一側を保持自在であると共に所定方向に沿って位置固定ないし位置固定自在な固定クランプ部材と、
前記ワークの他側をクランプして該ワークの他側を保持自在であると共に所定方向に沿って移動自在な可動クランプ部材と、
を有し、
通電加熱時、前記固定クランプ部材は固定位置で前記ワークの一側を保持し、前記可動クランプ部材は前記ワークの前記所定方向に沿った熱変形と共に該ワークの他側を保持しながら該所定方向に沿って移動することにより、該ワークにテンションが印加される、
ことを特徴とする通電加熱装置。
【請求項2】
前記クランプ機構は、
前記固定クランプ部材及び前記可動クランプ部材を、前記ワークの厚み方向に沿って昇降自在に駆動して該ワークをクランプさせる昇降方向駆動機構と、
前記可動クランプ部材を、前記所定方向に沿って移動自在に駆動する可動クランプ部材駆動機構と、
を有する、ことを特徴とする請求項1記載の通電加熱装置。
【請求項3】
前記固定クランプ部材及び前記可動クランプ部材はそれぞれ、前記ワークの厚み方向に沿って対向して該ワークを挟持自在な一対の上下クランプを、具備することを特徴とする請求項1又は2記載の通電加熱装置。
【請求項4】
前記固定クランプ部材及び前記可動クランプ部材がそれぞれ具備する前記一対の上下クランプのうち、前記所定方向に沿って互いに離間した該下クランプが、前記ワークに通電をする一対の電極であることを特徴とする請求項3記載の通電加熱装置。
【請求項5】
前記上クランプの前記ワークを挟持する部分が凸曲面状であり、
前記下クランプの前記ワークを挟持する部分が平面状である、
ことを特徴とする請求項3又は4記載の通電加熱装置。
【請求項6】
通電加熱中の前記ワークの中央部下方に配置され、該中央部を支持自在な垂下防止部材を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の通電加熱装置。
【請求項7】
前記垂下防止部材は、鉛直方向に沿って立設された複数のピンであることを特徴とする請求項6記載の通電加熱装置。
【請求項8】
熱間プレス成形されるワークをクランプ機構によってクランプしてテンションを印加しながら通電加熱する通電加熱装置であって、
前記クランプ機構は、
前記ワークをそれぞれ異なるクランプ位置でクランプして前記ワークにテンションを印加する第1及び第2のクランプ部材と、
前記第1及び第2のクランプ部材を駆動して前記ワークをクランプさせるクランプ方向駆動機構と、
通電加熱時、前記ワークの熱変形に応じて、前記第1及び第2のクランプ部材によるクランプ間隔を可変するクランプ間隔可変機構と、
を有する、ことを特徴とする通電加熱装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一記載の前記通電加熱装置と、前記通電加熱装置によって加熱された前記ワークを熱間プレス成形する熱間プレス機構と、を有する、ことを特徴とする熱間プレス成形装置。
【請求項10】
熱間プレス成形されるワークをクランプしてテンションを印加しながら通電加熱する通電加熱方法であって、
前記ワークの一側と他側をそれぞれクランプして該ワークを保持しながらテンションを印加するクランプ工程と、
前記クランプされた前記ワークを通電加熱する通電加熱工程と、
前記通電加熱工程において、前記ワークの一側を固定位置でクランプすると共に、該ワークの他側をクランプしている位置を熱変形する該ワークと共に移動させることにより、該ワークにテンションを印加する通電加熱時のテンション印加工程と、
を含む、ことを特徴とする通電加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−142854(P2009−142854A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322507(P2007−322507)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)