説明

造影剤粒子、造影剤、及び、ナノ粒子

【課題】 MRIに用いるのに適正な平均粒径を有しつつ、緩和度等の特性が高い造影剤粒子、及びそれを用いた造影剤を提供する。
【解決手段】 平均粒径が9nmを超え15nm以下であり、かつ、Fe及びPtを含有し、Feの平均含有割合が35原子%以上であることを特徴とする、造影剤粒子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はFe及びPtを含有する造影剤粒子、及びそれを用いた造影剤に関する。また、造影剤粒子の用途に好適なナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI(magnetic resonance imaging:磁気共鳴映像法)を行なうときに、得られる画像のコントラストを向上させるために造影剤を用いることがある(非特許文献1)。この造影剤は、通常、磁気材料(常磁性体、超常磁性体、又は強常磁性体等)が用いられ、そのサイズも7nm〜50nm程度の大きさ(粒径)の磁性体微粒子を用いるものである(特許文献1)。
【0003】
しかし、磁性体微粒子として小さすぎる場合、磁性体の原子数が少ないため粒子表面の有機物の割合が大きくなり、磁化特性への悪影響が顕著になる課題があった。
また、磁性体微粒子として大きすぎる場合、ひとつの粒子中に複数の磁気ドメインが現れ相互に磁化特性を打ち消しあう、あるいはアレルギー反応が起こるかもしれない(特許文献2)という課題があった。
【0004】
一方、磁性体微粒子の材料としては、鉄、酸化鉄、ガドリニウム等が用いられてきた(特許文献2)。しかし、緩和度をはじめとした常磁性体微粒子の性能は、この素材に依存するところが高く、より性能の高い素材が望まれていた。
【0005】
ところで、新規の磁性体微粒子として、Fe及びPtを含有するナノ粒子(以下適宜、「FePtナノ粒子」という)が着目されている。
【0006】
従来、ポリオール法や、逆ミセル法によってFePtナノ粒子を製造する方法は考案されていた(特許文献3、非特許文献2〜4)が、これらの方法では、大粒径のFePtナノ粒子を製造しようとすると、粒子中のFe含量が減少して磁性体微粒子の磁気特性が低下したり、Fe含有量が減少しない製法であってもコスト高で工業生産には不向きであった。
【0007】
これに対し、Feの含有比率が高く且つ平均粒径の大きい、Fe及びPtを含有するナノ粒子が開発されてきた(特許文献4)。
【0008】
【特許文献1】特開平6−47024号公報
【特許文献2】国際公開第95/31220号パンフレット
【特許文献3】特開2006−249493号公報
【特許文献4】特願2007−222290号
【非特許文献1】J.W.M.Bulte NMR IN Biomed.2004;17:484−499
【非特許文献2】S. Sun, C. B. Murray, D. Weller, L. Folks, A. Moser, Science287, 1989, 2000
【非特許文献3】M. Chen, J. P. Liu, S. Sun, J. Am. Chem. Soc. 126, 8394, 2004
【非特許文献4】Qingyu Yan, et al., Adv. Mater. 18, 2569, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に造影剤を投与される生体への負荷を考えると、投与量が低い方が好ましく、この観点から、より高い性能を有する造影剤が求められていた。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて開発されたものである。すなわち本発明は、MRIに用いるのに適正な平均粒径を有しつつ、緩和度等の特性が高い造影剤粒子、それを用いた造影剤、及びその製造方法、並びに、それに用いることができる新規なナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、Feの含有割合が高くかつ平均粒径の大きいFePtナノ粒子を用いることにより、緩和度等の特性が高い造影剤粒子を得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、平均粒径が9nmを超え15nm以下であり、かつ、Fe及びPtを含有し、Feの平均含有割合が35原子%以上であることを特徴とする、造影剤粒子に存する(請求項1)。
【0013】
このとき、造影剤粒子の粒子表面に、親水性の化合物が配位されることが好ましい(請求項2)。
【0014】
また、造影剤粒子の平均結晶子径が平均粒径の70%以上であることが好ましい(請求項3)。
【0015】
さらに、上記の親水性の化合物が、分子中にOH基、SH基、COOH基、及びNH2基からなる群より選ばれる親水性基を少なくとも2つ以上有する化合物であることが好ましい(請求項4)。
【0016】
本発明の別の要旨は、分散媒と、該分散媒に分散した上記の造影剤粒子とを有することを特徴とする、造影剤に存する(請求項5)。
【0017】
本発明の別の要旨は、有機酸及び有機塩基の共存下、該有機塩基を該有機酸に対し過剰に用い、Fe原料とPt原料とを反応させる工程を有することを特徴とする、造影剤粒子の製造方法に存する(請求項6)。
【0018】
本発明の別の要旨は、平均粒径が9nmを超え15nm以下であり、Fe及びPtを含有し、Feの平均含有割合が35原子%以上であり、且つ、粒子表面にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが配位されることを特徴とする、ナノ粒子に存する(請求項7)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、MRIに用いるのに適正な平均粒径を有しつつ、緩和度等の特性が高い造影剤粒子、それを用いた造影剤、及びその製造方法、並びに、それに用いることができる新規なナノ粒子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について実施の形態を示して説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0021】
本発明の造影剤粒子は、特定の組成、及び粒径を有するナノ粒子である。このナノ粒子をそのまま造影剤粒子として用いることもできるし、各種の化合物を配位させてもよい。
【0022】
また、本発明の造影剤粒子は、加工を加えずそのまま造影剤として用いてもよいし、溶媒又は分散媒に溶解及び/又は分散させて造影剤としてもよいし、他の化合物と混合又は混練させて錠剤、散剤等にして造影剤としてもよい。
【0023】
以下、上記の造影剤粒子、及びそれを用いた造影剤、並びに、これらの製造方法等について詳述する。
【0024】
[1.造影剤粒子]
本発明の造影剤粒子は、平均粒径が9nmを超え15nm以下であり、かつ、Fe及びPtを含有し、Feの平均含有割合が35原子%以上であることを特徴とするナノ粒子(以下、「FePtナノ粒子」ということがある。)である。
【0025】
また、本発明の造影剤粒子は、生体内で所望の機能を発現させるために、FePtナノ粒子に他の化合物を配位させ表面修飾してもよい。特に親水性の化合物を配位させることが好ましい。
【0026】
<1−1.FePtナノ粒子>
以下、本発明に係るFePtナノ粒子について説明する。
【0027】
<1−1−1.平均粒径>
本発明に係るFePtナノ粒子の平均粒径は、通常15nm以下、また、9nmを超える。この範囲を超えて小さい場合、粒子表面の有機物の割合が大きくなり、磁化特性への悪影響が顕著になる。また、磁性体微粒子として大きすぎる場合、ひとつの粒子中に複数の磁気ドメインが現れ相互に磁化特性を打ち消しあったり、あるいは生体中においてアレルギー反応が起こったりする可能性がある。
【0028】
なお、FePtナノ粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(以下適宜、「TEM」という)によって撮影した粒子画像から、通常10個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上、さらに好ましくは300個以上の粒子を無作為に選択し、それぞれフェレ径を画像解析によって求め、その平均値を平均粒径として測定することができる。
【0029】
<1−1−2.平均組成(Feの平均含有割合)>
本発明に係るFePtナノ粒子において、FeとPtの平均組成としては、Feの平均含有割合(Fe原子とPt原子との合計に対するFe原子の割合)が、通常35原子%以上、好ましくは40原子%以上、より好ましくは45原子%以上、更に好ましくは48原子%以上、特に好ましくは49原子%以上であり、また、通常65原子%以下、好ましくは60原子%以下、より好ましくは55原子%以下、更に好ましくは52原子%以下、特に好ましくは51原子%以下である。これらの中でも、Fe及びPtの割合がそれぞれ50原子%となるものが特に好ましい。この組成割合の結晶相は、長期にわたって安定であるためである。
【0030】
なお、前記のFeの平均含有割合は、固体基板上にFePtナノ粒子の膜をドロップキャスト法やスピンコート法によって作製し、10カ所以上の無作為選択した箇所の組成をSEM−EDX(エネルギー分散型X線分析装置付 走査型電子顕微鏡)によって測定すること、或いは、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置)、ラザフォード後方散乱分析装置などによって平均組成を測定することにより求められる。
【0031】
従来、製造技術やコストの観点から、本発明のように大きく且つFeの含有割合が高いFePtナノ粒子は造影剤に用いられておらず、鉄コロイド、酸化鉄、ガドリニウム、等を素材としたものが多かった。これらの素材に比べ、本発明の造影剤粒子の素材であるFePtナノ粒子は、飽和磁化および磁気異方性エネルギーともに大きく、化学安定性も高い。
特に、FePtナノ粒子の中でも、本発明の造影剤粒子の素材であるFePtナノ粒子は、平均粒径が9nmを超え15nm以下の範囲であり、かつ、Feの平均含有割合が35原子%以上であり、係るFePtナノ粒子は、飽和磁化および磁気異方性エネルギーともに大きく、化学安定性も高いという優れた特性を有する。
【0032】
<1−1−3.平均結晶子径>
本発明のFePtナノ粒子の平均結晶子径の大きさに制限は無いが、当該平均結晶子径は、平均粒径の、通常70%以上、中でも80%以上、特には90%以上であることが好ましい。なお、上限は理想的には100%である。このように平均結晶子径が平均粒径に対して大きい比率となることは、FePtナノ結晶の大部分が同一の結晶子により形成されていることを表わす。これにより、磁気異方性エネルギーが大きくなるという優れた効果が得られる。
【0033】
なお、前記の平均結晶子径は、XRDパターン(X線回折測定により測定されたパターン)の111ピークの半値幅を用いて、シェラー式によって求めることができる。なお、シェラー式は下記で表される式である。
【数1】

ここで、Lは平均結晶子サイズを表わし、λはX線波長を表わし、Δθは半値幅を表わし、θは回折ピーク角度を表わす。シェラー式の参考文献としては、「物質からの回折と結像 −透過電子顕微鏡法の基礎−」、今野豊彦 著、共立出版、2003」などが挙げられる。
【0034】
<1−1−4.粒径分布>
本発明に係るFePtナノ粒子は、その粒径分布の標準偏差に制限は無いが、通常50%以下、中でも30%以下、特には25%以下であることが好ましい。標準偏差が前記の範囲内にあれば、FePtナノ粒子をMRI用の造影剤粒子に用いた場合に、造影したい箇所に均一な分布をすることにより、より正確な像が得られるためである。
【0035】
なお、前記の粒径分布は、TEMによって撮影した粒子画像から、通常10個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上、さらに好ましくは300個以上の粒子を無作為に選択し、それぞれフェレ径を画像解析によって求め、その標準偏差を粒径分布とする。
【0036】
<1−1−5.飽和磁化>
本発明に係るFePtナノ粒子の飽和磁化の大きさに制限は無いが、通常40kA/m以上、好ましくは100kA/m以上、より好ましくは200kA/m以上である。また、上限に制限は無いが、通常1200kA/m以下である。このように大きい飽和磁化を有すると、外部磁場に対する感度が良いため、MRIの造影剤粒子として好適に用いることができる。
【0037】
なお、飽和磁化は、SQUID(超伝導量子干渉磁束計)を用いて、100K以下の低温で磁場を掃印し、磁化を測定することによって求められる。
【0038】
<1−2.表面修飾>
本発明の造影剤粒子は、上記<1−1.FePtナノ粒子>で説明したFePtナノ粒子をそのまま用いることができるが、FePtナノ粒子表面に化合物を配位させること(以下、「表面修飾」ということがある。)によって、生体内における造影剤粒子の分布、拡散速度、排出測度等を調整する等、生体内で所望の機能を発現するようにすることができる。
【0039】
<1−2−1.親水性の化合物>
表面修飾に用いる化合物としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、親水性の化合物を配位させることが好ましい。MRI診断の対象となるのは生体が主であり、親水性の方が均一性を保てるからである。
【0040】
親水性の化合物とは、分子中に親水性基を有している化合物である。親水基としては、リン酸基、OH基、SH基、COOH基、NH2基等が挙げられる。中でもOH基、COOH基、及びNH2基が好ましい。生体中に多数存在する官能基であり、生体との親和性が良好であるためである。
また、親水性の化合物1つあたり1つの親水基を有していてもよいし、2つ以上の親水基を有していてもよいが、親水基の数が多いほど親水性が向上するため、好ましい。
従って、本発明の親水性の化合物は、上述の特徴を有する化合物の中でも、1分子中にリン酸基、OH基、SH基、COOH基、及びNH2基からなる群より選ばれる親水性基を少なくとも2つ以上有する化合物であることが好ましい。
これらの親水性基は1種類を単独で有していてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で有していてもよい。
【0041】
このような、親水性化合物としては、オルトリン酸、リン酸カリウム、リン酸水素二ナトリウム等のリン酸化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアルコール化合物、メルカプト酢酸等のチオール化合物;酢酸等のカルボン酸化合物;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;ビオチン等のビタミン類;アビジン、抗体等のタンパク質;ドデシル硫酸ナトリウム、オレイルサルコシン酸等の界面活性剤;ポリビニルピロリドン、デンドリマー、DNA等の高分子;シクロデキストリンのような糖類;ニッケル−ニトリロ三酢酸錯体等の金属錯体;バンコマイシン等の抗生物質;等が好ましく、特にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが好ましい。表面修飾が簡便にできるためである。また、上記の化合物を任意に組み合わせて使っても良い。例えば、粒子表面をカルボン酸で修飾し、そのカルボン酸にタンパク質を結合させてもよい。また粒子表面をジスルフィド等のチオール化合物で修飾し、そのチオール化合物にバンコマイシン等の抗生物質を結合させてもよい。さらに、粒子を高分子と混合し、物理的に練りこんで用いてもよいし、粒子を金などの異種金属で覆い、その外側を表面修飾してもよい。
【0042】
<1−2−2.その他の表面修飾に用いる化合物>
本発明の造影剤粒子は、上述した親水性の化合物の他にも、他の化合物を配位させることでDDS(ドラッグデリバリーシステム)上の設計や、体外排泄機構の設計が可能となる。
【0043】
例えば、造影対象となる組織に多く局在するタンパク質や、特定疾患時に多く発現するタンパク質等と特異的な親和性を有する化合物を配位させることで、造影剤粒子を特定組織に集中させることが見込まれる。
また、例えば、標的組織を構成する細胞のトランスポーターと高い親和性を有する化合物や、貪食を促すシグナル等を配位させることで、細胞間隙までしか分布できなかった造影剤を、細胞内に取り込ませることが見込まれる。これにより組織の造影能が向上することが期待できる。
さらには、例えば、FePtナノ粒子表面を強酸に耐性のある化合物で覆うことも考えられる。このとき、造影剤粒子に他の化合物を配位させてもよい。このことにより、造影剤を経口投与した場合、胃酸等によってFePtナノ粒子が侵される事が低減することが期待される。
一方、例えば、薬剤代謝に関するトランスポーターと高い親和性を有する化合物を配位させることで、細胞外への薬剤排出の向上や、胆汁排泄や尿中排泄等の複数の排出経路を確保すること等が見込まれ、安全性の向上が期待される。
【0044】
<1−2−3.FePtナノ粒子へ配位させる分子数>
FePtナノ粒子表面に配位させる化合物の分子数は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。例えば、親水性の化合物の場合、FePtナノ粒子1個あたり通常10個以上、好ましくは50個以上、さらに好ましくは100個以上、また、通常10000個以下、好ましくは5000個以下、さらに好ましくは1000個以下である。この範囲を下回ると、周囲との親和性が低下し粒子同士で凝集する、ターゲットに対する付着力が弱くなり適したMRI像が得られない、等の可能性がある。また、この範囲を上回ると、化合物の体積が大きくなるため粒子径が増大し、アレルギー反応を誘発する可能性がある。
ナノ粒子表面に配位した化合物の分子数は、例えば熱重量減量測定法(TG−DTA)を用いて有機物の混合重量割合を求め、有機物の分子量で割る事で有機物のモル数、そして分子数を求めることができる。
【0045】
また、配位させる化合物は、親水性の化合物だけでもよいが、親水性の化合物と共に、上述したような他の化合物を配位させてもよい。
【0046】
<1−3.造影剤粒子の物性>
本発明の造影剤粒子は、以下の物性を1つ以上備えていることが好ましい。
【0047】
(直径)
本発明の造影剤粒子の直径は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、さらに好ましくは9nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは15nm以下である。この範囲より小さい場合、粒子表面の有機物の割合が大きくなり、磁化特性への悪影響が顕著になる可能性がある。また、この範囲より大きい場合、ひとつの粒子中に複数の磁気ドメインが現れて相互に磁化特性を打ち消しあったり、あるいは生体中でアレルギー反応が起きたりする可能性がある。
【0048】
(磁場の強さ)
本発明の造影剤粒子の磁場の強さは、磁場振幅強度の大きさとして、通常10mT以上、好ましくは100mT以上、さらに好ましくは1000mT以上、また、通常100000mT以下、好ましくは50000mT以下、さらに好ましくは10000mT以下である。この範囲を下回ると、MRIで感知されるシグナル強度が弱くなる傾向がある。また、この範囲を上回ると、人体に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0049】
[2.造影剤]
本発明の造影剤は、本発明の造影剤粒子を有していれば、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はなく、薬剤形態、投与方法等は任意である。以下、これらの項目について具体的に説明する。また、本発明の造影剤をMRIに用いたときの特性等も説明する。
【0050】
<2−1.薬剤形態>
本発明の造影剤としては、本発明の造影剤粒子をそのまま造影剤としても用いてもよいし、本発明の造影剤粒子を分散媒に分散させて造影剤としてもよいし、添加剤等と混合し顆粒状、粉末状、カプセル、錠剤等の形態にしてもよい。造影をしたい組織や、投与方法によって、適切な薬剤形態を設計することができる。
【0051】
また、本願の造影剤は、造影剤粒子以外にも他の成分を有していてもよい。例えば、本発明の造影剤粒子が分解等を起こしやすい場合、安定化剤を混合してもよいし、分解等が起こりにくい製剤方法を選択してもよい。また、併用することが好ましい他の薬剤を混合し、多剤混合薬としてもよい。
【0052】
<2−2.投与方法>
本発明の造影剤の投与方法に制限はなく、造影したい組織や、薬剤形態によって、適切な方法を選択すればよい。具体例としては、経口投与や、血管、体腔内、リンパ等へ注射する方法等が挙げられる。中でも静脈注射が好ましい。本発明の造影剤の投与量は、投与する対象の体重、造影したい組織によって適宜調整すればよい。
なお、本発明の造影剤は、MRIを撮影できる生体であればその種類に制限はなく、ヒトや各種の動物などに用いることができる。
【0053】
<2−3.造影剤の特性>
本発明の造影剤は、緩和度等の特性が高い造影剤であり、以下の特徴を有する。
【0054】
(r1及びr2
本発明の造影剤の縦緩和の緩和度(以下、「r1」と表わすことがある。)は、通常、1mM-1-1以上(単位のsは秒の意味である。以下同様。)、好ましくは2mM-1-1以上、さらに好ましくは4mM-1-1以上、また、通常99mM-1-1以下、好ましくは50mM-1-1以下、さらに好ましくは8mM-1-1以下である。
【0055】
また、本発明の造影剤の横緩和の緩和度(以下、「r2」と表わすことがある。)は、通常50mM-1-1以上、好ましくは100mM-1-1以上、さらに好ましくは200mM-1-1以上、また、通常990mM-1-1以下、好ましくは750mM-1-1以下、さらに好ましくは500mM-1-1以下である。
【0056】
ここで、緩和度とは、水溶液や組織におけるMRI造影剤の濃度1Mあたりに促進される緩和測度と定義され、縦緩和の緩和度r1は次式(1)、横緩和の緩和度r2は次式(2)で表わされる。
1/T1obs=1/T1+r1・C (1)
1/T2obs=1/T2+r2・C (2)
【0057】
上記式(1)中、T1obsは観察される縦緩和時間を表わし、即ち1/T1obsは観測される縦緩和速度を表わす。造影剤粒子が存在する近傍は緩和速度が上がるが、周囲との緩和速度の差が大きい程、画像が鮮明になる。
1は物質固有の縦緩和時間を表わし、即ち1/T1は物質固有の縦緩和速度を表わす。これは造影の対象となる物質に固有の値となるが、MRIは通常プロトンを測定しているため、プロトンの値となる。即ち1/T1は定数である。
CはMRI造影剤の濃度(すなわち1M)であり、r1が大きいほどr1・Cが大きくなる。その結果、r1が大きいほど観測される緩和速度(1/T1obs)が上がる。
【0058】
生体への負荷を考えれば、MRI造影剤の投与量は少ない方が好ましく、より高い緩和度r1を有する造影剤の方が、少ない投与量で観測される縦緩和速度(1/T1obs)をより速くできるため好ましい。同様にして、高い緩和度r2を有する造影剤の方が、少ない投与量で観測される横緩和速度(1/T2obs)をより速くできるため好ましい。
【0059】
(r2/r1
本発明の造影剤の縦緩和の緩和度r1と、横緩和の緩和度r2の比(r2/r1)は、20℃の条件下で、通常7以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上、また、通常100以下、好ましくは75以下、さらに好ましくは50以下である。この範囲から外れると、MRI像全体が白くなったり黒くなったりしてコントラストが弱くなる傾向がある。
【0060】
MRIで感知されるシグナル強度Iは、プロトンの数とそれらの緩和度の比との複合関数である。r1が増加するとIも増加し(ポジ作用)、r2が増加するとIは減少する(ネガ作用)。
従って、r2がr1と比べて、十分に高いならば、ポジ型及びネガ型の何れの用途にも用いることができるため、造影剤用途として特に好ましい。
【0061】
(造影剤粒子の分散液の場合)
本発明の造影剤が、造影剤粒子を分散させた分散溶液である場合、そのpHは通常4以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上、また、通常10以下、好ましくは9以下、さらに好ましくは8以下である。この範囲を外れると生体に対して損傷を与える可能性がある。
【0062】
[3.造影剤粒子及び造影剤の製造方法]
本発明の造影剤粒子の製造方法を説明する。まず、FePtナノ粒子の製造方法について説明し、次に表面修飾の方法について説明する。
本発明の造影剤粒子の製造方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はされず、公知の何れの方法を用いることができる。
【0063】
<3−1.FePtナノ粒子の製造方法>
FePtナノ粒子の製造方法について、その一例として、Fe原料とPt原料とを反応させて、FePtナノ粒子を製造する方法を用いて説明する。この製造方法は、Fe原料とPt原料とを反応させるに際し、有機酸及び有機塩基の共存下、有機塩基を有機酸に対し過剰に用いるようにする。
【0064】
<3−1−1.Fe原料>
Fe原料としては、Feを含有し、Pt原料と反応してFePtナノ粒子を得ることができるものであれば任意のものを用いることができる。
Fe原料の例を挙げると、有機鉄化合物が挙げられる。この有機鉄化合物の具体例としては、鉄(II)メトキシド、鉄(III)メトキシド、鉄(III)エトキシド、鉄(II)プロポキシド等の鉄アルコキシド、鉄ペンタカルボニル、酢酸鉄(II)、ステアリン酸鉄(III)、ラウリン酸鉄(III)、鉄(II)アセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、2−エチルヘキサン酸鉄(II)などが挙げられる。
【0065】
また、その他の鉄化合物としては、例えば、酸化第一鉄、酸化第二鉄、四酸化三鉄、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、セレン化鉄、酸化タングステン酸鉄(III)、三酸化チタン鉄、五酸化チタン二鉄、窒化鉄、二硫化鉄、バナジン酸鉄(II)、ほう化鉄、ほう化二鉄、よう化鉄、りん化鉄、りん化二鉄などが挙げられる。
これらのうち好ましくは有機鉄化合物であり、より好ましくは鉄アルコキシドであり、特に好ましくは鉄(III)エトキシドである。
なお、Fe原料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0066】
<3−1−2.Pt原料>
Pt原料としては、Ptを含有し、Fe原料と反応してFePtナノ粒子を得ることができるものであれば任意のものを用いることができる。
Pt原料の例を挙げると、白金(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)白金等の有機白金化合物、ジアンミンジニトロ白金(II)、塩化白金(II)、シス−ジアンミンジクロロ白金(II)、トランス−ジアンミンジクロロ白金(II)、二よう化白金、四よう化白金などが挙げられる。このうち好ましくは白金(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)白金等の有機白金化合物、ジアンミンジニトロ白金(II)、塩化白金(II)であり、より好ましくは白金(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)白金等の有機白金化合物、塩化白金(II)であり、特に好ましくは白金(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)白金等の有機白金化合物であり、更にその中でも白金(II)アセチルアセトナートが好ましい。
なお、Pt原料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0067】
Pt原料の使用量は所望のFePtナノ粒子が得られる限り任意であり、製造しようとするFePtナノ粒子の組成に応じて設定すればよい。ただし、熱分解や還元反応によって生成したFeやPt原子(あるいは中間体)は、有機酸(オレイン酸)および有機塩基(オレイルアミン)とそれぞれ錯体を形成すると考えられる。その後、Fe錯体及びPt錯体からFe及びPt原子がそれぞれ生成し、核発生・核成長過程を経てFePtナノ粒子が生成すると考えられる。したがって、反応時におけるそれぞれの錯体の安定性によって、生成する原子の量が異なることとなるため、使用量はそれらを考慮することが望ましい。即ち、オレイン酸鉄とオレイルアミン白金との組み合わせの場合、オレイン酸鉄はオレイルアミン白金よりも安定性が高いため、ナノ粒子中に取り込まれる量が少ない。したがって、目的とする原子比のFePtナノ粒子を合成するためには、オレイン酸鉄の使用量を目的とする原子比に相当する使用量より多くすることが望ましい。
【0068】
具体的には、MRI用の造影剤粒子のFePtナノ粒子を製造する場合には、Fe原料とPt原料の合計量に対するPt原料の使用量は、通常30モル%以上、中でも40モル%以上、特には45モル%以上が好ましく、また、通常70モル%以下、中でも60モル%以下、特には55モル%以下が好ましい。Fe原料とPt原料との比率を前記の範囲とすることにより、含有するFeとPtとの原子比が50:50に近い、MRI用の造影剤粒子に用いて好適なFePtナノ粒子が得られるからである。
【0069】
<3−1−3.有機酸>
有機酸の種類に制限は無く、FePtナノ粒子が得られる限り任意の有機酸を用いることができる。
好適な有機酸の例を挙げると、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、等の飽和脂肪酸、α−リノレン酸等のトリ不飽和脂肪酸、リノール酸等のジ不飽和脂肪酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸等のモノ不飽和脂肪などの脂肪族カルボン酸;安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸などのカルボン酸化合物が挙げられる。また、例えば、γ−リシノール酸等のヒドロキシ酸化合物なども挙げられる。これらの中でもカルボン酸化合物が好ましく、脂肪族カルボン酸がより好ましく、不飽和脂肪族カルボン酸が更に好ましく、オレイン酸が特に好ましい。なお、有機酸は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0070】
本発明に係るFePtナノ粒子の製造方法に用いる有機酸としては、反応時に液体状態にあるものが好ましく、その沸点としては、通常100℃以上のものが用いられる。
また、FePtナノ粒子の表面保護という観点から、有機酸としては、官能基に近い部分が嵩高くないものの方が、FePtナノ粒子表面を密に被覆することができ好ましい。即ち、芳香族系よりも脂肪族系の方が好ましく、脂肪族系の中でも、環状、分岐鎖状のものより直鎖状のものの方が好ましい。
【0071】
有機酸の炭素数に制限は無いが、通常6以上、好ましくは10以上、より好ましくは16以上、また、通常28以下、好ましくは24以下、より好ましくは22以下である。炭素数が小さすぎると沸点が低くなりすぎる可能性があり、大きすぎると融点が高くなり反応溶液の調製が困難になったり、均一反応を実現することが難しくなったりする可能性がある。
【0072】
また、有機酸の使用量はFePtナノ粒子が得られる限り任意であるが、Fe原料に対し等モル倍以上用いることが好ましい。具体的には、Fe原料に対して、通常1モル倍以上、中でも1.5モル倍以上、特には2モル倍以上使用することが好ましい。このように、有機酸をFe原料に対して等モル倍以上用いることにより、FePtナノ粒子の粒径をより確実に大きくすることが可能になる。一方、上限としては、通常8モル倍以下、好ましくは6モル倍以下、より好ましくは4モル倍以下として使用する。Fe原料に対する有機酸の量が多すぎると、得られるFePtナノ粒子中のFe含有量が少なくなる可能性がある。
【0073】
<3−1−4.有機塩基>
有機塩基の種類に制限は無く、FePtナノ粒子が得られる限り任意の有機塩基を用いることができる。
好適な有機塩基の例を挙げると、オレイルアミン等の1級アミン化合物;ジエチルアミン等の2級アミン化合物;トリエチルアミン等の3級アミン化合物;テトラメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩;ピリジン等の複素環式アミン化合物等のアミン化合物などが挙げられる。中でも、1級アミン化合物が好ましく、オレイルアミンが特に好ましい。
なお、有機塩基は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0074】
本反応に用いられる有機塩基としては、反応時に液体状態にあるものが好ましく、その沸点としては、通常100℃以上のものが用いられる。
また、FePtナノ粒子の表面保護という観点から、有機塩基としては、官能基に近い部分が嵩高くないものの方が、FePtナノ粒子表面を密に被覆することができ好ましい。即ち、芳香族系よりも脂肪族系の方が好ましく、脂肪族系の中でも、環状、分岐鎖状のものより直鎖状のものの方が好ましい。
【0075】
有機塩基の炭素数に制限は無いが、通常6以上、好ましくは10以上、より好ましくは16以上、また、通常28以下、好ましくは24以下、より好ましくは22以下である。炭素数が小さすぎると沸点が低くなりすぎる可能性があり、大きすぎると融点が高くなり反応溶液調製が困難になったり、均一反応を実現することが難しくなったりする可能性がある。
【0076】
本発明の製造方法では、有機塩基を有機酸に対して過剰に用いるようにする。好適な範囲としては、有機酸に対する有機塩基の使用量の比を、通常1.5モル倍以上、好ましくは1.7モル倍以上、より好ましくは2モル倍以上とする。このように有機塩基を有機酸よりも過剰に用いることにより、FePtナノ粒子中のFeの割合を高めることが可能となるとともに、粒径を好適な範囲にまで大きくすることが可能となる。ただし、有機塩基をあまりに過剰に使用するとFePtナノ粒子が凝集する可能性があるため、凝集を避けたい場合は、通常10モル倍以下、中でも5モル倍以下とすることが好ましい。
【0077】
<3−1−5.その他の成分>
本発明の製造方法においては、本発明の効果を著しく損なわない限り、反応系に上述したFe原料、Pt原料、有機酸及び有機塩基以外にその他の成分を共存させても良い。
例えば、FePtナノ粒子にFe及びPt以外の金属成分を含有させるのであれば、当該金属に対応した原料を共存させても良い。
【0078】
また、例えば、反応媒質とするために溶媒を共存させても良い。溶媒の例を挙げると、ジオクチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル等のエーテルなどが挙げられる。なお、溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0079】
また、溶媒を用いる場合、溶媒の使用量は製造するFePtナノ粒子の粒径に応じて調整すればよい。通常、溶媒の使用量が少なくなれば過飽和度が小さくなることによってPtの臨界核サイズが増大するため、得られるFePtナノ粒子の粒径は大きくなる。したがって、FePtナノ粒子の粒径を大きくしたい場合は、溶媒の使用量は、Pt原料に対して、通常10モル倍以下、中でも5モル倍以下、特には2モル倍以下が好ましい。
【0080】
<3−1−6.反応条件及び反応方法>
Fe原料とPt原料とを反応させるに際し、反応条件はFePtナノ粒子の生成反応が進行する限り任意であるが、通常は、以下の条件で反応を行なうことが好ましい。
即ち、反応温度は、通常150℃以上、中でも200℃以上、特には230℃以上が好ましい。温度が低すぎると反応が進行しない可能性がある。なお、上限に制限は無いが、通常300℃以下である。
【0081】
反応時間(反応溶液の温度が上記反応温度に到達後、その温度を保持している時間)は、通常3分以上、中でも5分以上、特には10分以上が好ましい。時間が短すぎると反応が十分に進行しない可能性がある。なお、上限に制限は無いが、通常1時間以下である。
反応時の圧力に制限は無いが、通常は常圧又は加圧下で反応を行なう。
反応の雰囲気は、通常、不活性雰囲気で行なう。不活性雰囲気に用いる不活性ガスの例を挙げると、アルゴン等の希ガス、窒素ガス等が挙げられる。なお、不活性ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0082】
反応方法としては、まず、上述したFe原料、Pt原料、有機酸及び有機塩基、並びに、必要に応じてその他の成分を、それぞれ所望の量だけ秤量し、混合する。この際、混合の順番は任意である。また、一度に全量を混合してもよく、一部を段階的又は連続的に混合しても良い。なお、ここで混合とは、系内を均一に混ぜ合わせる狭義の混合ではなく、前記の各成分を同一系内に共存させる広義の混合のことをいい、系内が均一となることは必ずしも要しない。
【0083】
混合後、反応系に超音波を与えることが好ましい。超音波により、Fe原料及びPt原料が解砕されたり、反応系内が均一化されたりするので、Fe原料とPt原料との反応をより良好に進行させることが可能となる。
【0084】
そして、反応系を前記の反応条件に制御して、Fe原料とPt原料とを反応させる。なお、各成分の秤量・混合後に反応系の環境を所望の反応条件に制御してもよく、予め所望の反応条件に制御してあった環境に各成分を仕込むことで反応を進行させても良い。この際、反応系内は撹拌することが好ましい。また、反応は、バッチ方式で行なってもよく、フローを用いて連続的に行なってもよい。
【0085】
前記の操作により、反応系内にはFePtナノ粒子が生成する。通常は、生成したFePtナノ粒子を精製し、単離する。精製の方法に制限は無いが、通常は遠心分離を利用して精製する。具体例を挙げると、以下のとおりである。即ち、まず、反応終了後に反応液を室温まで風冷し、過剰エタノールを加え、遠心分離によってFePtナノ粒子を沈殿・分離する。その後、得られたFePtナノ粒子を、ヘキサン/オレイン酸混合溶液と混合し、再度遠心分離を行ない、沈殿物を除去してFePtナノ粒子分散液を得る。このFePtナノ粒子/ヘキサン分散液に過剰エタノールを加え、さらに遠心分離することによって、精製されたFePtナノ粒子(固体)を得ることができる。
【0086】
以上のように、本発明の製造方法によれば、Feの含有比率が高く且つ平均粒径の大きい、Fe及びPtを含有するFePtナノ粒子を得ることができる。得られたFePtナノ粒子のFeとPtとの平均組成Fe/Ptは、後述するように通常は50/50(mol/mol)に近くなるため、磁性体ナノ粒子として非常に良好に使用できる。
【0087】
<3−2.表面修飾の方法>
FePtナノ粒子は、合成直後の状態において、一般的にオレイン酸等の有機酸や、オレイルアミン等の有機塩基の両方あるいはそのどちらか一方が表面修飾剤としてFePtナノ粒子表面に配位している。これにより、ナノ粒子同士の凝集、ナノ粒子表面の酸化等による劣化などが抑制される。
【0088】
FePtナノ粒子の表面に親水性の化合物等を配位させる場合、これらの表面修飾剤と置換する。置換の方法は公知の何れ方法を用いてもよく、オレイン酸等が配位したFePtナノ粒子を表面修飾に用いる化合物の溶液又は分散液に懸濁して超音波を照射したり、触媒や酵素などを加えて化学修飾したり、加熱したりする等、いかなる方法を用いてもよい。
以下、超音波を用いる方法を例に説明する。
【0089】
表面修飾に超音波を用いる場合、上記方法で得られたオレイン酸などが配位したFePtナノ粒子を、表面修飾に用いる化合物が溶解した溶液、又は分散した分散液に分散させ、超音波を照射することで得られる。
【0090】
このとき用いられる溶媒若しくは分散媒としては、FePtナノ粒子や表面修飾に用いる化合物を侵したり、置換を妨げるような因子を有したりしていなければ制限はない。
例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のフラン類;ヘキサン、ヘプタン等のアルカン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族類;等を用いることができる。
【0091】
溶媒若しくは分散媒の、表面修飾に用いる化合物の濃度としては、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下である。この範囲を下回ると、粒子と表面修飾に用いる化合物の接触が不十分で表面修飾が十分に進行しない可能性がある。また、この範囲を上回ると、表面修飾に用いる化合物の粘性が高い場合、粒子と表面修飾に用いる化合物の接触が不十分で表面修飾が十分に進行しない可能性がある。
【0092】
照射する超音波の出力は、通常1W以上、好ましくは10W以上、さらに好ましくは50W以上、また、通常500W以下、好ましくは300W以下、さらに好ましくは200W以下である。この範囲を下回ると、粒子と表面修飾に用いる化合物の接触が不十分で表面修飾が十分に進行しない可能性がある。また、この範囲を上回ると、超音波照射による局所的加熱のために粒子及び表面修飾に用いる化合物が劣化する可能性がある。
【0093】
超音波の照射時間は、通常0.1秒以上、好ましくは1秒以上、さらに好ましくは10秒以上、また、通常1時間以下、好ましくは30分以下、さらに好ましくは10分以下である。この範囲を下回ると、粒子と表面修飾に用いる化合物の接触が不十分で表面修飾が十分に進行しない可能性がある。また、この範囲を上回ると、超音波照射による局所的加熱のために粒子及び表面修飾に用いる化合物が劣化する可能性がある。
【0094】
超音波の照射は連続的に行なってもよいし、間欠的に行ない超音波を照射している時間の合計を上記範囲にしてもよい。間欠的に行なうことで、FePtナノ粒子が分散した溶媒の温度の上昇を抑えることができる。
【0095】
超音波を照射するときのFePtナノ粒子が分散した溶媒の温度は、通常0℃以上、好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは70℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。この範囲を下回ると、溶媒が凍結し表面修飾が進行しない可能性がある。また、この範囲を上回ると、溶媒が蒸発し表面修飾が進行しない可能性がある。また、表面修飾に用いる化合物が酵素である場合など、温度によっては失活若しくは分解する場合には、その温度範囲に至らないようにすることが好ましい。
また、一般に、超音波を照射すると温度が上昇するため、上記範囲を上回らないように冷却しながら超音波を照射することが好ましい。
【0096】
超音波を照射する装置は、公知の何れの装置を用いることができ、例えば超音波バス等を用いることができる。
【0097】
超音波の照射後、置換され親水性の基が配位されたFePtナノ粒子は、必要により洗浄することができる。洗浄には、上述した溶媒又は分散媒を用いることができるが、中でも、アセトン、エタノール、水などが好ましい。
【0098】
<3−3.造影剤の製造方法>
本発明の造影剤は、本発明の造影剤粒子をそのまま造影剤として用いてもよいし、前述した各薬剤形態に合わせて製剤すればよい。その製造方法は、公知の何れの方法を用いてもよい。
【0099】
[4.TMAOHが配位したナノ粒子]
FePtナノ粒子が、Feの平均含有割合を35原子%以上であると、Feの含有量が高くなるため、常磁性体としての性能が向上する。しかし、平均粒径が大きくなるとFe含有量が低下する傾向にあり、また、従来用いられてきた逆ミセル法等の製造方法では8.5nmより大きいものは20.2nmという極端に大きい粒径のFePtナノ粒子しか得られてこなかった。
【0100】
しかし、本発明の造影剤粒子と同様の方法によって、平均粒径が9nmを超え15nm以下であり、Fe及びPtを含有し、Feの平均含有割合が35原子%以上であり、且つ、粒子表面にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)が配位されることを特徴とするナノ粒子(以下、「本発明のナノ粒子」ということがある。)が得られる。
【0101】
本発明のナノ粒子は、磁気細胞(タンパク質)分離、超高感度磁気免疫診断、磁気温熱療法、ドラッグデリバリーシステム、MRI造影剤粒子として用いることができるが、配位されたTMAOHの性質から生体に投与する用途に好ましく、常磁性体としての優れた性質から特にMRI造影剤用途に好ましい。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0103】
[実施例1]
<TMAOHが配位したFePtナノ粒子の製造>
本発明の造影剤粒子として、TMAOH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)が配位したFePtナノ粒子を以下の手順で製造した。
【0104】
(オレイン酸が配位したFePtナノ粒子の製造)
50mL三口フラスコ内へ、Pt原料である白金アセチルアセトネート(Pt(acac)2)を0.5mmol、Fe原料である鉄エトキシド(Fe(OEt)3)を2.0mmol、有機塩基であるオレイルアミン(Oam)を20mmol、有機酸であるオレイン酸(Oac)を4.0mmolだけそれぞれ仕込み、溶媒(solvent)としてジフェニルエーテル(Ph)を17mL加えた。
【0105】
次いで、マグネチックスターラーで攪拌しながら、フラスコ内をアルゴン置換した。そして、マントルヒータを用いて温度T=250℃で加熱還流を30分行なった。そして、還流後、室温まで風冷し、過剰エタノールを加え、遠心分離によって試料(FePtナノ粒子)を沈殿させた。そして沈殿したFePtナノ粒子にヘキサン(含Oac5重量%)を加え、再び遠心分離を行ない、上澄みのみ回収し保管した。
得られたFePtナノ粒子について、後述する方法により、平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を以下の表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
(オレイン酸からTMAOHへの配位子の交換)
上記手順で得られたFePtナノ粒子の配位子であるオレイン酸を、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)に置換した。まず、FePtナノ粒子150mgに、TMAOH水溶液(15重量%)を6mL加え、超音波(出力100W)を20分間照射して、混合した。その後、分散液3mLをアセトン30mL中に添加した。次に、エタノール3mL、及び純水3mLを加え、遠心分離の後、上清を完全に除去した。
【0108】
<FePtナノ粒子の物性の測定方法>
FePtナノ粒子の物性(平均粒径、粒径分布、及び平均組成等)については、以下の方法で測定した。
【0109】
(平均粒径の測定方法)
FePtナノ粒子の平均粒径Dp[nm]は、TEM(透過型電子顕微鏡)によって撮影した粒子画像から、300個以上の粒子を無作為に選択し、それぞれフェレ径を画像解析によって求め、その平均値を平均粒径として測定した。
【0110】
(粒径分布の測定方法)
粒径分布σ[%]は、平均粒径の測定と同様に、300個以上の粒子の粒径を測定し、その標準偏差(単位nm)を求め、その値を平均粒径で割って100を掛けて算出することにより測定した。
【0111】
(平均組成の測定方法)
FePtナノ粒子の平均組成(FeとPtとの原子比(Fe/Pt[原子%]))は、固体基板上にFePtナノ粒子の膜(FePtナノ粒子が堆積して形成された膜)をドロップキャスト法によって作製し、10カ所以上の無作為選択した箇所の組成をSEM−EDX(エネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡)によって測定して求めた。
【0112】
<MRI測定>
得られた造影剤粒子をMRIにて緩和時間を測定し、そこから縦緩和の緩和時間(T1[秒])、緩和速度(1/T1−1/T1(0)[1/秒])、及び緩和度(r1[mM-1-1])、横緩和の緩和時間(T2[秒])、緩和速度(1/T2−1/T2(0)[1/秒])、及び緩和度(r2[mM-1-1])、並びに緩和度の比(r2/r1)を算出した。
MRI測定は以下の手順で行なった。
【0113】
(測定機器)
MRIの測定機器としては、バリアン社製INOVA UNITY 4.7T(アクティブシールド型グラディエントコイル(6.5gauss/cm)、クアドラチャー型ボリュームコイル)を用いた。
【0114】
(T1測定法)
インバーションリカバリー付きスピンエコー法を用いて行なった。TR(繰り返し時間)、TI(インバージョン時間)、及びTE(エコー時間)は、以下の通りである。
TR=4秒
TI=0.01, 0.02, 0.04, 0.16, 0.32, 0.64秒
TE=0.01秒
測定時の室温は20℃、相対湿度55%であり、サンプルは測定直前にボルテックスにより撹拌した。
【0115】
(T2測定法)
CPMG法(Carr−Purcell−Meiboom−Gill法)を用いて行なった。TR、TI、及びNumber of Echoは、以下の通りである。
TR=4秒
TI=0.01, 0.02, 0.04, 0.16, 0.32, 0.64秒
Number of Echo=1, 2, 4, 8, 16, 32, 64
測定時の室温は20℃、相対湿度55%であり、サンプルは測定直前にボルテックスにより撹拌した。
【0116】
(測定サンプル)
測定サンプルは、上記の手順で得られた造影剤粒子を純水に分散したもの(以下、「純水サンプル」ということがある。)、及びTMAOH水溶液(15重量%)に分散したもの(以下、「TMAOHサンプル」ということがある。)をそれぞれ測定した。
【0117】
サンプルは各溶媒共に、造影剤粒子の濃度を0.1mM,0.2mM,0.4mM,0.8mM,1.6mM,3.2mM,6.4mM,12.8mMで測定した。
【0118】
(結果)
・TMAOHサンプル
以下、表2にTMAOHサンプルの各濃度におけるT1、1/T1−1/T1(0)、T2、1/T2−1/T2(0)の値を記す。なお、NDは当該データがとれなかったことを意味する。
【表2】

【0119】
上記結果を基に、縦緩和の緩和速度(1/T1−1/T1(0))と濃度との相関を示すグラフを図1に、横緩和の緩和速度(1/T2−1/T2(0))と濃度との相関を示すグラフを図2に示した。このグラフの傾きが縦緩和の緩和度(r1[mM-1-1])、及び横緩和の緩和度(r2[mM-1-1])をそれぞれ示す。その具体的な値は表4に示す。なお、図1及び図2のグラフにおいては、濃度0mMのブランクのプロットも明示してある。
【0120】
・純水サンプル
表3に純水サンプルの各濃度におけるT1、1/T1−1/T1(0)、T2、1/T2−1/T2(0)の値を記す。なお、NDは当該データがとれなかったことを意味する。
【表3】

【0121】
上記結果を基に、縦緩和の緩和速度(1/T1−1/T1(0))と濃度との相関を示すグラフを図3に、横緩和の緩和速度(1/T2−1/T2(0))と濃度との相関を示すグラフを図4に示した。このグラフの傾きが縦緩和の緩和度(r1[mM-1-1])、及び横緩和の緩和度(r2[mM-1-1])をそれぞれ示す。その具体的な値は表4に示す。なお、濃度1.6mM以上のサンプルは、測定後の目視で凝集が認められたため、r1、及びr2の算出には、0.8mMまでの値を用いて行なった。また、図3及び図4のグラフにおいては、濃度0mMのブランクのプロットも明示してある。
【0122】
・r1及びr2
下記の表4は、TMAOHサンプルと純水サンプルとのr1及びr2の値を記す。また、これらの値から算出される緩和度の比(r2/r1)も記す。
【表4】

【0123】
(考察)
純水サンプルは高濃度では凝集が観察されたが、1mMまでの値を用いて緩和度を算出したところ、r1≒7/mM/秒、r2≒250/mM/秒であった。
一方、市販薬の陰性造影剤のリゾビスト(バイエル薬品株式会社製)は、0.47Tの値でr1=25.4、r2=151であり、このときのr2/r1の値は5.9である。また、陽性造影剤のMION(Monocrystalline Iron Oxide Nanoparticle)は、0.47Tの値でr1=3.7、r2=6.5であり、このときのr2/r1の値は1.8である。従って、FePtは陰性造影剤としてリゾビスト以上の性能を有している。
また、300gのラットに用いる場合、血液中に約0.1mMを達成すべく、1mM溶液を約2〜3mL静脈投与することで十分効果が得られると予想される。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は産業上の任意の分野で使用可能であり、常磁性ナノ粒子を用いる分野に広く応用できるが、中でも親水性の常磁性ナノ粒子を用いる分野に応用でき、特にMRI造影剤等の磁気医療の分野に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】TMAOHサンプルの縦緩和の緩和速度(1/T1−1/T1(0))と濃度との相関を示すグラフである。
【図2】TMAOHサンプルの横緩和の緩和速度(1/T2−1/T2(0))と濃度との相関を示すグラフである。
【図3】純水サンプルの縦緩和の緩和速度(1/T1−1/T1(0))と濃度との相関を示すグラフである。
【図4】純水サンプルの横緩和の緩和速度(1/T2−1/T2(0))と濃度との相関を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が9nmを超え15nm以下であり、かつ、
Fe及びPtを含有し、Feの平均含有割合が35原子%以上である
ことを特徴とする、造影剤粒子。
【請求項2】
粒子表面に、親水性の化合物が配位される
ことを特徴とする、請求項1に記載の造影剤粒子。
【請求項3】
平均結晶子径が平均粒径の70%以上である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の造影剤粒子。
【請求項4】
親水性の化合物が、分子中にOH基、SH基、COOH基、及びNH2基からなる群より選ばれる親水性基を少なくとも2つ以上有する化合物である
ことを特徴とする、請求項3に記載の造影剤粒子。
【請求項5】
分散媒と、該分散媒に分散した請求項1〜4に記載の造影剤粒子とを有する
ことを特徴とする、造影剤。
【請求項6】
有機酸及び有機塩基の共存下、該有機塩基を該有機酸に対し過剰に用い、Fe原料とPt原料とを反応させる工程を有する
ことを特徴とする、造影剤粒子の製造方法。
【請求項7】
平均粒径が9nmを超え15nm以下であり、
Fe及びPtを含有し、Feの平均含有割合が35原子%以上であり、且つ、
粒子表面にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが配位される
ことを特徴とする、ナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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