説明

連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法

【課題】FCC装置から得られる分解軽油(LCO)等を原料にして芳香族炭化水素を製造する連続式流動接触芳香族製造プラントにおいて、効率的に安定して芳香族炭化水素を製造でき、反応系を高圧下にすることに伴う動力増大を低減できる運転方法を提供する。
【解決手段】LCO等の原料油を流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を得る流動床反応器12と熱付け用燃料を酸素含有ガスの存在下に燃焼させて流動床反応器12内から抜き出された芳香族製造触媒に熱付けを行う熱付け槽14と熱付け槽14に酸素含有ガスを供給する送風手段(エアブロア20)とを有する連続式流動接触芳香族製造プラント10の運転方法であって、流動床反応器12内の圧力を0.3MPaG〜0.6MPaGとし、熱付け槽14内の圧力を流動床反応器12内よりも高くし、熱付け槽14から排出される燃焼ガスの圧力エネルギーを送風手段の動力として利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床反応器を用いた接触芳香族製造反応により芳香族炭化水素を製造する連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油蒸留装置から得られる軽質ナフサ、重質ナフサ等から接触芳香族製造反応により、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン等)等の芳香族炭化水素を製造する方法はよく知られている。一般に、これらの製造方式としては、粒状の芳香族製造触媒を用いた固定床または移動床による方式が採用されている。
【0003】
芳香族製造反応は、通常、吸熱反応であるため、その反応熱を補うための熱供給の方法およびそれに関連する温度制御の手法が課題となっている。また、原料が軽質ナフサの場合はともかく、重質ナフサ、とりわけ流動接触分解(以下、FCCと記す。)装置からの分解軽油(ライトサイクルオイル。以下、LCOと記す。)となったときは、反応操作の進行に伴うコークの発生が著しく、芳香族製造触媒の再生の頻度も著しくなる。
【0004】
そのため、これらの課題に対処するために、従来の固定床や移動床による方式に代え、流動床による方式も提案されている(例えば、特許文献1等)。
流動床による方式を採用することで、反応床を完全混合に近い状態に維持することができ、反応温度を均一に保つことが容易になるとともに、原料が重質化した場合のコーク劣化した芳香族製造触媒を適宜流動床反応器から抜き出すことで、再生を円滑に行うことができる。すなわち、原料との接触によって芳香族製造触媒にコークが付着し、芳香族製造触媒が不活性化するため、流動床反応器内から抜き出された芳香族製造触媒を再生器に移送し、該再生器内にて芳香族製造触媒に付着したコークを外部から供給された空気の存在下に燃焼させて芳香族製造触媒を再生した後、再生された芳香族製造触媒を流動床反応器に移送することが行われる。
【0005】
しかし、流動床反応器において芳香族製造触媒に付着するコーク量が少ない場合は、再生器内にてコークを燃焼させても、流動床反応器における芳香族製造反応(吸熱反応)に必要な熱を得ることはできない。そのため、流動床反応器に供給する前の原料を、予熱器によってあらかじめ反応温度以上にまで加熱する必要がある。
【0006】
しかし、予熱器による原料の加熱では、流動床反応器に熱を十分に供給できない。また、芳香族製造反応が急激に進行する等によって流動床反応器内の温度が急激に低下した場合に、不足する熱を迅速に供給できない。ただし、再生器内の芳香族製造触媒より芳香族製造反応(吸熱反応)に必要な熱を与えるために、再生器触媒床にトーチオイルを注入して、空気で燃焼させ、触媒床温度を高くする方法を採用すれば、効率的に、かつ安定してBTXを含む生成油を製造できる。
【0007】
また、再生器内にて再生された芳香族製造触媒を流動床反応器に移送するためには、再生器内の圧力を流動床反応器内の圧力よりも高くする必要がある。そのため、再生器内にてコークを燃焼させるための空気を、エアブロアによって多量に、かつ安定的に再生器に供給する必要がある。さらに、芳香族製造反応を行う場合の流動床反応器内の圧力(0.3MPaG〜0.6MPaG)が、通常の流動床反応器内の圧力(例えばFCCの場合、0.15MPaG〜0.2MPaG)よりも高いため、熱付け槽を含めた反応系全体を通常よりも高圧下にする必要がある。
【0008】
しかし、空気をより多量に、かつ安定的に再生器に供給するための動力が不足し、多量の空気を安定して供給できないことがある。そのため、再生された芳香族製造触媒を流動床反応器に安定して移送できず、効率的に、かつ安定してBTXを含む生成油を製造できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平3−503656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、FCC装置から得られるLCO、原油蒸留装置からのナフサおよび直留軽油等を原料にして芳香族炭化水素を製造する連続式流動接触芳香族製造プラントにおいて、効率的に、安定して芳香族炭化水素を製造でき、かつ反応系を高圧下にすることに伴う動力増大を低減できる運転方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法は、FCC装置から得られる分解軽油、該分解軽油を水素化処理したものならびに原油蒸留装置からのナフサおよび直留軽油等からなる群から選ばれる1種以上の留出油を、流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る流動床反応器と、外部から供給された熱付け用燃料を酸素含有ガスの存在下に燃焼させることによって、前記流動床反応器内から抜き出された前記芳香族製造触媒に熱付けを行う熱付け槽と、前記熱付け槽に前記酸素含有ガスを供給する送風手段とを有する連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法であって、前記流動床反応器内の圧力を、0.3MPaG〜0.6MPaGとし、前記熱付け槽内の圧力を、流動床反応器内の圧力よりも高くし、前記熱付け槽から排出される、前記熱付け用燃料の燃焼によって発生した燃焼ガスの圧力エネルギーを、前記送風手段の動力として利用することを特徴とする。
【0012】
本発明の連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法においては、前記熱付け槽から排出される前記燃焼ガスをエキスパンダに通すことによって、前記燃焼ガスの圧力エネルギーを前記エキスパンダによって機械エネルギーに変換し、該機械エネルギーによって、前記エキスパンダに接続された前記送風手段を駆動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法によれば、FCC装置から得られるLCO、原油蒸留装置からのナフサおよび直留軽油等を原料にして芳香族炭化水素を製造する連続式流動接触芳香族製造プラントにおいて、効率的に、安定して芳香族炭化水素を製造でき、かつ反応系を高圧下にすることに伴う動力増大を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】連続式流動接触芳香族製造プラントの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、連続式流動接触芳香族製造プラントの一例を示す概略構成図である。連続式流動接触芳香族製造プラント10は、流動床反応器12と、熱付け槽14と、セパレータ16と、エキスパンダ18と、エキスパンダ18に直結したエアブロア20(送風手段)と、エキスパンダ18およびエアブロア20に連結したモータ/発電機22と、廃熱ボイラ24と、末端が流動床反応器12に接続された触媒ライザ26と、基端が流動床反応器12に接続され、末端が熱付け槽14に接続された第1の傾斜パイプ28と、基端が熱付け槽14に接続され、末端が触媒ライザ26の基端に接続された第2の傾斜パイプ30と、末端が触媒ライザ26の基端に接続されたフィードパイプ32と、基端が流動床反応器12に接続された排出パイプ34と、末端が熱付け槽14に接続された燃料パイプ36と、基端がエアブロア20に接続され、末端が熱付け槽14に接続されたエアパイプ38と、基端が熱付け槽14に接続され、末端がセパレータ16に接続された第1の排気パイプ40と、基端がセパレータ16に接続され、末端がエキスパンダ18に接続された第2の排気パイプ42と、基端がエキスパンダ18に接続され、末端が廃熱ボイラ24に接続された第3の排気パイプ44とを備える。
【0016】
流動床反応器12は、原料油を流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させてBTXを多く含む生成油を得るためのものであり、触媒ライザ26を通って移送された原料油の蒸気および芳香族製造触媒を内部に導入する供給口と、芳香族製造触媒を第1の傾斜パイプ28へ抜き出す抜出口と、生成油の蒸気と芳香族製造触媒とを分離するサイクロンと、サイクロンで分離された生成油の蒸気を排出パイプ34へ排出する排出口とを備える。
【0017】
熱付け槽14は、芳香族製造触媒に付着したコークの燃焼による熱に依存することなく、外部から供給されたエネルギーによって芳香族製造触媒に積極的に熱付けするためのもの、すなわちこれ自体が大きな加熱装置そのものであり、第1の傾斜パイプ28を通って移送された芳香族製造触媒を内部に導入する供給口と、芳香族製造触媒を第2の傾斜パイプ30へ抜き出す抜出口と、燃料パイプ36を通って外部から供給された熱付け用燃料を内部に導入する供給口と、エアパイプ38を通って供給された空気(酸素含有ガス)を内部に導入する供給口と、燃焼によって発生した燃焼ガスを第1の排気パイプ40へ排気する排気口とを備える。
【0018】
セパレータ16は、燃焼ガスに含まれる芳香族製造触媒を燃焼ガスから分離するためのものであり、エキスパンダ18へ送られる燃焼ガス中に芳香族製造触媒が同伴し、芳香族製造触媒によってエキスパンダ18のタービンが摩耗することを抑える。
【0019】
エキスパンダ18は、吸入側の燃焼ガスの圧力と排出側の圧力(大気圧)との差圧を利用するものであり、内部を通過する燃焼ガスでタービンを回転させることによって、燃焼ガスの圧力エネルギーを回転力エネルギー(機械エネルギー)に変換、回収するものである。
【0020】
エアブロア20は、エキスパンダ18およびまたはモータ/発電機22からの回転力エネルギーを動力としてロータを回転させ、空気を送り出すものである。エアブロア20としては、遠心式、軸流式等が挙げられる。
【0021】
廃熱ボイラ24は、エキスパンダ18から排出される高温の燃焼ガスによって水を加熱し、水蒸気を発生させることによって、燃焼ガスの熱エネルギーを回収するものである。
【0022】
触媒ライザ26は、垂直方向に延びるパイプ状のものであり、第2の傾斜パイプ30を通って移送された芳香族製造触媒を内部に導入する供給口と、フィードパイプ32を通って供給された原料油の蒸気を内部に導入する供給口とを備える。
【0023】
図1の連続式流動接触芳香族製造プラント10の運転は、例えば、以下のように行われる。
フィードパイプ32の途中に設けられた予熱器(図示略)によってあらかじめ加熱された原料油の蒸気を、フィードパイプ32から触媒ライザ26に連続的に導入する。これと同時に、熱付け槽14にて熱付けされた芳香族製造触媒を、第2の傾斜パイプ30から触媒ライザ26に連続的に導入し、触媒ライザ26を上昇する原料油の蒸気を移送媒体として、流動床反応器12へ移送する。
【0024】
触媒ライザ26から流動床反応器12に原料油の蒸気とともに連続的に導入された芳香族製造触媒は、原料油の蒸気によって流動床状態となる。流動床状態にて原料油の蒸気と芳香族製造触媒とが接触し、BTXを多く含む生成油の蒸気が得られる。生成油の蒸気と芳香族製造触媒とを、サイクロンによって分離し、生成油の蒸気を排出パイプ34へ連続的に排出し、排出パイプ34を通って後段の蒸留塔(図示略)等へ移送する。原料油の蒸気との接触によってコークが付着し、部分的に不活性化した芳香族製造触媒の一部を、流動床反応器12から第1の傾斜パイプ28へ連続的に抜き出す。
【0025】
燃料パイプ36を通って外部から供給された熱付け用燃料を、エアパイプ38を通ってエアブロア20から供給された空気(酸素含有ガス)の存在下に燃焼させることによって、第1の傾斜パイプ28から熱付け槽14に連続的に導入された芳香族製造触媒に、流動床反応器12内の反応温度以上に連続的に熱付けする。また、熱付け時には、芳香族製造触媒に付着したコークも燃焼するため、芳香族製造触媒の再生も行われる。燃焼によって発生した燃焼ガスを、第1の排気パイプ40へ連続的に排気する。熱付けされた芳香族製造触媒を、熱付け槽14から第2の傾斜パイプ30へ連続的に抜き出し、第2の傾斜パイプ30から触媒ライザ26に再び導入する。このように、芳香族製造触媒は、流動床反応器12と熱付け槽14との間を絶えず循環している。
【0026】
第1の排気パイプ40へ排気された燃焼ガスをセパレータ16に導入し、セパレータ16にて燃焼ガスから芳香族製造触媒を分離する。セパレータ16から第2の排気パイプ42へ連続的に排気され、エキスパンダ18に導入された燃焼ガスによって、エキスパンダ18のタービンを回転させ、燃焼ガスの圧力エネルギーを回転力エネルギー(機械エネルギー)に変換、回収する。エキスパンダ18から第3の排気パイプ44へ連続的に排気され、廃熱ボイラ24に導入された燃焼ガスから熱エネルギーを回収した後、燃焼ガスを外部に排出する。
【0027】
熱付け槽14への空気の供給は、以下のように行う。
連続式流動接触芳香族製造プラント10の運転開始時には、モータ/発電機22のモータを駆動させ、モータの回転力エネルギーによってモータ/発電機22に連結したエアブロア20を駆動させ、空気をエアパイプ38に送り出し、エアパイプ38から熱付け槽14へ供給する。
【0028】
連続式流動接触芳香族製造プラント10の通常運転時には、エキスパンダ18にて燃焼ガスの圧力エネルギーから変換、回収された回転力エネルギーによって、エキスパンダ18と同軸上に配置されたエアブロア20を駆動させ、空気をエアパイプ38に送り出し、エアパイプ38から熱付け槽14へ供給する。エキスパンダ18からの回転力エネルギーだけではエアブロア20の動力が不足する場合は、モータ/発電機22のモータを駆動させ、モータの回転力エネルギーによって動力を補う。エキスパンダ18から余剰の回転力エネルギーが発生する場合は、モータ/発電機22の発電機を駆動させ、余剰の回転力エネルギーを電力エネルギーとして回収する。
【0029】
原料油としては、FCC装置から得られるLCO、該LCOを水素化処理したものならびに原油蒸留装置からのナフサおよび直留軽油等からなる群から選ばれる1種以上を用いる。これら原料油を用いた場合、該原料油と芳香族製造触媒とが接触した際に芳香族製造触媒に付着するコーク量は必ずしも多くない。また、これら原料油の芳香族製造反応を行う際の反応系の圧力はFCC装置に比べて高くなる。よって、これら原料油から芳香族炭化水素を含む生成油を効率的に、かつ安定して製造するためには、本発明の運転方法が有効となる。
【0030】
芳香族製造触媒は、結晶性アルミノシリケートを含むものである。
結晶性アルミノシリケートの含有量は、特に限定されないが、10〜95質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、25〜70質量%がさらに好ましい。
【0031】
結晶性アルミノシリケートとしては、特に限定されないが、例えば、中孔径ゼオライトであるMFI、MEL、TON、MTT、MRE、FER、AEL、EUOタイプのゼオライトが好ましく、MFIタイプおよび/またはMELタイプの結晶構造体がより好ましい。MFIタイプ、MELタイプ等の結晶性アルミノシリケートは、The Structure Commission of the International Zeolite Associationにより公表された種類の公知ゼオライト構造型に属する(Atlas of Zeolite Structure Types,W.M.Meiyer and D.H.Olson (1978).Distributed by Polycrystal Book Service,Pittsburgh,PA,USA)。
【0032】
結晶性アルミノシリケートとしては、ガリウムを含むものが好ましい。ガリウムを含むことにより、より効率的にBTXを製造できると同時に、炭素数3〜6の非芳香族炭化水素の副生を大幅に抑制できる。
ガリウムを含む結晶性アルミノシリケートとしては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウムが組み込まれたもの(結晶性アルミノガロシリケート)、結晶性アルミノシリケートにガリウムを担持したもの(Ga担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
【0033】
Ga担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。この際に用いるガリウム源としては、特に限定されないが、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩、酸化ガリウム等が挙げられる。
【0034】
結晶性アルミノガロシリケートは、SiO、AlOおよびGaO構造が骨格中において四面体配位をとる構造のもので、水熱合成によるゲル結晶化、結晶性アルミノシリケートの格子骨格中にガリウムを挿入する方法、または結晶性ガロシリケートの格子骨格中にアルミニウムを挿入する方法で得ることができる。
結晶性アルミノシリケートの粒子寸法は、通常、0.01〜2μmであり、0.02〜1μmが好ましい。
【0035】
熱付け用燃料としては、芳香族製造触媒に付着したコーク以外の燃料であって、外部から供給された燃料(いわゆるトーチオイル)、例えば、連続式流動接触芳香族製造プラント10で得られた生成油の蒸留塔底油等が挙げられ、特に芳香族製造触媒の水蒸気による劣化の問題を回避するという点から、水素原子に対する炭素原子の比率(C/H)が比較的大きい蒸留塔底油が好ましい。
酸素含有ガスとしては、空気、純酸素等が挙げられ、経済的な観点から、空気が好ましい。
【0036】
予熱器(図示略)による原料油の加熱温度は、流動床反応器12内での芳香族製造反応に必要な熱は熱付けされた芳香族製造触媒によって供給される点から、流動床反応器12内の反応温度未満であればよく、250〜450℃が好ましい。
【0037】
流動床反応器12内の圧力は、0.3MPaG〜0.6MPaGであり、0.3MPaG〜0.5MPaGが好ましく、0.3MPaG〜0.4MPaGがより好ましい。流動床反応器12内の圧力が0.3MPaG以上であれば、BTXを効率的に製造できる。ただし、流動床反応器12内の圧力が0.6MPaGを超えると、熱付け槽14からの排気ガスの圧力も高くなりすぎるため、排気ガスの高い圧力に耐え得るようにエキスパンダ18の設計を見直す必要があり、その結果、エキスパンダ18が特殊なものとなってプラントのコスト増につながる。また、流動床反応器12内の圧力が0.6MPaGを超えると、BTXの収率も低下する。
【0038】
流動床反応器12内の反応温度は、350〜700℃が好ましく、520〜600℃がより好ましい。反応温度が350℃以上であれば、芳香族製造触媒の活性が十分となる。反応温度が700℃以下であれば、過度の分解反応が抑制される。
【0039】
流動床反応器12内における原料油と芳香族製造触媒と接触時間は、5〜30秒が好ましく、15〜20秒がより好ましい。接触時間が5秒以上であれば、芳香族製造反応が十分に進行する。接触時間が30秒以下であれば、分解によって副生する軽質ガスの量を抑制できる。
【0040】
流動床反応器12内から抜き出される芳香族製造触媒の量(循環量)は、流動床反応器12に供給される原料油1トンあたり5〜30トンが好ましく、これは全体の熱バランスとも関連し決められるものである。
【0041】
熱付け槽14内の圧力は、熱付け槽14が流動床反応器12より低い位置に置かれる場合、熱付けされた芳香族製造触媒を流動床反応器12へ移送する点から、流動床反応器12内の圧力よりも高くする。熱付け槽14内の圧力は、流動床反応器12内の圧力より0.05MPa程度高いことが好ましく、0.03MPa〜0.10MPa高いことがより好ましい。
熱付け槽14内の圧力は、エアブロア20からの空気の量や排気パイプの途中に設けられた調整弁によって調整される。
【0042】
熱付け槽14内の温度は、流動床反応器12内での芳香族製造反応に必要な熱は熱付けされた芳香族製造触媒によって供給される点から、流動床反応器12内の反応温度以上であり、500〜800℃が好ましく、600〜700℃がより好ましい。
【0043】
熱付け槽14への熱付け用燃料(蒸留塔底油の場合)の供給量は、流動床反応器12に供給される原料油1トンあたり0.02〜0.08トンが好ましく、これはコーク生成量と全体の熱バランスから決まる。
【0044】
以上説明した本発明の連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法にあっては、流動床反応器内から抜き出された芳香族製造触媒を、外部から供給された熱付け用燃料を酸素含有ガスの存在下に燃焼させることによって、熱付け槽にて熱付けしているため、芳香族製造触媒に付着したコークの燃焼による熱に依存することなく、外部から供給された熱付け用燃料によって積極的に熱付けされた芳香族製造触媒によって効率よく、かつ安定的に流動床反応器内での芳香族製造反応(吸熱反応)に必要な熱を十分に補うことができる。そのため、芳香族製造触媒と接触した際に芳香族製造触媒に付着するコーク量が少なくなるような原料油(LCO等)を原料に用いているにもかかわらず、効率的に、かつ安定してBTXを製造できる。
【0045】
また、以上説明した本発明の連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法にあっては、熱付け槽から排出される、熱付け用燃料の燃焼によって発生した燃焼ガスの圧力エネルギーを、送風手段の動力として利用しているため、送風手段の動力が不足することがなく、多量の空気を安定して熱付け槽に供給できる。そのため、熱付け槽にて再生された芳香族製造触媒を流動床反応器に安定して移送でき、効率的に、かつ安定してBTXを製造できる。特に、連続式流動接触芳香族製造プラントにおける芳香族製造反応は、高い圧力(0.3MPaG〜0.6MPaG)で行われるため、熱付け槽から排出される燃焼ガスの圧力エネルギーも十分に高くなり、この高い圧力エネルギーを回収することによって、反応系を高圧下にすることに伴う動力増大を十分に低減できる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示す。
〔実施例1〕
図1に示す構成の連続式流動接触芳香族製造プラント10を用い、下記の運転条件にてBTXの製造を行い、このデータをもとにBTXの製造量等を計算で求めた。
【0047】
(運転条件)
予熱器(図示略)による原料油の加熱温度:410℃、
触媒ライザ26への原料油(蒸気)の供給量:100トン/hr、
流動床反応器12内の圧力:0.3MPaG、
流動床反応器12内の反応温度:560℃、
流動床反応器12内における原料油と芳香族製造触媒と接触時間:18秒、
熱付け槽14内の圧力:0.35MPaG、
熱付け槽14内の温度:650℃、
熱付け槽14への熱付け用燃料の供給量:0.055トン/原料油1トン、
熱付け槽14への空気の供給量:0.80トン/原料油1トン、
芳香族製造触媒の循環量:17.6トン/原料油1トン、
【0048】
なお、原料油としては、LCOを用いた。
熱付け用燃料(トーチオイル)としては、生成油の蒸留塔底油を用いた。
芳香族製造触媒としては、格子骨格内にガリウムが組み込まれたMFIタイプのゼオライト(粒子寸法:約0.3μm)を含む芳香族製造触媒を用いた。
【0049】
運転中、熱付け槽14で熱付けされた芳香族製造触媒によって効率よく熱を流動床反応器12に供給でき、流動床反応器12内の温度が大きく変動することはなく、安定して生成油を得ることができた。生成油に含まれるBTXの量は、43質量%であった。
また、連続式流動接触芳香族製造プラント10の通常運転時には、エキスパンダ18にて燃焼ガスの圧力エネルギーから変換、回収された回転力エネルギーのみでエアブロア20を駆動させることができ、かつ十分な量の空気を効率よく、安定して熱付け槽14に供給できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、FCC装置から得られるLCOおよび原油蒸留装置からのナフサ等を原料にした芳香族炭化水素の製造に有用である。
【符号の説明】
【0051】
10 連続式流動接触芳香族製造プラント
12 流動床反応器
14 熱付け槽
18 エキスパンダ
20 エアブロア(送風手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動接触分解装置から得られる分解軽油、該分解軽油を水素化処理したものならびに原油蒸留装置からのナフサおよび直留軽油からなる群から選ばれる1種以上の留出油を、流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る流動床反応器と、
外部から供給された熱付け用燃料を酸素含有ガスの存在下に燃焼させることによって、前記流動床反応器内から抜き出された前記芳香族製造触媒に熱付けを行う熱付け槽と、
前記熱付け槽に前記酸素含有ガスを供給する送風手段とを有する連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法であって、
前記流動床反応器内の圧力を、0.3MPaG〜0.6MPaGとし、
前記熱付け槽内の圧力を、流動床反応器内の圧力よりも高くし、
前記熱付け槽から排出される、前記熱付け用燃料の燃焼によって発生した燃焼ガスの圧力エネルギーを、前記送風手段の動力として利用することを特徴とする連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法。
【請求項2】
前記熱付け槽から排出される前記燃焼ガスをエキスパンダに通すことによって、前記燃焼ガスの圧力エネルギーを前記エキスパンダによって機械エネルギーに変換し、
該機械エネルギーによって、前記エキスパンダに接続された前記送風手段を駆動させる、請求項1に記載の連続式流動接触芳香族製造プラントの運転方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−32333(P2011−32333A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178315(P2009−178315)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】