連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法及び材料設計装置
【課題】ベンチプラントを省略して、薄膜素材の材料開発を安価で、かつ、迅速に行う仕組みを提供する。
【解決手段】連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100において、試験用鋳造装置210による小規模試験で得られた凝固組織を、この小規模試験を模擬した鋳造シミュレーションを実施して得られた局所温度履歴で整理することによって、同一の局所温度履歴を再現し得る大規模な量産用連続鋳造装置220の仕様を、鋳造シミュレーションによって決定する。
【解決手段】連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100において、試験用鋳造装置210による小規模試験で得られた凝固組織を、この小規模試験を模擬した鋳造シミュレーションを実施して得られた局所温度履歴で整理することによって、同一の局所温度履歴を再現し得る大規模な量産用連続鋳造装置220の仕様を、鋳造シミュレーションによって決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材産業における材質設計技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造によって製造される薄膜素材は、ニアネットシェープで製造される機能性材料として広く産業界で適用されている。この内、特に高速に鋳造され凝固速度も比較的大きいものとして、例えば、下記の特許文献1に例示される双ロール鋳造法を用いた磁気テープ用素材、下記の特許文献2に例示される単ロール鋳造法を用いたトランス用磁性素材、下記の特許文献3に例示されるEFG法を用いた太陽電池用多結晶シリコン素材等が挙げられる。これらの素材では、凝固速度が大きいことを利用して凝固組織を制御することによって特異な機能を発揮させ、また、ニアネットシェープであり、圧延等の追加加工が必要ないため、凝固組織が最終製品の組織まで維持される場合が多い。従って、これらの素材においては、凝固組織の作り込みが重要である。
【0003】
凝固組織の作り込みにおいては、凝固時の温度履歴が素材の凝固時の結晶組織に大きな影響を与える。また、鋳造装置や作業条件等の製造プロセス条件の違いによって、素材の凝固時の温度履歴は大きく変化し得る。従って、薄膜の高速凝固によって製造される素材のように、材質と製造プロセス条件が密接に関係する素材で、工業化(量産化)を図る場合の材料設計では、金属学的設計と製造プロセス設計の両者を好適に組み合わせることが重要である。
【0004】
このような材料設計においては、最終的な量産装置を用いて材料開発の試験を行うことに大きなリスクと費用が伴うので、通常、材料設計は、装置を替えた複数の設計フェーズを設定し、順次、試験規模を拡大する方法を採用する場合が多い。
【0005】
例えば、次のような3つの設計フェーズが設定される。
設計フェーズ1は、材質素設計の工程であり、その目的は、安価・簡易に多数の成分/熱処理条件を変更して最適条件を求めることである。
設計フェーズ2は、プロセス設計の工程であり、その目的は、所与の成分や熱処理条件を実現する、最も安価・高生産性な生産装置を設計することである。
設計フェーズ3は、実機調整であり、その目的は、生産機での、製造条件のファインチューニングを行うことである。
【0006】
また、設計フェーズ1と2の間に、適宜、ベンチプラントの設計フェーズを置くこともある。各設計フェーズごとに製造装置(鋳造装置)は、通常、異なる。これは、各設計フェーズで目的が異なるので、最適な鋳造装置も設計フェーズごとに一般には異なるからである。
【0007】
具体的には、設計フェーズ1では、一般に小型で条件変更容易な装置が適用される。例えば、設計フェーズ1で用いられる装置としては、単ロール鋳造法の装置を用いてもよいし、また、連続鋳造法である必要は必ずしもないので、下記の非特許文献1に例示されるImpact Droplet鋳造法等の装置を用いてもよい。
これに対して、設計フェーズ2では、大型で生産性の比較的高い形式の装置が適用される。例えば、設計フェーズ2で用いられる装置としては、メルトスピニング、PFC、双ロール法、メルトドラッグ法、遠心鋳造紡糸法、EFG法等の装置である。このような装置では、一般に、装置や作業条件の変更は困難である。
設計フェーズ3では、設計フェーズ2で確定された形式の装置をさらに大型化、高生産性化した装置を用いる場合がある。但し、設計フェーズ2の装置で所要の生産性を確保できる場合には、設計フェーズ3専用の装置を新たに準備せず、設計フェーズ2の装置をそのまま適用し、又は、設計フェーズ2の装置を改造して設計フェーズ3の目的である実機ファインチューニングを行うこともある。このため、設計フェーズ2−3間では装置の形式が異なることはまれであるが、設計フェーズ1−2間では装置形式が異なり得る。装置形式が異なる鋳造装置では、伝熱機構が異なり得るので、設計フェーズ1−2間では、装置条件差を適切に評価する必要がある。
【0008】
しかしながら、従来技術においては、鋳造装置での製造条件(即ち、装置条件及び作業条件)を整理する方法として、マクロな操業パラメータ(例えば、ノズルの噴射圧力や溶湯注入時温度、冷却材温度等)しか用いられてこなかった。このため、異なる形式の鋳造装置間で、製造条件を互いに変換することが極めて困難であった。その結果、従来技術における設計フェーズ1−2間での装置条件移行方法は、以下の第1及び第2のいずれかの方法が採用されてきた。
【0009】
第1の方法は、まず、設計フェーズ2と同型式であるが小型で生産性の低いベンチプラントを建設して試験を行い、その後、順次、スケールアップしたベンチプラントを製作して設計フェーズ2とするものである。
第2の方法は、設計フェーズ2における製造装置を、広い製造条件を実現できるような高機能な仕様として建設し、設計フェーズ1−2間の製造条件差を設計フェーズ2の装置側で吸収しようとするものである。
【0010】
次に、鋳造シミュレーションについて説明する。
凝固現象を数値解析によって定量的に表現する手法として、従来、各種の鋳造シミュレーション手法が提案されている。例えば、下記の特許文献2には、単ロール凝固法に対する鋳造シミュレーション方法が開示されている。また、Impact droplet法に関しては例えば下記の非特許文献3に、双ロール凝固法に関しては例えば下記の非特許文献4に、鋳造シミュレーション手法が開示されている。
【0011】
ところで、凝固の生じる際の結晶化形態、即ち、凝固組織は、凝固時の材料の応力分布や温度分布に大きな影響を与えるので、凝固シミュレーションを行う際には、予め局所での凝固組織を特定する必要がある。特定の凝固組織、例えば、柱状デンドライト晶や等軸晶に関しては、凝固モデル(即ち、凝固領域内での質量、運動量、並びに、エネルギの保存式を用いて凝固現象を表現する数学モデリング)が多数開示されている(例えば、下記の非特許文献5)。
【0012】
前記の鋳造シミュレーションは、いずれも凝固組織を予め何らかの別の方法を用いて、例えば、凝固シミュレーションに相当する条件での鋳造試験を行い、その結果得られた凝固組織等を用いて、与えている。また、凝固組織を先験的に与える方法として、例えば下記の特許文献4ではセルラーオートマトンを用いて、また、例えば下記の特許文献5ではミクロ偏析モデルを用いて、凝固組織を直接、予測する鋳造シミュレーション方法が提案されている。
【0013】
また、ミクロな操業パラメータと凝固組織の関係を整理する方法としては、例えば下記の特許文献6に開示されるTTT線図を凝固現象まで拡張したものや、例えば下記の非特許文献2に示される整理等が知られている。また、下記の特許文献7には、凝固時の鋳片の表面温度分布測定を行って鋳片表面における冷却速度と温度勾配を凝固組織の評価指標(鋳片表面でのチル晶厚)と対応付ける方法が開示されている。また、前記凝固組織の評価指標を求める際に鋳造シミュレーションを用いる方法も、下記の特許文献7及び特許文献8に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−288520号公報
【特許文献2】特開2007−69252号公報
【特許文献3】特開平5−501538号公報
【特許文献4】特開2000−351061号公報
【特許文献5】特開2008−188640号公報
【特許文献6】特開2008−161924号公報
【特許文献7】特開2006−116603号公報
【特許文献8】国際公開第96/30141号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Liu, W., Wang, G. X., and Matthys, E. F. : International journal of heat mass transfer, vol.38(1995), PP1387-1395.
【非特許文献2】Kurz, W. and Fisher, D. J. : Fundamentals of solodofication, trans tech publication, Switzerland, 1984.
【非特許文献3】Ghafouri-Azar, R., et al. : International journal of heat mass transfer, vol.46(2003), PP.1395-1407.
【非特許文献4】Chang, J.-G. and Weng, C.-I. : International journal of heat mass transfer, vol4.1(1998), PP475-487.
【非特許文献5】Pequet, Ch., et al. : Metallurgical and Materials transaction A, vol.33A(2002), PP.2002-2095.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述した設計フェーズ1−2間での装置条件の移行方法において、従来の第1の方法では、ベンチプラントを建設する必要があるため、材料設計に多大な時間を必要とするので問題である。また、従来の第2の方法では、設計フェーズ2用の製造装置が高価なものとなり、建設に多大な時間も必要であるため問題である。
【0017】
鋳造シミュレーションのみを用いて、未知の装置条件及び未知の作業条件に対して凝固組織や材質を先験的に正確に予測することができれば、設計フェーズ1はそもそも不要であり、このような問題は生じない。
【0018】
しかしながら、先験的な凝固組織予測を用いた鋳造シミュレーションのためには、いくつかのモデル定数(例えば、冷却装置と鋳片表面との間の熱伝達係数(又は、熱抵抗)、材料物性値、凝固核生成に関する過冷度と保持時間、及び、凝固組織の平均的形状を表すパラメータ値とこのパラメータ値から算出される物質拡散に係わる諸定数等)を適切に設定する必要がある。そして、これらモデル定数の最適値も検討対象ごとに異なるので、検討対象ごとの予備知見なしに、これら凝固モデル定数を適切に設定することは、現実的には容易ではない。このため、現状において、材質試験や組織調査の実測結果を援用することなく正確な凝固組織を鋳造シミュレーションで予想することは、極めて困難である。
【0019】
また、前述のように、試験で得られた凝固組織をミクロな操業パラメータと対応づけ、この操業パラメータを用いて未知の作業条件での凝固組織を求める手法も提案されている。しかしながら、これらの手法では、いずれも、ミクロな操業パラメータ(例えば、局所の冷却速度)と凝固組織の確立された関係を適用する鋳造装置は、試験を行った鋳造装置と実質的に同一であり、未知の作業条件への適用とはいっても、マクロな操業パラメータ(例えば溶湯の注湯時平均温度や鋳型材質等)をわずかに変更するのに留まる比較的小規模な条件変化を対象としている。
【0020】
即ち、これらの従来技術を今回の検討対象にそのまま適用した場合、設計フェーズ3相当の設計に寄与できるのみであり、条件変化の大きい、設計フェーズ1から設計フェーズ2への移行に適用できるものではない。従って、近時では、設計フェーズ1から設計フェーズ2への移行を容易に実現可能な設計手法が求められており、ベンチプラントを省略して、薄膜素材の材料開発を安価で、かつ、迅速に行うことが要請されている。
【0021】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ベンチプラントを省略して、薄膜素材の材料開発を安価で、かつ、迅速に行う仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そこで、本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、前記設計フェーズ1−2間での鋳造装置の移行に関して、以下の発明を想到した。
【0023】
第1発明は、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法であって、試験用の鋳造装置に対して、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で当該薄膜素材を製造させる制御を行う第1の工程と、前記試験用の鋳造装置で製造された薄膜素材の凝固組織を分析して、前記鋳造条件ごとに当該薄膜素材の凝固組織を測定する第2の工程と、前記試験用の鋳造装置において前記第1の工程で測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、前記試験用の鋳造装置及び前記鋳造条件を再現すると共に、前記鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する第3の工程と、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する第4の工程とを有する第1の設計フェーズと、前記試験用の鋳造装置よりも大規模な量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を設定する第5の工程と、前記量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する第6の工程と、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する第7の工程と、前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内でないと判定された場合に、前記量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、前記第6の工程で算出される局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第6の工程及び前記第7の工程を繰り返す第8の工程とを有する第2の設計フェーズとを含むことを特徴とする連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0024】
第2発明は、前記第4の工程において、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせることは、前記局所温度履歴として、特定の鋳造条件に対応する前記鋳造シミュレーションにおいて局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均を算出したものと、前記特定の鋳造条件に関する凝固組織とを組み合わせることを特徴とする第1発明に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0025】
第3発明は、前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定することは、前記局所温度履歴範囲内である、前記第1の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせ範囲内に、前記局所温度履歴である、前記第2の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせが、存在するかを判定することを特徴とする第1又は第2発明に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0026】
第4発明は、前記第4の工程において、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせることは、前記局所温度履歴として、特定の鋳造条件に対応する前記鋳造シミュレーションにおいて所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び前記所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均を算出したものと、前記特定の鋳造条件に関する凝固組織とを組み合わせることを特徴とする第1発明に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0027】
第5発明は、前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定することは、前記局所温度履歴範囲内である、前記第1の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び当該所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせの範囲内に、前記局所温度履歴である、前記第2の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される凝固中の所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び当該所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせが、存在するかを判定することを特徴とする第1又は第4発明に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0028】
第6発明は、前記第2の工程における凝固組織の測定結果を、非晶質、柱状晶、柱状デンドライト晶、又は、等軸晶のいずれかに分類して実績凝固組織分類を得て、次に、前記実績凝固組織分類の変化する境界である凝固組織境界を鋳片表面からの距離の関数である実績凝固組織関数で表し、次に、前記第3の工程における鋳造シミュレーションで用いられる凝固モデルとして、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、及び、等軸晶用の凝固モデルを備え、かつ、当該鋳造シミュレーションにおいて局所での凝固計算に用いる前記凝固モデルを判断する方法として、前記局所の冷却面からの距離を鋳片からの距離として与えた前記実績凝固組織関数を用いて得られた凝固組織を用いることを特徴とする第1〜第5発明のいずれか1つに記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0029】
第7発明は、前記第3の工程における鋳造シミュレーションにおいて、前記局所での凝固組織を、当該局所での前記局所温度履歴と対応付け、次に、前記2つ以上の異なる鋳造条件で製造された前記薄膜素材の前記局所での凝固組織と前記局所温度履歴との対応付けを用いて、凝固組織の境界を局所温度履歴の関数として表す凝固組織予測関数を求め、次に、前記第6の工程における鋳造シミュレーションで用いられる凝固モデルとして、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、及び、等軸晶用の凝固モデルを備え、かつ、当該鋳造シミュレーションにおいて局所での凝固計算に用いる前記凝固モデルを判断する方法として、前記凝固組織予測関数を用いて判断することを特徴とする第1〜第6発明のいずれか1つに記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0030】
第8発明は、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置であって、第1の設計フェーズにおいて、試験用の鋳造装置に対して、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で当該薄膜素材を製造させる制御を行う制御手段と、前記第1の設計フェーズにおいて、前記試験用の鋳造装置で製造された薄膜素材の凝固組織を分析して、前記鋳造条件ごとに当該薄膜素材の凝固組織を測定する測定手段と、前記第1の設計フェーズにおいて、前記制御手段の制御により前記試験用の鋳造装置において測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、前記試験用の鋳造装置及び前記鋳造条件を再現すると共に、前記鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する第1の算出手段と、前記第1の設計フェーズにおいて、前記測定手段で測定された前記凝固組織と、前記第1の算出手段で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する第2の算出手段と、第2の設計フェーズにおいて、前記試験用の鋳造装置よりも大規模な量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を設定する設定手段と、前記第2の設計フェーズにおいて、前記量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する第3の算出手段と、前記第2の設計フェーズにおいて、前記第3の算出手段で算出された局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する判定手段と、前記第2の設計フェーズにおいて、前記第3の算出手段で算出された局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内でないと前記判定手段で判定された場合に、前記量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、前記第3の算出手段で算出される局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第3の算出手段による算出処理及び前記判定手段による判定処理を繰り返す処理手段とを含むことを特徴とする連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置である。
【0031】
次に、本発明の特徴について述べる。
本発明の第1の特徴として、従来技術においては鋳造装置での製造条件(鋳造条件)をマクロな操業パラメータ(例えば、注湯温度等)で整理していたのに対し、本発明では凝固組織にとって普遍的なミクロ操業パラメータである局所温度履歴、特に、局所凝固速度と局所温度勾配を用いて整理する。この結果、本発明では、設計フェーズ1−2間でのように個々の鋳造装置に固有なマクロ操業パラメータの条件の大きく異なる鋳造装置間であっても、互いにマクロ操業パラメータをミクロ操業パラメータに変換して同一の凝固組織を実現することができる。
【0032】
従来技術でも、ミクロ操業パラメータで凝固組織を整理したものは存在するが、いずれも、凝固組織にとって普遍的なミクロ操業パラメータを用いている訳ではない。例えば、特許文献7では、インゴット鋳造を対象としたミクロ操業パラメータとして、鋳造シミュレーションによる鋳片表面での冷却速度(即ち、表面温度の時間微分値)及び鋳片表面での温度空間勾配(即ち、表面温度の空間微分値)の計算値を鋳片表面の凝固組織観察結果と対応付け、さらにこの対応付けのみに基づいてインゴット全体の凝固組織の評価を行っている。
【0033】
この従来技術には以下の問題点が存在するため、この従来技術を設計フェーズ1から設計フェーズ2に移行するような条件の大きく異なる場合の凝固組織予測に適用することはできない。
その第1の理由として、この従来技術において鋳片内部点での局所温度履歴は、鋳片表面とは大きく異なるはずである。本来、鋳片内部点における凝固組織を決定付けるのは、その内部点局所での温度履歴でなければならない。つまり、この従来技術におけるミクロ操業パラメータは、凝固組織にとって普遍的とは言えない。従って、この従来技術で求めたミクロ操業パラメータと凝固組織の関係を、インゴット寸法、形状や鋳造装置構造の大きく変化する条件に対して適用したとしても正確な凝固組織を予測できない。
第2の理由として、この従来技術でミクロ操業パラメータとして用いている冷却速度は、少なくとも、今回対象とする高速凝固においては、凝固組織の普遍的なパラメータになり得ない。なぜならば、局所温度の時間微分値である冷却速度は、今回対象の高速凝固の場合には時間に対して単調減少するとは限らないからである。高速凝固の場合、通常、凝固するためには大きな過冷度が必要であるが(即ち、状態図における液相線温度よりも低い溶湯温度でも凝固核生成しない)、一旦、凝固が始まると、不均一核生成が急速に進行して多大な凝縮熱を発生し、溶湯温度は、時間の経過と共に液相線温度近傍まで上昇する(即ち、局所温度時間微分値は正になる)。これを再輝現象と言う。このような凝固中温度履歴に対する温度時間微分値(即ち、冷却速度)の大小(又は正負)が体系的に凝固組織と関係付けられる根拠は低いと考えられる。この従来技術が相応に有効であったのは、適用対象が粗大インゴットに緩冷却を行う鋳造であったため、再輝現象等の高速凝固時の問題が顕在化しなかったからであり、また、適用対象の条件差が比較的小さかったので、鋳片表面での冷却速度のような普遍的ではないパラメータであっても、条件間での相対評価指標としては機能したためと考えられる。
【0034】
一方、本発明では、鋳片表面及び内部全てでの局所温度履歴を求め、それぞれの部位ごとに凝固組織を評価するので、前記第1の理由に関しては問題ない。また、ミクロ操業パラメータとして冷却速度の代わりに凝固速度を用いる。再輝現象が生じた場合でも結晶成長自身は進行し続ける、即ち、凝固速度は正であり続けるので、本発明は、前記第2の理由に関しても問題ない。
【0035】
本発明の第2の特徴として、本発明においては、局所温度履歴を求めるために凝固ミュレーションを適用し、このシミュレーションを素材表面の実績温度で調整する。本発明での対象には、鋳造シミュレーションを他の方法、例えば、特許文献7でのように実験による測定とは置き換えられない。
【0036】
この理由は、今回対象とする薄膜の高速凝固装置においては、測定には以下のような問題点が存在するからである。
第1に、今回対象である薄膜のような、小領域で高速な凝固現象を定量的に測定する手法が存在しない(又は、測定手法の制約が大きい)。
第2に、測定できるのは通常、薄膜の表面温度のみである。他の部分、例えば、冷却装置との薄膜接触面では冷却速度は薄膜表面の10倍以上にもなり得るため、表面温度のみの把握では温度履歴の評価方法として好適でない。
第3に、溶湯の速度分布情報を正確に測定する手法が存在しない。このため、表面の温度を測定できたとしても、表面での溶湯の流れの向き(順流、逆流)や流速を把握できないので、表面温度分布を表面温度履歴に換算することができない。
第4に、未知の作業条件である設計フェーズ2での設計には、事前に測定値がそもそも存在しない。
【0037】
一方、鋳造シミュレーションでは設定すべきモデル定数が多数存在し、これらモデル定数全ての値を予め正確に得ることは、通常、困難である。これらモデル定数が不正確な場合、鋳造シミュレーションで得られる素材の局所温度履歴の精度も低下する。そこで、本発明では、試験用の鋳造装置での鋳造試験時に定点での素材表面温度を測定し、この測定値を用いて、前記凝固モデル定数を調整する。今回対象での凝固測定は、温度履歴を直接求めるためには精度が不足しているが、素材表面定点温度のような簡易な測定対象であれば、十分信頼に足りるオンライン測定値を与えることができる。このように、本発明では、鋳造シミュレーションとオンライン測定とを組み合わせることで、精度の高い局所温度履歴を求めることができる。
【0038】
本発明の第3の特徴として、本発明では、凝固速度の代わりに所定エンタルピ等値線の成長速度を、局所温度空間勾配の大きさの最大値の代わりに局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値を用いることができる。このようなミクロ操業パラメータの置き換えは、凝固速度が特に大きい場合に有効である。例えば、極端に大きい凝固速度の場合、素材の成分によっては、凝固時に非晶質体(又は、ガラス体)が得られることがある。この場合、凝固潜熱は非晶質体に保持されたままなので、同じ抜熱を行っても、非晶質体の方が結晶質体のものよりも低温まで冷却される。このため、鋳造の計算対象領域内の特定の「局所」において、その位置で結晶化しているか否かで凝固潜熱分、温度が異なることになる。正確な鋳造シミュレーションを行うためにはこの「局所」での過去の温度履歴を参照して、この位置において物理的に相応しい温度を算出する必要があるが、連続鋳造を対象とする鋳造シミュレーションの場合、定常のオイラー座標系で輸送現象モデル(即ち、流れ場や温度場の計算方法)を定式化するため、局所での過去の温度履歴を輸送現象の計算途中で把握することは簡単ではなく、できたとしても、計算誤差や不安定によって温度分布が空間的に歪んだものとなる可能性が高いので、輸送現象の計算途中に局所での過去の温度履歴を参照する方法は必ずしも好適とは言えない。また、温度場の歪みに伴なって結晶領域の形状も歪みを受けるため、結晶領域の時間伸張速度である凝固速度も、この場合、不安定化し易い。
【0039】
そこで、温度場の代わりにエンタルピ場を考える。局所において結晶化の有無にかかわらず、局所が抜熱を受ける場合、当該局所ではその熱量分だけエンタルピが減少するように、エンタルピは冷却に対して変化が単調である。このため、エンタルピの微分値は、正負に変動し難く、安定化し易い(前述のように、局所で抜熱される場合でも再輝によって当該局所で温度が低下するとは限らないので、温度の微分値は正負に変動し得、より不安定である)。局所での抜熱計算を行うためには温度場の計算が必須であるが、前述のように、凝固の生じ得る領域で温度場に歪みを生じた場合でも、エンタルピの空間的・時間的変動幅は温度変動幅に比べて小さいので、ミクロ操業パラメータ値を求める際に必要な微分操作に対しては、温度よりもエンタルピを用いた方が計算が安定する。この相対的に安定な、エンタルピを用いたミクロ操業パラメータを用いて、対応する凝固組織との対応を調査すれば、ミクロ操業パラメータと凝固組織、特に、結晶化の有無の関係がより明確化し易いので、この関係を温度場計算に反映して再計算を行うことを繰り返せば、次第に、温度場を安定化させることができる。また、非晶質体の場合、凝固速度の定義が明確でなくなるが、特定のエンタルピ値を凝固エンタルピと定め、計算対象領域内での凝固エンタルピ等値線の成長速度を用いることで、擬似的に凝固速度を表現でき、結晶質と非晶質の素材を共通の指標で評価することができる(つまり、結晶質と非晶質の混在する素材をも統一的に扱うことができる)。尚、凝固エンタルピ等値線の成長速度は、後述のように容易に求めることができる。
【0040】
本発明の第4の特徴として、設計フェーズ1で得られた知見を設計フェーズ2での鋳造シミュレーションに反映するためには、未知のマクロ操業パラメータ(例えば、鋳造装置に固有な溶湯噴射圧力や冷却材移動速度等)に対する凝固モデルの適切な適用が必須である。従来の鋳造シミュレーションにおいて、未知のマクロ操業パラメータ条件での凝固モデルを適切に適用しようとした場合には、例えば、局所において凝固核生成及び結晶成長をモデル化したセルラーオートマトン法等を用いて凝固組織を決定するような先験的方法が必要になる。これら凝固核生成や結晶成長速度に係わる諸パラメータは、物理的により本質的なミクロ操業パラメータではあるものの、測定が極めて困難であり、本発明で用いるミクロパラメータである凝固速度や温度勾配等に比べて予測も格段に困難である。従って、このような先験的な凝固シミュレーションを実際の鋳造装置での鋳造に適用するためには、凝固モデルに必要な多数のパラメータを適切に設定するために、予め多数の実測値との照合と、高度な物理的な専門知識が必要になる。しかも、このような先験的なモデルには、前述の非晶質から等軸晶までの全ての凝固組織を網羅する全能の予測モデルが未だ開発されておらず、予測した凝固組織に関して大きな不確実性が存在する。従って、本発明で対象とするような短時間の簡易的な設計用の手段として、このような先験的凝固モデルは好適ではない。
【0041】
一方、本発明では、まず、第1の設計フェーズにおいて、凝固組織の変化を凝固核生成や結晶成長速度に係わる諸パラメータを直接用いて予測するのではなく、鋳造試験ごとに、実測凝固組織が鋳片内で変化する位置の鋳片表面からの距離で凝固組織を一律に整理して、各凝固組織に対応する凝固モデルを部位によって切り替える。このため、当該鋳造試験を再現する鋳造シミュレーションにおいては、先験的な凝固モデルを用いる方法に比べて、はるかに容易に適切な凝固モデルを選択することができる。
【0042】
次に、本発明では、鋳造シミュレーションを用いているので、このように判別された局所での凝固組織は、ミクロ操業パラメータとして局所での温度履歴(例えば、局所温度勾配や凝固速度)と容易に対応付けすることができる。多数の鋳造試験に対する、局所での凝固組織と温度履歴の対応付けを本発明におけるミクロ操業パラメータである凝固速度や温度勾配で整理することによって、ミクロ操業パラメ−タと凝固組織を関係付ける凝固組織予測関数を求めることができる。さらに、設計フェーズ2における未知のマクロ操業パラメータ条件での鋳造シミュレーションで得られた特定のミクロ操業パラメータを前記の凝固組織予測関数に入力することによって、当該位置での凝固組織を適切に予測することができる。
【0043】
ここで、本発明において、このようなミクロ操業パラメータで未知のマクロ操業パラメータ条件での鋳造によって得られた凝固組織を予測することができるのは、本発明の対象が急冷を行って高速な凝固を行う箔体の連続鋳造だからである。このような凝固の場合、凝固時の成分の拡散距離が著しく制限されるので、マクロな凝固偏析(鋳片内での平均的な成分勾配)は殆ど発生しない。従って、成分は箔体内で一定であるので、同一成分の溶湯で、異なる鋳造装置を用いてそれぞれ鋳造を行った場合でも、各鋳造装置の特定局所間で温度履歴が同一であれば、そこでは同一の凝固組織を期待できるのである。一方、より厚い素材の連続鋳造や、より凝固速度の小さい鋳造の場合、複数成分の溶湯を用いる場合、一般的に凝固偏析によって鋳片内で成分の分布が生じる。このため、急冷箔体が対象ではない鋳造の場合、鋳造装置が異なれば、温度履歴が同一であっても局所での成分が同一ではないため、同一の凝固組織になるとは限らない。従って、本発明の手法を適用することはできない。
【0044】
尚、ここで「局所」とは、溶湯及びこの溶湯の凝固した鋳片に固定された定点のことを意味する。また、本願において、「凝固速度」とは鋳造中のミクロな局所凝固界面の成長速度のことを意味し、「鋳造速度」とは連続鋳造装置における引抜速度、又は、押し出し速度のことを意味する。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、ベンチプラントを省略して、薄膜素材の材料開発を安価で、かつ、迅速に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態を示し、薄膜素材の凝固組織の分類における一例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、薄膜素材の凝固組織の分類における他の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、凝固界面上温度勾配と凝固速度計算値との関係の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、エンタルピ勾配と等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、凝固モデルの一例を示す模式図である。
【図8】本発明の実施形態における実施例1を示し、サンプル1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
【図9】本発明の実施形態における実施例1を示し、プラン1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
【図10】本発明の実施形態における実施例2を示し、サンプル1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
【0048】
(対象素材)
本発明で対象とする素材は、前記設計フェーズ3において連続鋳造装置を用いて製造される薄膜素材であって、その厚みは、1μm以上10mm以下であることが好ましい。特に、10μm以上1mm以下であることが特に好ましい。この範囲よりも厚い場合、冷却面積当たりの素材の熱容量が大きく、急冷が困難であるため、急冷による凝固組織の作り込みに問題を生じるので好ましくない。また、この厚みよりも薄い場合、安定的に製造できる連続鋳造装置が存在しないため、生産性の低い、インゴット鋳造で製造せざるを得ず、素材の量産化に問題を生じるので好ましくない。設計フェーズ1、2においても、同様の範囲の厚みを対象とすることができる。
【0049】
本発明で対象とする量産時(設計フェーズ3)の素材の幅に特段の制限はないが、既存の薄膜用連続鋳造装置で実現されている範囲として、0.1mm以上1200mm以下であることが好ましい。設計フェーズ1、2における素材の幅は、量産時の素材の幅よりも狭い値のものとして、設備費用を削減することができる。
【0050】
本発明で対象とする素材の断面形状は、略矩形であることを基本とするが、この形状に限定されるものではない。ニアネットシェープを指向して、最終製品の断面形状と同様の断面形状、例えば、箔厚が幅方向に大きく変化する形状、円形、又は、楕円形状であってもよい。
【0051】
本発明で対象とする素材の材料は、既存の薄膜用連続鋳造装置で鋳造できる材料であれば特に制限はない。例えば、金属、セラミック、ガラス、樹脂を対象とすることができる。
【0052】
(鋳造で対象とする凝固条件)
本発明の対象とする箔体の連続鋳造プロセスにおいては、凝固偏析を避け、かつ、生産性を指向するため、一般に高速凝固、高速鋳造を指向している。従って、好ましくは、箔厚方向平均凝固速度が1mm/s以上、単位幅当たりマスフローが1×10-3m2/s以上である。
【0053】
次に、本発明に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法を実現するための装置(連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置)の一例について説明する。
【0054】
図1は、本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0055】
図1に示す、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100は、例えば、CPU101、RAM102、ROM103、外部メモリ104、入力デバイス105、表示部106、通信インタフェース(通信I/F)107、及び、バス108のハードウェア構成を有して構成されている。
【0056】
CPU101は、例えば、ROM103或いは外部メモリ104に記憶されたプログラムやデータを用いて、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100全体の制御を行う。
【0057】
RAM102は、例えば、SDRAM、DRAMなどによって構成され、ROM103或いは外部メモリ104からロードされたプログラムやデータを一時的に記憶するエリアを備えるとともに、CPU101が各種の処理を行うために必要とするワークエリアを備える。
【0058】
ROM103は、変更を必要としないプログラムや各種のパラメータ等の情報などを格納している。
【0059】
外部メモリ104は、例えば、オペレーティングシステム(OS)やCPU101が実行するプログラム、更には、本実施形態の説明において既知としている情報などを記憶している。尚、本実施形態においては、後述する図2のフローチャートの処理を実行するためのプログラムは、外部メモリ104に記憶されているものとするが、例えばROM103に記憶されている態様であっても適用可能である。
【0060】
入力デバイス105は、例えば、マウスやキーボード等を具備して構成されており、例えばユーザが、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100に対して各種の指示を行う際に操作され、当該指示をCPU101等に入力する。
【0061】
表示部106は、例えば、モニタ等を具備して構成されており、CPU101の制御に基づいて、各種のデータや各種の情報をモニタに出力する。
【0062】
通信I/F107は、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100と、試験用鋳造装置210(更には、必要に応じて量産用連続鋳造装置220)との間で行われる、各種のコマンドや各種のデータ、各種の情報等の送受信を司るものである。
【0063】
バス108は、CPU101、RAM102、ROM103、外部メモリ104、入力デバイス105、表示部106及び通信I/F107を相互に通信可能に接続する。
【0064】
次に、本発明に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法の一例について説明する。
【0065】
図2は、本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この図2に示すフローチャートの処理は、図1に示す、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100において行われ、より詳細には、CPU101が、外部メモリ104に記憶されているプログラムを実行することによって実行される。
【0066】
<設計フェーズ1(第1の設計フェーズ)>
≪S201:第1の工程≫
まず、図2に示すステップS201の第1の工程において、CPU101は、試験用鋳造装置210に対して、2つ以上の異なる鋳造条件で薄膜素材を製造させる制御を行う。これにより、試験用鋳造装置210では、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で薄膜素材を製造する処理を行う。このステップS201の第1の工程における処理を行うCPU101は、制御手段を構成する。
【0067】
ここでは、図1に示す試験用鋳造装置210として、構造の簡易なImpact droplet法の装置、例えば、非特許文献1に記載の装置を用いることができる。また、分析用の試料(薄膜素材)がやや多量に必要な場合や抜熱流束のより高い凝固が必要な場合には、単ロール鋳造装置、例えば、市販の単ロール鋳造装置を用いてもよい。これらの装置の寸法は大きく設定する必要はなく、例えば、Impact droplet法であれば100mgの溶湯、単ロール鋳造装置であれば100g程度の溶湯でも十分である。尚、試験用鋳造装置210は、上記のものに限定されるものではない。特段の事情、例えば、既存の小型鋳造装置が存在する場合には、これを適用してもよい。このような鋳造装置の例として、双ロール鋳造装置、メルトドラッグ鋳造装置、遠心水冷紡錘法鋳造装置、又は、EFG法の鋳造装置を用いることができる。
【0068】
試験用鋳造装置210における素材の温度計測方法としては、非接触式の温度計、例えば、パイロメータを用いることができる。素材の温度を計測する位置は、凝固中の素材、又は、凝固後の箔体表面であることが好ましい。例えば、単ロール法での鋳造の場合には、液相の自由表面温度、又は、箔体の表面温度とすることができる。また、例えば、双ロール法の鋳造の場合には、ロール間から流出する箔体表面温度とすることができる。また、例えば、Impact Droplet法の場合には、溶湯の衝突予定位置の冷却面上に予め設置した高応答性熱電対とすることができる。
【0069】
試験用鋳造装置210は、凝固途中、又は、凝固直後の鋳片表面温度を空間に固定された定点において測定する温度計測機を備える。そして、試験用鋳造装置210では、薄膜素材を製造する際に、温度計測機を複数設けて鋳片表面温度を薄膜素材の複数箇所で求めてもよい。鋳片表面温度の測定場所は、例えば、単ロール鋳造であれば注湯ノズルの下流側、Impact droplet法による鋳造であれば、溶湯の冷却材への衝突部とすればよい。温度計測機としては、例えば、市販の放射温度計を用いて、非接触で鋳片表面温度を測定することができる。
【0070】
試験用鋳造装置210による鋳造試験は、鋳造条件、例えば、注湯時溶湯温度、注湯圧力、注湯ノズル−冷却材間距離、鋳片引き抜き、押し出し速度、冷却材材質、冷却材厚、冷却材初期温度、又は、冷却材移動速度等、を変更して複数回実施して行われ、素材中での温度履歴の異なった鋳造条件で製造された素材を得る。
【0071】
<設計フェーズ1(第1の設計フェーズ)>
≪S202:第2の工程≫
続いて、図2に示すステップS202の第2の工程において、CPU101は、ステップS201の第1の工程で製造された鋳造条件ごとの各薄膜素材ごとに、薄膜素材の一部又は全部を用いて凝固組織の試料とし、凝固組織の分析を行う。これにより、鋳造条件ごとの各薄膜素材ごとに、薄膜素材の凝固組織の測定が行われる。このステップS202の第2の工程における処理を行うCPU101は、測定手段を構成する。
【0072】
ここで、凝固組織の分析方法は、一般的な組織分析方法を用いることができる。
例えば、金属素材の場合、まず、予め、ユーザは、薄膜素材を樹脂に埋め込んで、凝固方向に略平行な断面が露出するように研磨を行い、前記研磨面を酸やアルカリ液等によって薬品処理して結晶界面の視認性を高めた後、光学顕微鏡を用いて前記試料断面の撮影を行う。そして、ユーザは、撮影によって得られた画像を手動又は画像処理計測装置を用いて観察し、CPU101は、例えばユーザによる入力デバイス105を介した入力に基づいて、薄膜素材の凝固組織、具体的には結晶粒の粒径分布及び結晶形状等、を測定する。この他、電子顕微鏡を用いた一般的な結晶分析手法やX線回折画像撮影を用いた一般的な結晶分析手法を用いてもよい。
【0073】
<設計フェーズ1(第1の設計フェーズ)>
≪S203:第3の工程≫
続いて、図2に示すステップS203の第3の工程において、CPU101は、ステップS201の第1の工程で測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、試験用鋳造装置210及び鋳造条件を再現すると共に、鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する処理を行う。このステップS203の第3の工程における処理を行うCPU101は、第1の算出手段を構成する。
【0074】
具体的に、ステップS203の第3の工程では、ステップS201の第1の工程における各鋳造条件を境界条件として、鋳造試験ごとに鋳造シミュレーションを実施する。鋳造シミュレーションは、例えば、単ロール鋳造法であれば、特許文献2に開示される手法を適用することができ、また、Impact droplet法であれば、非特許文献3に開示される手法を用いることができる。また、付加的にエンタルピの輸送方程式の数値解析を前述の鋳造シミュレーションと平行して実施して、当該鋳造条件におけるエンタルピ分布を求めることができる。エンタルピの輸送方程式は、前述の鋳造シミュレーションにおける温度の輸送方程式と同形(温度をエンタルピに置き換えたもの)のものを用いることができる。
【0075】
本発明においては、鋳造シミュレーションに対して、特に高い精度が求められる。従って、鋳造シミュレーションに用いる鋳造モデル定数は、極力、高精度に設定する必要がある。そこで、鋳造モデル定数の一種である、物性値(例えば、比熱、エンタルピ、エントロピ、ギブスの自由エネルギ等の熱力学物性値、密度、粘性係数、熱伝導率、状態図上の液相線温度、固相線温度、ガラス化温度等)は、事前に正確に与え得るものなので、公開された数表や、JISで規定された物性値試験等を用いて、予め正確な値を求めることが好ましい。他の凝固モデル定数、例えば、鋳片−冷却材間の熱抵抗に関しては、ステップS201の第1の工程で得られた各鋳造試験での鋳片表面温度測定値に、鋳造シミュレーションによって得られた対応点での鋳片表面温度計算値が一致するように、凝固モデル定数を調整する。即ち、鋳造シミュレーションを複数回実施して、最も鋳片表面温度計算値が測定値に近い値の鋳造シミュレーションの結果を採用する。
【0076】
本実施形態においては、溶湯及び鋳片上の定点に固定された「局所」での温度履歴として、所定温度間(例えば、固相線温度−非晶質材のガラス転移温度間)の平均冷却速度を用いることもあり得る。この際、連続鋳造の鋳造シミュレーションにおいてオイラー座標系上で定常流を仮定する場合には、時間の経過と共に「局所」は、流線上を移動するように計算される。定常流の計算において時間の経過と共に流線上を移動させる方法としては、ある「定点」x(位置ベクトル)において流れの速度がv(速度ベクトル)であるとき、任意時間Δt後の「定点」位置pは、以下の(1)式で表現できる。
p=x+Δt・v ・・・ (1)
このとき、vは流線方向となる。
【0077】
CPU101は、定常の鋳造シミュレーションによって得られた温度分布及び速度分布、並びにエンタルピ分布に一般的な演算処理を施すことによって、凝固界面(合金の場合は、液相線と固相線)の位置、凝固温度(合金の場合は、液相線温度と固相線温度)、凝固温度を含む任意温度範囲での局所温度の空間勾配値及び空間勾配の絶対値の最大値、局所温度の時間微分平均値、局所での凝固時エンタルピを含む任意エンタルピ範囲での局所エンタルピの空間勾配値及び空間勾配の絶対値の最大値、局所エンタルピの時間微分平均値、凝固速度等を容易に求めることができる。ここで、スカラ量A(Aは、温度やエンタルピ等)の時間微分値dを、(1)式を用いて、例えば、次の(2)式で求めることができる。
d=(A(x+Δx)−A(x))/Δt ・・・ (2)
ここで、Δx(ベクトル)は、「局所」の単位時間Δt間での移動量であり、A(x)は、位置xにおけるAの値である。
【0078】
また、凝固速度や凝固エンタルピ等値線の成長速度は、例えば、凝固界面上又は凝固エンタルピ等値線上における速度vs(速度ベクトル)の、この凝固界面又は等値線の鉛直方向成分の絶対値として定義できる。
【0079】
また、凝固温度履歴を代表するパラメータとして、局所凝固速度と凝固界面上での局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせや、所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び前記所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせを用いることができる。前記所定エンタルピ値として、状態図上の固相線温度に対応するエンタルピ値を用いることができる。
【0080】
<設計フェーズ1(第1の設計フェーズ)>
≪S204:第4の工程≫
続いて、図2に示すステップS204の第4の工程において、CPU101は、ステップS202の第2の工程で測定された薄膜素材の凝固組織と、ステップS203の第3の工程で算出された薄膜素材の局所温度履歴とを鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する処理を行う。このステップS204の第4の工程における処理を行うCPU101は、第2の算出手段を構成する。
【0081】
図3は、本発明の実施形態を示し、薄膜素材の凝固組織の分類における一例を示す模式図である。具体的に図3には、凝固界面上温度勾配と凝固速度との関係が示されている。
また、図4は、本発明の実施形態を示し、薄膜素材の凝固組織の分類における他の一例を示す模式図である。具体的に図4には、エンタルピ勾配と等エンタルピ線成長速度との関係が示されている。
【0082】
本発明者は、第2の工程で得られた凝固組織と第3の工程で得られた局所温度履歴とは、図3又は図4のように整理できることを見出した。
【0083】
図3は、非特許文献2に示された凝固組織の整理に、非晶質(A)の領域を追加したものである。この図3において、凝固組織は、柱状晶(C)、柱状デンドライト晶(D)、等軸晶(E)、又は、非晶質(A)のいずれかの凝固組織パターンに分類(実績凝固組織分類)され、各凝固組織パターンは、明確な凝固組織境界線で区分されている。図3において、同一凝固組織パターン内では、結晶組織の平均粒径は、右上の領域ほど、細かくなる。また、鋳片の定点に対応する部位での単位時間当たり温度低下量である冷却速度(CR)一定の線は、図3において右下がりの線として表現される。
【0084】
図4は、図3の関係のアナロジーとして、局所凝固速度を局所での所定等エンタルピ線の成長速度に、凝固界面上温度勾配を所定等エンタルピ線上でのエンタルピ勾配最大値に、置き換えたものである。
【0085】
以下、ステップS204の第4の工程における具体的な処理方法について説明する。
図5は、本発明の実施形態を示し、凝固界面上温度勾配と凝固速度計算値との関係の一例を示す模式図である。
図5(a)は、設計フェーズ1の第1の工程の鋳造試験で得られた凝固組織を、当該鋳造条件(特定の鋳造条件)に対応する鋳造シミュレーション(凝固シミュレーション)によって得られた局所でのミクロ操業パラメータである凝固界面上での(空間)温度勾配計算値(温度勾配が最大となる方向の勾配値を採用する)及び凝固界面上の凝固速度計算値の座標点として、図3と同様のグラフ上にプロットしたものである。この図5(a)では、非晶質材料の製造を目的として、「非晶質」、及び結晶質の混在した非晶質である「非晶質+結晶質」に分類し、「非晶質」を好適、「非晶質+結晶質」を好適ではないとする。
【0086】
次に、例えばユーザは、「非晶質」と「非晶質+結晶質」との凝固組織境界線を目視判断によって入力デバイス105を介してCPU101に入力し、CPU101は、図5(b)のように凝固組織境界線を設定するとともに、この凝固組織境界線よりも右上の領域を非晶質材料製造可能範囲、即ち、好適な凝固組織となる局所温度履歴範囲に設定する。図5では、特定の鋳造試験における特定の局所での温度履歴を1つの座標点としてプロットする。この結果、好適な凝固組織となる局所温度履歴範囲は、局所でのミクロ操業パラメータで整理できる。
【0087】
また、ミクロ操業パラメータとして、凝固界面上での温度勾配及び凝固界面上凝固速度の代わりに局所での所定等エンタルピ線成長速度及び前記所定等エンタルピ線上でのエンタルピ勾配(エンタルピ勾配が最大となる方向の勾配値を採用する)の計算値を用いてもよい。これらエンタルピを用いるミクロ操業パラメータを用いた場合の処理方法を、図6に示す。
【0088】
図6は、本発明の実施形態を示し、エンタルピ勾配と等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
図6(a)及び図6(b)における手順は、図5(a)及び図5(b)での手順においてミクロ操業パラメータを変更した点のみが異なり、図5(a)及び図5(b)での手順と本質的に同様である。尚、当該薄膜素材の凝固組織としての採用可否に関しては、第1の工程で得られた箔に対して実施される各種の材質試験結果及び第2の工程で得られた凝固組織の対応から、適宜判断基準を設定すればよい。
【0089】
<設計フェーズ2(第2の設計フェーズ)>
≪S205:第5の工程≫
続いて、図2に示すステップS205の第5の工程において、CPU101は、設計フェーズ1で用いた試験用鋳造装置210よりも大規模な量産用連続鋳造装置220(の種類、仕様、構造等)及びその鋳造条件を設定する処理を行う。このステップS205の第5の工程における処理を行うCPU101は、設定手段を構成する。
【0090】
ここでは、量産用連続鋳造装置220として、量産に向く形式の連続鋳造装置、例えば、単ロール鋳造装置、双ロール鋳造装置、双ベルト鋳造装置、メルトドラッグ鋳造装置、遠心水冷紡錘法鋳造装置、又は、EFG法の鋳造装置を仮定(設定)することができる。また、量産用連続鋳造装置220として、新規に開発する性能が未知の形式の鋳造装置であってもよい。量産用連続鋳造装置220の形式は、設計フェーズ1で用いた試験用鋳造装置210と異なってもよいし、一般に、設計フェーズ1で用いた試験用鋳造装置210よりも大型で生産性のより高い装置を用いることができる。フェーズ1と同様に、適宜、箔体の表面温度を計測してもよい。
【0091】
<設計フェーズ2(第2の設計フェーズ)>
≪S206:第6の工程≫
続いて、図2に示すステップS206の第6の工程において、CPU101は、第5の工程で設定した量産用連続鋳造装置220及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する処理を行う。このステップS206の第6の工程における処理を行うCPU101は、第3の算出手段を構成する。
【0092】
ここでは、鋳造条件として、第5の工程で設定された量産用連続鋳造装置220において実現可能な鋳造条件、例えば、注湯時溶湯温度、注湯圧力、注湯ノズル−冷却材間距離、鋳片引き抜き、押し出し速度、冷却材材質、冷却材厚、冷却材初期温度、又は、冷却材移動速度等を設定する。また、ステップS206の第6の工程で用いる鋳造シミュレーションには、設計フェーズ1で用いたものを使用することができる。また、量産用連続鋳造装置220が双ロール鋳造装置である場合には、非特許文献4に開示されたものを用いてもよい。また、ステップS205の第5の工程において箔体の表面温度を測定する場合には、この測定値を用いて鋳造シミュレーションを調整してもよい。
【0093】
鋳造シミュレーションの結果、この鋳造条件における凝固界面上(又は、マッシー中)での、局所温度履歴に係わるミクロ操業パラメータ値を求めることができる。ミクロ操業パラメータとしては、設計フェーズ1で用いたものを用いる。即ち、凝固速度と凝固界面上での局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせや、所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び前記所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせを用いることができる。
【0094】
<設計フェーズ2(第2の設計フェーズ)>
≪S207:第7の工程≫
続いて、図2に示すステップS207の第7の工程において、CPU101は、ステップS206の第6の工程で算出された局所温度履歴が、ステップS204の第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する処理を行う。このステップS207の第7の工程における処理を行うCPU101は、判定手段を構成する。
【0095】
具体的に、本実施形態では、CPU101は、ステップS206の第6の工程で求めた代表的局所でのミクロ操業パラメータ計算値の座標点を、設計フェーズ1で作成したミクロ操業パラメータを整理した図5(c)、図6(c)上にプロットし、当該座標点が、ステップS204の第4の工程で求めた、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内であるかを判定する。
【0096】
そして、ステップS207の第7の工程における判定の結果、ステップS206の第6の工程で算出された全ての代表的局所についての局所温度履歴が、ステップS204の第4の工程で算出された好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内である場合には、CPU101は、現在設定されている鋳造条件を採用可能な鋳造条件と判断し、図2のフローチャートにおける処理を終了する。
【0097】
<設計フェーズ2(第2の設計フェーズ)>
≪S208:第8の工程≫
一方、ステップS207の第7の工程における判定の結果、ステップS206の第6の工程で算出されたいずれかの代表的局所についての局所温度履歴が、ステップS204の第4の工程で算出された好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内でない(範囲外である)場合には、ステップS208の第8の工程に進む。
ステップS208の第8の工程に進むと、CPU101は、現在設定されている量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、ステップS206の第6の工程に戻る。そして、CPU101は、ステップS206の第6の工程で算出される局所温度履歴が、ステップS204の第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第6の工程及び前記第7の工程を繰り返す処理を行う。このステップS208の第8の工程における処理を行うCPU101は、処理手段を構成する。
【0098】
例えば、ステップS208の第8の工程において鋳造条件を変更して、第6の工程を再度実施し、第7の工程において、第6の工程の結果得られた局所温度履歴に係わるミクロ操業パラメータの座標点が、第4の工程の結果得られた好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内であるを判定する。そして、局所温度履歴に係わるミクロ操業パラメータ座標値が好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内となるまで、第6の工程〜第8の工程を繰り返して採用可能な鋳造条件を求める。
【0099】
(凝固モデル)
次に、凝固モデルに使用する用語について、単ロール法の鋳造シミュレーションの検討系である図7を用いて説明する。
【0100】
図7は、本発明の実施形態を示し、凝固モデルの一例を示す模式図である。具体的に、図7には、本発明の実施形態で用いられる鋳造装置による鋳造の様子が示されている。
流入口709から流入してノズル壁面708の間から噴射された液相701が、回転する冷却材711である冷却ロールと冷却面712で接触することにより、液相701は、冷却ロール側から凝固して固相702を形成する。固相702は、冷却ロールに引かれて、流出口710から流出する。液相701が固相702に凝固する際に、複数成分系の材料(素材)の場合、液相線704と固相線705を材料内に引くことができる。液相線704と固相線705は、比較的低速での凝固の場合、当該成分系に対応する状態図上での液相線及び固相線に一致する。
【0101】
しかしながら、本発明が対象とする、高速での凝固時には、一般には、図7中の液相線704及び固相線705は、状態図上の液相線や固相線とは一致せず、冷却速度や成分の影響を受けて過冷状態での液相線及び固相線となる。過冷状態の液相線及び固相線は、予め材料試験を行うことによって求めることができる。純物質や共晶成分系の材料の場合、図7中での液相線704と固相線705は一致し、シャープな凝固界面を形成する。材料が純物質や共晶成分系でない場合、液相線704と固相線705の間に固液共存領域であるマッシー703が生成し得る。但し、このような成分系であっても、例えば、凝固組織が柱状晶である場合には、後述のようにマッシー703を生成せず、シャープな凝固界面を形成して凝固が進展し得る。また、極端に冷却速度の大きい場合には、凝固組織は結晶とはならず、非晶質となる。非晶質の材料では、温度低下と共に徐々に材料の粘性が上昇する物性となるので、液相線704や固相線705は本来、存在しない。しかしながら、実用上、固体と見做し得る高い粘性に達する所定等温線706を実質的な凝固界面として取り扱うことができる。
【0102】
次に、凝固組織について説明する。
本発明が対象とする鋳造において生成する凝固組織は、形態的に、非晶、柱状晶、柱状デンドライト晶、又は、等軸晶のいずれかに分類することができる。凝固中に凝固界面(又は、マッシー等の凝固領域)が外力を受ける場合、凝固組織の形態ごとに変形挙動が異なるので、凝固界面や凝固領域には、そこでの凝固組織形態に対応した、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、又は、等軸晶用のいずれかの凝固モデルを適用することが、鋳造シミュレーションの予測精度上、好ましい。
【0103】
凝固モデルは、凝固界面又は凝固領域の取り扱い方法から大きく次の3つに分類できる。第1は、シャープ凝固界面型凝固モデルであり、液相と固相が凝固界面を挟んで直接、隣接する形式のものである。第2は、混相型マッシー凝固モデルであり、液相と固相の間に固液の混在した仮想の多孔質領域(マッシー)を設ける。このマッシー内においては、局所での液相と固相の速度差に比例する運動量の消散が生じる。固相と液相の速度差は、例えば、非特許文献5に開示されるマルチフェーズモデルを用いて、固相変形と液相変形を別々に数値解析して求める方法と、固相の速度を何らかの方法で予め与え、液相のみの変形を数値解析する方法の2種類が存在する。第3は、高粘性液体マッシー型凝固モデルであり、液相線温度と固相線温度の間で温度の低下と共に液相の粘性が上昇するように物性値を設定して、この領域を実質的にマッシーとして取り扱う方法である。この場合、マッシー内は、単なる高粘度の液相として数値解析される。
【0104】
次に、各凝固組織ごとに適切な凝固モデルについて説明する。
非晶質は、明確な凝固現象を生じず、温度が低下するに従って、徐々に粘性の上昇する挙動を示す。例えばガラス転移温度では、通常、融点(固相線温度)での粘性の1012倍以上の値となる。液相からガラス転移温度までのようなに広い範囲の粘性を示す液体を安定的に解く数値解析手法があれば、凝固モデルは不要であり、単に、液体の粘性を温度に対応させて変化させればよい。しかしながら、実際にはこのような数値解析は、数値的に不安定である場合が多いので、特定の粘性(温度)で凝固して固体になるものとして数値解析することが多い。このような凝固に対しては、凝固界面直後で直ちに高い粘性を与えることができるために予測精度の高い、例えば特許文献2に開示されるシャープ凝固界面型凝固モデルが好ましい。尚、非晶質の場合、凝固潜熱は発生しない。
【0105】
柱状晶は、やや平坦な頭部を有し、かつ、冷却面に対して略垂直な棒状の固相セルが多数、水平面内に並んで一斉に凝固の進展する挙動を示す。このため、凝固は主に、セルの頭部で生じる。ここで、凝固界面に垂直な温度勾配が比較的低い場合には、セル間に凝固偏析に基づく深い谷間を生じて、セル頭部とセル間の谷底の間でマッシーを形成し得る。しかしながら、本発明が対象とする急冷での凝固では、箔厚方向の温度勾配が極めて大きいため、深い谷間が生じることはない。従って、実質的にセル頭部を凝固界面と見做すことができる。凝固界面近傍の液相では、液相線温度以下であったとしても、凝固することはないので、物理的にマッシーは生成しない。以上の特徴から、柱状晶には、シャープ凝固界面型凝固モデルが好ましい。尚、シャープ凝固界面型凝固モデルにおける凝固潜熱は、凝固界面における固相側の抜熱と液相側での入熱との差として表現される。
【0106】
柱状デンドライト晶は、先端の比較的尖った細い柱状の固体柱が水平方向にやや間隔を保って多数存在する形状で凝固が進行する。マッシー内において先端部は、選択的に早く凝固が進行し、柱間では徐々に凝固が進行するため、柱の先端と柱間の谷底の間で明確なマッシーを形成する。このマッシー内では、冷却面に水平な方向の側柱も二次的に成長することがあるので、柱状デンドライト晶は、物理的に多孔質の固体間に液相が保持された状態となる。以上の点から、柱状デンドライト晶には、混相型マッシー凝固モデルが好ましい。尚、混相型マッシー凝固モデルにおける凝固潜熱は、固相率の変化に応じて局所で生じる発熱として取り扱うことができる。
【0107】
等軸晶は、自由な液相中に存在、又は、生成した多数の凝固核からそれぞれ略全方位に向けて一斉に凝固が進行する。個々の等軸晶は、大きな固体に接触して合体しない限り液相中に懸濁しており、固液混層のマッシーは、少なくとも固相の小さい領域ではスラリー状の液体として振舞う。従って、等軸晶には高粘性液体マッシー型凝固モデルが好ましい。尚、高粘性液体マッシー凝固モデルにおける凝固潜熱は、マッシー内での液体の比熱を潜熱分、一律に大きく設定することで取り扱うことができる。
【0108】
前述のように、本発明では、鋳造シミュレーションにおける局所での凝固モデルを凝固界面上(マッシーを有する場合には固相率100%の線上)での局所のミクロ操業パラメータの関数として、判断する。ミクロ操業パラメータとしては、凝固界面上の凝固速度及び空間温度勾配最大値の組み合わせ、又は、所定等エンタルピ線の成長速度及び前記所定エンタルピの空間勾配最大値の組み合わせを用いることができる。
【0109】
これらのミクロ操業パラメータは、凝固界面上で一定ではないので、同一の鋳片において、異なる凝固組織が混在する場合もある。設計フェーズ1において、試験結果で同一鋳片内で異なる凝固組織が得られた場合(例として、冷却面側箔体表面(座標点y=0)に柱状デンドライト、箔内で表面からの距離y=y1の位置より内側で等軸晶が得られたものとする)、この試験に対応する凝固シミュレーションにおける凝固モデルは、例えば、次の(3)式で表せる実績凝固組織関数G(y)で選択することができる。
【0110】
【数1】
【0111】
また、設計フェーズ1において、複数の試験結果と対応する凝固シミュレーションの結果から凝固組織予測関数を求める方法は、図5及び図6の凝固組織境界を求める方法と同様でよい。そして、これらの図5及び図6で得られた凝固組織境界をミクロ操業パラメータの関数として表現することによって凝固組織予測関数が得られる。
【0112】
設計フェーズ2において、特定のマクロ操業パラメータの条件での鋳造シミュレーションを行う場合に用いる凝固モデルは、次の手順で決定する。
まず、凝固組織を1つ仮定(設定)し、これに対応する凝固モデルを凝固界面全域に対して適用する。続いて、凝固界面上でのミクロ操業パラメータ(凝固速度及び空間温度勾配最大値等)の組み合わせを前記凝固組織予測関数に代入して局所での凝固組織を推定する。続いて、推定した凝固組織が最初に仮定(設定)した凝固組織と異なる部位の局所には、前記凝固組織予測関数で得られた凝固組織に対応する凝固モデルを適用する前提で、再度、鋳造シミュレーションを実施する。仮定(設定)した凝固モデルを前提に実施した鋳造シミュレーション結果を用いた凝固組織予測関数で計算された凝固組織が、計算前提の凝固組織と、凝固界面上の全域で一致するまで繰り返し計算を行う。
【実施例】
【0113】
[実施例1]
実施例1では、設計フェーズ1として、まず、非晶質材料を得る目的で、単ロール鋳造法の試験用鋳造装置210を用いて、成分がFe−B−Si合金の薄膜素材の鋳造を、異なる2つの鋳造条件で行った。この際、冷却ロールの直径は、φ30mmとした。試験の際に、箔体の表面温度を定点に固定したパイロメータによって連続的に測定した。そして、異なる2つの鋳造条件により、それぞれ厚みが約30μmであるサンプル1及び2を得た。具体的に、サンプル1の試験条件(鋳造条件)において、ロール表面での熱抵抗をサンプル2における試験条件(鋳造条件)よりも小さく設定して試験を行った。
【0114】
そして、ユーザは、得られたサンプル1及び2から切り出したそれぞれ10個の試験片を樹脂に埋め込んで研磨を行い、箔の幅方向の垂直断面(即ち、箔表面から裏面までを含む断面)である検査面を光学顕微鏡を通して撮影した。そして、ユーザは、各サンプルごとの検査面上の同一点での組織を目視で確認して、結晶質であるか非晶質であるかを評価して、その結果を入力デバイス105を介してCPU101に入力した。このような評価を、各サンプルの検査面上で、箔厚方向に異なる10点に対して実施した。その結果、サンプル1では、検査面上の全ての点において全ての試験片で非晶質であった。一方、サンプル2では、検査面上のいずれの点においても、非晶質である試験片と結晶質である試験片が混在していた。
【0115】
併せて、CPU101は、サンプル1及び2を得た鋳造処理と同一の鋳造条件で、それぞれ、特許文献2の手法で鋳造シミュレーションを行って、温度(熱)履歴を得た。このとき凝固モデルとして、いずれのサンプルでもシャープ凝固界面型凝固モデルを適用した。サンプル2は、結晶質を全域で含み得る好適ではない凝固組織ではあるものの、結晶化の比率は、平均的には高々数%程度と少ない状態だったので、いずれのサンプルでも凝固潜熱は無いものとして計算した。また、CPU101は、鋳造試験時の測定温度に、計算温度が一致するように、冷却面での熱抵抗値を調整して計算を行った。その結果のミクロ操業パラメータによる整理を図8に示す。
【0116】
図8は、本発明の実施形態における実施例1を示し、サンプル1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
図8において、サンプル1の座標点は、鋳造シミュレーションの結果得られた計算値を用いている。また、図8上の各点での凝固組織は、前述の試験片観察結果を記載した。ここで、例えばユーザは、図8上での凝固組織の分布から、完全に非晶質となる凝固組織限界線を目視判断によって入力デバイス105を介してCPU101に入力し、CPU101は、図8のように凝固組織境界線を設定する。さらに、図8において、前記凝固組織境界線よりも右上側の凝固組織の領域が非晶質材料製造可能範囲であるため、CPU101は、当該領域を非晶質材料製造可能範囲に設定する。
【0117】
次に、実施例1では、設計フェーズ2として、より厚い材料として厚み50μmの薄膜素材の鋳造を前提とするため、量産用連続鋳造装置220として双ロール鋳造装置を設定して、設計フェーズ1と同様に鋳造シミュレーションを実施した。
【0118】
この鋳造シミュレーションの条件として、双ロール鋳造装置の冷却ロール径を、φ40mmのものを想定したプラン1とφ400mmのものを想定したプラン2の2条件とした。この鋳造シミュレーションの結果得られた、代表点でのミクロ操業パラメータの座標点を図8と同様に整理したものを図9に示す。併せて、図8上で求めた凝固組織境界線を図9上にも示す。
【0119】
図9は、本発明の実施形態における実施例1を示し、プラン1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
図9において、プラン1及び2の各点は、全て凝固組織境界線よりも右上に存在する(即ち、非晶質材料製造可能範囲内である)ので、いずれのプランにおいても、双ロール鋳造装置で非晶質の材料が得られるものと推定できる。また、図9において、プラン1の方がプラン2よりも全般的に右上方向に位置するので、プラン1、即ち、冷却ロール径を小径とした方がより非晶質の材料を得易いとも推定できる。
【0120】
以上の解析によって、設計フェーズ1の結果を用いて、ベンチプラントを建設することなく、設計フェーズ2用の鋳造装置での凝固組織を予測することができた。
【0121】
[実施例2]
実施例2では、設計フェーズ1での凝固モデルとして高粘性液体マッシー型凝固モデルであるVOF法を用いる以外の条件を実施例1と同様にして、鋳造試験、並びに、凝固組織の予測を行った。この凝固シミュレーションでは、箔厚の予測精度が実施例1のものよりも低かった。ここで、設計フェーズ1における凝固組織境界の整理を図10に示す。
【0122】
図10は、本発明の実施形態における実施例2を示し、サンプル1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
図10において、設計フェーズ1の同一の試験結果に対する凝固組織界面の整理が実施例1(図8)とは定性的にも異なることがわかる。即ち、図8では冷却速度一定線が凝固組織境界であるのに対し、図10では等エンタルピ線成長速度一定線が凝固組織界面である。実施例1、2での箔厚の予測精度が異なることからみて、図8と図10との差は、鋳造シミュレーションで使用した凝固モデルの差によるものと考えられる。従って、本発明に用いる鋳造シミュレーションにおいては、適切な凝固モデルを選択することが重要であることがわかる。尚、実施例1の方が箔厚予測精度がより高いので、実施例1、2の鋳造試験に関しては、実施例1での整理の方がより妥当性が高いと考えられる。
【0123】
(その他の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。
即ち、前述した、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法を示す図2の各ステップを、CPU101が外部メモリ104等に記憶されているプログラムを実行することによって実現する処理である。
このプログラム及び当該プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明に含まれる。
【0124】
また、本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100は、図1に示す例では、試験用鋳造装置210及び量産用連続鋳造装置220の外部に構成されているが、本発明においてはこの形態に限定されるものではない。例えば、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100の機能が、試験用鋳造装置210或いは量産用連続鋳造装置220の内部に設けられ、前述した本発明の実施形態における処理を実現する形態も本発明に含めることができる。
【0125】
尚、前述した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。即ち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0126】
100:連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置、101:CPU、102:RAM、103:ROM、104:外部メモリ、105:入力デバイス、106:表示部、107:通信I/F(通信インタフェース)、108:バス、210:試験用鋳造装置、220:量産用連続鋳造装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材産業における材質設計技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造によって製造される薄膜素材は、ニアネットシェープで製造される機能性材料として広く産業界で適用されている。この内、特に高速に鋳造され凝固速度も比較的大きいものとして、例えば、下記の特許文献1に例示される双ロール鋳造法を用いた磁気テープ用素材、下記の特許文献2に例示される単ロール鋳造法を用いたトランス用磁性素材、下記の特許文献3に例示されるEFG法を用いた太陽電池用多結晶シリコン素材等が挙げられる。これらの素材では、凝固速度が大きいことを利用して凝固組織を制御することによって特異な機能を発揮させ、また、ニアネットシェープであり、圧延等の追加加工が必要ないため、凝固組織が最終製品の組織まで維持される場合が多い。従って、これらの素材においては、凝固組織の作り込みが重要である。
【0003】
凝固組織の作り込みにおいては、凝固時の温度履歴が素材の凝固時の結晶組織に大きな影響を与える。また、鋳造装置や作業条件等の製造プロセス条件の違いによって、素材の凝固時の温度履歴は大きく変化し得る。従って、薄膜の高速凝固によって製造される素材のように、材質と製造プロセス条件が密接に関係する素材で、工業化(量産化)を図る場合の材料設計では、金属学的設計と製造プロセス設計の両者を好適に組み合わせることが重要である。
【0004】
このような材料設計においては、最終的な量産装置を用いて材料開発の試験を行うことに大きなリスクと費用が伴うので、通常、材料設計は、装置を替えた複数の設計フェーズを設定し、順次、試験規模を拡大する方法を採用する場合が多い。
【0005】
例えば、次のような3つの設計フェーズが設定される。
設計フェーズ1は、材質素設計の工程であり、その目的は、安価・簡易に多数の成分/熱処理条件を変更して最適条件を求めることである。
設計フェーズ2は、プロセス設計の工程であり、その目的は、所与の成分や熱処理条件を実現する、最も安価・高生産性な生産装置を設計することである。
設計フェーズ3は、実機調整であり、その目的は、生産機での、製造条件のファインチューニングを行うことである。
【0006】
また、設計フェーズ1と2の間に、適宜、ベンチプラントの設計フェーズを置くこともある。各設計フェーズごとに製造装置(鋳造装置)は、通常、異なる。これは、各設計フェーズで目的が異なるので、最適な鋳造装置も設計フェーズごとに一般には異なるからである。
【0007】
具体的には、設計フェーズ1では、一般に小型で条件変更容易な装置が適用される。例えば、設計フェーズ1で用いられる装置としては、単ロール鋳造法の装置を用いてもよいし、また、連続鋳造法である必要は必ずしもないので、下記の非特許文献1に例示されるImpact Droplet鋳造法等の装置を用いてもよい。
これに対して、設計フェーズ2では、大型で生産性の比較的高い形式の装置が適用される。例えば、設計フェーズ2で用いられる装置としては、メルトスピニング、PFC、双ロール法、メルトドラッグ法、遠心鋳造紡糸法、EFG法等の装置である。このような装置では、一般に、装置や作業条件の変更は困難である。
設計フェーズ3では、設計フェーズ2で確定された形式の装置をさらに大型化、高生産性化した装置を用いる場合がある。但し、設計フェーズ2の装置で所要の生産性を確保できる場合には、設計フェーズ3専用の装置を新たに準備せず、設計フェーズ2の装置をそのまま適用し、又は、設計フェーズ2の装置を改造して設計フェーズ3の目的である実機ファインチューニングを行うこともある。このため、設計フェーズ2−3間では装置の形式が異なることはまれであるが、設計フェーズ1−2間では装置形式が異なり得る。装置形式が異なる鋳造装置では、伝熱機構が異なり得るので、設計フェーズ1−2間では、装置条件差を適切に評価する必要がある。
【0008】
しかしながら、従来技術においては、鋳造装置での製造条件(即ち、装置条件及び作業条件)を整理する方法として、マクロな操業パラメータ(例えば、ノズルの噴射圧力や溶湯注入時温度、冷却材温度等)しか用いられてこなかった。このため、異なる形式の鋳造装置間で、製造条件を互いに変換することが極めて困難であった。その結果、従来技術における設計フェーズ1−2間での装置条件移行方法は、以下の第1及び第2のいずれかの方法が採用されてきた。
【0009】
第1の方法は、まず、設計フェーズ2と同型式であるが小型で生産性の低いベンチプラントを建設して試験を行い、その後、順次、スケールアップしたベンチプラントを製作して設計フェーズ2とするものである。
第2の方法は、設計フェーズ2における製造装置を、広い製造条件を実現できるような高機能な仕様として建設し、設計フェーズ1−2間の製造条件差を設計フェーズ2の装置側で吸収しようとするものである。
【0010】
次に、鋳造シミュレーションについて説明する。
凝固現象を数値解析によって定量的に表現する手法として、従来、各種の鋳造シミュレーション手法が提案されている。例えば、下記の特許文献2には、単ロール凝固法に対する鋳造シミュレーション方法が開示されている。また、Impact droplet法に関しては例えば下記の非特許文献3に、双ロール凝固法に関しては例えば下記の非特許文献4に、鋳造シミュレーション手法が開示されている。
【0011】
ところで、凝固の生じる際の結晶化形態、即ち、凝固組織は、凝固時の材料の応力分布や温度分布に大きな影響を与えるので、凝固シミュレーションを行う際には、予め局所での凝固組織を特定する必要がある。特定の凝固組織、例えば、柱状デンドライト晶や等軸晶に関しては、凝固モデル(即ち、凝固領域内での質量、運動量、並びに、エネルギの保存式を用いて凝固現象を表現する数学モデリング)が多数開示されている(例えば、下記の非特許文献5)。
【0012】
前記の鋳造シミュレーションは、いずれも凝固組織を予め何らかの別の方法を用いて、例えば、凝固シミュレーションに相当する条件での鋳造試験を行い、その結果得られた凝固組織等を用いて、与えている。また、凝固組織を先験的に与える方法として、例えば下記の特許文献4ではセルラーオートマトンを用いて、また、例えば下記の特許文献5ではミクロ偏析モデルを用いて、凝固組織を直接、予測する鋳造シミュレーション方法が提案されている。
【0013】
また、ミクロな操業パラメータと凝固組織の関係を整理する方法としては、例えば下記の特許文献6に開示されるTTT線図を凝固現象まで拡張したものや、例えば下記の非特許文献2に示される整理等が知られている。また、下記の特許文献7には、凝固時の鋳片の表面温度分布測定を行って鋳片表面における冷却速度と温度勾配を凝固組織の評価指標(鋳片表面でのチル晶厚)と対応付ける方法が開示されている。また、前記凝固組織の評価指標を求める際に鋳造シミュレーションを用いる方法も、下記の特許文献7及び特許文献8に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−288520号公報
【特許文献2】特開2007−69252号公報
【特許文献3】特開平5−501538号公報
【特許文献4】特開2000−351061号公報
【特許文献5】特開2008−188640号公報
【特許文献6】特開2008−161924号公報
【特許文献7】特開2006−116603号公報
【特許文献8】国際公開第96/30141号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Liu, W., Wang, G. X., and Matthys, E. F. : International journal of heat mass transfer, vol.38(1995), PP1387-1395.
【非特許文献2】Kurz, W. and Fisher, D. J. : Fundamentals of solodofication, trans tech publication, Switzerland, 1984.
【非特許文献3】Ghafouri-Azar, R., et al. : International journal of heat mass transfer, vol.46(2003), PP.1395-1407.
【非特許文献4】Chang, J.-G. and Weng, C.-I. : International journal of heat mass transfer, vol4.1(1998), PP475-487.
【非特許文献5】Pequet, Ch., et al. : Metallurgical and Materials transaction A, vol.33A(2002), PP.2002-2095.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述した設計フェーズ1−2間での装置条件の移行方法において、従来の第1の方法では、ベンチプラントを建設する必要があるため、材料設計に多大な時間を必要とするので問題である。また、従来の第2の方法では、設計フェーズ2用の製造装置が高価なものとなり、建設に多大な時間も必要であるため問題である。
【0017】
鋳造シミュレーションのみを用いて、未知の装置条件及び未知の作業条件に対して凝固組織や材質を先験的に正確に予測することができれば、設計フェーズ1はそもそも不要であり、このような問題は生じない。
【0018】
しかしながら、先験的な凝固組織予測を用いた鋳造シミュレーションのためには、いくつかのモデル定数(例えば、冷却装置と鋳片表面との間の熱伝達係数(又は、熱抵抗)、材料物性値、凝固核生成に関する過冷度と保持時間、及び、凝固組織の平均的形状を表すパラメータ値とこのパラメータ値から算出される物質拡散に係わる諸定数等)を適切に設定する必要がある。そして、これらモデル定数の最適値も検討対象ごとに異なるので、検討対象ごとの予備知見なしに、これら凝固モデル定数を適切に設定することは、現実的には容易ではない。このため、現状において、材質試験や組織調査の実測結果を援用することなく正確な凝固組織を鋳造シミュレーションで予想することは、極めて困難である。
【0019】
また、前述のように、試験で得られた凝固組織をミクロな操業パラメータと対応づけ、この操業パラメータを用いて未知の作業条件での凝固組織を求める手法も提案されている。しかしながら、これらの手法では、いずれも、ミクロな操業パラメータ(例えば、局所の冷却速度)と凝固組織の確立された関係を適用する鋳造装置は、試験を行った鋳造装置と実質的に同一であり、未知の作業条件への適用とはいっても、マクロな操業パラメータ(例えば溶湯の注湯時平均温度や鋳型材質等)をわずかに変更するのに留まる比較的小規模な条件変化を対象としている。
【0020】
即ち、これらの従来技術を今回の検討対象にそのまま適用した場合、設計フェーズ3相当の設計に寄与できるのみであり、条件変化の大きい、設計フェーズ1から設計フェーズ2への移行に適用できるものではない。従って、近時では、設計フェーズ1から設計フェーズ2への移行を容易に実現可能な設計手法が求められており、ベンチプラントを省略して、薄膜素材の材料開発を安価で、かつ、迅速に行うことが要請されている。
【0021】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ベンチプラントを省略して、薄膜素材の材料開発を安価で、かつ、迅速に行う仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そこで、本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、前記設計フェーズ1−2間での鋳造装置の移行に関して、以下の発明を想到した。
【0023】
第1発明は、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法であって、試験用の鋳造装置に対して、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で当該薄膜素材を製造させる制御を行う第1の工程と、前記試験用の鋳造装置で製造された薄膜素材の凝固組織を分析して、前記鋳造条件ごとに当該薄膜素材の凝固組織を測定する第2の工程と、前記試験用の鋳造装置において前記第1の工程で測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、前記試験用の鋳造装置及び前記鋳造条件を再現すると共に、前記鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する第3の工程と、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する第4の工程とを有する第1の設計フェーズと、前記試験用の鋳造装置よりも大規模な量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を設定する第5の工程と、前記量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する第6の工程と、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する第7の工程と、前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内でないと判定された場合に、前記量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、前記第6の工程で算出される局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第6の工程及び前記第7の工程を繰り返す第8の工程とを有する第2の設計フェーズとを含むことを特徴とする連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0024】
第2発明は、前記第4の工程において、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせることは、前記局所温度履歴として、特定の鋳造条件に対応する前記鋳造シミュレーションにおいて局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均を算出したものと、前記特定の鋳造条件に関する凝固組織とを組み合わせることを特徴とする第1発明に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0025】
第3発明は、前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定することは、前記局所温度履歴範囲内である、前記第1の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせ範囲内に、前記局所温度履歴である、前記第2の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせが、存在するかを判定することを特徴とする第1又は第2発明に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0026】
第4発明は、前記第4の工程において、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせることは、前記局所温度履歴として、特定の鋳造条件に対応する前記鋳造シミュレーションにおいて所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び前記所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均を算出したものと、前記特定の鋳造条件に関する凝固組織とを組み合わせることを特徴とする第1発明に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0027】
第5発明は、前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定することは、前記局所温度履歴範囲内である、前記第1の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び当該所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせの範囲内に、前記局所温度履歴である、前記第2の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される凝固中の所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び当該所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせが、存在するかを判定することを特徴とする第1又は第4発明に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0028】
第6発明は、前記第2の工程における凝固組織の測定結果を、非晶質、柱状晶、柱状デンドライト晶、又は、等軸晶のいずれかに分類して実績凝固組織分類を得て、次に、前記実績凝固組織分類の変化する境界である凝固組織境界を鋳片表面からの距離の関数である実績凝固組織関数で表し、次に、前記第3の工程における鋳造シミュレーションで用いられる凝固モデルとして、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、及び、等軸晶用の凝固モデルを備え、かつ、当該鋳造シミュレーションにおいて局所での凝固計算に用いる前記凝固モデルを判断する方法として、前記局所の冷却面からの距離を鋳片からの距離として与えた前記実績凝固組織関数を用いて得られた凝固組織を用いることを特徴とする第1〜第5発明のいずれか1つに記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0029】
第7発明は、前記第3の工程における鋳造シミュレーションにおいて、前記局所での凝固組織を、当該局所での前記局所温度履歴と対応付け、次に、前記2つ以上の異なる鋳造条件で製造された前記薄膜素材の前記局所での凝固組織と前記局所温度履歴との対応付けを用いて、凝固組織の境界を局所温度履歴の関数として表す凝固組織予測関数を求め、次に、前記第6の工程における鋳造シミュレーションで用いられる凝固モデルとして、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、及び、等軸晶用の凝固モデルを備え、かつ、当該鋳造シミュレーションにおいて局所での凝固計算に用いる前記凝固モデルを判断する方法として、前記凝固組織予測関数を用いて判断することを特徴とする第1〜第6発明のいずれか1つに記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法である。
【0030】
第8発明は、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置であって、第1の設計フェーズにおいて、試験用の鋳造装置に対して、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で当該薄膜素材を製造させる制御を行う制御手段と、前記第1の設計フェーズにおいて、前記試験用の鋳造装置で製造された薄膜素材の凝固組織を分析して、前記鋳造条件ごとに当該薄膜素材の凝固組織を測定する測定手段と、前記第1の設計フェーズにおいて、前記制御手段の制御により前記試験用の鋳造装置において測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、前記試験用の鋳造装置及び前記鋳造条件を再現すると共に、前記鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する第1の算出手段と、前記第1の設計フェーズにおいて、前記測定手段で測定された前記凝固組織と、前記第1の算出手段で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する第2の算出手段と、第2の設計フェーズにおいて、前記試験用の鋳造装置よりも大規模な量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を設定する設定手段と、前記第2の設計フェーズにおいて、前記量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する第3の算出手段と、前記第2の設計フェーズにおいて、前記第3の算出手段で算出された局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する判定手段と、前記第2の設計フェーズにおいて、前記第3の算出手段で算出された局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内でないと前記判定手段で判定された場合に、前記量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、前記第3の算出手段で算出される局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第3の算出手段による算出処理及び前記判定手段による判定処理を繰り返す処理手段とを含むことを特徴とする連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置である。
【0031】
次に、本発明の特徴について述べる。
本発明の第1の特徴として、従来技術においては鋳造装置での製造条件(鋳造条件)をマクロな操業パラメータ(例えば、注湯温度等)で整理していたのに対し、本発明では凝固組織にとって普遍的なミクロ操業パラメータである局所温度履歴、特に、局所凝固速度と局所温度勾配を用いて整理する。この結果、本発明では、設計フェーズ1−2間でのように個々の鋳造装置に固有なマクロ操業パラメータの条件の大きく異なる鋳造装置間であっても、互いにマクロ操業パラメータをミクロ操業パラメータに変換して同一の凝固組織を実現することができる。
【0032】
従来技術でも、ミクロ操業パラメータで凝固組織を整理したものは存在するが、いずれも、凝固組織にとって普遍的なミクロ操業パラメータを用いている訳ではない。例えば、特許文献7では、インゴット鋳造を対象としたミクロ操業パラメータとして、鋳造シミュレーションによる鋳片表面での冷却速度(即ち、表面温度の時間微分値)及び鋳片表面での温度空間勾配(即ち、表面温度の空間微分値)の計算値を鋳片表面の凝固組織観察結果と対応付け、さらにこの対応付けのみに基づいてインゴット全体の凝固組織の評価を行っている。
【0033】
この従来技術には以下の問題点が存在するため、この従来技術を設計フェーズ1から設計フェーズ2に移行するような条件の大きく異なる場合の凝固組織予測に適用することはできない。
その第1の理由として、この従来技術において鋳片内部点での局所温度履歴は、鋳片表面とは大きく異なるはずである。本来、鋳片内部点における凝固組織を決定付けるのは、その内部点局所での温度履歴でなければならない。つまり、この従来技術におけるミクロ操業パラメータは、凝固組織にとって普遍的とは言えない。従って、この従来技術で求めたミクロ操業パラメータと凝固組織の関係を、インゴット寸法、形状や鋳造装置構造の大きく変化する条件に対して適用したとしても正確な凝固組織を予測できない。
第2の理由として、この従来技術でミクロ操業パラメータとして用いている冷却速度は、少なくとも、今回対象とする高速凝固においては、凝固組織の普遍的なパラメータになり得ない。なぜならば、局所温度の時間微分値である冷却速度は、今回対象の高速凝固の場合には時間に対して単調減少するとは限らないからである。高速凝固の場合、通常、凝固するためには大きな過冷度が必要であるが(即ち、状態図における液相線温度よりも低い溶湯温度でも凝固核生成しない)、一旦、凝固が始まると、不均一核生成が急速に進行して多大な凝縮熱を発生し、溶湯温度は、時間の経過と共に液相線温度近傍まで上昇する(即ち、局所温度時間微分値は正になる)。これを再輝現象と言う。このような凝固中温度履歴に対する温度時間微分値(即ち、冷却速度)の大小(又は正負)が体系的に凝固組織と関係付けられる根拠は低いと考えられる。この従来技術が相応に有効であったのは、適用対象が粗大インゴットに緩冷却を行う鋳造であったため、再輝現象等の高速凝固時の問題が顕在化しなかったからであり、また、適用対象の条件差が比較的小さかったので、鋳片表面での冷却速度のような普遍的ではないパラメータであっても、条件間での相対評価指標としては機能したためと考えられる。
【0034】
一方、本発明では、鋳片表面及び内部全てでの局所温度履歴を求め、それぞれの部位ごとに凝固組織を評価するので、前記第1の理由に関しては問題ない。また、ミクロ操業パラメータとして冷却速度の代わりに凝固速度を用いる。再輝現象が生じた場合でも結晶成長自身は進行し続ける、即ち、凝固速度は正であり続けるので、本発明は、前記第2の理由に関しても問題ない。
【0035】
本発明の第2の特徴として、本発明においては、局所温度履歴を求めるために凝固ミュレーションを適用し、このシミュレーションを素材表面の実績温度で調整する。本発明での対象には、鋳造シミュレーションを他の方法、例えば、特許文献7でのように実験による測定とは置き換えられない。
【0036】
この理由は、今回対象とする薄膜の高速凝固装置においては、測定には以下のような問題点が存在するからである。
第1に、今回対象である薄膜のような、小領域で高速な凝固現象を定量的に測定する手法が存在しない(又は、測定手法の制約が大きい)。
第2に、測定できるのは通常、薄膜の表面温度のみである。他の部分、例えば、冷却装置との薄膜接触面では冷却速度は薄膜表面の10倍以上にもなり得るため、表面温度のみの把握では温度履歴の評価方法として好適でない。
第3に、溶湯の速度分布情報を正確に測定する手法が存在しない。このため、表面の温度を測定できたとしても、表面での溶湯の流れの向き(順流、逆流)や流速を把握できないので、表面温度分布を表面温度履歴に換算することができない。
第4に、未知の作業条件である設計フェーズ2での設計には、事前に測定値がそもそも存在しない。
【0037】
一方、鋳造シミュレーションでは設定すべきモデル定数が多数存在し、これらモデル定数全ての値を予め正確に得ることは、通常、困難である。これらモデル定数が不正確な場合、鋳造シミュレーションで得られる素材の局所温度履歴の精度も低下する。そこで、本発明では、試験用の鋳造装置での鋳造試験時に定点での素材表面温度を測定し、この測定値を用いて、前記凝固モデル定数を調整する。今回対象での凝固測定は、温度履歴を直接求めるためには精度が不足しているが、素材表面定点温度のような簡易な測定対象であれば、十分信頼に足りるオンライン測定値を与えることができる。このように、本発明では、鋳造シミュレーションとオンライン測定とを組み合わせることで、精度の高い局所温度履歴を求めることができる。
【0038】
本発明の第3の特徴として、本発明では、凝固速度の代わりに所定エンタルピ等値線の成長速度を、局所温度空間勾配の大きさの最大値の代わりに局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値を用いることができる。このようなミクロ操業パラメータの置き換えは、凝固速度が特に大きい場合に有効である。例えば、極端に大きい凝固速度の場合、素材の成分によっては、凝固時に非晶質体(又は、ガラス体)が得られることがある。この場合、凝固潜熱は非晶質体に保持されたままなので、同じ抜熱を行っても、非晶質体の方が結晶質体のものよりも低温まで冷却される。このため、鋳造の計算対象領域内の特定の「局所」において、その位置で結晶化しているか否かで凝固潜熱分、温度が異なることになる。正確な鋳造シミュレーションを行うためにはこの「局所」での過去の温度履歴を参照して、この位置において物理的に相応しい温度を算出する必要があるが、連続鋳造を対象とする鋳造シミュレーションの場合、定常のオイラー座標系で輸送現象モデル(即ち、流れ場や温度場の計算方法)を定式化するため、局所での過去の温度履歴を輸送現象の計算途中で把握することは簡単ではなく、できたとしても、計算誤差や不安定によって温度分布が空間的に歪んだものとなる可能性が高いので、輸送現象の計算途中に局所での過去の温度履歴を参照する方法は必ずしも好適とは言えない。また、温度場の歪みに伴なって結晶領域の形状も歪みを受けるため、結晶領域の時間伸張速度である凝固速度も、この場合、不安定化し易い。
【0039】
そこで、温度場の代わりにエンタルピ場を考える。局所において結晶化の有無にかかわらず、局所が抜熱を受ける場合、当該局所ではその熱量分だけエンタルピが減少するように、エンタルピは冷却に対して変化が単調である。このため、エンタルピの微分値は、正負に変動し難く、安定化し易い(前述のように、局所で抜熱される場合でも再輝によって当該局所で温度が低下するとは限らないので、温度の微分値は正負に変動し得、より不安定である)。局所での抜熱計算を行うためには温度場の計算が必須であるが、前述のように、凝固の生じ得る領域で温度場に歪みを生じた場合でも、エンタルピの空間的・時間的変動幅は温度変動幅に比べて小さいので、ミクロ操業パラメータ値を求める際に必要な微分操作に対しては、温度よりもエンタルピを用いた方が計算が安定する。この相対的に安定な、エンタルピを用いたミクロ操業パラメータを用いて、対応する凝固組織との対応を調査すれば、ミクロ操業パラメータと凝固組織、特に、結晶化の有無の関係がより明確化し易いので、この関係を温度場計算に反映して再計算を行うことを繰り返せば、次第に、温度場を安定化させることができる。また、非晶質体の場合、凝固速度の定義が明確でなくなるが、特定のエンタルピ値を凝固エンタルピと定め、計算対象領域内での凝固エンタルピ等値線の成長速度を用いることで、擬似的に凝固速度を表現でき、結晶質と非晶質の素材を共通の指標で評価することができる(つまり、結晶質と非晶質の混在する素材をも統一的に扱うことができる)。尚、凝固エンタルピ等値線の成長速度は、後述のように容易に求めることができる。
【0040】
本発明の第4の特徴として、設計フェーズ1で得られた知見を設計フェーズ2での鋳造シミュレーションに反映するためには、未知のマクロ操業パラメータ(例えば、鋳造装置に固有な溶湯噴射圧力や冷却材移動速度等)に対する凝固モデルの適切な適用が必須である。従来の鋳造シミュレーションにおいて、未知のマクロ操業パラメータ条件での凝固モデルを適切に適用しようとした場合には、例えば、局所において凝固核生成及び結晶成長をモデル化したセルラーオートマトン法等を用いて凝固組織を決定するような先験的方法が必要になる。これら凝固核生成や結晶成長速度に係わる諸パラメータは、物理的により本質的なミクロ操業パラメータではあるものの、測定が極めて困難であり、本発明で用いるミクロパラメータである凝固速度や温度勾配等に比べて予測も格段に困難である。従って、このような先験的な凝固シミュレーションを実際の鋳造装置での鋳造に適用するためには、凝固モデルに必要な多数のパラメータを適切に設定するために、予め多数の実測値との照合と、高度な物理的な専門知識が必要になる。しかも、このような先験的なモデルには、前述の非晶質から等軸晶までの全ての凝固組織を網羅する全能の予測モデルが未だ開発されておらず、予測した凝固組織に関して大きな不確実性が存在する。従って、本発明で対象とするような短時間の簡易的な設計用の手段として、このような先験的凝固モデルは好適ではない。
【0041】
一方、本発明では、まず、第1の設計フェーズにおいて、凝固組織の変化を凝固核生成や結晶成長速度に係わる諸パラメータを直接用いて予測するのではなく、鋳造試験ごとに、実測凝固組織が鋳片内で変化する位置の鋳片表面からの距離で凝固組織を一律に整理して、各凝固組織に対応する凝固モデルを部位によって切り替える。このため、当該鋳造試験を再現する鋳造シミュレーションにおいては、先験的な凝固モデルを用いる方法に比べて、はるかに容易に適切な凝固モデルを選択することができる。
【0042】
次に、本発明では、鋳造シミュレーションを用いているので、このように判別された局所での凝固組織は、ミクロ操業パラメータとして局所での温度履歴(例えば、局所温度勾配や凝固速度)と容易に対応付けすることができる。多数の鋳造試験に対する、局所での凝固組織と温度履歴の対応付けを本発明におけるミクロ操業パラメータである凝固速度や温度勾配で整理することによって、ミクロ操業パラメ−タと凝固組織を関係付ける凝固組織予測関数を求めることができる。さらに、設計フェーズ2における未知のマクロ操業パラメータ条件での鋳造シミュレーションで得られた特定のミクロ操業パラメータを前記の凝固組織予測関数に入力することによって、当該位置での凝固組織を適切に予測することができる。
【0043】
ここで、本発明において、このようなミクロ操業パラメータで未知のマクロ操業パラメータ条件での鋳造によって得られた凝固組織を予測することができるのは、本発明の対象が急冷を行って高速な凝固を行う箔体の連続鋳造だからである。このような凝固の場合、凝固時の成分の拡散距離が著しく制限されるので、マクロな凝固偏析(鋳片内での平均的な成分勾配)は殆ど発生しない。従って、成分は箔体内で一定であるので、同一成分の溶湯で、異なる鋳造装置を用いてそれぞれ鋳造を行った場合でも、各鋳造装置の特定局所間で温度履歴が同一であれば、そこでは同一の凝固組織を期待できるのである。一方、より厚い素材の連続鋳造や、より凝固速度の小さい鋳造の場合、複数成分の溶湯を用いる場合、一般的に凝固偏析によって鋳片内で成分の分布が生じる。このため、急冷箔体が対象ではない鋳造の場合、鋳造装置が異なれば、温度履歴が同一であっても局所での成分が同一ではないため、同一の凝固組織になるとは限らない。従って、本発明の手法を適用することはできない。
【0044】
尚、ここで「局所」とは、溶湯及びこの溶湯の凝固した鋳片に固定された定点のことを意味する。また、本願において、「凝固速度」とは鋳造中のミクロな局所凝固界面の成長速度のことを意味し、「鋳造速度」とは連続鋳造装置における引抜速度、又は、押し出し速度のことを意味する。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、ベンチプラントを省略して、薄膜素材の材料開発を安価で、かつ、迅速に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態を示し、薄膜素材の凝固組織の分類における一例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、薄膜素材の凝固組織の分類における他の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、凝固界面上温度勾配と凝固速度計算値との関係の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、エンタルピ勾配と等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、凝固モデルの一例を示す模式図である。
【図8】本発明の実施形態における実施例1を示し、サンプル1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
【図9】本発明の実施形態における実施例1を示し、プラン1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
【図10】本発明の実施形態における実施例2を示し、サンプル1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
【0048】
(対象素材)
本発明で対象とする素材は、前記設計フェーズ3において連続鋳造装置を用いて製造される薄膜素材であって、その厚みは、1μm以上10mm以下であることが好ましい。特に、10μm以上1mm以下であることが特に好ましい。この範囲よりも厚い場合、冷却面積当たりの素材の熱容量が大きく、急冷が困難であるため、急冷による凝固組織の作り込みに問題を生じるので好ましくない。また、この厚みよりも薄い場合、安定的に製造できる連続鋳造装置が存在しないため、生産性の低い、インゴット鋳造で製造せざるを得ず、素材の量産化に問題を生じるので好ましくない。設計フェーズ1、2においても、同様の範囲の厚みを対象とすることができる。
【0049】
本発明で対象とする量産時(設計フェーズ3)の素材の幅に特段の制限はないが、既存の薄膜用連続鋳造装置で実現されている範囲として、0.1mm以上1200mm以下であることが好ましい。設計フェーズ1、2における素材の幅は、量産時の素材の幅よりも狭い値のものとして、設備費用を削減することができる。
【0050】
本発明で対象とする素材の断面形状は、略矩形であることを基本とするが、この形状に限定されるものではない。ニアネットシェープを指向して、最終製品の断面形状と同様の断面形状、例えば、箔厚が幅方向に大きく変化する形状、円形、又は、楕円形状であってもよい。
【0051】
本発明で対象とする素材の材料は、既存の薄膜用連続鋳造装置で鋳造できる材料であれば特に制限はない。例えば、金属、セラミック、ガラス、樹脂を対象とすることができる。
【0052】
(鋳造で対象とする凝固条件)
本発明の対象とする箔体の連続鋳造プロセスにおいては、凝固偏析を避け、かつ、生産性を指向するため、一般に高速凝固、高速鋳造を指向している。従って、好ましくは、箔厚方向平均凝固速度が1mm/s以上、単位幅当たりマスフローが1×10-3m2/s以上である。
【0053】
次に、本発明に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法を実現するための装置(連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置)の一例について説明する。
【0054】
図1は、本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0055】
図1に示す、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100は、例えば、CPU101、RAM102、ROM103、外部メモリ104、入力デバイス105、表示部106、通信インタフェース(通信I/F)107、及び、バス108のハードウェア構成を有して構成されている。
【0056】
CPU101は、例えば、ROM103或いは外部メモリ104に記憶されたプログラムやデータを用いて、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100全体の制御を行う。
【0057】
RAM102は、例えば、SDRAM、DRAMなどによって構成され、ROM103或いは外部メモリ104からロードされたプログラムやデータを一時的に記憶するエリアを備えるとともに、CPU101が各種の処理を行うために必要とするワークエリアを備える。
【0058】
ROM103は、変更を必要としないプログラムや各種のパラメータ等の情報などを格納している。
【0059】
外部メモリ104は、例えば、オペレーティングシステム(OS)やCPU101が実行するプログラム、更には、本実施形態の説明において既知としている情報などを記憶している。尚、本実施形態においては、後述する図2のフローチャートの処理を実行するためのプログラムは、外部メモリ104に記憶されているものとするが、例えばROM103に記憶されている態様であっても適用可能である。
【0060】
入力デバイス105は、例えば、マウスやキーボード等を具備して構成されており、例えばユーザが、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100に対して各種の指示を行う際に操作され、当該指示をCPU101等に入力する。
【0061】
表示部106は、例えば、モニタ等を具備して構成されており、CPU101の制御に基づいて、各種のデータや各種の情報をモニタに出力する。
【0062】
通信I/F107は、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100と、試験用鋳造装置210(更には、必要に応じて量産用連続鋳造装置220)との間で行われる、各種のコマンドや各種のデータ、各種の情報等の送受信を司るものである。
【0063】
バス108は、CPU101、RAM102、ROM103、外部メモリ104、入力デバイス105、表示部106及び通信I/F107を相互に通信可能に接続する。
【0064】
次に、本発明に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法の一例について説明する。
【0065】
図2は、本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この図2に示すフローチャートの処理は、図1に示す、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100において行われ、より詳細には、CPU101が、外部メモリ104に記憶されているプログラムを実行することによって実行される。
【0066】
<設計フェーズ1(第1の設計フェーズ)>
≪S201:第1の工程≫
まず、図2に示すステップS201の第1の工程において、CPU101は、試験用鋳造装置210に対して、2つ以上の異なる鋳造条件で薄膜素材を製造させる制御を行う。これにより、試験用鋳造装置210では、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で薄膜素材を製造する処理を行う。このステップS201の第1の工程における処理を行うCPU101は、制御手段を構成する。
【0067】
ここでは、図1に示す試験用鋳造装置210として、構造の簡易なImpact droplet法の装置、例えば、非特許文献1に記載の装置を用いることができる。また、分析用の試料(薄膜素材)がやや多量に必要な場合や抜熱流束のより高い凝固が必要な場合には、単ロール鋳造装置、例えば、市販の単ロール鋳造装置を用いてもよい。これらの装置の寸法は大きく設定する必要はなく、例えば、Impact droplet法であれば100mgの溶湯、単ロール鋳造装置であれば100g程度の溶湯でも十分である。尚、試験用鋳造装置210は、上記のものに限定されるものではない。特段の事情、例えば、既存の小型鋳造装置が存在する場合には、これを適用してもよい。このような鋳造装置の例として、双ロール鋳造装置、メルトドラッグ鋳造装置、遠心水冷紡錘法鋳造装置、又は、EFG法の鋳造装置を用いることができる。
【0068】
試験用鋳造装置210における素材の温度計測方法としては、非接触式の温度計、例えば、パイロメータを用いることができる。素材の温度を計測する位置は、凝固中の素材、又は、凝固後の箔体表面であることが好ましい。例えば、単ロール法での鋳造の場合には、液相の自由表面温度、又は、箔体の表面温度とすることができる。また、例えば、双ロール法の鋳造の場合には、ロール間から流出する箔体表面温度とすることができる。また、例えば、Impact Droplet法の場合には、溶湯の衝突予定位置の冷却面上に予め設置した高応答性熱電対とすることができる。
【0069】
試験用鋳造装置210は、凝固途中、又は、凝固直後の鋳片表面温度を空間に固定された定点において測定する温度計測機を備える。そして、試験用鋳造装置210では、薄膜素材を製造する際に、温度計測機を複数設けて鋳片表面温度を薄膜素材の複数箇所で求めてもよい。鋳片表面温度の測定場所は、例えば、単ロール鋳造であれば注湯ノズルの下流側、Impact droplet法による鋳造であれば、溶湯の冷却材への衝突部とすればよい。温度計測機としては、例えば、市販の放射温度計を用いて、非接触で鋳片表面温度を測定することができる。
【0070】
試験用鋳造装置210による鋳造試験は、鋳造条件、例えば、注湯時溶湯温度、注湯圧力、注湯ノズル−冷却材間距離、鋳片引き抜き、押し出し速度、冷却材材質、冷却材厚、冷却材初期温度、又は、冷却材移動速度等、を変更して複数回実施して行われ、素材中での温度履歴の異なった鋳造条件で製造された素材を得る。
【0071】
<設計フェーズ1(第1の設計フェーズ)>
≪S202:第2の工程≫
続いて、図2に示すステップS202の第2の工程において、CPU101は、ステップS201の第1の工程で製造された鋳造条件ごとの各薄膜素材ごとに、薄膜素材の一部又は全部を用いて凝固組織の試料とし、凝固組織の分析を行う。これにより、鋳造条件ごとの各薄膜素材ごとに、薄膜素材の凝固組織の測定が行われる。このステップS202の第2の工程における処理を行うCPU101は、測定手段を構成する。
【0072】
ここで、凝固組織の分析方法は、一般的な組織分析方法を用いることができる。
例えば、金属素材の場合、まず、予め、ユーザは、薄膜素材を樹脂に埋め込んで、凝固方向に略平行な断面が露出するように研磨を行い、前記研磨面を酸やアルカリ液等によって薬品処理して結晶界面の視認性を高めた後、光学顕微鏡を用いて前記試料断面の撮影を行う。そして、ユーザは、撮影によって得られた画像を手動又は画像処理計測装置を用いて観察し、CPU101は、例えばユーザによる入力デバイス105を介した入力に基づいて、薄膜素材の凝固組織、具体的には結晶粒の粒径分布及び結晶形状等、を測定する。この他、電子顕微鏡を用いた一般的な結晶分析手法やX線回折画像撮影を用いた一般的な結晶分析手法を用いてもよい。
【0073】
<設計フェーズ1(第1の設計フェーズ)>
≪S203:第3の工程≫
続いて、図2に示すステップS203の第3の工程において、CPU101は、ステップS201の第1の工程で測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、試験用鋳造装置210及び鋳造条件を再現すると共に、鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する処理を行う。このステップS203の第3の工程における処理を行うCPU101は、第1の算出手段を構成する。
【0074】
具体的に、ステップS203の第3の工程では、ステップS201の第1の工程における各鋳造条件を境界条件として、鋳造試験ごとに鋳造シミュレーションを実施する。鋳造シミュレーションは、例えば、単ロール鋳造法であれば、特許文献2に開示される手法を適用することができ、また、Impact droplet法であれば、非特許文献3に開示される手法を用いることができる。また、付加的にエンタルピの輸送方程式の数値解析を前述の鋳造シミュレーションと平行して実施して、当該鋳造条件におけるエンタルピ分布を求めることができる。エンタルピの輸送方程式は、前述の鋳造シミュレーションにおける温度の輸送方程式と同形(温度をエンタルピに置き換えたもの)のものを用いることができる。
【0075】
本発明においては、鋳造シミュレーションに対して、特に高い精度が求められる。従って、鋳造シミュレーションに用いる鋳造モデル定数は、極力、高精度に設定する必要がある。そこで、鋳造モデル定数の一種である、物性値(例えば、比熱、エンタルピ、エントロピ、ギブスの自由エネルギ等の熱力学物性値、密度、粘性係数、熱伝導率、状態図上の液相線温度、固相線温度、ガラス化温度等)は、事前に正確に与え得るものなので、公開された数表や、JISで規定された物性値試験等を用いて、予め正確な値を求めることが好ましい。他の凝固モデル定数、例えば、鋳片−冷却材間の熱抵抗に関しては、ステップS201の第1の工程で得られた各鋳造試験での鋳片表面温度測定値に、鋳造シミュレーションによって得られた対応点での鋳片表面温度計算値が一致するように、凝固モデル定数を調整する。即ち、鋳造シミュレーションを複数回実施して、最も鋳片表面温度計算値が測定値に近い値の鋳造シミュレーションの結果を採用する。
【0076】
本実施形態においては、溶湯及び鋳片上の定点に固定された「局所」での温度履歴として、所定温度間(例えば、固相線温度−非晶質材のガラス転移温度間)の平均冷却速度を用いることもあり得る。この際、連続鋳造の鋳造シミュレーションにおいてオイラー座標系上で定常流を仮定する場合には、時間の経過と共に「局所」は、流線上を移動するように計算される。定常流の計算において時間の経過と共に流線上を移動させる方法としては、ある「定点」x(位置ベクトル)において流れの速度がv(速度ベクトル)であるとき、任意時間Δt後の「定点」位置pは、以下の(1)式で表現できる。
p=x+Δt・v ・・・ (1)
このとき、vは流線方向となる。
【0077】
CPU101は、定常の鋳造シミュレーションによって得られた温度分布及び速度分布、並びにエンタルピ分布に一般的な演算処理を施すことによって、凝固界面(合金の場合は、液相線と固相線)の位置、凝固温度(合金の場合は、液相線温度と固相線温度)、凝固温度を含む任意温度範囲での局所温度の空間勾配値及び空間勾配の絶対値の最大値、局所温度の時間微分平均値、局所での凝固時エンタルピを含む任意エンタルピ範囲での局所エンタルピの空間勾配値及び空間勾配の絶対値の最大値、局所エンタルピの時間微分平均値、凝固速度等を容易に求めることができる。ここで、スカラ量A(Aは、温度やエンタルピ等)の時間微分値dを、(1)式を用いて、例えば、次の(2)式で求めることができる。
d=(A(x+Δx)−A(x))/Δt ・・・ (2)
ここで、Δx(ベクトル)は、「局所」の単位時間Δt間での移動量であり、A(x)は、位置xにおけるAの値である。
【0078】
また、凝固速度や凝固エンタルピ等値線の成長速度は、例えば、凝固界面上又は凝固エンタルピ等値線上における速度vs(速度ベクトル)の、この凝固界面又は等値線の鉛直方向成分の絶対値として定義できる。
【0079】
また、凝固温度履歴を代表するパラメータとして、局所凝固速度と凝固界面上での局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせや、所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び前記所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせを用いることができる。前記所定エンタルピ値として、状態図上の固相線温度に対応するエンタルピ値を用いることができる。
【0080】
<設計フェーズ1(第1の設計フェーズ)>
≪S204:第4の工程≫
続いて、図2に示すステップS204の第4の工程において、CPU101は、ステップS202の第2の工程で測定された薄膜素材の凝固組織と、ステップS203の第3の工程で算出された薄膜素材の局所温度履歴とを鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する処理を行う。このステップS204の第4の工程における処理を行うCPU101は、第2の算出手段を構成する。
【0081】
図3は、本発明の実施形態を示し、薄膜素材の凝固組織の分類における一例を示す模式図である。具体的に図3には、凝固界面上温度勾配と凝固速度との関係が示されている。
また、図4は、本発明の実施形態を示し、薄膜素材の凝固組織の分類における他の一例を示す模式図である。具体的に図4には、エンタルピ勾配と等エンタルピ線成長速度との関係が示されている。
【0082】
本発明者は、第2の工程で得られた凝固組織と第3の工程で得られた局所温度履歴とは、図3又は図4のように整理できることを見出した。
【0083】
図3は、非特許文献2に示された凝固組織の整理に、非晶質(A)の領域を追加したものである。この図3において、凝固組織は、柱状晶(C)、柱状デンドライト晶(D)、等軸晶(E)、又は、非晶質(A)のいずれかの凝固組織パターンに分類(実績凝固組織分類)され、各凝固組織パターンは、明確な凝固組織境界線で区分されている。図3において、同一凝固組織パターン内では、結晶組織の平均粒径は、右上の領域ほど、細かくなる。また、鋳片の定点に対応する部位での単位時間当たり温度低下量である冷却速度(CR)一定の線は、図3において右下がりの線として表現される。
【0084】
図4は、図3の関係のアナロジーとして、局所凝固速度を局所での所定等エンタルピ線の成長速度に、凝固界面上温度勾配を所定等エンタルピ線上でのエンタルピ勾配最大値に、置き換えたものである。
【0085】
以下、ステップS204の第4の工程における具体的な処理方法について説明する。
図5は、本発明の実施形態を示し、凝固界面上温度勾配と凝固速度計算値との関係の一例を示す模式図である。
図5(a)は、設計フェーズ1の第1の工程の鋳造試験で得られた凝固組織を、当該鋳造条件(特定の鋳造条件)に対応する鋳造シミュレーション(凝固シミュレーション)によって得られた局所でのミクロ操業パラメータである凝固界面上での(空間)温度勾配計算値(温度勾配が最大となる方向の勾配値を採用する)及び凝固界面上の凝固速度計算値の座標点として、図3と同様のグラフ上にプロットしたものである。この図5(a)では、非晶質材料の製造を目的として、「非晶質」、及び結晶質の混在した非晶質である「非晶質+結晶質」に分類し、「非晶質」を好適、「非晶質+結晶質」を好適ではないとする。
【0086】
次に、例えばユーザは、「非晶質」と「非晶質+結晶質」との凝固組織境界線を目視判断によって入力デバイス105を介してCPU101に入力し、CPU101は、図5(b)のように凝固組織境界線を設定するとともに、この凝固組織境界線よりも右上の領域を非晶質材料製造可能範囲、即ち、好適な凝固組織となる局所温度履歴範囲に設定する。図5では、特定の鋳造試験における特定の局所での温度履歴を1つの座標点としてプロットする。この結果、好適な凝固組織となる局所温度履歴範囲は、局所でのミクロ操業パラメータで整理できる。
【0087】
また、ミクロ操業パラメータとして、凝固界面上での温度勾配及び凝固界面上凝固速度の代わりに局所での所定等エンタルピ線成長速度及び前記所定等エンタルピ線上でのエンタルピ勾配(エンタルピ勾配が最大となる方向の勾配値を採用する)の計算値を用いてもよい。これらエンタルピを用いるミクロ操業パラメータを用いた場合の処理方法を、図6に示す。
【0088】
図6は、本発明の実施形態を示し、エンタルピ勾配と等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
図6(a)及び図6(b)における手順は、図5(a)及び図5(b)での手順においてミクロ操業パラメータを変更した点のみが異なり、図5(a)及び図5(b)での手順と本質的に同様である。尚、当該薄膜素材の凝固組織としての採用可否に関しては、第1の工程で得られた箔に対して実施される各種の材質試験結果及び第2の工程で得られた凝固組織の対応から、適宜判断基準を設定すればよい。
【0089】
<設計フェーズ2(第2の設計フェーズ)>
≪S205:第5の工程≫
続いて、図2に示すステップS205の第5の工程において、CPU101は、設計フェーズ1で用いた試験用鋳造装置210よりも大規模な量産用連続鋳造装置220(の種類、仕様、構造等)及びその鋳造条件を設定する処理を行う。このステップS205の第5の工程における処理を行うCPU101は、設定手段を構成する。
【0090】
ここでは、量産用連続鋳造装置220として、量産に向く形式の連続鋳造装置、例えば、単ロール鋳造装置、双ロール鋳造装置、双ベルト鋳造装置、メルトドラッグ鋳造装置、遠心水冷紡錘法鋳造装置、又は、EFG法の鋳造装置を仮定(設定)することができる。また、量産用連続鋳造装置220として、新規に開発する性能が未知の形式の鋳造装置であってもよい。量産用連続鋳造装置220の形式は、設計フェーズ1で用いた試験用鋳造装置210と異なってもよいし、一般に、設計フェーズ1で用いた試験用鋳造装置210よりも大型で生産性のより高い装置を用いることができる。フェーズ1と同様に、適宜、箔体の表面温度を計測してもよい。
【0091】
<設計フェーズ2(第2の設計フェーズ)>
≪S206:第6の工程≫
続いて、図2に示すステップS206の第6の工程において、CPU101は、第5の工程で設定した量産用連続鋳造装置220及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する処理を行う。このステップS206の第6の工程における処理を行うCPU101は、第3の算出手段を構成する。
【0092】
ここでは、鋳造条件として、第5の工程で設定された量産用連続鋳造装置220において実現可能な鋳造条件、例えば、注湯時溶湯温度、注湯圧力、注湯ノズル−冷却材間距離、鋳片引き抜き、押し出し速度、冷却材材質、冷却材厚、冷却材初期温度、又は、冷却材移動速度等を設定する。また、ステップS206の第6の工程で用いる鋳造シミュレーションには、設計フェーズ1で用いたものを使用することができる。また、量産用連続鋳造装置220が双ロール鋳造装置である場合には、非特許文献4に開示されたものを用いてもよい。また、ステップS205の第5の工程において箔体の表面温度を測定する場合には、この測定値を用いて鋳造シミュレーションを調整してもよい。
【0093】
鋳造シミュレーションの結果、この鋳造条件における凝固界面上(又は、マッシー中)での、局所温度履歴に係わるミクロ操業パラメータ値を求めることができる。ミクロ操業パラメータとしては、設計フェーズ1で用いたものを用いる。即ち、凝固速度と凝固界面上での局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせや、所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び前記所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせを用いることができる。
【0094】
<設計フェーズ2(第2の設計フェーズ)>
≪S207:第7の工程≫
続いて、図2に示すステップS207の第7の工程において、CPU101は、ステップS206の第6の工程で算出された局所温度履歴が、ステップS204の第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する処理を行う。このステップS207の第7の工程における処理を行うCPU101は、判定手段を構成する。
【0095】
具体的に、本実施形態では、CPU101は、ステップS206の第6の工程で求めた代表的局所でのミクロ操業パラメータ計算値の座標点を、設計フェーズ1で作成したミクロ操業パラメータを整理した図5(c)、図6(c)上にプロットし、当該座標点が、ステップS204の第4の工程で求めた、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内であるかを判定する。
【0096】
そして、ステップS207の第7の工程における判定の結果、ステップS206の第6の工程で算出された全ての代表的局所についての局所温度履歴が、ステップS204の第4の工程で算出された好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内である場合には、CPU101は、現在設定されている鋳造条件を採用可能な鋳造条件と判断し、図2のフローチャートにおける処理を終了する。
【0097】
<設計フェーズ2(第2の設計フェーズ)>
≪S208:第8の工程≫
一方、ステップS207の第7の工程における判定の結果、ステップS206の第6の工程で算出されたいずれかの代表的局所についての局所温度履歴が、ステップS204の第4の工程で算出された好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内でない(範囲外である)場合には、ステップS208の第8の工程に進む。
ステップS208の第8の工程に進むと、CPU101は、現在設定されている量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、ステップS206の第6の工程に戻る。そして、CPU101は、ステップS206の第6の工程で算出される局所温度履歴が、ステップS204の第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第6の工程及び前記第7の工程を繰り返す処理を行う。このステップS208の第8の工程における処理を行うCPU101は、処理手段を構成する。
【0098】
例えば、ステップS208の第8の工程において鋳造条件を変更して、第6の工程を再度実施し、第7の工程において、第6の工程の結果得られた局所温度履歴に係わるミクロ操業パラメータの座標点が、第4の工程の結果得られた好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内であるを判定する。そして、局所温度履歴に係わるミクロ操業パラメータ座標値が好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲内となるまで、第6の工程〜第8の工程を繰り返して採用可能な鋳造条件を求める。
【0099】
(凝固モデル)
次に、凝固モデルに使用する用語について、単ロール法の鋳造シミュレーションの検討系である図7を用いて説明する。
【0100】
図7は、本発明の実施形態を示し、凝固モデルの一例を示す模式図である。具体的に、図7には、本発明の実施形態で用いられる鋳造装置による鋳造の様子が示されている。
流入口709から流入してノズル壁面708の間から噴射された液相701が、回転する冷却材711である冷却ロールと冷却面712で接触することにより、液相701は、冷却ロール側から凝固して固相702を形成する。固相702は、冷却ロールに引かれて、流出口710から流出する。液相701が固相702に凝固する際に、複数成分系の材料(素材)の場合、液相線704と固相線705を材料内に引くことができる。液相線704と固相線705は、比較的低速での凝固の場合、当該成分系に対応する状態図上での液相線及び固相線に一致する。
【0101】
しかしながら、本発明が対象とする、高速での凝固時には、一般には、図7中の液相線704及び固相線705は、状態図上の液相線や固相線とは一致せず、冷却速度や成分の影響を受けて過冷状態での液相線及び固相線となる。過冷状態の液相線及び固相線は、予め材料試験を行うことによって求めることができる。純物質や共晶成分系の材料の場合、図7中での液相線704と固相線705は一致し、シャープな凝固界面を形成する。材料が純物質や共晶成分系でない場合、液相線704と固相線705の間に固液共存領域であるマッシー703が生成し得る。但し、このような成分系であっても、例えば、凝固組織が柱状晶である場合には、後述のようにマッシー703を生成せず、シャープな凝固界面を形成して凝固が進展し得る。また、極端に冷却速度の大きい場合には、凝固組織は結晶とはならず、非晶質となる。非晶質の材料では、温度低下と共に徐々に材料の粘性が上昇する物性となるので、液相線704や固相線705は本来、存在しない。しかしながら、実用上、固体と見做し得る高い粘性に達する所定等温線706を実質的な凝固界面として取り扱うことができる。
【0102】
次に、凝固組織について説明する。
本発明が対象とする鋳造において生成する凝固組織は、形態的に、非晶、柱状晶、柱状デンドライト晶、又は、等軸晶のいずれかに分類することができる。凝固中に凝固界面(又は、マッシー等の凝固領域)が外力を受ける場合、凝固組織の形態ごとに変形挙動が異なるので、凝固界面や凝固領域には、そこでの凝固組織形態に対応した、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、又は、等軸晶用のいずれかの凝固モデルを適用することが、鋳造シミュレーションの予測精度上、好ましい。
【0103】
凝固モデルは、凝固界面又は凝固領域の取り扱い方法から大きく次の3つに分類できる。第1は、シャープ凝固界面型凝固モデルであり、液相と固相が凝固界面を挟んで直接、隣接する形式のものである。第2は、混相型マッシー凝固モデルであり、液相と固相の間に固液の混在した仮想の多孔質領域(マッシー)を設ける。このマッシー内においては、局所での液相と固相の速度差に比例する運動量の消散が生じる。固相と液相の速度差は、例えば、非特許文献5に開示されるマルチフェーズモデルを用いて、固相変形と液相変形を別々に数値解析して求める方法と、固相の速度を何らかの方法で予め与え、液相のみの変形を数値解析する方法の2種類が存在する。第3は、高粘性液体マッシー型凝固モデルであり、液相線温度と固相線温度の間で温度の低下と共に液相の粘性が上昇するように物性値を設定して、この領域を実質的にマッシーとして取り扱う方法である。この場合、マッシー内は、単なる高粘度の液相として数値解析される。
【0104】
次に、各凝固組織ごとに適切な凝固モデルについて説明する。
非晶質は、明確な凝固現象を生じず、温度が低下するに従って、徐々に粘性の上昇する挙動を示す。例えばガラス転移温度では、通常、融点(固相線温度)での粘性の1012倍以上の値となる。液相からガラス転移温度までのようなに広い範囲の粘性を示す液体を安定的に解く数値解析手法があれば、凝固モデルは不要であり、単に、液体の粘性を温度に対応させて変化させればよい。しかしながら、実際にはこのような数値解析は、数値的に不安定である場合が多いので、特定の粘性(温度)で凝固して固体になるものとして数値解析することが多い。このような凝固に対しては、凝固界面直後で直ちに高い粘性を与えることができるために予測精度の高い、例えば特許文献2に開示されるシャープ凝固界面型凝固モデルが好ましい。尚、非晶質の場合、凝固潜熱は発生しない。
【0105】
柱状晶は、やや平坦な頭部を有し、かつ、冷却面に対して略垂直な棒状の固相セルが多数、水平面内に並んで一斉に凝固の進展する挙動を示す。このため、凝固は主に、セルの頭部で生じる。ここで、凝固界面に垂直な温度勾配が比較的低い場合には、セル間に凝固偏析に基づく深い谷間を生じて、セル頭部とセル間の谷底の間でマッシーを形成し得る。しかしながら、本発明が対象とする急冷での凝固では、箔厚方向の温度勾配が極めて大きいため、深い谷間が生じることはない。従って、実質的にセル頭部を凝固界面と見做すことができる。凝固界面近傍の液相では、液相線温度以下であったとしても、凝固することはないので、物理的にマッシーは生成しない。以上の特徴から、柱状晶には、シャープ凝固界面型凝固モデルが好ましい。尚、シャープ凝固界面型凝固モデルにおける凝固潜熱は、凝固界面における固相側の抜熱と液相側での入熱との差として表現される。
【0106】
柱状デンドライト晶は、先端の比較的尖った細い柱状の固体柱が水平方向にやや間隔を保って多数存在する形状で凝固が進行する。マッシー内において先端部は、選択的に早く凝固が進行し、柱間では徐々に凝固が進行するため、柱の先端と柱間の谷底の間で明確なマッシーを形成する。このマッシー内では、冷却面に水平な方向の側柱も二次的に成長することがあるので、柱状デンドライト晶は、物理的に多孔質の固体間に液相が保持された状態となる。以上の点から、柱状デンドライト晶には、混相型マッシー凝固モデルが好ましい。尚、混相型マッシー凝固モデルにおける凝固潜熱は、固相率の変化に応じて局所で生じる発熱として取り扱うことができる。
【0107】
等軸晶は、自由な液相中に存在、又は、生成した多数の凝固核からそれぞれ略全方位に向けて一斉に凝固が進行する。個々の等軸晶は、大きな固体に接触して合体しない限り液相中に懸濁しており、固液混層のマッシーは、少なくとも固相の小さい領域ではスラリー状の液体として振舞う。従って、等軸晶には高粘性液体マッシー型凝固モデルが好ましい。尚、高粘性液体マッシー凝固モデルにおける凝固潜熱は、マッシー内での液体の比熱を潜熱分、一律に大きく設定することで取り扱うことができる。
【0108】
前述のように、本発明では、鋳造シミュレーションにおける局所での凝固モデルを凝固界面上(マッシーを有する場合には固相率100%の線上)での局所のミクロ操業パラメータの関数として、判断する。ミクロ操業パラメータとしては、凝固界面上の凝固速度及び空間温度勾配最大値の組み合わせ、又は、所定等エンタルピ線の成長速度及び前記所定エンタルピの空間勾配最大値の組み合わせを用いることができる。
【0109】
これらのミクロ操業パラメータは、凝固界面上で一定ではないので、同一の鋳片において、異なる凝固組織が混在する場合もある。設計フェーズ1において、試験結果で同一鋳片内で異なる凝固組織が得られた場合(例として、冷却面側箔体表面(座標点y=0)に柱状デンドライト、箔内で表面からの距離y=y1の位置より内側で等軸晶が得られたものとする)、この試験に対応する凝固シミュレーションにおける凝固モデルは、例えば、次の(3)式で表せる実績凝固組織関数G(y)で選択することができる。
【0110】
【数1】
【0111】
また、設計フェーズ1において、複数の試験結果と対応する凝固シミュレーションの結果から凝固組織予測関数を求める方法は、図5及び図6の凝固組織境界を求める方法と同様でよい。そして、これらの図5及び図6で得られた凝固組織境界をミクロ操業パラメータの関数として表現することによって凝固組織予測関数が得られる。
【0112】
設計フェーズ2において、特定のマクロ操業パラメータの条件での鋳造シミュレーションを行う場合に用いる凝固モデルは、次の手順で決定する。
まず、凝固組織を1つ仮定(設定)し、これに対応する凝固モデルを凝固界面全域に対して適用する。続いて、凝固界面上でのミクロ操業パラメータ(凝固速度及び空間温度勾配最大値等)の組み合わせを前記凝固組織予測関数に代入して局所での凝固組織を推定する。続いて、推定した凝固組織が最初に仮定(設定)した凝固組織と異なる部位の局所には、前記凝固組織予測関数で得られた凝固組織に対応する凝固モデルを適用する前提で、再度、鋳造シミュレーションを実施する。仮定(設定)した凝固モデルを前提に実施した鋳造シミュレーション結果を用いた凝固組織予測関数で計算された凝固組織が、計算前提の凝固組織と、凝固界面上の全域で一致するまで繰り返し計算を行う。
【実施例】
【0113】
[実施例1]
実施例1では、設計フェーズ1として、まず、非晶質材料を得る目的で、単ロール鋳造法の試験用鋳造装置210を用いて、成分がFe−B−Si合金の薄膜素材の鋳造を、異なる2つの鋳造条件で行った。この際、冷却ロールの直径は、φ30mmとした。試験の際に、箔体の表面温度を定点に固定したパイロメータによって連続的に測定した。そして、異なる2つの鋳造条件により、それぞれ厚みが約30μmであるサンプル1及び2を得た。具体的に、サンプル1の試験条件(鋳造条件)において、ロール表面での熱抵抗をサンプル2における試験条件(鋳造条件)よりも小さく設定して試験を行った。
【0114】
そして、ユーザは、得られたサンプル1及び2から切り出したそれぞれ10個の試験片を樹脂に埋め込んで研磨を行い、箔の幅方向の垂直断面(即ち、箔表面から裏面までを含む断面)である検査面を光学顕微鏡を通して撮影した。そして、ユーザは、各サンプルごとの検査面上の同一点での組織を目視で確認して、結晶質であるか非晶質であるかを評価して、その結果を入力デバイス105を介してCPU101に入力した。このような評価を、各サンプルの検査面上で、箔厚方向に異なる10点に対して実施した。その結果、サンプル1では、検査面上の全ての点において全ての試験片で非晶質であった。一方、サンプル2では、検査面上のいずれの点においても、非晶質である試験片と結晶質である試験片が混在していた。
【0115】
併せて、CPU101は、サンプル1及び2を得た鋳造処理と同一の鋳造条件で、それぞれ、特許文献2の手法で鋳造シミュレーションを行って、温度(熱)履歴を得た。このとき凝固モデルとして、いずれのサンプルでもシャープ凝固界面型凝固モデルを適用した。サンプル2は、結晶質を全域で含み得る好適ではない凝固組織ではあるものの、結晶化の比率は、平均的には高々数%程度と少ない状態だったので、いずれのサンプルでも凝固潜熱は無いものとして計算した。また、CPU101は、鋳造試験時の測定温度に、計算温度が一致するように、冷却面での熱抵抗値を調整して計算を行った。その結果のミクロ操業パラメータによる整理を図8に示す。
【0116】
図8は、本発明の実施形態における実施例1を示し、サンプル1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
図8において、サンプル1の座標点は、鋳造シミュレーションの結果得られた計算値を用いている。また、図8上の各点での凝固組織は、前述の試験片観察結果を記載した。ここで、例えばユーザは、図8上での凝固組織の分布から、完全に非晶質となる凝固組織限界線を目視判断によって入力デバイス105を介してCPU101に入力し、CPU101は、図8のように凝固組織境界線を設定する。さらに、図8において、前記凝固組織境界線よりも右上側の凝固組織の領域が非晶質材料製造可能範囲であるため、CPU101は、当該領域を非晶質材料製造可能範囲に設定する。
【0117】
次に、実施例1では、設計フェーズ2として、より厚い材料として厚み50μmの薄膜素材の鋳造を前提とするため、量産用連続鋳造装置220として双ロール鋳造装置を設定して、設計フェーズ1と同様に鋳造シミュレーションを実施した。
【0118】
この鋳造シミュレーションの条件として、双ロール鋳造装置の冷却ロール径を、φ40mmのものを想定したプラン1とφ400mmのものを想定したプラン2の2条件とした。この鋳造シミュレーションの結果得られた、代表点でのミクロ操業パラメータの座標点を図8と同様に整理したものを図9に示す。併せて、図8上で求めた凝固組織境界線を図9上にも示す。
【0119】
図9は、本発明の実施形態における実施例1を示し、プラン1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
図9において、プラン1及び2の各点は、全て凝固組織境界線よりも右上に存在する(即ち、非晶質材料製造可能範囲内である)ので、いずれのプランにおいても、双ロール鋳造装置で非晶質の材料が得られるものと推定できる。また、図9において、プラン1の方がプラン2よりも全般的に右上方向に位置するので、プラン1、即ち、冷却ロール径を小径とした方がより非晶質の材料を得易いとも推定できる。
【0120】
以上の解析によって、設計フェーズ1の結果を用いて、ベンチプラントを建設することなく、設計フェーズ2用の鋳造装置での凝固組織を予測することができた。
【0121】
[実施例2]
実施例2では、設計フェーズ1での凝固モデルとして高粘性液体マッシー型凝固モデルであるVOF法を用いる以外の条件を実施例1と同様にして、鋳造試験、並びに、凝固組織の予測を行った。この凝固シミュレーションでは、箔厚の予測精度が実施例1のものよりも低かった。ここで、設計フェーズ1における凝固組織境界の整理を図10に示す。
【0122】
図10は、本発明の実施形態における実施例2を示し、サンプル1及び2における無次元局所エンタルピ勾配最大値と無次元等エンタルピ線成長速度との関係の一例を示す模式図である。
図10において、設計フェーズ1の同一の試験結果に対する凝固組織界面の整理が実施例1(図8)とは定性的にも異なることがわかる。即ち、図8では冷却速度一定線が凝固組織境界であるのに対し、図10では等エンタルピ線成長速度一定線が凝固組織界面である。実施例1、2での箔厚の予測精度が異なることからみて、図8と図10との差は、鋳造シミュレーションで使用した凝固モデルの差によるものと考えられる。従って、本発明に用いる鋳造シミュレーションにおいては、適切な凝固モデルを選択することが重要であることがわかる。尚、実施例1の方が箔厚予測精度がより高いので、実施例1、2の鋳造試験に関しては、実施例1での整理の方がより妥当性が高いと考えられる。
【0123】
(その他の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。
即ち、前述した、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法を示す図2の各ステップを、CPU101が外部メモリ104等に記憶されているプログラムを実行することによって実現する処理である。
このプログラム及び当該プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明に含まれる。
【0124】
また、本発明の実施形態に係わる、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100は、図1に示す例では、試験用鋳造装置210及び量産用連続鋳造装置220の外部に構成されているが、本発明においてはこの形態に限定されるものではない。例えば、連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置100の機能が、試験用鋳造装置210或いは量産用連続鋳造装置220の内部に設けられ、前述した本発明の実施形態における処理を実現する形態も本発明に含めることができる。
【0125】
尚、前述した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。即ち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0126】
100:連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置、101:CPU、102:RAM、103:ROM、104:外部メモリ、105:入力デバイス、106:表示部、107:通信I/F(通信インタフェース)、108:バス、210:試験用鋳造装置、220:量産用連続鋳造装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法であって、
試験用の鋳造装置に対して、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で当該薄膜素材を製造させる制御を行う第1の工程と、
前記試験用の鋳造装置で製造された薄膜素材の凝固組織を分析して、前記鋳造条件ごとに当該薄膜素材の凝固組織を測定する第2の工程と、
前記試験用の鋳造装置において前記第1の工程で測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、前記試験用の鋳造装置及び前記鋳造条件を再現すると共に、前記鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する第3の工程と、
前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する第4の工程と
を有する第1の設計フェーズと、
前記試験用の鋳造装置よりも大規模な量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を設定する第5の工程と、
前記量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する第6の工程と、
前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する第7の工程と、
前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内でないと判定された場合に、前記量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、前記第6の工程で算出される局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第6の工程及び前記第7の工程を繰り返す第8の工程と
を有する第2の設計フェーズと
を含むことを特徴とする連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項2】
前記第4の工程において、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせることは、
前記局所温度履歴として、特定の鋳造条件に対応する前記鋳造シミュレーションにおいて局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均を算出したものと、前記特定の鋳造条件に関する凝固組織とを組み合わせることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項3】
前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定することは、
前記局所温度履歴範囲内である、前記第1の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせ範囲内に、前記局所温度履歴である、前記第2の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせが、存在するかを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項4】
前記第4の工程において、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせることは、
前記局所温度履歴として、特定の鋳造条件に対応する前記鋳造シミュレーションにおいて所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び前記所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均を算出したものと、前記特定の鋳造条件に関する凝固組織とを組み合わせることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項5】
前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定することは、
前記局所温度履歴範囲内である、前記第1の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び当該所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせの範囲内に、前記局所温度履歴である、前記第2の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される凝固中の所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び当該所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせが、存在するかを判定することを特徴とする請求項1又は4に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項6】
前記第2の工程における凝固組織の測定結果を、非晶質、柱状晶、柱状デンドライト晶、又は、等軸晶のいずれかに分類して実績凝固組織分類を得て、
次に、前記実績凝固組織分類の変化する境界である凝固組織境界を鋳片表面からの距離の関数である実績凝固組織関数で表し、
次に、前記第3の工程における鋳造シミュレーションで用いられる凝固モデルとして、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、及び、等軸晶用の凝固モデルを備え、かつ、当該鋳造シミュレーションにおいて局所での凝固計算に用いる前記凝固モデルを判断する方法として、前記局所の冷却面からの距離を鋳片からの距離として与えた前記実績凝固組織関数を用いて得られた凝固組織を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項7】
前記第3の工程における鋳造シミュレーションにおいて、前記局所での凝固組織を、当該局所での前記局所温度履歴と対応付け、
次に、前記2つ以上の異なる鋳造条件で製造された前記薄膜素材の前記局所での凝固組織と前記局所温度履歴との対応付けを用いて、凝固組織の境界を局所温度履歴の関数として表す凝固組織予測関数を求め、
次に、前記第6の工程における鋳造シミュレーションで用いられる凝固モデルとして、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、及び、等軸晶用の凝固モデルを備え、かつ、当該鋳造シミュレーションにおいて局所での凝固計算に用いる前記凝固モデルを判断する方法として、前記凝固組織予測関数を用いて判断することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項8】
連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置であって、
第1の設計フェーズにおいて、試験用の鋳造装置に対して、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で当該薄膜素材を製造させる制御を行う制御手段と、
前記第1の設計フェーズにおいて、前記試験用の鋳造装置で製造された薄膜素材の凝固組織を分析して、前記鋳造条件ごとに当該薄膜素材の凝固組織を測定する測定手段と、
前記第1の設計フェーズにおいて、前記制御手段の制御により前記試験用の鋳造装置において測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、前記試験用の鋳造装置及び前記鋳造条件を再現すると共に、前記鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する第1の算出手段と、
前記第1の設計フェーズにおいて、前記測定手段で測定された前記凝固組織と、前記第1の算出手段で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する第2の算出手段と、
第2の設計フェーズにおいて、前記試験用の鋳造装置よりも大規模な量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を設定する設定手段と、
前記第2の設計フェーズにおいて、前記量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する第3の算出手段と、
前記第2の設計フェーズにおいて、前記第3の算出手段で算出された局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する判定手段と、
前記第2の設計フェーズにおいて、前記第3の算出手段で算出された局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内でないと前記判定手段で判定された場合に、前記量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、前記第3の算出手段で算出される局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第3の算出手段による算出処理及び前記判定手段による判定処理を繰り返す処理手段と
を含むことを特徴とする連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置。
【請求項1】
連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法であって、
試験用の鋳造装置に対して、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で当該薄膜素材を製造させる制御を行う第1の工程と、
前記試験用の鋳造装置で製造された薄膜素材の凝固組織を分析して、前記鋳造条件ごとに当該薄膜素材の凝固組織を測定する第2の工程と、
前記試験用の鋳造装置において前記第1の工程で測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、前記試験用の鋳造装置及び前記鋳造条件を再現すると共に、前記鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する第3の工程と、
前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する第4の工程と
を有する第1の設計フェーズと、
前記試験用の鋳造装置よりも大規模な量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を設定する第5の工程と、
前記量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する第6の工程と、
前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する第7の工程と、
前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内でないと判定された場合に、前記量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、前記第6の工程で算出される局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第6の工程及び前記第7の工程を繰り返す第8の工程と
を有する第2の設計フェーズと
を含むことを特徴とする連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項2】
前記第4の工程において、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせることは、
前記局所温度履歴として、特定の鋳造条件に対応する前記鋳造シミュレーションにおいて局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均を算出したものと、前記特定の鋳造条件に関する凝固組織とを組み合わせることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項3】
前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定することは、
前記局所温度履歴範囲内である、前記第1の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせ範囲内に、前記局所温度履歴である、前記第2の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される局所凝固速度及び凝固中の局所温度勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせが、存在するかを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項4】
前記第4の工程において、前記第2の工程で測定された前記凝固組織と、前記第3の工程で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせることは、
前記局所温度履歴として、特定の鋳造条件に対応する前記鋳造シミュレーションにおいて所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び前記所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均を算出したものと、前記特定の鋳造条件に関する凝固組織とを組み合わせることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項5】
前記第7の工程において、前記第6の工程で算出された局所温度履歴が、前記第4の工程で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定することは、
前記局所温度履歴範囲内である、前記第1の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び当該所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせの範囲内に、前記局所温度履歴である、前記第2の設計フェーズで用いた鋳造シミュレーションにおいて算出される凝固中の所定エンタルピ等値線上の局所成長速度及び当該所定エンタルピ値での局所エンタルピ空間勾配の大きさの最大値の時間平均の組み合わせが、存在するかを判定することを特徴とする請求項1又は4に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項6】
前記第2の工程における凝固組織の測定結果を、非晶質、柱状晶、柱状デンドライト晶、又は、等軸晶のいずれかに分類して実績凝固組織分類を得て、
次に、前記実績凝固組織分類の変化する境界である凝固組織境界を鋳片表面からの距離の関数である実績凝固組織関数で表し、
次に、前記第3の工程における鋳造シミュレーションで用いられる凝固モデルとして、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、及び、等軸晶用の凝固モデルを備え、かつ、当該鋳造シミュレーションにおいて局所での凝固計算に用いる前記凝固モデルを判断する方法として、前記局所の冷却面からの距離を鋳片からの距離として与えた前記実績凝固組織関数を用いて得られた凝固組織を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項7】
前記第3の工程における鋳造シミュレーションにおいて、前記局所での凝固組織を、当該局所での前記局所温度履歴と対応付け、
次に、前記2つ以上の異なる鋳造条件で製造された前記薄膜素材の前記局所での凝固組織と前記局所温度履歴との対応付けを用いて、凝固組織の境界を局所温度履歴の関数として表す凝固組織予測関数を求め、
次に、前記第6の工程における鋳造シミュレーションで用いられる凝固モデルとして、非晶質用、柱状晶用、柱状デンドライト晶用、及び、等軸晶用の凝固モデルを備え、かつ、当該鋳造シミュレーションにおいて局所での凝固計算に用いる前記凝固モデルを判断する方法として、前記凝固組織予測関数を用いて判断することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計方法。
【請求項8】
連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置であって、
第1の設計フェーズにおいて、試験用の鋳造装置に対して、定点で薄膜素材の表面温度を測定しながら、2つ以上の異なる鋳造条件で当該薄膜素材を製造させる制御を行う制御手段と、
前記第1の設計フェーズにおいて、前記試験用の鋳造装置で製造された薄膜素材の凝固組織を分析して、前記鋳造条件ごとに当該薄膜素材の凝固組織を測定する測定手段と、
前記第1の設計フェーズにおいて、前記制御手段の制御により前記試験用の鋳造装置において測定された薄膜素材の表面温度を用いて調整された鋳造シミュレーションを用いて、前記試験用の鋳造装置及び前記鋳造条件を再現すると共に、前記鋳造条件ごとに薄膜素材の局所温度履歴を算出する第1の算出手段と、
前記第1の設計フェーズにおいて、前記測定手段で測定された前記凝固組織と、前記第1の算出手段で算出された前記局所温度履歴とを前記鋳造条件ごとに組み合わせて、好適な凝固組織となる薄膜素材の局所温度履歴範囲を算出する第2の算出手段と、
第2の設計フェーズにおいて、前記試験用の鋳造装置よりも大規模な量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を設定する設定手段と、
前記第2の設計フェーズにおいて、前記量産用の連続鋳造装置及びその鋳造条件を再現する鋳造シミュレーションを実施して薄膜素材の局所温度履歴を算出する第3の算出手段と、
前記第2の設計フェーズにおいて、前記第3の算出手段で算出された局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内であるかを判定する判定手段と、
前記第2の設計フェーズにおいて、前記第3の算出手段で算出された局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内でないと前記判定手段で判定された場合に、前記量産用の連続鋳造装置又は当該量産用の連続鋳造装置の鋳造条件を変更して、前記第3の算出手段で算出される局所温度履歴が、前記第2の算出手段で算出された局所温度履歴範囲内となるまで、前記第3の算出手段による算出処理及び前記判定手段による判定処理を繰り返す処理手段と
を含むことを特徴とする連続鋳造によって製造される薄膜素材の材料設計装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−104618(P2011−104618A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261931(P2009−261931)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
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