説明

進水装置

【課題】メンテナンスコストが低く、使用し易い、船舶等の進水装置を提供する。
【解決手段】進水装置2は、固定台6と、この固定台6に対して滑走する滑走台8とを備えている。固定台6の滑走面14の表面22は、樹脂又は金属からなる。滑走台8の滑走面18の表面26は、樹脂からなる。表面22と表面26との間に、潤滑層10が位置している。表面22と表面26との間に、軟石鹸又は軟石鹸を主成分とするパラフィンとの混合物が介在している。この樹脂としては、例えば、ポリプロピレン等ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ化炭素樹脂、塩化ビニル樹脂等の塩素含有樹脂、メラミン樹脂等の窒素含有樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂及びポリウレタン樹脂が例示され、金属としては、鉄板、ステンレス鋼板が例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶等の構造物を進水させる進水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等は、陸上で建造や修理等される。建造や修理等がされた船舶等は、陸上から海や川等の水域に進水させられる。この進水に、進水装置が用いられる。この進水装置は傾斜した固定台と、この固定台を滑り降りる滑走台とを備えている。この滑走台に船舶等が載せられる。この滑走台が固定台を滑り降りて、船舶等が進水させられる。
【0003】
この進水装置として、固定台と滑走台との間にローラやボールを介在させた進水装置がある。このローラやボールが、固定台に対して滑走台を滑走し易くしている。
【0004】
また、固定台と滑走台との間に潤滑層を介在させた進水装置がある。この進水装置では、潤滑層が固定台に対して滑走台を滑走し易くしている。この進水装置では、木製の固定台の滑走面の上に、潤滑層が形成される。この潤滑層として、例えば、パラフィン層が所定の厚みに積層される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−72683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ローラやボールを介在した進水装置では、ローラやボールが船舶等の重量を受ける。ローラやボールの接触面積は小さい。このローラやボールは破損し易い。金属製のローラやボールは海水により腐食する恐れがある。このような進水装置では、メンテナンスコストが大きい。
【0007】
潤滑層が形成された進水装置では、金属製のローラやボールと異なり、破損や腐食等の恐れが抑制されている。この従来の進水装置では、潤滑層は使用する度に形成する必要がある。前述のパラフィン層は、硬質パラフィン層と軟質パラフィン層とからなる。硬質パラフィン層及び軟質パラフィン層がそれぞれ複数回塗り重ねられる。進水装置の使用の度に手間が掛かる。更に、この種のパラフィン層等潤滑剤によっては、天候や気温により、摩擦係数が変動する。使用時の気温が想定温度より高い場合、潤滑層が溶け出すことがある。使用時の気温が想定温度より低い場合、潤滑層にひび割れが発生することがある。そのような潤滑剤は、季節によりその平均分子量等を調整する手間が生じる。
【0008】
本発明の目的は、メンテナンスコストが低く、使用し易い進水装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の実施形態に係る進水装置は、固定台と、この固定台に対して滑走する滑走台とを備えている。固定台の滑走面は、樹脂又は金属からなる。滑走台の滑走面は、樹脂からなる。固定台の滑走面と滑走台の滑走面との間に、軟石鹸が介在している。
【0010】
本発明の他の実施形態に係る進水装置は、固定台と、この固定台に対して滑走する滑走台とを備えている。この固定台の滑走面は樹脂又は金属からなる。この滑走台の滑走面は、樹脂からなる。この固定台の滑走面と滑走台の滑走面との間に軟石鹸とパラフィンとの混合物が介在している。この軟石鹸とパラフィンとの混合物は軟石鹸を主成分としている。この混合物では、軟石鹸とパラフィンとの混合物100質量%に対してパラフィンが0を越え40質量%以下混合されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る進水装置では、ローラやボール等を使用しないので、メンテナンスコストが抑制されうる。この進水装置では、使用の際に軟石鹸の層が形成されるだけでよい。従来の進水装置のように、使用する度に所定の厚みになるまで潤滑層を塗り重ねる必要がない。天候や気温等を考慮して潤滑層の成分を調整する必要がない。この進水装置は、従来の進水装置に比べ使用の際の手間がかからない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る進水装置が船舶とともに示された説明図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図3は、図1の進水装置を用いた進水方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0014】
図1及び図2を参照しつつ、この進水装置2の構成が説明される。図1及び図2には、矢印で示された部分の拡大図が一緒に示されている。進水装置2に、船舶4が載せられている。進水装置2は、固定台6、滑走台8及び潤滑層10を備えている。固定台6は、固定台本体12及び滑走面14を備えている。滑走台8は、滑走台本体16及び滑走面18を備えている。
【0015】
固定台本体12は、上面20を備えている。この上面20は、水平面に対して、傾斜している。この固定台本体12は、例えば木製である。上面20の上に滑走面14が形成されている。この滑走面14の表面22は、上面20に沿っている。このため、滑走面14の表面22は、水平面に対して上面20と同様に傾斜している。
【0016】
滑走面14の表面22の傾斜の大きさは、60/1000以下である。なお、この傾斜の大きさ60/1000は、鉛直方向距離対水平方向距離の比が60対1000である傾斜の大きさを表している。この傾斜が小さいほど、滑走台8は緩やかに滑り降りうる。安全性の観点から、滑走台8が緩やかに滑り降りる進水装置2は、好ましい。この観点から、滑走面14の表面22の傾斜の大きさは、好ましくは50/1000以下であり、更に好ましくは、40/1000以下である。
【0017】
滑走台8が容易に滑走させられるために、固定台6の滑走面14の表面22と滑走台8の滑走面18の表面26との間の摩擦係数は、0.04以下に設定されることが好ましい。摩擦係数が小さいほど、滑走台8は容易に滑走させられる。船舶等が安定した姿勢で進水させられる。この観点から、更に好ましくは、この摩擦係数は、0.02以下である。
【0018】
この滑走面14の表面22は、平らな面である。この滑走面14の表面22の材質は、樹脂又は金属である。この樹脂として、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ化炭素樹脂、塩化ビニル樹脂等の塩素含有樹脂、メラミン樹脂等の窒素含有樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂及びポリウレタン樹脂が例示される。この金属として、入手が容易な鋼板である、鉄板、ステンレス鋼板等が例示される。
【0019】
滑走台8の滑走台本体16は、下面24を備えている。この滑走台本体16は、例えば木製である。下面24に滑走面18が形成されている。この滑走面18の表面26は、下面24に沿っている。この表面26は、平面である。この滑走面18の材質は、例えば、ポリプロピレン等ポリオレフィン、PTFE等のフッ化炭素樹脂、塩化ビニル樹脂等の塩素含有樹脂、メラミン樹脂等の窒素含有樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂及びポリウレタン樹脂である。
【0020】
潤滑層10は、固定台6の滑走面14の表面22と滑走台8の滑走面18の表面26との間に介在している。潤滑層10は、軟石鹸、又は軟石鹸とパラフィンとの混合物からなる。この軟石鹸とパラフィンとの混合物は、軟石鹸を主成分とする混合物である。この軟石鹸を主成分とする混合物とは、軟石鹸とパラフィンとの混合物100質量%に対してパラフィンが0を越え40質量%以下混合されているものをいう。この潤滑層10の軟石鹸は、植物油の鹸化によって造られている。軟石鹸の主な成分は高級脂肪酸のカリウム塩であり、この軟石鹸はカリ石鹸ともいう。軟石鹸は、常温においてゾル状又はゲル状であり、ゲル状であることが好ましい。
【0021】
この軟石鹸とパラフィンとの混合物は、軟石鹸にパラフィンを混合することで、従来のパラフィンからなる潤滑層のように塗り重ねる必要がない。天候や気温等を考慮して成分調整をする必要がない。パラフィンが混合されることで、形成された潤滑層10の厚さがより長時間保持され得る。この観点から、軟石鹸にパラフィンが混合されていることが好ましい。一方で、軟石鹸に対するパラフィンの混合比が小さい混合物では、温度や気温等の考慮して成分調整をする必要がない。この観点から、軟石鹸とパラフィンとの混合物100質量%に対してパラフィンの質量は40%以下が好ましい。
【0022】
次に、図1及び図2と共に図3のフローチャートを参照しつつ、この船舶4の進水方法が説明される。上面20に滑走面14が形成された固定台6が準備される(STEP1)。この固定台6の表面22に、潤滑層10として、軟石鹸層が形成される(STEP2)。このSTEP2では、潤滑層10に軟石鹸を用いた例が示されるが、軟石鹸に代えて軟石鹸とパラフィンとの混合物、言い換えると軟石鹸を主成分とする混合物が用いられてもよい。下面24に滑走面18が形成された滑走台8が準備される。潤滑層10の上に滑走台8が載置される(STEP3)。このSTEP3では、滑走台8が滑走しないように、仮止めされている。この仮止め方法としては、滑走台8と建造物とを鎖等で締結する方法や滑走台8がストッパーにより滑走を阻止される方法等がある。この滑走台8に船舶4が載置される(STEP4)。
【0023】
STEP4の状態で、滑走台8の仮止めが解除される。滑走台8が固定台6に対して滑走する(STEP5)。滑走台8が固定台6を滑り降りる。船舶4が滑走台8と共に固定台6を滑り降りる。滑走台8と船舶4とが海面又は水面に向かって滑り降りる。船舶4は進水する(STEP6)。
【0024】
この進水装置2では、固定台6の滑走面14と滑走台8の滑走面18との間に潤滑層10が位置している。滑走面14の表面22と滑走面18の表面26とが直接に面接触する状態では、摩擦係数が大きい。潤滑層10が介在することにより、固定台6と滑走台8との摩擦係数が小さくされている。固定台6の表面22の傾斜の大きさにもよるが、静摩擦係数の大きさは0.04以下にされることが好ましい。この進水装置2では、静摩擦係数の大きさが容易に0.04以下にされうる。表面22の僅かな傾斜により滑走台8が滑走可能にされる。
【0025】
この進水装置2では、潤滑層10を滑走面14の表面22の上に形成する。この潤滑層10は、軟石鹸を主成分としているので、温度や気温によりその組成を調整する必要がない。表面22の上にパラフィン層等を形成する進水装置の使用に比べて、この進水装置2の使用は容易である。
【0026】
この進水装置2では、滑走面14の表面22と滑走面18の表面26とは潤滑層10を間にして対面するので、一様な面圧が生じる。潤滑層10は軟石鹸を主成分としている。平面間に一様な面圧が生じても、この潤滑層10は表面22と表面26との間から押し出されることが抑制される。表面22と表面26との間に潤滑層10が形成された状態に保たれ易い。この潤滑層10では、温度や気温によりその組成を調整する必要性が抑制される。長時間放置されても、この軟石鹸は、表面22と表面26との間に保たれている。
【0027】
この潤滑層10が固定台6の滑走面14の表面を覆おうので、防錆効果が得られる。滑走面14が金属からなる場合にも、錆や腐食の発生が抑制される。
【0028】
この潤滑層10の主成分である軟石鹸は、自然に存在する化合物の鹸化により合成されている。軟石鹸は生分解性に優れる。軟石鹸は水に溶解する。軟石鹸は、水に溶解し分解されうる。環境への影響が抑制されている。油等に比べて回収の必要性が小さい。
【0029】
ここでは、進水装置2を用いた船舶4の進水方法が説明されたが、陸上から水域に進水させる様々な構造物の進水に用いられる。例えば、進水装置2はケーソン等の水上浮揚構造物の進水方法に用いられても良い。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0031】
[実施例1]
進水装置の小型模型を用いて試験がされた。固定台の上面に滑走面としてPTFEが固定された。このPTFEの滑走面は、水平に配置された。この滑走面に潤滑剤として軟石鹸が塗布された。ここで用いられた軟石鹸は、大豆油を用いた高級脂肪酸石鹸である。この軟石鹸はゲル状である。軟石鹸が塗布された上に、滑走台が載せられた。この滑走台の滑走面は、縦24cm、横24cmの正方形の平面である。この滑走台に重錘が載せられた。重錘により、滑走台に0.196MPa(2kgf/cm)の圧力が垂直にかけられている。実施例1では、この小型模型は、重錘を載せた状態で24時間放置された。24時間放置した試験機の滑走台が水平方向に引かれた。この力の大きさから、静摩擦係数が求められた。
【0032】
[実施例2から17]
固定台の滑走面、滑走台の滑走面及び潤滑剤を表1に示されるようにして、実施例2から17の小型模型を用いて試験がされた。放置時間は表1に示されるようにし、その他の条件は、実施例1と同様にして静摩擦係数が測られた。この実施例8から11では、鋼板として市販のステンレス鋼板を用いた。実施例12及び13では、鋼板として市販の鉄板を用いた。表1の「軟石鹸+パラフィン」は、軟石鹸を主成分とするパラフィンとの混合物を意味している。この実施例の混合物では、混合物100質量%に対して30質量%のパラフィンが混合された。
【0033】
[比較例1]
軟石鹸を用いない他は、実施例1と同様にして比較例1の小型模型が得られ、この小型模型を用いて試験がされた。比較例1では、引く力を392N(40kgf)まで大きくしていったが、滑走しなかった。表1では、392Nで滑走しない場合、測定不能として、静摩擦係数の欄は「−」と記載した。
【0034】
[比較例2]
潤滑剤として軟石鹸に代えてシリコーン油を用いた他は、実施例3と同様にして比較例2の小型模型が得られ、この小型模型を用いて試験がされた。このシリコーン油の動粘度は0.01m/s(10000cSt)であった。放置時間は17時間とされた。
【0035】
[比較例3]
潤滑剤として軟石鹸に代えて比較例2のシリコーン油を用いた他は、実施例6と同様にして比較例3の小型模型が得られ、この小型模型を用いて試験がされた。放置時間は24時間とされた。
【0036】
実施例1から17及び比較例1から3の試験の結果が、下記の表1に示されている。この表1の放置時間は、時間単位で示されている。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示されるように、実施例の進水装置では、比較例の進水装置に比べて静摩擦係数が小さくなっている。放置時間が24時間以内の実施例では、いずれも静摩擦係数の値が0.02以下である。また、72時間以内の実施例では、静止摩擦係数の値が0.03以下である。これにより、傾斜の大きさが40/1000以下であっても容易に滑走しうる。
【0039】
実施例の進水装置では、いずれも24時間の放置後において、更には、70時間以上の放置後においても、良好な静摩擦係数の値が得られた。実際の船舶等の進水では、船舶等を滑走台に載置してから数時間後に進水される。しかし、トラブル等により24時間程度経過後に進水させられることもある。更に、天候などの影響により、24時間以上経過後に進水される場合もある。この進水装置は、24時間以上の放置後の進水にも十分に対応しうる。
【0040】
実施例3は潤滑剤として軟石鹸を用いている。これに対して比較例2は、シリコーン油を用いている。この実施例3は、70時間放置後の静摩擦係数である。比較例2は、17時間経過後の静摩擦係数である。実施例3と比較例2とからも、本発明に係る進水装置の優位性は明らかである。
【0041】
実施例8から16は、固定台の滑走面として金属が使用された例である。これらの例では、金属からなる滑走面と樹脂からなる滑走面との間に、軟石鹸を主成分とするパラフィンとの混合物又は軟石鹸を潤滑剤として介在させている。この実施例8から16からも、本発明に係る進水装置の優位性は明らかである。これらの評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【符号の説明】
【0042】
2・・・進水装置
4・・・船舶
6・・・固定台
8・・・滑走台
10・・・潤滑層
12・・・固定台本体
14、18・・・滑走面
16・・・滑走台本体
20・・・固定台上面
22・・・固定台表面
24・・・滑走台下面
26・・・滑走台表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定台と、この固定台に対して滑走する滑走台とを備えており、
この固定台の滑走面が樹脂又は金属からなり、この滑走台の滑走面が樹脂からなり、
この固定台の滑走面と滑走台の滑走面との間に軟石鹸が介在している進水装置。
【請求項2】
固定台と、この固定台に対して滑走する滑走台とを備えており、
この固定台の滑走面が樹脂又は金属からなり、この滑走台の滑走面が樹脂からなり、
この固定台の滑走面と滑走台の滑走面との間に軟石鹸とパラフィンとの混合物が介在しており、
この軟石鹸とパラフィンとの混合物が軟石鹸を主成分としており、軟石鹸とパラフィンとの混合物100質量%に対しパラフィンが0を越え40質量%以下の比率で混合されている進水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−1201(P2012−1201A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54942(P2011−54942)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(592075482)播磨油脂工業株式会社 (1)