説明

運用管制装置

【課題】定常状態における衛星の運用を自動化する運用管制装置を得ること。
【解決手段】衛星100の運用を自動的に行う運用管制装置300であって、衛星100の軌道情報を格納するためのデータベースを備え、衛星100から受信した衛星軌道位置テレメトリデータおよび衛生姿勢テレメトリデータと、前記軌道情報に基づいて、設定された期間にわたる衛星100の軌道予測データを定期的に作成する軌道解析部320と、前記軌道予測データ、および衛星100から受信したストアードコマンド管理テレメトリデータに基づいて運用計画を作成し、前記運用計画に含まれるコマンドデータを衛星100にストアード化する運用計画作成部330と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定常状態における衛星の運用を自動化する運用管制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛星運用者は、衛星を打ち上げてから、静止衛星であれば静止軌道、周回衛星であれば予定の周回軌道へ投入後、衛星を所定の状態に維持するため、地上の運用管制装置で衛星のテレメトリデータをモニタリングし、定期的に軌道制御やレンジング、温度、電力等の制御を行う必要がある。衛星運用者は、地上の運用管制装置で受信されるテレメトリデータを解析し、例えば、軌道制御において、所定の軌道に衛星を維持するように、推薬の噴射量などのパラメータの値を決定し、適切な日時に1つずつコマンドを送信する必要があり、作業負荷が高かった。
【0003】
衛星の運用は、少人数で多機種を担当することが一般的であり、特に、定常運用時は、人手と時間を割かないことが求められる。そのため、ソフトウェア(S/W)により軌道予測データおよび運用計画を作成し、衛星上にコマンドをストアード化する技術が、下記特許文献1において開示されている。衛星上にコマンドをストアード化することで、コマンドが指定日時に予約実行されるようになり、一定期間、衛星の自動運用が可能となる。これにより、衛星運用者が1つ1つコマンドを送信する必要がなくなり、負担が軽減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−161207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術によれば、衛星上のストアードコマンド登録容量は限られており、自動運用期間は限定されている。そのため、衛星運用者は、S/Wを用いて軌道予測データおよび運用計画を作成した後、定期的にコマンドをストアード化しなければならない、という問題があった。
【0006】
また、S/Wを用いて作成した運用計画に含まれるコマンドの容量が登録容量を超える場合、衛星運用者は、運用計画の期間を短縮して登録容量を減らす、または、複数のコマンドと同価のコマンドを別途作成して登録容量を減らす、などの対策を講じなければならない、という問題があった。
【0007】
たとえば、運用計画の期間を短縮する場合、衛星運用者が軌道予測データおよび運用計画を作成し、コマンドをストアード化する作業の頻度が増加する。また、同価のコマンドを別途作成する場合、衛星運用者が技術者にコマンドの作成を依頼する必要があり、対策完了までに時間を要することになる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、定常状態における衛星の運用を自動化することが可能な運用管制装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、衛星の運用を自動的に行う運用管制装置であって、衛星の軌道情報を格納するためのデータベースを備え、衛星から受信した衛星軌道位置テレメトリデータおよび衛星姿勢テレメトリデータと、前記軌道情報に基づいて、設定された期間にわたる衛星の軌道予測データを定期的に作成する軌道解析手段と、前記軌道予測データ、および衛星から受信したストアードコマンド管理テレメトリデータに基づいて運用計画を作成し、前記運用計画に含まれるコマンドデータを衛星にストアード化する運用計画作成手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、定常状態において衛星の運用を自動化できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、衛星運用管制システムの構成例を示す図である。
【図2】図2は、各装置間のデータの流れを示す図である。
【図3】図3は、運用管制装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる運用管制装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態.
図1は、運用管制装置を含む衛星運用管制システムの構成例を示す図である。衛星運用管制システムは、衛星100と、地上送受信装置200と、運用管制装置300と、表示部400と、から構成される。衛星100は、衛星運用管制システムにおける管制対象である。地上送受信装置200は、衛星100と運用管制装置300との間のデータを中継する。運用管制装置300は、地上から衛星100を運用し管制する装置である。表示部400は、衛星運用者に対して衛星100の状態等を表示する表示部である。
【0014】
また、衛星100は、衛星データ処理部110を備え、地上送受信装置200は、データ送受信部210を備え、運用管制装置300は、運用管制装置データ処理部310と、軌道解析部320と、運用計画作成部330と、を備える。衛星データ処理部110は、地上送受信装置200のデータ送受信部210との間でデータの送受信を行う。データ送受信部210は、衛星100の衛星データ処理部110と運用管制装置300の運用管制装置データ処理部310との間のデータを中継する。
【0015】
運用管制装置データ処理部310は、地上送受信装置200のデータ送受信部210との間でデータの送受信を行う。また、データ送受信部210から受信したテレメトリデータを軌道解析部320および運用計画作成部330へ送信し、運用計画作成部330からのコマンドデータをデータ送受信部210へ送信する。軌道解析部320は、衛星100の軌道解析を行う。運用計画作成部330は、衛星100の運用計画を作成する。軌道解析部320および運用計画作成部330の詳細な構成、動作については後述する。
【0016】
図2は、各装置間のデータの流れを示す図である。衛星データ処理部110は、コマンド実行部111と、ストアードコマンド管理部112と、テレメトリ処理部113と、を備える。コマンド実行部111は、リアルタイムコマンドデータを即時実行する。ストアードコマンド管理部112は、ストアードコマンドデータが指定日時にコマンド実行部111で実行されるように、ストアードコマンドデータを一時蓄積し管理する。また、ストアードコマンドの登録状況を示すテレメトリデータをテレメトリ処理部113へ送信する。テレメトリ処理部113は、衛星100の状態を示すテレメトリデータを、データ送受信部210を経由して運用管制装置データ処理部310へ送信する。
【0017】
運用管制装置データ処理部310は、データ送受信部210を経由して、コマンドデータを衛星データ処理部110へ送信する。このとき、データ送受信部210は、リアルタイムコマンドデータをコマンド実行部111へ送信し、ストアードコマンドデータをストアードコマンド管理部112へ送信する。一方、衛星データ処理部110からは、データ送受信部210を経由して、テレメトリデータを運用管制装置データ処理部310へ送信する。
【0018】
図3は、運用管制装置300の構成例を示す図である。軌道解析部320は、軌道予測データ作成部321と、軌道情報データベース322と、軌道予測期間設定部323と、を備える。軌道予測データ作成部321は、衛星軌道位置テレメトリデータ、衛星姿勢テレメトリデータ、および軌道情報データベース322に格納されている軌道情報、に基づいて軌道解析を行い、運用計画の作成に必要な軌道予測データを作成する。軌道情報データベース322は、軌道予測データを作成するために必要な軌道情報を格納するためのメモリである。軌道予測期間設定部323は、軌道予測データの作成期間の範囲を定める。軌道予測期間は日/週/月/年単位で設定可能とする。
【0019】
また、運用計画作成部330は、計画作成部331と、計画可能期間判断部332と、運用計画登録部333と、を備える。計画作成部331は、軌道予測データを処理して運用計画を作成する。計画可能期間判断部332は、ストアードコマンド登録容量に基づいて、運用計画期間を決定する。運用計画登録部333は、運用計画に含まれるコマンドデータを衛星にストアード化する。
【0020】
つづいて、運用管制装置300が、定常状態において衛星100の運用を自動化して行う処理について説明する。まず、運用管制装置データ処理部310が、地上送受信装置200を経由して衛星100からテレメトリデータを受信すると、そのうち、衛星軌道位置テレメトリデータおよび衛星姿勢テレメトリデータを軌道解析部320へ送信し、ストアードコマンド管理テレメトリデータを運用計画作成部330へ送信する。
【0021】
つぎに、軌道解析部320では、軌道予測データ作成部321が、運用管制装置データ処理部310から受信した衛星軌道位置テレメトリデータ、衛星姿勢テレメトリデータ、および軌道情報データベース322に格納されている軌道情報を用いて、軌道予測期間設定部323で定められた期間分の軌道予測データを作成する。
【0022】
つぎに、運用計画作成部330では、計画作成部331が、軌道予測データ作成部321によって作成された軌道予測データに基づいて、運用計画を作成する。そして、計画可能期間判断部332が、運用管制装置データ処理部310からストアードコマンド管理テレメトリデータを受信し、ストアードコマンド管理テレメトリデータに含まれるストアードコマンド登録容量と、運用計画に含まれるコマンド容量との比較を行う。
【0023】
比較した結果、ストアードコマンド登録容量に十分な空きがある場合には、計画可能期間判断部332は、軌道予測期間設定部323に対して期間の延長を指示する。軌道予測期間設定部323からの情報に基づいて、軌道予測データ作成部321が、延長された追加分の期間の軌道予測データを追加作成する。ストアードコマンド登録容量に十分な空きがある場合とは、例えば、作成された運用計画に含まれるコマンド容量と同量以上の空きが、ストアードコマンド登録容量に認められるときである。追加で軌道予測を行う期間は軌道予測期間設定部323に定められた期間と同様とする。
【0024】
計画作成部331は、追加された軌道予測データについて運用計画を追加作成する。再度、計画可能期間判断部332で比較を行い、さらに追加を行う必要が無い場合は、運用計画登録部333が、運用計画のコマンドデータを、運用管制装置データ処理部310およびデータ送受信部210を経由して、衛星100のストアードコマンド管理部112にストアード化する。
【0025】
なお、軌道予測データを追加作成する場合、追加期間は初回の軌道予測期間と同様としているが、これに限定するものではなく、追加予測期間を別途設定してもよい。この場合、軌道予測期間の設定と同様に、日/週/月/年単位で設定可能とする。
【0026】
一方、比較した結果、ストアードコマンド登録容量が不足する場合には、計画可能期間判断部332は、ストアードコマンド登録容量に収まるよう運用計画の期間を短縮し、その後、運用計画登録部333が、ストアード化する。なお、運用計画の期間を短縮する場合、衛星100の動作が完了する単位で運用計画を短縮することとする。衛星100の動作が完了する単位とは、例えば、軌道制御において、複数のスラスタを噴射するコマンドと噴射を停止するコマンドの両方を実行することである。
【0027】
また、比較した結果、ストアードコマンド登録容量に十分な空きが認められない場合には、計画可能期間判断部332は、運用計画期間の延長、短縮を行うことなく、運用計画登録部333が、ストアード化する。ストアードコマンド登録容量に十分な空きが認められない場合とは、比較した結果として、ストアードコマンド登録容量に十分空きが認められる場合、ストアードコマンド登録容量が不足する場合、のどちらにも該当しない場合であり、すなわち、設定された運用計画期間が適当であることを示す。
【0028】
このように、運用管制装置300では、地上送受信装置200経由で衛星100からのテレメトリデータを運用管制装置データ処理部310が受信し、軌道解析部320が軌道予測データを作成し、運用計画作成部330が運用計画を作成してコマンドのストアード化するまでの処理を、定期的に繰り返すことで、衛星100の定常運用の自動化が可能となる。定期的に実行する間隔としては、例えば、軌道予測期間設定部323で設定した期間と同程度の間隔とすることができる。なお、衛星運用者は、各構成が処理の経過を表示部400に表示することで、衛星100の状態を把握することができる。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態では、運用管制装置300が、衛星100からのテレメトリデータに基づいて設定された期間分の軌道予測データを作成し、軌道予測データに基づいて運用計画を作成し、運用計画に含まれるコマンドデータを衛星100にストアード化するまでの作業を定期的に行い、さらに、衛星100のストアードコマンド登録容量と照合して運用計画期間を自動調整することで衛星100の定常運用を自動化できることとした。これにより、運用計画期間の短縮による運用者の作業頻度が増すこともなくなり、運用計画に含まれるコマンド数を減らす対策を講じる必要もなくなる。また、少人数で多機種を担当することが一般的な衛星運用者の負荷を軽減することができ、衛星運用者は、運用計画の確認作業を行えばよく、他機種との掛け持ち運用が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明にかかる運用管制装置は、衛星の運用に有用であり、特に、定常状態における運用の自動化に適している。
【符号の説明】
【0031】
100 衛星
110 衛星データ処理部
111 コマンド実行部
112 ストアードコマンド管理部
113 テレメトリ処理部
200 地上送受信装置
210 データ送受信部
300 運用管制装置
310 運用管制装置データ処理部
320 軌道解析部
321 軌道予測データ作成部
322 軌道情報データベース
323 軌道予測期間設定部
330 運用計画作成部
331 計画作成部
332 計画可能期間判断部
333 運用計画登録部
400 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星の運用を自動的に行う運用管制装置であって、
衛星の軌道情報を格納するためのデータベースを備え、衛星から受信した衛星軌道位置テレメトリデータおよび衛星姿勢テレメトリデータと、前記軌道情報に基づいて、設定された期間にわたる衛星の軌道予測データを定期的に作成する軌道解析手段と、
前記軌道予測データ、および衛星から受信したストアードコマンド管理テレメトリデータに基づいて運用計画を作成し、前記運用計画に含まれるコマンドデータを衛星にストアード化する運用計画作成手段と、
を備えることを特徴とする運用管制装置。
【請求項2】
前記運用計画作成手段は、
前記軌道予測データに基づいて期間決定前の運用計画を作成し、当該期間決定前の運用計画に含まれるコマンド容量と、ストアードコマンド管理テレメトリデータで示される衛星のストアードコマンド登録容量とを比較し、その比較結果に基づいて運用計画の期間を決定し、決定した期間にわたる運用計画を作成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の運用管制装置。
【請求項3】
前記比較の結果、衛星のストアードコマンド登録容量に十分な空きがあると判断した場合、
前記運用計画作成手段は、前記軌道解析手段に対して軌道予測データを作成する設定期間を延長するように指示し、
前記軌道解析手段は、延長して追加された期間にわたる衛星の軌道予測データを追加作成し、
前記運用計画作成手段は、追加作成された軌道予測データに基づいて追加分の運用計画を作成し、前記期間決定前の運用計画とあわせて運用計画とする、
ことを特徴とする請求項2に記載の運用管制装置。
【請求項4】
前記十分な空きがある場合を、さらに、期間決定前の運用計画に含まれるコマンド容量と同量のコマンドをストアード化できる場合、
とすることを特徴とする請求項3に記載の運用管制装置。
【請求項5】
前記比較の結果、衛星のストアードコマンド登録容量の空きが不足すると判断した場合、
前記運用計画作成手段は、運用計画のコマンドが衛星にストアード化できる範囲まで運用計画を短縮する、
ことを特徴とする請求項2、3または4に記載の運用管制装置。
【請求項6】
運用計画を短縮する場合、
前記運用計画作成手段は、衛星の一連の動作を妨げない単位で短縮する、
ことを特徴とする請求項5に記載の運用管制装置。
【請求項7】
前記軌道解析手段は、
設定された軌道予測データの作成期間と同一間隔で、定期的に軌道予測データを作成する、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の運用管制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−285002(P2010−285002A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138337(P2009−138337)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)