説明

過熱水蒸気による放射性セシウム汚染土壌の急速除染方法と装置

【課題】放射性セシウム汚染土壌の急速な除染を可能にする。
【解決手段】セシウム沸点以上の温度の過熱水蒸気を生成し、放射性セシウム汚染土壌に接触させて放射性セシウムを気化し、土壌の放射能を設定値以下の水準にまで低減し、気化した放射性セシウムを含む接触後の過熱水蒸気を冷却して水に凝縮し、凝縮水を酸性にして含有放射性セシウムを溶解し、また非凝縮性気体を酸性液中に気泡溶解して含有放射性セシウムを溶解し、溶解した放射性セシウムイオンを不溶化することにより、放射性セシウム汚染土壌を除染する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム汚染土壌の除染技術、特に過熱水蒸気による放射性セシウム汚染土壌の急速除染技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核実験あるいは原子力発電所の事故で飛散した核物質で汚染した土壌においては、特に半減期約30年のセシウム137が長期間に亘って人体に影響する主たる放射性元素とされている(非特許文献1)。
日本政府は、東京電力福島第1原子力発電所の事故によって汚染した、年間1ミリシーベルト以上の被爆線量の地域をすべて除染し、除去した土壌を30年間特定箇所に貯蔵する計画を発表した(非特許文献2)。発表によれば、この措置で保管する土壌の推定容量は1500万〜2800万立方メートルに達し、貯蔵する敷地の面積は約3〜5平方キロを想定している。
【0003】
この措置は、汚染土壌から放射能を急速に除く技術が開発されれば、期間も費用も大幅に改善される可能性がある。核廃棄物を除去する技術としては、例えば特許文献1は、汚染土壌をアンモニア性液体と混合した混合液を分画によって分離する技術を開示している。この技術は、多種の放射性元素ばかりでなく、土壌中の水銀やPCBをも分離除去できるとしているが、大型施設を前提とするので、汚染発生地域において現地での(IN SITU)処理を行う技術ではなかった。
【0004】
これに対して最近、放射性セシウム汚染表土のIN SITU除去技術が公表された(非特許文献3)。
この技術は福島県飯館村で公開され、電気ヒーターで10キログラムの土を800℃で10時間加熱し、セシウムを気化して特殊なフィルターでこしとる技術である。
この技術は、生物的除染方法が長期の月日を要するのに対して、ほぼリアルタイム除染の可能性を示唆する点において、画期的であった。
【0005】
しかしながらこの技術がより有効であるためにはなお改善すべき課題が存在する。その第1は処理時間が長いことである。長い処理時間は、大量の汚染土壌を前にして極めて非効率である。またその第2は移動可能な実用装置の形態が実現していない点である。汚染土壌が広範にわたって存在する場合、移動可能な形態であることは、処理施設までの汚染土壌の運搬と採取地への戻し運搬を不要にするので、たいへん重要な要素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−505903号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「文部科学省による放射線量等分布マップ(放射性セシウムの土壌マップ)の作成について」、文部科学省、平成23年8月30日
【非特許文献2】「中間貯蔵工程表」、環境省、新聞各紙、平成23年10月30日
【非特許文献3】「日本原子力研究開発機構と農業・食品産業技術総合研究機構 汚染土 蒸してセシウム分離 福島・飯館村で実験」、朝日新聞、平成23年10月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、放射性セシウム汚染土壌を放射性セシウムの気化によって除染する技術において、土壌を加熱してセシウムを気化させるに必要な時間が長いことと、現地での除染を実現する形態が実現していなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、放射性セシウム汚染土壌を高温加熱して除染する技術において、土壌を過熱水蒸気に暴露して放射性セシウムを急速に気化させ、気化したセシウム原子をイオン化し、これを不溶化して分離・回収することを最も主要な特徴とする。
本発明になる請求項1の放射性セシウム汚染土壌の急速除染方法は、放射性セシウム汚染土壌と過熱水蒸気を接触させて放射性セシウムを気化する処理空間と、処理空間内で放射性セシウム汚染土壌に接触する過熱水蒸気がセシウム沸点以上の温度を保持するように加熱して生成する過熱水蒸気生成手段と、放射性セシウム汚染土壌接触後の気化放射性セシウムを含む過熱水蒸気を凝縮する冷却手段と、凝縮で生成した水と非凝縮性気体から放射性セシウムを分離する放射性セシウム分離手段と、処理空間の放射能を計測する放射能測定手段とより成り、セシウム沸点以上の温度の過熱水蒸気を、放射性セシウム汚染土壌に接触させて放射性セシウムを気化し、該土壌の放射能を設定値以下の水準にまで低減し、気化した放射性セシウムを分離することによって、放射性セシウム汚染土壌を除染することを特徴とする。
本発明になる請求項2の放射性セシウム汚染土壌の急速除染方法は、前記の放射性セシウム分離手段において、放射性セシウム汚染土壌接触後の過熱水蒸気の凝縮で生成した水を酸性にして含有放射性セシウムを溶解する溶解手段と、非凝縮性気体を酸性液中に気泡溶解して含有放射性セシウムを溶解する気泡溶解手段と、溶解で生成した放射性セシウムイオンを複塩にして不溶化する不溶化手段とを備えたことを特徴とする。
本発明になる請求項3の放射性セシウム汚染土壌の急速除染装置は、放射性セシウム汚染土壌と過熱水蒸気を接触させて放射性セシウムを気化する空間を備えた処理チャンバーと、処理チャンバーの空間内で放射性セシウム汚染土壌に接触する過熱水蒸気がセシウム沸点以上の温度を保持するように加熱して生成する過熱水蒸気生成装置と、気化した放射性セシウムを含む接触後の過熱水蒸気を凝縮させる冷却装置と、凝縮水を酸性にして含有放射性セシウムを溶解する溶解槽と、非凝縮性気体を気泡溶解して含有放射性セシウムを溶解する気泡溶解槽と、溶解した放射性セシウムイオンを複塩にして不溶化する不溶化槽と、処理チャンバー内空間の放射能を計測する放射能測定装置とより成り、セシウム沸点以上の温度の過熱水蒸気を、放射性セシウム汚染土壌に接触させて放射性セシウムを気化し、該土壌の放射能を設定値以下の水準にまで低減し、気化した放射性セシウムを溶解した後不溶化することによって、放射性セシウム汚染土壌を除染することを特徴とする。
本発明になる請求項4の放射性セシウム汚染土壌の急速除染装置は、請求項3記載の放射性セシウム汚染土壌の急速除染装置において、前記の過熱水蒸気生成装置が電気エネルギーを利用して過熱水蒸気を生成し、過熱水蒸気温度調節計と、過熱水蒸気流量調節器と、処理チャンバー温度調節計と、前記処理チャンバーに流入する過熱水蒸気の温度と流量とを調節して、前記処理チャンバー内空間を設定温度に維持する温度制御プログラムを搭載したコンピュータとを備えたことを特徴とする。
本発明になる請求項5の放射性セシウム汚染土壌の急速除染装置は、請求項3記載の放射性セシウム汚染土壌の急速除染装置において、前記の過熱水蒸気生成装置が可燃物の燃焼熱によって水蒸気と過熱水蒸気を生成し、過熱水蒸気温度計と、過熱水蒸気流量調節器と、処理チャンバー温度計と、前記処理チャンバー内空間を設定温度に維持するために必要な、前記処理チャンバーに流入する過熱水蒸気のおすすめ温度と流量を算出するプログラムを搭載したコンピュータとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放射性セシウム汚染土壌除染の方法と装置は、セシウム沸点以上の温度の過熱水蒸気を放射性セシウム汚染土壌に接触させて放射性セシウムを気化させ、これを溶解した後、不溶化して分離するので、放射性セシウム汚染土壌の除染を現地で短時間に行えるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は第1の実施の形態の構成を示した説明図である。(実施例1)
【図2】図2は第1の実施の形態の動作を示したフロー図である。(実施例1)
【図3】図3は第2の実施の形態の加熱処理システムの構成を示した説明図である。(実施例2)
【図4】図4は第2の実施の形態の動作を示したフロー図である。(実施例2)
【図5】図5は第3の実施の形態の構成を示した説明図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0012】
放射性セシウム汚染土壌の現地における急速な除染という目的を、放射性セシウム気化によって行う方法において、セシウム沸点以上の温度の過熱水蒸気を汚染土壌に接触させ、気化した放射性セシウムを分離することによって、除染所要時間の短縮と、移動可能型の装置を実現した。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明実施例1の構成図であって、11は過熱水蒸気生成装置、12は水蒸気生成装置、12’は水蒸気加熱装置、13は過熱水蒸気温度調節計、14は過熱水蒸気流量調節器、15は処理チャンバー、15’は土壌投入口、16は処理チャンバー温度調節計、17は放射能測定装置、18は飛散粒子除去装置、19は冷却装置、20は放射性セシウム溶解槽、21は非凝縮性気体溶解槽、22は不溶化槽、23はコンピュータ、そして24は除染土壌容器である。
【0014】
実施例1は、過熱水蒸気生成装置11から冷却装置19までとコンピュータ23をまとめてAパートとして一体型の移動可能型装置を構成し、現地において、この装置に放射性セシウム溶解槽20と非凝縮性気体溶解槽21と不溶化槽22と除染土壌容器24とをBパートとして接続することが可能である。
【0015】
過熱水蒸気は、まず水を加熱して水蒸気を生成し、この水蒸気を更に加熱して生成する。この2段階の加熱に要する熱エネルギーは、いかなる形態のエネルギーをも利用することができる。
【0016】
実施例1の装置においては、温度制御が容易な電熱加熱方式を採用している。即ち、水蒸気生成装置12は電熱ボイラーであり、水蒸気加熱装置12’も電熱方式である。水蒸気加熱装置12’の電熱には、電気抵抗電熱を用いてもよいし、誘導電熱を用いても構わない。
水蒸気生成装置12において水を沸騰させて水蒸気を生成し、これを水蒸気加熱装置12’において更に加熱してセシウムの沸点である641℃以上の過熱水蒸気とする。
生成する過熱水蒸気の温度は、処理チャンバー15の内部空間温度が、セシウムの沸点を常時超えるように、処理チャンバー15内に温度センサーを設置した処理チャンバー温度調節計16で検出し、過熱水蒸気生成装置11と過熱水蒸気流量調節器14にフィードバックしている。処理チャンバー15内温度は、環境への逸失熱と投入された汚染土壌による降下熱とを常時補償することによって、設定温度の水準に保持される。
処理チャンバー15の内部空間温度が設定温度より低いときは、水蒸気加熱装置12’が生成する過熱水蒸気の温度を上昇させるか、過熱水蒸気流量調節器14調節して処理チャンバー15に流入する過熱水蒸気の流量を増加させるか、あるいはそれらの操作を同時に行って、処理チャンバー15の内部空間温度を設定温度にまで上昇させる。処理チャンバー15の内部空間温度が設定温度より高いときは、逆に、水蒸気加熱装置12’が生成する過熱水蒸気の温度を下降させるか、過熱水蒸気流量調節器14調節して処理チャンバー15に流入する過熱水蒸気の流量を減少させるか、あるいはそれらの操作を同時に行って、処理チャンバー15の内部空間温度を設定温度にまで下降させる。
これらの調節は、コンピュータに搭載した制御プログラムによって自動的に行っている。
【0017】
非特許文献3においては、電気ヒーターで10キログラムの汚染土壌の処理に10時間を要した。この時間は、電気ヒーターによる単純な加熱方式がいかに低い効率の方式であるかを物語っている。従来から、物品の乾燥において、空気加熱方式がいかに長時間を要し、非効率であるかは、一般に周知の事実であった。この加熱方式が非効率である理由は、熱の伝導が空気と物品の分子同士の接触のみによって行われるからである。
非特許文献3の加熱処理が10時間を要したのも、大部分の時間が汚染土壌の乾燥に費やされたからである。土壌の乾燥が完了するまで、加熱エネルギーはすべて水の気化熱として消費された。土壌の水分がゼロになれば、土壌温度は急速に上昇して、セシウム沸点を超えることができる。
いっぽう物品の乾燥と加熱を急速に行う媒体として、過熱水蒸気はひじょうに優れた気体であることが知られている。過熱水蒸気の熱伝導方式は、接触伝熱のほかに、放射伝熱、凝縮伝熱という3方式が同時に行われる。従って、加熱効率が極めて高く、通常、空気加熱方式に比べて数倍以上の速度と効率が認められている。
従って、放射性セシウム汚染土壌の除染をスピードアップするには、過熱水蒸気を適用して、土壌の乾燥時間を短縮することがもっとも効果的である。
【0018】
また過熱水蒸気は、温度が降下して凝縮し水になるとき、過熱水蒸気中に浮遊している大部分の飛散物質を凝縮水の中に取り込む作用のあることが知られている。
本発明は、後述のように、この作用を利用して、汚染土壌から気化した放射性セシウム原子を凝縮水中に取り込んで溶解し、かつ凝縮せずに残った気体中に浮遊している可能性のある放射性セシウム原子も気泡溶解によってイオン化することにより、汚染土壌の放射性セシウムを十全に捕捉して分離するようにしている。
【0019】
処理チャンバー15は、汚染土壌を投入して過熱水蒸気で加熱し、放射性セシウムを気化する反応槽である。処理チャンバー15の壁は、流入した過熱水蒸気の温度の降下を防ぐために、断熱壁とし、更に二重壁として、その隙間に後述の過熱水蒸気冷却によって生成する昇温交換水を満たせば、補助加温に有効である。
処理チャンバー15の形態は、投入した汚染土壌が効率よく過熱水蒸気に接触して急速な乾燥と昇温を実現する形態であれば、ドラム回転式(ロータリーキルン型)や内部攪拌式などの形態のいずれかを特定的に選択するものではない。
また処理チャンバー15への過熱水蒸気の流入方式も、汚染土壌の急速な乾燥と昇温を実現する方式であれば、ダウンドラフト式でもアップドラフト式でも構わない。ただし、乾燥した土壌が土埃となって土壌接触後の過熱水蒸気に混入する比率はなるべく低率となる構成が好ましい。
【0020】
以下、実施例1の操作および動作について、図2に示したフロー図に沿って説明する。
まず、過熱水蒸気生成装置11の水蒸気生成装置12で水蒸気を生成し(ST1)、これを水蒸気加熱装置12’によって100℃以上200℃以下の温度に加熱して、土壌乾燥用の過熱水蒸気を生成する(ST2)。
土壌乾燥用の過熱水蒸気温度は、水の沸点以上であれば有効であり、いきなりセシウム気化温度まで加熱しない理由は、乾燥の進行中は過熱水蒸気の熱量が水の気化熱として消費されるため、大量の加熱エネルギーを要する高温まで昇温する必要がないからである。
【0021】
この過熱水蒸気を処理チャンバー15に流入して(ST3)、内部温度が所定の温度例えば175℃程度まで上昇したら(ST4)、土壌投入口15’からセシウム汚染土壌を投入して(ST5)、乾燥する(ST6)。
セシウム汚染土壌を投入すると、処理チャンバー15内空間温度が降下し、乾燥進行中は、流入している過熱水蒸気の温度にまで達しない。
土壌の乾燥が完了すると処理チャンバー15内温度が上昇を開始するので(ST7)、水蒸気加熱装置12’が生成する過熱水蒸気の設定温度を700℃から800℃程度に変更し、セシウム(Cs)気化用の過熱水蒸気を生成して(ST8)、処理チャンバー15に流入する(ST9)。
セシウムの沸点は常圧641℃であるから、処理チャンバー15内雰囲気はこれ以上の温度を維持する必要がある。過熱水蒸気の温度幅設定は、前述のように、処理チャンバー15内温度が、処理チャンバー15の熱量損失速度と保温性能と環境温度に依存するためである。
【0022】
設定温度の過熱水蒸気が処理チャンバー15内に流入して空間を満たすと、処理チャンバー15内の温度が設定温度まで上昇するので、過熱水蒸気の放射伝熱、接触伝熱、凝縮伝熱の作用によって、すでに完全乾燥した汚染土壌が急速にセシウム沸点以上の温度に上昇し、土壌に付着した放射性セシウムが気化するので、土壌が急速に除染される(ST10)。
【0023】
処理チャンバー15には、水蒸気加熱装置12’から過熱水蒸気が流入し続けるので、接触後の過熱水蒸気を主体とする気体が処理チャンバー15から押し出される。この気体は、過熱水蒸気と、気化した放射性セシウム原子と、乾燥した土壌からの飛散粒子とを含んでいるので、飛散粒子除去装置18を通過させて、飛散粒子を除去する(ST11)。
飛散粒子除去装置18は、サイクロン方式が有効である。サイクロン方式に更に耐熱フィルターを重ねて装備すればより有効である。
飛散粒子の除去は、流出気体がセシウム沸点以下に降下しない段階で行うことが必要である。
【0024】
次に、飛散粒子除去後の流出気体を冷却装置19で冷却する(ST12)。
冷却は、常温水との熱交換で十分な効果が得られる。熱交換後の昇温水は、水蒸気生成装置12で水蒸気を生成する原料として利用すれば、水蒸気生成に必要な熱量を節約することができる。熱交換後の昇温水はまた、処理チャンバー15の補助加熱用に利用しても、過熱水蒸気生成時の加熱熱量を節約することができる。
【0025】
処理チャンバー15からの流出気体を冷却すると、過熱水蒸気は凝縮して復水し、凝縮水の中に放射性セシウム(Cs)を取り込むいっぽう、冷却で凝縮しない気体すなわち非凝縮性気体が残り、この中にも放射性セシウム(Cs)が含まれている可能性がある。
【0026】
本発明では、放射性セシウム溶解槽20で凝縮水を酸性にして含有放射性セシウムを溶解する(ST13(1))。また非凝縮性気体は、非凝縮性気体溶解槽21で酸性液中に気泡溶解して、含有放射性セシウムを溶解する(ST13(2))。
図1においては、放射性セシウム溶解槽20と非凝縮性気体溶解槽21を別個に設けた構成を示しているが、これらが別個であることは本発明の本質的な要素でないことは言うまでもない。
次に、溶解した放射性セシウムイオンを複塩として不溶化し、沈殿分離する(ST14)。
【0027】
上記のST8〜ST14のステップは、放射能測定装置17によって処理チャンバー15に投入したセシウム汚染土壌の放射能をモニタリングしながら行い、土壌の放射性セシウムが気化して処理チャンバー15から流出し、処理チャンバー15内放射能が設定値を下回ったことが確認された時点(ST15)において、除染済み土壌を排出して(ST16)除染土壌容器24に収納し、すべてのステップを完了する。
【実施例2】
【0028】
本発明になる実施例2の放射性セシウム汚染土壌除染装置は、放射性セシウム汚染土壌の乾燥処理空間と放射性セシウムの気化処理空間をそれぞれ別個に設けた構成によって、乾燥過程と気化過程とを並列に行っている。実施例2においては、まず乾燥チャンバーで放射性セシウム汚染土壌を乾燥し、乾燥が終了した放射性セシウム汚染土壌を気化チャンバーに移送して放射性セシウムを気化する。
【0029】
図3の2Aは、実施例2の加熱処理部の構成を示す図である。加熱によって気化した放射性セシウムの処理過程は、実施例1と同様であるので、図示を割愛している。また図3の2Bは、実施例2の加熱処理部を制御する制御システムを説明する図である。
図3の2Aにおいて、31は過熱水蒸気生成装置、32は水蒸気生成装置、32’は乾燥用過熱水蒸気生成装置、32’’は気化用過熱水蒸気生成装置、33は乾燥用過熱水蒸気流量調節器、34は気化用過熱水蒸気流量調節器、35は乾燥チャンバー、35’は土壌投入口、36は気化チャンバー、37は土壌搬送機構、そして38は除染土壌容器である。
また図3の2Bにおいて、40は乾燥用過熱水蒸気温度調節計、41は気化用過熱水蒸気温度調節計、42は乾燥チャンバー温度調節計、43は気化チャンバー温度調節計、そして44は放射能測定装置である。なお、32’〜36は、2Aに示したそれぞれの番号に対応する。
【0030】
以下、実施例2の操作および動作を図4のフロー図に沿って説明する。
まず、過熱水蒸気生成装置31の水蒸気生成装置32で水蒸気を生成し(ST21)、これを乾燥用過熱水蒸気生成装置32’によって100℃以上200℃以下の温度に加熱して、土壌乾燥用の過熱水蒸気を生成し(ST22)、乾燥チャンバー35に流入する(ST23)。
また、乾燥用過熱水蒸気生成装置32’によって100℃以上200℃以下の温度に加熱された過熱水蒸気は、同時に気化用過熱水蒸気生成装置32’’に送って(ST28)、700℃から800℃程度に加熱し、セシウム気化用の過熱水蒸気を生成して(ST29)気化チャンバー36に流入し(ST30)、気化チャンバー内を設定温度に昇温する(ST31)。
過熱水蒸気の流入によって乾燥チャンバー35の内部温度が所定の温度まで上昇したら(ST24)、土壌投入口35’からセシウム汚染土壌を土壌搬送機構37を介して乾燥チャンバー35内に搬入して(ST25)、乾燥する(ST26)。
乾燥が完了したら乾燥チャンバー35内温度が上昇を開始するので(ST27)、乾燥放射性セシウム汚染土壌を土壌搬送機構37を介して気化チャンバー36内に搬入して(ST32)、放射性セシウムを気化する(ST33)。
実施例2は、運転開始直後の第1ロット汚染土壌のみは、乾燥と気化の過程を順次的に行うが、第1ロットの乾燥が終って乾燥チャンバー35から気化チャンバー36へ向けて搬出された後は、第2ロット汚染土壌を乾燥チャンバー35に搬入して乾燥を開始し、第1ロットの気化と並行して第2ロットの乾燥を行う。以下同様に、先行ロットの気化と後続ロットの乾燥を並列的に行う。
【0031】
設定温度の過熱水蒸気が気化チャンバー36内に流入して、過熱水蒸気が気化チャンバー36内空間を満たすと、気化チャンバー36内空間が設定温度まで上昇するので、過熱水蒸気の放射伝熱、接触伝熱、凝縮伝熱の作用によって、すでに完全乾燥していた汚染土壌が急速にセシウム沸点以上の温度に上昇し、土壌に付着した放射性セシウムが気化するので、土壌が急速に除染される。
セシウム気化のステップは、放射能測定装置44によって気化チャンバー36に投入したセシウム汚染土壌の放射能をモニタリングしながら行い、土壌の放射性セシウムが気化して気化チャンバー36から流出し、気化チャンバー36内放射能が設定値を下回ったことが確認された時点において、除染済み土壌を排出して除染土壌容器38に収納する。
気化チャンバー36から排出した流出気体の処理工程は、実施例1と同様であるので、説明を割愛する。
【実施例3】
【0032】
図5は、本発明実施例3の放射性セシウム汚染土壌除染装置の構成図であって、51は過熱水蒸気生成装置、52はボイラー、52’は水蒸気加熱装置、53は過熱水蒸気温度計、54は過熱水蒸気流量調節器、55は処理チャンバー、55’は土壌投入口、56は処理チャンバー温度計、57は放射能測定装置、58は飛散粒子除去装置、59は冷却装置、60は放射性セシウム溶解槽、61は非凝縮性気体溶解槽、62は不溶化槽、63はコンピュータ、そして64は除染土壌容器である。
【0033】
実施例3の装置は、過熱水蒸気生成装置51から冷却装置59までとコンピュータ63をまとめてAパートとして一体型の移動可能型装置を構成し、現地において、この装置に放射性セシウム溶解槽60と非凝縮性気体溶解槽61と不溶化槽62と除染土壌容器64とをBパートとして接続することが可能である。
【0034】
実施例3においては、可燃物例えば木質性廃棄物あるいは木質性がれきの燃焼によって、すべての加熱エネルギーを調達している。
まずボイラー52で可燃物を燃焼して水から水蒸気を生成し、この水蒸気を更に水蒸気加熱装置52’で可燃物を燃焼してセシウムの沸点である641℃以上の過熱水蒸気を生成する。
処理チャンバー55内温度は、環境への逸失熱と投入された汚染土壌による降下熱とを常時補償することによって、必要な温度水準に保持される。
【0035】
処理チャンバー55内の空間を設定温度に維持するため、処理チャンバー温度計56の温度センサーが処理チャンバー55内空間温度を検出し、コンピュータ搭載プログラムが処理チャンバー55に流入すべき過熱水蒸気のおすすめ温度と流量を算出し、オペレーターはそのデータを参考にして、処理チャンバー55に流入する過熱水蒸気の温度と流量を制御して、処理チャンバー55内の空間を設定温度に調節する。
【0036】
処理チャンバー55は、汚染土壌を投入して加熱し、放射性セシウムを気化する反応槽である。処理チャンバー55の壁は、流入した過熱水蒸気の温度の降下を防ぐために、断熱壁とするのみならず、二重壁としてその隙間に冷却装置59からの昇温交換水を満たして補助加熱すれば、過熱水蒸気生成の熱量を節約することができる。
処理チャンバー55の形態は、投入した汚染土壌が効率よく過熱水蒸気に接触して急速な乾燥と昇温を実現する形態であれば、ドラム回転式(ロータリーキルン型)や内部攪拌式などの形態を特定的に選択するものではない。
また処理チャンバー55への過熱水蒸気の流入方式も、汚染土壌の急速な乾燥と昇温を実現する方式であれば、ダウンドラフト式でもアップドラフト式でも構わない。ただし、乾燥した土壌が土埃となって土壌接触後の過熱水蒸気に混入する比率はなるべく低率となる構成が好ましい。
【0037】
実施例3は、可燃物の燃焼熱で過熱水蒸気を生成する点において、環境の二酸化炭素を増加しないことおよび低いランニングコストに大きな特徴を有する。特に木質性がれき廃棄物を燃焼処理して得られる熱量で放射性セシウム汚染土壌の除染ができる点において、著しい特徴を有する。
実施例3の放射性セシウム気化後の処理過程は実施例1とまったく同様であるため、説明を割愛する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
放射性セシウム汚染土壌に、セシウム沸点以上の温度に設定した過熱水蒸気を接触させて放射性セシウムを気化させ、気化した放射性セシウムを含む過熱水蒸気を凝縮して放射性セシウムを分離することによって、放射性セシウム汚染土壌を急速に除染する用途に適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 放射性セシウム汚染土壌の除染装置
11 過熱水蒸気生成装置
15 処理チャンバー
17 放射能測定装置
20 放射性セシウム溶解槽
21 非凝縮性気体の気泡溶解槽
22 不溶化槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウム汚染土壌と過熱水蒸気を接触させて放射性セシウムを気化する処理空間と、
処理空間内で放射性セシウム汚染土壌に接触する過熱水蒸気がセシウム沸点以上の温度を保持するように加熱して生成する過熱水蒸気生成手段と、
放射性セシウム汚染土壌接触後の気化放射性セシウムを含む過熱水蒸気を凝縮する冷却手段と、
凝縮で生成した水と非凝縮性気体から放射性セシウムを分離する放射性セシウム分離手段と、
処理空間の放射能を計測する放射能測定手段と
より成り、
セシウム沸点以上の温度の過熱水蒸気を、放射性セシウム汚染土壌に接触させて放射性セシウムを気化し、該土壌の放射能を設定値以下の水準にまで低減し、気化した放射性セシウムを分離することによって、放射性セシウム汚染土壌を除染することを特徴とする放射性セシウム汚染土壌の急速除染方法。
【請求項2】
前記の放射性セシウム分離手段は、放射性セシウム汚染土壌接触後の過熱水蒸気の凝縮で生成した水を酸性にして含有放射性セシウムを溶解する溶解手段と、非凝縮性気体を酸性液中に気泡溶解して含有放射性セシウムを溶解する気泡溶解手段と、溶解で生成した放射性セシウムイオンを複塩にして不溶化する不溶化手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の放射性セシウム汚染土壌の急速除染方法。
【請求項3】
放射性セシウム汚染土壌と過熱水蒸気を接触させて放射性セシウムを気化する空間を備えた処理チャンバーと、
処理チャンバーの空間内で放射性セシウム汚染土壌に接触する過熱水蒸気がセシウム沸点以上の温度を保持するように加熱して生成する過熱水蒸気生成装置と、
気化した放射性セシウムを含む接触後の過熱水蒸気を凝縮させる冷却装置と、
凝縮水を酸性にして含有放射性セシウムを溶解する溶解槽と、
非凝縮性気体を気泡溶解して含有放射性セシウムを溶解する気泡溶解槽と、
溶解した放射性セシウムイオンを複塩にして不溶化する不溶化槽と、
処理チャンバー内空間の放射能を計測する放射能測定装置と
より成り、
セシウム沸点以上の温度の過熱水蒸気を、放射性セシウム汚染土壌に接触させて放射性セシウムを気化し、該土壌の放射能を設定値以下の水準にまで低減し、気化した放射性セシウムを溶解した後不溶化することによって、放射性セシウム汚染土壌を除染することを特徴とする放射性セシウム汚染土壌の急速除染装置。
【請求項4】
前記の過熱水蒸気生成装置が電気エネルギーを利用して過熱水蒸気を生成し、過熱水蒸気温度調節計と、過熱水蒸気流量調節器と、処理チャンバー温度調節計と、前記処理チャンバーに流入する過熱水蒸気の温度と流量とを調節して、前記処理チャンバー内空間を設定温度に維持する温度制御プログラムを搭載したコンピュータとを備えたことを特徴とする請求項3記載の放射性セシウム汚染土壌の急速除染装置。
【請求項5】
前記の過熱水蒸気生成装置が可燃物の燃焼熱によって水蒸気と過熱水蒸気を生成し、過熱水蒸気温度計と、過熱水蒸気流量調節器と、処理チャンバー温度計と、前記処理チャンバー内空間を設定温度に維持するために必要な、前記処理チャンバーに流入する過熱水蒸気のおすすめ温度と流量を算出するプログラムを搭載したコンピュータとを備えたことを特徴とする請求項3記載の放射性セシウム汚染土壌の急速除染装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−101032(P2013−101032A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244473(P2011−244473)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(594077024)