説明

過酢酸の製造方法及び装置

【課題】濃度の高い過酢酸を速やかに生成させることができる過酢酸の製造方法及びそのための装置を提供する。
【解決手段】過硫酸と酢酸とを反応容器内で反応させて過酢酸を含む反応液を生成させ、該反応液を蒸留して過酢酸を得ることを特徴とする過酢酸の製造方法及び装置。蒸留残液中の硫酸を電解酸化処理することにより過硫酸を生成させ、この過硫酸を前記酢酸との反応に供する。電解酸化処理装置は、電極として導電性ダイヤモンド電極を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酢酸の製造方法及び装置に係り、特にペットボトル洗浄・殺菌、漂白プロセスなどで用いられる過酢酸をオンサイトで製造するのに好適な方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品分野での容器、製造ラインや、医療分野での殺菌用に過酢酸が広く使用されている。また、過酢酸は、合成用酸化剤としても使用されている。過酢酸は、分解しやすい性質を有するため、安定化剤が添加されることが多い。安定化剤の添加は安全性、残留や反応阻害、コストアップなどの問題があるため望ましくない。また、過酢酸の高濃度品は劇物扱いとなり低濃度で保存、輸送されることが多く、保管場所が大きくなる、輸送コストが高くなるなどの問題があった。これらの問題を避けるためには、過酢酸をオンサイトで合成することが望ましい。
【0003】
過酢酸の製造は、工業的には高温下でアセトアルデヒドを酸化して合成されている。簡易的には過酸化水素溶液と酢酸を混合し、酸触媒を用いて過酢酸を得る方法も行われている。
【0004】
また、電解反応を利用したオンサイト製造装置も考案されている(特許文献1)。特許文献1では、陽極及び陰極を有する電解セルに酢酸及び酸素含有ガスを供給し、電解することにより、過酢酸を電解合成する。
【0005】
上記特許文献1の過酢酸製造装置においては、酸素の電解還元で生じる過酸化水素の濃度が低いため、生成する過酢酸濃度が低く、殺菌効果が低いなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−43900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、濃度の高い過酢酸を速やかに生成させることができる過酢酸の製造方法及びそのための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の過酢酸の製造方法は、過硫酸と酢酸とを反応させて過酢酸を含む反応液を生成させ、該反応液を蒸留して過酢酸を得ることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の過酢酸の製造方法は、請求項1において、蒸留残液中の硫酸を電解酸化処理することにより過硫酸を生成させ、この過硫酸を前記酢酸との反応に供することを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の過酢酸の製造方法は、請求項2において、導電性ダイヤモンド電極を有する電解酸化装置により硫酸を電解酸化処理して過硫酸を生成させることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の過酢酸の製造装置は、過硫酸と酢酸とを反応させて過酢酸を含む反応液を生成させる反応手段と、該反応手段で生成した反応液を蒸留して過酢酸を得る蒸留手段と、を有することを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の過酢酸の製造装置は、請求項4において、蒸留残液中の硫酸を電解酸化処理することにより過硫酸を生成させる電解酸化装置を備えており、この電解酸化装置で生成した過硫酸を前記酢酸との反応に供することを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の過酢酸の製造装置は、請求項5において、該電解酸化装置は電極として導電性ダイヤモンド電極を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の過酢酸の製造方法及び装置では、過硫酸と酢酸とを反応させて過酢酸を含む反応液を生成させ、この反応液を蒸留して過酢酸を得る。この方法では、過硫酸と酢酸との反応速度が大きいため、濃度の高い過酢酸が速やかに生成する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明の過酢酸の製造方法及び装置では、過硫酸と酢酸とを反応容器内で反応させて過酢酸含有反応液を生成させ、この反応液を蒸留することにより過酢酸を得る。
【0017】
過硫酸としては、硫酸含有液を電解酸化処理することにより生成させたものが好適であり、特に後述の蒸留残液を電解酸化処理することにより生成させたものが好ましい。反応容器に供給する過硫酸含有液中の過硫酸濃度は0.1〜10wt%特に3〜6wt%程度が好ましい。
【0018】
酢酸は工業的に製造したものであってもよく、殺菌に使用した後の過酢酸排液や、そのリンス排水を逆浸透膜装置で濃縮した液などであってもよい。反応容器に供給する酢酸含有液中の酢酸濃度は(過酢酸が存在する場合、過酢酸と酢酸との合計の濃度として)、0.1〜60wt%特に1.0〜30wt%程度が好ましい。
【0019】
過硫酸と酢酸とを反応させる反応工程は、連続反応であってもよく、バッチ反応であってもよい。
【0020】
連続反応の場合、反応容器に過硫酸含有液と酢酸含有液とを連続的に供給し、反応液を連続的に取り出す。この場合、酢酸1モルに対し過硫酸を0.1〜2.0モル特に0.2〜1.0モルの割合で反応容器に供給するのが好ましい。反応容器内の温度は40〜100℃特に60〜80℃程度が好適であり、反応温度は40〜100℃特に60〜80℃程度が好適である。反応時間(容器内の滞留時間)は1〜100min特に2〜10min程度が好適である。
【0021】
バッチ反応の場合も、上記と同様の仕込み割合で過硫酸含有液と酢酸含有液とを反応容器内に収容し、上記の同様の温度及び時間で反応を行わせるのが好ましい。
【0022】
上記の反応により、通常は過酢酸を0.1〜10wt%特に0.3〜6wt%、酢酸を0.1〜50wt%特に3〜30wt%、過硫酸を0.1wt%以下特に0.05wt%以下、硫酸を10〜80wt%特に30〜60wt%程度含んだ反応液となる。
【0023】
この反応後の反応液を蒸留して過酢酸を得る際の蒸留は、絶対圧力を1〜40kPa特に10〜20kPaとした減圧蒸留であることが好ましい。この減圧蒸留時の温度は、圧力20kPaの場合で40〜100℃特に60〜80℃程度が好ましい。この蒸留により、過酢酸濃度が0.3〜6wt%程度の過酢酸水溶液を得ることができる。
【0024】
この反応液から過酢酸及び酢酸を留去した蒸留残液中の硫酸を酸化することにより過硫酸とし、この過硫酸を上記反応工程に供するのが好ましい。蒸留残液中の硫酸を酸化する場合、電解酸化によるのが好ましく、特に電極として導電性ダイヤモンド電極を用いた電解酸化装置を用いるのが好ましい。
【0025】
以下に、この反応残液の電解反応に用いられる電解反応装置について説明する。
【0026】
電解反応装置では、陽極と陰極とを対にして電解がなされる。白金を電解反応装置の陽極として使用した場合、過硫酸イオンを効率的に生成させることができず、白金が溶出するという問題がある。これに対し、ダイヤモンド電極は、過硫酸イオンの生成を効率よく行えるとともに、電極の損耗が小さい。従って、電解反応装置の電極のうち、少なくとも、過硫酸イオンが生成する陽極は導電性ダイヤモンド電極で構成するのが望ましく、陽極、陰極ともに導電性ダイヤモンド電極で構成するのが一層望ましい。
【0027】
導電性ダイヤモンド電極としては、シリコンウエハ等の半導体材料を基板とし、このウエハ表面に導電性ダイヤモンド薄膜を合成させた後に、ウエハを溶解させたものや、基板を用いない条件で板状に析出合成したセルフスタンド型導電性多結晶ダイヤモンドを挙げることができる。また、Nb,W,Tiなどの金属基板上に積層したものも利用できるが、電流密度を大きくした場合には、ダイヤモンド膜が基板から剥離するという問題が生じやすい。
【0028】
導電性ダイヤモンド電極によって、硫酸イオンから過硫酸イオンを生成させることは、電流密度を0.2A/cm程度にした場合については報告されている(Ch.Comninellis et al.,Electrochemical and Solid−State Letters,Vol.3(2)77−79(2000),特表2003−511555号)。
【0029】
なお、導電性ダイヤモンド薄膜は、ダイヤモンド薄膜の合成の際にボロン、窒素などの所定量をドープして導電性を付与したものであり、通常はボロンドープしたものが一般的である。ドープ量は、ダイヤモンド薄膜の炭素量に対して、50〜20,000ppmの範囲のものが適している。
【0030】
導電性ダイヤモンド電極は、通常は板状のものを使用するが、網目構造物を板状にしたものも使用できる。電極の形状や数は特に限定されるものではない。
【0031】
この導電性ダイヤモンド電極を用いて行う電解反応は、導電性ダイヤモンド電極表面の電流密度を10〜100,000A/mとし、硫酸イオンを含む再生廃液をダイヤモンド電極面と平行方向に、通液線速度を1〜10,000m/hrで接触処理させることが望ましい。ただし、バッチ処理であってもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0033】
[実施例1]
電極面積20cmのダイヤモンド電極を対向するように配置した電解槽(極間距離10mm)に、濃度70wt%に調整した硫酸0.5Lを収容し、2時間電解して過硫酸を生成させた。電流密度は50A/dm、電圧は6〜8Vである。2時間電解後の過硫酸濃度は52g−S/Lであった。
【0034】
ロータリーエバポレーターに、この過硫酸を含む硫酸溶液0.5Lと3%酢酸溶液0.5Lを投入し、液温60℃にて5min反応させた後、60℃、−970kPaの減圧下で蒸留した。蒸気を冷却部で液化凝縮させることにより、約0.5Lの留出液が得られた。
【0035】
この留出液の分析結果を以下に示す。
全酢酸(過酢酸を含む) 2.8%
過酢酸 1.4%
過酸化水素 0.3%
硫酸 100ppm以下
【0036】
[実施例2:殺菌排液から回収した酢酸を利用した場合]
清涼飲料ペットボトルの殺菌処理工程から排出される殺菌処理排液として次の組成のものを用いた。
【0037】
酢酸 2000ppm
過酢酸 500ppm
過酸化水素 900ppm
【0038】
この殺菌処理排液を活性炭処理及び濾過処理した後、逆浸透膜で10倍に濃縮した。活性炭は、栗田工業社製クリコール、濾過はミリポア社製、逆浸透膜は日東電工製を用いた。逆浸透膜で10倍濃縮した濃縮液中の酢酸濃度は33000ppmであった。
【0039】
この濃縮液を実施例1の酢酸と代替して用いたこと以外は実施例1と同様にして過酢酸を製造したところ、次の留出液が得られた。
【0040】
全酢酸(過酢酸を含む) 2.9%
過酢酸 1.5%
過酸化水素 0.2%
硫酸 100ppm以下

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過硫酸と酢酸とを反応させて過酢酸を含む反応液を生成させ、
該反応液を蒸留して過酢酸を得ることを特徴とする過酢酸の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、蒸留残液中の硫酸を電解酸化処理することにより過硫酸を生成させ、この過硫酸を前記酢酸との反応に供することを特徴とする過酢酸の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、導電性ダイヤモンド電極を有する電解酸化装置により硫酸を電解酸化処理して過硫酸を生成させることを特徴とする過酢酸の製造方法。
【請求項4】
過硫酸と酢酸とを反応させて過酢酸を含む反応液を生成させる反応手段と、
該反応手段で生成した反応液を蒸留して過酢酸を得る蒸留手段と、
を有することを特徴とする過酢酸の製造装置。
【請求項5】
請求項4において、蒸留残液中の硫酸を電解酸化処理することにより過硫酸を生成させる電解酸化装置を備えており、この電解酸化装置で生成した過硫酸を前記酢酸との反応に供することを特徴とする過酢酸の製造装置。
【請求項6】
請求項5において、該電解酸化装置は電極として導電性ダイヤモンド電極を有することを特徴とする過酢酸の製造装置。

【公開番号】特開2012−136731(P2012−136731A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289424(P2010−289424)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】