説明

過酸化物分解触媒

【課題】高温下において、フリーラジカルの発生を抑制し、効率よく、しかも経済的に過酸化物を分解する触媒を提供する。
【解決手段】(式1)で表されるフリーラジカル発生量を示す値Aが0.20以下であり、かつ(式2)で表される反応速度を示す値Bが60以上である、卑金属原子を含む過酸化物分解触媒。
A=Mw(S)/Mw−1 (式1)
(式中、Mwは、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)共存下、80℃での過酸化水素分解試験における、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。Mw(S)は、試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。)
B=N(po)/N(cat) (式2)
(式中、N(po)は、(式1)における過酸化水素分解試験において20分間あたりに分解された過酸化水素のモル数であり、N(cat)は用いた触媒の金属原子当りのモル数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化物分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化物は、重金属、熱、光等により容易に分解され、ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルオキシラジカル、アルキルペルオキシラジカル、アルコキシルラジカルなどのフリーラジカルの発生を伴うことが知られている。
【0003】
生体内において、常温下、過酸化物からこれらフリーラジカルが発生し、老化、ガン、動脈硬化など多くの疾患にも関与していると考えられている。また高分子電解質型燃料電池や水電解装置などにおいては、高温で過酸化水素から生じるフリーラジカルが電解質を劣化させる原因物質となると非特許文献1などで報告されており、これら装置における性能低下の要因の一つとなっている。
【0004】
近年、過酸化水素による電解質の劣化を防ぐ目的で幾つかの過酸化水素分解触媒に関する研究がなされている。該触媒としては、白金やルテニウムなどの貴金属触媒も報告されているが、価格・資源量の観点から卑金属触媒が望まれている。これまで開示されている該卑金属触媒の具体例としては金属塩、金属酸化物あるいは金属錯体が例示され、金属塩としては、希土類リン酸塩、チタンリン酸塩、鉄リン酸塩、アルミニウムリン酸塩、ビスマスリン酸塩(特許文献1)、およびタングステン酸塩(特許文献2)などが、金属酸化物としては、酸化タングステン(特許文献2)、二酸化マンガン(特許文献3、4、7)、または酸化コバルト(特許文献4)、酸化セリウム(特許文献5)、鉄フェライト(特許文献6)などが挙げられる。また、金属錯体としては、フタロシアニン鉄錯体(特許文献7、8)、フタロシアニンコバルト錯体またはフタロシアニン銅錯体(特許文献8)、μ−オキソ二核鉄錯体(特許文献9)、ビピリジル銅錯体(非特許文献2)、グリシン又はエチレンジアミン/コバルト錯体がポリマーに担持されたもの(非特許文献3)などが報告されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−071760号公報
【特許文献2】特開2005−019232号公報
【特許文献3】特開2001−118591号公報
【特許文献4】特開2003−123777号公報
【特許文献5】特開2004−327074号公報
【特許文献6】特開2005−063902号公報
【特許文献7】特開2005−135651号公報
【特許文献8】特開平6−154619号公報
【特許文献9】特開2004−296425号公報
【非特許文献1】デニス・D・カーチン、ロバート・D・ルーゼンバーグ、ティモシー・J・ヘンリー、ポール・C・タングマン、およびモニカ・E・ティザック著(Dennis E. Curtin, Robert D. Lousenberg, Timothy J. Henry, Paul C. Tangeman, and Monica E. Tisack)、ジャーナル・オブ・パワーソーセズ(J. Power Sources)2004, 131, 41
【非特許文献2】ヘルミュート・シゲール、カート・ワイズ、ベーダ・E・フィシャー、およびベルナルド著(Helmut Sigel, Kurt Wyss, Beda E. Fischer, and Bernhard)、イノーガニック・ケミストリー(Inorg. Chem.)1979, 18, 1354
【非特許文献3】D・T・ゴカック、B・V・カマス、およびR.N.ラム著(D. T. Gokak, B. V. Kamath, and R. N. Ram)、ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J. Appl. Polym. Sci)1988, 35, 1523
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らが検討したところ、上記の触媒は、過酸化水素分解反応速度が小さすぎるか、過酸化水素分解時にフリーラジカルを多量に発生するものであり、該フリーラジカルの発生は高温であるほど、顕著であった。
本発明の目的は、高温下においても、フリーラジカルの発生を抑制し、効率よく、しかも経済的に過酸化物を分解する触媒を提供することである。また、本発明の目的は高分子電解質型燃料電池や水電解装置の劣化防止剤、医農薬や食品の抗酸化剤などの用途に容易に適用できる、溶媒に実質的に可溶な上記触媒を提供することである。さらに本発明は、上記のように優れた過酸化物分解触媒の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
[1](式1)で表されるフリーラジカル発生量を示す値Aが0.20以下であり、かつ(式2)で表される反応速度を示す値Bが60以上である、卑金属原子を含む過酸化物分解触媒、
【0008】
【数1】

【0009】
(式中、Mwは、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)共存下、80℃での過酸化水素分解試験における、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。Mw(S)は、試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。)
【0010】
【数2】

(式中、N(po)は、(式1)における過酸化水素分解試験において20分間あたりに分解された過酸化水素のモル数であり、N(cat)は用いた触媒の金属原子当りのモル数である。)、
[2]溶媒に実質的に可溶であることを特徴とする[1]に記載の過酸化物分解触媒、
[3]卑金属多核錯体を含む[1]または[2]に記載の過酸化物分解触媒、
[4]卑金属原子が第一遷移元素系列の遷移金属原子である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒、
[5]卑金属原子が、マンガン、鉄、コバルトおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種である[1]〜[4]のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒、
[6]卑金属原子が、マンガンである[1]〜[5]のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒、
[7]下記の(i)〜(iii)の要件を満たす多核錯体を含む[1]〜[6]のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒。
(i)2つ以上の卑金属原子を有すること、
(ii)2つ以上の配位原子をもつ配位子Lを有すること、
(iii)上記2つ以上の卑金属原子から選ばれる2つの金属原子をM、Mとし、M、Mに配位するL中の配位原子をそれぞれAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が12以下となるAM1及びAM2の組合せを有すること、
[8]一般式(I)で示される錯体を含む[1]〜[7]のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒、
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、MおよびMは卑金属原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。N〜Nは配位原子となる窒素原子である。Ar〜Arはそれぞれ窒素原子(N〜N)を有する、置換されてもよい芳香族複素環であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。Rは二官能性の有機基であり、NとNの間に介在する結合数が12以下である。R〜Rは置換されてもよい二官能性の炭化水素基を表わし、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、
[9]過酸化水素を分解することを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒、
[10]前記[1]〜[8]のいずれか1項に記載された過酸化物分解触媒を用い、45℃以上で過酸化物を分解することを特徴とする過酸化物の分解方法、
[11]脂肪族ポリマーをラジカル検出剤として用い、該脂肪族ポリマーの分子量変化により該ラジカルを定量することを特徴とするラジカル分析方法、
[12]前記[7]に記載の過酸化物分解触媒の製造方法であって、配位子Lを与える化合物と溶媒に可溶性の遷移金属化合物を溶媒中で混合することを特徴とする過酸化物分解触媒の製造方法、
[13]配位子Lを与える化合物が配位子Lの前駆体化合物または配位子Lそのものの構造で示される化合物である[12]記載の過酸化物分解触媒の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温下であっても、フリーラジカルの発生を抑制して、効率よく、経済的に過酸化物を分解可能な触媒を提供でき、それを用いる過酸化水素の分解を達成することができる。その作用を利用して、この触媒は、高分子電解質型燃料電池や水電解装置の劣化防止剤、医農薬や食品の抗酸化剤などの用途に用いることができる。また、本発明の触媒の製造方法によれば、得られる触媒は溶媒に可溶であるため、これらの部材に容易に導入することができる。また、本発明のラジカルの分析方法は簡便かつ高感度であり、前述の分野において大変有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第1の実施態様は、(式1)で表されるフリーラジカル発生量を示す値Aが0.20以下であり、かつ(式2)で表される反応速度を示す値Bが60以上である、過酸化物を分解する卑金属触媒である。
【0015】
本発明の触媒的過酸化物分解反応の対象となる過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド;過酸化ジt−ブチル、過酸化ビストリフェニルメチルなどの過酸化ジアルキル;過ギ酸、過酢酸、過ラウリン酸、過トリフルオロ酢酸、モノ過フタル酸、モノ過コハク酸、過安息香酸などの過酸化カルボン酸;過安息香酸t−ブチル、過シュウ酸ジt−ブチルなどの過酸エステル;過酸化プロピオニル、過酸化ブチリル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジイソプロピルオキシカルボニルなどの過酸化ジアシル;過酸化水素;過酸化ナトリウム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化亜鉛、などの金属過酸化物などを例示することができる。好ましくはt−ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、過酸化ジアルキル、過酸化カルボン酸、過酸エステル、過酸化ジアシル、過酸化水素であり、より好ましくはt−ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、過酸化カルボン酸、過酸エステル、過酸化ジアシル、過酸化水素であり、さらに好ましくはt−ブチルヒドロペルオキシドと過酸化水素である。
【0016】
さらに、本発明の過酸化物分解触媒は、溶媒に実質的に可溶であることが好ましい。これより高分子電解質型燃料電池や水電解装置の劣化防止剤や医農薬や食品の抗酸化剤などの部材に容易に導入することができる。種々の溶媒を用いることができるが特に有機溶媒に可溶であることが望ましい。有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素が挙げられる。より好ましくは、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、四塩化炭素であり、さらに好ましくは、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドであり、よりさらに好ましくは、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、エタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドである。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。これらの溶媒の中でも、高分子電解質型燃料電池、とりわけ燃料電池用イオン伝導膜に適用する際には、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドから選ばれる溶媒に可溶であると、好ましい。
【0017】
ここで、過酸化物分解触媒の溶解度の指標として、一定量(5.0ml)のジメチルホルムアミド(以下DMFと略記)に対する過酸化物分解触媒(20.0±0.1mg)の溶解度を用いることができる。ここでの溶解度とは、下記(式3)で示されるものである。
【0018】
【数3】

【0019】
本発明において、上記(式3)で示される溶解度が20%以上であれば、その過酸化物分解触媒は溶媒に実質的に可溶であるといえる。また、DMF以外の溶媒に対しても同様にして溶解度を求めることができる。本発明において過酸化物分解触媒の溶媒に対する好ましい溶解度は、40〜100%の範囲であり、より好ましくは50〜100%の範囲であり、さらに好ましくは70〜100%の範囲であり、よりさらに好ましくは90〜100%の範囲であり、特に好ましくは95〜100%の範囲である。
【0020】
本発明の過酸化物分解触媒は、卑金属原子を含む触媒である。ここでいう卑金属原子とは、「化学辞典」(第1版、1994年、東京化学同人)に記載されるように、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金の貴金属以外の金属原子である。卑金属原子の具体例としては、例えば、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム、アスタチン、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウランなどを例示することができる。好ましくはスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム、アスタチン、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウランであり、より好ましくはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、タンタル、タングステン、レニウム、水銀、ビスマス、ポロニウム、アスタチン、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウランであり、さらに好ましくはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅である。
なお、「卑金属原子」は、上記非特許文献3中p.1529のScheme1に記載のコバルトのように金属中心上の電荷を明記していない形式で記載しているが、本発明においては、「卑金属元素」と同義であり、それは中性の原子であってもイオンであってもよい。
【0021】
本発明で規定する値Aおよび反応速度より得られる値Bは、上記(式1)および(式2)に記載される過酸化水素分解試験により決定される触媒の特性である。以下にその試験方法を示す。
【0022】
8.41μmol(1金属原子当たり)の触媒と21.1mgのポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(例えば、アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)の混合物に、1.00mlの酒石酸/酒石酸ナトリウム緩衝溶液(pH4.0)と1.00mlのエチレングリコールを加える。この触媒混合物を80℃、5分間攪拌した後、11.4mol/l過酸化水素水溶液0.20mlを加え、80℃、20分間攪拌する。この際に発生する酸素の体積をガスビュレットにより測定し、分解した過酸化水素量を算出する。この後、この反応溶液を希釈・ろ過し、ろ液をゲル浸透クロマトグラフィー測定(GPC)することにより、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量を求める。GPC分析条件を以下に示す。カラム:13μm、7.8mmφ×30cm(例えば、東ソー(株)製TSKgel α−M)、カラム温度:40℃、移動相:50mmol/l酢酸アンモニウム水溶液:CHCN=7:3(v/v)、流速:0.6ml/min、検出器:RI、注入量:50μl。重量平均分子量はポリエチレンオキサイド換算値で求めた。A値は上記(式1)により、B値は上記(式2)により求められる。
【0023】
本発明における過酸化物分解触媒は、卑金属原子を含む化合物、好ましくは卑金属原子を含む錯体化合物を用い、上記の過酸化水素分解試験に行って求められる値Aが0.2以下であり、値Bが60以上の触媒である。その中で、溶媒に可溶な触媒が好ましい。
(式1)においては、A値はフリーラジカルの発生量に関するものであり、これが0.20を超えると、該触媒を過酸化物の分解反応に適用したときに、フリーラジカルを多量に生じ、共存する基質や部材等を劣化させるという現象が起き、好ましくない。Aは0.20以下であり、好ましくはAが0.18以下であり、より好ましくはAが0.15以下であり、さらに好ましくはAが0.10以下である。
また、このような値Aを示す卑金属原子を含む化合物として、卑金属原子を分子内に複数有する多核金属錯体(卑金属多核金属錯体)がより好適である。この理由についてはまだ定かではないが、多核金属錯体では複数の金属中心による多電子移動反応を起こすことが可能であるため、一電子移動反応により生じるフリーラジカルの発生が抑制されるものと推定される。なお、多核錯体とは、錯体一分子中に2個以上の金属原子を含むものを指す。
【0024】
また、(式2)においては、N(po)/N(cat)、すなわちBの値が高いほど、触媒の過酸化物分解能が高いことを示している。本発明において、十分な過酸化物の分解速度を得るために、該B値は60以上であり、好ましくはBが100以上であり、より好ましくはB値が180以上であり、さらに好ましくはB値が240以上である。B値が小さすぎると、A値が0.20以下の場合に効率よく過酸化物を分解できないという問題を生ずる。
このような値Bを呈する卑金属原子を含む化合物としては、触媒の活性中心となる卑金属の種類に依存し、上記に記載の好ましい金属原子の中でも、マンガン、鉄、コバルト、銅がさらに好ましく、マンガンが特に好ましい。この理由についてはまだ定かではないが、これらの卑金属原子を含む化合物は、過酸化物もしくは過酸化物から誘導されるフリーラジカル種に対し、酸化剤としても還元剤としても効率よく作用することが可能となるような酸化還元電位を有するためと推定される。
このような値Aと値Bの両条件を満たす触媒によってはじめて、過酸化水素のみならず他の過酸化物についても、フリーラジカルの発生を抑制して、効率よく分解することができ、本発明の目的を達成できる。また、過酸化物を80℃程度の高温で分解する際にも、フリーラジカルの発生を抑制できる過酸化物分解触媒として機能するものである。
【0025】
本発明の過酸化物分解触媒としては、上記の観点を勘案すると、卑金属原子がマンガン、鉄、コバルトおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の卑金属原子を含む過酸化物分解触媒が好ましく、さらに好ましくは、卑金属原子がマンガン、鉄、コバルトおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の卑金属原子を含む卑金属多核錯体であり、特に好ましくは、マンガンを卑金属原子として含む卑金属多核錯体である。
【0026】
上記卑金属多核錯体において、該錯体一分子中の卑金属原子の数に特に限定はないが、複核錯体がより好ましい。なお、複核錯体とは、錯体一分子中に2個の金属原子を有するものをいう。
【0027】
本発明の過酸化物分解触媒に係る、好ましい実施態様としては、下記の要件を満たす卑金属多核錯体が挙げられる。
(i)2つ以上の卑金属原子を有すること、
(ii)2つ以上の配位原子をもつ配位子Lを有すること、
(iii)2つの卑金属原子をM、Mとし、M、Mに配位するL中の配位原子をそれぞれAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が12以下となるAM1及びAM2の組合せを有すること。
【0028】
上記要件(iii)中、MとMで表される卑金属原子における卑金属の定義、具体例、および好ましい例は、上記と同等の定義である。
【0029】
上記要件(ii)のLは配位原子を2つ以上有する配位子を表し、上記要件(iii)に記載のようにMおよびMそれぞれに少なくとも1つずつ別個の配位原子が結合し、Mに結合した配位原子(AM1)とMに結合した配位原子(AM2)の組み合わせにおいて、それら二つの配位原子の間に介在する共有結合数が12以下である配位原子の組み合わせを少なくとも1組有する。ここでいう二つの配位原子の間に介在する共有結合数とは、二つの配位原子を最も少ない結合で結んだ際の共有結合の数である。例えば式(11)の錯体では、二つの金属に結合した配位原子の組み合わせにおいて、MとMにそれぞれ配位する配位原子間に存在する共有結合数は、M−O−M間では、MとMが同一配位原子Oで(架橋)配位しているため共有結合数は0であり、M−O−O−M間では、配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が2であり、M−O−N20−M間とM−O−N10−M間では、その配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が3であり、M−N10−N20−M間では、配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が4となる。
一方、式(12)の錯体では、M−O−O−M間、M−O−O−M間、M−O−O−M間、およびM−O−O−M間では、共有結合数が19である。M−O−N−M間、M−O−N−M間、M−N−O−M間、およびM−N−O−M間では、共有結合数は16となる。M−N−N−M間では、共有結合数は13となる。
このように、本発明に適用する好ましい複核錯体としては、AM1とAM2を結ぶ共有結合数が12以下となる、上記要件(iii)を満たす、式(11)の錯体が好ましい。
なお、式(11)、式(12)において配位原子に付した数字は、共有結合数の説明のために記したものであり、式(12)におけるZは任意の配位子を表す。
上記要件(ii)におけるLとしては、以下に例示する本発明の錯体触媒中の配位子などが挙げられる。
【0030】
【化2】

【0031】
【化3】

【0032】
に結合した配位原子とMに結合した配位原子との間に介在する最小の結合数は、好ましくは1〜12の範囲内であるが、より好ましくは1〜8の範囲内であり、更に好ましくは1〜6の範囲内であり、より更に好ましくは1〜5の範囲内である。このように、該共有結合数が小さいほど、MとMが錯体内で、互いに近接した形態となり、値Aを0.20以下の卑金属原子を含む化合物となりやすく、本発明に好適に適用することができる。なお、上記要件(i)〜(iii)で示される多核錯体は、前述の条件を満たす範囲内でM、M以外にも卑金属原子を含んでいてもよい。
【0033】
上記要件(i)〜(iii)で示される錯体構造は電気的中性を保つよう一つ以上のカウンターイオンが必要な場合がある。カウンターアニオンとしては通常、ブレンステッド酸の共役塩基が使用され、具体的には、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;硫酸イオン;硝酸イオン;炭酸イオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロボレートイオン;テトラフェニルボレートイオンなどのテトラアリールボレートイオン;ヘキサフルオロホスフェイトイオン;メタンスルホン酸イオン;トリフルオロメタンスルホン酸イオン;p−トルエンスルホン酸イオン;ベンゼンスルホン酸イオン;リン酸イオン;亜リン酸イオン;酢酸イオン;トリフルオロ酢酸イオン;プロピオン酸イオン;安息香酸イオン;水酸化物イオン;金属酸化物イオン;メトキサイドイオン;エトキサイドイオン等が挙げられる。カウンターカチオンとしては、アルカリ金属イオン;アルカリ土類金属イオン;テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンなどのテトラアルキルアンモニウムイオン;テトラフェニルホスホニウムイオンなどのテトラアリールホスホニウムイオン等を適宜用いることができる。好ましいカウンターアニオンは、硫酸イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオンであり、より好ましくは硝酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオンであり、さらに好ましくはテトラフェニルボレートイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンである。好ましいカウンターカチオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンであり、より好ましくはテトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンであり、さらに好ましくはテトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンである。
【0034】
本発明の過酸化物分解触媒としては、上記要件(i)〜(iii)で示される錯体構造以外にも、その触媒性能を阻害しない範囲で、卑金属原子は一つ以上の配位子と結合していてもよい。該配位子としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、アンモニア、水、硫化水素、炭酸、リン酸、亜リン酸、シアン化水素、シアン酸、チオシアン酸、イソチオシアン酸、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、フェノール、カテコール、メタンチオール、エタンチオール、ベンゼンチオール、1,2−ベンゼンジチオール、1,2−エタンジチオール、2−メルカプトエタノール、エチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ピリジン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸、アセチルアセトン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトン、グリシン、イミノ二酢酸、8−ヒドロキノリン、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの中性分子、および該中性分子からプロトンを一つまたはそれ以上取り去って得られる陰イオンなどが挙げられる。該配位子は、複数の金属を架橋するように結合していてもよい。該配位子として、好ましくは、アンモニア、水、硫化水素、炭酸、リン酸、亜リン酸、シアン化水素、シアン酸、チオシアン酸、イソチオシアン酸、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、フェノール、カテコール、メタンチオール、エタンチオール、ベンゼンチオール、1,2−ベンゼンジチオール、1,2−エタンジチオール、2−メルカプトエタノール、エチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸、アセチルアセトン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトン、グリシン、8−ヒドロキノリン、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリルの中性分子、および該中性分子からプロトンを一つまたはそれ以上取り去って得られる陰イオンであり、より好ましくは、水、炭酸、リン酸、亜リン酸、エチレングリコール、カテコール、1,2−ベンゼンジチオール、1,2−エタンジチオール、エチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸、アセチルアセトン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトン、グリシン、8−ヒドロキノリン、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリルの中性分子、および該中性分子からプロトンを一つまたはそれ以上取り去って得られる陰イオンであり、さらに好ましくは水、炭酸、リン酸、亜リン酸、エチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸、アセチルアセトン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトン、グリシン、8−ヒドロキノリン、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリルの中性分子、および該中性分子からプロトンを一つまたはそれ以上取り去って得られる陰イオンである。
【0035】
また、上記要件(i)〜(iii)を満たす錯体の中でも、より好ましくは下記一般式(I)で示される錯体である。
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、MとMは卑金属原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。N〜Nは配位原子となる窒素原子である。Ar〜Arはそれぞれ窒素原子を少なくとも1つもち、置換されてもよい芳香族複素環であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。Rは二官能性の有機基であり、NとNの間に介在する結合数が12以下である。R〜Rは置換されてもよい二官能性の炭化水素基を表わし、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0038】
上記一般式(I)におけるMとMの卑金属原子の定義、具体例、好ましい例は前記のそれらと同じである。またMとMは図中で示される錯体構造以外にも、その触媒性能を阻害しない範囲で、一つ以上の配位子と結合していてもよい。該配位子としては、前述の例と同様なものを挙げることができる。
【0039】
上記一般式(I)中、Ar〜Arはそれぞれ窒素原子を少なくとも1つもつ、置換されてもよい芳香族複素環である。ここでいう芳香族複素環基とは、芳香族複素環を含む縮合環基も該当する。なお複素環とは、「化学辞典」(第1版、1994年、東京化学同人)に記載の通り、炭素以外のヘテロ原子などの原子を含んだ環状化合物のことである。縮合環とは、「化学辞典」(第1版、1994年、東京化学同人)に記載の通り、2つまたはそれ以上の環をもつ環式化合物において、おのおのの環が2個またはそれ以上の原子を共有する環式構造のことである。
該芳香族複素環としては、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、1H−1,2,3−トリアゾリル基、2H−1,2,3−トリアゾリル基、1H−1,2,4−トリアゾリル基、4H−1,2,4−トリアゾリル基、1H−テトラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラジル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、1,3,5−トリアジリル基、1,3,4,5−テトラジリル基などを例示することができる。
上記の芳香族複素環を含む縮合環基をとしては、例えば、インドリル基、イソインドリル基、インドリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、シンノリル基、キナゾリル基、キノキサリル基、フタラジル基、1,8−ナフチリジル基、プテリジル基、カルバゾリル基、フェナントリジル基、1,10−フェナントロリル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基などを例示することができる。更にこれらのみならず、これらの芳香族複素環骨格構造を含むより高次の縮合環基およびこれらの任意に置換された芳香族複素環縮合環基もまた該当する。
上記一般式(I)における芳香族複素環基Ar〜Arとして、好ましくは、ベンゾイミダゾリル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジン基であり、より好ましくは、ベンゾイミダゾリル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基であり、更に好ましくは、ベンゾイミダゾリル基、ピリジル基、イミダゾリル基である。
【0040】
置換された芳香族複素環基Ar〜Ar上の置換基の例として、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハノゲノ基;ヒドロキシ基;カルボキシル基;メルカプト基;スルホン酸基;ニトロ基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、へキシル基、シクロへキシル基、ノルボニル基、ノニル基、シクロノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、アダマンチル基、ドデシル基、シクロドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基などの全炭素数1〜50程度の直鎖、分岐または環状の飽和炭化水素基(なお、飽和炭化水素基は前述のハノゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、飽和炭化水素基、および以下に示す芳香族基、−OR基、−C(=O)R基、−NR基、−SiR基、−P(=O)R基、−P(=S)R基、−SR基、−SO基などで置換されていてもよい);フェニル基、4−メチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ピリジル基、フラジル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ベンゾイミダゾリル基などの全炭素数2〜60程度の芳香族基(なお、芳香族基は前述のハノゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、飽和炭化水素基、芳香族基、および以下に示す−OR基、−C(=O)R基、−NR基、−SiR基、−P(=O)R基、−P(=S)R基、−SR基、−SO基などで置換されていてもよい);Rが前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基のいずれかである−OR基;Rが水素原子、前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基のいずれかである−C(=O)R基;RおよびRがそれぞれ水素原子、前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基のいずれかである−NR基(但し、RとRは同じであっても異なっていてもよい);R〜Rがそれぞれ水素原子、前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基のいずれかである−SiR基(但しR〜Rは互いに同じであっても異なっていてもよい);RおよびRがそれぞれ水素原子、ヒドロキシ基、前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基、−OR基のいずれかである−P(=O)R基(但し、RおよびRは互いに同じであっても異なっていてもよい);RおよびRがそれぞれ水素原子、ヒドロキシ基、前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基、−OR基のいずれかである−P(=S)R基(但し、RおよびRは互いに同じであっても異なっていてもよい);Rが前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基のいずれかで示される−SR基;Rが前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基のいずれかで示される−SO基などを例示することができる。
芳香族複素環上の置換基の位置は、Ar〜Ar上の任意の位置であり、置換基の数およびその組み合わせは任意である。
置換基されたAr〜Arの芳香族複素環基上の置換基として、好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、ニトロ基、前述の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基、−OR基、−C(=O)R基、−NR基、−SiR基、−P(=O)R基、−P(=S)R基、−SR基、−SO基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、飽和炭化水素基、芳香族基、−ORa基、−C(=O)R基、−NR基、−P(=O)R基、−P(=S)R基、−SR基、−SO基であり、さらに好ましくはヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基、飽和炭化水素基、芳香族基、−C(=O)R基、−NR基、−P(=O)R基、−P(=S)R基である。
【0041】
一般式(I)におけるRは二官能性有機基であり、NとNの間に介在する結合の数は12以下である。Rは以下に示す二官能性飽和炭化水素基、二官能性芳香族基、二官能性ヘテロ原子官能基から構成され、これらのうち1つをそのまま用いたもの、およびこれらを任意につなぎ組み合わせたものである。
【0042】
の二官能性飽和炭化水素基の例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、1,4−シクロへキシレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、ペンタデシレン基、オクタデシレン基などの全炭素数1〜50程度の直鎖、分岐または環状の飽和炭化水素基が例示される。
【0043】
の二官能性芳香族基は、芳香族化合物が水素原子を2個失って生じる2価の基である。ここにおける芳香族化合物とは、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ビフェニル、ビフェニレン、アセナフチレン、フェナレン、ピレン、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、1−ベンゾチオフェン、2−ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、カルバゾ−ル、キサンテン、キノリン、イソキノリン、4H−キノリジン、フェナントリジン、アクリジン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、プリン、プテリジン、ペリミジン、1,10−フェナントロリン、チアントレン、フェノキサチイン、フェノキサジン、フェノチアジン、フェナジン、フェナルサジンなどが例示される。
【0044】
の二官能性ヘテロ原子官能基として、例えば、−O−、−CO−、−NR−(Rは水素原子、前述の置換されたAr〜Ar芳香族複素環基上の置換基例中の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基のいずれかである)、−SiR−(R、Rはそれぞれ水素原子、前述の置換されたAr〜Ar芳香族複素環基上の置換基例中の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基のいずれかであり、RとRは互いに同じであっても異なっていてもよい)、−P(=O)R−(Rは水素原子、ヒドロキシ基、前述の置換されたAr〜Ar芳香族複素環基上の置換基例中の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基、−OR基のいずれかである)、−P(=S)R−(Rは水素原子、ヒドロキシ基、前述の置換されたAr〜Ar芳香族複素環基上の置換基例中の飽和炭化水素基、置換された飽和炭化水素基、芳香族基、置換された芳香族基、−OR基のいずれかである)、−S−、−SO−などが例示される。
【0045】
中の二官能性飽和炭化水素基、二官能性芳香族基は、置換されていてもよい。その置換基の例としては、前述の置換されたAr〜Ar芳香族複素環基上の置換基などを挙げることができる。これら置換基の位置は、R中の任意の位置であり、置換基の数とその組み合わせは任意である。
【0046】
特に、Rは金属原子に配位可能な官能基を含むと好ましい。該配位可能な官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、メルカプト基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、シアノ基、エーテル基、アシル基、エステル基、アミノ基、ホスホリル基、チオホスホリル基、スルフィド基、スルホニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、インドリル基、イソインドリル基、カルバゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、キノキサリル基、キナゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基などが挙げられる。
好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、シアノ基、エーテル基、アシル基、アミノ基、ホスホリル基、チオホスホリル基、スルホニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、インドリル基、イソインドリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、キノキサリル基、キナゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、シアノ基、エーテル基、アシル基、アミノ基、ホスホリル基、スルホニル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリミジル基、ピリダジル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プテリジル基などが挙げられる。上記の官能基の中で、N−H結合、O−H結合、S−H結合をもつ官能基は、金属原子に配位する際に、プロトンを放出してアニオン性となることもある。
【0047】
上記式(I)として、N−R−N鎖の好ましい例は、下記式(b−1)〜(b−4)に示される。
【0048】
【化5】

【0049】
ここで、(b−1)、(b−2)における水酸基、(b−3)のピラゾール環は、配位子として金属原子に配位する際に、プロトンを放出してアニオン性となることもある。
【0050】
一般式(I)中のR〜Rは2官能性の炭化水素基を表わし、互いに同一であっても異なっていてもよい。R〜Rの例として、前述のRと同様の二官能性飽和炭化水素基、二官能性芳香族基、置換された二官能性飽和炭化水素基、置換された二官能性芳香族基などを例示することができる。R〜Rとして、好ましくはメチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、1,2−エチレン基、1,2−フェニレン基であり、より好ましくはメチレン基、1,2−エチレン基である。
【0051】
一般式(I)で表される複核錯体を具体的に例示すると、以下のものが挙げられる。
【0052】
【化6】

【0053】
【化7】

【0054】
上記の例示の中でも、製造上の観点からc−1、c−2、c−3、およびc−4が好ましい
【0055】
上記の好適な複核錯体に係る、配位子Lを与える化合物の例としては、エリザベス・A・ルイス、およびウイリアム・B・トールマン著(Elizabeth A. Lewis and William B. Tolman)、ケミカル・レビューズ(Chem. Rev.)2004, 104, 1047中のチャート1(p.1050〜p.1051)に記載の配位子(14a,14b,14c,24a,24b,24c,24d,24e,24f,24g,24h,24i,25,26a,26b,27a,27b,28,30a,30b,30c,30d,30e,30f,30g,30h)が挙げられる。
また、該配位子Lを与える化合物として、下記式(13)で表されるbbpr配位子前駆体、下記式(14)で表されるbpypr配位子前駆体なども挙げることができる。
【0056】
【化8】

【0057】
【化9】

【0058】
上記の好適な複核錯体触媒に係る製造方法としては、配位子Lを与える化合物と、遷移金属化合物とを、溶媒中で混合する方法等を挙げることができる。配位子Lを与える化合物は、配位子Lの前駆体化合物または配位子化合物すなわち配位子Lそのものの構造で示される化合物が挙げられる。該遷移金属化合物は、該溶媒に可溶性のものが好ましい。この場合、得られる錯体触媒が溶媒に可溶性となり、電解質などの部材へ触媒を導入することが極めて容易になるので好ましい。
好ましい配位子Lの前駆体化合物としては、上記に例示されるような複核錯体に係る配位子Lの前駆体化合物が挙げられる。
好ましい該遷移金属化合物としては、溶媒に可溶性の遷移金属塩が挙げられる。
また、該錯体形成反応に、適当な塩を添加することで、錯体触媒中のカウンターイオンを添加塩由来のものに変更することも可能である。好ましい添加塩は前述の好ましいカウンターイオンを含むものである。
具体例な製造方法としては、後述のMn−bbpr、Mn−bpyprの合成法を例示することができる。以下にbbpr配位子前駆体を用いたMn−bbprの錯形成反応式を示す。
【0059】
【化10】

【0060】
該錯体触媒は、あらかじめ合成されたものを用いることができるが、反応系中で錯体触媒を形成させてもよい。
【0061】
次に本発明の触媒による過酸化物の分解方法について説明する。
本発明の過酸化物分解触媒を用いた過酸化物の分解方法においては、反応条件に特に限定はなく、前記の過酸化物分解試験の条件に限定されるものではない。
本発明の過酸化物の分解方法において、反応温度は反応混合物が液状を保つ範囲であれば特に限定されないが、45℃以上が好ましい。
【0062】
本発明の一つの好ましい実施態様は、前述の過酸化物分解触媒を用い、45℃以上で過酸化物を分解する過酸化物の分解方法である。
反応温度はさらに好ましくは45℃以上300℃以下であり、より好ましくは50℃以上250℃以下であり、特に好ましくは60℃以上200℃以下であり、最も好ましくは70℃以上150℃以下である。
【0063】
本発明の過酸化物の分解方法における触媒の使用量としては特に制限はないが、好ましい触媒の使用量は、対象の過酸化物に対して、0.00001〜50mol%(1金属原子あたり)であり、より好ましくは0.0001〜10mol%(1金属原子あたり)であり、さらに好ましくは0.01〜1mol%(1金属原子あたり)である。
【0064】
該過酸化物の分解方法において、反応の形態としては均一系でも不均一系でもよく、反応溶媒を用いてもよい。種々の溶媒で実施可能であるが、好ましくは過酸化物が溶解する溶媒であり、例えば水、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。好ましくは水、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、酢酸、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどであり、より好ましくは水、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、酢酸であり、さらに好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、酢酸である。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0065】
本発明の過酸化物分解触媒は、種々の用途に応じて、種々の担体、添加剤等を併用することや、その形状を加工することができる。用途として、高分子電解質型燃料電池や水電解装置の劣化防止剤や、医農薬や食品の抗酸化剤等が挙げられる。
【0066】
高分子電解質型燃料電池や水電解装置に該過酸化物分解触媒を用いる場合、該過酸化物分解触媒を電解質、電極、および電解質/電極界面等に導入して用いることができる。高分子電解質型燃料電池は、通常、水素を含む燃料ガスが導入される燃料極と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極と該燃料極と該酸素極との間に挟装された電解質膜からなる電解質膜電極接合体がセパレーターを介して複数個積層されて構成される。好ましい導入部位としては、酸素極および電解質/酸素極界面である。
【0067】
該触媒を電解質や、電極、および電解質/電極界面等に導入する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、該過酸化物分解触媒をフッ素系イオン交換樹脂(ナフィオン(登録商標、デュポン社製)など)などの電解質溶液に分散させたものを作成しこれを膜状に成型して電解質膜として用いる方法、該触媒を分散させた溶液を電極に塗布し乾燥させここに電解質を接合することで電解質‐電極界面に過酸化物分解触媒層を導入する方法、該触媒を分散させた溶液に電極触媒を分散させこれを乾燥させたものを電極として用いる方法等が挙げられる。
【0068】
医農薬や食品に該触媒を用いる場合、適当な担体や賦形剤を併用することができる。固形状のものとしては、例えば、乳糖、ショ糖、結晶セルロース、タルク、ステアリン酸、レシチン、塩化ナトリウム、イノシトールであり、液状のものとしては、例えば、シロップ、グリセリン、オリーブ油、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、水等が挙げられる。
【0069】
次に本発明のラジカル分析方法について説明する。本発明のラジカル分析方法とは、脂肪族ポリマーをラジカル検出剤として用い、該脂肪族ポリマーの分子量変化によりラジカルを定量することを特徴とする方法である。ラジカル分析方法は対象となる反応系にラジカル検出剤である脂肪族ポリマーを添加し、試験前後の脂肪族ポリマーの分子量を比較することで行う。
【0070】
該ラジカル検出剤として用いることができる脂肪族ポリマーとは、ポリマー主鎖中に脂肪族炭化水素構造を含むものである。その例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリホルムアルデヒド、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリヘキサメチレンアジポアミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリイソブチレンオキシド、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリ(1−ヘキセン−スルフォン)、ポリ(ビニルスルフォン)、ポリ(ビニルシラン)および任意に置換されたこれら化合物等を例示することができる。好ましくは、ポリアセチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリホルムアルデヒド、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリヘキサメチレンアジポアミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリイソブチレンオキシド、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリ(1−ヘキセン−スルフォン)、ポリ(ビニルスルフォン)、ポリ(ビニルシラン)および任意に置換されたこれら化合物であり、より好ましくは、ポリアセチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリホルムアルデヒド、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリ(1−ヘキセン−スルフォン)、ポリ(ビニルスルフォン)、ポリ(ビニルシラン)および任意に置換されたこれら化合物である。更に好ましくは、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)である。
【0071】
該脂肪族ポリマーの重量平均分子量としては、好ましくは、800から2,000,000であり、より好ましくは2,000から1,500,000であり、更により好ましくは10,000から1,000,000である。
【0072】
該ラジカル分析方法における脂肪族ポリマーの分子量評価の方法は、例えば、粘度法、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法、光分散法、NMR法などの適当な方法で行うことができる。好ましくはGPC法である。
【0073】
該ラジカル分析方法における脂肪族ポリマーの分子量評価に用いられる分子量は、例えば、重量平均分子量もしくは数平均分子量を用いることができる。好ましくは重量平均分子量である。
【0074】
該ラジカル分析方法は種々の反応系に適応することができるが、脂肪族ポリマーラジカル検出剤成分が均一系となることが望ましい。反応溶媒を用いる場合、種々の溶媒で実施可能であるが、好ましくは該脂肪族ポリマーが溶解する溶媒であり、例えば水、酸性緩衝溶液、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。好ましくは水、酸性緩衝溶液、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、酢酸、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどであり、より好ましくは水、酸性緩衝溶液、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、酢酸であり、さらに好ましくは水、酸性緩衝溶液、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、酢酸である。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0075】
該酸性緩衝溶液の例としては、クエン酸カリウム/クエン酸水溶液、クエン酸二水素カリウム/塩酸水溶液、クエン酸二水素カリウム/水酸化ナトリウム水溶液、コハク酸/四ホウ酸ナトリウム水溶液、クエン酸二水素カリウム/四ホウ酸ナトリウム水溶液、酒石酸/酒石酸ナトリウム水溶液、乳酸/乳酸ナトリウム水溶液、酢酸/酢酸ナトリウム水溶液、リン酸水素二ナトリウム/クエン酸水溶液、ホウ酸/クエン酸/リン酸三ナトリウム水溶液、塩酸/塩化カリウム水溶液、フタル酸水素カリウム/塩酸水溶液、フタル酸水素カリウム/水酸化ナトリウム水溶液、リン酸水素二カリウム/水酸化ナトリウム水溶液などを挙げることができる。好ましくはクエン酸カリウム/クエン酸水溶液、クエン酸二水素カリウム/水酸化ナトリウム水溶液、コハク酸/四ホウ酸ナトリウム水溶液、クエン酸二水素カリウム/四ホウ酸ナトリウム水溶液、酒石酸/酒石酸ナトリウム水溶液、乳酸/乳酸ナトリウム水溶液、酢酸/酢酸ナトリウム水溶液、フタル酸水素カリウム/水酸化ナトリウム水溶液、リン酸水素二カリウム/水酸化ナトリウム水溶液であり、より好ましくはクエン酸カリウム/クエン酸水溶液、クエン酸二水素カリウム/水酸化ナトリウム水溶液、コハク酸/四ホウ酸ナトリウム水溶液、クエン酸二水素カリウム/四ホウ酸ナトリウム水溶液、酒石酸/酒石酸ナトリウム水溶液、乳酸/乳酸ナトリウム水溶液、酢酸/酢酸ナトリウム水溶液である。また、該酸性緩衝溶液のpHとしては、好ましくは1.0〜6.5の範囲内であり、より好ましくは1.0〜4.5の範囲内である。
【0076】
該ラジカル分析方法では、種々のラジカルを検出することができる。例えば、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、一酸化窒素、ペルオキシナイトライト、ヒドロペルオキシラジカル、ROO・(Rは前述の置換されたAr〜Ar芳香族複素環基上の置換基例中の飽和炭化水素基、芳香族基、置換された飽和炭化水素基、置換された芳香族基)、RO・(Rは前述の置換されたAr〜Ar芳香族複素環基上の置換基例中の飽和炭化水素基、芳香族基、置換された飽和炭化水素基、置換された芳香族基)、R・(Rは前述の置換されたAr〜Ar芳香族複素環基上の置換基例中の飽和炭化水素基、芳香族基、置換された飽和炭化水素基、置換された芳香族基)などが挙げられる。好ましくは、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルオキシラジカルであり、より好ましくはヒドロキシルラジカルである。
【0077】
該ラジカル分析方法の具体例としては前述の過酸化水素分解試験などを例示することができる。
【0078】
以下、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
合成例1
下記式(13)に示されるbbpr配位子前駆体をヴィッキー・マッキー、ムルタ・ズガグリス、ジェフリー・V・ダグディギアン、マリアン・G・パッチ、クリストファー・A・リード著(Vickie Mckee, Maruta Zvagulis, Jeffrey V. Dagdigian, Marianne G. Patch, and Christopher A. Reed), ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソシエティ(J. Am. Chem. Soc.)1984, 106, 4765の記載に準じて合成した。
【0080】
【化11】

【0081】
合成例2
下式(15)に示されるMn−bbprをP・J・ペッシキ、S・V・カングローブ、D・M・ホ、およびG・C・ディスムケス著(P. J. Pessiki, S. V. Khangulov, D. M. Ho, and G. C. Dismukes)、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソシエティ(J. Am. Chem. Soc.)1994, 116, 891の記載に準じて合成した。酢酸(60.0mg、1.00mmol)を含むエタノール/水−混合溶液(25.0ml、混合体積比;(エタノール/水)=3/1)をbbpr配位子前駆体(133mg、0.184mmol)と酢酸ナトリウム(54.0mg、0.658mmol)の混合物に加え、20分間攪拌した。この溶液に酢酸マンガン(II)4水和物(74.0mg、0.302mmol)を含むエタノール(3.00ml)溶液を加え30分間攪拌し、その後、ナトリウム(トリフルオロメタンスルホン酸)(65.0mg、0.378mmol)を加え更に90分間攪拌した。攪拌終了後、エバポレーターで反応混合物を濃縮すると白色の結晶が得られた。この結晶を濾取し、水、冷メタノール、エーテルの順に洗浄した後、真空乾燥させることでMn−bbpr(156mg、0.140mmol)を得た。元素分析 C4752Mn10としての計算値:C,47.48;H.4.41;N,11.78.実測値:C,46.84;H,4.56;N,11.64.
【0082】
【化12】

【0083】
合成例3
下記式(14)で示されるbpypr配位子前駆体をMasaru Sato, Yutaka Mori, and Takeaki Iida, Synthesis 1992, 539の記載に準じて合成した。酢酸(17.1mg、0.285mmol)を含むエタノール/水−混合溶液(20.0ml、混合体積比;(エタノール/水)=3/1)をbpypr配位子前駆体(77.8mg、0.171mmol)と酢酸ナトリウム(46.2mg、0.564mmol)の混合物に加え、15分間攪拌した。この溶液に酢酸マンガン(II)4水和物(83.8mg、0.342mmol)を加え30分間攪拌し、その後、ナトリウム(テトラフェニルボレート)(117mg、0.342mmol)を加え更に60分間攪拌した。攪拌終了後、エバポレーターで反応混合物を濃縮すると白色の結晶が得られた。この結晶を濾取し、水で洗浄した後、真空乾燥させることで下式(16)で示されるMn−bbypr(114mg、0.0904mmol)を得た。ESI MS[M−BPh=941.2。
【0084】
【化13】

【0085】
【化14】

【0086】
実施例1
〔Mn−bbpr触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
Mn−bbpr(4.90mg、8.41μmol(1金属原子当り))、およびポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を2口フラスコ(25ml)に量り取り、ここに溶媒として酒石酸/酒石酸ナトリウム緩衝溶液(1.00ml(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0))とエチレングリコール(1.00ml)を加え攪拌した。これを触媒混合溶液として用いた。
この触媒混合溶液の入った2口フラスコの一方の口にセプタムを取り付け、もう一方の口をガスビュレットへ連結した。このフラスコを80℃下5分間攪拌した後、過酸化水素水溶液(11.4mol/l、0.20ml(2.28mmol))をシリンジで加え、80℃下20分間、過酸化水素分解反応を行った。発生する酸素をガスビュレットにより測定し、分解した過酸化水素を定量した。発生酸素量は、以下に示すブランク試験に基づいて補正を行った。この後、反応溶液を水/アセトニトリル混合溶液(水:アセトニトリル=7:3(v/v))で溶液量が10.0mlになるよう希釈し、この溶液をシリンジフィルターで濾過した。この濾液をGPC測定し、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量Mwを求めた。
【0087】
〔試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量の測定〕
該過酸化水素分解試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC分析を行った。分析条件を以下に示す。カラム:東ソー(株)製TSKgel α−M(13μm、7.8mmφ×30cm)、カラム温度:40℃、移動相:50mmol/l酢酸アンモニウム水溶液:CHCN=7:3(v/v)、流速:0.6ml/min、検出器:RI、注入量:50μl。重量平均分子量はポリエチレンオキサイド換算値で求めた。結果を表1に示す。
【0088】
〔試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量の測定〕
ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg,アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を水・アセトニトリル混合溶媒(10.0ml,水/アセトニトリル=7/3(v/v))に溶解し、先述のGPC条件で重量平均分子量を測定した。その結果、試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量Mw(S)は11×10であった。
【0089】
〔Aの導出〕
(式1)に従って値Aを導出した。結果を表1に示す。
【0090】
【数4】

【0091】
(式中、Mwは、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)共存下での触媒を用いた過酸化水素分解試験における、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。Mw(S)は、試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。)
【0092】
〔分解された過酸化水素の定量〕
分解された過酸化水素量は、該過酸化水素分解試験で発生する酸素体積から求めた。(式4)により、実測の発生気体体積値vは水蒸気圧を考慮した0℃,101325Pa(760mmHg)下の気体体積Vに換算した。
【0093】
【数5】

【0094】
(式中、P:大気圧(mmHg)、p:水の蒸気圧(mmHg)、t:温度(℃)、v:実測の発生気体体積(ml)、V:0℃、101325Pa(760mmHg)下の気体体積(ml)を示す。)
また、以下に示すブランク実験を行い気体体積Vの補正を行った。
【0095】
〔ブランク実験〕
ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を2口フラスコ(25ml)に量り取り、ここに溶媒として酒石酸水溶液/酒石酸ナトリウム緩衝溶液1.00ml(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0)とエチレングリコール1.00mlを加えた。この2口フラスコの一方の口にセプタムを取り付け、もう一方の口をガスビュレットへ連結した。このフラスコを80℃下5分間攪拌した後、過酸化水素水溶液(11.4mol/l、0.200ml(2.28mmol))を加え、80℃下20分間、発生する気体をガスビュレットにより定量した。溶液中に溶存している空気等が主に検出されるものと考えられる。ここで得られた体積値は、(式3)により水蒸気圧を考慮した0℃,101325Pa(760mmHg)下の条件に換算し、補正体積V(blank)とした。その結果V(blank)=2.07(ml)であった。
このブランク実験の結果より発生酸素体積V(O)を(式5)のように定義した。
【0096】
【数6】

【0097】
(式中、V(O):0℃、101325Pa(760mmHg)下の発生酸素体積(ml)、V:0℃、101325Pa(760mmHg)下の発生気体体積(ml)、V(blank):0℃、101325Pa(760mmHg)下の補正体積(ml))
この発生酸素体積V(O)より、発生酸素を理想気体とみなし発生酸素モル数N(O)を算出した。
【0098】
〔反応速度を示す値Bの導出〕
下記(式6)に基づいてB値を算出した。結果を表1に示す。
【0099】
【数7】

【0100】
(式中、N(po)は上記の過酸化水素分解試験において20分間あたりに分解される過酸化水素のモル数であり、N(O)は過酸化水素分解反応20分間あたりに発生する酸素分子のモル数であり、N(cat)は用いた触媒の1金属原子当りのモル数である。)
【0101】
実施例2
〔Mn−bpypr触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、合成したMn−bpypr(5.34mg、8.47μmol)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0102】
比較例1
〔マンガン酸化物触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、二酸化マンガン(0.800mg、9.20μmol)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(20.9mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0103】
比較例2
〔タングステン酸化物触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、三酸化タングステン(1.99mg、8.58μmol)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0104】
比較例3
〔セリウム酸化物触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、二酸化セリウム(1.48mg、8.60μmol)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.0mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0105】
比較例4
特開2004−296425号公報にはカーボン表面に配位子を介して固定化されたμ−オキソ二核鉄触媒が記載されており、二つ鉄原子に別個に配位した二つの配位原子の組み合わせにおいて、それら二つの配位原子の間に介在する結合数が最小となる構造としては、該結合数が14となる下記式(18)の構造がある。そこで、二つの配位原子の間に介在する結合数が13の組み合わせを少なくとも一つ有し、結合数が12以下の組み合わせがない下記式(19)に示すμ−オキソ鉄錯体(Fe−O)の過酸化水素分解試験を行った。
【0106】
【化15】

(Et=エチル基)
【0107】
【化16】

【0108】
〔Fe‐Oの合成〕
THF‐アセトニトリル混合溶媒(THF/アセトニトリル=2/1(v/v))150 ml中、HN(CH12NH(7.41g,37.0mmol)と3.4当量のBrCHCOEtと3.4当量のNEt(i−Pr)を混合し、60℃で3時間反応させた。溶媒を減圧除去し、反応生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=15/1)により精製することで、(EtOCCH)HN(CH12N(CHCOEt)(164mg,0.360mmol)を得た。
THF‐アセトニトリル混合溶媒(THF/アセトニトリル=2/1(v/v))10ml中、前述の(EtOCCH)HN(CH12N(CHCOEt)(164mg,0.360mmol)と1.0当量のBrCHCHOC(O)CHと1.8当量のNEt(i−Pr)2とを混合し、80℃で3週間反応させた。溶媒を減圧除去し、反応生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1)により精製することで(EtOCCHN(CH12N(CHCHOC(O)CH)(CHCOEt)(151mg,0.280mmol)を得た。ESI MS[M+H]=545.3。H NMRスペクトル(in CDCl)を図1に示す。
【0109】
得られた(EtOCCHN(CH12N(CHCHOC(O)CH)(CHCOEt)(151mg,0.280mmol)をTHF(8ml)と4mol/l HCl aq.(2ml)の混合溶媒中、70℃で一晩加熱攪拌した。この後、溶媒を減圧除去することで(HOCCHN(CH12N(CHCHOH)(CHCOH)を得た。これをそのまま次の鉄中心の導入反応に用いた。
得られた(HOCCHN(CH12N(CHCHOH)(CHCOH)全量と(NEt[FeOCl](167mg,0.280mmol)(ウイリアム・H・アームストロング、およびJ・リッパード著(William H. Armstrong and J. Lippard)、イノーガニック・ケミストリー(Inorg. Chem.)1985, 24, 981の記載に準じて合成)をアセトニトリル中で一晩攪拌した。反応溶媒を減圧除去することでFe−O(281mg,0.560mmol/Fe1原子あたり(収量のモル数は出発の(NEt[FeOCl]モル数から算出))を得た。
【0110】
〔Fe−O触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに合成したμ‐オキソ鉄モデル錯体(4.20mg,8.28μmol/Fe1原子あたり)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0111】
比較例5
〔Fe−pcy(Bu)触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、下記式(17)で示されるFe−pcy(Bu)(6.61mg、8.39μmol)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(20.8mg(アルドリッチ市販品重量平均分子量:約70,000)を共存させ実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0112】
【化17】

(Bu=ブチル基)
【0113】
比較例6
〔Cu/2,2’−ビピリジル触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、イノーガニック・ケミストリー(Inorg. Chem.)1979, 18, 1354の記載に準じて、Cu(ClO(HO)(3.12mg、8.41μmol)、および2,2’−ビピリジル(1.31mg、8.41μmol)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.0mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000))を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0114】
比較例7
〔Co/グリシン触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J. Appl. Polym. Sci)1988, 35, 1523の記載に準じて、Co/グリシン触媒の過酸化水素分解試験を行った。グリシン(408mg、5.44mmol)とTHF(3.80ml)の懸濁溶液に、CoCl(HO)(810mg、3.61mmol)を含むTHF溶液(10.0ml)をゆっくり加えた。反応混合物を7日間攪拌した後、溶媒を減圧除去した。得られた固体を酒石酸/酒石酸ナトリウム緩衝溶液(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0)を用いて、8.41μmol/mlのCo錯体水溶液を調製した。このCo錯体水溶液(1.00ml、8.41μmol)にエチレングリコール(1.00ml)を加え、ここにポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.0mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000))を溶解させた。これを触媒混合溶液として実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0115】
比較例8
〔鉄酸化物触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、Fe(0.650mg、8.41μmol/金属原子あたり)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0116】
比較例9
〔コバルト酸化物触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、Co(0.71mg、8.85μmol/金属原子あたり)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.0mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0117】
比較例10
〔リン酸セリウム触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、リン酸セリウム(2.00mg、8.41μmol/金属原子あたり)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0118】
比較例11
〔鉄フタロシアニン触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、鉄フタロシアニン(4.83mg、8.41μmol/金属原子あたり)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0119】
比較例12
〔コバルトフタロシアニン触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、コバルトフタロシアニン(4.81mg、8.41μmol/金属原子あたり)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.0mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
比較例13
〔銅フタロシアニン触媒を用いた過酸化水素分解試験〕
触媒としてMn−bbprの代わりに、銅フタロシアニン(4.78mg、8.41μmol/金属原子あたり)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
表1(表1−1〜表1−3)の結果から明らかなように、比較例1、4、および11の触媒では、B値が60以上と反応速度が大きいが、そのA値が0.20より大きくなり、フリーラジカル発生量が多かった。比較例2、3、7、10、および12における触媒は全て、A値が0.20以下でフリーラジカル発生量が少ないが、B値は60未満であり、反応速度が小さかった。比較例5、6、8、9および13の触媒はA値が0.20より大きくなり、フリーラジカルの発生量は多く、また、B値は60未満であり、反応速度は小さかった。また、比較例1〜4および8〜13の触媒は、溶媒に難溶もしくは不溶であり、不適な触媒である。以上のように、これまでの触媒は、A値が0.20以下で、かつB値が60以上の両者を満足し、なおかつ溶媒に実質的に可溶であるものではなかった。
これに対し、実施例1、2では、A値が小さく(0.20以下)、かつB値が大きい(60以上)過酸化水素を分解する卑金属触媒を提供できた。
【0122】
実施例3
〔触媒の溶解度試験〕
まずキリヤマロート用濾紙(No5B φ21m/m)を乾燥(100℃、200pa減圧下、6h)させ、これを秤量した。次に回転子を入れた8mlガラス製サンプル管に下記表2に示す各過酸化物分解触媒(20.0±0.1mg)とDMF(2.00ml)を秤り取り、マグネチックスターラーで5分間攪拌した。この混合物を、上記の乾燥させた濾紙を敷いたガラス製キリヤマロート(φ21mm)へ、2mlピペットで移し、吸引濾過した。用いたサンプル管、回転子、およびピペットをDMFで数回(全量3.00ml)で洗浄し、付着した触媒とDMF洗液を該キリヤマロートに移し、併せて吸引濾過した。この後、濾紙上の残留物と濾紙をキリヤマロートごと真空オーブンで乾燥させた(100℃、200pa減圧下、24h)。乾燥後、濾紙と濾紙上の残留物を秤量し、この重量から濾過前の乾燥濾紙重量を差し引くことでDMF中に溶け残った過酸化物分解触媒残留物の重量を求めた。これより前記(式3)で示される溶解度を算出した。結果を表2に示す。なお、表2において、触媒を何も用いなかったものを「blank」で示した。
【0123】
【表2】

【0124】
表2より、錯体触媒である、本発明例のMn−bbprとMn−bpypr、および比較例のFe−pcy(Bu)は、高い溶解度を示し、これにより高分子電解質型燃料電池や水電解装置の劣化防止剤や医農薬や食品の抗酸化剤などの部材に容易に導入することができる。一方、錯体触媒でも、比較例の触媒の鉄フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、および銅フタロシアニンは、低い溶解度を示した。また、比較例の二酸化マンガンや、タングステン酸、およびタングステン酸ナトリウム2水和物などの無機化合物もまた溶解度が低いものであった。
【0125】
実施例4
〔Mn−bbpr触媒を用いたt−ブチルヒドロペルオキシド分解試験〕
過酸化物として過酸化水素の代わりに、t−ブチルヒドロペルオキシド水溶液(70 wt%、0.20ml(1.44mmol)を用い、上記式(15)で示されるMn−bbpr(4.90mg、8.41μmol)触媒とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(20.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例1と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。GPC測定の結果Mw’から(式7)に従ってフリーラジカルの発生量に関するA’値を導出した。発生酸素量は、以下に示すブランク試験に基づいて補正を行った。結果を表3に示す。
【0126】
【数8】

【0127】
(式中、A’はフリーラジカルの発生量に関する値であり、Mw’は、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)共存下での触媒を用いたt−ブチルヒドロペルオキシド分解試験における、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。Mw(S)は、試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。)
【0128】
〔t−ブチルヒドロペルオキシド分解試験におけるブランク実験〕
過酸化物として過酸化水素の代わりに、t−ブチルヒドロペルオキシド水溶液(70 wt%、0.20ml(1.44mmol)を用い、過酸化水素分解試験と同様にブランク実験を行った。発生する気体をガスビュレットにより定量した。溶液中に溶存している空気等が主に検出されるものと考えられる。ここで得られた体積値は、(式3)により水蒸気圧を考慮した0℃,101325Pa(760mmHg)下の条件に換算し、補正体積V’(blank)とした。その結果V’(blank)=1.94(ml)であった。
このブランク実験の結果より発生酸素体積V’(O)を(式8)のように定義した。
【0129】
【数9】

【0130】
(式中、V’(O):0℃、101325Pa(760mmHg)下の発生酸素体積(ml)、V’:実測の発生気体体積(ml)を式3より換算した0℃、101325Pa(760mmHg)下の発生気体体積(ml))。結果を表3に示す。
【0131】
実施例5
〔Mn−bpyprを用いたt−ブチルヒドロペルオキシド分解試験〕
触媒として上記式(16)で示されるMn−bpypr(5.30mg、8.41μmol)を用い、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(20.1mg(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を共存させて実施例4と同様に過酸化物分解試験を行い、発生酸素の定量とポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のGPC測定を行った。結果を表3に示す。
【0132】
【表3】

【0133】
表3より、本発明の実施例4と実施例5では有意な量の酸素の発生が観測され、t−ブチルヒドロペルオキシドが良好な活性で触媒的に分解された。また、過酸化水素分解試験のA値に対応するA’値も実施例4と実施例5では0.20以下の値であり、t−ブチルヒドロペルオキシドの分解反応においても、フリーラジカル発生量は抑制されていることがわかった。
本発明の触媒を用いれば、高温下において、フリーラジカルの発生を抑制し、効率よく、しかも経済的に過酸化物を分解することができる。該触媒は溶媒に可溶である為、種々の部材への導入も容易である。また本発明においては、該触媒を用いて高温下での過酸化物の分解方法および簡便でかつ高感度のラジカルの分析方法、ならびに該触媒の製造方法をも併せて提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】比較例4における中間産物(EtOCCHN(CH12N(CHCHOC(O)CH)(CHCOEt)のNMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(式1)で表されるフリーラジカル発生量を示す値Aが0.20以下であり、かつ(式2)で表される反応速度を示す値Bが60以上である、卑金属原子を含む過酸化物分解触媒。
【数1】

(式中、Mwは、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)共存下、80℃での過酸化水素分解試験における、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。Mw(S)は、試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量である。)
【数2】

(式中、N(po)は、(式1)における過酸化水素分解試験において20分間あたりに分解された過酸化水素のモル数であり、N(cat)は用いた触媒の金属原子当りのモル数である。)
【請求項2】
溶媒に実質的に可溶であることを特徴とする請求項1に記載の過酸化物分解触媒。
【請求項3】
卑金属多核錯体を含む請求項1または2に記載の過酸化物分解触媒。
【請求項4】
卑金属原子が第一遷移元素系列の遷移金属原子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒。
【請求項5】
卑金属原子が、マンガン、鉄、コバルトおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒。
【請求項6】
卑金属原子が、マンガンである請求項1〜5のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒。
【請求項7】
下記の(i)〜(iii)の要件を満たす多核錯体を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒。
(i)2つ以上の卑金属原子を有すること、
(ii)2つ以上の配位原子をもつ配位子Lを有すること、
(iii)上記2つ以上の卑金属原子から選ばれる2つの金属原子をM、Mとし、M、Mに配位するL中の配位原子をそれぞれAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が12以下となるAM1及びAM2の組合せを有すること。
【請求項8】
一般式(I)で示される錯体を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒。
【化1】

(式中、MおよびMは卑金属原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。N〜Nは配位原子となる窒素原子である。Ar〜Arはそれぞれ窒素原子(N〜N)を有する、置換されてもよい芳香族複素環であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。Rは二官能性の有機基であり、NとNの間に介在する結合数が12以下である。R〜Rは置換されてもよい二官能性の炭化水素基を表わし、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項9】
過酸化水素を分解することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の過酸化物分解触媒。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載された過酸化物分解触媒を用い、45℃以上で過酸化物を分解することを特徴とする過酸化物の分解方法。
【請求項11】
脂肪族ポリマーをラジカル検出剤として用い、該脂肪族ポリマーの分子量変化により該ラジカルを定量することを特徴とするラジカル分析方法。
【請求項12】
請求項7に記載の過酸化物分解触媒の製造方法であって、配位子Lを与える化合物と溶媒に可溶性の遷移金属化合物を溶媒中で混合することを特徴とする過酸化物分解触媒の製造方法。
【請求項13】
配位子Lを与える化合物が配位子Lの前駆体化合物または配位子Lそのものの構造で示される化合物である請求項12記載の過酸化物分解触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−38213(P2007−38213A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177198(P2006−177198)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】