説明

遠赤外線輻射塗料

【目的】塗料の膜厚が薄くても遠赤外線輻射効果に優れ、かつ、基材との密着性に良好な遠赤外線輻射塗料を提供する。
【構成】塗料成分として、(a)平均粒径が100μm以下のセラミックス(b)ブロックイソシアネートおよび(c)樹脂を含有し、セラミックス100重量部に対して、ブロックイソシアネートと樹脂の合計量が30〜600重量部であり、かつ、ブロックイソシアネートと樹脂のの配合割合(重量比)がブロックイソシアネート/樹脂=1/10〜5/1である遠赤外線輻射塗料。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、遠赤外線輻射性に優れた塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】セラミックス材料を添加した遠赤外線輻射塗料が提案されている(特開平1−104668号、特開平3−136807号)が、これらの先行文献に開示された遠赤外線輻射塗料は、塗料として基材への接着性・固着性が低下したり、遠赤外線輻射効果が不充分である等の欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】他方、遠赤外線輻射効果を高めようとすれば、塗料におけるセラミックス粉末の含有量を増大させる必要があるが、セラミックス粉末の含有量の増大に伴って塗膜が脆くなりセラミックス粉末が脱落したり、さらには加工時に塗膜に割れを生じることがある。また、温度変化があった場合に、基材の伸びや収縮に対して塗膜に応力が不足することから、基材から塗膜が剥離することもある。このようなことから、従来の塗料ではセラミックス粉末の含有量が比較的少ない範囲に限定されていた。そこで、本発明は、遠赤外線輻射塗料においてセラミックス微粉末が高濃度で含有されているにもかかわらず、基材に対して塗料として良好な諸物性を維持し、さらに、比較的薄い膜厚でも優れた遠赤外線輻射効果を発揮することを可能とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は、塗料成分としてセラミックス及び樹脂の他にブロックイソシアネートを含有させれば、たとえ充分な遠赤外線輻射効果を得るためにセラミックスを塗料中に高含有量で配合しても、セラミックス粉末が脱落することがなく、また基材から塗膜が剥離することもない塗膜物性にすぐれた遠赤外線輻射塗料が得られることを見出した。
【0005】すなわち、本発明は、塗料成分として、(a)平均粒径が100μm以下のセラミックス(b)ブロックイソシアネートおよび(c)樹脂を含有し、セラミックス(a)100重量部に対してブロックイソシアネート(b)と樹脂(c)の合計量が30〜600重量部であり、かつ、ブロックイソシアネート(b)と樹脂(c)の配合割合(重量比)が(b)/(c)=1/10〜5/1である遠赤外線輻射塗料である。また、必要に応じて(d)顔料0.1〜30重量部を添加すれば、遠赤外線輻射塗料を任意に着色できる。そして、本発明の遠赤外線輻射塗料は、基板、フィルム等の被塗物にスプレーガン、ロールコーター等の手法を用いて塗装される。
【0006】本発明で使用されるセラミックス(a)としては、例えばSiO2 、Al23、TiO2 、ZrO2 、Fe23 、CuO、MgO、NiO、Li2O、CoO等の遠赤外線輻射性を有する焼成セラミックスが挙げられ、その平均粒径は100μm以下、より好ましくは15μm以下である。セラミックスの平均粒径が100μmを超えると均一な塗料塗膜が得られなくなったり、塗膜外観が低下することがある。これらのセラミックスは、一種若しくは二種以上で使用され、これらのうちSiO2 、Al23 およびTiO2は遠赤外線輻射効果が顕著に優れている。
【0007】本発明で使用されるブロックイソシアネート(b)は、脂肪族または芳香族ポリイソシアネート化合物をオキシム類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、ジケトン類等でブロックすれば得られる。また、これらのブロックイソシアネートは、ジブチルスズジラウレート等の触媒をブロックイソシアネート(b)と樹脂(c)の合計量に対して0.5〜2.0PHR添加することによって硬化を促進させることができる。
【0008】脂肪族または芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロジンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、これらのジイソシアネート化合物の二量体、三量体、トリメチロールプロパン等の多価アルコール若しくは水との付加物などが挙げられる。かかるイソシアネート化合物は、水酸基を有する樹脂との反応性に富み、また、セラミックス粉末に対して優れた吸着・固着特性をもつ塗料成分である。
【0009】ブロック剤としては、例えばメチルエチルケトンオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシムなどのオキシム類、m−クレゾール、キシレノールなどのフェノール類、メタノール、エタノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコール類、ε−カプロラクタムなどのラクタム類、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステルなどのジケトン類、チオフェノールなどのメルカプタン等が挙げられる。
【0010】本発明の樹脂(c)としては、イソシアネート化合物と反応しうる水酸基若しくはアミノ基を有する樹脂であり、例えば水酸基を有するポリエステル樹脂、水酸基を有するアクリル樹脂等が挙げられる。このようなポリエステル樹脂として、高分子ポリエステル、油変性ポリエステル、オイルフリーポリエステル、シリコーン変性ポリエステル樹脂等が挙げられ、市販されているものも使用できる。また、水酸基を有するアクリル樹脂として、フッ素で変性したフッ素系アクリル樹脂も使用できる。
【0011】市販されている水酸基を有するポリエステル樹脂又は水酸基を有するアクリル樹脂としては、例えばベッコライトM−6003−60〔大日本インキ社製〕、ベッコライトM−6601−60−S〔大日本インキ社製〕、バイロンGK−13CS〔東洋紡績社製〕、アロプラッツ1711〔日触アロー化学社製〕、アロセット5534−SB60〔日本触媒社製〕等を挙げることができる。これらの水酸基を有するポリエステル樹脂及び水酸基を有するアクリル樹脂は、それぞれ単独で使用することも、二種以上を混合して使用することもできる。
【0012】ここで、ブロックイソシアネート(b)と樹脂(c)の合計量は、セラミックス(a)100重量部に対して30〜600重量部であり、より好ましくは40〜300重量部である。ブロックイソシアネート(b)と樹脂(c)の合計量が30重量部未満では、塗膜中にセラミックスを固着させることが困難となり、他方、600重量部を超えると、遠赤外線輻射効果が不充分となる。また、ブロックイソシアネート(b)と樹脂(c)の配合割合(重量比)は、(b)/(c)=1/10〜5/1であり、より好ましくは1/5〜2/1である。(b)/(c)が1/10未満では、塗膜の硬化不良が生じ、他方、5/1を超えると、軟弱な塗膜となるからである。
【0013】さらに、本発明の遠赤外線輻射塗料には、顔料(d)を任意に配合することができる。顔料は、無機系着色顔料であっても、有機系着色顔料であってもよい。顔料としては、例えばフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクドリン、インダンスロン、イソインドリノン、ペリレン、アンスラピリミジン、カーボンブラック、ベンズイミダゾロン、グラファイト、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄等が挙げられる。これらの顔料は、遠赤外線輻射塗料を着色するのに有効であり、顔料(d)は、セラミックス(a)100重量部に対して0.1〜30重量部であり、より好ましくは1〜10重量部である。無機系着色顔料にあってはセラミックス(a)100重量部に対して30重量部を超えて使用すれば遠赤外線の輻射効率が低下し、また、有機系着色顔料については20重量部を超えて使用すれば遠赤外線の輻射効率が低下する。
【0014】本発明の遠赤外線輻射塗料の被塗物は限定されないが、被塗物として例えば亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板、冷延鋼板、木質板、合成樹脂板、合板、繊維板、珪酸カルシウムボード、石膏ボード、パルプセメントボード等の基板、塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、壁紙、合成樹脂製の壁紙などの被塗物が挙げられる。なお、基板はシート状のものであっも、コイル状に巻き取られたものであっても差し支えない。また、これらの基板、フィルム等にあらかじめ接着剤層が設けられておれば、天井、壁、床等の建築物に対して簡易に接着できる遠赤外線輻射塗膜層の形成された基板、フィルム等を提供することが可能となる。
【0015】本発明の遠赤外線輻射塗料を塗装する前に、錆止めのためやその後に形成される塗膜との密着性の向上を図るためなど必要に応じてあらかじめ下塗り塗料を塗装することができる。
【0016】本発明の遠赤外線輻射塗料の塗装方法は限定されないが、例えばスプレーガン、ロールコーター、カーテンフローコーター等を用いて塗装できる。遠赤外線輻射塗料の塗装された被塗物は、80〜150℃であれば10〜25分、160〜250℃であれば0.5〜20分程度乾燥すれば、被塗物の塗膜が硬化する。そして、本発明の遠赤外線輻射塗料は、セラミックス微粉末を高濃度に含有することが可能であるので、比較的薄い膜厚(乾燥塗膜として10〜30μm)でも優れた遠赤外線輻射効果がある。
【0017】
【実施例】つぎに、実施例及び比較例を掲げて本発明を説明する。表中の数字は、特に断らない限り固形分の重量(g)を示す。
【0018】セラミックス粉末の調製各セラミックス材料を計量・混合し、1000〜1400℃で焼成後、オングミルAM−15(ホソカワミクロン社製)を用いて、10μm以下、30μm以下、80μm以下になるように粉砕・分級してセラミックス粉末を得た。
【0019】配合例1〜12及び比較配合例1〜7の調製セラミックス粉末、ブロックイソシアネート、樹脂および必要に応じて顔料を配合し、さらに溶剤(シクロヘキサン/キシレン=1/1)を加えて粘度を調整した後、ロールミルを使って遠赤外線輻射塗料を得た。これらの結果を表1〜3に示す。
【0020】
【表1】


【0021】注)*1:ブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート〔コロネート2515〕(日本ポリウレタン社製)
*2:ブロックされたイソホロジンジイソシアネート〔デスモジュールTPLS2704〕(住友バイエルウレタン社製)
*3:ブロックされた4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート〔コロネート2535〕(日本ポリウレタン社製)
*4:オイルフリーポリエステル〔アルマテックスN−500(分子量3500)〕(三井東圧化学社製)
*5:オイルフリーポリエステル〔バイロンGK13CS(分子量7000)〕(東洋紡績社製)
*6:ダイヤナールHR−634(三菱レーヨン社製)
*7:三菱カーボンMA−100(三菱化成社製)
【0022】
【表2】


【0023】
【表3】


【0024】注)*8:スーパーベッカミンJ820−60(大日本インキ化学社製)
【0025】実施例1〜15および比較例1〜7試験用基板として、亜鉛メッキ鋼板(Z−25:厚み0.5mm,リン酸亜鉛処理済)およびアルミニウム板(A−50:厚み0.5mm)を用い、亜鉛メッキ鋼板には下塗り塗料として防錆顔料(ストロンチウムクロメート,菊地色素社製)20重量部、チタン顔料(R−960,デュポン社製)40重量部および体質顔料(クレー,ネオライト興業社製)40重量部をシクロヘキサノンに溶解したエポキシ樹脂(エピコート1009,シエル社製)100重量部でロール分散し、これを5μm塗装し、200℃で1分間焼付乾燥した。またアルミニウム板についてはクロム酸処理をした。これらの試験用基板に配合例1〜12及び比較配合例1〜7で調製した塗料をロールコーターまたはスプレーガンを用いて塗装し、160〜230℃で1〜20分間乾燥して15〜30μmの膜厚の乾燥塗料塗膜を得た。このように各塗料を塗装して得られた試験用基板(試料)について、折り曲げ密着性試験および碁盤目密着性試験を実施した。
【0026】1.遠赤外線輻射性試験遠赤外線輻射性試験は、ブリキ缶内部の温水の冷却時間を測定して、冷却時間の差から遠赤外線輻射性を評価する。攪拌機及び温度計を備えた4リッターのブリキ缶(厚み:0.27mm,表面積:1225cm2 )の外面に乾燥膜厚で25μmとなるように本発明の遠赤外線輻射塗料を塗装した。この缶に3800gの温水を加え、この缶を無風状態の室内(20℃)に放置して缶内の温度変化を計測した。缶内の温水が80℃から70℃になるまでの時間(分)を測った。
【0027】2.折り曲げ密着性試験遠赤外線輻射塗料を塗装した試料の折り曲げ部に、同じ塗装板2枚を挟んでから試料を180度折り曲げ、さらに折り曲げ部にセロファンテープを貼り、セロファンテープを剥離した後に折り曲げ部に剥離が生ずるか否かを観察した。折り曲げ密着性の評価◎:全く剥離していない○:ルーペで観察してはじめて塗膜の微小剥離を確認できる△:折り曲げ部の1/3未満で剥離が生じている×:折り曲げ部の1/3以上が剥離している
【0028】3.碁盤目密着性試験遠赤外線輻射塗料を塗装した試料の塗装面にカッターナイフを用いて、1mm間隔で縦、横それぞれ11本の線を引き、1mm四方の碁盤目(100個)を作成した。この碁盤目部にセロファンテープを貼り、セロファンテープを剥離した後に碁盤目部に剥離が生じているか否かを観察し、剥離せずに残存している碁盤目の数を数えた。さらに、熱変化を伴った場合における遠赤外線輻射塗料を塗装した試料の密着性を試験するために、以下に示す■〜■のサイクルを50回繰り返した。
■−20℃で1時間、■−20℃から+60℃に2時間かけて昇温、■+60℃で1時間、■+60℃から−20℃に2時間かけて降温50回の繰り返しによる熱変化試験の終了後、前記と同様に碁盤目を施した試料の碁盤目部にセロファンテープを貼り、セロファンテープを剥離した後に碁盤目部に剥離を生じているか否かを観察し、剥離せずに残存している碁盤目の数を数えた。これらの試験結果を表4〜6に示す。
【0029】
【表4】


【0030】
【表5】


【0031】
【表6】


【0032】注)*9:折り曲げ密着性は良好であるが、塗膜が軟弱となりすぎる*10:均一な塗料塗膜が形成されていない
【0033】
【発明の効果】表4〜6より明らかなように、本発明の遠赤外線輻射塗料は、比較的薄い膜厚でも遠赤外線輻射性に優れた効果を発揮する。また、本発明の遠赤外線輻射塗料は、水酸基を有する樹脂との反応性に富み、かつ、セラミックス粉末に対して優れた吸着・固着特性をもつイソシアネート成分を含有しているので、セラミックス成分を高含有量で配合しても、塗膜の密着性等塗料としての諸物性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】塗料成分として、(a)平均粒径が100μm以下のセラミックス(b)ブロックイソシアネートおよび(c)樹脂を含有し、セラミックス(a)100重量部に対してブロックイソシアネート(b)と樹脂(c)の合計量が30〜600重量部であり、かつ、ブロックイソシアネート(b)と樹脂(c)の配合割合(重量比)が(b)/(c)=1/10〜5/1である遠赤外線輻射塗料。
【請求項2】セラミックス(a)が、SiO2 、Al23 、TiO2 、ZrO2 、Fe23 、CuO、MgO、NiO、Li2O及びCoOのうちの少なくとも一種以上である請求項1記載の遠赤外線輻射塗料。
【請求項3】ブロックイソシアネート(b)が、オキシム類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類若しくはジケトン類でブロックした脂肪族または芳香族ポリイソシアネート化合物である請求項1記載の遠赤外線輻射塗料。
【請求項4】樹脂(c)が、水酸基を有するポリエステル樹脂及びアクリル樹脂のうちの少なくとも一種以上である請求項1記載の遠赤外線輻射塗料。
【請求項5】請求項1記載の塗料に、さらに、セラミックス(a)100重量部に対して(d)顔料0.1〜30重量部を含有することを特徴とする遠赤外線輻射塗料。
【請求項6】顔料(d)が、無機系着色顔料または有機系着色顔料である請求項5記載の遠赤外線輻射塗料。
【請求項7】接着剤層を有することがある基板上に、請求項1〜6の遠赤外線輻射塗料を塗装してなる遠赤外線輻射塗膜層を形成した基板。
【請求項8】接着剤層を有することがあるフィルム上に、請求項1〜6の遠赤外線輻射塗料を塗装してなる遠赤外線輻射塗膜層を形成したフィルム。
【請求項9】請求項1〜6の遠赤外線輻射塗料を被塗物にスプレーガン、ロールコーターまたはカーテンフローコーターを用いて塗装する方法。