説明

遠隔計測システム

【課題】計測対象物の位置を遠隔操作によって計測する。
【解決手段】計測対象区域外に設置した遠隔操作手段10と、搬送手段によって計測対象区域内に配置されて計測対象物の位置を遠隔操作により計測可能な遠隔トータルステーション2と、それらの間で操作信号および計測情報を伝送する通信手段11を具備する。遠隔トータルステーションによって基準点の位置を計測することにより遠隔トータルステーション自体の位置を計測する。遠隔トータルステーションを架台4に搭載してクレーンにより計測対象区域に搬送する。クレーンが備える電磁石による磁力によって架台を揚重可能とする。架台にカメラを搭載してその画像情報を通信手段により遠隔操作手段に伝送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築・土木工事分野における測量技術に関連し、特に計測対象物の位置を遠隔操作によって高精度で計測するための遠隔計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、建設・土木工事の分野においてはトータルステーションやセオドライト(トランシット)といった測量機によって各種対象物の位置を高精度で計測することが頻繁に行われており、近年においてはたとえば特許文献1に示されるように作業員の目視による視準に代えて画像処理技術を応用した高精度の自動測量を行うことも可能となっている。
【0003】
また、特許文献2にはトンネル内でのトータルステーションによる測量を遠隔操作にて行うという遠隔測量システムについての提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−2518号公報
【特許文献2】特開2001−66133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、測量に際して作業員に対して危険が及ぶ懸念があるような場合、たとえば災害発生現場において復旧作業のために測量を行うような場合においては、現地での作業員による直接的な測量を回避して安全が確保される位置からの遠隔操作により測量を行うことが望ましい場合があるが、現時点ではそのための有効適切な手法は確立されていない。
【0006】
すなわち、遠隔にて測量を行うという手法自体は特許文献2において提案されているように周知であるとはいえるが、特許文献2に示される遠隔測量システムはトンネル掘進に伴ってトータルステーションを漸次前進させていきながら計画線とのずれを判定するための測量を繰り返していくものでしかないから、そのような手法をたとえば災害現場における復旧作業の一環として各種の対象物に対する測量を広範囲にわたって実施するような場合に適用することは現実的ではないしそのまま適用できるものでもなく、それを可能とする有効適切な遠隔計測システムの開発が望まれているのが実状である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、請求項1記載の発明は、計測対象区域内における計測対象物の位置を前記計測対象区域外からの遠隔操作によって計測するためのシステムであって、前記計測対象区域外に設置した遠隔操作手段と、搬送手段によって前記計測対象区域内の所望位置に配置可能とされ、前記計測対象物に装着されたターゲットを測点としてその位置を前記遠隔操作手段からの遠隔操作により計測可能な遠隔トータルステーションと、前記遠隔操作手段と前記遠隔トータルステーションとの間で操作信号および計測情報を伝送する通信手段を具備してなることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の遠隔計測システムであって、位置情報が既知の基準点にターゲットを配置し、前記計測対象区域内に配置した前記遠隔トータルステーションによって該ターゲットを測点として前記基準点の位置を計測することにより、該基準点の位置を基準として前記計測対象区域内における前記遠隔トータルステーション自体の位置を計測可能としたことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の遠隔計測システムであって、前記搬送手段はクレーンであって、該クレーンにより揚重可能な架台に前記遠隔トータルステーションを搭載してなることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の遠隔計測システムであって、前記架台は前記クレーンが備える電磁石による磁力によって揚重可能であることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項3または4記載の遠隔計測システムであって、前記架台にカメラを搭載し、該カメラによる画像情報を前記通信手段により前記遠隔操作手段に伝送可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遠隔計測システムによれば、作業員が遠隔操作手段により通信手段を介して遠隔トータルステーションを遠隔操作することによって計測対象物の位置を遠隔操作により計測することが可能であり、したがって計測対象区域内に作業員が立ち入ることができない場合であっても各種の計測対象物の位置を安全かつ確実に計測することが可能であり、たとえば災害発生現場における復旧作業の一環として実施される構造物の施工に際して適用して好適である。
【0013】
特に、位置情報が既知の基準点を任意の位置に設定して、その基準点の位置を遠隔トータルステーションにより計測することにより、計測対象区域内における遠隔トータルステーションの位置をそれ自体で計測することが可能であり、計測対象区域が広大であるような場合であってもその全域に対する計測を支障なく行い得る。
【0014】
また、遠隔トータルステーションを架台に搭載し、その架台を搬送手段としてのクレーンにより揚重して計測対象区域内の所望位置に搬送して設置する構成とすることにより、計測対象区域内への遠隔トータルステーションの設置を計測対象区域外から支障なく行うことが可能である。
しかも、その際にクレーンが備える電磁石による磁力により架台を揚重することにより、計測対象区域内への遠隔トータルステーションの設置作業を効率的に行うことが可能である。
【0015】
また、遠隔トータルステーションを搭載する架台にはさらにカメラを搭載してその撮影画像を通信手段を介して遠隔操作手段に伝送することにより、遠隔トータルステーションの周囲の状況を監視できるし、遠隔操作による架台の設置作業の際にカメラを活用することでその作業を容易かつ確実に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の遠隔計測システムの実施形態を示すもので、システム全体の概要を示す図である。
【図2】同、架台に搭載した遠隔トータルステーションを示す図である。
【図3】同、基準点に設置するターゲットを示す図である。
【図4】同、架台の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に本発明の実施形態である遠隔計測システムの概略構成を示す。
これは、たとえば災害発生現場に復旧作業として各種の構造物を構築する際に適用されるものであるが、通常の手法によることでは作業員に高度の危険が及ぶ懸念があることからその施工全体を安全が確保される位置からの遠隔操作によって行うことを前提としており、その際に施工の一環として本発明の遠隔計測システムを適用する場合の一例を示すものである。
【0018】
すなわち、遠隔操作による構造物の施工を実現するためには、構造物を構築するための各種の部材1(図1ではたとえば梁のような長尺の構造部材として例示している)を遠隔操作によって施工位置まで正確に搬送したうえで遠隔操作により組み立て作業を行う必要があり、そのためにはその部材1の位置を遠隔操作によって刻々とかつ高精度で計測する必要があるから、本実施形態の遠隔計測システムはそのような部材1を計測対象物としてその位置を遠隔操作にて計測するためのシステムとして構成したものである。
【0019】
具体的には、作業員が立ち入ることができない危険区域を計測対象区域として設定して、その計測対象区域内の所望位置に所望台数(図示例では2台)の遠隔トータルステーション2を配置するとともに、計測対象区域外の安全区域(作業員に対する安全が確保される区域)の所望位置に遠隔操作室を設置して、そこから遠隔トータルステーション2を遠隔操作することによって計測対象区域内における部材1の位置計測を安全かつ精度良くに行うことを主眼とする。
【0020】
遠隔トータルステーション2は、たとえば特許文献2に示されているものと同様に、計測対象物である部材1に装着したターゲット3を測点としてその方向と距離を測定する測量機であるが、特許文献1に示されるように作業員の目視により視準を行うものではなく内蔵カメラによる自動視準が可能とされているものである。
【0021】
本実施形態ではその遠隔トータルステーション2を計測象区域内に配置するために、可搬性を有する架台4に遠隔トータルステーション2を搭載し、適宜の搬送手段によってその架台4を計測対象区域内の所望位置に搬送してそこに配置するようにしている。
本実施形態では搬送手段として汎用のクレーン(図示略)を用いてそのクレーンにより架台4を揚重して計測対象区域内の所望位置に配置するようにしており、そのための架台4としてはたとえば図2に示すものを用いる。
その架台4は、天板5と底板6とが3本の支柱7により連結されたフレーム状をなし、底板6の下方に3本の脚8が突出して所望位置に定置可能とされ、底板6の中心部に立設された自動整準台9の上部に遠隔トータルステーション2を設置するようにしたものである。
【0022】
一方、遠隔操作室には、遠隔トータルステーション2を遠隔操作して部材1の位置計測を行うための遠隔操作手段10が備えられ、その遠隔操作手段10と遠隔トータルステーション2との間には情報伝達のための通信手段11が備えられている。通信手段11としては無線あるいは有線による情報ネットワークが好適に採用可能である。
【0023】
遠隔操作手段10は遠隔トータルステーション2による部材1の位置計測を行ううえで必要となる全ての情報を統括して処理するためのもので、通信手段11を介して遠隔トータルステーション2を遠隔操作するのみならず、その通信手段11を介して遠隔トータルステーション2から伝送される計測情報に基づいて計測対象物である部材1の位置を演算処理してその結果をパソコン画面上に表示する機能を有し、さらに遠隔トータルステーション2を所望位置に設置するためのクレーンの遠隔操作や、構造物を施工するために必要となる一切の遠隔操作もここで行うことが可能なものである。
【0024】
したがって、作業員は遠隔操作室からの遠隔操作のみで遠隔トータルステーション2を所望位置に配置したうえで、その遠隔トータルステーション2を遠隔操作することにより部材1の位置を刻々と計測してその位置情報を監視することが可能であり、それにより部材1を所望位置に導いて所望位置に組み付けるための作業、すなわち災害復旧工事としての構造物の施工を遠隔操作のみで確実かつ効率的に実施することが可能となる。
【0025】
以上で本発明の遠隔計測視ステムの基本的な構成について説明したが、以下にさらに具体的な構成例と変形例について説明する。
【0026】
上記のような遠隔操作によって遠隔トータルステーション2による部材1の位置計測を行う際には、当然に遠隔トータルステーション2自体の位置が既知である必要があるから、遠隔ステーション2を計測対象区域に配置した時点でその遠隔トータルステーション2自体の位置を測量により計測する必要がある。
そのためには、架台4にターゲットを搭載しておいて安全区域に設置した他のトータルステーションにより架台4の位置を測量することによりその位置を求めれば良い。
【0027】
あるいは、計測対象区域が広大であるような場合において遠隔トータルステーション2の位置を安全区域からでは測量することができない場合には、図1に示すように計測対象区域内の任意の位置に基準点を設定してその基準点の位置情報を安全区域から測量により予め求めておくとともに、基準点の位置にターゲット12を設置して遠隔トータルステーション2によってそのターゲット12を測点として基準点の位置を計測することにより、基準点の既知の位置情報から遠隔トータルステーション2自体の位置を逆算して計測すれば良い。
その場合、基準点に設置するべきターゲット12はたとえば図3に示すような簡易な架台13に搭載し、その架台13を上記の架台4と同様にクレーン等の搬送手段により計測対象区域内の所望位置(但し、その位置は位置情報が既知であるか、あるいは設置後に位置情報を計測可能な位置である必要がある)に搬送すれば良い。
そして、必要に応じて基準点の位置や遠隔トータルステーション2の位置を漸次移動させたり、それらの設置数を漸次増大させていって、上記の手順を繰り返して遠隔トータルステーション2の位置をその都度計測していけば、計測対象区域が広大であってもその全区域に対する部材1の位置計測を遠隔操作のみで支障なく行うことが可能である。
【0028】
架台4には遠隔トータルステーション2のみならず、必要に応じて適宜の機器類を設置することが可能であり、特に図2に示しているように遠隔トータルステーション2の周囲に複数台(図示例では3台)のカメラ14およびその電源装置等の付属機器を搭載することが好ましく、それらのカメラ14による撮影画像を通信手段11により遠隔操作手段10に伝送することにより、架台4の設置位置の周囲各方向の状況を遠隔操作により監視することができる。
また、架台4をクレーンにより揚重して所望位置に配置する際にも、カメラ14による上方および下方の撮影画像を監視しつつクレーンを操作することにより、架台4を所望位置に確実かつ安全に配置することが可能となる。
【0029】
但し、架台4には必ずしてもカメラその他の機器を搭載する必要はなく、たとえば図4に示すように架台4をより簡略化して単に遠隔トータルステーション2のみを搭載することでも良い。
また、同じく図4に示すように、架台4にアウトリガー15を設けても良く、その場合は架台4の転倒を確実に防止し得てより安定に定置することが可能である。
また、遠隔トータルステーション2による計測に際しては自動整準台9を遠隔操作することにより遠隔トータルステーション2を水平姿勢に維持することが可能であるが、必要であれば架台4自体を水平姿勢に維持するための機構を備えておくことも考えられる。そのための機構としては、たとえば架台3が備える脚8のいずれかを遠隔操作により伸縮自在としたり、あるいは底板6からの脚8の突出長さを可変とする機構が考えられる。
いずれにしても、遠隔トータルステーション2を搭載するための架台4としては少なくとも遠隔トータルステーション2とその付属機器を搭載し得るものであれば良く、その限りにおいて架台4の形態や形状・寸法は任意に変更可能である。
【0030】
さらに、図2あるいは図4に示した架台4を計測対象区域内に設置するためには、上記実施形態のように搬送手段としてクレーンによりそれらを揚重して所望位置に搬送し配置することが現実的であり、その場合には架台4の天板5を鋼板等の磁性材により形成しておいてクレーンが備える電磁石による磁力によって架台4を揚重可能とすることが好ましく、それにより面倒かつ複雑な自動玉掛け操作を不要とすることができる。
同様に、図3に示したようなターゲット12用の架台13も鋼板による円板状として、図示例のようにその周縁部にターゲットを12を設置しておけば、架台13の中心部を電磁石による揚重点として安定な水平姿勢で揚重することが可能である。
但し、架台4,13の計測対象区域内への設置作業は必ずしもクレーンによることに限るものでもなく、計測対象区域内の所望位置に搬送できるものであれば適宜の搬送手段を用いれば良いし、さらに必要であれば架台4,13に車輪やクローラ等の走行手段とその駆動源および操舵機構を搭載して自走可能とし、架台4,13を通信手段11を介して遠隔操作したり、あるいは架台4,13自体を所望位置まで自律走行させるように構成することも考えられる。
【符号の説明】
【0031】
1 部材(計測対象物)
2 遠隔トータルステーション
3 ターゲット
4 架台
5 天板
6 底板
7 支柱
8 脚
9 自動整準台
10 遠隔操作手段
11 通信手段
12 ターゲット
13 架台
14 カメラ
15 アウトリガー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象区域内における計測対象物の位置を前記計測対象区域外からの遠隔操作によって計測するためのシステムであって、
前記計測対象区域外に設置した遠隔操作手段と、
搬送手段によって前記計測対象区域内の所望位置に配置可能とされ、前記計測対象物に装着されたターゲットを測点としてその位置を前記遠隔操作手段からの遠隔操作により計測可能な遠隔トータルステーションと、
前記遠隔操作手段と前記遠隔トータルステーションとの間で操作信号および計測情報を伝送する通信手段を具備してなることを特徴とする遠隔計測システム。
【請求項2】
請求項1記載の遠隔計測システムであって、
位置情報が既知の基準点にターゲットを配置し、前記計測対象区域内に配置した前記遠隔トータルステーションによって該ターゲットを測点として前記基準点の位置を計測することにより、該基準点の位置を基準として前記計測対象区域内における前記遠隔トータルステーション自体の位置を計測可能としたことを特徴とする遠隔計測システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の遠隔計測システムであって、
前記搬送手段はクレーンであって、該クレーンにより揚重可能な架台に前記遠隔トータルステーションを搭載してなることを特徴とする遠隔計測システム。
【請求項4】
請求項3記載の遠隔計測システムであって、
前記架台は前記クレーンが備える電磁石による磁力によって揚重可能であることを特徴とする遠隔計測システム。
【請求項5】
請求項3または4記載の遠隔計測システムであって、
前記架台にカメラを搭載し、該カメラによる画像情報を前記通信手段により前記遠隔操作手段に伝送可能としたことを特徴とする遠隔計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−40811(P2013−40811A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176761(P2011−176761)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)