説明

適切な治療を必要とする個体において心不全関連腎臓損傷を診断するための手段及び方法

本発明は、心不全に罹患している被験体において、腎臓損傷を診断する方法であって、以下のステップ:a)被験体のサンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)、及び場合によりナトリウム利尿ペプチドの量を測定するステップ;b)L-FABP/KIM-1比を形成するステップ;c)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップ;並びに腎臓損傷を診断するステップを含む方法に関する。さらに、本発明は、該方法を実施するためのデバイス及びキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は診断方法及び手段に関する。具体的には、心不全に罹患している適切な治療を必要とする個体において、腎臓損傷、好ましくは慢性腎臓損傷、より好ましくは尿細管損傷及び尿細管修復、特に慢性尿細管損傷及び慢性尿細管修復を診断する方法に関する。さらに、本発明は、該方法を実施するためのデバイス、キット、及び心不全関連腎臓損傷に罹患している患者において適切な治療を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全(HF)では、心臓は、代謝要求のために十分な血液を組織にもたらさない可能性があり、肺又は全身静脈圧の心臓関連上昇は、器官鬱血をもたらしうる。この状態は、収縮機能若しくは拡張機能、又は一般に両者の異常から生じうる。
【0003】
心臓機能が悪化するにつれ、腎血流及びGFRが低下し、腎臓内の血流が再分配される。ろ過率及びろ過されたナトリウムが低下するが、尿細管再吸収は増加し、ナトリウム及び水の滞留をもたらす。血流は運動中に腎臓からさらに再分配されるが、腎血流は休憩中に改善し、これはおそらく夜間頻尿の一因となる。
【0004】
腎臓のかん流減少は、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系を活性化し、Na及び水の滞留、並びに腎臓及び末梢血管緊張を増加させる。これらの影響は、HFに伴う強い交感神経活性化によって増幅される。
【0005】
レニン−アンジオテンシン−アルドステロン−バソプレッシン系は、一連の潜在的な長期的悪影響を引き起こす。アンジオテンシンIIは、輸出性腎臓血管収縮を含む血管収縮を引き起こすことによって、並びに、遠位ネフロンにおけるNa再吸収を増進させるだけでなく、心筋と血管のコラーゲン沈着及び線維化を引き起こすアルドステロン産生を増加させることによってHFを悪化させる。
【0006】
心血管疾患は加齢と共に増加し、50歳の人の40%近くが既に検出可能な心血管疾患を有し、75歳の人では70%に当てはまる(American Heart Association: Heart disease and Stroke statistics - 2006, update Dallas AHA 2006; Braunwald Heart disease 第8版, 第9頁, 図1-7)。
【0007】
心血管疾患には多様な原因があり、とりわけ喫煙、動脈性高血圧(脂質異常症、肥満及びインスリン抵抗性をさらに特徴とするメタボリックシンドロームと関連することが多い)である。心血管疾患は、50歳の全ての人の1.5%に、そして75歳の人の約10%に見られる心不全を引き起こしうる(American Heart Association, Heart Disease and Stroke Statistics 2003, update Dallas AMA 2002)。
【0008】
心不全は、腎臓損傷又は腎障害を引き起こしうる。腎臓損傷の最初の兆候は、簡単なディップスティックによって評価できる尿中のタンパク質の存在である(ミクロアルブミン尿又はマクロアルブミン尿)。正確性を欠くことは認めるが、腎障害に関して今まで使用されている最も一般的な検査は、依然としてクレアチニンである。
【0009】
心不全に罹患している被験体における腎臓損傷の初期の同定が強く望まれている。
【0010】
腎機能は糸球体ろ過率(GFR)によって評価することができる。例えば、GFRはCockgroft-Gault又はMDRDの式によって計算することができる(Levey 1999, Annals of Internal Medicine, 461-470)。GFRは単位時間当たりの腎糸球体毛細血管からボーマン嚢にろ過される液体の体積である。臨床上、これを使用して腎機能を判定することが多い。GFRは、血漿にイヌリンを注射することによって元々は推定された(GFRは決して測定することができない。Cockgroft Gaultの式又はMDRDの式などの式から導かれる全ての計算値は、「真の」GFRではなく推定値のみをもたらす)。イヌリンは糸球体ろ過後に腎臓によって再吸収されないので、その排泄率は、糸球体フィルタを介した水及び溶質のろ過率に正比例する。しかしながら、臨床実務では、クレアチニン・クリアランスを使用してGFRを測定する。クレアチニンは、糸球体によって自由にろ過される(ただし腎尿細管によって非常に少量分泌もされる)体内で合成される内因性分子である。従ってクレアチニン・クリアランス(CrCl)はGFRの近似値である。GFRは典型的には1分間当たりのミリリットル(mL/分)で記録する。男性に関するGFRの正常範囲は97〜137mL/分であり、女性に関するGFRの正常範囲は88〜128mL/分である。
【0011】
GFRは、腎臓の水と溶質のろ過能力の指標である。GFRの低下は(例えば壊死過程によって)腎臓組織が損失した場合に生じる。GFRは、特定の腎障害、例えば尿細管損傷の指標ではない。尿細管損傷はGFRが正常な場合でも存在しうる。
【0012】
腎臓損傷の最初の兆候の1つは、簡単なディップスティックによって評価できる尿中のタンパク質の存在である(ミクロアルブミン尿又はマクロアルブミン尿)。正確性を欠くことは認めるが、今まで使用されている最も一般的な検査は、依然としてクレアチニンである。
【0013】
Dammanら(Eur. J. of Heart Failure10 (2008), 997-1000)の研究は、尿細管損傷のマーカーである尿中の好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)が慢性心不全(CHF)を有する患者で増加することを示す。CHF患者では、糸球体ろ過率(GFR)が低下しているが、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-ProBNP)レベルは上昇していた。
【0014】
Del Vecchioら(Nature clinical Practice Nephrology 3, (2007), 42-48)は、腎臓損傷におけるアルドステロンの役割について報告する。実験的証拠は、アルドステロンが腎損傷の一因であることを示唆する。アルドステロン注入は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬による治療の有益な効果を弱める可能性があり、より重度のタンパク尿、及び血管と糸球体の病変数の増加を引き起こす。アルドステロン拮抗薬での処置は、これらの変化を無効にすることができる。
【0015】
Remuzziら(Kidney International, Vol. 68, Supplement 99 (2005), S57-S65)は、慢性腎疾患の進行におけるレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)の役割を研究した。アンジオテンシンIIは腎損傷の促進の一因となる。ACE阻害薬又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬を併用して、RAAS阻害を最大限にし、より効率よく糖尿病及び非糖尿病性腎疾患におけるタンパク尿及びGFR低下を弱めることができる。アルドステロン拮抗薬を用いた付加療法は腎臓保護(renoprotection)をさらに増強しうる。
【0016】
Kolleritsらの研究によると、血清中のアディポネクチンは、メタボリックシンドロームに伴う慢性腎疾患の進行の、性別特異的な独立した予測因子として機能しうるという証拠がある(Kolleritsら (2007), Kidney Int. 71(12):1279-86)。尿中のアディポネクチンの役割は研究されなかった。
【0017】
Kamijoら(Urinary liver-type fatty acid binding protein as a useful biomarker in chronic kidney disease. Mol. Cell Biochem. 2006; 284)は、L-FABPの尿排泄が、尿細管間質性障害を引き起こす様々な種類のストレスを反映しうること、そして慢性腎疾患の進行の有用な臨床マーカーでありうることを報告した。
【0018】
Van Timmerenら(J. Pathol 2007; 212:209-217)は、尿細管の腎臓損傷分子1(KIM-1)が腎疾患ではアップレギュレートされ、腎線維化及び炎症と関連することを報告した。さらに、尿中KIM-1は組織中KIM-1を反映し、これは腎疾患の非侵襲的バイオマーカーとして使用できることを示している。尿中バイオマーカーとしてのKIM-1の1つの利点は、その発現が機能不全の腎臓に限定されるようであるという事実である(P. Devarajan, Expert Opin. Med, Diagn, (2008) 2(4):387-398)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】American Heart Association: Heart disease and Stroke statistics - 2006, update Dallas AHA 2006
【非特許文献2】Braunwald Heart disease 第8版, 第9頁, 図1-7
【非特許文献3】American Heart Association, Heart Disease and Stroke Statistics 2003, update Dallas AMA 2002
【非特許文献4】Levey 1999, Annals of Internal Medicine, 461-470
【非特許文献5】Dammanら, Eur. J. of Heart Failure10 (2008), 997-1000
【非特許文献6】Del Vecchioら, Nature clinical Practice Nephrology 3, (2007), 42-48
【非特許文献7】Remuzziら, Kidney International, Vol. 68, Supplement 99 (2005), S57-S65
【非特許文献8】Kolleritsら, (2007), Kidney Int. 71(12):1279-86
【非特許文献9】Kamijoら, Mol. Cell Biochem. 2006; 284
【非特許文献10】Van Timmerenら, J. Pathol 2007; 212:209-217
【非特許文献11】P. Devarajan, Expert Opin. Med, Diagn, (2008) 2(4):387-398
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、心不全に罹患している適切な治療を必要とする個体において、腎臓損傷、特に尿細管損傷を診断する信頼できる方法はまだ記載されていない。
【0021】
本発明の根底にある技術的課題は、上述のニーズに応じるための手段及び方法の提供として理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この技術的課題は、特許請求の範囲及び以下本明細書中に記載される実施形態によって解決される。
【0023】
従って、本発明は、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、該被験体のサンプル中で測定された、好ましくは該被験体の尿サンプル中で測定された、肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量の、少なくとも1つの参照量との比較に基づいて、腎臓損傷を診断又は検出する方法に関する。
【0024】
本発明の方法は、以下のステップ:a)被験体のサンプル、好ましくは尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、好ましくは尿中肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定するステップ;b)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップを含んでよい。腎疾患の診断は、ステップb)で得られた情報に基づいて、好ましくはa)及びb)で得られた情報に基づいて確定することができる。
【0025】
従って、本発明は、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、腎臓損傷を診断又は検出する方法であって、以下のステップ:
a)被験体の尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定するステップ;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップ;並びに
c)ステップb)の比較に基づいて、腎臓損傷を診断するステップ
のうち少なくとも1つを含む、前記方法に関する。
【0026】
また、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において腎臓損傷を診断又は検出する方法であって、以下のステップ:
a)被験体の尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定するステップ;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップ
を含み、それにより腎臓損傷が診断され、あるいは測定された量の参照量との比較が腎臓損傷に罹患している患者の指標となる、前記方法が提供される。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、随意の前記ステップaa)から比較のステップb)では、L-FABP/KIM-1比が形成される。次いで、随意のステップaa)で形成された比に基づいて、腎臓損傷が診断又は検出される。
【0028】
本発明のさらに好ましい実施形態において、ナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を、被験体のサンプル中で、一般に血清サンプル中で測定する。この付加的ステップは、好ましくは、各被験体が心不全に罹患していることが疑われる場合に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】心不全を有する患者におけるL-FABP対KIM-1のプロットである。図1は、両マーカーは相関しないことを示し、すなわち尿細管修復の程度は尿細管損傷と一致しない。
【図2】NT-proBNP対L-FABP/KIM-1比のプロットである。図2は、両値がある程度相関するが、個人差があることを示し、これはNT-proBNP値の上昇は必ずしも尿細管損傷/修復を伴わないことを意味する。
【図3】ACE阻害薬を投与した心不全を有する患者及びアルドステロン拮抗薬も投与した下位群についてのNT-proBNP対L-FABPのプロットである。図3は、アルドステロン拮抗薬投与後に尿細管損傷が低下することを示す。
【図4】ACE阻害薬を投与した心不全を有する患者及びアルドステロン拮抗薬も投与した下位群についてのNT-proBNP対KIM-1のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の方法は、好ましくはインビトロ法である。さらに、上に明確に記載したステップの他にステップを含んでよい。例えば、さらなるステップは、サンプルの前処理又は該方法によって得られた結果の評価に関しうる。
【0031】
本明細書で用いる診断は、被験体が本明細書に記載の疾患に罹患している確率を評価することを意味する。当業者は理解するであろうが、このような評価が、診断対象の被験体の100%について正確であることは通常意図されない。しかしながら、この用語は、被験体の統計的に有意な一部が前記疾患に罹患していることを診断可能である(例えばコホート研究におけるコホート)ことを要する。当業者であれば、他に苦労なく種々の周知の統計的評価ツールを用いて、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定などを行って、一部が統計的に有意であるかどうかを決定することが可能である。詳細な内容は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見い出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。
【0032】
本明細書で用いる診断は、好ましくは、関連疾患を分析し、適切な場合にはモニタリングすることを意味する。特に、診断は、器官の特定の部分、例えば腎臓の糸球体及び細管、特に細管の病理を分析すること、並びに特に細管の損傷及び修復の程度を推定することを意味する。モニタリングは、特に疾患の進行を分析するために、又は疾患の進行に対する特定の治療の影響を分析するために、既に診断された疾患の経過を追うことに関する。最も好ましくは、診断は、腎臓における細管の病理を分析し、細管における損傷及び修復の程度を推定することを意味する。
【0033】
本明細書で用いる「被験体」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。しかし、本明細書中で以下に記載されるように、被験体は、心不全に罹患しているか、又は少なくとも心不全に罹患していることが疑われるものであることが、本発明において想定される。心不全及び腎臓損傷を除いて、被験体は、好ましくは、特に腎臓機能(血清クレアチニンについての上限に基づく)に関して見かけ上健康である。
【0034】
「腎臓損傷」、「腎疾患」又は「腎障害」という用語は当業者に周知である。
【0035】
これに関連して、「腎障害」という用語は、好ましくは腎臓の任意の機能不全、又は老廃物除去及び/若しくは限外ろ過に関する腎臓の能力に影響を及ぼす任意の機能不全、特に、当業者に公知な方法、好ましくはGFR及び/又はクレアチニン・クリアランスによって測定される腎臓機能の任意の障害に関すると考えられる。腎障害の例には先天性障害及び後天性障害がある。先天性腎障害の例には、先天性水腎症、先天性尿路閉塞、重複尿管、馬蹄腎、多発性嚢胞腎、腎形成不全、片側性小腎がある。後天性腎障害の例には、糖尿病性又は鎮痛薬性腎症、糸球体腎炎、水腎症(尿流の閉塞によって引き起こされる腎臓の片側又は両側の肥大)、間質性腎炎、腎臓結石、腎腫瘍(例えば、ウィルムス腫瘍及び腎細胞癌)、ループス腎炎、微小変化型疾患、ネフローゼ症候群(糸球体が損傷し、血中の多量のタンパク質が尿に入る。ネフローゼ症候群の他の頻発する特徴には、腫れ、低血清アルブミン及び高コレステロールがある)、腎盂腎炎、腎不全(例えば、急性腎不全及び慢性腎不全)がある。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、「腎臓損傷」及び「腎疾患」という用語は、腎臓の任意の機能不全、又は老廃物除去及び/若しくは限外ろ過に関する腎臓の能力に影響を及ぼす任意の機能不全、特に、当業者に公知な方法、好ましくはGFR及び/又はクレアチニン・クリアランスによって測定される腎臓機能の任意の障害を除外する。前記用語は、特に、先天性水腎症、先天性尿路閉塞、重複尿管、馬蹄腎、多発性嚢胞腎、腎形成不全、片側性小腎、糖尿病性腎症又は鎮痛薬性腎症、糸球体腎炎、水腎症、間質性腎炎、腎臓結石、腎腫瘍(例えば、ウィルムス腫瘍及び腎細胞癌)、ループス腎炎、微小変化型疾患、ネフローゼ症候群(腫れ、低血清アルブミン、及び高コレステロール)、腎盂腎炎、腎不全、特に急性腎傷害(急性腎不全)及び慢性腎疾患(慢性腎不全)並びに心腎症候群を除外する。「腎臓損傷」及び「腎疾患」という用語は、特に、場合により尿細管修復を伴う尿細管損傷を意味する。場合により尿細管修復を伴う尿細管損傷は、本発明において「進行性尿細管疾患」とも称される。本発明において、心不全に罹患しているか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体を診断するため、尿細管損傷及び/又は尿細管修復は、「心不全関連腎臓損傷」とも称される。
【0037】
当業者に公知な手段によって腎障害を診断することができる。特に、糸球体ろ過率(GFR)によって腎機能 (renal function)(本発明において「腎臓機能 (kidney function)」と互換的に用いられる)を評価することができる。例えば、GFRはCockgroft-Gault又はMDRDの式によって計算することができる(Levey 1999, Annals of Internal Medicine, 461-470)。GFRは単位時間当たりの腎糸球体毛細血管からボーマン嚢にろ過される液体の体積である。臨床上、これを使用して腎機能を判定することが多い。GFRは、血漿にイヌリンを注射することによって元々は推定された(GFRは決して測定することができない。Cockgroft Gaultの式又はMDRDの式などの式から導かれる全ての計算値は、「真の」GFRではなく推定値のみをもたらす)。イヌリンは糸球体ろ過後に腎臓によって再吸収されないので、その排泄率は、糸球体フィルタを介した水及び溶質のろ過率に正比例する。しかしながら、臨床実務では、クレアチニン・クリアランスを使用してGFRを測定する。クレアチニンは、糸球体によって自由にろ過される(ただし腎尿細管によって非常に少量分泌もされる)体内で合成される内因性分子である。従ってクレアチニン・クリアランス(CrCl)はGFRの近似値である。GFRは典型的には1分間当たりのミリリットル(mL/分)で記録する。男性に関するGFRの正常範囲は97〜137mL/分であり、女性に関するGFRの正常範囲は88〜128mL/分である。
【0038】
GFRは、腎臓の水と溶質のろ過能力の指標である。GFRの低下は(例えば壊死過程によって)腎臓組織が損失した場合に生じる。GFRは、特定の腎障害、例えば尿細管損傷の指標ではない。尿細管損傷はGFRが正常な場合でも存在しうる。
【0039】
腎障害の最初の兆候の1つは、簡単なディップスティックによって評価できる尿中のタンパク質の存在である(ミクロアルブミン尿又はマクロアルブミン尿)。正確性を欠くことは認めるが、今まで使用されている最も一般的な検査は、依然としてクレアチニンである。
【0040】
慢性腎疾患(CKD)及び急性腎傷害(AKI)は当業者に公知であり、GFR又はクレアチニン・クリアランスによって測定される腎不全を意味するものと一般に認識されている。
【0041】
CKDは、数ヶ月又は数年にもわたって悪化しうる腎機能の喪失として知られている。腎機能の悪化の兆候は明確ではない。CKDでは糸球体ろ過率が有意に低下し、その結果、水と溶質のろ過によって腎臓が老廃物を排泄する能力が低下する。クレアチニンレベルは、初期のCKDでは正常でありうる。CKDは可逆的ではない。CKDの重症度は5段階に分類される。ステージ1は最も軽度であり、通常ほとんど症状を引き起こさない。ステージ5は、短い平均余命を含む重度の疾患を構成し、末期腎疾患(ESRD)、慢性腎不全(chronic kidney failure、CKF)又は慢性腎不全(chronic renal failure、CRF)とも称される。
【0042】
以前、急性腎不全(ARF)とも称されていた急性腎傷害(AKI)は、低血液量及び毒素への暴露を含む様々な理由から生じうる腎臓機能の急速な喪失である。CKDとは反対に、AKIは可逆的でありうる。AKIはクレアチニンレベル、血中尿素窒素(BUN)などの尿中の指標、尿沈渣の発生に基づいて診断されるが、病歴に基づいても診断される。血清クレアチニンの進行性の日々の上昇はARFに特徴的であると考えられている。
【0043】
本発明において用いる「心腎症候群」という用語は(「CRS」ともいう)、Roncoら, Intensive Care Med. 2008, 34, 第957-962頁及びJ. Am. Coll. Cardiol. 2008, 52, p. 1527 - 1539によって確立された定義の意味で理解されたい。従ってCRSは、最も広義では、心臓及び腎臓の病態生理学的障害を意味し、それにより前述の器官の一方の急性又は慢性機能不全が他方の器官の急性又は慢性機能不全を誘発しうる。最も簡単なCRSの説明は、比較的正常な腎臓が疾患のある心臓のために機能不全に陥っているということであり、心臓が健康な場合には同じ腎臓が正常に機能すると推測される。CRSには5つのサブタイプが存在する。CRSタイプ1は心臓機能の急速な悪化(例えば、急性心原性ショック又は非代償性鬱血性心不全)を示し、急性腎傷害をもたらす。CRSタイプ2は、心臓機能の慢性異常(例えば、慢性鬱血性心不全)を含み、進行性慢性腎疾患を引き起こす。CRSタイプ3は、腎機能の急速な悪化(例えば、急性腎虚血又は糸球体腎炎)からなり、急性心機能障害(例えば、心不全、不整脈、虚血)を引き起こす。CRSタイプ4は、慢性腎疾患の状態(例えば、慢性糸球体疾患)を意味し、心機能の低下、心臓肥大、及び/又は心血管有害事象のリスクの増加の一因となる。
【0044】
本発明における「尿細管損傷」という用語は、心不全の結果としての、尿細管細胞における上皮傷害を意味する。本発明は、好ましくは慢性尿細管損傷に関する。尿細管損傷では、尿細管細胞は心不全後に虚血性であると考えられているが、尿細管は腎臓全体において又は少なくともほぼ全ての部分若しくは大部分において機能を保持しているとも考えられている。このことは、腎機能が損なわれていないか、又はわずかしか損なわれていないため、CKD又はAKIは当技術分野で公知の方法、すなわちGFR及び/又はクレアチニン・クリアランスによって診断されない、又は診断することができないことを意味する。尿細管損傷では、尿細管細胞は、一般に壊死により機能不全になり、死滅しうる。しかし、尿細管上皮再生は虚血後及び壊死後でさえ可能であり、本発明において「尿細管修復」と称される。本発明は、好ましくは慢性尿細管傷害に関するため、同様に、慢性尿細管修復又は慢性尿細管損傷からの尿細管修復に関する。
【0045】
本発明において、「見かけ上健康」という用語は、当業者に公知であり、潜在する腎障害の明らかな兆候を示さない被験体を意味する。この障害は、本明細書において、特にGFRに関して、例えばクレアチニン・クリアランスに基づき、特にその上限に基づき、腎臓機能が損なわれている。従って被験体は、上に記載したように、腎臓機能の障害に罹患している可能性があるが、明らかな兆候を示さないため、腎臓機能の障害は医師による詳細な診断検査なしでは診断又は評価することができない。特に、専門医(ここでは腎臓専門医)による診断が、腎臓機能の障害の明らかな兆候を示さない見かけ上健康な被験体において、腎臓機能の障害を診断するのに必要である。
【0046】
従って、本発明において用いる「見かけ上健康」という用語は、腎臓機能の障害(すなわち腎臓の機能不全)の明らかな兆候を示さない、又は腎臓機能の障害(すなわち腎臓の機能不全)を有さない個体に限定される。しかしながら、見かけ上健康な個体は、本発明において理解されるように、腎臓機能が損なわれない、又は各疾患の初期には腎臓機能が損なわれないが、腎臓機能の障害をもたらす可能性がある1つ以上の腎臓の病態生理学的状態に罹患していてもよい。個体は、ミクロアルブミン尿、アルブミン尿及び/又はタンパク尿及び/又はそれらに随伴する任意の病態生理学的状態に罹患していてもよい。個体はまた、糸球体損傷及び/又はそれに随伴する任意の病態生理学的状態に罹患していてもよい。これらの病態生理学的状態は、当業者に公知であり、糸球体症候群(好ましくは急性腎炎症候群、特に糸球体腎炎、腎症;ネフローゼ症候群、特に微小変化型疾患、糸球体硬化症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症;及び糸球体血管症候群、特にアテローム動脈硬化性腎症、高血圧性腎症)に伴う疾患を含む。
【0047】
本明細書で用いる「心不全」という用語は、心臓の収縮及び/又は拡張機能が損われていることを意味する。好ましくは、本明細書に記載される心不全は慢性心不全でもある。心不全はNew York Heart Association(NYHA)に従って機能分類系に分類することができる。NYHAクラスIの患者は心血管疾患の明確な症状はないが、既に機能障害の客観的証拠がある。身体活動に制限はなく、通常の身体活動を行っても過度の疲労、動悸又は呼吸困難(息切れ)を引き起こさない。NYHAクラスIIの患者は身体活動にわずかに制限がある。これらの患者は安静時は快適であるが、通常の身体活動で疲労、動悸又は呼吸困難を生じる。NYHAクラスIIIの患者は身体動作に著しい制限が認められる。これらの患者は安静時は快適であるが、通常以下の身体活動で疲労、動悸又は呼吸困難が生ずる。NYHAクラスIVの患者は不快感なしにいずれの身体活動も行うことができない。これらの患者は安静時でも心臓の機能不全の症状を示す。心不全、すなわち心臓の収縮及び/又は拡張機能の障害は、例えば心エコー検査、血管造影、シンチグラフィー又は磁気共鳴映像法により決定することも可能である。この機能障害は、上述したような心不全の症状を伴いうる(NYHAクラスII〜IV)が、一部の患者は顕著な症状がないことがある(NYHA I)。さらに、心不全は左心室駆出分画率(LVEF)の低下によっても明らかである。より好ましくは、本明細書で用いる心不全は、60%未満、40%〜60%、又は40%未満の左心室駆出分画率(LVEF)を伴う。
【0048】
「肝臓型脂肪酸結合タンパク質」(L-FABP)という用語は、FABP1と呼ばれることも多く、また本明細書において肝臓脂肪酸結合タンパク質とも称するが、肝臓型脂肪酸結合タンパク質であるポリペプチド、及びその変異体に関する。肝臓型脂肪酸結合タンパク質は、ヒトの腎臓の近位尿細管において発現される遊離脂肪酸の細胞内運搬タンパク質である。ヒトL-FABPの配列については、例えばChanら: Human liver fatty acid binding protein cDNA and amino acid sequence, Functional and evolutionary implications, J. Biol. Chem. 260 (5), 2629-2632 (1985)又はGenBankアクセッション番号M10617.1を参照のこと。
【0049】
L-FABPは、好ましくは各被験体の尿サンプル中で測定され、本発明において「尿中肝臓型脂肪酸結合タンパク質」又は「尿中」L-FABPとも称されうる。
【0050】
「L-FABP」という用語は、L-FABP、好ましくはヒトL-FABPの変異体をも包含する。そのような変異体は、少なくとも、L-FABPと同一の本質的な生物学的及び免疫学的性質を有し、すなわち、遊離脂肪酸及び/若しくはコレステロール及び/若しくはレチノイドに結合し、並びに/又は細胞内脂質輸送に関与する。特に、それらは、本明細書において記載する同一の特定のアッセイ、例えばL-FABPを特異的に認識するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイで検出可能な場合には、同一の本質的な生物学的及び免疫学的性質を有する。さらに、本発明に関して記載する変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失及び/若しくは付加によって異なるアミノ酸配列を有しており、その際、該変異体のアミノ酸配列は、ヒトL-FABPのアミノ酸配列と、好ましくはヒトL-FABPの全長にわたって、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を依然として有することが理解されるであろう。同一性の程度を決定する方法は本明細書の他の箇所に記載されている。変異体は、アレル変異体、又は他の任意の生物種特異的なホモログ、パラログ若しくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書において記載する変異体は、L-FABP又は上述のタイプの変異体の断片を、それらの断片が上述の本質的な免疫学的及び生物学的性質を有するものである限り、含んでいる。そのような断片は、例えばL-FABPの分解産物であってよい。さらに、翻訳後修飾、例えばリン酸化又はミリスチル化により異なる変異体が含まれる。「L-FABP」という用語は、好ましくは、心臓FABP、脳FABP及び腸FABPを含まない。
【0051】
「ナトリウム利尿ペプチド」という用語は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide、ANP)型及び脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide、BNP)型のペプチド、並びに同一の予測潜在性を有するそれらの変異体を含む。本発明においてナトリウム利尿ペプチドはANP型及びBNP型のペプチドとそれらの変異体を含む(例えば、Bonow, 1996, Circulation 93: 1946-1950を参照)。ANP型ペプチドはpre-proANP、proANP、NT-proANP、及びANPを含む。BNP型ペプチドはpre-proBNP、proBNP、NT-proBNP、及びBNPを含む。プレプロペプチド(pre-proBNPの場合には134アミノ酸)は、短いシグナルペプチドを含んでおり、これは酵素的に切断されてプロペプチドを放出する(proBNPの場合は108アミノ酸)。このプロペプチドはN末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-proBNPの場合には76アミノ酸)及び活性ホルモン(BNPの場合には32アミノ酸、ANPの場合には28アミノ酸)にさらに切断される。ANP及びBNPは、血管拡張作用を有し、尿路を介した水とナトリウムの排泄を引き起こす。本発明においてナトリウム利尿ペプチドは、好ましくはNT-proANP、ANPであり、より好ましくはNT-proBNP、BNP、及びそれらの変異体である。ANP及びBNPは活性ホルモンであり、それらの各不活性型であるNT-proANP及びNT-proBNPよりも半減期が短い。BNPは血中で代謝されるのに対して、NT-proBNPは無傷の分子として血中を循環し、そのまま腎臓で排泄される。NT-proBNPのインビボ半減期は120分であり、BNPの半減期(20分)よりも長い(Smith 2000, J Endocrinol. 167: 239-46)。分析前(preanalytics)はNT-proBNPの方がより強固であり、サンプルの中央検査所までの輸送が容易になる(Mueller 2004, Clin Chem Lab Med 42: 942-4)。血液サンプルは室温で数日間保管することができ、あるいは回収の損失なく郵送若しくは輸送することができる。これに対して、BNPを室温で又は4℃で48時間保管すると濃度は少なくとも20%失われる(Mueller, 上掲;Wu 2004, Clin Chem 50: 867-73)。従って、目的の時間経過又は性質に依存して、ナトリウム利尿ペプチドの活性型又は不活性型のいずれかの測定が有利でありうる。
【0052】
本発明において最も好ましいナトリウム利尿ペプチドはNT-proBNP又はその変異体である。上に簡潔に記載したように、本発明において記載されるヒトNT-proBNPは、好ましくはヒトNT-proBNP分子のN末端部分に対応する76アミノ酸長を含むポリペプチドである。ヒトBNP及びNT-proBNPの構造は既に詳細に先行技術、例えばWO 02/089657号、WO 02/083913号、又はBonow, 上掲に記載されている。好ましくは、本明細書で用いるヒトNT-proBNPは、EP 0 648 228 B1に開示されているヒトNT-proBNPである。これらの先行技術文献は、これらの文献に開示されるNT-proBNP及びその変異体の具体的な配列に関して、参照により本明細書に援用される。本発明において記載されるNT-proBNPは、上で説明したヒトNT-proBNPについての前記特定の配列のアレル変異体及び他の変異体をさらに包含する。具体的には、ヒトNT-proBNPと、好ましくはヒトNT-proBNPの全長にわたって、アミノ酸レベルで好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を有する変異体ポリペプチドが想定される。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、当技術分野で周知のアルゴリズムによって決定できる。好ましくは、同一性の程度は2つの最適にアライメントした配列を比較ウインドウにわたって比較することにより決定され、その際、比較ウインドウ中のアミノ酸配列の断片は最適なアライメントのために、参照配列(付加又は欠失を含んでいない)と比較して付加又は欠失(例えば、ギャップ又はオーバーハング)を含んでいてもよい。パーセンテージは2つの配列の双方で同一のアミノ酸残基が存在する位置の数から一致している位置の数を求め、一致している位置の数を比較ウインドウ中の位置の総数で除し、その解に100を乗じて、配列同一性のパーセンテージを得ることにより算出される。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith及びWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム(Add. APL. Math. 2:482(1981))によって、Needleman及びWunschのホモロジーアライメントアルゴリズム(J. Mol. Biol. 48:443(1970))によって、Pearson及びLipmanの類似性探索法(Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 85:2444(1988))によって、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group(GCG), 575 Science Dr., Madison, WI中のGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA)によって、又は目視による検討により行うことができる。比較のために2つの配列が同定されている場合は、GAP及びBESTFITを用いてそれらの最適なアライメントを決定することによって、同一性の程度を求めることが好ましい。好ましくは、ギャップウエイトについてのデフォルト値5.00及びギャップウエイトレングスについてのデフォルト値0.30を使用する。上記変異体は、アレル変異体、又は他の任意の生物種特異的なホモログ、パラログ若しくはオルソログであってもよい。診断手段によって、又は各全長ペプチドに対するリガンドによって依然として認識されるタンパク質分解産物は、実質的に類似しており、それらもまた想定される。ヒトNT-proBNPのアミノ酸配列と比べて、アミノ酸欠失、置換、及び/又は付加を有する変異体ポリペプチドも、該ポリペプチドがNT-proBNPの性質を有する限り、包含される。本明細書において記載されるNT-proBNPの性質は免疫学的及び/又は生物学的性質である。好ましくは、NT-proBNP変異体は、NT-proBNPと同等の免疫学的性質(すなわちエピトープ組成)を有する。従って、この変異体は、上述の手段又はナトリウム利尿ペプチドの量の測定に用いるリガンドによって認識可能なものである。NT-proBNPの生物学的及び/又は免疫学的性質は、Karlら(Karl 1999, Scand J Clin Invest 230:177-181)、Yeoら(Yeo 2003, Clinica Chimica Acta 338:107-115)に記載されるアッセイによって検出可能である。また、変異体にはグリコシル化ペプチドなどの翻訳後修飾されたペプチドが含まれる。さらに、本発明における変異体は、例えば標識、特に放射性若しくは蛍光標識のペプチドへの共有結合又は非共有結合により、サンプルの収集後に修飾されたペプチド又はポリペプチドでもある。
【0053】
「腎臓損傷分子1」(KIM-1)という用語は、細胞外部分に、特有の6-システインIgドメイン及びムチンドメインを含有する1型膜タンパク質に関する。ラット3-2 cDNAの配列であるKIM-1は、307アミノ酸のオープンリーディングフレームを有する。
【0054】
ヒトcDNAクローン85のタンパク質配列はまた、それぞれラットKIM-1と同様に、1つのIgドメイン、ムチンドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞質ドメインを含有する。両タンパク質のIgドメイン内の6つ全てのシステインは保存されている。Igドメイン内で、ラットKIM-1及びヒトcDNAクローン85は、タンパク質レベルで68.3%の類似性を示す。クローン85では、ラットKIM-1よりムチンドメインは長く、細胞質ドメインは短く、それぞれ49.3%及び34.8%の類似性を有する。クローン85はヒトKIM-1と称される(KIM-1タンパク質の構造について、例えばIchimuraら, J Biol Cem, 273 (7), 4135-4142 (1998)、特にFig.1を参照)。組換えヒトKIM-1は組換えラット又はマウスKIM-1と交差反応性又は干渉性を示さない。
【0055】
KIM-1 mRNA及びタンパク質は、虚血後の腎臓における損傷領域を修復及び再生することが知られている再生中の近位尿細管上皮細胞において高レベルで発現される。KIM-1は、腎上皮傷害後、脱分化し、複製している細胞でアップレギュレートされる上皮細胞接着分子(CAM)である。KIM-1のタンパク質分解処理されるドメインは、急性腎傷害(AKI)直後に尿中で容易に検出されるため、KIM-1は急性腎傷害の尿中バイオマーカーとして機能する(Expert Opin. Med. Diagn. (2008) 2 (4): 387-398)。
【0056】
本発明において記載されるKIM-1は、上で説明したヒトKIM-1についての前記特定の配列のアレル変異体及び他の変異体をさらに包含する。具体的には、ヒトKIM-1と、好ましくはヒトKIM-1の全長にわたって、アミノ酸レベルで好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を有する変異体ポリペプチドが想定される。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、当技術分野で周知のアルゴリズムによって決定できる。好ましくは、同一性の程度は2つの最適にアライメントした配列を比較ウインドウにわたって比較することにより決定され、その際、比較ウインドウ中のアミノ酸配列の断片は最適なアライメントのために、参照配列(付加又は欠失を含んでいない)と比較して付加又は欠失(例えば、ギャップ又はオーバーハング)を含んでいてもよい。パーセンテージは2つの配列の双方で同一のアミノ酸残基が存在する位置の数から一致している位置の数を求め、一致している位置の数を比較ウインドウ中の位置の総数で除し、その解に100を乗じて、配列同一性のパーセンテージを得ることにより算出される。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith及びWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム(Add. APL. Math. 2:482(1981))によって、Needleman及びWunschのホモロジーアライメントアルゴリズム(J. Mol. Biol. 48:443(1970))によって、Pearson及びLipmanの類似性探索法(Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 85:2444(1988))によって、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group(GCG), 575 Science Dr., Madison, WI中のGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA)によって、又は目視による検討により行うことができる。比較のために2つの配列が同定されている場合は、GAP及びBESTFITを用いてそれらの最適なアライメントを決定することによって、同一性の程度を求めることが好ましい。好ましくは、ギャップウエイトについてのデフォルト値5.00及びギャップウエイトレングスについてのデフォルト値0.30を使用する。上記変異体は、アレル変異体、又は他の任意の生物種特異的なホモログ、パラログ若しくはオルソログであってもよい。診断手段によって、又は各全長ペプチドに対するリガンドによって依然として認識されるタンパク質分解産物は、実質的に類似しており、それらもまた想定される。ヒトKIM-1のアミノ酸配列と比べて、アミノ酸欠失、置換、及び/又は付加を有する変異体ポリペプチドも、該ポリペプチドがKIM-1の性質を有する限り、包含される。本発明において用いる「KIM-1の性質」とは、腎上皮傷害後、脱分化及び複製を誘導することを意味する。
【0057】
L-FABP若しくはその変異体、KIM-1若しくはその変異体、又はナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体、又は本明細書に記載される他の任意のペプチド若しくはポリペプチドの量の測定は、好ましくは半定量的又は定量的に、量又は濃度を測定することに関する。測定は、直接的又は間接的に実施可能である。直接的測定とは、ペプチド又はポリペプチド自体から得られ、かつその強度がサンプル中に存在するペプチドの分子数と直接的に相関するシグナルに基づいてペプチド又はポリペプチドの量又は濃度を測定することに関する。そのようなシグナル(本明細書中では強度シグナルと称されることもある)は、例えば、ペプチド又はポリペプチドの固有の物理的性質又は化学的性質の強度値を測定することにより取得可能である。間接的測定としては、二次成分(すなわち、ペプチド若しくはポリペプチド自体ではない成分)、又は生物学的読取り系、例えば、測定可能な細胞応答、リガンド、標識、若しくは酵素反応生成物から得られるシグナルを測定することが挙げられる。
【0058】
本発明においては、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定するためのあらゆる公知の手段によって行うことができる。この手段は、様々なサンドイッチアッセイ、競合アッセイ又は他のアッセイの形式において標識した分子を利用することができるイムノアッセイのデバイス及び方法を含む。該アッセイは、ペプチド又はポリペプチドの存在又は非存在を示すシグナルを生成する。さらにシグナル強度は、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量と直接的に又は間接的に(例えば反比例で)相関しうる。別の好適な方法は、正確な分子量又はNMRスペクトルなどのペプチド又はポリペプチドに特有の物理的性質又は化学的性質を測定することを含む。該方法は、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイと連結した光学デバイス、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析計、NMR分析器又はクロマトグラフィー装置などを含む。さらに方法としては、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化又はロボット化したイムノアッセイ(例えばElecsysTM分析器を利用できる)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ法、例えばRoche-HitachiTM分析器を利用できる)、及びラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTM分析器を利用できる)が挙げられる。
【0059】
好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、(α)その強度がペプチド又はポリペプチドの量を示す細胞応答を誘導することができる細胞に、該ペプチド又はポリペプチドを適切な時間にわたり接触させるステップと、(β)その細胞応答を測定するステップとを含む。細胞応答を測定するためには、好ましくは、サンプル又は処理したサンプルを細胞培養物に加え、内部又は外部の細胞応答を測定する。その細胞応答としては、測定可能なレポーター遺伝子の発現、又はペプチド、ポリペプチド若しくは小分子などの物質の分泌が挙げられる。その発現又は物質は、ペプチド又はポリペプチドの量と相関する強度シグナルを生じる。
【0060】
また好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチド又はポリペプチドから得られる固有の強度シグナルを測定するステップを含む。上記のように、このようなシグナルは、質量スペクトルで観察されるペプチド若しくはポリペプチドに特有のm/z変数、又はペプチド若しくはポリペプチドに特有のNMRスペクトルで観察されるシグナル強度であってもよい。
【0061】
ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、好ましくは、(α)該ペプチドを特定のリガンドに接触させ、(場合により)非結合リガンドを除去するステップ、(β)結合リガンドの量を測定するステップを含む。結合リガンドは強度シグナルを生じる。本発明において、結合は共有結合及び非共有結合を含む。本発明において、リガンドは、任意の化合物、例えば本明細書に記載のペプチド又はポリペプチドに結合するペプチド、ポリペプチド、核酸又は小分子でありうる。好ましいリガンドとしては、抗体、核酸、ペプチド又はポリペプチド、例えば、該ペプチド又はポリペプチドに対する受容体若しくは結合パートナー、及び該ペプチドに対する結合ドメインを含むそれらの断片、並びに核酸又はペプチドアプタマーなどのアプタマーがある。このようなリガンドを調製する方法は、当技術分野で周知である。例えば、好適な抗体又はアプタマーの同定及び作製は、民間の業者からも提供される。当業者は、より高い親和性又は特異性をもつ前記リガンドの誘導体を開発する方法に精通している。例えば、ランダム変異を核酸、ペプチド又はポリペプチドに導入することができる。次いで、これらの誘導体は、例えばファージディスプレイ法などの当技術分野で公知のスクリーニング法により、結合について試験することができる。本明細書に記載される抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体だけでなく、抗原又はハプテンに結合することができるFv、Fab及びF(ab)2フラグメントなどのそれらの断片も含む。本発明はまた、一本鎖抗体、及び所望の抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列をヒトアクセプター抗体の配列と組み合わせたヒト化ハイブリッド抗体も含む。ドナー配列は通常、少なくともドナーの抗原に結合するアミノ酸残基を含むが、他の構造的及び/又は機能的に関連性のあるドナー抗体のアミノ酸残基も含んでもよい。このようなハイブリッドは、当技術分野で周知の種々の方法により調製することができる。好ましくは、リガンド又は作用剤はペプチド又はポリペプチドに特異的に結合する。本発明において、特異的な結合は、そのリガンド又は作用剤が、分析対象サンプル中に存在する他のペプチド、ポリペプチド又は物質に、実質的に結合する(「交差反応する」)べきではないことを意味する。特異的に結合するペプチド又はポリペプチドは、関連のある他の任意のペプチド又はポリペプチドよりも、好ましくは少なくとも3倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらに好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合するべきである。非特異的な結合も、例えばウェスタンブロットにおけるサイズに従って、又はサンプル中に相対的により多量に存在することによって、明確に区別及び測定できる場合は、許容できることもある。リガンドの結合は、当技術分野で公知の任意の方法によって測定することができる。好ましくは、該方法は、半定量的又は定量的である。好適な方法については、以下に記載する。
【0062】
第1に、リガンドの結合は、例えば、NMR又は表面プラズモン共鳴により、直接測定できる。
【0063】
第2に、リガンドが対象ペプチド又はポリペプチドの酵素活性の基質としても機能する場合には、酵素反応生成物を測定することが可能である(例えば、切断された基質の量を、例えばウェスタンブロットにおいて測定することにより、プロテアーゼの量を測定することが可能である)。あるいは、リガンドが酵素の性質自体を呈するものであってよく、「リガンド/ペプチド若しくはポリペプチド」複合体又はそれぞれペプチド若しくはポリペプチドと結合したリガンドを好適な基質と接触させて、強度シグナルの生成により検出を行うことが可能である。酵素反応生成物の測定では、好ましくは、基質の量は飽和状態である。また、反応前に、検出可能な標識で基質を標識することも可能である。好ましくは、サンプルを適切な時間にわたり基質と接触させる。適切な時間とは、検出可能な(好ましくは測定可能な)量の生成物が生成するのに必要な時間を意味する。生成物の量を測定する代わりに、所与の(例えば検出可能な)量の生成物が出現するのに必要な時間を測定することも可能である。
【0064】
第3に、リガンドを共有結合又は非共有結合で標識に結合させることにより、リガンドの検出及び測定を行うことが可能である。標識は、直接的又は間接的な方法により実施可能である。直接的標識は、標識をリガンドに(共有結合又は非共有結合で)直接結合させることを含む。間接的標識は、一次リガンドに二次リガンドを(共有結合又は非共有結合で)結合させることを含む。二次リガンドは、一次リガンドに特異的に結合するものでなければならない。該二次リガンドは、好適な標識に結合させてもよいし、かつ/又は二次リガンドに結合する三次リガンドの標的(レセプター)であってもよい。シグナルを増大させるために、二次、三次又はより高次のリガンドが用いられることもある。好適な二次及びより高次のリガンドとしては、抗体、二次抗体、及び周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が挙げられる。当技術分野で公知のように、リガンド又は基質を1種以上のタグで「タグ標識」することも可能である。その場合、そのようなタグは、より高次のリガンドの標的でありうる。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが挙げられる。ペプチド又はポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端及び/又はC末端に存在する。好適な標識は、適切な検出方法により検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(例えば「磁性ビーズ」、常磁性標識及び超常磁性標識など)、及び蛍光標識が挙げられる。酵素活性標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体が挙げられる。検出に好適な基質としては、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート、Roche Diagnosticsから既製のストック溶液として入手可能)、CDP-StarTM(Amersham Biosciences)、ECFTM(Amersham Biosciences)が挙げられる。好適な酵素-基質の組み合わせを用いれば、当技術分野で公知の方法(例えば、感光性フィルム又は好適なカメラシステムを用いる方法)により測定できる呈色反応生成物、蛍光又は化学発光を生成させることが可能である。酵素反応の測定に関しては、上に示した判定基準が同じように適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びAlexa色素(例えば、Alexa 568)が挙げられる。さらなる蛍光標識は、例えば、Molecular Probes(Oregon)から入手可能である。さらに、蛍光標識として量子ドットの使用も想定される。典型的な放射性標識としては、35S、125I、32P、33Pなどが挙げられる。放射性標識は、任意の公知の適切な方法、例えば、感光性フィルム又はホスファーイメージャーにより、検出可能である。本発明において好適な測定方法としては、この他に、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電解発生化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法、比朧法、ラテックス増強比濁法若しくはラテックス増強比朧法、又は固相免疫試験が挙げられる。当技術分野で公知のさらなる方法(例えば、ゲル電気泳動、2次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウェスタンブロッティング、及び質量分析)を、単独で、又は標識化若しくは上に記載の他の検出方法と組み合わせて、使用することが可能である。
【0065】
ペプチド又はポリペプチドの量は、また好ましくは、以下のように測定することができる。(α)上に記載するようなペプチド又はポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体を、ペプチド又はポリペプチドを含むサンプルと接触させ、(β)支持体に結合しているペプチド又はポリペプチドの量を測定する。リガンド(好ましくは、核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体、及びアプタマーからなる群より選択される)は、好ましくは、固相化形態で固体支持体上に存在する。固体支持体を製造するための材料は、当技術分野で周知であり、特に、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレーのウェル及び壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。リガンド又は作用剤は、多種多様な担体に結合可能である。周知の担体の例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然セルロース及び変性セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、並びにマグネタイトが挙げられる。担体の性質は、本発明の目的では、可溶性又は不溶性のいずれも可能である。該リガンドの固定化/固相化に好適な方法は、周知であり、例えば限定されるものではないが、イオン性相互作用、疎水性相互作用、共有結合相互作用などが挙げられる。本発明ではアレイとして「懸濁アレイ」を使用することも想定される(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイでは、マイクロビーズやマイクロスフェアなどの担体は、懸濁状態で存在する。アレイは、標識化されていてもよい、様々なリガンドを担持する様々なマイクロビーズ又はマイクロスフェアで構成される。そのようなアレイ、例えば、固相化学及び光感受性保護基に基づくアレイの製造方法は、広く知られている(米国特許第5,744,305号)。
【0066】
本明細書で用いる「量」という用語は、ポリペプチド又はペプチドの絶対量、該ポリペプチド又はペプチドの相対量若しくは相対濃度、さらにはそれらと相関する若しくはそれらから導くことのできる任意の値若しくはパラメータを包含する。そのような値又はパラメータは、直接的測定により該ペプチドから得られるいずれも固有の物理的性質又は化学的性質に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルの強度値を含む。さらに、本明細書中の他の箇所に記載された間接的測定により得られるすべての値又はパラメータ、例えば、ペプチドに応答する生物学的読取り系から決定される応答レベル、又は特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルが含まれる。上述の量又はパラメータと相関する値もまた、いずれも標準的な数学演算により取得可能であることが理解されるであろう。
【0067】
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離した細胞のサンプル又は組織若しくは器官由来のサンプルを意味する。体液のサンプルは、周知技術によって得ることができ、好ましくは血液、血漿、血清、尿のサンプル、血液、血漿又は血清のサンプルを含む。サンプルが測定されるマーカーに依存することは理解されるであろう。従って、本明細書に記載されるポリペプチドは様々なサンプル中で測定されることが想定される。L-FABP若しくはその変異体、及びKIM-1若しくはその変異体は、好ましくは尿サンプル中で測定される。ナトリウム利尿ペプチド又はその変異体は、好ましくは血清又は血漿サンプル中で測定される。
【0068】
本明細書で用いる「比を形成する」という用語は、特定のペプチドの測定された量の間の比を、各個体において計算することを意味する。全ての比を用いて、中央値及びそれぞれのパーセンタイルを計算し、標的疾患に関する参照腎疾患情報が得られる。
【0069】
本明細書で用いる「比較する」という用語は、分析対象のサンプルに含まれるペプチド又はポリペプチドの量を本明細書中の他の箇所に記載する適切な参照源の量と比較することを包含する。本明細書で用いる比較とは、対応するパラメータ又は値の比較を意味することが理解されるであろう。例えば、絶対量は絶対参照量と比較され、濃度は参照濃度と比較され、又は検査サンプルから得られた強度シグナルは、参照サンプルの同タイプの強度シグナルと比較され、あるいは量の比は量の参照比と比較される。本発明の方法のステップ(c)でいう比較は、手動で又はコンピュータの支援で実行することができる。コンピュータ支援の比較については、測定量の値は、コンピュータプログラムによってデータベース中に格納された適切な参照に対応する値と比較することができる。コンピュータプログラムは、さらに比較結果を評価することができる。すなわち、適切なアウトプットフォーマットで所望の評価を自動的に提供することができる。
【0070】
一般に、本発明の各実施形態に従って所望の診断を確定することを可能にする各量/量、すなわち量比の決定について、各1つ又は複数のペプチドの(「閾値」、「参照量」)、量/量、すなわち量比は、適切な患者群において決定される。確定される診断に従って、患者群は、例えば、健康な個体のみを含む群であってもよいし、又は健康な個体と病態生理学的状態(測定対象の状態)に罹患している個体を含む群であってもよく、又は測定対象の病態生理学的状態に罹患している個体のみを含む群でもよく、又は有効な分析法を用いて各マーカーによって識別される様々な病態生理学的状態に罹患している個体を含む群でもよい。得られる結果は収集され、当業者に公知な統計的手法によって分析される。その後、得られた閾値は、疾患に罹患している所望の確率に従って確定され、特定の閾値と関連付けられる。例えば、閾値、参照値又は量比を確定するために、健康な及び/又は健康でない患者集団の中央値、60、70、80、90、95又は99パーセンタイルを選択することが有用でありうる。
【0071】
診断マーカーの参照値は確定することができ、患者サンプル中のマーカーの量は参照値と簡単に比較することができる。診断及び/又は予後検査の感度及び特異度は、単なる検査の分析上の「質」以上のものに左右される。すなわち、それらは、異常な結果を構成するものの定義にも左右される。実際には、受診者動作特性曲線(Receiver Operating Characteristic curve)、すなわち「ROC」曲線は、典型的には、「正常」及び「疾患」集団における相対頻度に対する変数の値をプロットすることによって計算される。本発明の任意の特定のマーカーについて、疾患を有する被験体及び有しない被験体についてのマーカー量の分布は重複する可能性が高い。そのような条件下で、検査は、疾患から正常を100%正確には絶対的に識別せず、重複する領域は、検査が疾患から正常を識別できない場合を示す。閾値が選択され、それを上回ると(又はマーカーが疾患に伴い如何に変化するかに応じて、それを下回ると)検査が異常であるとみなされ、それを下回ると検査が正常であるとみなされる。ROC曲線下の面積は、受けた測定が、状態の正しい同定を可能にする確率の尺度である。検査結果が必ずしも正確な数を与えない場合でさえ、ROC曲線を使用することができる。結果をランク付けできる限りは、ROC曲線を作成することができる。例えば、「疾患」サンプルに対する検査の結果を、程度に応じてランク付けすることができる(例えば1=低い、2=正常、及び3=高い)。このランク付けは、「正常」集団における結果と相関させることができ、ROC曲線が作成される。これらの方法は、当技術分野で周知である。例えば、Hanleyら, Radiology 143: 29-36 (1982)を参照。
【0072】
いくつかの実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約70%の特異度、より好ましくは少なくとも約80%の特異度、さらにより好ましくは少なくとも約85%の特異度、より一層好ましくは少なくとも約90%の特異度、最も好ましくは少なくとも約95%の特異度と組み合わせて、少なくとも約70%の感度、より好ましくは少なくとも約80%の感度、さらにより好ましくは少なくとも約85%の感度、より一層好ましくは少なくとも約90%の感度、最も好ましくは少なくとも約95%の感度を示すように選択される。特に好ましい実施形態において、感度及び特異度の両方が、少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約85%、より一層好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%である。ここで「約」という用語は所定の測定値の+/-5%を意味する。
【0073】
他の実施形態において、陽性尤度比、陰性尤度比、オッズ比、又はハザード比を、リスクを予測する又は疾患を診断する検査の能力の尺度として用いる。陽性尤度比の場合、値1は、陽性結果が「疾患」群及び「対照」群の両方の被験体間で同様に起こりうることを示し;1より大きい値は、陽性結果が疾患群でより起こる可能性が高いことを示し;1より小さい値は、陽性結果が対照群でより起こる可能性が高いことを示す。陰性尤度比の場合、値1は、陰性結果が「疾患」群及び「対照」群の両方の被験体間で同様に起こりうることを示し;1より大きい値は、陰性結果が検査群でより起こる可能性が高いことを示し;1より小さい値は、陰性結果が対照群でより起こる可能性が高いことを示す。いくつかの好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、好ましくは少なくとも約1.5以上又は約0.67以下、より好ましくは少なくとも約2以上又は約0.5以下、さらにより好ましくは少なくとも約5以上又は約0.2以下、より一層好ましくは少なくとも約10以上又は約0.1以下、最も好ましくは少なくとも約20以上又は約0.05以下の陽性又は陰性尤度比を示すように選択される。ここで「約」という用語は所定の測定値の+/-5%を意味する。
【0074】
オッズ比の場合、値1は、陽性結果が「疾患」群及び「対照」群の両方の被験体間で同様に起こりうることを示し;1より大きい値は、陽性結果が疾患群でより起こる可能性が高いことを示し;1より小さい値は、陽性結果が対照群でより起こる可能性が高いことを示す。いくつかの好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、好ましくは少なくとも約2以上又は約0.5以下、より好ましくは少なくとも約3以上又は約0.33以下、さらにより好ましくは少なくとも約4以上又は約0.25以下、より一層好ましくは少なくとも約5以上又は約0.2以下、最も好ましくは少なくとも約10以上又は約0.1以下のオッズ比を示すように選択される。ここで「約」という用語は所定の測定値の+/-5%を意味する。
【0075】
ハザード比の場合、値1は、エンドポイント(例えば死)の相対リスクが「疾患」群及び「対照」群の両方で同等であることを示し;1より大きい値は、該リスクが疾患群でより高いことを示し;1より小さい値は、該リスクが対照群でより高いことを示す。いくつかの好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、好ましくは少なくとも約1.1以上又は約0.91以下、より好ましくは少なくとも約1.25以上又は約0.8以下、さらにより好ましくは少なくとも約1.5以上又は約0.67以下、より一層好ましくは少なくとも約2以上又は約0.5以下、最も好ましくは少なくとも約2.5以上又は約0.4以下のハザード比を示すように選択される。ここで「約」という用語は所定の測定値の+/-5%を意味する。
【0076】
例示的なパネルを本明細書に記載するが、臨床的に有用な結果をもたらすならば、これらの例示的なパネルに対して1つ又は複数のマーカーを置換、付加、又は差し引いてもよい。パネルは、疾患に特異的なマーカー(例えば、細菌感染において増加又は低下するが、他の疾患状態では増加又は低下しないマーカー)及び/又は非特異的マーカー(例えば、原因に関わらず炎症によって増加又は低下するマーカー;原因に関わらず鬱血の変化によって増加又は低下するマーカーなど)の両方を含みうる。いくつかのマーカーは本明細書に記載される方法において個々に確定的ではないかもしれないが、実際において、変化の特定の「フィンガープリント」パターンが疾患状態の特異的な指標として機能しうる。上述のとおり、変化のパターンは単一サンプルから得てよく、あるいは場合によりパネルの1つ若しくは複数のメンバーの一時的変化(又はパネル応答値の一時的変化)を考慮してもよい。
【0077】
本発明の本実施形態において本明細書で用いる「参照量」という用語は、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体(一般に、この被験体は腎臓機能に関して見かけ上健康である)において、腎臓損傷の診断を可能にするポリペプチドの量を意味する。
【0078】
従って、参照量は、一般に、生理的に健康であることがわかっている被験体、又は腎臓損傷に罹患していることがわかっている被験体(腎臓機能に関して見かけ上健康であってよい)、又は心不全に罹患している被験体、あるいは心不全に罹患し、かつ腎臓損傷に罹患していることがわかっている被験体に由来する。
【0079】
従って、本明細書で用いる「参照量」という用語は、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体(一般に、この被験体は腎臓機能に関して見かけ上健康である)において、腎臓損傷の診断を可能にする量を意味する。参照量との比較は、これらの個体と、心不全に罹患していることが疑われるが腎臓損傷に罹患していない被験体(一般に、この被験体は腎臓機能に関して見かけ上健康である)との識別を可能にする。本発明において、「参照量」はまたL-FABP/KIM-1比を意味する。
【0080】
L-FABP若しくはその変異体、及びKIM-1若しくはその変異体についての参照量は、本発明において上に定義されるように、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体(好ましくは、腎臓機能に関して見かけ上健康である)に由来してよく、ここで、該被験体は、腎臓損傷、好ましくは尿細管腎臓損傷及び尿細管腎臓修復、特に慢性尿細管腎臓損傷及び慢性尿細管腎臓修復に罹患していると診断されたものである。参照量を確定するために用いる各ペプチドの量は、本発明に従って確定される診断の前に測定することができる。
【0081】
本発明の全ての実施形態において、そこで用いる各マーカーの量(L-FABP若しくはその変異体及びKIM-1若しくはその変異体)は、当業者に公知な方法によって測定される。
【0082】
選択された参照値が対象とする疾患に罹患している患者の十分に確実な診断をもたらすか検査するために、例えば、以下の式を用いて、所定の参照値について本発明の方法の有効性(E)を決定しうる:
E = (TP / TO) x 100;
[式中、TP = 真陽性、及びTO = 検査の総数 = TP + FP + FN + TN、ここでFP = 偽陽性、FN = 偽陰性、及びTN = 真陰性](Eは0<E<100の範囲の値を有する)。好ましくは、検査された参照値は、Eの値が少なくとも約50、より好ましくは少なくとも約60、より好ましくは少なくとも約70、より好ましくは少なくとも約80、より好ましくは少なくとも約90、より好ましくは少なくとも約95、より好ましくは少なくとも約98であるならば、十分に確実な診断をもたらす。
【0083】
個体が健康であるか、又はある病態生理学的状態に罹患しているかの診断は、当業者に公知な確立された方法によって行われる。その方法は個体の病態生理学的状態に関して異なる。
【0084】
所望の診断を確定するためのアルゴリズムは、言及される各実施形態の記載の中で、本出願に記載される。
【0085】
従って、本発明はまた、生理的及び/若しくは病理的状態並びに/又は特定の病理的状態の指標となる閾値量を決定する方法であって、適切な患者群において適切なマーカーの量を測定するステップ、データを収集するステップ、統計的手法によってデータを分析するステップ、及び閾値を確定するステップを含む方法を含む。
【0086】
本明細書で用いる「約」という用語は所定の測定値又は値の+/-20%、好ましくは+/-10%、好ましくは+/-5%を意味する。
【0087】
本明細書で用いる「参照量」という用語は、腎臓損傷の診断を可能にする量を意味する。
【0088】
疾患又は疾患の組み合わせに罹患している被験体由来の参照を用いる場合、検査被験体のサンプル中のペプチド又はタンパク質の量が該参照量と本質的に同一であることは、各疾患又は疾患の組み合わせの指標となることが理解されるであろう。個体被験体に適用可能な参照量は、様々な生理的パラメータ、例えば年齢、性別又は亜集団に応じて変化しうる。さらに、参照量は、好ましくは閾値を規定する。従って、適切な参照量は、検査サンプルと共に、すなわち同時に又はその後に、分析される参照サンプルから本発明の方法によって決定してよい。適切な技術は、本発明の方法において測定されるペプチド又はポリペプチドの量について集団の中央値を決定することであってよい。
【0089】
KIM-1及びL-FABPは、虚血後腎臓中の近位尿細管上皮細胞において増加して発現される尿中バイオマーカーである。L-FABPは尿細管損傷のバイオマーカーとみなされ、KIM-1は尿細管修復の指標と考えられているため、両マーカーの比は疾患進行の証拠を反映する。ナトリウム利尿ペプチド、特にNT-proBNPは、心不全のバイオマーカーとみなされる。ナトリウム利尿ペプチド、特にNT-proBNPは、血行動態ストレス中に放出される。ナトリウム利尿ペプチドは腎臓により除去され、腎不全に特徴的な循環血液量過多及び高血圧は、その分泌を増進させ、特にNT-proBNPのレベルを増加させる。
【0090】
従って、前記マーカーの測定は、腎臓の発病過程の関連情報を開示する。
【0091】
L-FABP若しくはその変異体、KIM-1若しくはその変異体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体、特にNT-proBNP若しくはその変異体の量と、対応する参照量との比較、並びにL-FABP/KIM-1比に基づいて、心不全に罹患している被験体の腎疾患の程度及び進行を特徴付けることができる。
【0092】
有利には、バイオマーカーとしてL-FABP若しくはその変異体、KIM-1若しくはその変異体、及び場合によりNT-proBNP若しくはその変異体の組み合わせ、特に被験体のサンプル中に存在するL-FABP若しくはその変異体、KIM-1若しくはその変異体、及び場合によりNT-proBNP若しくはその変異体の量と組み合わせたL-FABP及びKIM-1の量、又は好ましい実施形態では、L-FABP/KIM-1の量比が、心不全関連腎疾患の信頼でき効率のよい特性化を可能にすることが見出された。さらに、前記バイオマーカーの濃度は相関しないことが見出された。従って、前記バイオマーカーはそれぞれ統計的に互いに独立している。本発明のおかげで、本発明の方法の結果に従って、被験体は、より容易かつ確実に診断され、続いて治療されることが可能である。
【0093】
被験体の血清サンプル中のNT-proBNP又はその変異体の量が参照量と比べて増加していることは、心不全の指標となる。すなわち心不全患者は、NT-proBNPの量の増加を示す。本発明の方法によれば、心不全(本発明の実施形態において、血清中のNT-proBNP又はその変異体の量の増加によって示される)は、被験体の尿サンプル中で測定されたL-FABP若しくはその変異体、及びKIM-1若しくはその変異体の量が参照量と比べて増加することと共に起こる。このことは、腎臓の尿細管損傷の程度及び付随する修復が、心不全の程度に依存すること(dependent from)を示す。
【0094】
さらに、本発明の方法において、NT-proBNP又はその変異体の量の増加に伴って、L-FABP/KIM-1比が増加することを見出すことができた。このことは、心不全の進行に伴って、修復が低下することを示す。
【0095】
進行性腎疾患は、様々な期間にわたって末期腎疾患をもたらす。末期腎疾患の診断は腎臓機能(例えば、クレアチニン値)に基づく。
【0096】
NT-proBNP又はその変異体についての>約300pg/ml、好ましくは>約450pg/ml、より好ましくは>約600pg/ml、特に>約1000pg/ml、とりわけ>約1500pg/mlの参照量は、特にL-FABP又はその変異体の量の増加と組み合わせた場合に、心不全の指標となる。
【0097】
L-FABP又はその変異体についての>約5μg/gクレアチニン、好ましくは>約7.5μg/gクレアチニン、より好ましくは>約10μg/gクレアチニン、特に>約12.5μg/gクレアチニンの参照量は、尿細管損傷の指標となる。
【0098】
NT-proBNP又はその変異体についての>約300pg/ml、好ましくは>約450pg/ml、より好ましくは>約600pg/ml、特に>約1000pg/ml、とりわけ>約1500pg/mlの参照量、並びにL-FABP又はその変異体についての>約5μg/gクレアチニン、好ましくは>約7.5μg/gクレアチニン、より好ましくは>約10μg/gクレアチニン、特に>約12.5μg/gクレアチニンの参照量は、心不全関連腎疾患、特に心不全に伴う尿細管損傷の指標となる。
【0099】
<約13.5、好ましくは<約11、より好ましくは<約8.5のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の尿細管損傷に対する優勢な修復の指標となる。>約13.5、好ましくは>約20、より好ましくは>約30、特に>40のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の尿細管修復に対する優勢な損傷の指標となる。
【0100】
本出願の他の箇所に記載されるように、L-FABPは尿細管腎臓損傷を表し、KIM-1は尿細管修復を表す。従って、L-FABPとKIM-1との比は尿細管損傷と尿細管修復とのバランスを反映し、その過程は腎臓損傷の完全な回復を生じうる。実施例に記載されるように、L-FABP/KIM-1比13.5が心不全を有する患者で確認されている。修復が損傷に対して優勢である場合、進行性腎疾患が起こる可能性が低く、逆の場合は、進行性腎疾患を考慮する必要がある。
【0101】
従って、尿細管損傷が修復に対して優勢である場合(あるいは、上に記載されるように中程度又は特に重度の尿細管損傷を示す基準を満たす場合)、尿中バイオマーカー、具体的にはL-FABP及びKIM-1、並びに加えて腎臓機能マーカー、例えばクレアチニン、シスタチンC又はGFRのモニタリングをより頻繁に行う必要があるということである。さらに、造影剤の投与を含む、さらなる腎臓損傷を生じうる薬物又は治療介入を避ける必要がある。さらに、心臓薬には、ACE阻害剤及びARBの使用に関して、それらの用量を含めて再検討する必要があり、加えて、アルドステロン拮抗薬の処方を考慮する必要がある。
【0102】
NT-proBNP若しくはその変異体、及びL-FABP若しくはその変異体の上述の参照量が高くなるにつれ(それら単独で、あるいは>約13.5、好ましくは>約20、より好ましくは>約30、特に>40のL-FABP/KIM-1比と組み合わせて)、進行性かつ重度の腎疾患、特に尿細管損傷が起こる可能性が高くなる。
【0103】
L-FABP若しくはその変異体についての<約5.5μg/gクレアチニンの参照量、及び/又は<約9のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の疾患、特に尿細管損傷がないか、又はそれが軽度であることの指標となる。
【0104】
特に、NT-proBNP若しくはその変異体についての<約300pg/mlの参照量、L-FABP若しくはその変異体についての<約5.5μg/gクレアチニンの参照量、及び/又は<約9のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の疾患、特に尿細管損傷がないか、又はそれが軽度であることの指標となる。
【0105】
L-FABP若しくはその変異体についての>約5.5μg/gクレアチニンの参照量、及び/又は>約9のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の疾患、特に尿細管損傷が中程度であることの指標となる。
【0106】
特に、NT-proBNP若しくはその変異体についての>約300pg/mlの参照量、L-FABP若しくはその変異体についての>約5.5μg/gクレアチニンの参照量、及び/又は>約9のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の疾患、特に尿細管損傷が中程度であることの指標となる。
【0107】
L-FABP若しくはその変異体についての>約7.5μg/gクレアチニンの参照量、及び/又は>約14のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の疾患、特に尿細管損傷が重度であることの指標となる。
【0108】
特に、NT-proBNP若しくはその変異体についての>約600pg/mlの参照量、L-FABP若しくはその変異体についての>約7.5μg/gクレアチニンの参照量、及び/又は>約14のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の疾患、特に尿細管損傷が重度であることの指標となる。
【0109】
L-FABP若しくはその変異体についての>約20μg/gクレアチニンの参照量、及び/又は>約37のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の疾患、特に尿細管損傷が極めて重度であることの指標となる。
【0110】
特に、NT-proBNP若しくはその変異体についての>約1700の参照量、L-FABP若しくはその変異体についての>約20μg/gクレアチニンの参照量、及び/又は>約37のL-FABP/KIM-1比は、腎臓の疾患、特に尿細管損傷が極めて重度であることの指標となる。
【0111】
本発明はまた、心不全に罹患している、又は心不全に罹患していることが疑われ、かつ好ましくは腎臓機能に関して見かけ上健康な被験体において、該被験体のサンプル中で測定された、好ましくは該被験体の尿サンプル中で測定された肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量の、少なくとも1つの参照量との比較に基づいて、心不全関連腎疾患に対する適切な治療を決定する方法を提供する。
【0112】
本発明の方法は、以下のステップ:a)被験体のサンプル、好ましくは尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、好ましくは尿中肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定するステップ;b)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップを含んでよい。
【0113】
適切な治療の決定は、ステップb)で得られた情報に基づいて、好ましくはステップa)及びb)の情報に基づいて確定しうる。
【0114】
従って、本発明はまた、心不全関連腎臓損傷に罹患している被験体において適切な治療を決定する方法であって、以下のステップ:
a)被験体の尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定するステップ;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較し、それにより腎臓損傷を診断するステップ;並びに
c)適切な治療を決定するステップ
のうち少なくとも1つを含む、前記方法を提供する。
【0115】
本発明の一実施形態において、L-FABP/KIM-1比が形成される。
【0116】
本発明のさらなる実施形態において、個体は腎臓機能に関して見かけ上健康である。
【0117】
本発明のさらなる実施形態において、ナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を、被験体のサンプル中で、一般に血清サンプル中で測定する。この付加的ステップは、好ましくは、各被験体が心不全に罹患していることが疑われる場合に行われる。
【0118】
適切な治療は、
1.腎疾患のさらなる進行の阻害、
2.(腎臓損傷を引き起こす)心不全自体、
3.さらなる腎臓損傷の予防(特に修復過程が低下している場合)
に関して有効な医薬の投与である。
【0119】
カテゴリー1及び2の典型的な医薬は、とりわけ、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β遮断薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)及び/又はアルドステロン拮抗薬である。
【0120】
カテゴリー3は、とりわけ、高用量のACE阻害薬、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の投与を包含し、放射性造影剤の使用を避ける。
【0121】
上述の薬剤は当業者に公知である。好ましいβ遮断薬は、プロプレノロール、メトプロロール、ビソプロロール、カルベジロール、ブシンドロール及び/又はネビボロールである。好適なACE阻害薬は、特にエナラプリル、カプトプリル、ラミプリル及び/又はトランドラプリルである。好適なアンジオテンシンII受容体遮断薬は、特にロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン及び/又はエプロサルタンである。
【0122】
好適なアルドステロン拮抗薬は、特にスピロノラクトン又はエプレレノンである。
【0123】
心不全の好ましい治療は、β遮断薬と共に又はβ遮断薬無しで、ACE阻害薬又はARBで開始し、後にアルドステロン拮抗薬をさらに投与することである(Braunwald's Heart Disease, 第8版, D.L. Mann, p.616, Fig. 25-6)。
【0124】
上述の治療は、互いに組み合わせた場合に特に有効である。
【0125】
上に記載されるように、13.5を超えるL-FABP/KIM-1比は、修復に対する過度の尿細管損傷の指標となり、経時的な進行性腎臓損傷の指標となり、具体的には、見出される比が高くなるにつれ(具体的には比が20、30及び特に40を超える場合)、進行について想定されるリスクが高くなる。この場合、特に比が30又は40を超える場合には、アルドステロン拮抗薬の投与を考慮に入れるべきである。さらに、さらなる腎臓損傷のリスクを伴う薬物又は治療介入は避けるべきである。逆に、13.5未満の比は、具体的には比が11又は8未満の場合には、腎臓損傷が適切な修復を伴うことを示し、これは、腎臓損傷が(進行性腎臓損傷へ)進行する可能性が低いことを示す。この場合、アルドステロン拮抗薬は必要でない。さらに、腎臓損傷を伴うことが知られている他の薬物及び治療介入は禁忌ではないが、依然として注意深く考慮する必要がある。
【0126】
本明細書で用いる「適切な治療」及び「感受性である」という用語は、被験体に適用された治療が心不全若しくはその随伴症状及び/又は腎臓損傷若しくはその随伴症状の進行を阻害又は改善することを意味する。治療に対する感受性の評価は検査される被験体の全て(100%)については正しくないことが理解されるであろう。しかし、治療の適用が成功した少なくとも統計的に有意な一部を決定できることが想定される。一部が統計的に有意かどうかは、本明細書中の他の箇所に記載される技術によって決定することができる。
【0127】
本発明はまた、心不全に罹患している被験体において、該被験体のサンプル中で測定された、好ましくは該被験体の尿サンプル中で測定された肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を少なくとも1つの参照量と比較し、比較ステップを反復することに基づいて、腎臓損傷をモニタリングする方法に関する。
【0128】
好ましい実施形態において、上述のモニタリング方法は治療のモニタリングを含む。
【0129】
本発明の方法は、以下のステップ:a)被験体のサンプル、好ましくは尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定するステップ;b)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップを含んでよい。
【0130】
腎疾患の診断は、ステップb)で得られた情報に基づいて、好ましくはステップa)及びb)で得られた情報に基づいて確定することができ、モニタリングはステップb)を反復することによって、好ましくはステップa)及びb)を治療中に反復することによって行われる。
【0131】
従って、本発明は、心不全に罹患している被験体において腎臓損傷をモニタリングする方法であって、以下のステップ:
a)被験体のサンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定するステップ;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較し、腎臓損傷を診断するステップ;並びに
c)治療中にステップa)及びb)を反復するステップ
のうち少なくとも1つを含む、前記方法に関する。
【0132】
本発明の一実施形態において、L-FABP/KIM-1比が形成される。本発明のさらなる実施形態において、本方法は、治療モニタリングの場合、ステップb)の後に適切な治療を決定することを含む。
【0133】
本発明の実施形態において、ナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量は、被験体のサンプル中、好ましくは血清サンプル中で測定される。この付加的ステップは、好ましくは、各被験体が心不全に罹患していることが疑われる場合に行われる。
【0134】
モニタリングは、特に疾患の進行を分析するために、又は疾患の進行に対する特定の治療の影響を分析するために、既に診断された疾患の経過を追うことに関する。モニタリングは、臨床上の必要に応じて状態によって、好ましくは2週間後、より好ましくは1ヶ月後、最も好ましくは3、6又は12ヶ月後の調整を意味する。
【0135】
上に記載されるように、モニタリングの必要性は、腎臓損傷、特に尿細管損傷の進行の疑い、又は腎臓損傷、特に尿細管損傷に影響を及ぼす薬物及び治療介入の評価を伴う。例えば、L-FABP/KIM-1比が13.5を超えるか、又は20、30若しくは40さえ超える場合、3、2又は1ヶ月以内のモニタリングが好ましく、L-FABP/KIM-1比が13.5、11又は8未満である場合、6〜12ヶ月のモニタリング間隔が十分である。腎臓に影響を及ぼしうる薬剤が投与されている場合、2週間後又は1ヶ月後のモニタリングが好ましい。
【0136】
従って、本発明は、被験体において心筋梗塞を診断する方法であって、以下のステップ:
a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチド及び/又はトロポニンTの量を測定するステップ;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップ;並びに
c)心筋梗塞を診断するステップ
のうち少なくとも1つを含む、前記方法に関する。
【0137】
さらに、本発明はまた、本発明の方法の実施に適したキット及びデバイスを想定する。
【0138】
さらに、本発明は、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、腎臓損傷を診断するためのデバイスであって、以下:
a)被験体の尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定する手段;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較する手段
を含み、それにより、デバイスが腎臓損傷の診断に適したものである、前記デバイスに関する。
【0139】
本発明の好ましい実施形態において、デバイスは、L-FABP/KIM-1比を形成する手段をさらに含む。
【0140】
サンプルは好ましくは尿サンプルである。
【0141】
本発明の実施形態において、デバイスは、被験体の血清サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定する手段;及び/又は測定された量を参照量と比較する手段;並びに場合により、疑われる疾患を診断する手段をさらに含む。
【0142】
本明細書で用いる「デバイス」という用語は、識別が可能となるように互いに動作可能なように連結された少なくとも上述の手段を含む手段のシステムに関する。上述のポリペプチドの1つの量を測定する好ましい手段、及び比較を実施する好ましい手段は、本発明の方法と関連して上に開示されている。手段を動作可能に連結する方法は、デバイスに組み込まれる手段の種類に応じて異なる。例えば、ペプチドの量を自動的に測定する手段を適用する場合、自動的に動作する手段によって得られるデータは、例えば所望の結果を得るためのコンピュータプログラムによって処理することができる。好ましくは、そのような場合、手段は、単一のデバイス内に含まれる。従って、該デバイスは、用いたサンプル中のポリペプチドの量を測定するための分析ユニット、及び評価のために得られたデータを処理するためのコンピュータユニットを備えることができる。コンピュータユニットは、好ましくは、本明細書中の他の箇所に記載される格納された参照量又はそれらの値を含むデータベース、並びにポリペプチドについて測定された量をデータベースの格納された参照量と比較するためのコンピュータにより実行されるアルゴリズムを含む。本明細書で用いる場合、コンピュータにより実行されるとは、コンピュータユニットに明らかに含まれるコンピュータが読み込み可能なプログラムコードを意味する。あるいは、ペプチド又はポリペプチドの量を測定するための検査ストリップなどの手段を使用する場合、比較のための手段は、測定した量を参照量に割り当てる対照ストリップ又は表を含んでよい。検査ストリップは、好ましくは、本明細書に記載されるペプチド又はポリペプチドに特異的に結合するリガンドと結合している。ストリップ又はデバイスは、好ましくは、該リガンドへの該ペプチド又はポリペプチドの結合を検出する手段を含む。検出のための好ましい手段については、本発明の方法に関する実施形態に関連して上に開示されている。そのような場合、マニュアルに定められる指示及び解釈に基づいてシステムの利用者がその量の測定結果とその診断値又は予後値とを結びつけるという意味で、手段は動作可能に連結されている。手段は、そのような実施形態では、別個のデバイスとして存在してもよいが、好ましくは、キットとして一緒にパッケージングされる。当業者は、さらなる苦労なく手段を連結する方法を理解している。好ましいデバイスは、専門臨床医の特別な知識がなくても適用可能なものであってよく、例えば、単にサンプルを充填すればよい検査ストリップ又は電子デバイスである。結果は、臨床医の解釈を必要とする生データの出力として与えられてもよい。しかし、好ましくは、デバイスの出力は、その解釈に臨床医を必要としない処理された、すなわち評価された生データである。さらなる好ましいデバイスは、分析ユニット/デバイス(例えば、バイオセンサー、アレイ、本明細書に記載されるポリペプチドを特異的に認識するリガンドに結合された固体支持体、表面プラズモン共鳴デバイス、NMR分光計、質量分析計など)、及び/又は本発明の方法に適合する上に記載される評価ユニット/デバイスを備える。
【0143】
さらに、本発明は、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、腎臓損傷を診断するためのキットであって、以下:
a)被験体の尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定する手段;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較する手段
を含み、それにより、キットが腎臓損傷の診断に適したものである、前記キットに関する。
【0144】
本発明の好ましい実施形態において、キットは、L-FABP/KIM-1比を形成する手段をさらに含む。
【0145】
サンプルは好ましくは尿サンプルである。
【0146】
本発明の実施形態において、キットは、被験体の血清サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定する手段;及び/又は測定された量を参照量と比較する手段;並びに場合により、疑われる疾患を診断する手段をさらに含む。
【0147】
本明細書で用いる「キット」という用語は、一緒にパッケージングされても又はされなくてもよい、上述の本発明の化合物、手段又は試薬の集合を意味する。キットの内容物は、別々のバイアルに含まれてよく(すなわち別々の部分のキットとして)、又は単一のバイアルで提供されてもよい。さらに、本発明のキットが、本明細書中に上に記載される方法を実施するために使用されるものであることは理解されるであろう。好ましくは、全ての内容物は、上に記載される方法を実施するためにすぐに使える様式で提供されることが想定される。さらに、キットは、好ましくは前記方法を実施するための説明書を含有する。説明書は、紙又は電子形式で、ユーザーズマニュアルによって提供されてよい。例えば、マニュアルは、本発明のキットを用いて上述の方法を実施して得られる結果を評価するための説明書を含んでよい。
【0148】
手段を動作可能に連結する方法は、デバイスに組み込まれる手段の種類に応じて異なる。例えば、ペプチドの量を自動的に測定する手段を適用する場合、自動的に動作する手段によって得られるデータは、例えば所望の結果を得るためのコンピュータプログラムによって処理することができる。好ましくは、そのような場合、手段は、単一のデバイス内に含まれる。従って、該デバイスは、用いたサンプル中のペプチド又はポリペプチドの量を測定するための分析ユニット、及び評価のために得られたデータを処理するためのコンピュータユニットを備えることができる。あるいは、ペプチド又はポリペプチドの量を測定するための検査ストリップなどの手段を使用する場合、比較のための手段は、測定した量を参照量に割り当てる対照ストリップ又は表を含んでよい。検査ストリップは、好ましくは、本明細書に記載されるペプチド又はポリペプチドに特異的に結合するリガンドと結合している。ストリップ又はデバイスは、好ましくは、該リガンドへの該ペプチド又はポリペプチドの結合を検出する手段を含む。検出のための好ましい手段については、本発明の方法に関する実施形態に関連して上に開示されている。そのような場合、マニュアルに定められる指示及び解釈に基づいてシステムの利用者がその量の測定結果とその診断値又は予後値とを結びつけるという意味で、手段は動作可能に連結されている。手段は、そのような実施形態では、別個のデバイスとして存在してもよいが、好ましくは、キットとして一緒にパッケージングされる。当業者は、さらなる苦労なく手段を連結する方法を理解している。好ましいデバイスは、専門臨床医の特別な知識がなくても適用可能なものであってよく、例えば、単にサンプルを充填すればよい検査ストリップ又は電子デバイスである。結果は、臨床医の解釈を必要とする生データの出力として与えられてもよい。しかし、好ましくは、デバイスの出力は、その解釈に臨床医を必要としない処理された、すなわち評価された生データである。さらなる好ましいデバイスは、分析ユニット/デバイス(例えば、バイオセンサー、アレイ、KIM-1、L-FABP及び心臓トロポニンを特異的に認識するリガンドに結合された固体支持体、表面プラズモン共鳴デバイス、NMR分光計、質量分析計など)、又は本発明の方法に適合する上に記載される評価ユニット/デバイスを備える。
【0149】
本発明はまた、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われ、かつ腎臓機能に関して見かけ上健康な被験体において、腎臓損傷を診断するための;並びに/あるいは心不全関連腎臓損傷に罹患しているか、又は心不全関連腎臓損傷に罹患していることが疑われ、かつ腎臓機能に関して見かけ上健康な被験体が適切な治療に感受性であるかどうか決定するための;並びに/あるいは心不全関連腎臓損傷に罹患している被験体において腎臓損傷をモニタリングするための、被験体のサンプル中のKIM-1若しくはその変異体、L-FABP若しくはその変異体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を測定するためのキット又はデバイスの使用であって、KIM-1、L-FABP及び場合によりナトリウム利尿ペプチドの量を測定する手段、並びに/あるいはKIM-1、L-FABP及び場合によりナトリウム利尿ペプチドの量を少なくとも1つの参照量と比較する手段を含むキット又はデバイスの前記使用に関する。
【0150】
本発明はまた、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われ、かつ好ましくは腎臓機能に関して見かけ上健康な被験体において、腎臓損傷を診断するための;並びに/あるいは心不全関連腎臓損傷に罹患しているか、又は心不全関連腎臓損傷に罹患していることが疑われ、かつ腎臓機能に関して見かけ上健康な被験体が適切な治療に感受性であるかどうか決定するための;並びに/あるいは心不全関連腎臓損傷に罹患している被験体において腎臓損傷をモニタリングするための診断組成物の製造のための、KIM-1若しくはその変異体に対する抗体、L-FABP若しくはその変異体に対する抗体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体に対する抗体の使用、並びに/あるいはKIM-1若しくはその変異体、L-FABP若しくはその変異体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を測定する手段の使用、並びに/あるいはKIM-1若しくはその変異体、L-FABP若しくはその変異体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を少なくとも1つの参照量と比較する手段の使用に関する。
【0151】
本発明はまた、心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われ、かつ腎臓機能に関して見かけ上健康な被験体において、腎臓損傷を診断するための;並びに/あるいは心不全関連腎臓損傷に罹患しているか、又は心不全関連腎臓損傷に罹患していることが疑われ、かつ腎臓機能に関して見かけ上健康な被験体が適切な治療に感受性であるかどうか決定するための;並びに/あるいは心不全関連腎臓損傷に罹患している被験体において腎臓損傷をモニタリングするための、KIM-1若しくはその変異体に対する抗体、L-FABP若しくはその変異体に対する抗体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体に対する抗体の使用、並びに/あるいはKIM-1若しくはその変異体、L-FABP若しくはその変異体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を測定する手段の使用、並びに/あるいはKIM-1若しくはその変異体、L-FABP若しくはその変異体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を少なくとも1つの参照量と比較する手段の使用に関する。
【0152】
本明細書に引用される全ての参照文献は、その全体の開示内容及び本明細書中で具体的に記載した開示内容に関して、参照により本明細書に援用される。
【実施例1】
【0153】
以下の実施例は、本発明を説明するだけのものであり、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0154】
収縮期心不全に罹患している患者(合計44人の患者:LVEF <40%、血清クレアチニンに関する上限に基づく正常な腎臓機能)を、KIM-1及びL-FABPの尿レベル、並びにNT-proBNPの血清レベルについて検査した。患者は心腎症候群に罹患しておらず、すなわち任意の形態の心腎症候群(急性及び慢性心腎症候群、急性及び慢性腎心症候群、二次性心腎症候群)に罹患していなかった。心腎症候群及びその様々な形態の定義については、Roncoら, Intensive Care Med (2208), 34:957-962を参照のこと。
【0155】
患者(臨床的に安定)は、少なくとも4週間にわたって様々な抗炎症治療を受けた:
群1:ACE阻害薬単独による治療;
群2:スピロノラクトン、すなわちアルドステロン拮抗薬と組み合わせたACE阻害薬による治療。
【0156】
前記バイオマーカーのレベルを、以下の市販のイムノアッセイキットを用いて測定した。
【0157】
前記バイオマーカーの尿中レベルを、以下の市販のイムノアッセイキットを用いて測定した。
【0158】
L-FABPはCMIC Co., Ltd, 日本のL-FABP ELISAキットを用いて測定した。検査はELISA 2-ステップアッセイに基づく。L-FABP標準又は尿サンプルを、まず前処理溶液で処理し、アッセイバッファーを含有する抗L-FABP抗体被覆マイクロプレートに移し、インキュベートする。このインキュベーション中に、反応溶液中のL-FABPは固定化された抗体に結合する。洗浄後、二次抗体-ペルオキシダーゼコンジュゲートを二次抗体として添加し、インキュベートし、それにより、固定化抗体とコンジュゲート抗体の間にサンドイッチされたL-FABP抗原の複合体を形成する。インキュベーション後、プレートを洗浄し、酵素反応のための基質を添加し、L-FABP抗原量に応じた色を発色させる。L-FABP濃度を光学密度に基づいて測定する。
【0159】
ヒトKIM-1を、捕捉抗体(ヤギ抗ヒトKIM-1)及び検出抗体(ビオチン化ヤギ抗ヒトKIM-1)を含有するR&D-SystemsのヒトKIM-1(カタログ番号DY1750)ELISA Developmentキットによって測定した。試薬希釈液中の2倍連続希釈を用いた7点標準曲線及び2000pg/mLの高標準が推奨される。
【0160】
NT-proBNPの血清レベルを、Roche DiagnosticsのElecsys(登録商標)proBNP IIアッセイによって測定した。
【0161】
前記研究のバイオマーカー濃度及びL-FABP/KIM-1比を以下の表にまとめる。
【表1】

【0162】
【表2】

【0163】
表2は、血清中のNT-proBNPのレベルが上昇すると、尿中のL-FABP及びKIM-1の量も同様に増加することを示す。このことは、腎臓の尿細管損傷及び付随する修復の程度が、心不全の程度に依存することを示す。
【0164】
図2は、NT-proBNPの量が増加するに伴い、L-FABP/KIM-1比が増加することを示す。このことは、心不全の進行に伴い、修復が低下することを示す。
【0165】
スピロノラクトンの投与は、腎臓の尿細管損傷の退行(図3を参照)及び尿細管修復の低下(図4を参照)をもたらす。従って、L-FABP及びKIM-1レベルの上昇を有する患者は、付加的スピロノラクトン治療から恩恵を受ける。特に、NT-proBNPレベルの有意な増加を有する患者は、前記治療から恩恵を受ける。
【実施例2】
【0166】
ステント移植を含む冠動脈造影を受け、従って明らな心不全のリスクが上昇していた、心不全の臨床証拠がない合計64人の患者を、L-FABP及びKIM-1について検査した。患者は41人が男性であり、23人が女性であった(平均年齢62.3歳)。NT-proBNP中央値は397pg/mlであることが見出された(25及び75パーセンタイルは134pg/ml及び1220pg/ml)。全ての患者は明らかな心不全を有していなかったため、アルドステロン拮抗薬による治療を受けている患者はいなかったが、全ての患者はACE阻害薬を与えられていた。患者は、任意の形態の心腎症候群(急性及び慢性心腎症候群、急性及び慢性腎心症候群、二次性心腎症候群)に罹患していなかった。心腎症候群及びその様々な形態の定義については、Roncoら, Intensive Care Med (2208), 34:957-962を参照のこと。
【0167】
血管造影及びステント移植前に尿及び血漿サンプルを得て、全ての患者は最近3週間以内に臨床的に安定であり、クレアチニンレベルが正常範囲内であることによって示されるように、全ての患者で腎臓機能は正常範囲内であった。
【0168】
血液を30分以内に遠心し、得られた血清を-20℃で検査まで保存した。尿サンプルも分注して-20℃で検査まで保存した。
【0169】
検査を前に記載したように行った。
【0170】
結果:
パーセンタイル L-FABP KIM-1 L-FABP/KIM-1 NT-proBNP
(pg/ml) (pg/ml) (pg/ml) (pg/ml)
25 3.8 0.277 6.8 134
50 6.8 0.56 13.2 397
75 12.2 0.75 26.1 1220
【0171】
結論:
確認された冠動脈疾患を有するが、明らかな心不全の証拠がない(しかし心機能が損なわれている)患者は、明らかな心不全を有する患者の範囲内のL-FABP及びKIM-1レベル、並びに中程度に上昇したNT-proBNPレベル(600pg/ml未満のNT-proBNP)を有した。
【0172】
このことは、個体における心機能の障害が、腎臓損傷に罹患するリスクと関連することを示す。そのような患者は、心不全患者のように、アルドステロン拮抗薬治療から恩恵を受けうる。本分野における以前の理解に反して、そのような患者は、心不全患者のように、アルドステロン拮抗薬治療から恩恵を受けうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、腎臓損傷を診断する方法であって、以下のステップ:
a)被験体の尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定するステップ;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップ;
c)場合によりL-FABP/KIM-1比を形成するステップ;並びに
腎臓損傷を診断するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
以下の付加的ステップ:
被験体の血清サンプル中のナトリウム利尿ペプチド又はその変異体の量を測定するステップ;
ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップ;
疑われる疾患を診断するステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
L-FABP/KIM-1比が形成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ナトリウム利尿ペプチドが、NT-proBNP若しくはその変異体、BNP若しくはその変異体、ANP若しくはその変異体、又はNT-proANP若しくはその変異体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
腎臓損傷が尿細管損傷及び/又は尿細管修復である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
高い値のL-FABP/KIM-1比をもたらす、対応する参照量に対するL-FABP若しくはその変異体の量の増加、及びKIM-1若しくはその変異体の量の減少が、腎臓の進行性尿細管損傷の指標となる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
参照量と比較した、L-FABP/KIM-1比の増加、及びNT-proBNP若しくはその変異体の量の増加が、心不全の進行に伴い尿細管修復が低下することを示す、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
NT-proBNPについての>約300pg/ml、好ましくは>約450pg/ml、より好ましくは>約600pg/mlの参照量、及びL-FABPについての>約5μg/gクレアチニン、好ましくは>約7.5μg/gクレアチニン、より好ましくは>約10μg/gクレアチニンの参照量が、心不全関連腎疾患の指標となる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
<約13.5、好ましくは<約11、より好ましくは<約8.5のL-FABP/KIM-1比が、腎臓の尿細管損傷に対して優勢な修復の指標となる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
>約13.5、好ましくは>約20、より好ましくは>約30、特に>約40のL-FABP/KIM-1比が、腎臓の尿細管修復に対して優勢な損傷の指標となる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
心不全関連腎臓損傷に罹患している被験体が適切な治療に感受性であるかどうかを決定する方法であって、以下のステップ:
a)被験体の尿サンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を測定するステップ;
b)場合によりL-FABP/KIM-1比を形成するステップ;
c)ステップa)及び/又はb)で測定された量を参照量と比較し、それにより腎臓損傷を診断するステップ;並びに
d)適切な治療を決定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項12】
被験体において心筋梗塞を診断する方法であって、以下のステップ:
a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチド及び/又はトロポニンTの量を測定するステップ;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較するステップ;並びに
c)心筋梗塞を診断するステップ
のうち少なくとも1つを含む、前記方法。
【請求項13】
心不全に罹患しているか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、治療中に腎臓損傷をモニタリングする方法であって、以下のステップ:
a)被験体のサンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体、及び場合によりナトリウム利尿ペプチド若しくはその変異体の量を測定するステップ;
b)場合によりL-FABP/KIM-1比を形成するステップ;
c)ステップa)及び/又はb)で測定された量を参照量と比較し、腎臓損傷を診断するステップ;
d)治療中にステップa)〜c)を反復するステップ
を含む、前記方法。
【請求項14】
心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、腎臓損傷を診断するためのデバイスであって、以下:
a)被験体のサンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定する手段;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較する手段
を含み、それにより、デバイスが腎臓損傷の診断に適したものである、前記デバイス。
【請求項15】
心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、腎臓損傷を診断するためのキットであって、以下:
a)被験体のサンプル中の肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体、及び腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定する手段;
b)ステップa)で測定された量を参照量と比較する手段
を含み、それにより、キットが腎臓損傷の診断に適したものである、前記キット。
【請求項16】
心不全を有するか、又は心不全に罹患していることが疑われる被験体において、腎臓損傷を診断又は検出するための、該被験体の尿サンプル中の、a)肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)若しくはその変異体の量を測定する手段、及びb)腎臓損傷分子1(KIM-1)若しくはその変異体の量を測定する手段の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−525571(P2012−525571A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507774(P2012−507774)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055868
【国際公開番号】WO2010/125165
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】