説明

遮へい体とその取付け装置

【課題】
配管に対する放射線遮へい体の取付けを、遠隔作業で行うことによって、取付け作業に伴う作業員の被ばく量を低減すること。
【解決手段】
本発明は、上記課題を解決するために、全体として筒状であり、一方に切れ目がある形状である遮へい部材からなり、前記遮へい部材の切れ目を円筒状の放射線源に押付けることで、該放射線源の周囲を囲うように嵌ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮へい体とその取付け装置に係り、特に、原子力発電所のように、遠隔操作により配管に取付けが容易な遮へい体とその取付け装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所をはじめとする放射性物質を大量に取り扱うプラントの配管には、しばしば強い放射能を持つ液体や気体が流されていることがある。このような配管付近の放射線量は高くなるため、人間が工事や移動のため近づくと放射線を大量に被ばくしてしまう。
【0003】
そこで、このような配管で、人間が近づく必要があるものについては、配管の回りに放射線を遮へいするための遮へい体を置くのが普通である。
【0004】
配管から放出される放射線を遮へいするための、遮へい体の従来の技術としては、例えば特許文献1の例がある。
【0005】
この特許文献1では、配管の回りを覆うために半円筒形状の遮へい体2個をスナップ錠で結合する構造になっており、配管からの放射線を有効に遮へいすることができる。
【0006】
この例の他にも、配管回りを覆う方式としては、2個の半円筒形の遮へい体を外側から結束したり、接着剤で接着したりするものが従来用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-128116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの遮へい体の取付け作業を、現に強い放射線を出している配管に対して行なおうとすると、作業員が近づいて作業しなければならないため、作業員の被ばく量が大きくなるという問題がある。
【0009】
そして、この問題は、遮へい体のスナップ錠の操作や結束、接着といった工程を遠隔操作機器を使って行なうことが、現状では難しいために回避しがたい。
【0010】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、配管に対する放射線遮へい体の取付けを、遠隔作業で行うことによって、取付け作業に伴う作業員の被ばく量を低減することのできる遮へい体とその取付け装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の遮へい体は、上記目的を達成するために、全体として筒状であり、一方に切れ目がある形状である遮へい部材からなり、前記遮へい部材の切れ目を円筒状の放射線源に押付けることで、該放射線源の周囲を囲うように嵌ることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の遮へい体の取付け装置は、上記目的を達成するために、上記構成の遮へい体を保持する保持手段と、前記遮へい体を円筒形の放射線源に押付ける押付け手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遮へい体を配管に押付けるだけの動作で配管に取付け可能であるため、遠隔操作式の装置によって容易に配管に取付けることが可能である。また、本発明の遮へい体は配管の全周を覆うため遮へい体のすき間からの放射線の漏れを少なく出来るという効果がある。更に、本発明の遮へい体取付け装置を使うことにより、遠隔操作により遮へい体を取り付けることが可能となるため、遮へい体の取付け作業における、作業員の放射線被ばく量を低減する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の遮へい体の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1の遮へい体を長手方向から見た図である。
【図3】図1の遮へい体の展開図である。
【図4】本発明の遮へい体取付け装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の遮へい体の取付けツールを示す拡大図である。
【図6】本発明の遮へい体の取付けツールの動作を表す図である。
【図7】本発明の遮へい体の取付けの手順を説明するための図である。
【図8】本発明の遮へい体にサポート取付け金具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図9】図8の遮へい体を長手方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図示した実施例に基づいて、本発明の配管用遮へい体とその取付け装置を説明する。
【実施例1】
【0016】
まず、図1乃至図3を用いて本発明の遮へい体の構造について説明する。
【0017】
図1は、遮へい体1の概形を示している。図2は、遮へい体1を長手方向から見た図であり、図3は、遮へい体の展開図である。
【0018】
該図に示す如く、遮へい体1はカールした形状になっており、遮へいシート2、板ばね3および強磁性体である鉄板4から構成されている。カールした遮へいシート2の外側に(長手方向から見て)は、C字型の複数の板ばね3が取り付けられており、遮へい体1の下部には、長手方向に沿って細長い鉄板4が取り付けられている。
【0019】
遮へいシート2は、放射線を遮へいする効果がある物質によって構成される柔軟な矩形のシート状のものである。具体的な材質としては、タングステンなどの放射線遮へい効果が高い元素を含むゴム状の樹脂が適している。他には、積層した鉛板を布でパッケージしたものなどを使っても良い。また、板ばね3は、ばね鋼でできており、板ばね3の形状と弾性により、遮へい体1の形状をカールしたものにしている。
【0020】
なお、遮へいシート2の一方の縁5は、カール形状の内側に入っており、反対側の縁6は外側から見える位置にある。また、縁6は遮へいシート2に接着されており、この接着がはがれた場合は板ばね3の弾性で、遮へい体1は、更に小さくカールした形状となる。また、接着の強さは、板ばね3の弾性力とつりあう程度であり、強い外力を加えると剥離するようになっている。
【0021】
次に、図4乃至図6を用いて本発明の遮へい体取付け装置50の構造について説明する。
【0022】
図4に示すように、遮へい体取付け装置50は、遠隔操作されて自走する台車51と遮へい体取付けツール52とロボットアーム53から構成されている。遮へい体取付け装置50は、図示しない外部の操作卓54からの無線信号に基づいて動作する。
【0023】
台車51はバッテリー、モータ、無線機等を有しており、操作卓54からの無線信号に従って、前進、後退、旋回の動作を行う。ロボットアーム53は、台車51上に設置され、複数の関節を有しており、その先端に遮へい体取付けツール52が取り付けられている。ロボットアーム53は、操作卓54からの無線信号に基づいて各関節を動作させて、遮へい体取付けツール52を三次元的に移動させることができる。
【0024】
遮へい体取付けツール52を拡大したものが図5であるが、図5(a)が平面図(図4の上方向から見た図)、図5(b)が正面図(図4で紙面左側から見た図)、図5(c)が右側面図(図4の紙面に向かって見た図)である。
【0025】
該図に示す如く、遮へい体取付けツール52は、正面方向から見るとU字形であり、側面方向から見ると押さえ棒60、61が複数立っているのが見える。また、底面には電磁石62となっている部分が存在し、必要に応じて磁力を発生することができるようになっている。
【0026】
遮へい体取付けツール52の両側面に設けられている押さえ棒60、61のうち、一方の押さえ棒61は可動式であり、通常は、図6(a)形状となっているが、必要に応じて押さえ棒61を図6(b)のように、図面左方向に動かす駆動機構が備えられており、押さえ棒60と押さえ棒61の間にある物をはさみ込むことができる。
【0027】
次に、遮へい体取付け装置50を使って、遮へい体1を配管70に取付ける手順について図7を使って説明する。
【0028】
該図に示す如く、まず、遮へい体1の鉄板4を下側にして、鉄板4と遮へい体取付けツール52を電磁石62の上に載せる。この作業は人手によって、放射線被ばくの恐れが少ない場所で行うのが良い。この状態で電磁石52に電流を流して、磁力によって遮へい体1を遮へい体取付けツール52に固定する。
【0029】
次に、操作卓54をによって、台車51をコントロールして遮へい体1を取付ける配管70の下まで移動させる。更に、操作卓54によって、ロボットアーム53を操作して、遮へい体取付けツール52を配管70の真下に移動させ、かつ、遮へい体取付けツール52と配管70が平行になるように姿勢を調整する。この状態を配管70の断面方向から見た図が、図7(a)である。
【0030】
次に、ロボットアーム53を駆動して、遮へい体取付けツール52を真上に移動させる。このとき遮へい体1と配管70が接触して押付けられるが、押付け力によって、縁6の接着部が剥離するとともに、配管70が遮へい体1の中へ押し込まれる。このときの状態を配管70の断面方向から見た図が、図7(b)である。
【0031】
ここで、縁6の接着部が剥離しているので、板ばね3の弾性によって遮へい体1は使用前の状態より小さく丸まろうとするが、縁6と遮へいシート2の当たりかたによっては、小さく丸まらないことがある。
【0032】
そこで、次に、電磁石62に流れる電流を止めて、遮へい体1の遮へい体取付けツール62に対する固定を解除した後に、押さえ棒61を動かして遮へい体1を、押さえ棒60との間にはさみ込むことによって、遮へい体1が小さく丸まることを促す。このときの状態を配管70の断面方向から見た図が、図7(c)である。
【0033】
ここまでの動作で、遮へい体1の取付けは終了であり、配管70の全周が遮へい体1で覆われた状態となる。その後は、押さえ棒61を元の位置に戻して、ロボットアーム53を駆動して、遮へい体取付けツール52を下げて、次の作業に移ればよい。
【0034】
なお、配管70の放出する放射線が強く、遮へい体1を1枚使っただけでは遮へい効果が不十分な場合は、遮へい体1の上に、さらに別な遮へい体1を取り付けることを繰り返せばよい。
【0035】
また、遮へい体1を取付けようとする配管70にサポートがあって、サポートと遮へいシート2が干渉して取り付けの妨げとなる場合は、遮へいシート2のサポートと干渉する部分に、板ばね3と平行な方向に切れ込みを入れればよい。なお、このとき遮へい体1を、遮へい体取付けツール52に置くときは、切れ込みの位置が、図5(a)における上下方向について、押さえ棒60、61のすき間の位置と一致するように置く必要がある。
【0036】
このように置けば、遮へい体1の取付け時にサポートは押さえ棒60、61のすき間の位置に来るので、遮へい体1の取付けの妨げにならない。
【0037】
以上のようにして、本発明を利用して配管70に対し、遠隔作業により遮へい体1を取付けることができる。
【0038】
しかし、放射線を効率よく遮へいする遮へい体は一般に重量が大きいために、取付け対象の配管や配管サポートが遮へい体の重量に耐えられなくなる可能性がある。そのような場合、遮へい体自体を支持するサポートが必要となる。そこで、本発明では以下のようにして、遮へい体用のサポートを取付ける手段を提供する。
【0039】
遮へい体用サポートを設ける必要がある場合に使用する遮へい体1の外観を図8及び図9に示す。
【0040】
図1及び図2に示した通常の遮へい体1との違いは、サポート取付け金具7を有していることである。サポート取付け金具7は、鉄板4と一体に成形されるか、或いは溶接されている。サポート取付け金具7の両端には、外側に突き出た耳9があり、耳9にはそれぞれサポート取付け穴8が開けられている。
【0041】
この遮へい体1を使用する場合、まず遮へい体1を配管70に取付ける。取付け手順は、図1、図2に示した遮へい体1とほぼ同様である。
【0042】
ただし、遮へい体1を遮へい体取付けツール52に置くとき、耳9が押さえ棒60、61と干渉しないよう、棒のない部分に配置する。このようにして、遮へい体1を取付ける必要がある範囲に一通り取付ける。
【0043】
この時点で、配管70は遮へいが完了しており、サポートの取付け作業は人によって行なっても、配管70からの放射線被ばくの量が大きくなることはないので、人手によってサポートの取り付け作業を行なえばよい。
【0044】
なお、サポートと耳9の接続については、サポート取付け穴8に先端部がテーパ状になっているサポート部材の先端を下側から差し込んで支持するようにするなど、様々な方法が考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1…遮へい体、2…遮へいシート、3…板ばね、4…鉄板、5、6…縁、7…サポート取付け金具、8…サポート取付け穴、9…耳、50…遮へい体取付け装置、51…台車、52…遮へい体取付けツール、53…ロボットアーム、54…操作卓、60、61…押さえ棒、62…電磁石、70…配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として筒状であり、一方に切れ目がある形状である遮へい部材からなり、前記遮へい部材の切れ目を円筒状の放射線源に押付けることで、該放射線源の周囲を囲うように嵌ることを特徴とする遮へい体。
【請求項2】
請求項1に記載の遮へい体において、
前記遮へい部材は、カールした形状のシート状であり、かつ、弾性を有することを特徴とする遮へい体。
【請求項3】
請求項2に記載の遮へい体において、
前記遮へい部材は、弾性を持たせるためにC字型の弾性部材を複数並べて形成されていることを特徴とする遮へい体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の遮へい体において、
前記遮へい部材の一辺を、該遮へい部材の別の箇所に接着していることを特徴とする遮へい体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の遮へい体において、
固定用の強磁性体を有することを特徴とする遮へい体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の遮へい体において、
前記遮へい体を支持する支持部材を取り付ける部位を有することを特徴とする遮へい体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の遮へい体を保持する保持手段と、前記遮へい体を円筒形の放射線源に押付ける押付け手段とを備えていることを特徴とする遮へい体取付け装置。
【請求項8】
請求項7に記載の遮へい体取付け装置において、
前記保持手段として磁力を用いることを特徴とする遮へい体取付け装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の遮へい体取付け装置において、
前記押付け手段は、押付け力を発生する方向と直交する方向に、前記遮へい体を挟みこむ力を加える手段を有することを特徴とする遮へい体取付け装置。
【請求項10】
請求項9に記載の遮へい体取付け装置において、
前記遮へい体をはさみ込む力を加える手段の該遮へい体と接する部分が、複数の柱状の形状であることを特徴とする遮へい体取付け装置。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の遮へい体取付け装置において、
動力を有して移動する機能を持った移動手段を有することを特徴とする遮へい体取付け装置。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか1項に記載の遮へい体取付け装置において、
前記押付け手段がロボットアームであることを特徴とする遮へい体取付け装置。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれか1項に記載の遮へい体取付け装置において、
外部との通信手段を有し、該通信手段によって受ける信号に基づいて動作することを特徴とする遮へい体取付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−108922(P2013−108922A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255967(P2011−255967)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)