説明

遷臨界冷凍システムの高圧側圧力制御

遷臨界蒸気圧縮システムを幅広い範囲の熱供給温度に亘る作動エンベロープ適応させるため、高圧側圧力は、コンデンサおよびエバポレータの作動条件により判断される所定のレベルに維持される。コントローラは、所望の高圧側圧力を維持すべく、コンデンサおよびエバポレータにおいて検知された冷媒状態に応じて膨張装置を変動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式冷凍システムに関し、特に、幅広い蒸発圧力を有するCO2蒸気圧縮システムにおける高圧側の圧力を最適化する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒としてCO2を用いる蒸気圧縮システムの作動は、CO2の低い臨界温度(約31℃)によって特徴付けられる。多くの作動条件では、CO2の臨界温度は、ヒートシンクの温度よりも低く、よって、蒸気圧縮システムは遷臨界運転となる。遷臨界運転では、臨界圧力よりも高い圧力で放熱(heat rejection)が生じ、臨界圧力よりも低い圧力で熱吸収が生じる。この運転モードの最も重要なことは、放熱プロセス中における圧力と温度が相変化プロセスによって結合されないことである。これは、凝縮圧力と凝縮温度(ヒートシンクの温度によって判断される)とをリンクさせる従来の蒸気圧縮システムとは異なる。遷臨界蒸気圧縮システムでは、ヒートシンクの温度に関わらず、放熱中の冷媒圧力は自由に選択され得る。しかし、一連の境界条件(ヒートシンクおよび供給源の温度、圧縮機の能力、熱交換器のサイズ、ラインの圧力低下)を与えることで、第1の「最適な」放熱圧が得られ、この圧力では、システムのエネルギー効率は上記一連の境界条件に関して最大値に達する。また、第2の「最適な」放熱圧が存在し、この圧力では、システムの冷却能力は上記一連の境界条件に関して最大値に達する。上記最適な圧力は周知であり、例えば、最大エネルギー効率は特許文献1,2に開示されており、最大加熱能力は特許文献3に開示されている。当該特許文献に記載の発明は全て本発明の譲受人に譲渡されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6568199号明細書
【特許文献2】米国特許第7000413号明細書
【特許文献3】米国特許第7051542号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一連の境界条件(熱供給の温度、圧縮機の能力、熱交換器のサイズ、ラインの圧力低下)を与えると、最適な放熱圧は、主にヒートシンクの温度に依存する。CO2システムの従来の制御方法は、冷媒放熱型熱交換器出口における冷媒温度、またはヒートシンクの温度、あるいは制御入力としての上記温度の任意の表示を利用して、放熱圧を制御していた。しかし、移動冷凍ユニットなどの幅広い範囲の熱供給温度(例えば、−20°F(約−28.8℃)から57°F(約13.8℃))に亘る運転エンベロープに対して設計されたシステムでは、最適な高圧側圧力をヒートシンクの温度に関連づけることだけでは十分でない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によると、相対的に幅広い範囲に亘る熱供給温度を有するシステムでは、CO2蒸気圧縮システムにおける高温側圧力の制御は、高圧側(すなわち、冷却器において)の冷媒条件だけでなく、低圧側(すなわち、エバポレータにおいて)の冷媒条件にも依存する。
【0006】
本発明の他の態様によると、冷却器において検知された温度条件に加えて、種々の検知されたエバポレータにおける圧力条件や温度条件を種々の組み合せによって用いて、最適な高温側圧力を判断する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】遷臨界冷凍システムに組み込まれた本発明の一実施例を示す概略図。
【図2】本発明の他の実施例を示す概略図。
【図3】本発明のさらに別の実施例を示す概略図。
【図4】本発明のプロセスを示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1〜3は、冷媒蒸気圧縮システム10を示しており、該システム10は、生鮮製品を輸送する冷凍コンテナ、トレーラ又はトラックの温度制御されたカーゴスペース11の冷却に関連する。しかし、この冷媒蒸気圧縮システムは、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、レストラン、あるいは他の商業施設に関連した冷却展示用陳列棚または低温室への冷却空気の供給、もしくは、住宅、オフィスビル、病院、学校、レストラン、あるいは他の施設における温度調整される快適領域に供給する空気の調和と組み合わせて用いてもよい。冷媒蒸気圧縮システム10は、圧縮装置12と、通常コンデンサ又はガス冷却器と呼ばれる冷媒放熱型熱交換器13と、膨張装置14と、冷媒吸熱型熱交換器つまりエバポレータ16と、を備えており、これらの構成要素は、冷媒の流れにおいて直列に接続された冷媒閉回路を構成する。
【0009】
主に環境のため、冷媒として「天然の」冷媒である二酸化炭素が蒸気圧縮システム10に用いられる。二酸化炭素は臨界温度が低いため、蒸気圧縮システム10は、遷臨界(トランスクリティカル)圧縮領域で作動するように設計される。つまり、輸送式冷媒蒸気圧縮システムは、二酸化炭素の臨界点(31.1℃(88°F))を越える環境空気温度を有する環境下で作動し空気冷却される冷媒放熱型熱交換器を有しており、該システムは、二酸化炭素の臨界圧力(7.38MPa(1070psia))を越える圧縮機吐出圧で作動する必要があり、したがって、遷臨界サイクルで作動する。このため、放熱型熱交換器13は、コンデンサとしてよりも、むしろガス冷却器として作動し、冷媒の臨界点を越える冷媒温度および圧力で作動する。他方、エバポレータ16は、亜臨界領域で冷媒温度および圧力で作動する。
【0010】
高圧力はシステムの能力および効率に多大な影響を与えるため、遷臨界蒸気圧縮システムの高圧側の圧力を調節することが重要である。したがって、本発明は、蒸気圧縮システム10内に種々のセンサを備え、該センサは、種々の点における冷媒の状態を検知し、高圧側圧力を最適化してシステムの能力および効率を向上させるようにシステムを制御する。
【0011】
図1の実施例に示すように、センサS1,S2,S3は、蒸気圧縮システム10内の種々の位置において冷媒の状態を検知するように配設される。検知された値は、理想の高温側の空気圧を判断するためコントローラ17に送られ、実際に検知された理想の高温側空気圧と理想的な高温側空気圧とが比較されて、圧力差を減少または排除するために適切な処置が施される。センサS1は、コンデンサ13の出口温度TCOを検知し、対応する信号をコントローラ17に送る。センサS2は、エバポレータの出口圧PEOを検知し、対応する信号をコントローラ17に送る。上記2つの値から、コントローラは、ルックアップテーブル又は式/方程式PI=f(TS1,Ps2)から理想の高圧側圧力を得る。他方、センサS3は、実際の吐出圧つまり高圧側圧力PSを検知し、この値をコントローラ17に送る。次いで、コントローラ17は、理想の圧力PIと検知された圧力PSとを比較し、この圧力差を減少するように膨張装置14を調節する。検知された圧力PSが理想の圧力PIより低い場合、膨張装置14は閉位置へと移動し、検知された圧力PSが理想の圧力PIより高い場合、膨張装置14は開位置へと移動する。
【0012】
図2に本発明の他の実施例を示す。本実施例では、S1およびS3からの値は図1の実施例と同様の方法によって得られる。エバポレータの入口にセンサS4が配設され、このセンサによってエバポレータの入口圧力PEI又はエバポレータの入口温度TEIの一方の値が得られる。エバポレータの入口圧力PEIが検知されると、この検知された値は、コントローラ17に送られ、図1の実施例と異なるルックアップテーブルから理想の高圧側圧力が得られる。次いで、図1について説明したステップと同様のステップが行われる。
【0013】
センサS4がエバポレータの入口温度TEIを検知すると、この検知された値は、コントローラ17に送られて、対応するエバポレータの入口圧力PEIを得るためにルックアップテーブルに入力される。次いで、上記と同様のステップが行われる。
【0014】
図3に本発明のさらに別の実施例を示す。本実施例では、コンデンサ出口温度TCOでなく、センサS5,S6を配して、コンデンサに流入する冷却空気の温度(すなわち、環境空気の温度)TETおよびコンデンサ13から流出する空気の温度TLTを検知する。コントローラ17は、エバポレータ出口圧PEOおよびコンデンサ流入空気温度TETに基づき、あるいはエバポレータ出口圧PEOおよびコンデンサ流出空気温度TLTに基づき理想の高温側圧力PIを判断する。次いで、上記と同様のステップが行われる。
【0015】
図4に種々のセンサおよびコントローラ17の機能を説明するダイヤグラムを示す。ブロック18において、コンデンサ13の出口温度TCO、コンデンサ流入空気温度TET又はコンデンサ流出空気温度TLTが検知され、コントローラ17に送られる。ブロック19において、エバポレータの出口圧PEO、エバポレータの入口圧力PEI又はエバポレータの入口温度TEIが検知され、コントローラ17に送られる。ブロック21において、上記2つの値を用いて、前述のように、コントローラ17は理想の高圧側圧力PIを判断する。ブロック22において、圧縮機吐出圧つまり高圧側圧力PSが検知され、コントローラ17に送られる。ブロック23において、検知された圧力PSと理想の高圧側圧力PIとを比較して、この圧力差がブロック24に送られ、これに応じて、前述のように膨張装置14が調節される。
【0016】
図示した本発明の例示的な実施例について説明してきたが、上記説明は例示的なものであり、限定的なものではない。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更が加えられることを理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を高圧力に圧縮する圧縮装置と、
コンデンサ入口温度で冷媒を受け、より低い冷媒出口温度で冷媒を吐出し、かつ流入温度で冷却流体を受け、より高い流出温度で該流体を吐出するコンデンサと、
冷媒をより低い圧力へと減少させる膨張装置と、
入口圧で流入し出口圧で流出する冷媒を加熱しかつ蒸発させる吸熱型熱交換器と、
前記圧力の1つ又は検知された状態と組み合わせて、前記温度の1つに基づき冷媒の所望の高い圧力を判断するコントローラと、
を備える遷臨界蒸気圧縮システム。
【請求項2】
前記温度は、コンデンサ出口温度、コンデンサ空気流入温度およびコンデンサ空気流出温度からなる群から選択され、
前記圧力は、エバポレータ入口圧力、エバポレータ出口圧力および検知された圧力を示す状態からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
CO2蒸気圧縮システムにおける高圧側圧力を最適化する方法であって、
冷媒を高圧力に圧縮するステップと、
ヒートシンクを流れる冷却流体に冷媒の熱を与えて冷媒を冷却するステップと、
冷媒を低圧力に膨張させるステップと、
冷媒を蒸発させるステップと、
冷媒の冷却前又は冷却後に、冷媒又は冷却流体の一方の入口温度又は出口温度を示す特徴を測定するステップと、
冷媒を蒸発させるステップの前又は後に、入口圧力又は出口圧力を示す特徴を測定するステップと、
前記圧力の1つ又は検知された圧力を示す状態と組み合わせて、前記温度の1つに基づき冷媒の所望の高圧力を判断するステップと、
高圧力を所望の高圧力に調節するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記温度は、コンデンサ出口温度、コンデンサ空気流入温度およびコンデンサ空気流出温度からなる群から選択され、
前記圧力は、エバポレータ入口圧力、エバポレータ出口圧力および検知された圧力を示す状態からなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
冷媒を高圧力に圧縮する圧縮装置と、
冷却流体に冷媒の熱を与えて冷媒を冷却する放熱型熱交換器と、
冷媒を低圧力へと低減させる膨張装置と、
冷媒を蒸発させる吸熱型熱交換器と、
熱交換器から流出する冷媒、熱交換器に流入する冷却流体、又は熱交換器から流出する冷却流体の温度のいずれかを検知する温度センサと、
吸熱型熱交換器の入口又は出口における冷媒圧力を示す状態を検知するセンサと、
コントローラと、
を備え、
コントローラは、前記温度の1つと前記圧力の1つに基づき値を計算し、この値と記録された所定の値とを比較して、冷媒システムの効率を判断し、これに応じて冷媒システムを調節することを特徴とするシステム。
【請求項6】
前記温度は、コンデンサ出口温度、コンデンサ空気流入温度およびコンデンサ空気流出温度からなる群から選択され、
前記圧力は、エバポレータ入口圧力、エバポレータ出口圧力および検知された圧力を示す状態からなる群から選択されることを特徴とする請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
冷媒システムの能力を最適化する方法であって、
圧縮装置において冷媒を高圧力に圧縮するステップと、
放熱型熱交換器の冷却流体に冷媒の熱を与えて冷媒を冷却するステップと、
膨張装置において冷媒を低圧力に膨張させるステップと、
吸熱型熱交換器において冷媒を蒸発させるステップと、
冷媒の冷却前又は冷却後に、冷媒出口温度、あるいは冷却流体の入口温度又は出口温度を検知するステップと、
冷媒を蒸発させる前又は後に、冷媒の入口圧力又は出口圧力を示す状態を検知するステップと、
前記温度の1つと前記圧力の1つに基づいてシステムの作動状態を示す値を計算するステップと、
冷媒システムの効率を判断するように、計算された値と記録された所定の値とを比較するステップと、
これに応じて冷媒システムを調節するステップと、
を含む方法。
【請求項8】
前記温度は、コンデンサ出口温度、コンデンサ空気流入温度およびコンデンサ空気流出温度からなる群から選択され、
前記圧力は、エバポレータ入口圧力およびエバポレータ出口圧力からなる群から選択されることを特徴とする請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−504746(P2012−504746A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530125(P2011−530125)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/058543
【国際公開番号】WO2010/039630
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(591003493)キャリア コーポレイション (161)
【氏名又は名称原語表記】CARRIER CORPORATION