説明

遺伝子導入法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、骨髄細胞を増殖させる能力のあるB細胞分化因子(以下BCDFと記す)を用いた効率の良い骨髄細胞に対する遺伝子導入法に関する。
本発明の方法は、特に、ヒトに対する遺伝子治療あるいは遺伝子導入による動物の病態モデルの作成に適用できる。このような応用においては、遺伝子を自家骨髄細胞に挿入した後この細胞を骨髄移植したり、あるいは既に遺伝子が導入されている他のトランスジェニック動物の骨髄細胞を移植して血球系細胞に外来の導入遺伝子を持つ個体を作ることが出来る。
(従来の技術)
遺伝子に欠陥があることが原因でおきる疾患が数多く知られている。例えば、グロビン遺伝子の欠陥であるサラセミア、アデノシンデアミナーゼ欠損症、ファクターVIIIやファクターIXの欠陥による血友病等々である。また、高血圧症、関節リウマチ、糖尿病、そううつ病等、生来の遺伝子欠陥あるいは遺伝子パターンが病気の素地を作っていると考えられている病気も多い。
人間に於いてこれら欠陥遺伝子による症状を正常の遺伝子を導入することにより治療しようという試み即ち遺伝子治療が試みられている。この場合、生殖細胞に遺伝子を導入することは倫理的な問題があり、もっぱら体細胞に対する遺伝子導入が試みられている。遺伝子治療において遺伝子を導入する体細胞として第1に考えられているのは骨髄細胞である。
一方、病気の原因を探るためにも生態の機構を探るためにも病態モデル動物は重要であるが、遺伝子を導入して病態モデル動物を作ることが盛んに行われている。この場合は一般に生殖細胞に遺伝子を導入する方法がとられるが、この方法では体のあちこちで導入遺伝子が発現して生体に複雑な影響を与え、生体の異常を解析することに困難を伴う場合がある。したがって、場合によっては、特定の体細胞例えば骨髄細胞のみに遺伝子を導入する必要が生じる。
骨髄細胞に遺伝子を導入する方法としてはレトロウィルスを用いる方法、エレクトロポレーション法等が知られている。
レトロウィルスを用いる方法では、レトロウィルスを産生する細胞、すなわちヘルパー細胞に導入したい遺伝子をトランスフェクションすることにより、導入したい遺伝子を含有するレトロウィルス粒子を得る。レトロウィルスは骨髄細胞に感染し内在する遺伝子を細胞内に放出する。放出された遺伝子は細胞の染色体に組込まれる。
エレクトロポレーション法では、レトロウィルスを用いる代りに電気ショックにより細胞膜に瞬間的に孔を開け、細胞外の溶液中に存在している遺伝子を細胞内に流入させる。この遺伝子が細胞の染色体に組込まれる。
その他、遺伝子をリポソームに組込み、リポソームと細胞膜の融合を利用して遺伝子を細胞内に導入する方法もある。
これらの方法の中で最も遺伝子導入効率が良いとされているのはレトロウィルスを用いる方法である。
骨髄細胞に遺伝子を導入する場合、遺伝子は骨髄細胞中の血球系幹細胞(以下、単に幹細胞と記する)に導入される必要がある。全ての血球系細胞は幹細胞から分化してでき、分化の最終段階に到達した細胞は一定の寿命の後死滅する。しかし幹細胞は適当に分裂増殖し一定の数を保つことが出来る。したがって、幹細胞に遺伝子を導入出来れば、その個体の一生にわたって、導入された遺伝子を持つすべての血球系細胞を得ることが出来る。
骨髄細胞中には幹細胞以外に既に分化した細胞が存在する。分化した細胞に遺伝子が導入された場合は、その細胞がいずれは死滅するため、導入遺伝子は消滅する。通常の場合、導入遺伝子はその個体中に一生維持されていることが必要である。ところが、骨髄細胞中の幹細胞の割合は0.1%以下と言われており非常に密度が低い。したがって、レトロウィルスを用いても、幹細胞に遺伝子を導入することは容易なことでない。
更に骨髄細胞においては、移植を受ける側の骨髄細胞をX線照射により殺しておいて、遺伝子を導入した細胞を移植する。このことにより、遺伝子を導入された細胞だけが骨髄に定着し、全血球系細胞を作るようになる。
導入した幹細胞のうち全血球系細胞を作る細胞は限られた数の細胞であるといわえている(I.R.Lemischkaら、Cell,45,917,1986)ことから、遺伝子導入操作をした細胞中に遺伝子が発現出来るような形で組込まれた細胞以外の幹細胞が存在していると、導入遺伝子が存在していない細胞および/または遺伝子が導入されていても発現できないような形で組込まれている細胞で血球系細胞全体あるいは多くの部分が占められるようになり、遺伝子導入の本来の目的を達成することが出来ない。
したがって、(1)in vitroで効率良く幹細胞に遺伝子を導入すること、(2)遺伝子を導入された幹細胞をin vitroで増殖させて絶対数を増加させること、および/または(3)発現される形で遺伝子が導入された幹細胞のみをin vitroで選択すること、等が幹細胞への遺伝子導入に必要な技術として求められている。
さらに詳しく説明すると、第1の問題では、骨髄中の幹細胞の多くは休止状態にあるといわれているが、レトロウィルスで遺伝子導入する際、導入される細胞は少なくともセルサイクルを1回転する必要があるため、休止状態にある幹細胞をなんらかの方法でセルサイクルを回転させる必要がある。
次に第2の問題であるが、さきに述べたように骨髄細胞中の100%の幹細胞に遺伝子導入するのは容易なことでなく、仮に遺伝子導入率が低くとも、遺伝子導入細胞をin vitroで増殖させることができれば、遺伝子治療やトランスジェニック動物を作るのに必要な遺伝子導入された幹細胞の絶対数を得ることが出来る。
第3の問題も重要である。幹細胞では多くの遺伝子がその発現を抑えられている状態にあり、導入した遺伝子の染色体上の位置によっては遺伝子の発現が抑えられ、以後、幹細胞の分化が進んでも、導入遺伝子の発現が抑えられたままになってしまう場合がある。
この問題を解決する手段の一つとして、導入遺伝子の中に適当なマーカー遺伝子を組入れておき、このマーカーが発現している幹細胞のみを選別し、これを骨髄移植してやる方法がある。マーカーとしては薬剤耐性遺伝子、例えばネオマイシン耐性遺伝子やハイグロマイシン耐性遺伝子等が用いられる。これら薬剤耐性遺伝子を組込んだ遺伝子を導入した遺伝子を対応する薬剤の存在下で培養することにより、この薬剤耐性遺伝子が発現している幹細胞のみを選別出来ることが予想出来る。これ以外のマーカーとして、例えばレトロウィルスベクターに組込んだβ−ガラクトシデースDNAを用いて細胞にβ−ガラクトシデースDNAを遺伝子導入し、さらにβ−ガラクトシデースの蛍光性基質を用い、β−ガラクトシデースが発現すると細胞が蛍光を発するようになることを利用し、フローサイトメトリー(FACS)で選別することも考えられる(G.P.Nolanら、Proc.Natl.Acad、Sci.,85,2603,1988)。
生殖細胞に遺伝子導入して得られた動物、例えばトランスジェニックマウスの骨髄細胞を他のマウスに骨髄移植する場合も同様なことが言える。すなわち、トランスジェニックマウスの幹細胞に導入されている遺伝子は全てが発現出来る状態であるとは限らず、発現出来る状態にある幹細胞のみを選別して移植してやる必要がある。
これら第1〜3の問題を解決するのに共通な技術は幹細胞のin vitro培養技術である。幹細胞の培養方法としてDexterらが開発した骨髄のストローマ細胞を支持細胞とした培養系の報告がある(T.M.Dexterら、J.Cell.Physiol.,91,335,1977)が、この様に複数の細胞集合による培養系では技術的に繁雑であり、また常に一定の結果が得られるとは限らないという問題点がある。
(発明が解決しようとしている課題)
従って、本発明の目的は、(1)幹細胞を含む骨髄細胞に対する効率の良い遺伝子導入法を提供すること、(2)種々の方法により遺伝子を導入された幹細胞を含む骨髄細胞を分裂増殖させ、大量の遺伝子導入された幹細胞を含む骨髄細胞を得る方法を提供すること、および/または(3)種々の方法で遺伝子導入された幹細胞を含む骨髄細胞より、導入遺伝子が発現している幹細胞を含む骨髄細胞を選別する方法を提供することである。
(課題を解決するための手段)
本発明者等は、BCDFを添加した培養液を用いることにより、遺伝子を導入された幹細胞を分裂増殖させることに成功し、本発明を完成した。
さらに、導入する遺伝子上に選別のための遺伝子、たとえば薬剤耐性遺伝子を組込んだ遺伝子構築物を幹細胞に導入し、対応する薬剤を添加した培養液中で遺伝子を導入した幹細胞を培養すると、薬剤耐性遺伝子が発現している細胞のみ増殖し、発現することの出来る形で遺伝子が組込まれた幹細胞だけを大量に調製することができるという知見も得た。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
幹細胞に遺伝子を導入する方法は、KANDA.Yら、生化学、第60巻、第12号、1381,1988に記載されているように、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、赤血球ゴースト法、プロトプラスト法、及びレトロウィルス法等が知られており、いずれの方法を用いることも出来るが、一般的にはレトロウィルス法が最も遺伝子導入効率が良いとされている。
このレトロウィルス法についてさらに説明すると、TEMIN.H.,Gene Transfer,edited by KUCHERLAPATI,R.,Plenum Press1986,p177.に記載されているように、レトロウィルスベクターに導入したい遺伝子及び薬剤耐性遺伝子たとえばネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neoと記す)、又はハイグロマイシン耐性遺伝子等を組込む。これら遺伝子を発現させるためのプロモーターは、レトロウィルスベクターのLTR(Long Terminal Repeat)を用いてもよいし、それ以外のinternal promoterを用いてもよいが、幹細胞中でよく働くチミジンキナーゼのプロモーターやβ−アクチンのプロモーター等が望ましい。
この様に構築したレトロウィルスベクターをψ2(R.Mannら、Cell,33,153,1983)又はψ−AM(R.D.Coneら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,6349,1984)等のヘルパー細胞にトランスフェクションし、レトロウィルスベクターを包含したレトロウィルス粒子の産生細胞を作製する。
マウスあるいはヒトの骨髄細胞を調製し、骨髄細胞にレトロウィルスを感染させる。感染は通常、骨髄細胞とウィルス粒子またはウィルス産生細胞を1日から2日混合培養することにより行う。
感染された骨髄細胞を、(1)BCDF単独又は(2)BCDF及びIL−3を含む培養液で定法に従い培養すればよい。但し、マウスの骨髄細胞を対象とする場合はヒトBCDF(BSF−2ともインターロイキン−6とも呼ばれる)又はマウスBCDFを用いることが出来るが、ヒト骨髄細胞を対象とする場合はヒトBCDFを用いる必要がある。尚、マウスの骨髄細胞を対象とする場合は、ヒトBCDF若しくはマウスBCDFにマウスIL−3若しくはヒトIL−3を組み合せて用いてもよい。また、ヒト骨髄細胞を対象とする場合には、ヒトBCDFにヒトIL−3を組み合せて用いてもよい。しかし、この場合はマウスIL−3を用いることはできない。尚、本発明においては、単にBCDFと表示すればヒト及びマウスの両方のDCDFを、また単にIL−3と表示すればヒト及びマウスの両方のIL−3を意味するものとする。
さて、濃度であるが、(1)BCDFを単独で用いる場合はBCDFを10〜500mg/ml、又は(2)BCDFとIL−3を併用して用いる時はBCDFを10〜500mg/ml及びIL−3を40〜500単位/ml含む培養液を用いればよい。好ましくは、BCDFを100ng/ml及びIL−3を200単位/ml含む培養液を用いると効果的に骨髄細胞を培養出来る。
ヒトBCDF、マウスBCDF、ヒトIL−3及びマウスIL−3については、そのアミノ酸配列及びそれをコードするDNA配列が既に知られている。詳細は下記の文献及び公報を参照されたい。ヒトBCDFについては特開昭63−42688号公報、マウスBCDFについてはProc.Natl.Acad.Sci.USA,85巻、7099頁、(1988年)、ヒトIL−3についてはCell,47巻、3頁、(1986年)、マウスIL−3についてはNature,307巻、233頁、(1984年)である。またBCDF及びIL−3は動物細胞で作成したものでも、原核生物を用いて作成したものでも良い。即ち、BCDF活性あるいはIL−3活性を有するものであれば如何なるものでも良い。
培養液はRPMI1640、Minimum Essential Medium(MEM)、Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)等である。
3〜7日毎に培養液(BCDF又はBCDFとIL−3の両方を含むもの)を新鮮なものに交換すると共に、細胞数が1×104〜1×106/ml程度になるように調整する。通常、2.5×105/ml程度に調整することにより効果的に骨髄細胞を増殖させることが出来る。約30日間の培養で骨髄細胞は30〜100倍に増加する。
レトロウィルスの感染によって通常10〜100%の骨髄細胞に遺伝子が導入されるが、導入遺伝子が発現している骨髄細胞のみを選択的に増加させたい場合には、培養液に薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を添加して遺伝子を導入した骨髄細胞を培養する。用いる薬剤は、例えばネオマイシン又はハイグロマイシン等である。添加薬剤の濃度は約100〜2000μg/mlである。高濃度の薬剤添加により、短期間で細胞を選別することが出来るが、導入遺伝子を安定して発現している骨髄細胞を得る為には、出来る限り長期間薬剤添加培養液で細胞を培養したほうが望ましい。
このようにして得た導入遺伝子を安定して発現している骨髄細胞を、現在用いられている骨髄移植の方法で移植する。すなわち、マウスの場合は通常、同系で1×104〜1×106個、ヒトの場合は1×108〜1×1010個の骨髄細胞を、予めX線により全ての骨髄細胞を死滅させたマウス又はヒトに静注することにより移植を行う。
以上のような方法で遺伝子導入された個体は長期にわたって、場合によっては一生涯、導入された遺伝子を発現している血球系細胞を保有することが出来る。例えば、ヒトβ−グロビン遺伝子をそのプロモーターを含む遺伝子制御領域とともに上述の方法でサラセミアの患者に導入すると、その患者の赤血球において導入したβ−グロビンが産生しつづけ、サラセミアの症状が改善され、それが一生涯にわたって維持されることが期待される。
以下実施例に従って説明する。
実施例 1 DBA/2マウスより骨髄細胞を調製し(KOIKE,K.ら、J.Exp.Med.,168,879,1988記載の方法によった)、10%牛胎児血清(FCS)含有RPMI1640培地にてプラスチックシャーレ(Falcon 3003,Falcon)中で2時間培養後、浮遊細胞のみを分離し、この操作を2回行った後、非付着性骨髄細胞を得た。この細胞を2.5×105/mlの濃度で、10mlの20%FCS含有RPMI1640培地にヒトBCDF[リコンビナントcDNA(T.Hiranoら、Nature,324巻、73頁、1986年)により大腸菌で調製し(N.Tonouchi,J.Biochem.,104巻、30頁、1988年)、精製した]を100ng/ml、及びマウスIL−3[リコンビナントマウスIL−3cDNA(Nature,307巻、233頁、1984年)によりCOS細胞で調製した(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81巻、1070頁、1984年)]を200単位/ml添加した培地で6日間培養した。(以下、マウスIL−3、ヒトBCDFの調製法、培地及び培養条件は同様に行った。また、他の実施例も同様に行った。)
6日後に培養細胞を回収し洗浄した。この得られた骨髄細胞を5×106個含む新鮮な培養液5mlに対し、第1図に示すレトロウィルスベクターpZipNeoSV(X)又はpDGLを含有するψ2ヘルパー細胞(R.Mannら、Cell,33,153,1985)(それぞれpZipNeoSV(X)/ψ2,pDGL/ψ2と呼ぶ。これらのタイターは、それぞれ1×104cfu/ml,2×105cfu/mlであった。タイターの測定法は、DNA cloning Vol.III.edited by D.M.Glover,IRL Press,p203,1987に示す通り。但し、ウィルス感染後、2日で培地をG418(Geneticin,Disulfate Salt,SIGMA)250μg/mlを含むDMEMにかえ、3〜4日毎に同培地で培地交換し、約2週間後にコロニーを数えてcfu/mlを算出した。)の培養上清5mlとポリプレン8μg/mlを加え、10cmシャーレ(Falcon3003)中でさらに1日培養してウィルスを感染させた。
あるいは、上述のウィルス産生細胞2×106個/mlを10%FCS含有DMEMで10cmシャーレ(Falcon3003)にて一晩培養した後、上清を5ml除き、ポリプレンを最終濃度8μg/mlになるように加え、マウスIL−3とヒトBCDFを含有する培地で6日間培養した骨髄細胞5×106個を懸濁した5mlの新鮮培地(20%FCS含有RPMI1640)をさらに加えた。培地にはマウスIL−3及びヒトBCDFをそれぞれ最終濃度200単位/ml、100ng/mlになるように加えた。この共培養を1日行って、骨髄細胞にウィルスを感染させた。
このようにしてウィルスを感染させた骨髄細胞(非付着性細胞)を回収し、洗浄後、この細胞中の造血前駆細胞(CFU−C)の数を測定した。
造血幹細胞実験法、p40,中外医学社(1986)の方法に従い、0.8%メチルセルロース中10%PWM(ポークウィートマイトーゲン)刺激脾臓細胞上清添加培地1mlに、得られた骨髄細胞1×104〜1×105個を懸濁し、G418 500μg/ml添加あるいは無添加で、3.5cmシャーレ(Falcon1008)にて37℃、5%CO2存在下で7日間培養した。7日間培養後、形成されたコロニー数(50個以上の細胞集塊)及びクラスター数(8個以上、50個以下の細胞集団)を顕微鏡下で計数した。結果を表1に示す。


表1に示すように、本法により0.2〜約20%の効率で遺伝子を導入出来た。pDGLベクターを含有するウィルス産生細胞は、従来用いられてきたpZipNeoSV(X)ベクターを含有するウィルス産生細胞より5〜25倍遺伝子導入効率が高かった。
なお、マウスIL−3とヒトBCDF(ヒトIL−6)の両者を添加しなかった培地では、骨髄細胞は3日以内に死滅した。
また、マウスIL−3のみ添加した培地では骨髄細胞中のCFU−Cを増加させることは出来なかった。
実施例 2 実施例1と同様にDBA/2マウスより骨髄細胞を調製し、直ちにCFU−Cを測定した。
残りの細胞はマウスIL−3を200単位/ml、ヒトBCDFを100ng/ml含む20%FCS含有RPMI1640培地にて6日間培養した。このうちの一部、5×106個の骨髄細胞を懸濁させた5mlの新鮮培地にpDGL/ψ2の培養上清(ウィルス液)5mlを加え、マウスIL−3、ヒトBCDFをそれぞれ最終濃度200単位/ml、100ng/mlになるように添加し、1日培養後、骨髄細胞を回収し、CFU−Cを測定した。この際、G418添加培地又は無添加培地にてCFU−Cを測定した。
ウィルス感染させた残りの骨髄細胞は2分して、一方はこれまで通りマウスIL−3およびヒトBCDF添加培地にて培養し、他方はマウスIL−3およびヒトBCDF添加培地に更にG418を500μg/ml加えた培地で培養した。初発細胞密度はG418添加培地の場合は5×105個/ml、無添加培地の場合は3×104個/mlとした。両者とも、3日培養後に一部細胞を回収してCFU−Cを測定した。
さらに3日培養後(計6日培養)に骨髄細胞を回収してCFU−Cを測定した。
ウィルス感染後の骨髄細胞はG418添加又は無添加培養によりCFU−Cを測定した。CFU−Cの測定法は実施例1と同様である。
実験のプロトコールを第2図に、結果を表2に示す。


以上より、骨髄細胞調製後直ちに遺伝子導入する方法に比べ、マウスIL−3とヒトBCDFによる培養を組合せた本法により、遺伝子導入細胞を約60倍(表2中で、1.0×102に対して5.8×103)に増大させることが出来た。更に遺伝子導入後、マウスIL−3及びヒトBCDF(IL−6)による培養と薬剤選択によりウィルス感染させた骨髄細胞集団中導入遺伝子を発現している細胞の比率を約50〜200倍に増大させることが出来た。
実施例 3 実施例1と同様にDBA/2マウスより骨髄細胞を調製し、この得られた骨髄細胞2.5×106個を含む20%FCS含有RPMI1640培地5mlにpDGL/ψ2の培養上清(ウィルス液)5mlを加え、マウスIL−3添加培地及びマウスIL−3とヒトBCDF添加培地あるいは無添加培地で1日、25cm2フラスコ(Corning25100)で培養した。マウスIL−3及びヒトBCDFの最終濃度は、それぞれ200単位/ml、100ng/mlになるように加えた。1日培養後、骨髄細胞を回収し、洗浄後、実施例1と同様にCFU−Cを測定した。この際G418添加又は無添加培地でCFU−Cを測定した。結果を表3に示す。


表3に示すように、骨髄細胞に遺伝子を導入する際にマウスIL−3とヒトBCDFを添加する本法により、遺伝子導入細胞数を約8倍に増大することが出来た。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例で使用したレトロウィルスベクターの概略図であり、aはpZipNeoSV(X)(C.L.Cepkoら、Cell,37,1053,1984)、bはpDGLである。pDGLの領域IはpMOVψのSma Iサイト(pMOVプロウィルスDNA番号28)よりBgl IIサイト(pMOVプロウィルスDNA番号1906)までで、gag領域の一部とスプライシングドナーサイトを含み、領域IIはpMOVψのBgl IIサイト(pMOVプロウィルスDNA番号5407)よりSma Iサイト(pMOVプロウィルスDNA番号5748)までで、スプライシングアクセプターサイトを含み、領域IIIは構築の途中で生じた不用のシークエンスであり、領域IVはpLJの図に示す領域を含むSma IサイトからSal Iサイトまでである。
第2図は、実施例2で使用した実験のプロトコールを示す図であり、●印のポイントでCFU−Cを測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】遺伝子導入処理を施した骨髄細胞を、遺伝子が導入された骨髄細胞は増殖できるが遺伝子が導入されていない骨髄細胞は増殖できない培地であって、10ng/mlないし500ng/mlにB細胞分化因子を含む培地を用いて培養し、増殖した細胞を採取することを特徴とする遺伝子導入方法。
【請求項2】遺伝子が導入された骨髄細胞は増殖できるが遺伝子が導入されていない骨髄細胞は増殖できない培地がネオマイシンまたはハグロマイシンを含む培地である請求項1に記載の方法。
【請求項3】遺伝子が導入された骨髄細胞は増殖できるが遺伝子が導入されていない骨髄細胞は増殖できない培地がG418を含む培地である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】培地が40ないし500単位のIL−3をさらに含む請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】B細胞分化因子がヒトB細胞分化因子であり、骨髄細胞がヒト骨髄細胞である請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。

【第2図】
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【第1図】
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【特許番号】第2853186号
【登録日】平成10年(1998)11月20日
【発行日】平成11年(1999)2月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−193473
【出願日】平成1年(1989)7月26日
【公開番号】特開平3−58789
【公開日】平成3年(1991)3月13日
【審査請求日】平成8年(1996)1月23日
【出願人】(999999999)味の素株式会社