説明

遺伝子発現抑制機能を有するDNA塩基配列

【課題】 宿主をレチノイン酸存在下で培養することで、対象遺伝子を発現抑制する方法を提供する。
【解決手段】 宿主DNAにおいて、対象遺伝子プロモーターの内部及び/若しくは5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、TGTGT及び/又はACACAの塩基配列を1以上導入し、2塩基重複配列並びに/又はTGTGT及び/若しくはACACAの塩基配列を導入した宿主DNAを有する宿主をレチノイン酸存在下で培養することで、対象遺伝子の発現を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、対象遺伝子に対して所定の位置に2塩基重複配列並びに/又はTGTGT
及び/若しくはACACAの塩基配列を有する宿主をレチノイン酸存在下で培養することで、対象遺伝子の発現を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レチノイン酸によって遺伝子発現が制御されることが知られていた(非特許文献1〜3)。
【0003】
例えば、非特許文献1には、カッパオピオイドレセプター(kappa opioid receptor)遺伝子のイントロンに存在するイカロス結合部位(Ikaros-binding site)(GGGAAGGGGAT:配列番号1)を用いると、レチノイン酸存在下で遺伝子発現の抑制が起こることが開示されている。当該遺伝発現抑制機構は、レチノイン酸によって最初にイカロス1(Ikaros-1)転写因子の発現が誘導され、次に誘導されたイカロス1転写因子が上述したイントロンに存在するイカロス結合部位に結合することで、カッパオピオイドレセプター遺伝子の発現を抑制するというものである。
【0004】
また非特許文献2には、RPE65という遺伝子のタンパク質発現及びプロモーター活性がレチノイン酸で抑制されることが開示されている。当該抑制には、1.3kbにわたるRPE65プロモーター全体が必要であり、具体的に抑制に関与する特定の短い塩基配列は同定されていない。
【0005】
同様に、非特許文献3には、BMP(Bone Morphogenetic Protein)4の発現がレチノイン酸によって抑制されることが開示されている。当該発現抑制には、BMP4プロモーターが関与することが示されているが、プロモーター領域のいずれの塩基配列が重要な役割を果たしているかは調べられていない。
【0006】
【非特許文献1】Xinli Huら, 「The Journal of Biological Chemistry」,2001年,第276巻,p.4597-4603
【非特許文献2】Yumei Chenら,「Molecular Vision」,2003年,第9巻,p.345-354
【非特許文献3】Deborah L.Thompsonら,「Molecular and Cellular Biology」,2003年,第23巻,p.2277-2286
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑み、対象遺伝子の発現抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、宿主DNAにおいて、(a)対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、(TG)n、(CA)n、(GT)n及び(AC)n(ここで、nは、3以上の整数である)からなる群より選択される1以上の2塩基重複配列を導入し、及び/又は(b)対象遺伝子プロモーターの内部及び/若しくは5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、TGTGT及び/又はACACAの塩基配列を1以上導入し、2塩基重複配列並びに/又はTGTGT及び/若しくはACACAの塩基配列を導入した宿主DNAを有する宿主をレチノイン酸存在下で培養することで、対象遺伝子の発現を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下を包含する。
【0010】
(1)宿主DNAにおいて、(a)対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、(TG)n、(CA)n、(GT)n及び(AC)nからなる群より選択される1以上の2塩基重複配列を導入し、及び/又は、(b)対象遺伝子プロモーターの内部及び/若しくは5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、TGTGT及び/又はACACAの塩基配列を1以上導入する第1工程と、第1工程で得られた宿主DNAを有する宿主をレチノイン酸存在下で培養する第2工程とを含み、前記nは、3以上の整数であることを特徴とする、対象遺伝子の発現抑制方法。
(2)対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、上記1以上の2塩基重複配列を導入することを特徴とする、(1)記載の方法。
(3)対象遺伝子プロモーターの内部及び/又は5'側上流及び対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、TGTGT及び/又はACACAの塩基配列を1以上導入することを特徴とする、(1)記載の方法。
(4)上記対象遺伝子プロモーターの5'側上流が、前記対象遺伝子プロモーターから5'側上流に1塩基目〜2000塩基目の位置であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。
(5)上記対象遺伝子の終止コドンの3'側下流が、前記終止コドンから3'側下流に1塩基目〜1000塩基目の位置であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。
(6)上記宿主が哺乳動物細胞であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1記載の方法。
(7)上記レチノイン酸が0.01〜1000nMの濃度で存在することを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1記載の方法。
(8)宿主におけるPTB(polypyrimidine tract-binding protein)の発現量を制御することにより、対象遺伝子の発現抑制程度を制御することを含む、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、遺伝子治療、トランスジェニック動物の作製及び再生医療などで利用する目的の遺伝子の発現を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】対象遺伝子とリピート配列挿入部位との位置関係を示す。
【図2】実施例1〜4におけるpGL3-promoter vector中のリピート配列挿入部位を示す。
【図3】実施例1におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。
【図4】実施例2におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。
【図5】実施例3におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。
【図6】実施例4におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。
【図7】実施例5におけるpGL3-basic vector中の5塩基配列挿入部位を示す。
【図8】Xenopus slug beta遺伝子のプロモーター配列及びイントロン断片における5塩基配列の部位を示す。
【図9】実施例5におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。
【図10】ヒトslug遺伝子のプロモーター配列及びイントロン断片における5塩基配列の部位を示す
【図11】実施例6におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。
【図12】ヒトPTBB2遺伝子の塩基配列を示す。
【図13】実施例7におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。
【図14】実施例8におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法(以下では、「本方法」という)は、宿主DNAにおける対象遺伝子の発現を抑制する方法である。本方法においては、先ず宿主DNAにおいて、対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、(TG)n、(CA)n、(GT)n及び(AC)nからなる群より選択される1以上の2塩基重複配列を導入する。あるいは、宿主DNAにおいて、対象遺伝子プロモーターの内部及び/若しくは5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、TGTGT及び/又はACACAの塩基配列(以下、「5塩基配列」という)を1以上導入する。ここで、5'側上流とは、対象遺伝子プロモーターの5'末端側に続く方向を意味し、一方、3'側下流とは、対象遺伝子の終止コドンの3'末端側に続く方向を意味する。
【0014】
次いで、2塩基重複配列及び/又は5塩基配列を導入した宿主DNAを有する宿主をレチノイン酸存在下で培養する。この時に、対象遺伝子によりコードされる転写産物やタンパク質の発現は抑制されることとなる。
【0015】
本発明において、対象遺伝子は、本方法適用前に既に宿主DNAに存在する遺伝子であればいずれの遺伝子であってもよく、例えば、本来的に存在する遺伝子でもよいし、本方法適用前に人為的に導入された遺伝子でもよい。また、対象遺伝子プロモーターとは、対象遺伝子を制御するプロモーターを意味する。対象遺伝子プロモーターは、対象遺伝子に対して5'側上流に存在する場合と、対象遺伝子内部に存在する場合とがある。なお、対象遺伝子プロモーターは、本方法適用前に既に宿主DNAにおいて対象遺伝子に対して存在するプロモーターであればいずれのプロモーターであってもよく、例えば、本来的に存在するプロモーターでもよいし、本方法適用前に人為的に導入されたプロモーターでもよい。人為的に導入されたプロモーターには、例えばSV40プロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーター、レトロウイルスプロモーター等が挙げられる。
【0016】
一方、宿主DNAとは、対象遺伝子及び対象遺伝子プロモーターを有するDNAを意味する。宿主DNAとしては、所定の生物におけるゲノムDNA及びミトコンドリアDNA等を挙げることができる。また、本方法適用前に既に宿主に存在する、例えばプラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド、ファージDNA、ウイルスベクター等も宿主DNAとすることができる。
【0017】
宿主としては、例えば、HEK293細胞、COS細胞及びCHO細胞等の哺乳動物細胞を含めた動物細胞、枯草菌等のバチルス属、大腸菌等のエッシェリヒア属及びシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、Sf9等の昆虫細胞、並びにイネ科(イネ(Oryza sativa)、トウモロコシ(Zea mays))、アブラナ科(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana))、ナス科(タバコ(Nicotiana tabacum)及びマメ科(ダイズ(Glycine max))等の植物が挙げられる。特に、哺乳動物細胞が好ましい。
【0018】
以下では、宿主DNAに2塩基重複配列を導入する場合の本方法について説明する。
【0019】
本発明において、2塩基重複配列とは、2塩基TG、CA、GT又はACが重複して並置する配列を意味する。ここでは、2塩基重複配列を、(TG)n、(CA)n、(GT)n又は(AC)nと表わす。nは、3以上の整数である。言い換えると、2塩基重複配列は、2塩基TG、CA、GT又はACが3回以上並置する配列である。nは、3〜100の整数が好ましく、20〜40の整数であることが特に好ましい。本方法では、2塩基重複配列が長いほど、対象遺伝子の発現を有意に抑制する
ことができる。以下では、2塩基重複配列を「リピート配列」という。
【0020】
以下、本方法を図1に基づいて具体的に説明する。図1において、プロモーターの5'側上流に存在する黒塗りボックスが、宿主DNAにおける対象遺伝子プロモーターの5'側上流のリピート配列挿入部位である。一方、対象遺伝子の3'側下流に存在する黒塗りボックスが、対象遺伝子の終止コドンの3'側下流のリピート配列挿入部位である。
【0021】
本方法では、先ずリピート配列を含むDNA断片を準備する。例えば、リピート配列を含むDNA断片のそれぞれ一本鎖に対応する2つのDNAオリゴマーを混合し、アニーリングさせることで、リピート配列を含むDNA断片を容易に得ることができる。また、リピート配列を含むDNA断片を鋳型とし、両端の塩基配列に相補的なプライマーを用いたPCRによってリピート配列を含むDNA断片をPCR産物として容易に増幅することができる。
【0022】
次いで、図1に示すように、リピート配列を含むDNA断片を、宿主DNAにおける対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に導入する。なお、宿主DNAにおける対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び対象遺伝子の終止コドンの3'側下流の双方にリピート配列を導入することが好ましい。対象遺伝子プロモーターの5'側上流においてリピート配列を導入すべき位置は、例えば、対象遺伝子プロモーターから5'側上流に、1塩基目〜2000塩基目、好ましくは1塩基目〜500塩基目、特に好ましくは1塩基目〜100塩基目の位置である。一方、対象遺伝子の終止コドンの3'側下流においてリピート配列を導入すべき位置は、例えば、対象遺伝子の終止コドンから3側下流に、1塩基目〜1000塩基目、好ましくは1塩基目〜500塩基目、特に好ましくは1塩基目〜100塩基目の位置である。
【0023】
リピート配列を含むDNA断片を宿主DNAの対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流の所定の位置に導入する方法としては、例えば、相同組換え方法が挙げられる。ここでリピート配列を含むDNA断片は、例えばPCR産物等のDNA断片やゲノムの一部であってもよく、プラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド、ファージDNA、ウイルスベクター等に含まれる形態であってよい。例えば、プラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13などのYEp系、YCp50などのYCp系等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。あるいは、魚由来のトランスポゾン(例えば、T2等)とトランスポゼースとを組合わせたスリーピングビューティーによって、リピート配列が宿主DNAの対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流の所定の位置に導入された宿主個体を選別してもよい。
【0024】
宿主が哺乳動物細胞等の動物細胞である場合、動物細胞へのリピート配列を含むDNA断片の導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法及びリポフェクション法等が挙げられる。
【0025】
宿主が細菌である場合、細菌へのリピート配列を含むDNA断片の導入方法は、例えばカルシウムイオンを用いる方法およびエレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0026】
宿主が酵母である場合、酵母へのリピート配列を含むDNA断片の導入方法は、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
【0027】
宿主が昆虫細胞である場合、昆虫細胞へのリピート配列を含むDNA断片の導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法およびエレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0028】
宿主が植物である場合は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)又は植物培養細胞などが用いられる。植物へのリピート配列を含むDNA断片の導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法及びPEG法等が挙げられる。
【0029】
以上のようにして、リピート配列を含むDNA断片を宿主に導入することができる。
【0030】
リピート配列が宿主DNAの対象遺伝子プロモーターの5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流の所定の位置に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法及びノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、リピート配列が宿主DNAの所定の位置に組み込まれた際に増幅することができる領域に特異的なプライマーを設計してPCRを行う。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、リピート配列が宿主DNAの所定の位置に組み込まれたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用してもよい。
【0031】
次いで、本方法では、リピート配列を有する宿主DNAを有する宿主(形質転換体)をレチノイン酸存在下で培養する。培養条件としては、例えば宿主がHEK293細胞等の哺乳動物細胞である場合には、以下の通りである;温度:30〜38℃、好ましくは36〜37℃、pH:pH7.0〜8.0、好ましくはpH7.4〜7.6、培養時間:10〜80時間、好ましくは20〜30時間である。
【0032】
レチノイン酸の種類は、いずれのものであってもよく、例えば、全トランス型レチノイン酸、13-cis-レチノイン酸及び9-cis-レチノイン酸が挙げられる。また、レチノール、レチナール、レチニルアセテート及びレチニルパルミテート等でもよい。培養の際に添加するレチノイン酸の量は、例えば、培地に対して0.01〜1000nM、好ましくは1〜1000nM、特に好ましくは100〜1000nMの濃度である。
さらに、本発明のレチノイン酸による発現の抑制にはPTB(polypyrimidine tract-binding protein)が関与しており、宿主におけるPTB発現量を制御することにより、レチノイン酸による発現抑制の程度を制御できる。
例えば、PTBをコードするプラスミドDNAをレポーターベクターとともに培養細胞HEK293にコトランスフェクトしてPTBを過剰発現させると、レチノイン酸抑制配列(26mer)による遺伝子発現抑制が促進される(後記実施例7参照)。逆に、PTBに対するsiRNAベクターをコトランスフェクトしてRNA干渉を起こしてPTBの機能低下を行うと、レチノイン酸による発現抑制は阻害される(後記実施例8参照)。
すなわち、PTBの発現ベクターをレチノイン酸抑制配列と組み合わせることにより、レチノイン酸による遺伝子発現の制御をさらに強めたり弱めたりすることができる。
【0033】
以上に説明した本方法によれば、宿主における対象遺伝子の発現を有意に抑制することができる。本方法により、対象遺伝子の発現が抑制できたことの確認は、例えば転写等の遺伝子レベル、タンパク質レベルで行うことができる。例えば、転写等の遺伝子レベルでの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法及びノーザンハイブリダイゼーション法等が挙げられる。また、タンパク質レベルでの確認は、例えば、対象遺伝子よりコードされるタンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロッティング、フローサイトメトリー等が挙げられる。あるいは、対象遺伝子によりコードされるタンパク質が酵素である場合には、当該酵素活性を測定することによって対象遺伝子の発現抑制を確認することができる。本方法を適用した宿主における対象遺伝子の発現が、本方法を適用していない宿主における対象遺伝子の発現と比較して、遺伝子レベル又はタンパク質レベルで有意に減少している場合に、本方法による対象遺伝子発現抑制が良好であると判断することができる。
【0034】
一方、以上に説明した宿主DNAにリピート配列を導入する場合の本方法に準じて、宿主DNAにおける対象遺伝子プロモーターの内部及び/若しくは5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、5塩基配列を1以上導入し、5塩基配列を導入した宿主DNAを有する宿主をレチノイン酸存在下で培養することで、対象遺伝子の発現を抑制することができる。本方法では、対象遺伝子プロモーターの内部及び/若しくは5'側上流に、5塩基配列を1又は複数(例えば、4個以上)導入する。また、対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、5塩基配列を1又は複数(例えば、4個以上)導入する。
【0035】
なお、本方法では、宿主DNAにおけるリピート配列の導入と5塩基配列の導入とを組合わせてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
また、下記の実施例1〜4は、図2に従って説明する。図2において、pGL3-promoter vectorにおけるSV40プロモーターの5'側上流に位置する黒塗りボックスがリピート配列挿入部位である。また、ポリ(A)シグナルの3'側下流に位置する黒塗りボックスが、pGL3-promoter vector(Promega社製)のエンハンサー部位であり、リピート配列挿入部位である。なお、本実施例で使用するpGL3-promoter vectorのエンハンサーは、除去されている。
【0038】
〔実施例1〕対象遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)の3'側下流への8回TG((TG)8)リピート配列の挿入
下記の2種のDNAオリゴマー(配列番号2及び3)を25μMずつになるように混合し、95℃で15分間加熱した後、55℃で15分間放置した。
for:5'-CGCGGATCCTGTGTGTGTGTGTGTGGGATCCGCG-3'(配列番号2)
rev:5'-CGCGGATCCCACACACACACACACAGGATCCGCG-3'(配列番号3)
【0039】
室温に戻した後、アニーリングしたDNA断片を、Bam HIによって5'末端と3'末端の塩基を切断し、生じた短い断片をスピンカラムによって除去することで、DNA断片(8回TGリピート配列を含む)を得た。
【0040】
一方、pGL3-promoter vector(Promega)を同じくBam HIによってエンハンサー部位を切断した後にアルカリフォスファターゼ処理を行った。
【0041】
次いで、上記のようにして得られた8回TGリピート配列を含むDNA断片を、アルカリフォスファターゼ処理後のpGL3-promoter vectorのエンハンサー部位に導入し、ライゲーションした。得られたライゲーション産物を用いて、大腸菌を形質転換し、目的のプラスミドの入ったコロニーを選別した。選別したコロニーより、大腸菌を培養し、アルカリ法によって溶菌した後、Qiagen社のDNA精製キットを使用することによって、ライゲーション産物を単離した。得られたライゲーション産物は、図2に示すように、pGL3-promoter vectorのポリ(A)シグナルの3'側下流に存在するエンハンサー部位、すなわち、ルシフェラーゼ遺伝子の終止コドンから3'側270塩基下流に、8回TGリピート配列が挿入されている。
【0042】
次いで、細胞培養プレートの直径34mmのウェルにHEK293細胞(2x105)を撒き、上記ライゲーション産物を、ジーンポーター(Gene therapy systems)を用いて一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後に、培養物にレチノイン酸を1μMになるように加え、さらに24時間培養した。
【0043】
培養後、細胞を回収して、ルシフェラーゼ活性を測定した。なお、トランスフェクションの効率を測るために、pRL-CMVベクターも同時にトランスフェクトしてルシフェラーゼの活性を較正した。当該pRL-CMVベクターは、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子をCMVプロモーターの制御下で含み、当該ルシフェラーゼを安定に発現する内部コントロール用レポーターベクターである。また、対照として、トランスフェクトした細胞をレチノイン酸非存在下において同様に培養した。
【0044】
ルシフェラーゼ活性の測定結果を図3に示す。図3から判るように、1μMの全トランス型レチノイン酸を加えたときには、細胞におけるルシフェラーゼ活性は、レチノイン酸非存在(0μM)下におけるルシフェラーゼ活性(100%とする)と比較して75.0%にまで抑制された。
【0045】
〔実施例2〕ルシフェラーゼ遺伝子の3'側下流への26回CA((CA)26)リピート配列の挿入
本実施例では、pGL3-promoter vectorのエンハンサー部位(ルシフェラーゼ遺伝子の終止コドンから3'側270塩基下流)に26回CAリピート配列が挿入された場合について検討した。
【0046】
下記に示すDNAオリゴマー(配列番号4及び5)を用いて、アニーリング産物(26回CAリピート配列を含む)を作製したこと及びライゲーション前にKODによってブランティングしたこと以外は、実施例1と同様にして、大腸菌の形質転換、コロニーの選択、ライゲーション産物の単離、HEK293細胞へのトランスフェクション、細胞培養、及びルシフェラーゼの測定等を行った。
【0047】
5'-CACACACACACACACACACACACACACACACACACACACACACACACACACA-3'(配列番号4)(5'リン酸化)
5'-TGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTG-3'(配列番号5)(5'リン酸化)
【0048】
ルシフェラーゼ活性の測定結果を図4に示す。図4から判るように、1μMの全トランス型レチノイン酸を加えたときには、細胞におけるルシフェラーゼ活性は、レチノイン酸非存在(0μM)下におけるルシフェラーゼ活性(100%とする)と比較して64.0%にまで抑制された。
【0049】
〔実施例3〕SV40プロモーター(対象遺伝子プロモーター)の5'側上流への26回TG((TG)26)リピート配列の挿入
本実施例では、図2に示すpGL3-promoter vectorのSV40プロモーターの5'側17塩基上流に26回TGリピート配列が挿入された場合について検討した。
【0050】
実施例2で示した2種のDNAオリゴマー(配列番号4及び5)を25μMずつになるように混合し、95℃で15分間加熱した後、55℃で15分間放置した。
室温に戻した後、DNA断片(26回TGリピート配列を含む)を得た。
【0051】
一方、pGL3-promoter vector(Promega)をXho IによってSV40プロモーターの5'側上流を切断した後にアルカリフォスファターゼ処理を行った。次いで、上記のように得られた26回TGリピート配列を含むDNA断片を、アルカリフォスファターゼ処理したpGL3-promotervectorのSV40プロモーターの5'側17塩基上流に導入し、KODによってブランティングした後、ライゲーションした。得られたライゲーション産物を用いて、実施例1と同様にして、大腸菌の形質転換、コロニーの選択、ライゲーション産物の単離、HEK293細胞へのトランスフェクション、細胞培養、及びルシフェラーゼの測定等を行った。
【0052】
ルシフェラーゼ活性の測定結果を図5に示す。図5から判るように、1μMの全トランス型レチノイン酸を加えたときには、細胞におけるルシフェラーゼ活性は、レチノイン酸非存在(0μM)下におけるルシフェラーゼ活性(100%とする)と比較して87.9%にまで抑制された。
【0053】
〔実施例4〕SV40プロモーターの5'側上流への26回TG((TG)26)リピート配列の挿入及びルシフェラーゼ遺伝子の3'側下流への26回CA((CA)26)リピート配列の挿入
本実施例では、図2に示すpGL3-promoter vectorのSV40プロモーターの5'側17塩基上流に26回TGリピート配列が挿入され、且つエンハンサー部位(ルシフェラーゼ遺伝子の終止コドンから3'側270塩基下流)に26回CAリピート配列が挿入された場合について検討した。
【0054】
各リピート配列のpGL3-promoter vectorへの挿入は、実施例2及び3に記載の方法と同様にして行った。
【0055】
次いで、得られたライゲーション産物を用いて、実施例1と同様にして、大腸菌の形質転換、コロニーの選択、ライゲーション産物の単離及びHEK293細胞へのトランスフェクションを行った。
【0056】
トランスフェクションから24時間後に、培養物にレチノイン酸をそれぞれ0nM、0.01nM、0.1nM、1nM、10nM、100nMの濃度になるように加え、さらに24時間培養した。
培養後、細胞を回収して、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0057】
ルシフェラーゼ活性の測定結果を図6に示す。図6から判るように、全トランス型レチノイン酸を加えたときには、細胞におけるルシフェラーゼ活性は、レチノイン酸非存在(0nM)下におけるルシフェラーゼ活性(100%とする)と比較して、濃度依存的に抑制され、100nMの全トランス型レチノイン酸を加えたときには、ルシフェラーゼ活性は28.7%にまで抑制された。
【0058】
以上の実施例で示したように、短いリピート配列に比べて長いものの方がレチノイン酸存在下での対象遺伝子発現抑制効果がより高いこと、及び対象遺伝子プロモーターの5'側上流と対象遺伝子の3'側下流とへリピート配列を導入した方が、一方のみに導入したものに比べて、レチノイン酸存在下での対象遺伝子発現抑制効果がより高いことが分かった。
【0059】
〔実施例5〕対象遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)プロモーター及び対象遺伝子の終止コドンの3'側下流への5塩基配列の挿入
本実施例では、図7に示すpGL3-basic vector(Promega社製)のプロモーター部位にXenopus slug beta遺伝子のプロモーター配列(配列番号6)を挿入し、且つエンハンサー部位にXenopus slug beta遺伝子のイントロン断片(配列番号7)を挿入した場合について検討した。図7において、pGL3-basic vectorにおけるルシフェラーゼ遺伝子の5'側上流(開始コドンから57塩基上流)に位置する黒塗りボックスが、pGL-basic promoterのプロモーター部位、すなわち、Xenopus slug beta遺伝子のプロモーター配列(配列番号6)挿入部位である。また、ポリ(A)シグナルの3'側下流(ルシフェラーゼ遺伝子の終止コドンから270塩基下流)に位置する黒塗りボックスが、エンハンサー部位、すなわちXenopus slug beta遺伝子のイントロン断片(配列番号7)挿入部位である。なお、本実施例で使用する市販のpGL3-basic vectorには、本来プロモーター配列とエンハンサー配列が含まれていない。
また、図8に示すように、Xenopus slug beta遺伝子のプロモーター配列は2つの5塩基配列を含み、一方、Xenopus slug beta遺伝子のイントロン断片は、4つの5塩基配列を含む(図8において、太文字と下線で示した塩基配列が5塩基配列である)。
【0060】
まず、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)のゲノムDNAを鋳型とし、以下のプライマーセット(配列番号8及び9)を用いて、94℃:15秒(変性)、55℃:10秒(アニール)及び60℃:10分(伸長)のサイクル50回で、Xenopus slug beta遺伝子のプロモーター配列(配列番号6)をPCRで増幅した。
【0061】
5'-GCACGCGTTAAACTTCACTTGAACATGTTCTAACAG-3'(配列番号8)
5'-GCCTCGAGTTTCAGTGAGGGAGGGGGACCCCAAGCC-3'(配列番号9)
【0062】
増幅されたPCR産物を、Mlu I及びXho Iを用いて両端を切断し、電気泳動に供することで、DNA断片を精製した。
【0063】
一方、pGL3-basic vector(Promega)を同じくMlu I及びXho Iによって切断し、同様に電気泳動によって精製した。
【0064】
次いで、上述したXenopus slug beta遺伝子のプロモーター配列(配列番号6)を含むDNA断片を、プロモーター部位を切断したpGL3-basic vector(Promega)にライゲーションした。
【0065】
同様に、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)のゲノムDNAを鋳型とし、下記のプライマーセット(配列番号10及び11)を用いて、Xenopus slug beta遺伝子のイントロン断片(配列番号7)をPCRで増幅した。
【0066】
5'-GCGGATCCCCGATCGCATGTAGAGATGCAACATTTAC-3'(配列番号10)
5'-GCGGATCCGGGTTATAGGCTGAATATATTGGGCC-3'(配列番号11)
【0067】
増幅されたPCR産物を、Bam HIを用いて両端を切断し、電気泳動に供することで、DNA断片を精製した。
【0068】
一方、上記のように得られたXenopus slug beta遺伝子のプロモーター配列を含むpGL3-basic vector(Promega)を同じくBam HIによりエンハンサー部位を切断し、電気泳動に供することで精製した後、アルカリフォスファターゼ処理を行った。
【0069】
次いで、Xenopus slug beta遺伝子のイントロン断片(配列番号7)を含むDNA断片を、上記のエンハンサー部位を切断したpGL3-basic vector(Promega)にライゲーションした。
【0070】
得られたライゲーション産物を用い、且つ培養物にレチノイン酸を10nMになるように加えたこと以外は、実施例1と同様にして、大腸菌の形質転換、コロニーの選択、ライゲーション産物の単離、HEK293細胞へのトランスフェクション、細胞培養、及びルシフェラーゼの測定等を行った。
【0071】
ルシフェラーゼ活性の測定結果を図9に示す。図9から判るように、全トランス型レチノイン酸を加えたときには、細胞におけるルシフェラーゼ活性は、レチノイン酸非存在(0nM)下におけるルシフェラーゼ活性(100%とする)と比較して、10nMの全トランス型レチノイン酸を加えたときには、ルシフェラーゼ活性は42%にまで抑制された。
【0072】
〔実施例6〕対象遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)プロモーター及び対象遺伝子の終止コドンの3’側下流への5塩基配列の挿入
本実施例では、図7に示すpGL3-basic vector(Promega社製)のプロモーター部位にヒトslug(SNAI2)遺伝子のプロモーター配列(配列番号12)を挿入し、かつエンハンサー部位にヒトslug遺伝子のイントロン断片(配列番号13)を挿入した場合について検討した。図7において、pGL3-basic vectorにおけるルシフェラーゼ遺伝子の5’側上流(開始コドンから57塩基上流)に位置する黒塗りボックスが、pGL3-basic promoterのプロモーター部位、すなわち、ヒトslug遺伝子のプロモーター配列(配列番号12)挿入部位である。また、ポリ(A)シグナルの3’側下流(ルシフェラーゼ遺伝子の終止コドンから270塩基下流)に位置する黒塗りボックスが、エンハンサー部位、すなわちヒトslug遺伝子のイントロン断片(配列番号13)挿入部位である。なお、本実施例で使用する市販のpGL3-basic vectorには、本来プロモーター配列とエンハンサー配列が含まれていない。また、図10に示すように、ヒトslug遺伝子のプロモーター配列は8つの5塩基配列を含み、一方、ヒトslug遺伝子のイントロン断片は、5つの5塩基配列を含む(図10において、太文字と下線で示した塩基配列が5塩基配列である)。
【0073】
まず、ヒトのゲノムDNAを鋳型とし、以下のプライマーセット(配列番号14及び15)を用いて、94℃:15秒(変性)、55℃:10秒(アニール)及び60℃:10分(伸長)のサイクル50回で、ヒトslug遺伝子のプロモーター配列(配列番号12)をPCRで増幅した。
5’-GCACGCGTGTGTCTGAGCAGAGCACCTGTTTCG-3’(配列番号14)
5’-CGCTCGAGCACCCGGCTCCTTTACGAACTGAGCC-3’(配列番号15)
増幅されたPCR産物を、Mlu I及びXho Iを用いて両端を切断し、電気泳動に供することで、DNA断片を精製した。
一方、pGL3-basic vector(Promega)を同じくMlu I及びXho Iによって切断し、同様に電気泳動によって精製した。
次いで、上述したヒトslug遺伝子のプロモーター配列(配列番号12)を含むDNA断片を、プロモーター部位を切断したpGL3-basic vector(Promega)にライゲーションした。
同様に、ヒトのゲノムDNAを鋳型とし、下記のプライマーセット(配列番号16及び17)を用いて、ヒトslug遺伝子のイントロン断片(配列番号13)をPCRで増幅した。
5’-GCGGATCCGTAAAAAGAGAAAAATATATCTAGAAC-3’(配列番号16)
5’-GCGGATCCTGGGAAAGAAAAGGGAGGGAGAGAAG-3’(配列番号17)
増幅されたPCR産物を、Bam HIを用いて両端を切断し、電気泳動に供することで、DNA断片を精製した。
一方、上記のように得られたヒトslug遺伝子のプロモーター配列を含むpGL3-basic vector(Promega)を同じくBam HIによりエンハンサー部位を切断し、電気泳動に供することで精製した後、アルカリフォスファターゼ処理を行った。
【0074】
次いで、ヒトslug遺伝子のイントロン断片(配列番号13)を含むDNA断片を、上記のエンハンサー部位を切断したpGL3-basic vector(Promega)にライゲーションした。
得られたライゲーション産物を用い、且つ培養物にレチノイン酸を2μMになるように加えたこと以外は、実施例1と同様にして、大腸菌の形質転換、コロニーの選択、ライゲーション産物の単離、HEK293細胞へのトランスフェクション、細胞培養、及びルシフェラーゼの測定等を行った。
ルシフェラーゼ活性の測定結果を図11に示す。図11から判るように、全トランス型レチノイン酸を加えたときには、細胞におけるルシフェラーゼ活性は、レチノイン酸非存在(0μM)下におけるルシフェラーゼ活性(100%とする)と比較して、2μMの全トランス型レチノイン酸を加えたときには、ルシフェラーゼ活性は43%にまで抑制された。
【0075】
〔実施例7〕PTB(polypyrimidine tract-binding protein)の過剰発現
本実施例では、pCI vector(Promega社製)のCMV immediate earlyプロモーターの下流に位置するマルチクローニングサイトにヒトPTB2遺伝子配列を挿入した場合について検討した。
ヒトのゲノムDNAを鋳型とし、以下のプライマーセット(配列番号18及び19)を用いて、94℃:15秒(変性)、55℃:10秒(アニール)及び60℃:10分(伸長)のサイクル40回で、ヒトPTB遺伝子配列(図12、配列番号20)をPCRで増幅した。
5’-GCGAATTCATGGACGGAATCGTCACTGAAGTTGC-3’(配列番号18)
5’-GCGTCGACTTAAATTGTTGACTTGGAGAAAGACAC-3’(配列番号19)
増幅されたPCR産物を、EcoR I及びSal Iを用いて両端を切断し、電気泳動に供することで、DNA断片を精製した。
一方、pCI vector(Promega)を同じくEcoR I及びSal Iによって切断し、同様に電気泳動によって精製した。
【0076】
次いで、上述したヒトPTB2遺伝子配列(配列番号20)を含むDNA断片を、マルチクローニングサイトを切断したpCI vector(Promega)にライゲーションした。
得られたライゲーション産物をHEK293細胞にコトランスフェクトし、且つ培養物にレチノイン酸を2μMになるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、大腸菌の形質転換、コロニーの選択、ライゲーション産物の単離、HEK293細胞へのトランスフェクション、細胞培養、及びルシフェラーゼの測定等を行った。
ルシフェラーゼ活性の測定結果を図13に示す。図13から判るように、全トランス型レチノイン酸を加えたときには、細胞におけるルシフェラーゼ活性は、レチノイン酸非存在(0μM)下におけるルシフェラーゼ活性 (100%とする)と比較して、2μMの全トランス型レチノイン酸を加えたときには、ルシフェラーゼ活性は13%にまで抑制され、PTB2発現ベクターをコトランスフェクトしないときのルシフェラーゼの活性(34%)よりも顕著に低下している。
【0077】
〔実施例8〕PTB (polypyrimidine tract-binding protein)の機能低下
本実施例では、pSINsi-hH1 DNA vector(Takara-bio社製)のヒトH1プロモーターの下流に位置するクローニングサイトにヒトPTB1及びPTB2に対するターゲット配列を挿入した場合について検討した。
下記に示すDNAオリゴマー(配列番号21及び22)を用いてアニーリング産物(PTB1遺伝子の終止コドンから3’側34塩基下流の配列21塩基を含む)を作製した。
5’-
GATCCAACTTCCATCATTCCAGAGAACTGTGAAGCCACAGATGGGTTCTCTGGAATGATGGAAGTTTTTTTTAT-3’(配列番号21)
5’-
CGATAAAAAAAACTTCCATCATTCCAGAGAACCCATCTGTGGCTTCACAGTTCTCTGGAATGATGGAAGTTG-3’ (配列番号22)
一方、pSINsi-hH1 DNA(Takara-bio)をBamH I及びCla Iによって切断し、電気泳動によって精製した。
次いで、上述したヒトPTB1遺伝子に対するターゲット配列を含むアニール産物を、クローニングサイトを切断したpSINsi-hH1 DNA(Takara-bio)にライゲーションした。
【0078】
上記と同様に、下記に示すDNAオリゴマー(配列番号23及び24)を用いてアニーリング産物(PTB2遺伝子の終止コドンから3’側43塩基下流の配列21塩基を含む)を作製し、クローニングサイトを切断したpSINsi-hH1 DNA(Takara-bio)にライゲーションした。
5’-
GATCCATTGTTCAATGTCATCACCTACTGTGAAGCCACAGATGGGTAGGTGATGACATTGAACAATTTTTTTAT-3’ (配列番号23)
5’-
CGATAAAAAAATTGTTCAATGTCATCACCTACCCATCTGTGGCTTCACAGTAGGTGATGACATTGAACAATG-3’ (配列番号24)
得られた2種のライゲーション産物をHEK293細胞にコトランスフェクトし、且つ培養物にレチノイン酸を2μMになるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、大腸菌の形質転換、コロニーの選択、ライゲーション産物の単離、HEK293細胞へのトランスフェクション、細胞培養、及びルシフェラーゼの測定等を行った。
ルシフェラーゼ活性の測定結果を図14に示す。図14から判るように、全トランス型レチノイン酸を加えたときには、細胞におけるルシフェラーゼ活性は、レチノイン酸非存在(0μM)下におけるルシフェラーゼ活性(100%とする)と比較して、2μMの全トランス型レチノイン酸を加えたときには、ルシフェラーゼ活性は98%にまでしか抑制されず、PTBに対するRNA干渉を行わなかったときのルシフェラーゼの活性よりも顕著に増加している。

【配列表フリーテキスト】
【0079】
配列番号2〜5は、DNAオリゴマーである。
配列番号8〜11は、プライマーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主DNAにおいて、対象遺伝子プロモーターの内部及び/若しくは5'側上流及び/又は対象遺伝子の終止コドンの3'側下流に、TGTGT及び/又はACACAの塩基配列を1以上導入する第1工程と、第1工程で得られた宿主DNAを有する宿主をレチノイン酸存在下で培養する第2工程とを含むことを特徴とする、対象遺伝子の発現抑制方法。
【請求項2】
上記対象遺伝子プロモーターの5'側上流が、前記対象遺伝子プロモーターから5'側上流に1塩基目〜2000塩基目の位置であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記対象遺伝子の終止コドンの3'側下流が、前記終止コドンから3'側下流に1塩基目〜1000塩基目の位置であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記宿主が哺乳動物細胞であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
上記レチノイン酸が0.01〜1000nMの濃度で存在することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
宿主におけるPTB(polypyrimidine tract-binding protein)の発現量を制御することにより、対象遺伝子の発現抑制程度を制御することを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−72320(P2011−72320A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6610(P2011−6610)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【分割の表示】特願2006−115827(P2006−115827)の分割
【原出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】