説明

遺伝子組み換え植物種を用いた劣化地域の回復方法

本発明は、汚染物質により汚染された土壌の厳しい土壌条件に適応した森林植物の調査および選択に関し、この植物は世界のほとんどの地域で生存可能であり、栄養連鎖に入ることがない。特定の植物を特定の遺伝子で遺伝子組み換えすることで、汚染土壌中でより生長し、より幅広い種類の重金属元素などの有害成分を、より多く吸収できるようになり、その結果規定値までの時間も大幅に短縮した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質により汚染された土壌の厳しい土壌条件に適応した野生の植物種の調査および選択に関し、この植物は世界のほとんどの地域で生存可能であり、栄養連鎖に入ることがない。この植物の遺伝子組み換え体は、金属吸収速度および金属吸収容量が向上しており、さらに該吸収が汚染物質または有害物質の大部分を容易に網羅するようにする。
【0002】
この遺伝子組み換えの方法はバイオテクノロジーの分野に属し、生存有機体(またはその一部)を組み換える、生物源の物質を形質転換する、または生物学的プロセスを用いるといった一連の技術として規定され、新たな知見をもたらし、生産物およびサービスを向上させるであろう。
【背景技術】
【0003】
産業の革命では、土壌、水および大気に汚染物質が蓄積し、環境に非常に有害な結果をもたらした。
【0004】
これらの媒体のうち最も安定である土壌は、非常に長い期間経過しても分解され得ない汚染物質のより長期の不変性を許容するため、進行性の蓄積を起こし、最初に生物の多様性の縮小および植物の初期消滅を引き起こし、また、空気や水などの他の媒体に汚染物質の元素を移し、地上の水および地下水を汚染するため、元素が食物連鎖中に入り込む。
【0005】
しかしながら、我々は、遺伝子形質転換法によりこのような環境に適応してこれらの汚染土壌にも長期に定着する幅広い種類の植物種を見いだした。
【0006】
メタロファイテ(metalophite)として知られるこれらの植物種は、遺伝子形質転換を受けて、これらの土壌でも生存できるようになった。
【0007】
特定の鉱物があり、特定の地域、特定の土壌条件であるといった、これらの汚染環境で生存できるというこれらの植物種の特殊性により、これらの種が他の場所で生存するのは非常に難しく、これらの条件に気候が加われば、他の地帯でこれらの種が発達するのはさらに困難になる。
【0008】
しかしながら、環境的に有害な汚染物質を除去または蓄積するための植物種の活用はファイトレメディエーション(phytoremediation)として知られており、これは汚染物質の除去作用または変化作用を得るための植物種の活用として定義される。
【0009】
土壌の汚染除去に用いられる技術は、一般的に土壌の隔離または除染である。
【0010】
隔離技術は、適切な管の中に汚染物質を充填し、管をそのまま封止するか破壊することにより、汚染の伝播を回避する。
【0011】
除染およびその結果の土壌回復の技術は、次のようなものである。
【0012】
流体作用による汚染物質の抽出;流体は空気(吸い取る)または水(洗い流す)である。
【0013】
吸い取った汚染物質を1回洗浄する。
【0014】
これらは全て高額な費用を要する非効率的な方法である。
【0015】
化学的処理、すなわち、化学反応(通常は酸化または脱塩素)によって汚染物質を分解して土壌を洗浄する。石油製品の安定化に用いられる。
【0016】
これは高額な費用を要し複雑で非常に選択的な技術であり、結局更なる土壌荒廃を起こし土壌をやせさせる。
【0017】
電界を作り汚染物質を置換する電気化学的処理では、水の添加がこの置換に有効である。
【0018】
それは、電界を介して汚染物質をイオンの形態で移動させる現象によるものであるからである。
【0019】
i.電界の固体表面に関連した液体移動による電気浸透。
ii.懸濁液中の荷電コロイダル粒子の置換をする電気泳動。
【0020】
これらは全て非常に費用がかかり、非効率的な手順である。
【0021】
熱伝導により汚染物質を分解する熱処理。
【0022】
これは屋内での(ex situ)処理であり、金属に効果がない。
【0023】
これらの処理は、土壌を、有機物質がなく、微生物が存在せず、いかなる生物多様性も存在しないものに、完全に変化させてしまうため、これらの処理は全く不適切であり、加えて全て非常に費用がかかる。
【0024】
微生物処理は分解能(生物学的修復)を有する特定の微生物を使用する。
【0025】
この方法による除染は、好気的に分解できる有機汚染物質に使用されるが、他の有機汚染物質は、嫌気的に分解されるべき塩素化脂肪族汚染物質として存在する。
【0026】
この処理は、有機汚染物質にのみ実用的であること以外に、微生物がその強度を緩めずに増殖するために継続した注意が必要であり、また、分解能を失った古い微生物を持続的に除去してそれらを侵襲性/突然変異種に変化できるようにすることもまた必要である。上述の事実に加えて、温度条件、pH、微生物強度、などにもまた注意が必要である。
【0027】
これら上述した全ての手順は非常に費用がかかり、有効性が疑わしい。
【0028】
既定のファイトレメディエーションは植物種を用いて汚染物質を除去する技術である。
【0029】
ファイトレメディエーションに使用される植物種は、非常に選択的な特性を有する。すなわち、たった1または2種の金属を蓄積するだけであり、また、非常に低いバイオマスを示すため、充填容量が低い。その植物種は非常に特有な地域で育ち、非常に短い根を有するため、これらの金属を吸収するものの、その吸収は表面的でしかない。
【0030】
特許文献1は、金属のファイトレメディエーションに関する。
【0031】
金属のイオンを除去するプロセスに関し、この目的を達成する方法が記載されている。
【0032】
重金属を含む汚染土壌から多量の金属の抽出する方法であり、メタロチオネインの配列をコードするcDNAを含む適当なベクターなどの転換材料を用いる。既に知られているように、メタロチオネインは鉛やクロムなどの二価の重金属へ高い親和性を示すタンパク質であり、特許文献1は、その請求項8の記載、すなわち、既述の2つの金属に限られる。
【0033】
超蓄積として知られる、より高い吸収容量を有する植物種はこの後に発見された。
【0034】
特許文献2は土壌からの金属の回収に関する。
【0035】
この特許は、ファイトレメディエーションまたはファイトエクストラクションによる、金属に富む土壌からのニッケルやコバルトなどの金属の回収に関し、土壌のpHを調整することにより、所望の金属が、超蓄積する植物種中に選択的に蓄積される。
【0036】
金属は最終的に植物種の地上部の組織から抽出される。
【0037】
しかし、これらの植物種は非常に少量のバイオマスにしか育たないので充填容量が低く、ファイトレメディエーションはまだ緩慢である。それに加え、これらの植物種はライフサイクルが短いため、状況によっては土壌のファイトレメディエーションは疑わしい。
【0038】
特許文献2で特許請求されている植物種は、アリッサム(Alyssum)属に属する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】米国特許番号第005364551号
【特許文献2】国際公開番号第2000/28093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
これらの植物超蓄積種に関する主要な問題は、相対金属含量が多いにもかかわらず、生じるバイオマスが少量のために総吸収容量が低く、従って、抽出される金属量も少量であることである。それに加え、これらの植物種はライフサイクルが非常に短く、さらに限られた地域でしか育たない。
【0041】
これまでの未解決の問題は効果的な汚染物質の除去であり、それは、いわゆる超蓄積植物の実績である150/200年以上の期間をかけずに、1〜2年の期間で、欧州経済共同体により設定された制限値を下回ることを達成することであり、この100倍の時間短縮は土壌から汚染物質を除去するのに最良の解決策となるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0042】
本発明は、汚染土壌における厳しい土壌条件に適応した野生の植物種の調査および選択を通じてこの問題を解決し、これら植物種は、既に自然に遺伝子組み換えを受け、これらの条件に適応した野生種であり、これらの種のうち、食物連鎖に入る可能性を有しない種である。別の必要条件は大幅な気候的多様性にその生長を適応させる能力であり、これにより種々の気候条件で生長できる植物種を得ることができる。この方法は多量に水分を含んだ含水土壌にも適用でき、その場合は樹状の種を選択する。
【発明の効果】
【0043】
後に、遺伝子組み換えにより汚染物質の充填容量および既述の元素の吸収速度を非常に増大することができた。
【0044】
除去できる元素または同様の混合物は、有害および非有害の2つの主要なグループに分類された。有害なもののうち、鉛、カドミウム、水銀、銀、ボロン、アルミニウム、鉄、マンガン、銅、ニッケルおよびクロムなどの重金属はこれらの植物種によって除去することができる。ウラン、ロジウム、トリウムおよびプルトニウムなどの放射性元素や、ナトリウム、マグネシウム、リチウム、カリウム、カルシウムなどの非有害元素も除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】M、M15、M型汚染土壌の種々の土壌特性の測定結果および欧州連合により義務付けられた農業用土壌の制限値を示す。これらの測定の単位は左側の欄に示す。n.d.は「定まらず(not determined)」を意味する。
【図2】6月経過後の植物の生長高さ(mt)を表す棒図表である。縦座標軸は、ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)野生型植物(wt)とTaPCS1 OMG遺伝子で遺伝子組み換えした植物の6月経過後の長さ(メーター)を示す。野生型植物は3.5メーター育った一方、遺伝子組み換え植物は5メーターの高さに達したことを確認した。6ヶ月目の遺伝子組み換え植物は野生型植物と比較して40%以上生長したと考えられた。
【図3】ポプラ(Populus tremula x tremuloides cv. Etropole)のグラムで表した総バイオマス(T)、地上部のバイオマス(A)、茎、葉および小根のバイオマス濃度(mg/kg)(R)のバイオマス生産量に対する、汚染土壌MおよびM15の効果を示す。野生型植物(wt)および遺伝子組み換え植物の、茎および葉の中の濃度(BCF)、および根中の濃度(RCF)の2つの結果の総蓄積量をマイクログラム(μg)で表したものを示す。
【図4】ポプラ(Populus tremula x tremuloides cv. Etropole)のバイオマスの増加を示す。図4は、遺伝子TaPCS1を導入した2つの系統および遺伝子AtPCS1を導入した2つの系統と、バイオマスを対比する野生型植物(図の右)とを示し、これらは全てM培地、いわゆる非常に汚染された土壌中に植えた。2つの遺伝子のいずれかを有する植物は、土壌中にある金属による弱りが抑えられるため、より生長することがわかった。
【図5】遺伝子組み換えしていない植物ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)(wt)およびYCF遺伝子で遺伝子組み換えした植物ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)の26日目の生長を数字で表した棒図表である。全ての場合において、YCF遺伝子で遺伝子組み換えした植物は野生型の植物よりも葉が多いことがわかった。
【図6】ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)野生型植物(wt)と、これと比較するYCF遺伝子で遺伝子組み換えしたニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)の21日後の根が達する長さをセンチメーターで示す棒図表である。全ての場合で、遺伝子組み換え植物の根の長さが野生型植物の根の長さよりも長いことがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0046】
一連のステップで遺伝子組み換えした植物種を用いる、劣化地の回復方法である。
【0047】
該方法はまず、気候条件および土壌条件への適応能力を有する植物種の研究(一連の必要条件に従って選択するための研究)に関係する。
【0048】
これを受けて、一連の汚染土壌を定義し分類した。
【0049】
汚染土壌は、物理的特性、化学的特性または生物学的特性が、人間由来の有害成分の存在により人間の健康または環境にとって危険となるような濃度にまで悪化したものを意味すると理解されたい。
【0050】
汚染土壌の一連の試料は、鉱山業地域、工業地域および河川地域にて得た。
【0051】
その後、植物種の特性を、形態学、既述の植物種に対する動物の食物拒絶、環境適応性や土壌適応性、前記土壌で生存する種の研究などの種々の視点から分析した。
【0052】
これらのデータを用いて、M、M、M15と名づけた3種類の汚染土壌とMT土壌(トゥリア川の底(バレンシア州)から選択した土)を分析した結果を、図1として指定した分割表中に添付する。この表にて、特定の特性の量を、左側の欄に、3種類の土壌M、M、M15について既述の欄に示した単位で記載した。最後の欄は、欧州連合により設定された農業用土壌中の重金属の濃度制限値を示す。
【0053】
、M、M15土壌中で生長した種、従ってこれらの土壌に適応した種のうち、最終的に栄養連鎖の一部になり得るものや、規定の期間内の変動する気候条件において気候的ストレスに弱るものは採用しなかった。
【0054】
この方法では植物種の形態学的研究を続け、本方法において非常に重要な観点である植物種の根の深さの分析をした。これは、根が汚染物質を吸収する器官であり、地面中での汚染物質の分解が低速であっても、ファイトレメディエーションを単に表面で履行するのではなく広範囲で履行することを考慮したためである。
【0055】
その後、土壌から吸収した汚染物質が含まれる植物種の部位(根、茎および葉)を分析した。植物種の蓄積部位によれば、その植物種の既述の金属の充填容量が多いか少ないかがわかるからである。図3では、高度に汚染されたMおよびM15土壌におけるバイオマス量を評価し、さらに、ポプラ(Populus tremula x tremuloides cv. Etropole)の野生型植物種(wt)および遺伝子組み換え(PTa3およびPTa5)植物種において、鉛および亜鉛の濃度(mg/kg)、それらの総量(μgで表記)、生物濃縮(BCF)および小根密度(RCF)による濃度も評価した。
【0056】
本方法で制御される別の測定特性は、これらの植物種により製造されるバイオマス量である。バイオマス量の増大は、充填容量の増大とその結果のファイトレメディエーションの増大をもたらすからである。
【0057】
最後に、植物種は非常に容易に繁殖できるだけでなく、非常に様々な繁殖条件に適応できることすなわち、容易に繁殖できることも必要である。
【0058】
これらの判断基準を用いて、植物種を除外しながら選択した結果、乾燥土壌にはニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)、含水土壌にはポプラ(Populus tremula x tremuloides cv. Etropole)が最良の選択肢として得られた。
【0059】
さらに、選択された野生型ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)は理想的な一連の特徴を有する:ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)は屋外の土壌で発芽してその発芽力は非常に高いので、最終的に燃料として使用し得る。切断しても繁殖する。
【0060】
その植物の枝または一部を切断した場合、その部分を再生し生長を続ける。
【0061】
その植物は高い地表温度やかなり低い地表温度に耐える。
【0062】
その植物は干ばつや塩分に耐える。
【0063】
その植物は生長の初期段階には草本であり、広い植え付け枠を有してもよい。
【0064】
その植物は木化してすぐに良い燃料となり得、熱エネルギーおよび/または電気エネルギーにもなり得る。
【0065】
その植物は寄生生物や病気による被害にあうことはめったに無いか全く無いため、安定的な生産効率に望ましい。
【0066】
その植物は非常に少量の散水で十分である。
【0067】
遺伝子TaPCS1および遺伝子TaPCS1-AtPCS1を、これらの植物種(ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)、ポプラ(Populus tremula x tremuloides))にそれぞれ導入した。
【0068】
この選択方法では、植え付けや生長における植物種の挙動の研究を続け、種々の試料を採取して、汚染のない対照土壌(M)および汚染土壌(M、M、M15およびMT)で同一の生長研究をした。
【0069】
全てのタイプの土壌において、選択した植物種のバイオマスは、TaPCS1遺伝子およびAtPCS1遺伝子での遺伝子組み換えにより、両方の場合とも40%超えに増量したことがわかった。
【0070】
図4において、汚染土壌Mに植えた、ポプラ(Populus tremula x tremuloides cv. Etropole)にTaPCS1を遺伝子導入した2つの系統およびAtPCS1を遺伝子導入した2つの系統を野生型植物(図4の右側)と比較して示す。
【0071】
これらの実験は汚染のない土壌でも行ったところ、すべての土壌で同じ結果であった:遺伝子組み換え種のバイオマスの増量は真の新規性を構成し、すなわち、植物種への前記遺伝子の導入により、汚染土壌と汚染のない土壌におけるバイオマス生産量が増大するのである。
【0072】
ファイトレメディエーション技術の最も重要な特徴のひとつは、選択した植物種が生じるバイオマス量である。バイオマス増量はTaPCS1遺伝子およびAtPCS1遺伝子の導入では予期しない結果であったが、他の遺伝子を用いてのこの特徴の増大は研究されており、YCF遺伝子の導入を介してバイオマスの生産量が30%以上増量したことが明らかとなった。TaPCS1遺伝子およびAtPCS遺伝子の導入により得たものに対し、YCF遺伝子を導入する形質転換を加えて行うことで、植物のバイオマスの非常に重大な総量の増加が達成でき、それに加えてファイトレメディエーションにおけるかなりの時間短縮も達成できた。
【0073】
ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)の遺伝子組み換えした植物(GMO)および遺伝子組み換えしていない植物における生長の比較研究を行った。このため以下の系統の植物を用意した。
【0074】
野生型(wt)
【0075】
YCF1遺伝子で形質転換したL1、L7およびL3
【0076】
各系統の生長における研究を行い、第1に各植物の葉数を調べ、第2の実験で根の長さを調べた。
【0077】
図5から、遺伝子組み換えしていない植物(wt)とこの遺伝子で遺伝子組換えした植物に26日目に形成されていた葉数がわかる。
【0078】
YCF1遺伝子で形質転換した植物においては系統内で均一な生長値が得られ、実質的に全ての場合において野生型植物(wt)の値より高く、図6において見られるように21日目での根の長さに関しても同様である。
【0079】
同一のグループ内の系統の根の長さには大きな差異がなく、各グループ内の系統で均一な小根の生長が見られる。
【0080】
YCF1遺伝子で形質転換した植物はより長い小根の生長を示し、それらの根の長さは野生型(wt)植物の根の長さよりも長かった。
【0081】
3つの系統結果全体の検討では共通の生長パターンを示すことがわかり、つまり、3つの実験ではYCF1遺伝子で形質転換した系統はより高い生長値が得られる点で評価できる。
【0082】
結論としては、遺伝子組み換えした植物種により土壌を浄化するのに必要な時間は100〜200倍短縮される。
【0083】
本発明の方法を用いて、フィトケラチン合成の増加が見られる遺伝子を次のようにして導入する:
【0084】
第1に、植物種にとって適切なプラスミド中の遺伝子を導入した。
【0085】
ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)植物種には、トリーティクム・アエスティウム(Triticum aestivum)(TaPCS1)のフィトケラチン合成遺伝子を含む酵母プラスミドpYESTaPCS1を使用した。酵母中で先にクローン化したcDNAはpYESTaPS1プラスミドと名づけた。
【0086】
このプラスミドはXHoIで消化して一箇所のみの切断により直鎖状にし、その切断片はDNAポリメラーゼIを用いて平滑末端化した。平滑末端化した後、pYESTaPCS1プラスミドの残りの部分はBamHIにつなぎ、5’BamHI末端および3’平滑末端を有しTaPCS1遺伝子のcDNAを含む2Kbの断片を作製する。
【0087】
同時に、pBII21無処理プラスミドはBamHIおよびECL136IIで消化する(3’平滑末端を残して挿入断片の3’と合わせる)。2Kbの挿入断片は先に切断したプラスミドのBamHI-EcI136II部位に結合させ、新たなpBITaPCS1構造物を得る。
【0088】
新たな構造物(pBITaPCS1)は、1株のアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、C58C1RifR Rif(Van Larebekeら、1974)中に電気穿孔する。ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)の葉外植片は、ガンボーグ(Gamborg)ビタミンB5、3%スクロース、2.5シンボル(SYMBOL)109\f'Symbol'\s 12gmL-1ナフタレン酢酸(NAA)、1シンボル(SYMBOL)109\f'Symbol'\s 12gmL-1アミノプリナ・ベンシル(BA)、0.8%寒天を含む有機物質培地NB2510〔MS塩(Murashige およびSkoog、1962)〕で光なしで2日間培養した後、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(A.tumefaciens)を用いて感染させる。成葉および幼葉の外植片は、Agrobacteriumの培地中に10分間浸すことにより感染させる。1日間の共培養後、この外植片は100シンボル(SYMBOL)109\f'Symbol'\s 12gmL-1カナマイシンおよびカルベニシリン(350シンボル(SYMBOL)109\f'Symbol'\s 12gmL-1)を含む選択培地NB2510に移す。感染後2ヶ月で、この植物を外植片から個々に取り出し、30mlのB1倍地(ガンボーグ(Gamborg)B5ビタミン、0.3シンボル(SYMBOL)109\f'Symbol'\s 12gmL-1インドール酢酸、0.2シンボル(SYMBOL)109\f‘Symbol'\s 12gmL-1NAA、1%スクロース、100シンボル(SYMBOL)109\f'Symbol'\s 12gmL-1、0.7%寒天を含むMS塩)を含む広口瓶に移す。
【0089】
TaPCS1遺伝子の他、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のYCF遺伝子(Yeast Camium Factor)も、ニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)に導入した。それは、液胞中に金属を入れて蓄積することができる液胞キャリアである。先にクローン化した酵母YCF1遺伝子(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))のcDNA配列に、XbaI切断配列を5’末端にその35sプロモーター(カリフラワー・モザイクのCaMVウイルス)と共に加え、遺伝子発現を増強し、3’末端には「ocs」ターミネーター配列をSacl切断部位と共に加えた。同時に、非処理のプラスミドpGREEN0179はSaclおよびXbaIで消化する。挿入断片は、先に切断したプラスミドのSacI−XbaI部位に結合させ、pGYCF1と名づける新たな構造物を得る。形質転換方法は同様に行うが、この場合は1つの新たなpGYCF1構造物とする。
【0090】
植物種ポプラ(Populus tremula x tremuloides cv. Etropole)の場合、導入遺伝子はTaPCS1およびAtPCS1(アラビドプシス・タリアナ(Arabiopsis thaliana)のフォトケラチン合成)である。アラビドプシス・タリアナ(Arabiopsis thaliana)のフォトケラチン合成の遺伝子AtPCS1は、1458ntの不完全ORF(5’末端)と、それには44ntを加えて5’末端に翻訳配列を完成させ、併せて、AtPCS1遺伝子を高発現させるために、前記末端にBAMHI酵素切断部位を含む配列GCTggATccACCおよび「コザック」断片(CACC)を加えてPCRによりクローン化した。EcoRVの制限配列もまた翻訳配列の末端(3’末端)に加え、プラスミド中にさらに挿入できるようにした。同時に、非処理のpBII21プラスミドはBamHIとEC1136IIで消化し(3’平滑末端を残して挿入断片の3’と合わせる)、その部位のuidA遺伝子を抽出する。1.6Kbの挿入断片(AtPCS1)を、先に切断したプラスミドのBamHIおよびEc1136II部位に結合させて、pBlAtPCS1と名づけた新たな構造物を得る。形質転換方法は同様に行うが、この場合は2つの構造物pBlAtPSC1およびpBlTaPCS1とする。
【0091】
この方法で、土壌浄化に望ましい植物種を特定し、先に露呈した以下の問題を解決した。
【0092】
ファイトレメディエーション時間の100〜150倍の短縮
バイオマス生産量の増加
種々の気候条件および土壌条件への適応
重金属抽出範囲の増大
【0093】
従って、これらの植物種は種々の気候条件および土壌条件に適応能力を有し、多量のバイオマスを生産し、先に2つの大きなグループ(有害および非有害)に分類した元素またはその混合物を蓄積するであろう。これらの植物種は、有害である、鉛、カドミウム、水銀、銀、ボロン、アルミニウム、鉄、マンガン、銅、ニッケルおよびクロムなどの重金属を除去できる。ウラニウム、ロジウム、トリウムおよびプルトニウムなどの放射性元素や、ナトリウム、マグネシウム、リチウム、カリウム、カルシウムなどの非有害元素を除去することができる。
【0094】
加えて、遺伝子組み換えしたニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)は見た目も好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥土壌中および含水土壌中において遺伝子組み換え植物が対照植物よりも増加生長することを特徴とする植物種のバイオマスを増量する方法であって、
前記遺伝子組み換え植物は、TaPCS1遺伝子およびAtPCS1遺伝子を組み入れる第1段階と、YCF遺伝子を組み入れる第2段階とによって作製する、植物種のバイオマスを増量する方法。
【請求項2】
乾燥土壌中で前記増加生長するニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)種は、TaPCS1遺伝子を組み入れる第1段階と、YCF遺伝子を組み入れる第2段階とによって作製する、請求項1に記載の植物種のバイオマスを増量する方法。
【請求項3】
含水土壌中で前記増加生長するポプラ(Populus tremula x tremuloides cv. Etropole)は、TaPCS1遺伝子およびAtPCS1遺伝子を組み入れる第1段階と、YCF遺伝子を組み入れる第2段階とによって作製する、請求項1に記載の植物種のバイオマスを増量する方法。
【請求項4】
TaPCS1遺伝子およびAtPCS1遺伝子を組み入れる第1段階とYCF遺伝子を組み入れる第2段階とによって遺伝子組み換えをしたニコチアナ・グラウカ(Nicotiana glauca)およびポプラ(Populus tremula x tremuloides cv. Etropole)により、鉛、カドミウム、水銀、銀、ボロン、アルミニウム、鉄、マンガン、銅、ニッケルおよびクロムである重元素、ウラン、ロジウム、トリウムおよびプルトニウムである放射性元素、ならびにアルカリ元素およびアルカリ土類元素を除去することを特徴とする、請求項1に記載の前記植物種のバイオマスの前記増量に、TaPCS1遺伝子、AtPCS1遺伝子、YCF1遺伝子のキレート作用の組合せを用いる劣化土壌の迅速なファイトレメディエーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−521777(P2012−521777A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502717(P2012−502717)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070080
【国際公開番号】WO2010/112622
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(511238055)
【氏名又は名称原語表記】Juan Pedro Navarro Avino
【Fターム(参考)】