説明

遺伝的に改変された微生物の製造方法

【課題】より効率的且つ汎用的に、遺伝的に改変された微生物を製造する方法を提供する。
【解決手段】ドナー微生物からレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法を用いることを含む、遺伝的に改変された微生物の製造方法であって、レシピエント微生物中の標的遺伝子とその周辺の塩基配列とを欠失させた塩基配列領域、ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、複製開始領域、レシピエント微生物が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子、及びレシピエント微生物に対する条件致死遺伝子を含む、遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナー微生物からレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法を用いることにより、微生物を遺伝的に改変する方法に関する。具体的には、上記接合伝達を利用した形質転換方法を用いることにより、例えば、ゲノム中の標的遺伝子を欠失若しくは不活性化した、又は当該遺伝子に他の遺伝子導入した、遺伝的に改変された微生物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロドコッカス属細菌は、その物理的強度、有機溶媒耐性、酸化還元能、酵素などを細胞内に多量蓄積する能力などを有することから、産業的に有用な微生物触媒として知られている。例えば、ロドコッカス属細菌は、ニトリル類の酵素的水和又は加水分解によるアミドもしくは酸の生産などに利用されている(特許文献1、特許文献2)。また、難分解性化合物に対する分解能の高い微生物種としても知られており(特許文献3〜6)、その能力を活用することで、種々の有用物質生産および環境浄化への応用検討が進められている。例えば、脱硫による石油からの有用物質の生産、あるいは環境中への石油流出時におけるバイオレメディエーションなどが挙げられる。
【0003】
加えて、ロドコッカス属細菌を遺伝子組換えの方法により、さらに有用なものに改変する試みがなされている(特許文献7〜9)。例えば、ロドコッカス属細菌の遺伝子操作を効率的に推し進めるために、宿主−ベクター系の開発が進められており、新規なプラスミドの探索(特許文献10〜12)、ベクターの開発(特許文献13〜19、非特許文献1)などが行われている。
【0004】
このようにロドコッカス属細菌の有用性が明らかになると共に、従来の遺伝子組換え手法の開発に加え、宿主としてのロドコッカス属細菌自体を使用目的に併せて望む特性を有するように改変する手法の開発が期待されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-470号公報
【特許文献2】特開平3-251192号公報
【特許文献3】欧州特許第188316号明細書
【特許文献4】欧州特許第204555号明細書
【特許文献5】欧州特許第348901号明細書
【特許文献6】欧州特許出願第307926号明細書
【特許文献7】特開平4-211379号公報
【特許文献8】特開平6-25296号公報
【特許文献9】特開平6-303791号公報
【特許文献10】特開平4-148685号公報
【特許文献11】特開平4-330287号公報
【特許文献12】特開平7-255484号公報
【特許文献13】特開平5-64589号公報
【特許文献14】特開平8-56669号公報
【特許文献15】米国特許第4,920,054号明細書
【特許文献16】特開平8-173169号公報
【特許文献17】特開平10-248578号公報
【特許文献18】特開2006-180843号公報
【特許文献19】特開2006-50967号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Bacteriology, vol. 170, p. 638-645 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロドコッカス属細菌をより有効に活用するためには、従来の遺伝子組換えによる有用タンパク質発現に加え、ロドコッカス属細菌のゲノムを改変し、代謝経路の改変若しくは再設計をすることが効果的である。ロドコッカス属細菌のゲノムの改変には、本来ロドコッカス属細菌のゲノムに備わっている遺伝子の機能を発現しない状態にすること(機能の喪失)と、本来ロドコッカス属細菌のゲノムに備わっていない遺伝子の機能を発現できる状態にすること(機能の付与)の2種類がある。機能を喪失させるには、ロドコッカス属細菌のゲノム上の標的遺伝子を特異的に欠失若しくは不活性化することが挙げられる。また、機能を付与させるには、本来当該ゲノム上に存在しない遺伝子(例えば、他の生物種由来の遺伝子)を当該ゲノム上に導入することが挙げられる。
【0008】
ゲノム上に存在する遺伝子を欠失又は不活性化する手法としては、相同組換え(Homologous recombination)を利用する方法が挙げられる。これは、標的遺伝子の間に薬剤耐性マーカー遺伝子などを相同組換えにより挿入して機能発現しない状態にする(不活性化)、又は、標的遺伝子の一部もしくは全部を含まない配列に置換することにより標的遺伝子自体を欠失させて、その発現そのものを止めてしまう方法である。
【0009】
本来ゲノム上に存在しない他の遺伝子を導入する手法としては、上記欠失又は不活性化と同様、相同組換えを利用してゲノム上の狙った位置に目的遺伝子を導入する方法と、非相同組換えを利用して、ゲノム上のランダムな位置に導入する方法とが挙げられる。相同組換えによる導入の場合、実際に行う内容は上記欠失の逆で、本来遺伝子を含まない領域を、導入したい遺伝子及びその調節領域を含む配列に置換することにより、目的の遺伝子を導入する方法である。ランダムに導入する場合、その宿主内で機能するトランスポゾンのような転移因子等を利用するのだが、ゲノム上の導入位置をコントロールできないという問題がある。
【0010】
また、上記の方法により遺伝子の欠失を行う際、標的遺伝子を他の遺伝子の配列に置換した配列を用いることにより、当該遺伝子機能の喪失と(置換した遺伝子に由来する)新たな機能の付与を同時に行うこともできる。
【0011】
大腸菌や酵母などのいくつかの微生物では効率的な相同組換え技術が確立しているため、比較的容易に標的遺伝子の欠失若しくは不活性化、又は他の遺伝子の導入を行うことができる。
【0012】
ロドコッカス属細菌において相同組換えを行う際の遺伝子導入法として、エレクトロポレーション法等が知られている。エレクトロポレーション法はロドコッカス属細菌における代表的な形質転換法であるが、相同組換えに適用した場合、ロドコッカス属細菌及びその類縁属細菌は非相同組換えが起こり易いという特徴を有しているため、目的の相同組換え株が極めて低確率でしか得られないという問題がある。相同組換えを行う際の他の遺伝子導入法としては、接合伝達を利用する方法(接合伝達法)が挙げられるが、当該方法はロドコッカス属細菌に対しては殆ど適用されていない。従って、ロドコッカス属細菌において、標的遺伝子を効率的且つ汎用的に欠失若しくは不活性化、又は他の遺伝子を導入する方法は、確立していない状況である。
【0013】
このような状況下において、ロドコッカス属細菌等の微生物に対し、より効率的且つ汎用的に、標的遺伝子を欠失若しくは不活性化する、又は他の遺伝子を導入する技術の開発、ひいては、より効率的且つ汎用的に、遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌等の微生物を製造する方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、遺伝的に改変された微生物の製造方法等を提供するものである。
【0015】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ドナー微生物からレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法を用いることを含む、遺伝的に改変された微生物の製造方法であって、以下の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする、前記方法。
【0016】
(a)レシピエント微生物として、前記接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性が強化された微生物を製造する工程;
(b)ドナー微生物として、(i)レシピエント微生物中の標的遺伝子とその周辺の塩基配列とを含む塩基配列領域において (i-1)当該標的遺伝子を欠失させた塩基配列領域、(i-2)当該標的遺伝子を不活性化させた塩基配列領域、(i-3)当該遺伝子を他の遺伝子に置換した塩基配列領域、又は(i-4)当該領域の内部に他の遺伝子及びその調節領域を含む配列を挿入した塩基配列領域、(ii)当該ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、(iii)当該ドナー微生物において機能する複製開始領域、(iv)レシピエント微生物が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子、及び(v)レシピエント微生物に対する条件致死遺伝子を含む、遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を製造する工程;
(c)前記(b)で製造されたドナー微生物から前記(a)で製造されたレシピエント微生物への接合伝達を行うことにより、当該レシピエント微生物の形質転換体を製造する工程;並びに
(d)前記(c)で製造された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。
【0017】
本発明の製造方法において、ドナー微生物としは、例えば大腸菌を用いることができ、レシピエント微生物としては、例えばロドコッカス属細菌を用いることができる。ここで、ロドコッカス属細菌としては、例えば、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)又はロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)が挙げられる。
(2)上記(1)に記載の製造方法により得られる、遺伝的に改変された微生物。
(3)上記(2)に記載の微生物を宿主として用いて培養し、得られる培養物から目的タンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、微生物、特にロドコッカス属細菌等の微生物に対して、より一層効率的且つ汎用的に、標的遺伝子の欠失若しくは不活性化、又は他の遺伝子の導入等を行うことができる、遺伝的に改変された微生物の製造方法等を提供することができる。具体的には、本発明は、ロドコッカス属細菌等の産業的に有用な微生物について、標的遺伝子の欠失若しくは不活性化、又は他の遺伝子の導入等による代謝経路の改変又は再設計、ひいては当該微生物を宿主等に用いた効率的な物質生産を容易にした点で、産業的にも極めて優れたものであるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の製造方法によりRhodococcus属細菌のカナマイシン耐性遺伝子を欠失させる際の各工程における、当該細菌ゲノム上で起こる相同組換え等について示した概略図である。
【図2】遺伝子改変用プラスミドpKM043の遺伝子地図を示す図である。
【図3】(A)カナマイシン感受性株RhΔKm-01を単離することに成功した結果を示す図である。(B)RhΔKm-01株においてカナマイシン耐性遺伝子長約0.5 kbに相当する領域がゲノムから欠失していることを確認した結果を示す図である。
【図4】(A)カナマイシン感受性株RhΔKm-10を単離することに成功した結果を示す図である。(B)RhΔKm-10のゲノムからカナマイシン耐性遺伝子が欠失していることを確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0021】
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。

1.本発明の概要
標的遺伝子の欠失若しくは不活性化、又は他の遺伝子の導入を行う場合、遺伝子改変用プラスミドが相同組換えによりゲノム上の当該遺伝子に導入された株(以下、相同組換え株)を効率的に得るステップが最も重要である。エレクトロポレーション法では2本鎖DNAの状態で対象細菌内に導入されるが、接合伝達法においては1本鎖DNAの状態で導入されるモデルが提唱されており、対象細菌のゲノムに組みこまれるメカニズムは両者で異なる可能性がある。エレクトロポレーション法により導入が行われた場合には、高効率で標的遺伝子外に挿入される(非相同組換えが起こる)ことから、接合伝達法による導入を中心に検討を行った。
【0022】
遺伝子組換えを行う場合、選択マーカーの能力が高いほど選抜条件の最適化が容易になり、目的の組換え株が得やすくなると考える。従って、効率的に相同組換え株を取得するには、高性能の選択マーカーを用意すればよい。接合伝達法を用いた標的遺伝子の欠失若しくは不活性化、又は他の遺伝子の導入を行う場合、ドナーとなる微生物の組換え株(ドナー微生物)とレシピエントとなる微生物(レシピエント微生物)の非組換え株との双方の生育を阻害しなければならないため、選択マーカー(薬剤耐性マーカー)が2種類必要になる。なお、本明細書においてレシピエント微生物とは、本発明でいう遺伝的改変が行われる対象の微生物を指す。
【0023】
接合伝達法に用いるプラスミドとしては、例えばプラスミドpK19mob(Gene 145, 69-73 (1994))が挙げられる。pK19mobは、例えばナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)などの分譲機関から入手可能である。本プラスミドは、選択マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子を有しているため、カナマイシンによりレシピエント微生物の非組換え株の生育を阻害できる。また、ドナー微生物の生育を阻害するため、ドナー微生物には強力に作用するが、レシピエント微生物の生育には殆ど影響を与えない選択マーカーをレシピエント微生物が有している必要がある。しかし、必ずしもそのような強力な選択マーカーをレシピエント微生物が保有しているとは限らない。例えば、レシピエント微生物がロドコッカス属細菌である場合、ロドコッカス属細菌はいくつかの薬剤に対し耐性を示すことは知られているが、その耐性は弱いため、接合伝達用のマーカーとしては十分ではない。
【0024】
そこで、本発明者は、予め、高濃度の薬剤に対しても十分な耐性を示す微生物の変異株を製造し、当該変異株をレシピエントとすることにより、汎用性に優れ且つ高効率な相同組換えが可能となることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。

2.遺伝的に改変された微生物の製造方法
本発明に係る遺伝的に改変された微生物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)は、前述した通り、ドナー微生物からレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法を用いることを含む、遺伝的に改変されたレシピエント微生物の製造方法であり、以下の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする方法である。

(a)レシピエント微生物として、前記接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性が強化された微生物を製造する工程;
(b)ドナー微生物として、下記(i)〜(v):
(i)レシピエント微生物中の標的遺伝子とその周辺の塩基配列とを含む塩基配列領域において (i-1) 当該標的遺伝子を欠失させた塩基配列領域、(i-2) 当該標的遺伝子を不活性化させた塩基配列領域、(i-3)当該遺伝子を他の遺伝子に置換した塩基配列領域、又は (i-4) 当該領域の内部に他の遺伝子及びその調節領域を含む配列を挿入した塩基配列領域、
(ii)当該ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、
(iii)当該ドナー微生物において機能する複製開始領域、
(iv)レシピエント微生物が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子、及び
(v)レシピエント微生物に対する条件致死遺伝子
を含む遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を製造する工程;
(c)前記(b)の工程で製造されたドナー微生物から前記(a)の工程で製造されたレシピエント微生物への接合伝達を行うことにより、当該レシピエント微生物の形質転換体を製造する工程;及び
(d)前記(c)の工程で製造されたレシピエント微生物の形質転換微生物を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。

2.1. 工程(a)
工程(a)では、接合伝達に供するレシピエント微生物として、接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性を強化した微生物を製造する。
【0025】
本発明の製造方法において、レシピエント微生物、すなわち本発明でいう遺伝的改変が行われる対象となる微生物としては、限定されないが、例えば、ロドコッカス属細菌、バチルス属細菌、シュードノカルディア属細菌、ジオバチルス属細菌、シュードモナス属細菌、ゴルドニア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ノカルディア属細菌、マイコバクテリウム属細菌等が好ましく挙げられ、中でもロドコッカス属細菌は、細胞壁が強固で反応液中へタンパク質などの菌体内容物が漏れないため微生物触媒としての使用に適している等の点でより好ましい。
【0026】
ここで、ロドコッカス属細菌としては、例えば、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1、M8(SU1731814)、M33(VKM Ac-1515D)、ATCC 184、ATCC 999、ATCC 4001、ATCC 4273、ATCC 4276、ATCC 9356、ATCC 12483、ATCC 12674、ATCC 13808、ATCC 14341、ATCC 14347、ATCC 14350、ATCC 15905、ATCC 15998、ATCC 17041、ATCC 17043、ATCC 17895、ATCC 19067、ATCC 19149、ATCC 19150、ATCC 21243、ATCC 21291、ATCC 21785、ATCC 21924、ATCC 21999、ATCC 29670、ATCC 29672、ATCC 29675、ATCC 33258、ATCC 33275、ATCC 39484、IFO 3338、IFO 14894、JCM 3202、NCIMB 11215、NCIMB 11216、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4(NBRC 100887)、NBRC 12320、NBRC 15567、NBRC 16296、IFM 155、DSM 743、DSM 9675、DSM 43200、JCM 6821、JCM 6822、JCM 6823、JCM 6824、JCM 6827、DSM 11397、DSM 44522、JCM 2895、JCM 2893、JCM 2894、IAM 1400、IAM 1503、ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)B4等が挙げられる。
【0027】
バチルス属細菌としては、例えば、バチルス・スミシ(Bacillus smithii)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・リケニホルミス (Bacillus licheniformis)等が好ましく挙げられる。
【0028】
シュードノカルディア属細菌としては、例えば、シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)、シュードノカルディア・オートトロフィカ(Pseudonocardia autotrophica)等が好ましく挙げられる。
【0029】
ジオバチルス属細菌としては、例えば、ジオバチルス・サーモグルコシダシアス(Geobacillus thermoglucosidasius)、ジオバチルス・コウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)、ジオバチルス・サーモレオボランス(Geobacillus thermoleovorans)等が好ましく挙げられる。
【0030】
シュードモナス属細菌としては、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)、シュードモナス・マルギナリス(Pseudomonas marginalis)等が好ましく挙げられる。
【0031】
ゴルドニア属細菌としては、例えば、ゴルドニア・テラエ(Gordonia terrae)等が好ましく挙げられる。
コリネバクテリウム属細菌としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)等が好ましく挙げられる。
【0032】
ノカルディア属細菌としては、例えば、ノカルディア・YS-20021株(CN1584024)、ノカルディア・JBRs株(GenBankアクセッション番号:AY141130)等が好ましく挙げられる。
【0033】
接合伝達を行う場合、レシピエントとして用いる微生物(レシピエント微生物)には、ドナー微生物の生育を阻害するための薬剤耐性マーカーが必要である。よって、薬剤耐性を有していない微生物、又は薬剤耐性の乏しい微生物をレシピエントとして使用する場合、薬剤選択可能な程度の十分な薬剤耐性を有する変異株の製造が必要となる。ここで、薬剤としては、接合伝達時にドナーとして用いる微生物(ドナー微生物)の有する薬剤耐性を考慮し、ドナー微生物が感受性を示す薬剤が好ましい。ここで、薬剤に対し感受性を示すとは、薬剤含有培地において、微生物が生育できないことをいう。また、薬剤に耐性を示すとは、薬剤含有培地においても微生物が十分に生育できることをいう。
【0034】
当該薬剤としては、具体的には、クロラムフェニコール、アンピシリン、カナマイシン、トリメトプリム、ゲンタマイシン、ナルジクス酸、カルベニシン、チオストレプトン、テトラサイクリン、ストレプトマイシン等が好ましく、クロラムフェニコール、アンピシリンがより好ましい。
【0035】
上述のように薬剤耐性を強化したレシピエント微生物を製造する方法としては限定されない。例えば、(イ)自然変異誘発法、(ロ)紫外線照射や変異誘発剤を用いる突然変異誘発法、(ハ)EZ-Tn5(Epicentre社製)のようなランダム変異導入ツール等を用いることにより、本来レシピエント微生物が持たない薬剤耐性遺伝子を人為的に当該微生物ゲノム上に導入する方法、及び(ニ)あらかじめ遺伝子改変用プラスミドとは別の、抗生物質耐性獲得用のプラスミドを導入する方法等が好ましく挙げられ、中でも自然変異誘発法がより好ましい。
【0036】
自然変異誘発法とは、所望の薬剤を含有する培地中で対象とする微生物を継代培養等することにより、もともとは当該培地中で生育不可又は困難な微生物に自然変異を誘発させて、より高濃度の薬剤を含有する当該培地中でも生育し得る株を取得する方法である。
【0037】
レシピエント微生物の薬剤耐性をどの程度まで強化するかについては、使用するレシピエント微生物、ドナー微生物及び選択する薬剤により異なるため適宜調整することができるが、レシピエント微生物の生育が抑制されず、且つ、ドナー微生物の生育が十分阻害される薬剤濃度を基準に強化することが好ましい。例えば、レシピエント微生物としてロドコッカス属細菌を、ドナー微生物として大腸菌を、選択用薬剤としてクロラムフェニコールを用いる場合、自然突然変異により、クロラムフェニコール30〜200 mg/L、好ましくは50〜200 mg/Lを含有する培地において生育可能なレシピエント微生物(クロラムフェニコール耐性強化株)を得ることが望ましい。

2.2. 工程(b)
工程(b)では、接合伝達に供するドナー微生物として、所定の遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を製造する。遺伝子改変用プラスミド、すなわちレシピエント微生物中の標的遺伝子を改変するためのプラスミドとしては、前述の(i)〜(v)の構成(遺伝子・塩基配列等)を含むものを用いる。
【0038】
ドナー微生物からレシピエント微生物にプラスミドを伝達するためには、oriTに加え、mob遺伝子及びtra遺伝子(群)が最小限必要である。mobはoriT特異的ニック酵素をコードする遺伝子で、この酵素がoriTに働くことによりドナー微生物からレシピエント微生物への(遺伝子改変プラスミドの)移行が開始される。traは多数の遺伝子群の総称で、性繊毛形成、接合管形成、接合制御に関与する遺伝子群で構成されている。mob遺伝子及びtra遺伝子(群)は必ずしも遺伝子改変プラスミド上になくてもよく、別のプラスミド(ヘルパープラスミド)、もしくはドナーとなる微生物ゲノム上に組み込まれていてもよい(蛋白質 核酸 酵素38, 60-68 (1993))。
【0039】
本発明の製造方法において、ドナー微生物としては、上記レシピエント微生物と接合伝達可能な微生物であればよく、限定されないが、上記の接合伝達に最低限必要な構成要件を満たしている必要がある。従って、使用する遺伝子改変用プラスミド上にoriT 、mob遺伝子及びtra遺伝子(群)が一通り備わっている場合は、それぞれが機能しうる微生物であれば特に限定されないが、使用する遺伝子改変用プラスミド上にoriTのみが備わっている場合は、oriTに対応するmob遺伝子及びtra遺伝子(群)を保有する微生物を用いる必要がある。ドナーとなる微生物と遺伝子改変用プラスミドの組み合わせとしては、例えば、大腸菌S17-1とpK19mobの組み合わせが好ましい。大腸菌S17-1のゲノム上には、プラスミドRP4由来のtra遺伝子(群)が、pK19mobにはRP4由来のoriT 、mob遺伝子がそれぞれ備わっているため、ドナー微生物として使用可能である。
【0040】
ここで、前記(i)の配列は、改変の対象とするレシピエント微生物中の標的遺伝子と当該遺伝子の周辺の塩基配列とを含む塩基配列領域において (i-1) 当該遺伝子を欠失させた塩基配列領域、(i-2) 当該遺伝子を不活性化させた塩基配列領域、(i-3) 当該遺伝子を他の遺伝子に置換した塩基配列領域、又は(i-4)当該領域の内部に他の遺伝子及びその調節領域を含む配列を挿入した塩基配列領域である。
【0041】
レシピエント微生物のゲノムから、標的遺伝子と当該遺伝子の周辺の塩基配列とを含む塩基配列、又は遺伝子挿入を行う標的領域(相同領域)部分の塩基配列の単離(クローニング)は、遺伝子ライブラリー作製やPCR等の公知技術を用いて行うことができる。
【0042】
なお、標的遺伝子の周辺の塩基配列としては、限定されないが、当該レシピエント微生物のゲノムとの相同領域(標的遺伝子周辺の塩基配列)が長いほどより効率よく相同組換えを起こすことが出来るため、クローニングに支障が出ない範囲でより長い配列を用いることが好ましい。例えば、当該遺伝子の上流及び下流の相同領域がそれぞれ100〜3000 bpの塩基配列を含む配列であることが好ましく、より好ましくは500〜2000 bpの塩基配列を含む配列である。
【0043】
単離した塩基配列を用いて、前述した(i)の塩基配列領域を製造する方法は、特に限定はされず、PCR法や制限酵素を用いた標的遺伝子部分の切除もしくは置換等の公知技術を用いて行うことができる。
【0044】
前記(i-1)でいう欠失させた遺伝子としては、レシピエント微生物のゲノムにコードされる標的遺伝子の一部又は全部が欠失等されたもの、プロモーター配列の一部又は全部が欠失等されたもの、当該遺伝子の発現調節に関連する遺伝子の一部又は全部が欠失等されたものなどが挙げられ、これらの欠失等された領域は単独でもよいし複数を組み合わせたものでもよい。
【0045】
前記(i-2)でいう不活性化させた遺伝子としては、レシピエント微生物のゲノムにコードされる標的遺伝子又は当該遺伝子の発現調節に関連する遺伝子の内部に、例えば薬剤耐性遺伝子等の外来塩基配列等を導入し、本来の機能を発現しない遺伝子に改変されたものなどが挙げられる。この際の外来塩基配列等は、当該遺伝子が正常に発現しない状態にできるものであれば限定されない。従って、必ずしも何らかの遺伝子をコードしている必要はないが、レシピエント微生物中で当該微生物の生育を著しく阻害しないものが好ましい。
【0046】
前記(i-3)でいう、当該遺伝子を他の遺伝子に置換した塩基配列としては、標的遺伝子をコードする配列を他の遺伝子をコードするものに置換したキメラ配列が挙げられる。本発明実施時にこの配列を用いた場合、標的遺伝子を発現しない状態にすると同時に、(当該標的遺伝子が発現する条件で)置換した遺伝子が発現する状態にすることができる。この際、置換する遺伝子としては特に限定されないが、レシピエント微生物中で機能発現した場合に当該微生物の生育を著しく阻害しないものが好ましい。
【0047】
前記(i-4)でいう、当該領域の内部に他の遺伝子及びその調節領域を含む配列を挿入した塩基配列としては、レシピエント微生物のゲノム上に挿入したい遺伝子及びその調節領域(挿入遺伝子等)を2つの相同領域で挟んだキメラ配列が挙げられる。この2つの相同領域は、ゲノム上で隣接していても離れていてもよい。挿入遺伝子等の挿入位置は特に限定されないが、挿入されたことにより他の遺伝子発現等に影響を及ぼさない位置を選ぶことが好ましい。特に、レシピエント微生物の生育を著しく阻害しない位置を選ぶことがより好ましい。挿入遺伝子等としては特に限定されないが、レシピエント微生物中で機能発現した場合に当該微生物の生育を著しく阻害しないものが好ましい。
【0048】
前記(ii)の接合伝達開始領域は、使用するドナー微生物中において接合伝達の開始点となる塩基配列を含む領域であれば限定されない。例えば、Fプラスミド由来の接合伝達開始領域を含む配列、プラスミドR6K由来のoriT、プラスミドRP4由来のoriTが好ましい。
【0049】
前記(iii)の複製開始領域は、使用するドナー微生物中において前記遺伝子改変用プラスミドの自己複製起点として機能し得る塩基配列を含む領域であれば限定されない。例えば、プラスミドpMB1及び広宿主域プラスミドRK2由来の複製開始点並びにその派生物等を含む領域の使用が好ましい。
【0050】
前記(iv)の耐性遺伝子は、接合伝達に供するレシピエント微生物(例えばロドコッカス属細菌等)が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子であれば限定されない。例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、チオストレプトン耐性遺伝子、カルベニシン耐性遺伝子等が好ましく挙げられ、中でもカナマイシン耐性遺伝子がより好ましい。
【0051】
前記(v)の条件致死遺伝子は、レシピエント微生物のゲノム上に導入され、且つある特定条件下にさらされた場合に、当該微生物を死に至らしめる作用を有し得る遺伝子であれば限定されない。例えば、sacB遺伝子が好ましく挙げられる。sacB遺伝子は、当該遺伝子を保有し発現する微生物(例えばロドコッカス属細菌等)をスクロース含有培地で培養した場合に、スクロースを基質とし当該微生物に対して致死作用を有する有害物質を産生する酵素をコードする遺伝子である。
【0052】
接合伝達に用いる前記遺伝子改変用プラスミドは、如何なるベクターをベースとして構築されたものであってもよく、その種類は特に限定はされない。使用するベクターとしては、例えば、pBR322、pSC101、pACYC184、pACYC177、pTrc99A、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pHSG298、pHSG299、pSP64、pSP65、pGEM-3、pGEM-3Z、pGEM-3Zf(-)、pGEM-4p、GEM-4Z、Bluescript M13+、Bluescript M13-、pK19mob、pK18mob、pK18mobsacB等が挙げられる。中でも、プラスミド内部に既にRP4由来のoriT及びmobを有しているpK19mob、pK18mob、pK18mobsacB(Schaefer等, Gene, vol. 45, p. 69-73(1994))を用いることがより好ましい。

前記遺伝子改変用プラスミドにおける(i)〜(v)の構成は、その配置については特に限定されず、如何なる順番で配置されていてもよい。前記(i)〜(v)の構成を含む遺伝子改変用プラスミドの構築は、公知の遺伝子組換え技術を用いて実施することができる。
【0053】
工程(b)では、上述したような各構成を有する遺伝子改変用プラスミドをドナーとして用いる微生物内に導入して形質転換された微生物、すなわち接合伝達に供するドナー微生物を製造する。その際、形質転換の方法としては、エレクトロポレーション法や塩化カルシウム法等の、微生物の形質転換方法として公知の方法を用いることができる。

2.3. 工程(c)
工程(c)では、工程(b)で製造されたドナー微生物から工程(a)で製造されたレシピエント微生物への接合伝達を行う。通常は、ドナー微生物及びレシピエント微生物のそれぞれの菌体懸濁液を混合し、適当なプレート培地(例えば、LB培地等)上に均一に広げて、両微生物の接合を行わせる。該接合においては、ドナー微生物中の遺伝子改変用プラスミドがレシピエント微生物内に移動し、レシピエント微生物のゲノムと上記プラスミドとの相同配列で相同組換えが起こり、遺伝子改変用プラスミドの一部又は大部分が当該微生物のゲノム上に導入される。この接合により、レシピエント微生物の形質転換体、すなわち相同組換え株が製造される。
【0054】
本工程(c)における所望の相同組換え株は、1重交差により標的遺伝子の上流又は下流に当該遺伝子改変用プラスミドが導入されたものである。所望の相同組換え株であるかどうかの確認は、レシピエント微生物自体の薬剤耐性、及び前記遺伝子改変用プラスミド由来の薬剤耐性を利用して行うことができる。具体的には、両薬剤を含む培地(例えば、カナマイシン及びクロラムフェニコール含有培地等)において上記接合後の微生物を培養することにより、所望の相同組換え株を選択することができる。

2.4. 工程(d)
工程(d)では、工程(c)で製造されたレシピエント微生物の相同組換え株(相同組換え微生物)を、前記遺伝子改変用プラスミド由来の条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する。条件致死遺伝子が機能し得る培養条件としては、条件致死遺伝子が機能する限り、特に限定はされない。例えば、条件致死遺伝子がsacB遺伝子の場合は、スクロース含有培地を用いた培養が用いられる。
【0055】
当該培養条件においては、上記条件致死遺伝子を有する相同組換え微生物は生育困難であるため、当該微生物のゲノム上から相同組換えにより、上記条件致死遺伝子、薬剤耐性遺伝子、接合伝達開始領域、複製開始領域を含む遺伝子改変用プラスミド由来の塩基配列領域が除かれた(脱落した)レシピエント微生物を得ることができる。
【0056】
ただし、当該培養により得られた微生物の中には、レシピエント微生物中の標的遺伝子が、当初の目的通り欠失、不活性化、他の遺伝子に置換されているもの、又は遺伝子導入されたものと、そうでないもの(上記脱落の際の相同組換えにより元の標的遺伝子の機能が復活したもの、又は遺伝子導入が起こっていない状態のもの、すなわち遺伝子改変が起こっていない微生物)が含まれている。よって、通常は、さらに別の培養条件でも培養し、所望のレシピエント微生物を選択することができる。
【0057】
別の培養条件としては、上記標的遺伝子、又は、置換若しくは挿入した遺伝子の機能を確認し得る培養条件での培養が好ましい。例えば、微生物の改変が、薬剤遺伝子の欠失、不活性化、又は置換である場合は、当該薬剤を含有する培地で培養したときに生育が不可又は著しく困難な株が所望のレシピエント微生物、すなわち本発明の製造方法により遺伝的に改変された微生物として選択できる。また、機能の確認が容易ではない場合は、レシピエント微生物からゲノムを抽出し、当該改変領域の配列を解析することにより、所望の微生物を選択することもできる。
【0058】
本発明の製造方法により得られる遺伝的に改変された微生物は、上述の通り、ゲノム上に遺伝子改変用プラスミドの痕跡が残らないため、本発明の工程(b)〜(d)を繰り返し行うことにより、同一の株を複数回改変することが可能である。

3.タンパク質の製造方法
上述した本発明の製造方法により得られる遺伝的に改変された微生物も、本発明の範囲内に含まれるものである。当該微生物は、あるタンパク質を高発現するプラスミド、例えば、アクリルアミド製造用触媒であるニトリルヒドラターゼ等を発現し得る発現ベクターが別途導入されたものであってもよい。
【0059】
本発明においては、当該遺伝的に改変された微生物を宿主として用いて培養し、得られる培養物から目的タンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質の製造方法を提供することができる。
【0060】
上記タンパク質の製造方法において、微生物を培養する方法は、通常の方法に従って行うことができる。
【0061】
微生物を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ヘキサン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の炭化水素類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅若しくは炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0062】
培養条件は、限定はされないが、例えば、10℃〜45℃、好ましくは10℃〜40℃の温度下で、5〜120時間、好ましくは5〜100時間程度行うことができる。また、場合により、本培養に先立ち、少量の前培養を行うこともできる。
【0063】
例えば、ロドコッカス属細菌の形質転換体を宿主として用いて培養する場合は、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、4〜40℃、好ましくは20〜35℃で行うことが好ましい。培養は、無機酸又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて適時pH調整を行うことが好ましい。
【0064】
また、培養中に当該形質転換体から発現ベクターの脱落を防ぐために、必要に応じて薬剤選択マーカーによる選択圧をかけた状態で培養してもよい。例えば、カナマイシン耐性遺伝子を含むベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合、培養中に必要に応じてカナマイシンを培地に添加してもよい。
【0065】
上記のように、宿主となる微生物の性質に合った適当な培養条件で培養すると、高収率で異種タンパク質(目的タンパク質)を上記培養物中、すなわち、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物の少なくともいずれかに蓄積することができる。これら、異種タンパク質を含有する溶液を「培養物」と称する。
【0066】
培養後、目的タンパク質が菌体内に生産される場合には、菌体のまま目的タンパク質を用いることもできるし、あるいは菌体を破砕することにより、目的タンパク質を採取することもできる。いずれの場合にも、必要であれば、遠心分離や膜ろ過などの固液分離操作により、培地除去及び洗浄を行うことができる。遠心分離は、菌体を沈降させる遠心力が供給できるものであれば特に限定されることはなく、円筒型や分離板型などを利用することができる。遠心力としては、例えば、500G〜20,000G程度で行うことができる。また、膜ろ過は、目的とする固液分離を達成できれば、精密ろ過(MF)膜、限外ろ過(UF)膜いずれでもよいが、通常、精密ろ過(MF)膜を用いることが好ましい。
【0067】
なお、菌体を破砕することにより、目的タンパク質を採取することもできる。菌体の破砕方法としては、超音波処理、フレンチプレスやホモジナイザーによる高圧処理、ビーズミルによる磨砕処理、衝撃破砕装置による衝突処理、リゾチーム、セルラーゼ、ペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等が挙げられ、いずれかの方法を単独又は必要に応じ組み合わせて利用することができる。
【0068】
一方、目的タンパク質が菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、上述したような遠心分離やろ過等により菌体を除去すればよい。その後、必要に応じて硫安沈澱による抽出等により前記培養物中から目的タンパク質を採取し、さらに必要に応じて透析、各種クロマトグラフィー(ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)を単独又は適宜組み合わせて用いることにより、精製することもできる。

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0069】
カナマイシン耐性遺伝子欠失用プラスミドpKM043の構築(遺伝子改変用プラスミドの製造)
pDNR-1r(Clontech Laboratories社製)中のsacB遺伝子を、NspV切断サ
イトを付加したプライマーSAC-01(配列番号1)及びSAC-02(配列番号2)を使用したPCRにより増幅し、約1.9 kbのsacB遺伝子断片を得た。増幅条件は以下の通りである。
【0070】

プライマー:
SAC-01: 5'- GGTTCGAATACCTGCCGTTCACTATTATTTAGTG -3' (配列番号1)
SAC-02: 5'- GGTTCGAATCGGCATTTTCTTTTGCGTTTTTATTTG -3'(配列番号2)

反応液組成:
滅菌水 22 μl
2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μl
SAC-01(配列番号1) 1 μl
SAC-02(配列番号2) 1 μl
pDNR-1r(clontech社製)(100倍希釈) 1 μl
総量 50 μl

温度サイクル:
98℃ 10秒、55℃ 15秒及び72℃ 150秒の反応を30サイクル

sacB遺伝子断片を制限酵素NspV(タカラバイオ社製)で消化後、pK19mob(ナ
ショナルバイオリソースプロジェクトから分譲可能(ナショナルバイオリソースプロジェクトE. coli strain Cloning Vectorコレクション))のNspVサイトに接続し、sacB遺
伝子がカナマイシン耐性遺伝子の下流且つ同方向に導入されたプラスミドpK19mobsacB1を構築した。
【0071】
ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)KM-02(産業技術総合研究所特許生物寄託センター;受託番号:FERM P-14457)を100 mlのMY培地(0.5% polypeptone、0.3% bact yeast extract、0.3% malt extract)に植菌し、30℃にて振盪培養したものを、Saito and Miura の方法(Biochim. Biophys. Acta 72, 619 (1963))によりゲノムを分離した。KM-02のゲノムを制限酵素EcoRIにより不完全
消化したものをpTrc99マルチクローニングサイト内に挿入し、プラスミドライブラリーを製造した。プラスミドライブラリーにより大腸菌JM109を形質転換し、カナマイシン硫酸塩(40μg/ml)とIPTG(イソプロピル−β−チオガラクトシド)(1mM)を含むLBプレート(1% Bact tryptone、0.5% bact yeast extract、1% NaCl、1.5%寒天)を用いてカナマイシン耐性を示す形質転換株を選択した。本形質転換株からプラスミドを抽出し、pKM031と命名した。
【0072】
pKM031を制限酵素HindIII(タカラバイオ社製)で切断し、KM-02株由来のカナマ
イシン耐性遺伝子とその周辺配列を含む約3.3 kbの断片をpUC18のHindIIIサイトに
挿入したプラスミドpKM041を構築した。
【0073】
pKM041内部のカナマイシン耐性遺伝子全長(約0.5 kb)を欠失させ、プラスミドpKM042を得た。欠失は、欠失させたい領域の両側に10数塩基ずつアニールするように設計したプライマーKMD-01(配列番号3)及びKMD-02(配列番号4)を使用したPCRにより行った。PCRの増幅条件は以下の通りである。

プライマー:
KMD-01: 5'-GACCATTGTTCCAGGTCGACTGGGACGAGT-3'(配列番号3)
KMD-02: 5'-ACTCGTCCCAGTCGACCTGGAACAATGGTC-3'(配列番号4)

反応液組成:
滅菌水 38.5 μl
10×PfuTurbo buffer 5 μl
dNTP(25 mM each) 3 μl
KMD-01(配列番号3) 1 μl
KMD-02(配列番号4) 1 μl
pKM041 1.5 μl
PfuTurbo(STRATAGENE社製) 1 μl
総量 50 μl

温度サイクル:
95℃ 60秒の反応を1サイクル、95℃ 50秒、60℃ 50秒及 び72℃ 16分の反応を30サイクル、72℃ 7分の反応を1サイクル

pKM042を制限酵素HindIIIで切断し、カナマイシン耐性遺伝子周辺配列約2.8 kb(
カナマイシン耐性遺伝子が欠失したもの)をpK19mobsacB1のHindIIIサイトに挿入したプ
ラスミドpKM043を構築した(図2参照)。
【0074】
上記プラスミドpKM043製造手順において、制限酵素により切断したDNA断片及びPCR産物の精製にはGFX PCR DNA band and Gel Band Purification kit(GE Healthcare社製)を、DNA同士の接続にはDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)を、プラスミドの抽出にはQIAprep miniprep kit(QIAGEN社製)を用いた。
【実施例2】
【0075】
自然変異導入による薬剤耐性強化変異株: RhCmSR-01株の製造(レシピエント微生物の製造)
ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC 12674株を、より高濃度のクロラムフェニコールを含む培地に継代培養することにより自然変異を誘発し、200 mg/Lのクロラムフェニコールに耐性を示す変異株RhCmSR-01株を単離した。継代培養の詳細は下記の通りである。
【0076】

ATCC 12674株を10 mg/Lクロラムフェニコールを含むMYKプレート(0.5% polypeptone、0.3% bact yeast extract、0.3% malt extract、0.2% KH2PO4、0.2% K2HPO4、1.5%寒天)に植菌し、30℃で3日間培養した。生育したコロニーを、10 mg/Lクロラムフェニコールを含むMYK培地(0.5% polypeptone、0.3% bact yeast extract、0.3% malt extract、0.2% KH2PO4、0.2% K2HPO4)に植菌し、30℃、200rpmで2日間培養した。次に、上記培養液を40 mg/Lクロラムフェニコールを含むMYK培地に0.1%植菌し、30℃、200rpmで2日間培養した。
【0077】
クロラムフェニコール濃度を次第に高めながら継代培養を繰り返し、最終的に培養液を200 mg/Lクロラムフェニコールを含むMYKプレートに植菌した。継代培養時、生育速度が遅い場合は、培養日数を2〜3日延長した。継代培養回数は4回である(クロラムフェニコール含有量:10、40、100、200(mg/ml)の順に継代)。出現したコロニーを200 mg/Lクロラムフェニコールを含むMYKプレートに更に2回植菌してシングルコロニー化することにより、RhCmSR-01株を単離した。
【実施例3】
【0078】
ATCC 12674株のカナマイシン感受性株: RhΔKm-01株の製造
大腸菌(Escherichia coli)S17-1λpirをpKM043により形質転換し、50 mg/Lカナマイシン硫酸塩含有LBプレートにて37℃で一晩生育させた。S17-1λpir/pKM043をLB培地に懸濁後、遠心分離(室温、4500ppm、2 min)を行い、菌体を回収した後、LBで一度洗浄し、LBに再懸濁した。
【0079】
RhCmSR-01をMYKプレート上にひき、30℃で3日間培養した。MYKプレート上のコロニーを数十個程度かきとり0.9% NaClに懸濁後、遠心分離(室温、15000ppm、2 min)を行い、菌体を回収した後、0.9% NaClで一度洗浄し、LBに再懸濁した。
【0080】
上記2種類の懸濁液を1対1の割合で穏やかに混合した後、LBプレート上に植菌し、30℃で一晩培養した(pKM043の接合伝達)。標的遺伝子と選択マーカーの一つが共にカナマイシン耐性遺伝子であるため、通常野生株が生育できないカナマイシン濃度での選抜を実施した。実際の選抜には、カナマイシン硫酸塩200 mg/L 及びクロラムフェニコール50 mg/L含有MYKプレート(0.5% polypeptone、0.3% bact yeast extract、0.3% malt extract、0.2% KH2PO4、0.2% K2HPO4、1.5%寒天)を使用した。
【0081】
プラスミドpKM043がゲノム内に相同組換えにより導入されていることをPCR法により確認した後、10%ショ糖を含むMYKプレートにて培養することにより(sacB対抗選択系(WO 01/31050)を使用)、pK19mobsacB1由来配列をATCC 12674ゲノム上から取り除いた。カナマイシン含有LBプレート上でのレプリカプレーティングにより、10 mg/L カナマイシン硫酸塩含有条件下では生育できないカナマイシン感受性株RhΔKm-01を単離することに成功した(図3A参照)。PCR法により野生株とRhΔKm-01株のゲノム分析を実施した結果、RhΔKm-01株においてカナマイシン耐性遺伝子長約0.5 kbに相当する領域がゲノムから欠失していることが確認できた(図3B参照)。
【実施例4】
【0082】
他のカナマイシン耐性ロドコッカス属細菌への適用
DB上で全ゲノム配列が公開されているロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4(製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門;受託番号:NBRC 100887)もATCC 12674がもつカナマイシン耐性遺伝子のホモログを有する。ホモロジー検索の結果、両株のカナマイシン耐性遺伝子が96.1%一致(塩基配列)という高い相同性を示したため、pKM043を用いた遺伝子欠失を実施した。各段階における培養時のベースとなる培地にはLB又はLBプレートを使用した。
【0083】
PR4も他のATCC 12674と同様に微弱なクロラムフェニコール耐性を持つことが確認できたため、実施例2と同様の方法と同様の方法により、120 mg/L Cmに対して耐性を示す変異株RhCmSR-09を製造し、単離した。継代培養回数は7回である(クロラムフェニコール含有量:10、20、30、60、80、100、120(mg/ml)の順に継代)。
【0084】
実施例3と同様の方法により、カナマイシン感受性株RhΔKm-10を単離した(図4A参照)。RhΔKm-10のゲノムからカナマイシン耐性遺伝子が欠失していることを確認した(図4B参照)。
【配列表フリーテキスト】
【0085】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA
配列番号3:合成DNA
配列番号4:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナー微生物からレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法を用いることを含む、遺伝的に改変された微生物の製造方法であって、以下の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする、前記方法。
(a)レシピエント微生物として、前記接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性が強化された微生物を製造する工程;
(b)ドナー微生物として、(i)レシピエント微生物中の標的遺伝子とその周辺の塩基配列とを含む塩基配列領域において (i-1)当該標的遺伝子を欠失させた塩基配列領域、(i-2)当該標的遺伝子を不活性化させた塩基配列領域、(i-3)当該遺伝子を他の遺伝子に置換した塩基配列領域、又は(i-4)当該領域の内部に他の遺伝子及びその調節領域を含む配列を挿入した塩基配列領域、(ii)当該ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、(iii)当該ドナー微生物において機能する複製開始領域、(iv)レシピエント微生物が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子、及び(v)レシピエント微生物に対する条件致死遺伝子を含む、遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を製造する工程;
(c)前記(b)で製造されたドナー微生物から前記(a)で製造されたレシピエント微生物への接合伝達を行うことにより、当該レシピエント微生物の形質転換体を製造する工程;並びに
(d)前記(c)で製造された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。
【請求項2】
ドナー微生物が大腸菌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
レシピエント微生物がロドコッカス属細菌である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ロドコッカス属細菌が、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)又はロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により得られる、遺伝的に改変された微生物。
【請求項6】
請求項5記載の微生物を宿主として用いて培養し、得られる培養物から目的タンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−200133(P2011−200133A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68405(P2010−68405)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】