説明

酸化チタン薄膜光触媒及びその製造方法

【目的】 廃水処理や浄水処理などを連続的に行うことができ、環境浄化材料として環境汚染物質の分解除去効果とその持続性に優れ、しかも経済性、安全性、耐水性、耐熱性、耐光性、耐候性、安定性という面からも優れた特性を有する酸化チタン薄膜光触媒及びその製造方法を提供する。
【構成】 本発明の酸化チタン薄膜光触媒は、チタンのアルコキシドとアルコールアミン類などから調製されたチタニアゾルを基板にコーティングした後、室温から徐々に600℃から700℃の最終温度にまで加熱昇温して焼成して製造され、酸化チタン膜の結晶形がアナターゼであることを特徴としている。電灯あるいは太陽光などの光を受けて酸化チタン薄膜に生成した電子と正孔の酸化還元作用により、水中に溶解している有機化合物などの環境汚染物質を効果的にしかも連続的に分解除去できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、廃水処理や浄水処理などの環境浄化材料として用いられる酸化チタン薄膜光触媒及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、生活排水や産業廃水などによる水質汚染、特に、現在行われている活性汚泥法などの水処理法では処理が難しい有機塩素系の溶剤やゴルフ場の農薬などによる水源の汚染が深刻な問題となっている。また、居住空間や作業空間での悪臭やMRSAに代表される耐性菌やカビによる汚染なども広範囲に進んでおり、環境の汚染が重大な社会問題となっている。
【0003】半導体に光を照射すると強い還元作用を持つ電子と強い酸化作用を持つ正孔が生成し、半導体に接触した分子種を酸化還元作用により分解する。半導体のこのような作用、すなわち光触媒作用を利用することによって、水中に溶解している有機溶剤や農薬、界面活性剤などの環境汚染物質の分解除去を行うことができる。この方法は半導体と光を利用するだけであり、微生物を用いる生物処理などの方法に比べて、温度、pH、ガス雰囲気、毒性などの反応条件の制約が少なく、しかも生物処理法では処理しにくい有機ハロゲン化合物や有機リン化合物のようなものでも容易に分解・除去できるという長所を持っている。しかし、これまで行われてきた光触媒による有機物の分解除去の研究では、光触媒として半導体粉末が用いられていた(例えば、A. L. Pruden, D. F. Ollis, Journal of Catalysis, Vol.82, 404 (1983)、H. Hidaka, H. Jou, K. Nohara, J. Zhao, Chemsophere, Vol.25, 1589 (1992)、久永輝明、原田賢二、田中啓一、工業用水、第379号、12 (1990))。そのため、被処理物と光触媒との分離や回収が困難で、光触媒としての取扱いや使用が難しいという欠点を持っていた。水処理の場合、光触媒粉末を回収するため、処理した水を濾過しなければならないが、光触媒が微粉末であるため目詰まりを起こしたりして、濾過が容易でなく、連続的に水処理できないという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の点に鑑み、廃水処理や浄水処理などを連続的に行うことができ、環境浄化材料として、環境汚染物質の分解除去効果とその持続性に優れ、しかも経済性、安全性、耐水性、耐熱性、耐光性、耐候性、安定性という面からも優れた特性を有する酸化チタン薄膜光触媒及びその製造方法の提供を目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記の目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、チタニアゾルを基板にコーティングした後、室温から徐々に600℃から700℃の最終温度にまで加熱昇温して焼成することによって製造した酸化チタン薄膜が、光の照射によって生成した電子と正孔の酸化還元作用により、水中に溶解している有機溶剤や農薬などの環境を汚染している有機化合物を効果的に分解除去し、しかもメンテナンスフリーでその効果を持続させることができることを見い出し、本発明をなすに至った。
【0006】すなわち、本発明は、結晶形がアナターゼであることを特徴とする酸化チタン薄膜光触媒、及び、その酸化チタン薄膜光触媒の製造方法、つまり、チタンのアルコキシドとアルコールアミン類などから調製されたチタニアゾルを基板にコーティングした後、室温から徐々に600℃から700℃の最終温度にまで加熱昇温して焼成することを特徴とする酸化チタン薄膜光触媒の製造方法である。
【0007】本発明に用いられるチタニアゾルは、超微粒子の酸化チタンを水に懸濁させたり、アルコールと四塩化チタンや金属チタンとの反応などによって得られるチタンのアルコキシドを加水分解したりすることによって調製される。その際、ジエタノールアミンやトリエタノールアミンなどのアルコールアミン類を添加すると均一で透明なチタニアゾルが得られ、それを用いることによって高性能の酸化チタン薄膜光触媒を製造することができる。
【0008】本発明の酸化チタン薄膜光触媒は、こうして得られたチタニアゾルを、ディップコーティング法やスピンコーティング法、塗布法、スプレー法などによって基板にコーティングした後、室温から徐々に加熱昇温して焼成することによって得られる。この時の昇温の最終温度、つまり焼成温度は600℃から700℃が好ましい。この操作によって、基板にコーティングされたチタニアゾルは、光触媒として高性能の、結晶形がアナターゼである酸化チタン薄膜に変わる。この時、直接、600℃から700℃の温度で焼成したり、焼成温度が600℃より低かったり、700℃より高かったりした場合には、光触媒として低活性なルチルや非晶質の混じった酸化チタン薄膜しか得られない。また、丈夫で高性能の酸化チタン薄膜を得るためには、チタニアゾルを薄く均一に塗布あるいはスプレーあるいはスピンコートしたり、ディップコーティングで引き上げ速度を遅くして引き上げたりすることによって、酸化チタン膜の薄膜を作り、それを加熱焼成し、この作業を繰り返すことによって多層膜を作製することが望ましい。それにより、厚くて丈夫で光触媒作用の大きな透明で多孔質の酸化チタン膜を得ることができる。
【0009】本発明の酸化チタン薄膜光触媒を製造する際に使用される基板は、ガラスやセラミックス、コンクリート、金属など、600℃から700℃の温度での焼成に耐えられるものであれば、どの様な材質であっても良い。また、その形状も板状、円筒状、角柱状、円錐状、球状、瓢箪型、ラグビーボール型など、どのような形であっても良い。また。基板が閉じた形であっても、蓋があってもなくても良く、円管状や角管状、ファイバー状、さらにはマイクロバルーンのような中空の球状であっても良い。
【0010】本発明の酸化チタン薄膜光触媒の性能をさらに上げるため、その表面に白金やロジウム、ルテニウム、パラジウム、銀、銅、鉄、亜鉛などの金属皮膜を被覆しても良い。これらの金属皮膜を表面に被覆する方法としては、光電着法やCVD法、スパッタリングや真空蒸着などのPVD法などが挙げられる。この場合、金属皮膜の厚さを厚くし過ぎるとコストもかかり、酸化チタン薄膜に光が到達し難くなるので、金属皮膜の厚さはできるだけ薄い方が好ましい。
【0011】こうして得られた本発明による酸化チタン薄膜光触媒は、太陽光や、蛍光灯、ブラックライト、UVランプ、水銀灯、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプなどからの人工光の照射によって酸化チタン薄膜に生成した電子と正孔の酸化還元作用により、水中に溶解している有機溶剤や農薬などの環境を汚染している有機化合物を容易にしかも連続的に分解除去することができる。しかも、光を照射するだけで、低コスト・省エネルギー的でかつメンテナンスフリーで使用できるという多くの利点を持つ。そして、その酸化チタン膜の上に白金あるいはロジウム、ルテニウム、パラジウム、銀、銅、鉄、亜鉛の金属皮膜を被覆した場合には、その触媒作用により有機化合物の分解除去効果が一層増大する。
【0012】さらに、本発明による酸化チタン薄膜光触媒は、光の照射によって酸化チタン薄膜に生成した電子と正孔の酸化還元作用により、水中に溶解している有機化合物だけでなく、空気中の悪臭物質などの環境汚染物質の分解除去や菌やカビの繁殖防止を効果的に行うことができる。そして、酸化チタン膜の上に白金やロジウム、ルテニウム、パラジウム、銀、銅、鉄、亜鉛などの金属皮膜を被覆した場合には、その触媒作用により金属皮膜が抗菌抗カビ作用を持っているため、膜上の雑菌及びカビの繁殖を効果的に防止することができる。
【0013】
【実施例】本発明の実施例の内で特に代表的なものを以下に示す。
【0014】実施例1チタンテトライソプロポキシドをイソプロパノールで希釈し、攪拌しながら、塩酸とジイソプロパノールアミンを添加して透明なゾル液を調製し、ディップコーティング法により直径8mm、長さ60mm、厚さ1mmの石英ガラス管の表面に酸化チタン膜をコーティングした。すなわち、このゾル液に石英ガラス板を浸漬して引き上げ、乾燥した後、室温から徐々に630℃にまで加熱昇温して焼成した。これを7回繰り返して石英ガラス板の表面に0.2μmの酸化チタン膜を作った。得られた酸化チタン膜の結晶構造をX線回折によって調べた結果、アナターゼ100%であった。この酸化チタン薄膜光触媒を用いて、現在、ハイテク産業やクリーニング業で溶剤や洗浄剤として広く使用され、地下水や土壌を汚染して問題となっているテトラクロロエチレンの分解を行った。100ppm(0.01重量%)の濃度のテトラクロロエチレンの水溶液18mlを硬質ガラス製試験管に入れ、その中に得られた酸化チタン薄膜光触媒を浸し、酸素をバブリングした後、300Wのキセノンランプの光を1時間15分間照射した。得られた反応液に含まれるテトラクロロエチレンの量をガスクロマトグラフを用いて分析した結果、テトラクロロエチレンの量は95%減少していた。酸化チタン薄膜光触媒を用いなかった場合には、反応液に含まれるテトラクロロエチレンの量はほとんど減少しなかった。
【0015】比較例チタンテトライソプロポキシドをイソプロパノールで希釈し、攪拌しながら、塩酸とジイソプロパノールアミンを添加して透明なゾル液を調製し、ディップコーティング法により直径8mm、長さ60mm、厚さ1mmの石英ガラス管の表面に酸化チタン膜をコーティングした。すなわち、このゾル液に石英ガラス板を浸漬して引き上げ、乾燥した後、室温から徐々に400℃にまで加熱昇温して焼成した。これを7回繰り返して石英ガラス板の表面に0.2μmの酸化チタン膜を作った。得られた酸化チタン膜の結晶構造をX線回折によって調べた結果、アナターゼが20%で残りは非晶質であった。この酸化チタン薄膜光触媒を用いて、実施例1と同様にしてテトラクロロエチレンの分解を行った。300Wのキセノンランプの光を1時間15分間照射した結果、テトラクロロエチレンの量は10%しか減少していなかった。
【0016】実施例2チタンテトラエトキシドをメタノールで希釈し、攪拌しながら、硝酸とトリエタノールアミンを添加して透明なゾル液を調製し、ディップコーティング法により直径10mm、長さ60mm、厚さ1mmの石英ガラス管の表面に酸化チタン膜をコーティングした。すなわち、このゾル液に石英ガラス管を浸漬して引き上げ、乾燥した後、室温から徐々に670℃の温度にまで加熱昇温して焼成した。これを13回繰り返して石英ガラス板の表面に0.4μmの酸化チタン膜を作った。得られた酸化チタン膜の結晶構造をX線回折によって調べた結果、アナターゼ100%であった。この酸化チタン薄膜光触媒を用いて、ハイテク産業やクリーニング業で溶剤や洗浄剤として広く使用され、地下水や土壌を汚染して問題となっているトリクロロエチレンの分解を行った。500ppm(0.05重量%)の濃度のトリクロロエチレンの水溶液18mlを石英ガラス製試験管に入れ、その中に得られた酸化チタン薄膜光触媒を浸し、酸素をバブリングした後、500Wの高圧水銀ランプの光を30分間照射した。得られた反応液に含まれるトリクロロエチレンの量をガスクロマトグラフを用いて分析した結果、トリクロロエチレンの量は99%減少していた。酸化チタン薄膜光触媒を用いなかった場合には、反応液に含まれるトリクロロエチレンの量はほとんど減少しなかった。
【0017】比較例チタンテトラエトキシドをメタノールで希釈し、攪拌しながら、硝酸とトリエタノールアミンを添加して透明なゾル液を調製し、ディップコーティング法により直径10mm、長さ60mm、厚さ1mmの石英ガラス管の表面に酸化チタン膜をコーティングした。すなわち、このゾル液に石英ガラス管を浸漬して引き上げ、乾燥した後、室温から徐々に750℃にまで加熱昇温して焼成した。これを13回繰り返して石英ガラス管の表面に0.4μmの酸化チタン膜を作った。得られた酸化チタン膜の結晶構造をX線回折によって調べた結果、アナターゼ50%、ルチル50%の膜であった。この酸化チタン薄膜光触媒を用いて、実施例2と同様にしてトリクロロエチレンの分解を行った。500Wの高圧水銀ランプの光を30分間照射した結果、トリクロロエチレンの量は20%しか減少していなかった。
【0018】実施例3チタンテトライソプロポキシドを無水エタノールで希釈し、攪拌しながら、塩酸とジエタノールアミンを添加して透明なゾル液を調製し、ディップコーティング法により20mm角で厚さ1mmの石英ガラス板の表面に酸化チタン膜をコーティングした。すなわち、このゾル液に石英ガラス板を浸漬して引き上げ、乾燥した後、室温から徐々に650℃の温度にまで加熱昇温して焼成した。これを10回繰り返して石英ガラス板の表面に0.3μmの酸化チタン膜を作った。得られた酸化チタン膜の結晶構造をX線回折によって調べた結果、アナターゼ100%であった。この酸化チタン薄膜光触媒を用いて、酢酸の分解を行った。120ppm(0.012重量%)の濃度の酢酸の水溶液1mlを幅20mm、長さ30mm、厚さ3mmの石英セルに入れ、その中に得られた酸化チタン薄膜光触媒を浸し、酸素をバブリングした後、100Wの高圧水銀ランプの光を1時間30分間照射した。得られた反応液に含まれる酢酸の量をガスクロマトグラフを用いて分析した結果、酢酸の量は80%減少していた。酸化チタン薄膜光触媒を用いなかった場合には、反応液に含まれる酢酸の量はほとんど減少しなかった。
【0019】比較例チタンテトライソプロポキシドを無水エタノールで希釈し、攪拌しながら、塩酸とジエタノールアミンを添加して透明なゾル液を調製し、ディップコーティング法により20mm角で厚さ1mmの石英ガラス板の表面に酸化チタン膜をコーティングした。すなわち、このゾル液に石英ガラス板を浸漬して引き上げ、乾燥した後、直ちに650℃の温度で加熱焼成した。これを10回繰り返して石英ガラス板の表面に0.3μmの酸化チタン膜を作った。得られた酸化チタン膜の結晶構造をX線回折によって調べた結果、アナターゼ60%、ルチル40%であった。この酸化チタン薄膜光触媒を用いて、実施例3と同様にして酢酸の分解を行った。100Wの高圧水銀ランプの光を1時間30分間照射した結果、酢酸の量は30%しか減少していなかった。
【0020】
【発明の効果】本発明は以上説明したように、水中に溶解している有機化合物や空気中の悪臭物質などの環境汚染物質の分解除去や菌やカビの繁殖防止効果とその持続性に優れ、しかも経済性、安全性、耐水性、耐熱性、耐光性、耐候性、安定性という面からも優れた特性を有する酸化チタン薄膜光触媒及びその製造方法の提供を目的としたものである。本発明に用いられる酸化チタンは塗料や化粧品、歯磨き粉などにも使われていて、耐候性や耐久性に優れ、無毒かつ安全など、多くの利点を持っている。チタンのアルコキシドとアルコールアミン類などから調製されたチタニアゾルを基板にコーティングした後、室温から徐々に600℃から700℃の最終温度にまで加熱昇温して焼成して製造される、結晶形がアナターゼであることを特徴とする酸化チタン薄膜光触媒は、電灯あるいは太陽光などの外部からの光を受けて酸化チタン薄膜に生成した電子と正孔の酸化還元作用により、水中に溶解している有機化合物だけでなく、空気中の悪臭物質などの環境汚染物質の分解除去や菌やカビの繁殖防止を効果的にしかも連続的に行うことができる。そして、その酸化チタン薄膜に白金あるいはロジウム、ルテニウム、パラジウム、銀、銅、鉄、亜鉛などを被覆すれば、その触媒作用により分解除去や菌やカビの繁殖防止効果がさらに増大し、メンテナンスフリーでその効果が持続する。本発明による酸化チタン薄膜光触媒は、廃水処理だけでなくプールや貯水の浄化にも適用でき、従来の塩素殺菌などの方法に比べ、有毒な物質を使わないので安全で、しかも太陽光を使うので、低コストでメンテナンスフリーで半永久的に使用できる。さらに自動車の車内や居間や台所、トイレなどの脱臭や防菌や防カビなど、色々な用途に適用できるため、波及効果が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 結晶形がアナターゼであることを特徴とする酸化チタン薄膜光触媒。
【請求項2】 チタニアゾルを基板にコーティングした後、室温から徐々に600℃から700℃の最終温度にまで加熱昇温して焼成することを特徴とする酸化チタン薄膜光触媒の製造方法。
【請求項3】 チタニアゾルがチタンのアルコキシドとアルコールアミン類から調製されたものであることを特徴とする請求項2記載の酸化チタン薄膜光触媒の製造方法。