説明

酸化ニッケル微粉末及びその製造方法

【課題】 電子部品材料として好適な、硫黄品位が制御され塩素品位が低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末、及びその工業的に安定な製造方法を提供する。
【解決手段】 硫酸ニッケル水溶液をアルカリによって中和し、得られた水酸化ニッケルを、非還元性雰囲気中において850℃を超え1200℃未満の温度で熱処理して酸化ニッケル粒子を形成し、該熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を好ましくは粒子同士を衝突させることにより解砕する。得られる酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が400質量ppm以下、塩素品位が50質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下、比表面積が2〜7m/gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、硫黄品位が制御され、不純物品位、特に塩素品位及びナトリウム品位が低く、且つ微細であって、電子部品や固体酸化物形燃料電池の電極に用いられる材料として好適な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸化ニッケル粉末は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等のような連続炉、あるいはバーナー炉のようなバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成することによって製造される。これらの酸化ニッケル粉末は、電子部品や固体酸化物形燃料電池の電極等に用いられる材料として多様な用途に用いられている。
【0003】
例えば、電子部品材料としての用途では、酸化鉄、酸化亜鉛等の他の材料と混合された後、焼結されることによりフェライト部品等として広く用いられている。上記フェライト部品のように、複数の材料を混合して焼成することにより、これらを反応させて複合金属酸化物を製造する場合には、生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、一般に使用する原料としては微細なものが好適に用いられている。これにより、他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温度且つ短時間の処理で反応が均一に進むことが知られている。従って、このような複合金属酸化物を製造する方法においては、原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが効率向上の重要な要素となる。
【0004】
また、固体酸化物形燃料電池が、環境及びエネルギーの両面から新しい発電システムとして期待され、その電極材料として酸化ニッケル粉末が用いられている。一般に、固体酸化物形燃料電池のセルスタックは、空気極、固体電解質及び燃料極を有する単セルが順次積層された構造を有している。通常、燃料極としては、例えばニッケル又は酸化ニッケルと安定化ジルコニアからなる固体電解質を混合したものが用いられている。燃料極は、発電時に水素や炭化水素といった燃料ガスにより還元されてニッケルメタルとなり、ニッケルと固体電解質と空隙からなる三相界面が燃料ガスと酸素の反応場となるため、フェライト部品として用いる場合と同様に原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが発電効率向上の重要な要素となる。
【0005】
ところで、粉体が微細であることを測る指標としては、比表面積を用いることがある。また、粒径と比表面積には、下記の計算式1の関係があることが知られている。下記計算式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、計算式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、比表面積が大きいほど粒径が小さくなることが分る。
【0006】
[計算式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
【0007】
近年においては、フェライト部品の高機能化、並びに酸化ニッケル粉末のフェライト部品以外の電子部品等への用途の広がりに伴い、酸化ニッケル粉末に含有される不純物元素の低減が求められている。不純物元素の中でも特に塩素や硫黄は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることがあるため、できるだけ低減することが望ましいとされている。
【0008】
一方で、特開2002-198213(特許文献1)には、原料段階におけるフェライト粉の硫黄成分の含有量がS換算で300ppm〜900ppm且つ塩素成分の含有量がCl換算で100ppmであるフェライト材料が提案されている。このフェライト材料は、低温焼成においても添加物を用いることなく高密度化を図ることができ、これにより構成されたフェライト磁心及び積層チップ部品は、耐湿性と温度特性の優れたものにすることができると記載されている。
【0009】
以上のように、酸化ニッケル粉末は、塩素や硫黄の含有量を低減することが要求されている。さらに、電子部品材料としての用途、特にフェライト部品の原料として用いられる酸化ニッケル粉末の場合は、硫黄の含有量を単に低減するだけでなく、硫黄の含有量を所定の範囲内に厳密に制御することも要求されている。このように、電子部品材料として用いられる酸化ニッケル粉末においては、粒径の微細化と不純物の低減、さらには硫黄の含有量の厳密な制御が必要となっている。
【0010】
従来、かかる特徴的な酸化ニッケル粉末を製造する方法としては、原料に硫酸ニッケルを用い、これを焙焼する方法が提案されている。例えば、特開2001−32002号公報(特許文献2)には、原料としての硫酸ニッケルを、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で焙焼温度950〜1000℃未満で焙焼する第1段焙焼と、焙焼温度1000〜1200℃で焙焼する第2段焙焼とを行って酸化ニッケル粉末を製造する方法が提案されている。この製造方法によれば、平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られると記載されている。
【0011】
また、特開2004−123488号公報(特許文献3)には、450〜600℃の仮焼による脱水工程と、1000〜1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できると記載されている。
【0012】
さらに、特開2004−189530号公報(特許文献4)には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら、最高温度を900〜1250℃として焙焼する方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られると記載されている。
【0013】
しかしながら、上記特許文献2〜4のいずれの方法においても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると粒径が粗大になり、また粒子を微細にするために焙焼温度を下げると硫黄品位が高くなるという欠点があり、粒径と硫黄品位を同時に最適値に制御することは困難である。さらに、加熱する際に大量のSOxを含むガスが発生し、これを除害処理するために高価な設備が必要になるという問題を有している。
【0014】
酸化ニッケル微粉末を合成する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケルを晶析させ、これを焙焼する方法も考えられる。かかる方法で水酸化ニッケルを焙焼する場合は、陰イオン成分由来のガスの発生が少ないため、排ガス処理は不要となるか若しくは簡易な設備でよく、低コストでの製造が可能になると考えられる。
【0015】
例えば、特開2009−196870号公報(特許文献5)には、酸化ニッケルの粗大化抑制のためマグネシウム等の第2族元素を塩化ニッケルに少量添加した状態で中和し、得られた水酸化ニッケルを特定の温度で熱処理して酸化ニッケルとし、得られた酸化ニッケルを解砕メディアで湿式粉砕し、それを有機酸含有水溶液で洗浄することにより、硫黄品位及び塩素品位が低く、且つ微細な粒径の酸化ニッケル粉末を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2002−198213号公報
【特許文献2】特開2001−032002号公報
【特許文献3】特開2004−123488号公報
【特許文献4】特開2004−189530号公報
【特許文献5】特開2009−196870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献5の酸化ニッケル粉末の製造方法では、原料に塩化ニッケルを用いていることから硫黄の低減は可能であるが、硫黄品位を所定の範囲内に制御することは困難であった。また、微細な粒径を得るために解砕メディアで湿式粉砕しているため、解砕メディアから不純物が混入する虞があった。このように、従来の技術で得られた酸化ニッケル粉末では、微細な粒子径を有すると共に、塩素品位が低く且つ硫黄品位が制御された酸化ニッケル粉末としては十分と言えず、更なる改善が望まれていた。
【0018】
本発明は、上記した問題点に鑑み、含有量の制御された微量の硫黄を含み、不純物品位、特に塩素品位が低く、且つ粒径が微細であって、電子部品材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記目的を達成するため、熱処理時に大量の有害ガスが発生しない方法のうち、ニッケル塩水溶液を中和して得た水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケル微粉末を製造する方法に着目して鋭意研究を重ねた結果、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和し、得られた水酸化ニッケルを所定の条件で熱処理することで、硫黄品位が制御され、不純物品位、特に塩素品位が低い微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0020】
すなわち、本発明が提供する酸化ニッケル微粉末の製造方法は、硫酸ニッケル水溶液をアルカリによって中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において850℃を超え1200℃未満の温度で熱処理して酸化ニッケル粒子を形成する工程Bと、該熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程Cとを含むことを特徴とするものである。
【0021】
上記工程Aにおける硫酸ニッケル水溶液中のニッケル濃度は、50〜180g/Lであることが好ましく、上記工程Cにおける解砕は、酸化ニッケル粒子同士を衝突させることによって行うことが好ましい。
【0022】
また、本発明が提供する酸化ニッケル微粉末は、上記酸化ニッケル微粉末の製造方法で得られた酸化ニッケル微粉末であって、比表面積が2〜7m/g、硫黄品位が400質量ppm以下、塩素品位が50質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下であることを特徴とする。また、本発明の酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90が3μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、硫黄品位が400質量ppm以下で制御され、塩素品位が50質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm未満と不純物品位が低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末を容易に得ることができる。さらに、本発明の酸化ニッケル微粉末は、不純物としてジルコニウム及び第2族元素を実質的に含まずに微細であり、フェライト部品などの電子部品材料、あるいは固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適である。また、その製造方法も大量の塩素やSOxガスを発生させることなく容易で、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法は、硫酸ニッケル水溶液をアルカリによって中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において850℃を超え1200℃未満の温度で熱処理して酸化ニッケル粒子を形成する工程Bと、該熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程Cとを有している。
【0025】
かかる本発明の製造方法においては、工程Aにおいて原料に硫酸ニッケルを使用することが特に重要である。硫酸ニッケルをニッケル塩水溶液に使用することによって、他のニッケル塩を用いた場合と比べ、熱処理温度を高温化しても微細な酸化ニッケル粉末を得ることが可能となり、よって、微細でかつ硫黄品位が制御された酸化ニッケル微粉末が得られる。すなわち、硫黄成分の効果により、粒径に及ぼす熱処理温度の影響を抑えることができ、その結果、微細な粒径を維持したまま熱処理温度により酸化ニッケルの硫黄品位を制御できることを本発明者は見出した。さらに、この方法は塩化ニッケルを用いないため、塩素が混入する虞がなく、原料に不可避的に含まれる不純物以外は実質的に塩素を含有しない酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0026】
上記方法で微細な粒径の酸化ニッケル微粉末が得られる明確な理由は不明であるが、硫酸ニッケルの分解温度は848℃と高温であるため、水酸化ニッケル中の表面や界面に硫酸塩として硫黄成分が巻きこまれ、これが酸化ニッケル粒子の焼結を高温まで抑制していると考えられる。
【0027】
上記熱処理により水酸化ニッケル結晶内の水酸基が脱離して酸化ニッケルの粒子が形成されるが、その際、熱処理温度を適切に設定することによって、粒径の微細化と硫黄品位の制御が可能である。具体的には、水酸化ニッケルの熱処理温度を850℃を超え1200℃未満とすることによって、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位を400質量ppm以下に制御し、比表面積を2〜7m/gとすることができる。特に、硫黄品位を100質量ppm未満に制御する場合は910℃以上の温度、硫黄品位を50質量ppm未満に制御する場合は950℃以上の温度とすることが好ましい。いずれの場合においても、上記温度範囲内であれば、熱処理温度を適宜調整することにより所望とする硫黄品位が得られる。
【0028】
この熱処理温度が1200℃以上では、硫黄成分の分解が進行して上記焼結の抑制効果が不十分となるとともに温度による焼結促進が顕著になる。その結果、工程Bの熱処理によって得られる酸化ニッケル粒子同士の焼結が顕著になり、工程Cで酸化ニッケル粒子の焼結体の解砕が困難になり、解砕できたとしても微細で良好な比表面積を持った酸化ニッケル微粉末が得られない。一方、上記水酸化ニッケルの熱処理温度が850℃以下の場合は、硫酸塩等の硫黄成分の分解による硫黄成分の揮発が不十分となり、水酸化ニッケル中に硫黄成分が残留するため、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位が400質量ppmを超える。
【0029】
次に、本発明の酸化ニッケルの製造方法を工程毎に詳細に説明する。先ず工程Aは、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを得る工程であり、濃度及び中和条件等は公知の技術が適用できる。原料として用いる硫酸ニッケルは、特に限定されるものではないが、得られる酸化ニッケル微粉末が電子部品用、あるいは固体酸化物形燃料電池の電極用として用いられることから、腐食を防止するため、原料中に含まれる不純物が100質量ppm未満であることが望ましい。
【0030】
中和に用いるアルカリとしては、特に限定されるものではないが、反応液中に残留するニッケルの量を考慮すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましく、コストを考慮すると、水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、アルカリは固体又は液体のいずれの状態でニッケル塩水溶液に添加してもよいが、取扱いの容易さから水溶液を用いることが好ましい。
【0031】
均一な特性の水酸化ニッケルを得るためには、反応槽内において十分に撹拌されている液に、ニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液とをダブルジェット方式で添加、即ち、反応槽内にニッケル塩水溶液もしくはアルカリ水溶液のいずれかを準備し、もう一方のアルカリ塩水溶液もしくはニッケル塩水溶液を添加して中和するのではなく、反応槽内において十分に攪拌されている液中に、ニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液とを連続的に添加する方式とすることが有効である。その際、反応槽内に予め入れておく液は、純水にアルカリを添加し、所定のpHに調整したものであることが好ましい。
【0032】
中和反応時は、反応液のpHを8.3〜9.0の範囲内に設定することが好ましく、この範囲内でpHをほぼ一定に保つことが特に好ましい。このpHが8.3より低いと、水酸化ニッケル中に残存する硫酸イオンなどの陰イオン成分が増大し、これらは工程Bで焼成する際に、大量の塩酸やSOxとなって炉体をいためるため好ましくない。また、pHが9.0より高くなると、得られる水酸化ニッケルが微細になりすぎ、後段の濾過が困難になることがある。また、後に行われる工程Bで焼結が進みすぎ、微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが困難になることがある。
【0033】
好適な中和条件であるpH9.0以下では水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、この場合は、中和晶析後、pHを10程度まで上げることによって、濾液中のニッケルを低減することができる。中和反応時のpHは、その変動幅が設定値を中心として絶対値で0.2以内となるように一定に制御することが好ましい。pHの変動幅がこれより大きくなると、不純物の増大や酸化ニッケル微粉末の低比表面積化を招く虞がある。
【0034】
また、工程Aにおいて調製する硫酸ニッケル水溶液中のニッケルの濃度は、特に限定されるものではないが、生産性を考慮すると、ニッケル濃度で50〜180g/Lが好ましい。この濃度が50g/L未満では生産性が悪くなる。一方、180g/Lを超えると水溶液中の陰イオン濃度が高くなりすぎ、生成した水酸化ニッケル中の硫黄品位が高くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の不純物品位が十分に低くならない場合がある。
【0035】
中和反応時の液温は、通常の条件で特に問題なく、室温で行うことも可能であるが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるために、50〜70℃とすることが好ましい。水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることで、水酸化ニッケル中への硫黄の過度の含有を防止することができる。また、水酸化ニッケル中へのナトリウムなどの不純物巻き込みを抑制し、最終的に酸化ニッケル微粉末の不純物を低減させることができる。
【0036】
この液温が50℃未満では水酸化ニッケル粒子の成長が十分ではなく、水酸化ニッケル中への硫黄及び不純物の巻き込みが多くなる。一方、液温が70℃を超えると、水の蒸発が激しくなり、水溶液中の硫黄及び不純物濃度が高くなるため、生成した水酸化ニッケル中の硫黄品位及び不純物品位が高くなることがある。
【0037】
上記中和反応の終了後、析出した水酸化ニッケルを濾過して回収する。回収した濾過ケーキは、次の工程Bに移る前に洗浄することが好ましい。洗浄はレパルプ洗浄とすることが好ましく、洗浄に用いる洗浄液としては水が好ましく、純水が特に好ましい。洗浄時の水酸化ニッケルと水の混合割合は特に限定されるものではなく、ニッケル塩に含まれる陰イオン、特に硫酸イオン、及びナトリウム成分が、十分に除去できる混合割合とすればよい。尚、1回の洗浄で陰イオン及びナトリウム成分が十分に低減されない場合は、複数回繰り返して洗浄することが好ましい。特に、ナトリウムは次工程Bにおける熱処理によっても除去できないため、洗浄によって十分に除去することが好ましい。
【0038】
水酸化ニッケルに対する洗浄液の具体的な量は、残留陰イオン及びナトリウム成分、等の不純物が十分に低減でき且つ水酸化ニッケルを良好に分散させるために、50〜150gの水酸化ニッケルに対して洗浄液1Lを混合することが好ましく、100g程度の水酸化ニッケルに対して洗浄液1Lを混合するのがより好ましい。尚、洗浄時間については、処理条件に応じて適宜定めることができ、残留不純物が十分に低減される時間とすればよい。
【0039】
次に、工程Bは、上記工程Aで得られた水酸化ニッケルを熱処理して酸化ニッケルを得る工程である。この熱処理は、非還元性雰囲気中において、850℃を超え1200℃未満の温度範囲で行う。熱処理の雰囲気は、非還元性雰囲気であれば特に限定されないが、経済性を考慮すると大気雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理の際に水酸基の脱離により発生する水蒸気を効率よく排出するため、十分な流速を持った気流中で行うことが好ましい。尚、熱処理を行う装置には、一般的な焙焼炉を使用することができる。
【0040】
熱処理時間は、処理温度及び処理量等の処理条件に応じて適宜設定することができるが、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積が2〜7m/gとなるように設定すればよい。最終的に粉砕して得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積は、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積に対して約1m/g増加する程度であるため、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積で判断して処理条件を設定することができる。
【0041】
次に、工程Cは、上記工程Bの熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程である。上記工程Bでは水酸化ニッケル結晶中の水酸基が離脱して酸化ニッケルの粒子が形成されるが、その際、粒径の微細化が起こると共に、硫酸成分により抑制されてはいるものの、高温の影響で酸化ニッケル粒子同士の焼結がある程度進行する。この焼結体を破壊するため、工程Cでは熱処理後の酸化ニッケルに対して解砕処理を行い、これにより酸化ニッケル微粉末を得るものである。
【0042】
一般的な解砕方法としては、ビーズミルやボールミル等の解砕メディアを用いたものやジェットミル等の解砕メディアを用いないものがあるが、本発明の製造方法においては、後者の解砕メディアを用いない解砕方法を採用することが好ましい。なぜなら、解砕メディアを用いると解砕自体は容易となるものの、ジルコニア等の解砕メディアを構成している成分が不純物として混入するおそれがあるからである。特に、電子部品用として酸化ニッケル微粉を用いる場合には、解砕メディアを用いない解砕方法を採用することが好ましい。
【0043】
低減すべき不純物がジルコニウムのみであるならば、解砕メディアにジルコニア等のジルコニウムを含有しないものを用いて解砕することで対処することができるが、この場合であっても解砕メディアから他の不純物が混入し、結果的に低不純物品位の酸化ニッケル微粉末が得られないので好ましくない。また、ジルコニウムを含有しない解砕メディア、例えば、イットリア安定化ジルコニアを含有しない解砕メディアでは強度や耐摩耗性で十分でなく、この観点からも解砕メディアを用いることなく解砕を行う方法が望ましい。
【0044】
解砕メディアを用いることなく解砕する方法としては、粉体の粒子同士を衝突させる方法や、液体などの溶媒により粉体にせん断力をかける方法、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いる方法等がある。粉体の粒子同士を衝突させる解砕装置としては、例えば、乾式ジェットミルや湿式ジェットミルがあり、具体的には前者にはナノグラインディングミル(登録商標)や、クロスジェットミル(登録商標)、後者にはアルティマイザー(登録商標)、スターバースト(登録商標)等が挙げられる。また、溶媒によりせん断力を与える解砕装置としては、例えば、ナノマイザー(登録商標)等があり、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いた解砕装置としては、例えば、ナノメーカー(登録商標)等が挙げられる。
【0045】
上記解砕方法のうち、粉体の粒子同士を衝突させる方法が、不純物混入の虞が少なく、比較的大きな解砕力が得られることから特に好ましい。このように、解砕メディアを用いることなく解砕を行うことにより、解砕メディアからの不純物、特にジルコニウムの混入が事実上ない微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが可能となる。
【0046】
解砕条件には特に限定がなく、通常の条件の範囲内での調整により容易に目的とする粒度分布の酸化ニッケル微粉末を得ることができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料として好適な分散性に優れた微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0047】
以上の方法により製造される本発明の酸化ニッケル微粉末は、原料から不純物として混入する以外に塩素が混入する工程を含まないので、塩素品位が極めて低い。加えて、硫黄品位が制御されるとともに、ナトリウム品位が低く、比表面積も大きい。具体的には、硫黄品位が400質量ppm以下、塩素品位が50質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下である。また、比表面積は2〜7m/gである。従って、電子部品用、特にフェライト部品用の材料や固体酸化物形燃料電池の電極用材料として好適である。尚、固体酸化物形燃料電池の電極用材料としては、硫黄品位が100質量ppm以下であることが好ましい。
【0048】
また、本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、マグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が不純物として含まれることは実質的にない。さらに、解砕メディアを使用せずに解砕する場合はジルコニアも含まれなくなるので、ジルコニア品位及び第2族元素品位を30質量ppm以下にすることができる。
【0049】
さらに、本発明の酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90(粒度分布曲線における粒子量の体積積算90%での粒径)が3μm以下であることが好ましい。尚、レーザー散乱法で測定したD90は、電子部品等の製造の際、他の材料と混合されるときに解砕されて小さくなるが、この解砕によって比表面積が大きくなる可能性は低いため、酸化ニッケル微粉末自体の比表面積が大きいことがより重要である。
【0050】
さらに、本発明による酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、湿式法により製造した水酸化ニッケルを熱処理するため、有害なSOxが大量発生することがない。従って、これを除害処理するための高価な設備が不要であることから、製造コストを低く抑えることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例及び比較例における塩素品位の分析は、酸化ニッケル微粉末を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、得られた沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって行った。また、硫黄品位の分析は、硝酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(セイコー社製 SPS−3000)によって行った。ナトリウム品位の分析は、硝酸に溶解した後、原子吸光装置(日立ハイテク社製 Z−2300)により評価することによって行った。
【0052】
酸化ニッケル微粉末の粒径は、レーザー散乱法により測定し、その粒度分布から体積積算90%での粒径D90を求めた。また、比表面積の分析は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
【0053】
[実施例1]
先ず、邪魔板とオーバーフロー口を有した容量2Lの反応槽に、純水と水酸化ナトリウムとからなるpH8.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液2Lを準備した。次に、硫酸ニッケルを純水に溶解してニッケル濃度が120g/Lに調製されたニッケル水溶液を用意した。また、12.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用意した。これらニッケル水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを、pH8.5を中心としてその変動幅が絶対値で0.2以内となるように調整しながら前述の反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液に連続的に添加混合した。
【0054】
このようにして、水酸化ニッケルの沈殿を連続的に生成させ、オーバーフローにより回収した。尚、ニッケル水溶液は5mL/分の速度で添加し、水酸化ニッケルの滞留時間を約3時間に調整した。また、液温は60℃とし、攪拌羽により700rpmで撹拌した。
【0055】
オーバーフローにより回収したスラリーに対して濾過と30分の純水レパルプを10回繰り返して、水酸化ニッケル濾過ケーキを得た。この濾過ケーキを、送風乾燥機を用いて大気中にて110℃で24時間乾燥し、水酸化ニッケルを得た(工程A)。得られた水酸化ニッケル500gを大気焼成炉に供給して、865℃で2時間熱処理して酸化ニッケルを得た(工程B)。次に、得られた酸化ニッケルから分取した300gをナノグラィンディングミル(徳寿工作所製)にてプッシャーノズル圧力1.0MPa、グラインディング圧力0.9MPaにて粉砕した(工程C)。
【0056】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が370質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は6.3m/g、D90は0.28μmであった。
【0057】
[実施例2]
工程Bの熱処理温度を875℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0058】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が250質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は5.1m/g、D90は0.42μmであった。
【0059】
[実施例3]
工程Bの熱処理温度を900℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0060】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が140質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は4.3m/g、D90は0.42μmであった。
【0061】
[実施例4]
工程Bの熱処理温度を910℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0062】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が99質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は4.1m/g、D90は0.58μmであった。
【0063】
[実施例5]
工程Bの熱処理温度を920℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0064】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が71質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は3.8m/g、D90は0.60μmであった。
【0065】
[実施例6]
工程Bの熱処理温度を950℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0066】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が42質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は3.2m/g、D90は0.85μmであった。
【0067】
[実施例7]
工程Bの熱処理温度を1000℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0068】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は3.4m/g、D90は0.95μmであった。
【0069】
[実施例8]
工程Bの熱処理温度を1000℃、熱処理時間を6時間とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0070】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は4.3m/g、D90は1.34μmであった。
【0071】
[実施例9]
工程Bの熱処理温度を1050℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0072】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は2.5m/g、D90は1.51μmであった。
【0073】
[比較例1]
工程Bの熱処理温度を850℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0074】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が670質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は7.0m/g、D90は0.37μmであった。
【0075】
[比較例2]
工程Bの熱処理温度を1200℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0076】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は1.8m/g、D90は3.10μmであった。
【0077】
[比較例3]
工程Aの硫酸ニッケルの代わりに塩化ニッケルを用い、工程Bの熱処理温度を750℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0078】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が240質量ppm、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は3.3m/g、D90は0.72μmであった。
【0079】
[比較例4]
工程Aの硫酸ニッケルの代わりに塩化ニッケルを用い、工程Bの熱処理温度を900℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0080】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が120質量ppm、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は2.2m/g、D90は1.00μmであった。
【0081】
[比較例5]
工程Aの硫酸ニッケルの代わりに塩化ニッケルを用い、工程Bの熱処理温度を950℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
【0082】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は1.7m/g、D90は1.98μmであった。
【0083】
上記実施例1〜9及び比較例1〜5について、原料及び熱処理条件(焙焼温度及び焙焼時間)と、得られた酸化ニッケル微粉末の硫黄品位、塩素品位、ナトリム品位、比表面積及びD90を下記の表1にまとめて示す。
【0084】
【表1】

【0085】
上記表1の結果から分るように、全ての実施例において、硫黄品位が400質量ppm以下に制御されている上、塩素品位は50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満となっている。また、比表面積が2.0m/g以上と非常に大きくなっており、微細な酸化ニッケル微粉末が得られていることが分る。
【0086】
これに対して、比較例1〜5では、熱処理温度が本発明の要件から外れているか、あるいは原料のニッケル塩に塩化ニッケルを使用したため、硫黄品位、塩素品位、比表面積値、又はD90のいずれかが、電子部品材料として好適な範囲内となっていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において850℃を超え1200℃未満の温度で熱処理して酸化ニッケル粒子を形成する工程Bと、該熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程Cとを含むことを特徴とする酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項2】
前記工程Aにおける硫酸ニッケル水溶液中のニッケル濃度が50〜180g/Lであることを特徴とする、請求項1に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項3】
前記工程Cにおける解砕が、前記酸化ニッケル粒子同士を衝突させることにより行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの製造方法で得られた酸化ニッケル微粉末であって、比表面積が2〜7m/g、硫黄品位が400質量ppm以下、塩素品位が50質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下であることを特徴とする酸化ニッケル微粉末。
【請求項5】
レーザー散乱法で測定したD90が3μm以下であることを特徴とする、請求項4に記載の酸化ニッケル微粉末。