説明

酸化ニッケル粉末及びその製造方法

【課題】 電子部品材料として好適な、塩素品位が低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末、及びその工業的に安定な製造方法を提供する。
【解決手段】 中和して水酸化ニッケルを得るために用いたニッケル塩を形成している陰イオンと異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))型の陰イオンを、水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm含有する水酸化ニッケルを熱処理する。 塩素品位が100質量ppm以下、中心元素(E)の含有量が100〜3000質量ppm、比表面積が5.5m/g以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ニッケル粉末及びその製造方法に関し、更に詳しくは、不純物品位、特に、塩素品位が低く、オキソ酸由来の元素(E)を一定の範囲で含有し、且つ微細であって、電子部品材料として好適な酸化ニッケル粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸化ニッケル粉末は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等のような連続炉、あるいはバーナー炉のようなバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成することによって製造される。これらの酸化ニッケル粉末は多様な用途に用いられており、例えば、電子部品材料としての用途では、酸化鉄、酸化亜鉛等の他の材料と混合された後、焼結されることによりフェライト部品等として広く用いられている。
【0003】
上記フェライト部品のように、複数の材料を混合して焼成することにより、これらを反応させて複合金属酸化物を製造する場合には、生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、一般に使用する原料としては微細なものが好適に用いられている。これにより、他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温度且つ短時間の処理で反応が均一に進むことが知られている。従って、このような複合金属酸化物を製造する方法においては、原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが効率向上の重要な要素となる。
【0004】
粉体が微細であることを測る指標としては、比表面積を用いることがある。粒径と比表面積には、下記の計算式1の関係があることが知られている。下記計算式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、計算式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、比表面積が大きいほど粒径が小さくなることが分る。
【0005】
[計算式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
近年においては、フェライト部品の高機能化、並びに酸化ニッケル粉末のフェライト部品以外の電子部品等への用途の広がりに伴い、酸化ニッケル粉末に含有される不純物元素の低減が求められている。不純物元素の中でも特に塩素や硫黄は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることがあるため、できるだけ低減することが望ましいとされている。
【0006】
一方で、特開平11−144934(特許文献1)には、原料段階において塩素成分をClに換算して100〜1000ppm及び/または硫酸成分をSに換算して750〜2000ppm含有するフェライト材料が提案されている。このフェライト材料は、仮焼温度を低下させ、その結果フェライト粉末を経済的に製造することができるとされている。
【0007】
以上のように、電子部品材料としての用途、特にフェライト部品の原料として用いられる酸化ニッケル粉末は、塩素や硫黄などの不純物含有量を単に低減するだけでなく、不純物含有量を所定の範囲内に厳密に制御することが要求されている。
【0008】
従来、酸化ニッケル粉末を製造する方法としては、原料に硫酸ニッケルを用い、これを焙焼する方法が提案されている。例えば、特開2001−32002号公報(特許文献2)には、原料としての硫酸ニッケルを、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で焙焼温度950〜1000℃未満で焙焼する第1段焙焼と、焙焼温度1000〜1200℃で焙焼する第2段焙焼とを行って酸化ニッケル粉末を製造する方法が提案されている。この製造方法によれば、平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られると記載されている。
【0009】
また、特開2004−123488号公報(特許文献3)には、450〜600℃の仮焼による脱水工程と、1000〜1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できると記載されている。
【0010】
更に、特開2004−189530号公報(特許文献4)には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら、最高温度を900〜1250℃として焙焼する方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られると記載されている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献2〜4のいずれの方法においても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると粒径が粗大になり、また粒子を微細にするために焙焼温度を下げると硫黄品位が高くなるという欠点があり、粒径と硫黄品位を同時に最適値に制御することは困難である。更に、加熱する際に大量のSOxを含むガスが発生し、これを除害処理するために高価な設備が必要になるという問題を有している。
【0012】
酸化ニッケル微粉末を合成する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケルを晶析させ、これを焙焼する方法も考えられる。かかる方法で水酸化ニッケルを焙焼する場合は、陰イオン成分由来のガスの発生が少ないため、排ガス処理は不要となるか若しくは簡易な設備でよく、低コストでの製造が可能になると考えられる。
【0013】
例えば、特開2009−196870号公報(特許文献5)には、酸化ニッケルの粗大化抑制のためマグネシウム等の第2族元素を塩化ニッケルに少量添加した状態で中和し、得られた水酸化ニッケルを特定の温度で熱処理して酸化ニッケルとし、得られた酸化ニッケルを解砕メディアで湿式粉砕し、それを有機酸含有水溶液で洗浄することにより、硫黄品位及び塩素品位が低く、且つ微細な粒径の酸化ニッケル粉末を得る方法が提案されている。
【0014】
しかしながら、特許文献5の酸化ニッケル粉末の製造方法では、粗大化を抑制、即ち、焼結性を阻害する元素であるマグネシウムが酸化ニッケル粉末に混入するため、フェライト等の原料として用いた場合、十分な焼結性が得られない場合があり、必ずしも電子部品材料に好適なものとは言えなかった。また、微細な粒径を得るために解砕メディアで湿式粉砕しているため、解砕メディアから不純物が混入する虞があった。
【0015】
このように、従来の技術で得られた酸化ニッケル粉末では、微細な粒子径、すなわち、より大きな比表面積を有すると共に、塩素や硫黄などの不純物を所定の範囲内に制御された酸化ニッケル粉末としては十分と言えず、更なる改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平11−144934号公報
【特許文献2】特開2001−032002号公報
【特許文献3】特開2004−123488号公報
【特許文献4】特開2004−189530号公報
【特許文献5】特開2009−196870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記した問題点に鑑み、不純物含有量、特に塩素含有量が低く、オキソ酸由来の元素(E)が一定の範囲で含有され、且つ粒径が微細、すなわち高比表面積であって、電子部品材料として好適な酸化ニッケル粉末及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記目的を達成するため、熱処理時に大量の有害ガスが発生しないニッケル塩水溶液を中和して得た水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケル微粉末を製造する方法に着目して鋭意研究を重ねた結果、アルカリで中和して得られた水酸化ニッケル中にオキソ酸(一般式:EO(OH))型の陰イオンを所定量含有させ、熱処理することで、不純物含有量が所定の範囲内に制御された微細な酸化ニッケル粉末を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0019】
即ち、本発明が提供する酸化ニッケル微粉末の製造方法は、ニッケル塩水溶液をアルカリによりpH8.3〜9.0に中和して水酸化ニッケルを得る晶析工程と、得られた水酸化ニッケルを洗浄する洗浄工程と、洗浄した水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において700℃を越え、950℃未満の温度で熱処理することより酸化ニッケルを得る熱処理工程とを備える酸化ニッケル粉末の製造方法であって、
前記熱処理工程において、上記ニッケル塩を形成している陰イオンと異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))型陰イオンを、水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm含有する水酸化ニッケルを熱処理することを特徴とする。
【0020】
前記晶析工程において、反応溶液に含まれるニッケル塩を形成している陰イオンとは異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))を反応溶液中に、オキソ酸(一般式:EO(OH))を、反応溶液中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm添加することが好ましい。
【0021】
また、前記洗浄工程において、晶析工程で用いた上記ニッケル塩を形成している陰イオンと異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))を、洗浄する水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm含む洗浄液で洗浄することが好ましい。
【0022】
上記オキソ酸は、炭酸、ケイ酸、硝酸、燐酸から選択される少なくとも1種類であることであることが好ましい。
【0023】
さらに、前記塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度は、50〜130g/Lであることが好ましく、前記晶析工程で用いるアルカリは、アルカリが水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムであることが好ましい。
【0024】
本発明が提供する酸化ニッケル微粉末は、比表面積が5.5m/g以上であり、レーザー散乱法で測定したD90が1μm以下であり、塩素含有量が100質量ppm以下、オキソ酸(一般式:EO(OH))を形成する中心元素(E)の含有量が100〜3000質量ppmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、塩素や硫黄などの不純物含有量が少なく、オキソ酸由来の元素(E)所定量を含有し、且つ微細であり、フェライト部品などの電子部品材料として好適な酸化ニッケル粉末を得ることができる。また、その製造方法は、大量の塩素やSOxガスが発生しない上、容易で生産性が高く、工業的に安定して大量生産が可能であるため、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の酸化ニッケル粉末の製造方法においては、晶析工程で用いるニッケル塩を形成している陰イオンと異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))型の陰イオンを、水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm含有する水酸化ニッケルを熱処理することが重要である。
【0027】
上記水酸化ニッケル中に残留イオンとして上記オキソ酸型の陰イオンが含有されることで、これらが後の熱処理工程において生成した酸化ニッケル粒子の焼結による結晶成長方向を制御し、微細で高比表面積の酸化ニッケル粉末を得ることができる。
【0028】
オキソ酸型の陰イオンが結晶成長を制御する詳細な理由は不明であるが、オキソ酸型の陰イオンの水酸化ニッケル(錯体)への配位がcis構造体として結合し、熱処理工程において酸化ニッケルのC軸方向の結晶粗大粒化を阻害することで、結晶成長方向を制御していると考えられる。このような熱処理における酸化ニッケル粒子の粗大化の抑制により、結果として微細化され高比表面積の電子材料に好適な酸化ニッケル粉末を他の特性を損なうことなく得ることができる。
【0029】
一方、例えば、塩化ニッケルから晶析した水酸化ニッケルは、熱処理工程において比較的低温から微細で低塩素の酸化ニッケルを生成しやすいため、オキソ酸の型陰イオンを含有させることで熱処理温度を高くすることが可能となるため、十分に塩素低減することができる。また、アルカリとして水酸化ナトリウムを用いた場合には、中和により易水溶性のNaClを作るため、水酸化ニッケル中に焼結を阻害するNa化合物の残留を低減することができる。
【0030】
このように、晶析工程において水酸化ニッケル中にオキソ酸型の陰イオンを含有させることによって、熱処理時における酸化ニッケル粒子の粗大化の抑制することができると同時に、得られる酸化ニッケル中の不純物含有量の低減を図ることができる。
【0031】
上記オキソ酸由来の中心元素(E)が水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対して100質量ppm未満では、熱処理工程における結晶成長方向を十分に制御できない。一方、3000質量ppmを超えて添加しても、酸化ニッケルの微細化効果は増加せず、一方で得られる酸化ニッケルを電子部品の材料として用いた場合、電子部品の特性を損なう場合がある。
【0032】
上記オキソ酸は、一般式:EO(OH))の構造で示されるものであり、無機、有機のいずれでもよく、また中心元素(E)が金属、非金属であってもよい。さらには水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムとの中和による塩などいずれの形態でも良い。オキソ酸としては、ホウ酸(BO3)、炭酸(CO3)、カルボン酸(COOH)、ケイ酸(SiO3)、亜硝酸(NO2)、硝酸(NO3)、亜燐酸(PO3)、燐酸(PO4)、亜硫酸(SO3)、硫酸(SO4)、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、過マンガン酸から選択される少なくとも1種類であることが好ましく、炭酸(CO3)、ケイ酸(SiO3)、硝酸(NO3)、燐酸(PO4)から選択される少なくとも1種類であることがより好ましい。特に好ましくはケイ酸(SiO3)を含むオキソ酸である。
【0033】
上記水酸化ニッケルにオキソ酸を含有させる方法としては、ケイ酸などのオキソ酸を用いて、晶析工程における反応溶液中、または、洗浄工程における洗浄液中のいずれか、もしくは両方に所定量のオキソ酸を添加すればよい。
【0034】
上記反応溶液中にオキソ酸を添加する方法は、反応溶液に含まれるニッケル塩を形成している陰イオンとは異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))を、反応溶液中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm添加するものである。
【0035】
上記反応溶液中へのオキソ酸の添加では、アルカリとの中和反応によりオキソ酸塩(一般式:EO(OM))となり、ほぼ全量が水酸化ニッケルとともに共沈し、水酸化ニッケルとともに晶析沈殿する。ここで、アルカリとして水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムを用いた場合には、M=Na及び/またはKとなる。
【0036】
したがって、反応溶液中へのオキソ酸の添加では、反応溶液中へ100〜3000質量ppm添加することで、所定量のオキソ酸型の陰イオンを水酸化ニッケルに含有させることができる。晶析条件によっては、水酸化ニッケルに含有されるオキソ酸型の陰イオンが、添加量より若干減少する場合があるが、予備試験等により減少量を把握することができ、オキソ酸型陰イオンの含有量の制御は容易に行うことができる。また、上記中心元素(E)は、元素にもよるが、後工程の熱処理工程での揮発による減少量は少なく、同様に予備試験等により、酸化ニッケル粉末中の中心元素(E)含有量を制御することが可能である。反応溶液中へのオキソ酸の添加のみで最終的な酸化ニッケル粉末中に所定量の中心元素(E)を含有させるためには、反応溶液中へのオキソ酸の添加は、上記比で200〜3000質量ppm添加することが好ましい。
【0037】
一方、洗浄工程における洗浄液中にオキソ酸を添加する方法は、晶析工程から回収した水酸化ニッケルを水などで洗浄した後、晶析工程で用いたニッケル塩を形成している陰イオンと異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))を、添加する水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppmのオキソ酸(一般式:EO(OH))を含む洗浄液で洗浄するものである。
【0038】
上記洗浄液としては、オキソ酸を添加した水を用いることもできるが、洗浄液にアルカリを共存させることが好ましい。アルカリを共存させることで、上記オキソ酸塩となって水酸化ニッケル粒子表面に付着するため、効率よくオキソ酸型陰イオンを添加することができる。洗浄時の水酸化ニッケル粒子表面へのオキソ酸型陰イオン付着量は、晶析時に添加する方法より減少量が多くなる傾向にあるが、晶析の場合と同様に、予備試験等により減少量を把握することができ、オキソ酸型陰イオンの含有量の制御は容易に行うことができる。洗浄液中へのオキソ酸の添加のみで最終的な酸化ニッケル粉末中に所定量の中心元素(E)を含有させるためには、洗浄液中へのオキソ酸の添加は、上記比で300〜3000質量ppm添加することが好ましい。
【0039】
また、アルカリを共存させることにより、水酸化ニッケルから塩素を再溶解させる塩素洗浄効果も期待できる。さらに洗浄液を加温することで、洗浄効果をより高めることができる。加温により塩素洗浄効果が高くなる明確な理由は不明であるが、アルカリ水溶液中での加温処理時に水酸化ニッケル中の結晶水が離脱するため、結晶構造が変化する際に結晶間に巻き込んだ塩素を放出すると考えられる。加温する場合は、30℃以上、好ましくは40〜60℃に加温することが好ましい。
【0040】
上記アルカリとしては、ニッケルに残留する不純物を考慮すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましく、コストを考慮すると、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。
【0041】
上記アルカリの洗浄液における濃度は、特に限定されないが、上記塩素の再溶解及び水酸化ニッケルの相変化による不純物吐き出しを十分に行わせるためには、0.01〜0.5モルの範囲が好ましく、0.05〜0.2モルの範囲が更に好ましい。例えば、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が0.01モルでは、上記効果が十分に得られないことがあり、逆に0.5モルを超えると最終的に残留するナトリウムが多くなる恐れがあるからである。
【0042】
上記洗浄液で洗浄もしくは加温処理した後は、不純物低減のため水洗することが好ましい。
【0043】
次に、本発明の酸化ニッケルの製造方法を工程毎に詳細に説明する。
晶析工程は、ニッケル塩水溶液をアルカリによりpH8.3〜9.0に中和して水酸化ニッケルを得る工程である。原料として用いるニッケル塩は、特に限定されるものではないが、得られる酸化ニッケル微粉末が電子部品用に用いられることから、原料中に含まれる不純物が100質量ppm未満であることが望ましい。
【0044】
また、上記ニッケル塩、塩化ニッケル、硫酸ニッケルから選択される少なくとも1種類を用いることができるが、水酸化ニッケル中のオキソ酸含有量の制御を容易にするため、オキソ酸を含まない塩化ニッケルを用いることが好ましい。また、硫酸ニッケルを用いる場合には、酸化ニッケルの結晶性を良好なものとするため、後工程の洗浄工程で十分に洗浄して、水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で1000〜3000質量ppmとすることが好ましい。
【0045】
中和に用いるアルカリとしては、特に限定されるものではないが、反応液中に残留するニッケルの量を考慮すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましく、コストを考慮すると、水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、アルカリは固体又は液体のいずれの状態でニッケル塩水溶液に添加してもよいが、取扱いの容易さから水溶液を用いることが好ましい。均一な特性の水酸化ニッケルを得るためには、反応槽内において十分に撹拌されている液に、ニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液とをダブルジェット方式で添加することが有効である。その際、反応槽内に予め入れておく液は、純水にアルカリを添加し、所定のpHに調整したものであることが好ましい。
【0046】
中和反応時は、反応液のpHを8.3〜9.0とすることが好ましく、この範囲内でpHを一定とすることが特に好ましい。pHが8.3より低いと、塩化ニッケルを用いた場合には水酸化ニッケル中に残存する塩素イオンが増大し、これらは熱処理工程で熱処理する際に、大量の塩酸となって炉体をいためるため好ましくない。また、pHが9.0より高くなると得られる水酸化ニッケルが微細になりすぎ、濾過が困難になることがある。また、後に行われる熱処理工程で焼結が進みすぎ、微細な酸化ニッケル粉末を得ることが困難になることがある。
【0047】
また、上記中和反応時のpHは、変動幅が8.3〜9.0の範囲内の設定値から±0.2以内となるように制御することが好ましい。pHの変動幅がこれより大きくなると、不純物の増大や酸化ニッケル粉末の粒径が大きくなり、低比表面積化を招く恐れがある。尚、上記中和条件であるpH8.3より低いpHでは水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、この場合には中和晶析後にpHを10程度まで上げ、濾液中のニッケルを低減させることが好ましい。
【0048】
また、上記ニッケル塩水溶液において、ニッケル塩濃度は、特に限定されないが、ニッケル濃度として50〜130g/Lの範囲が好ましい。ニッケル濃度が50g/L未満では晶析工程での生産性が悪くなり、130g/Lを超えると水溶液中の陰イオン濃度が高くなり、生成した水酸化ニッケル中の塩素やオキソ酸の含有量が多くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル粉末中の塩素及びオキソ酸の中心元素(E)の含有量を十分に低減できない場合がある。
【0049】
中和反応時の液温は、通常の条件で特に問題なく、室温で行うことも可能であるが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるためには50〜70℃の範囲とすることが好ましい。水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることで、水酸化ニッケル中への塩素、硫黄及びナトリウムなどの不純物の巻き込みを抑制し、最終的に酸化ニッケル粉末中の不純物を低減させることができる。液温が50℃未満では、水酸化ニッケル粒子の成長が十分ではなく、また水酸化ニッケル中への不純物の巻き込みが多くなりやすい。また、液温が70℃を超えると、水の蒸発が激しくなり、水溶液中の不純物濃度が高くなるため、生成した水酸化ニッケル中の不純物含有量が多くなることがある。
【0050】
上記中和反応の終了後、析出した水酸化ニッケルを濾過して回収する。回収した濾過ケーキは、次の熱処理工程前に洗浄する。1回の洗浄で塩素イオンなどの不純物が十分に低減されない場合は、複数回繰り返して洗浄することが好ましい。また、ニッケル塩として硫酸ニッケルを用いた場合には、硫酸イオンが所定量となるよう十分に洗浄することが好ましい。
【0051】
水酸化ニッケルに対する洗浄液の量は特に限定されるものではなく、残留塩素が十分に低減できる量とすればよいが、水酸化ニッケルを良好に分散させるためには、水酸化ニッケル/洗浄液の混合比を80〜150g/Lとすることが好ましく、90〜110g/Lとすることが更に好ましい。また、処理時間についても特に限定されるものではなく、処理条件により残留塩素濃度が十分に低減される洗浄時間とすればよい。残留塩素が十分に低減できる処理条件とすることにより、酸化ニッケルの微細化効果も十分に得られる。
【0052】
上記洗浄の方法は、特に限定されるものではなく、ミキサー等による洗浄液との混合撹拌によるレパルプ洗浄以外に、濾過物に洗浄液を通過させて塩を溶解除去するフィルタープレスによる洗浄濾過も有効である。水による洗浄では、不純物混入の恐れがない純水を用いることが好ましい。また、洗浄に用いる装置としては、通常の湿式反応槽やフィルタープレスなどがある。また、洗浄液を30℃以上に加熱して洗浄する場合、加温可能な通常の湿式反応槽を用いることができる。湿式反応槽を用いた洗浄においては、洗浄中は水酸化ニッケルを含むスラリーを撹拌することが好ましく、例えば超音波撹拌や機械式撹拌を用いることができる。
【0053】
洗浄後の水酸化ニッケルは濾過して回収するが、濾過ケーキの含水率は10〜40質量%であることが好ましく、25〜35質量%とすることが更に好ましい。含水率が10質量%未満であると、更に洗浄する場合に濾過ケーキが均一に洗浄液中に分散しにくいため洗浄処理の効率が悪くなることや、濾過ケーキの含水率を下げるため厳しい脱水処理が必要となるなどの制約があり好ましくない。含水率が40質量%よりも高い場合には、水酸化ニッケルのハンドリング性が悪く、均一な処理を妨げる場合があるうえ、一定量の水酸化ニッケルを得るために必要な処理量が増加してしまうなどの不都合がある。
【0054】
熱処理工程は、洗浄後の水酸化ニッケルを熱処理して、酸化ニッケルとする工程である。この熱処理により水酸化ニッケル結晶内の水酸基が脱離して酸化ニッケルの粒子が形成されるが、その際の熱処理温度を適切に設定することによって、粒径の微細化と不純物含有量の制御が可能であると共に、洗処理後に残存した塩素の多くの部分を揮発させることができる。
【0055】
この水酸化ニッケルの熱処理は、非還元性雰囲気中において700℃を越え、950℃未満の温度で行うが、この熱処理温度は750〜900℃とすることがより好ましく、800〜900℃範囲が更に好ましい。熱処理温度が700℃以下では、残存塩素や不純物の揮発が不十分であり、酸化ニッケル中の塩素及び不純物の含有量を十分に低減させることができない。また、水酸化ニッケルの一次粒子は板状であり、酸化ニッケルの生成に伴い一次粒子が球状化するが、この球状化が700℃以下では進まず、酸化ニッケルの微細化も十分に起こらない。一方、950℃以上になると、酸化ニッケル粒子同士の焼結が顕著になり、比表面積が小さくなったり、機械的な解砕が必要になる。更に焼結が進行すると、機械的解砕でも必要な比表面積を得ることが困難になる。
【0056】
熱処理時間は、処理温度及び処理量に応じて適宜設定することができるが、最終的に得られる酸化ニッケル粉末の比表面積が5.5m/g以上となるように設定すればよい。熱処理工程後に酸化ニッケルを解砕した場合、得られる酸化ニッケル粉末の比表面積は、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積に対して0.5m/g程度増加する程度であるため、熱処理後の酸化ニッケル粉末の比表面積で判断して、解砕の要否及び条件を設定することができる。
【0057】
熱処理の雰囲気は非還元性雰囲気であれば特に限定されないが、経済性を考慮して大気雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理の際に水酸基の脱離により発生する水蒸気を排出するため、十分な流速を持った気流中で行うことが好ましい。尚、熱処理には、一般的な焙焼炉を使用することができる。
【0058】
上記熱処理工程の後に、得られた酸化ニッケル粉末を機械的に解砕する工程を追加することもできる。解砕により増加する比表面積は上述のとおり0.5m/g程度と小さいが、解砕により凝集をほぐすことで、電子材料などとして一層好適な材料とすることが期待できる。また、熱処理工程で水酸化ニッケル結晶中の水酸基が離脱して酸化ニッケルとなる際に、オキソ酸型の陰イオンとニッケル錯体はcis型に結合することで粒径の微細化を促進すると推定されるが、不純物除去のために高温で熱処理した場合、酸化ニッケル粒子同士の焼結が進行することがある。
【0059】
このような場合には、解砕によって焼結部を破壊して酸化ニッケル粒子を微細化し、酸化ニッケル粉末の比表面積を十分に高めることが可能である。本発明の製造方法においては、熱処理によって得られる酸化ニッケルの粒子が十分に微細で、その粒子間における焼結の程度が小さいため、大きな解砕力を加えずとも、十分に微細な酸化ニッケル粉末を得ることができる。
【0060】
酸化ニッケル粉末の解砕方法としては、乳鉢等による機械式解砕、特に工業的規模においてはビーズミルやボールミル等の解砕メディアを用いたものや、ジェットミル等の解砕メディアを用いないものが一般的な方法を用いることができるが、ジルコニア等の解砕メディアを構成している成分が不純物として混入することを防止するため、解砕メディアを用いることなく解砕を行うことが好ましい。解砕メディアを用いると解砕自体は容易となるものの、ジルコニア等の解砕メディアを構成している成分が不純物として混入するおそれがある。
【0061】
低減すべき不純物がジルコニウムのみであるならば、解砕メディアにジルコニア等のジルコニウムを含有しないものを用いて解砕することで対処することができるが、この場合であっても解砕メディアから他の不純物が混入し、結果的に低不純物品位の酸化ニッケル粉末が得られないので好ましくない。また、ジルコニウムを含有しない解砕メディア、例えば、イットリア安定化ジルコニアを含有しない解砕メディアでは強度や耐摩耗性で十分でなく、この観点からも解砕メディアを用いることなく解砕を行う方法が望ましい。
【0062】
解砕メディアを用いることなく解砕する方法としては、粉体同士を衝突させる方法や、液体などの媒体により粉体にせん断力をかける方法等がある。前者を用いた解砕装置としては、例えば、ジェットミル、アルティマイザー(登録商標)等が挙げられる。また、後者を用いた解砕装置としては、例えば、ナノマイザー(登録商標)等が挙げられる。これらの解砕方法のうち、不純物混入の恐れが少なく且つ比較的大きな解砕力が得られることから、粉体同士を衝突させる方法が特に好ましい。また、解砕条件には特に限定がなく、通常の条件の範囲内での調整により容易に目的とする粒度分布の酸化ニッケル粉末を得ることができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料として好適な分散性に優れた酸化ニッケル粉末を得ることができる。
【0063】
以上の方法により製造される本発明の酸化ニッケル微粉末は、塩素含有量が少なく、オキソ酸由来の元素E(主にSi、S、C、N、B、Pなど)を所定量含有し、比表面積も大きいので、電子部品用の材料として好適である。具体的には、残留塩素含有量量は100質量ppm以下であり、オキソ酸(一般式:EO(OH))を形成する中心元素(E)は100〜3000質量ppmであり、比表面積は5.5m/g以上であり、レーザー散乱法で測定したD90(粒度分布曲線における粒子量の体積積算90%での粒径)が1μm以下である。特に、中心元素(E)として硫黄を添加した場合は、酸化ニッケルの結晶性を良好なものとして焼結性を改善するために1000〜3000質量ppm含むことが好ましい。
【0064】
また、本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、マグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が不純物として含まれることは実質的にない。更に解砕メディアを使用せずに解砕する場合はジルコニアも含まれなくなるので、ジルコニア品位及び第2族元素含有量を30質量ppm以下にすることができる。
【0065】
更に、本発明による酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、湿式法により製造した水酸化ニッケルを熱処理するため、有害なSOxが大量発生することがない。したがって、これを除害処理するための高価な設備が不要であることから、製造コストを低く抑えることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例及び比較例における塩素品位の分析は、酸化ニッケル微粉末を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、得られた沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって行った。また、オキソ酸中心元素(E)の分析は、硝酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(セイコー社製 SPS−3000)によって行った。
【0067】
酸化ニッケル粉末の粒径は、レーザー散乱法により測定し、その粒度分布から体積積算90%での粒径D90を求めた。また、比表面積の分析は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
【0068】
[実施例1]
3Lのビーカーに純水と水酸化ナトリウムからなるpH8.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液500mLを準備した。この水溶液に、まず、ケイ酸ナトリウム(オキソ酸塩:SiO(ONa)) を、塩化ニッケル水溶液中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量とケイ素の質量の合計に対するケイ素含有量が1200質量ppmとなるように添加した後、ついでニッケル濃度120g/Lの塩化ニッケル水溶液1Lと、12.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液とを、pH8.5で変動幅が絶対値で0.2以内となるように調整しながら連続的に添加混合して、水酸化ニッケルの沈殿を生成させた。
【0069】
その際、塩化ニッケル水溶液は6mL/分の速度で添加した。また、液温は60℃とし、攪拌羽により200rpmで撹拌することに混合した。塩化ニッケル水溶液を添加した後、3時間ほど攪拌を続けながら熟成させた(晶析工程)。
【0070】
その後、濾過と30分撹拌する純水によるレパルプ洗浄を4回繰り返して、水酸化ニッケル濾過ケーキを得た(洗浄工程)。この濾過ケーキを送風乾燥機を用いて大気中にて110℃で24時間乾燥し、水酸化ニッケルを得た。
【0071】
得られた水酸化ニッケル10gを大気焼成炉に供給して、800℃で3時間熱処理して酸化ニッケルを得た(熱処理工程)。熱処理後の酸化ニッケルを、乳鉢で解砕して酸化ニッケル粉末を得た。
【0072】
得られた酸化ニッケル粉末は、塩素含有量が40質量ppm、ケイ素含有量が1100質量ppmであった。また、比表面積は7.2m/g、D90は0.77μmであった。
【0073】
引き続き、以下の実施例2〜10及び比較例1〜7を実施したが、これらについては上記実施例1と異なる条件のみを記載した。また、実施例1〜10及び比較例1〜7について、中和に用いたアルカリの種類、ニッケル塩濃度、中和時のpH、各工程において添加したオキソ酸の種類及び添加量、熱処理温度を下記表1に、得られた酸化ニッケル粉末のオキソ酸中心元素(E)含有量、比表面積、塩素含有量、及びD90を下記表2に、それぞれまとめて示した。
【0074】
[実施例2]
洗浄工程において、濾過と純水によるレパルプ洗浄を3回繰り返したのち、4回目のレパルプ洗浄において、ケイ酸ナトリウムを水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量とケイ素の質量の合計に対して1600質量ppm含むpH=9.0の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し濾過した以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0075】
[実施例3]
晶析工程において、ケイ酸ナトリウムを含まない水酸化ナトリウム水溶液で中和したこと、洗浄工程において、濾過と純水によるレパルプ洗浄を3回繰り返したのち、4回目のレパルプ洗浄において、ケイ酸ナトリウムを水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量とケイ素の質量の合計に対して2200質量ppm含むpH=9.0の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し濾過した以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0076】
[実施例4]
晶析工程において、ケイ酸ナトリウムを2900質量ppm添加したこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0077】
[実施例5]
晶析工程において、ケイ酸ナトリウムを300質量ppm添加したこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0078】
[実施例6]
熱処理工程において、熱処理条件を700℃で3時間としたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0079】
[実施例7]
熱処理工程において、熱処理条件を950℃で3時間としたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0080】
[実施例8]
晶析工程において、水酸化カリウムを用いてpH9.0に調整したこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0081】
[実施例9]
晶析工程において、100LのSUS製反応槽を用いてpH8.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液10Lを準備したこと、ニッケル濃度50g/Lの塩化ニッケル水溶液20Lを120mL/分の速度で添加したこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0082】
[実施例10]
晶析工程において、ニッケル塩溶液として、120g/Lの塩化ニッケル溶液に替えて80g/Lの硫酸ニッケル溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0083】
[比較例1]
晶析工程において、ケイ酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0084】
[比較例2]
晶析工程において、ケイ酸ナトリウムを6000質量ppm添加したこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0085】
[比較例3]
熱処理工程において、熱処理条件を600℃で3時間としたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0086】
[比較例4]
熱処理工程において、熱処理条件を980℃で3時間としたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0087】
[比較例5]
晶析工程において、pHを8.0に調整したこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。晶析工程では、ほとんど水酸化ニッケルの晶析が起こらなかった。
【0088】
[比較例6]
晶析工程において、pHを10に調整したこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0089】
[比較例7]
晶析工程において、ニッケル塩溶液として、120g/Lの塩化ニッケル溶液に替えて80g/Lの硫酸ニッケル溶液を用いたこと、ケイ酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル粉末を得るとともに分析した。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
上記表2の結果から分るように、全ての実施例において、塩素品位は100質量ppm以下となっているとともに、オキソ酸由来の中心元素(E)は100〜3,000質量ppmの範囲に制御されている。さらに比表面積が5.5m/g以上と非常に大きくなっており、レーザー散乱法で測定したD90も1μm以下であり、微細な酸化ニッケル粉末が得られている。
【0093】
これに対して、比較例1では、オキソ酸が添加されていないので比表面積が小さくなっている。一方、比較例2では、オキソ酸の添加が多すぎるために、比表面積は小さいもののD90が大きくなっている。また、比較例7では、オキソ酸として硫酸イオンのみが含有されているため、比表面積が小さくなっている。
さらに、比較例3は、熱処理温度が低いため、塩素含有量が好適な範囲を大幅に超えている。一方、比較例4は、熱処理温度が高いため、比表面積が小さい値となっている。また、比較例5及び6では、晶析時のpH調整が適正でなかったため、良好な水酸化ニッケルが得られず、比表面積が小さくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の酸化ニッケル粉末は、不純物含有量、特に塩素含有量が少なく、微細であることからフェライト部品などの電子部品材料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩水溶液をアルカリによりpH8.3〜9.0に中和して水酸化ニッケルを得る晶析工程と、得られた水酸化ニッケルを洗浄する洗浄工程と、洗浄した水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において700〜950℃の温度で熱処理することより酸化ニッケルを得る熱処理工程とを備える酸化ニッケル粉末の製造方法であって、
前記熱処理工程において、上記ニッケル塩を形成している陰イオンと異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))型の陰イオンを、水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm含有する水酸化ニッケルを熱処理することを特徴とする酸化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
上記晶析工程において、反応溶液に含まれるニッケル塩を形成している陰イオンとは異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))を反応溶液中に、反応溶液中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm添加することを特徴とする請求項1に記載の酸化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
上記洗浄工程において、晶析工程で用いた上記ニッケル塩を形成している陰イオンと異なるオキソ酸(一般式:EO(OH))を、洗浄する水酸化ニッケル中のニッケルを酸化ニッケルに換算した質量と中心元素(E)の合計に対する中心元素(E)の比で100〜3000質量ppm含む洗浄液で洗浄することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
前記オキソ酸が、炭酸、ケイ酸、硝酸、燐酸から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項5】
前記塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度が50〜130g/Lであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項6】
前記晶析工程で用いるアルカリが、アルカリが水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化ニッケル粉末の製造方法
【請求項7】
比表面積が5.5m/g以上であり、レーザー散乱法で測定したD90が1μm以下であり、塩素含有量が100質量ppm以下、オキソ酸(一般式:EO(OH))を形成する中心元素(E)の含有量が100〜3000質量ppmであることを特徴とする酸化ニッケル粉末。