説明

酸化ビスマス粉末の製造方法

【課題】電子材料への利用に適合した柱状で粗大な結晶性状の酸化ビスマス粉末を容易に且つ低廉に製造する酸化ビスマス粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】ビスマスを含有する溶液にアルカリを添加し、この溶液のpHを13.5以上に保つことにより、形状が長さ20μm以上、かつアスペクト比が10以下である酸化ビスマス粉末を精製することを特徴とする酸化ビスマスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品等の製造時に添加される酸化ビスマス粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化ビスマスは、バリスタ、セラミックコンデンサ等の電子部品、フェライト等の磁性材料及びガラスレンズの添加剤として主に使用されているが、近年では、環境問題への高まりから、鉛を代替する材料の一つとしても注目を浴びている。
【0003】
この酸化ビスマスは、銅、鉛等の非鉄金属製錬の副産物として得ることができる。
例えば、銅の製錬においては、原料の銅鉱石中に含有されるビスマスは、そのままだと銅の品質を低下させる原因となる不純物であるため、銅との分離処理が行われる。具体的には、銅を精製する銅の電解工程の中で、硫酸ビスマスの形で電解液中に溶出する、あるいは電解槽の槽底に塩化酸化ビスマスなどの形で沈殿するなどして銅と分離される。この分離したビスマス化合物は、電解工程から別の工程に運び、酸化ビスマスに精製される。
【0004】
このように、非鉄金属製錬の副産物として得られる酸化ビスマスの生産において、そのビスマスの分離処理を効率化し、生産コストを低減する努力が続けられてきている。
例えば、特許文献1および2で開示されるようなMRT樹脂と呼ばれるビスマスとの選択性の高い樹脂を用いて、銅電解液中に含有するビスマスを直接分離する方法が提案されている。
【0005】
このMRT樹脂は、官能基としてクラウンエーテル等の大環状化合物が、シリカ等の担体に担持された構造をしており、大環状化合物の環の径に適したイオン半径のイオンを吸着する特性がある。このMRT樹脂を使用して金属の分離回収を行う場合、回収対象の金属のイオン半径と適合した環の径を持つ大環状化合物を担持させた樹脂が使用される。
その使用方法は、分離対象とする金属イオンを含有する水溶液とMRT樹脂とを接触させ、官能基の環の径に適合した金属イオンのみをMRT樹脂に吸着させ、その他の金属イオンと分離される。その後、金属イオンを吸着したMRT樹脂と硫酸などの溶液とを接触させると、溶液側に金属イオンが移行してMRT樹脂から分離することで、分離処理が行われる。
【0006】
上述の銅電解工程で用いる電解液は多くの場合、硫酸水溶液であり、このMRT樹脂に電解液を通液した場合、電解液中に含有されるビスマスは、硫酸ビスマスとして電解液から分離して回収される。この硫酸ビスマスは水酸化ナトリウム等のアルカリを用いて中和することで酸化ビスマス粉末に精製されるものである。
【0007】
さらに、硫酸ビスマスを水酸化ナトリウム等のアルカリで中和して酸化ビスマスを精製する場合、原材料によって得られる酸化ビスマス粉末の品質や性状が異なることが知られている。例えば、硫酸ビスマスや水酸化ナトリウムに高純度な試薬を用いた場合には、酸化ビスマス粉末の結晶は粗大で同時にアスペクト比が低い、いわゆる柱状結晶が得られ、電子部品の材料用途に適すると言われている。しかし、銅の電解工程から得た硫酸ビスマスを用いた場合、微細でアスペクト比の大きな、いわゆる針状結晶が得られ、さらに結晶内に塩基性硫酸塩が残留しやすく、電子部品の材料用途には適用し難かった。
【0008】
一方、特許文献3には硝酸ビスマスを原料として、酸化ビスマス粉末の結晶性状を制御する方法が開示されている。
すなわち特許文献3では、硝酸ビスマス水溶液と水酸化アルカリ水溶液を反応させ、さらに過酸化水素水を添加した後、得られた沈殿を洗浄、脱水、乾燥することを特徴とし、酸化ビスマス粉末の出発原料である硝酸ビスマスの濃度、反応溶液の最終pHを10.5〜12.5の範囲に維持し、さらに反応溶液の温度等の反応条件を調整することにより、酸化ビスマス粉末の性状が板状であって、平均粒径、比表面積、嵩密度、タップ密度等の粉体特性を有するものを得るものである。
【0009】
この特許文献3の方法を用いて酸化ビスマス粉末を得るには、ビスマスを硝酸に溶解した溶液を用意する必要があるが、硝酸酸性の溶液は設備の耐食性、排ガス処理、さらには硝酸イオンを含有する排水が大量に発生するのに伴う排水処理の負荷とコストを考えると工業的に大量に得るには課題が多かった。
【0010】
このように、電子材料として有効に活用できる酸化ビスマス粉末を得るためには、高純度な硫酸ビスマス試薬を用いる方法、あるいは硝酸ビスマスを用いることが必要であり、高いコストを要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−057118号公報
【特許文献2】特開2003−213350号公報
【特許文献3】特開平11−001322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような従来技術の問題点に鑑み本発明は、電子材料への利用に適合した柱状で粗大な結晶性状である酸化ビスマス粉末を容易に且つ低廉に製造する酸化ビスマス粉末の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の第1の発明は、ビスマスを含有する溶液にアルカリを添加して、その溶液のpHを13.5以上に保つことにより、形状が長さ20μm以上、かつアスペクト比が10以下である酸化ビスマス粉末を精製する酸化ビスマスの製造方法である。
【0014】
また、本発明の第2の発明は、上記第1の発明において、ビスマスを含有する溶液が硫酸酸性の溶液であり、添加するアルカリが水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムから選ばれる1種類以上である酸化ビスマス粉末の製造方法である。
【0015】
さらに、本発明の第3の発明は、上記第1あるいは第2の発明において、ビスマスを含有する溶液が、銅の電解工程に用いた電解液からビスマスを分離し、かつ保持するイオン交換樹脂、クラウンエーテル、溶媒抽出における溶媒のいずれかの媒体から硫酸溶液を用いて、この媒体に保持されているビスマスを分離して形成されるビスマスを含有する硫酸溶液である酸化ビスマス粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、柱状かつ粗大な、電子材料の原料用途に適用することが可能な、酸化ビスマスの粉末を容易に得ることができ、さらに、その原料は低コストで入手が可能であり、低廉に製造が可能である。また、廃棄物の削減および資源の活用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で精製した酸化ビスマスの顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で精製した酸化ビスマスの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の酸化ビスマス粉末の製造方法を詳細に説明する。
本発明者らは、ビスマスを含有する硫酸酸性の溶液にアルカリを添加して酸化ビスマス粉末を作製する際、アルカリを過剰に添加することで結晶中に残存する塩基性硫酸塩を減らし、同時に粗大な柱状の結晶を持つ酸化ビスマスが製造できることを見出した。
【0019】
そこで、このビスマスを含有する硫酸酸性の溶液(以下、硫酸溶液と称す)に添加するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムが用いられるが、特に水酸化ナトリウム、あるいは水酸化カリウムの水溶液を用いることが好ましい。
【0020】
粗大な柱状の結晶を持つ酸化ビスマス粉末の精製の仕組みは、ビスマスを含有する硫酸溶液にアルカリが添加されると、最初に水酸化ビスマスの粒子が生成される。この生成した水酸化ビスマスの粒子の表面と中心部ではアルカリ濃度が異なり、アルカリ濃度の濃度勾配が生じる。この濃度勾配が適度な大きさになると水酸化ビスマスの粒子内部の硫酸イオンも反応することができ、その結果として結晶中の塩基性硫酸塩を減少させて十分な結晶成長を行わせることができることにある。そのpHの値が13.5以上の場合に、適度な濃度勾配を採ることができ、結晶成長が円滑に進行するものである。
【0021】
対して、pHが13.5未満では、濃度勾配が小さく、溶液中に未反応で存在する遊離アルカリの量が不足し、生成した粒子内部には硫酸イオンが残留して結晶の成長が不完全となり、目的とする粗大な結晶が得られない。
【0022】
一方、pHは14.5を越えても、その効果は変わらないが、一般にpHが高い領域になるとpHの測定誤差も大きくなり、正確な制御が難しくなる。さらに、過剰のアルカリを添加するのはコスト的にも不利であるため、pHの上限は14.5とすることが好ましい。
【0023】
ビスマスを含有する溶液、特に硫酸酸性の溶液は、その原料として銅の電解工程で使用された電解液を用いることが、コスト面、あるいは廃棄物の有効利用などの観点から望ましい。この電解液に含まれるビスマスは、選ばれた媒体を用いて電解液より分離され、かつ媒体に保持される。ついで、この媒体に保持されたビスマスを硫酸溶液により媒体から分離することにより、硫酸溶液に硫酸ビスマスの形で含まれ、ビスマスを含有する酸性の溶液としての硫酸酸性の溶液が形成される。
【0024】
ここで使用される媒体としては、イオン交換樹脂、官能基としてクラウンエーテルを有する樹脂、あるいは溶媒抽出に用いる溶媒のいずれかを用いるが、これらの選択は、ビスマスの分離、保持の効率、扱い易さなどにより適宜、選択されるものである。
【0025】
以下に、本発明の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、粉末の結晶形状の観察や結晶の大きさの測定は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。
【実施例1】
【0026】
[硫酸酸性の溶液の形成]
IBC社製(商品名:Superlig83)のMRT樹脂1リットルを内容積1.2リットルの塩ビ製のカラムに充填し、このカラムにビスマス濃度が0.49g/lである銅電解の電解液を60℃の液温を維持しながら毎分0.38リットルの流量で1時間通液し、電解液中に含有するビスマスを吸着させた。その後、このカラムを水で洗浄した後、液温60℃の濃度60重量%硫酸溶液を、毎分0.05リットルの流速で1時間通液し、吸着したビスマスを溶離させて硫酸ビスマス水溶液を作製した。
【0027】
次に、この硫酸ビスマス水溶液を、90℃以上に加熱して濃縮し、その後空冷して、晶析した硫酸ビスマスの結晶を回収した。
【0028】
回収した硫酸ビスマスの結晶50gを分取し、水温が室温である300mlの純水を加えて分取した硫酸ビスマスの結晶を溶解し硫酸酸性のビスマスを含有する溶液を作製した。この溶液のpHを測定すると、ほぼ0であった。
【0029】
[酸化ビスマスの精製]
次に、この溶液を攪拌しながら濃度25重量%の水酸化ナトリウム溶液を添加してpH13.7に調整し、そのpHの値に5分間保持した。次にヌッチェと5C濾紙を用いて吸引ろ過を行って、固液分離し、次いで乾燥させて酸化ビスマスの粉末を精製した。
この酸化ビスマス粉末を、走査電子顕微鏡で観察して結晶の形状を測定した。
【0030】
図1に示すように、得られた結晶は、薄黄色を呈し、長さが20〜30μmであり、長辺/短辺の比であるアスペクト比は10程度以下と小さく、粗大な柱状結晶が得られている。また、酸化ビスマス中の硫黄は100ppm以下と問題にならないほど低い水準であった。
【0031】
(比較例1)
水酸化ナトリウム溶液を添加して調製するpHを13.0にする以外は実施例1と同様の処理を行い、酸化ビスマスを得た。
この得られた結晶は緑白色を呈し、図2に示すように、長さが10〜20μmで、そのアスペクト比は30以上であるなど、針状で微細な結晶が得られた。硫黄含有量を分析すると8000ppmと実施例1に比べると高濃度に残留している。
【0032】
実施例1および比較例1から、中和時のpHを13.5以上に維持することにより、結晶中に残存する塩基性硫酸塩を減らし、電子部品に用いられる柱状で粗大な酸化ビスマス結晶が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスを含有する溶液にアルカリを添加し、前記溶液のpHを13.5以上に保つことにより、形状が長さ20μm以上、かつアスペクト比が10以下である酸化ビスマス粉末を精製することを特徴とする酸化ビスマスの製造方法。
【請求項2】
前記ビスマスを含有する溶液が、硫酸酸性の溶液であり、
前記アルカリが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムから選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1記載の酸化ビスマス粉末の製造方法。
【請求項3】
前記ビスマスを含有する溶液が、銅の電解工程に用いた電解液からビスマスを分離し、かつ保持するイオン交換樹脂、クラウンエーテル、溶媒抽出のいずれかの媒体から硫酸溶液を用いて前記媒体に保持されたビスマスを分離して形成されるビスマスを含有する硫酸酸性の溶液であることを特徴とする請求項1または2記載の酸化ビスマス粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−6267(P2011−6267A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148636(P2009−148636)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】