説明

酸性水中油型乳化食品及びその製造方法

【課題】さっくりとした口溶けのよい食感を有し、しかも、チルド温度で長期保存した場合であっても離水が生じ難い酸性水中油型乳化食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】食用油脂含有量が10〜60%の酸性水中油型乳化食品であって、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散され、かつ、水相中にゼラチンが溶解している酸性水中油型乳化食品。前記酸性水中油型乳化食品の製造方法であって、製造工程において、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンを、水分散状態で40℃を超える温度で加熱することなく製造する酸性水中油型乳化食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さっくりとした口溶けのよい食感を有し、しかも、チルド温度で長期保存した場合であっても離水が生じ難い酸性水中油型乳化食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりから、油脂含有量を低減したいわゆる低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品が広く使用されている。この低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品は、油脂含有量が50%以下程度であり、油脂含有量65%以上の従来の一般的なマヨネーズに比べて油脂含有量を低減してある。この低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品は単に油脂含有量を減らすだけでは、適度な粘性を有するなめらかな物性が得られないことから、一般的に、澱粉やガム質等の増粘材を配合して従来のマヨネーズに近い物性に調整されている。
【0003】
一方、近年の食生活の多様化により、低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品が使用される場所も家庭だけに止まらず、例えば、レストランの厨房等の他、スーパーのバックヤード等と多様化しており、これにともなって、流通形態も常温流通だけでなくチルド流通(0〜15℃)されることも多くなっている。
【0004】
従来の低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品としては、例えば、特開平5−130848号公報(特許文献1)には、増粘材として澱粉を用いた低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品が記載されている。しかしながら、このような低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品は、油脂含有量65%以上の従来の一般的なマヨネーズに比べて、増粘材の影響により口溶けの悪いべたついた食感となる傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−130848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品の食感をさっくりとした口溶けのよい食感とするため、配合する増粘材としてゼラチンに着目した。ゼラチンは、特有のゼリーを形成することから澱粉等の増粘材を用いた場合とは異なる食感を得ることが期待できる。ゼラチンは、清水に分散させて通常50〜70℃程度に加熱溶解した後冷却することによりゼリーを形成する。一方、当該ゼリーは30℃を超えると一部溶解し始める場合があり、例えば、30℃を超えるような室温下での長期保存は避ける必要があるが、近年、チルド流通(0〜15℃)網や冷蔵庫等の整備が進んでいるため、長期保存される場合であっても、チルド保存が可能であると考えられる。
【0007】
そこで、本発明者は、ゼラチンを加熱溶解したゼラチン溶液を配合して低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品を製造したところ、得られた低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品は、澱粉を使用した場合に比べてある程度口溶けが改善したものの、充分に満足できるものではなかった。更に、このゼラチンを用いた低カロリータイプの酸性水中油型乳化食品は、チルド温度で長期保存すると離水が生じる問題が生じた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、さっくりとした口溶けのよい食感を有し、しかも、チルド温度で長期保存した場合であっても離水が生じ難い酸性水中油型乳化食品及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、酸性水中油型乳化食品の配合原料及び製造工程について鋭意研究を重ねた。その結果、ゼラチンを2種類の異なる形態で含有させる、つまり、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンを非溶解状態で分散させ、かつ、水相中にゼラチンが溶解させることにより、さっくりとした口溶けのよい食感を有し、しかも、チルド温度で長期保存した場合であっても離水が生じ難い酸性水中油型乳化食品が得られることを見出し遂に本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)、食用油脂含有量が10〜60%の酸性水中油型乳化食品であって、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散され、かつ、水相中にゼラチンが溶解している酸性水中油型乳化食品、
(2)、水相中に溶解するゼラチンと酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合割合が、水相中に溶解するゼラチン100部に対して、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンが20〜500部である(1)記載の酸性水中油型乳化食品、
(3)(1)又は(2)記載の酸性水中油型乳化食品の製造方法であって、製造工程において、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンを、水分散状態で40℃を超える温度で加熱することなく製造する酸性水中油型乳化食品の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、さっくりとした口溶けのよい食感を有し、しかも、チルド温度で長期保存した場合であっても離水が生じ難い低オイルタイプの酸性水中油型乳化食品を提供できる。したがって、低オイルタイプの酸性水中油型乳化食品の更なる需要の拡大が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0013】
本発明の酸性水中油型乳化食品は、食用油脂が油滴として水相中に略均一に分散して水中油型の乳化状態となっているものであり、水相中に略均一に分散した油滴の中に更に水相が分散したものも本発明の酸性水中油型乳化食品に含まれる。
【0014】
本発明の酸性水中油型乳化食品における食用油脂含有量は、本来のマヨネーズよりも低い10〜60%、好ましくは10〜50%であり、酸性水中油型乳化食品の低カロリー化を可能にしている。なお、食用油脂含有量がこの範囲よりも低くするとコクのある乳化食品が得られ難い。
【0015】
本発明で用いる前記食用油脂とは、トリアシルグリセロール又はジアシルグリセロールを主成分とする脂質のことである。前記本発明の食用油脂としては、従来の酸性水中油型乳化食品で使用される種々の食用油脂であれば特に制限は無く、具体的には、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、サフラワー油、ひまわり油、綿実油、ごま油、こめ油、パーム油、パームオレイン、オリーブ油、落花生油、やし油、しそ油、乳脂、牛脂、ラード、魚油等の動植物油又はこれらの精製油、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素処理等を施して得られる油脂等の1種又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0016】
一方、本発明の酸性水中油型乳化食品において、水相は、食酢、クエン酸等の有機酸あるいはレモン果汁等の柑橘果汁等の酸材を含有し、酸材によりpHを4.6以下に調整したものである。
【0017】
また、本発明のゼラチンとは、動物の皮膚や骨などの結合組織の主成分であるコラーゲンを加熱し、抽出したものであり、蛋白質を主成分とする混合物ある。食用として供されるゼラチンとしては、例えば、市販のブタゼラチン、ウシゼラチン、または魚ゼラチン等が挙げられ、本発明ではこれらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
また、食用として供されるゼラチンとしては、常温(15〜25℃)の水に分散しただけでは溶解せず当該分散液を50〜70℃程度に加熱することにより溶解し、当該溶解液を冷却した際にゼリーを形成する加熱溶解性のゼラチンが一般的である。ここで、加熱溶解性ゼラチンとは、具体的には、品温40℃に加熱した1%ゼラチン水分散液5mLを試験管(内径15mm)に採取し、これを品温10℃に冷却した後、当該試験管の口部を垂直下方に向けた時に、試験管口部から分散液が流出し、かつ、品温70℃に加熱した同分散液を同様に試験管に採取し、品温10℃に冷却した後、当該試験管の口部を垂直下方に向けた時に、試験管口部から分散液が流出しないゼラチンをいう。ゼラチンとしては、このような加熱溶解性ゼラチンの他に、例えば、溶解温度が40℃以下に規定されている常温溶解性のゼラチンも市販されている。この常温溶解性ゼラチンは、常温(15〜25℃)の水に分散しただけ溶解させることができる。
【0019】
本発明の水中油型乳化食品は、上述したゼラチンを以下の2種類の異なる形態で含有することを特徴とする。
【0020】
第一に、本発明の水中油型乳化食品は、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散されていることを特徴とする。ここで、非溶解状態とは、ゼラチンが溶解していない状態のことをいい、本発明の酸性水中油型乳化食品は、この状態の加熱溶解性ゼラチンが略均一に分散されている。このように加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で略均一に分散されている酸性水中油型乳化食品を製造するためには、酸性水中油型乳化食品の製造工程において、当該加熱溶解性ゼラチンを水分散状態で40℃を超える温度で加熱することなく製造することが必要となる。なお、前記水分散状態とは、ゼラチンが溶解可能な水に分散した状態であればよく、製造工程において、ゼラチンがゼラチン以外の原料を含む水相に分散した状態や、乳化後の乳化食品中に分散した状態等を含む。
【0021】
第二に、本発明の水中油型乳化食品は、水相中にゼラチンが溶解していることを特徴とする。
【0022】
水相中にゼラチンが溶解している酸性水中油型乳化食品を製造するには、常法によりゼラチンを溶解し、当該溶解液を水相として使用すればよい。ゼラチンを溶解させるには、例えば、加熱溶解性ゼラチンであれば、水と混合した状態で、40℃を超える温度、好ましくは50℃以上に加熱して溶解すればよく、常温溶解性のゼラチンであれば、例えば、常温(15〜25℃)で水と混合して溶解すればよい。
【0023】
本発明の酸性水中油型乳化食品は、上述したように酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散され、かつ、水相中にゼラチンが溶解していることにより、さっくりとした口溶けのよい食感を有し、しかも、チルド温度で長期保存した場合であっても離水が生じ難いものとなる。
【0024】
これに対して、ゼラチンを前記2種類の異なる形態で含有しない場合、つまり、水相中にゼラチンが溶解しているだけで、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散されていない場合は、さっくりとした口溶けのよい食感の酸性水中油型乳化食品が得られず、しかも、チルド温度で長期保存した場合に離水が生じやすいものとなる。また、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散されているだけで、水相中にゼラチンが溶解していない場合は、ざらついた食感となる傾向があり、しかも、チルド温度で長期保存した場合に離水が生じやすいものとなる。
【0025】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、水相中に溶解するゼラチンと酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合割合は、水相中に溶解するゼラチン100部に対して、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンが20〜500部である。このような配合割合とすることで、さっくりとした口溶けのよい食感とし、更に、チルド温度で長期保存した場合の離水を防止する上述した本発明の効果を奏しやすくなる。これに対して、水相中に溶解するゼラチンの配合量に対して、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合量が前記値よりも少ない場合は、さっくりとした口溶けのよい食感が得られ難く、前記値よりも多い場合は、ざらついた食感となる傾向がある。
【0026】
また、本発明の酸性水中油型乳化食品に配合するゼラチンの合計配合量、つまり、水相中に溶解するゼラチンと酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの合計配合量は、食用油脂含有量やその他の原料にもよるが、製品に対し0.01〜5%が好ましく、0.1〜3%がより好ましい。配合量が前記値より少ないと、さっくりとした口溶けのよい食感が得られ難く、また、酸性水中油型乳化食品をチルド温度で長期保存した場合の離水防止効果も得られ難い。一方、配合量が前記値より多いと、非溶解状態で分散した加熱溶解性ゼラチンの影響により、酸性水中油型乳化食品の食感にざらつきが生じて口当たりが悪くなったり、あるいは、水相中に溶解するゼラチンの影響により、酸性水中油型乳化食品の口溶けが悪くなったりする場合がある。
【0027】
本発明の酸性水中油型乳化食品の粘度は、さっくりとした口溶けのよい食感とし、更に、チルド温度で長期保存した場合の離水を防止する効果が得られやすい点から、品温5℃のときの測定値で、50〜1000Pa・sが好ましく、100〜700Pa・sがより好ましい。なお、粘度は、BH形粘度計を用いローター:No.6、回転数:2rpmの条件で測定し、2回転後の示度により算出した値である。
【0028】
本発明の酸性水中油型乳化食品は、上述のゼラチン及び食用油脂を含有する他は、本発明の効果を損なわない範囲で酸性水中油型乳化食品に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、卵黄、卵白、乳蛋白、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化材、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、これらの澱粉をアルファ化、架橋等の処理を施した加工澱粉、並びに湿熱処理澱粉等の澱粉類、澱粉分解物、デキストリン、デキストリンアルコール、オリゴ糖、オリゴ糖アルコール等の糖類、食酢、クエン酸、乳酸、レモン果汁等の酸味材、グルタミン酸ナトリウム、食塩、砂糖等の各種調味料、アスコルビン酸又はその塩、ビタミンE等の酸化防止剤、各種エキス、からし粉、胡椒等の香辛料、各種蛋白質やこれらの分解物、ダイス状のゆで卵、きゅうりのピクルス、タマネギ、パセリ等のみじん切りにした野菜等が挙げられる。
【0029】
本発明の酸性水中油型乳化食品の製造方法は、製造工程において、加熱溶解性ゼラチンを水に分散した状態で40℃を超える温度で加熱することなく製造することを特徴とする。このように製造した酸性水中油型乳化食品は、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散され、さっくりとした口溶けのよい食感となり、また、得られた酸性水中油型乳化食品をチルド温度で長期保存した場合の離水が防止される。これに対して、製造工程のいずれかの段階で加熱溶解性ゼラチンが水分散状態で40℃を超える温度で加熱されると、当該加熱溶解性ゼラチンが溶解しやすくなり、そのような場合、さっくりとした口溶けのよい食感とし、更に、チルド温度で長期保存した場合の離水を防止する本発明の効果を奏し難くなる。
【0030】
本発明の酸性水中油型乳化食品の製造方法は、上述のように製造工程において、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンを、水に分散した状態で40℃を超える温度で加熱することなく製造することにより、加熱溶解性ゼラチンを酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させること、水相中にゼラチンを溶解すること、更に、食用油脂含有量を10〜60%とすること以外は、酸性水中油型乳化食品の常法により製造すればよい。具体的には、例えば、以下のように製造することができる。まず、ゼラチンを清水に溶解する。溶解は、加熱溶解性ゼラチンであれば、水と混合した状態で、40℃を超える温度、好ましくは50℃以上に加熱して溶解すればよく、常温溶解性のゼラチンであれば、例えば、常温(15〜25℃)で水と混合して溶解すればよい。次に、得られたゼラチン溶解液と非溶解状態の加熱溶解性ゼラチンを含む水相原料を均一に混合して水相部を製造する。続いて、水相部をミキサー等で撹拌させながら、油相原料を注加して粗乳化し、次にコロイドミル、高圧ホモゲナイザー等で仕上げ乳化をした後、ボトル容器やガラス容器等に充填密封する方法等により製造することができる。
【0031】
更に、本発明の酸性水中油型乳化食品は、チルド温度(0〜15℃)で保存、流通ができるチルド用製品とすることができる。このような本発明の酸性水中油型乳化食品は、さっくりとした従来にない食感を有し、しかも、チルド温度で長期保存した場合であっても離水が生じ難いものである。
【0032】
以下、本発明の酸性水中油型乳化食品について、実施例、比較例、及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
下記に示す配合割合で酸性水中油型乳化食品を製した。つまり、食酢、生卵黄、食塩、加熱溶解性ゼラチン、常温溶解性ゼラチン、キサンタンガム及び清水をミキサーに入れ、撹拌混合し、水相部を調製した。次いで、水相部を撹拌しながら植物油を徐々に添加して粗乳化し、更に高速で撹拌して仕上げ乳化を施した。次に、得られた乳化物を容量300gの三層のラミネート容器に充填することにより本発明品の酸性水中油型乳化食品を製した。
【0034】
得られた酸性水中油型乳化食品は、水相中に溶解するゼラチンと酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合割合が、水相中に溶解するゼラチン100部に対して、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンが100部であり、ゼラチンの合計配合量は、製品に対し2%である。なお、使用した加熱溶解性ゼラチンは、品温40℃に加熱した1%ゼラチン水分散液5mLを試験管(内径15mm)に採取し、これを品温10℃に冷却した後、当該試験管の口部を垂直下方に向けた時に、試験管口部から分散液が流出し、かつ、品温70℃に加熱した同分散液を同様に試験管に採取し、品温10℃に冷却した後、当該試験管の口部を垂直下方に向けた時に、試験管口部から分散液が流出しないものであった。また、得られた酸性水中油型乳化食品の粘度は400Pa・sであった。
【0035】
<酸性水中油型乳化食品の配合割合>
(油相)
植物油 30%
(水相)
食酢(酸度4%) 15%
生卵黄 10%
食塩 3%
加熱溶解性ゼラチン 1%
常温溶解性ゼラチン 1%
キサンタンガム 0.2%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0036】
[実施例2]
実施例1において、常温溶解性ゼラチンを配合せず、加熱溶解性ゼラチンの配合量を2%に増やし、この加熱溶解性ゼラチンの半量を加熱溶解して、残りの半量を加熱溶解しないで配合した以外は、実施例1と同様の方法で酸性水中油型乳化食品を製した。つまり、まず、加熱溶解性ゼラチンの半量を清水に分散して60℃まで加熱してゼラチンを溶解した後、品温20℃に冷却した。得られたゼラチンの溶解液、加熱溶解性ゼラチンの残りの半量、食酢、生卵黄、食塩及びキサンタンガムをミキサーに入れ、撹拌混合し、水相部を調製した。次いで、水相部を撹拌しながら植物油を徐々に添加して粗乳化し、更に高速で撹拌して仕上げ乳化を施した。次に、得られた乳化物を容量300gの三層のラミネート容器に充填することにより本発明品の酸性水中油型乳化食品を製した。
【0037】
得られた酸性水中油型乳化食品は、水相中に溶解するゼラチンと酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合割合が、水相中に溶解するゼラチン100部に対して、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンが100部であり、ゼラチンの合計配合量は、製品に対し2%である。また、また、得られた酸性水中油型乳化食品の粘度は400Pa・sであった。
【0038】
[比較例1]
実施例1の酸性水中油型乳化食品の調製において、加熱溶解性ゼラチンと清水を混合し、60℃まで加熱することで、加熱溶解性ゼラチンを溶解させた後、他の水相原料を混合した以外は実施例1と同様の方法で酸性水中油型乳化食品を製した。
【0039】
[比較例2]
実施例1において、加熱溶解性ゼラチンを配合せず、常温溶解性ゼラチンの配合量を2%に増やした以外は実施例1と同様の方法で酸性水中油型乳化食品を製した。
【0040】
[比較例3]
実施例1において、常温溶解性ゼラチンを配合せず、加熱溶解性ゼラチンの配合量を2%に増やした以外は実施例1と同様の方法で酸性水中油型乳化食品を製した。
【0041】
[試験例1]
ゼラチンの種類及び酸性水中油型乳化食品の製造工程における加熱処理の有無が、酸性水中油型乳化食品の食感、及びチルド温度で保存した後の離水に与える影響を調べるために以下の試験を行った。すなわち、実施例1及び2、並びに比較例1乃至3の酸性水中油型乳化食品の食感を下記の評価基準で評価した。次に、これら実施例1及び2、並びに比較例1乃至3の酸性水中油型乳化食品を5℃の冷蔵庫で保存し、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月及び4ヵ月保存した後の離水の有無を評価した。結果を表1に示す。
【0042】
<酸性水中油型乳化食品の食感の評価基準>
口溶け感
A:さっくりとした大変口溶けのよい食感である。
B:口溶けのよい食感である。
C:やや口溶けが悪い食感である。
D:口溶けが悪い食感である。
ざらつき感
A:ざらつきがない。
B:ややざらつきがあるが問題の無い程度である。
C:ややざらつきがある。
D:ざらつきがある。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、加熱溶解性ゼラチンを水分散状態で40℃を越える温度で加熱することなく製造し、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンを非溶解状態で分散し、更に、水相中にゼラチンを溶解した酸性水中油型乳化食品(実施例1及び2)は、さっくりとした口溶けのよい食感でざらつきもなく、しかも、チルド温度で長期保存した場合であっても離水が生じないことが理解できる。これに対して、水相中にゼラチンが溶解していても、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散されていない場合(比較例1及び2)は、さっくりとした口溶けのよい食感の酸性水中油型乳化食品が得られず、しかも、チルド温度で長期保存した場合に離水が生じ好ましくなかった。また、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散されていても、水相中にゼラチンが溶解していない場合(比較例3)は、ざらついた食感となり、しかも、チルド温度で長期保存した場合に離水が生じ好ましくなかった。
【0045】
[試験例2]
水相中に溶解するゼラチンと、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合割合が、酸性水中油型乳化食品の食感に与える影響を調べるために以下の試験を行った。すなわち、実施例1において、水相中に溶解するゼラチンの配合量(A%)と酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合量(B%)を表2に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で酸性水中油型乳化食品を製した。次に、得られた酸性水中油型乳化食品の食感を試験例1と同様の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より、水相中に溶解するゼラチンと酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合割合が、水相中に溶解するゼラチン100部に対して、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンが20〜500部である場合(No.2−2〜No.2−5)は、さっくりとした口溶けのよい食感でざらつきもなく大変好ましいことが理解される。なお、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散され、かつ、水相中にゼラチンが溶解しているいずれの酸性水中油型乳化食品(No.2−1〜No.2−6)も、5℃で4ヵ月保存した後に離水が生じなかった。
【0048】
[実施例3]
下記に示す配合割合で酸性水中油型乳化食品を製した。つまり、食酢、生卵黄、食塩、加熱溶解性ゼラチン、常温溶解性ゼラチン、キサンタンガム及び清水をミキサーに入れ、撹拌混合し、水相部を調製した。次いで、水相部を撹拌しながら植物油を徐々に添加して粗乳化し、更に高速で撹拌して仕上げ乳化を施した。次に、得られた乳化物を容量300gの三層のラミネート容器に充填することにより本発明品の酸性水中油型乳化食品を製した。
【0049】
得られた酸性水中油型乳化食品は、水相中に溶解するゼラチンと酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合割合が、水相中に溶解するゼラチン100部に対して、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンが100部であり、ゼラチンの合計配合量は、製品に対し3%である。なお、本実施例における加熱溶解性ゼラチン及び常温溶解性ゼラチンは、実施例1で使用したものと同じものを使用した。また、得られた酸性水中油型乳化食品の粘度は500Pa・sであった。
【0050】
得られた酸性水中油型乳化食品は、さっくりとした口溶けのよい食感を有し、しかも、5℃で4ヵ月間で保存後においても離水も生じておらず好ましかった。
【0051】
<酸性水中油型乳化食品の配合割合>
(油相)
植物油 15%
(水相)
食酢(酸度4%) 15%
生卵黄 10%
食塩 3%
加熱溶解性ゼラチン 1.5%
常温溶解性ゼラチン 1.5%
キサンタンガム 0.2%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――
合計 100%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂含有量が10〜60%の酸性水中油型乳化食品であって、酸性水中油型乳化食品中に加熱溶解性ゼラチンが非溶解状態で分散され、かつ、水相中にゼラチンが溶解していることを特徴とする酸性水中油型乳化食品。
【請求項2】
水相中に溶解するゼラチンと酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンの配合割合が、水相中に溶解するゼラチン100部に対して、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンが20〜500部である請求項1記載の酸性水中油型乳化食品。
【請求項3】
請求項1又は2記載の酸性水中油型乳化食品の製造方法であって、製造工程において、酸性水中油型乳化食品中に非溶解状態で分散させる加熱溶解性ゼラチンを、水分散状態で40℃を超える温度で加熱することなく製造することを特徴とする酸性水中油型乳化食品の製造方法。

【公開番号】特開2011−103777(P2011−103777A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259434(P2009−259434)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】