説明

酸素分圧制御方法及び制御装置

【課題】例えば10-25Pa未満という超低酸素分圧の精製ガスを得ることができる酸素分圧制御方法及び酸素分圧制御装置を提供する。
【解決手段】超低酸素分圧ガス精製のための酸素分圧制御方法であって、酸素ポンプ21が備える固体電解質211の一方の側及び他方の側のいずれかを、精製すべきガスの供給側とし、これと反対の排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする酸素分圧制御方法、並びに、ガス精製部10が、固体電解質211を備えた酸素ポンプ21を備え、該固体電解質の一方の側及び他方の側のいずれかをガスの供給側、反対の側を酸素の排出側とし、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする調整手段30を備えている酸素分圧制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素分圧を極めて低い値に制御するための酸素分圧制御方法及び酸素分圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質を含む電気化学的な酸素ポンプを有する酸素分圧制御装置により、酸素分圧を制御した雰囲気ガスを用いて、単結晶試料等を作成する方法が知られている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
特許文献2に示された図5の酸素分圧制御装置は、バルブ102を通った不活性ガスの流量を設定値に制御するマスフローコントローラ(MFC)103と、このマスフローコントローラ103を通った不活性ガスを目的の酸素分圧に制御可能な電気化学的な酸素ポンプ104と、酸素ポンプ104で制御された不活性ガスの酸素分圧を検出して試料育成装置などの次工程(装置)に供給する供給ガス用の酸素センサ105を有する。
【0004】
さらにこの装置は、所望の酸素分圧値を設定する酸素分圧設定部106と、酸素センサ105による検出値を酸素分圧設定部106による設定値と比較して酸素ポンプ104から送り出される不活性ガスの酸素分圧を所定値に制御する制御部107と、酸素センサ105による検出値を表示する酸素分圧表示部108を備える。
【0005】
酸素ポンプ104は、図6に示すように、酸素イオン伝導性を有する固体電解質筒状体104aの内外両面に電極104b、104cを形成している。固体電解質筒状体104aは、例えばジルコニア系の固体電解質であり、図示しないヒーターで加熱される。固体電解質筒状体104aの一方の開口から他方の開口に向けて軸方向に不活性ガスを供給する。不活性ガスは、例えばアルゴンであり、通常は微量の酸素(10-1〜10-2Pa[10-6〜10-7atm]程度)を含んでいる。直流電源Eに対し、外面の電極104cを+極に接続し、内面の電極104bを−極に接続して、両電極間に電圧を印加すると、固体電解質筒状体104a内を流れる不活性ガス中の酸素分子(O2)が電気的に還元されてイオン(O2-)化され、固体電解質を通して再び酸素分子(O2)として固体電解質筒状体104aの外部に放出される。固体電解質筒状体104aの外部に放出された酸素分子は、空気等の補助ガスと共に排気される。固体電解質筒状体104aに供給されたAr+O2(10-1〜10-2Pa程度)の不活性ガスは、酸素分子が低減されて目的の酸素分圧に制御された処理済みガス(精製ガス)となり、次工程(装置)に給送される。
【0006】
なお、図6の酸素ポンプ104は、低酸素分圧状態の制御や微調整等のために、必要に応じて、固体電解質筒状体104aの内外両面の電極104b、104c間に上記と逆極性の直流電圧を印加してポンプ動作を行わせることも可能である。すなわち、外面の電極104cに−極を印加し、内面の電極104bに+極を印加すると、固体電解質筒状体104aの外面に沿って流れる空気などのガス中の酸素分子(O2)が固体電解質によって電気的に還元されてイオン(O2-)化され、固体電解質を通して再び酸素分子(O2)として固体電解質筒状体104aの内部に放出される。この場合、固体電解質筒状体104aの内部を流れる不活性ガスの酸素分圧が上昇して、外部に給送される。
【0007】
このような酸素ポンプにより酸素分圧を制御したガスを供給すれば、結晶育成、合金化、熱処理、半導体製造工程などが酸素分圧を制御した不活性ガスなどの雰囲気下で行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−326887号公報
【特許文献2】国際公開WO 2008/068844 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1,2に示された酸素ポンプによれば、例えば、温度600℃において約10-25Paまでの低い酸素分圧が得られる。
【0010】
しかしながら、より低い酸素分圧を得ようとすると、固体電解質内の酸素分圧(例えば10-25Pa)と固体電解質外の酸素分圧との差によって固体電解質への印加電圧(例えば2V)と逆極性の起電力(例えば1.27V)が生じ、印加電圧の作用が弱まる。その結果、この酸素分圧制御装置では目的を達成し得ず、例えば10-25Pa未満というような超低酸素分圧が得られない。
【0011】
そこで、本発明は、このような従来技術が達成し得なかった超低酸素分圧の精製ガスを得ることができる酸素分圧制御方法及び酸素分圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記目的を達成するため、酸素含有ガスを酸素ポンプにより低酸素分圧のガスに精製するための酸素分圧制御方法であって、酸素ポンプが備える固体電解質の一方の側及び他方の側のいずれかを供給側として、精製すべきガスを供給すると共に、固体電解質における該供給側とは反対の排出側領域を低酸素分圧雰囲気とすることを特徴とする酸素分圧制御方法を提供するものである。
【0013】
本発明に係る酸素分圧制御方法は、酸素ポンプが備える固体電解質の一方の側及び他方の側のいずれかを、精製すべきガスの供給側とし、その反対の排出側領域を低酸素分圧雰囲気とするので、固体電解質の一方の側と他方の側との酸素分圧差が減少する。その結果、逆起電力が低下し、固体電解質内の酸素分圧が低くなっても印加電圧による酸素分子放出作用が維持される。
【0014】
本発明はまた、前記目的を達成するため、酸素含有ガスを低酸素分圧のガスに精製するためのガス精製部を備えた酸素分圧制御装置であって、前記ガス精製部は、固体電解質を備えた酸素ポンプを備え、該固体電解質の一方の側及び他方の側のいずれかを、精製すべきガスの供給側とし、固体電解質の反対の側を酸素の排出側とし、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする調整手段を備えていることを特徴とする酸素分圧制御装置を提供するものである。
【0015】
本発明に係る酸素分圧制御装置は、該装置におけるガス精製部が、固体電解質を備えた酸素ポンプと、該酸素ポンプの固体電解質の一方の側及び他方の側のいずれかを、精製すべきガスの供給側、反対の側を酸素の排出側とし、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする調整手段を備えているので、調整手段の作動により、固体電解質の一方の側と他方の側との酸素分圧差が減少する。その結果、逆起電力が低下し、固体電解質内の酸素分圧が低くなっても印加電圧による酸素分子放出作用が維持される。
【0016】
こうして、本発明に係る酸素分圧制御方法及び酸素分圧制御装置によれば、従来技術が達成し得なかった超低酸素分圧(例えば、10-25Pa未満、さらには10-28Pa以下、より低くは10-30Pa以下の分圧)の精製ガスを得ることができる。
【0017】
上記酸素分圧制御方法及び酸素分圧制御装置において、固体電解質の排出側領域を低酸素分圧雰囲気とするには、例えば、酸素ポンプが有する固体電解質の排出側領域に対し、低酸素分圧ガス、還元性ガス、不活性ガス、若しくは酸素に対する反応性ガスの導入、または、該排出側領域の減圧、若しくは該排出側領域の酸素分圧の減圧を行なうことにより、該領域を低酸素分圧雰囲気とすることができる。すなわち、固体電解質の排出側領域に導入されるこれらのガスは、固体電解質から排出された酸素により酸素分圧が高くなったガスに対して、これらのガスが混合や置換をすることにより、低酸素分圧雰囲気とする。また、これらのガスの内、還元性ガスは、後述するように、固体電解質の排出側領域における水素、酸素及び水分の平衡状態に対し、還元ガス成分の分圧を増大させる結果、酸素分圧を低下させ、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする。さらに、酸素に対する反応性ガスは、固体電解質から排出された酸素と反応することにより、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする。また、固体電解質の排出側領域を減圧した場合は、該排出側領域の全圧が低下するので、これに伴って排出側領域が低酸素分圧雰囲気となる。さらに、排出側領域の酸素分圧の減圧をした場合も、排出側領域が低酸素分圧雰囲気となる。このようにして固体電解質の排出側領域が低酸素分圧雰囲気となるので、固体電解質の一方の側と他方の側との酸素分圧差が減少する。その結果、逆起電力が低下し、固体電解質内の酸素分圧が低くなっても印加電圧による酸素分子放出作用が維持される。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、従来技術が達成し得なかった超低圧の酸素分圧の精製ガスを得ることができる酸素分圧制御方法及び制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る酸素分圧制御装置を示すブロック図である。
【図2】図1に示した酸素分圧制御装置における調整手段の詳細を示すブロック図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る酸素分圧制御装置を示すブロック図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態に係る酸素分圧制御装置を示すブロック図である。
【図5】従来の酸素分圧制御装置の一例を示すブロック図である。
【図6】固体電解質を用いた酸素ポンプの原理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る酸素分圧制御装置を示すブロック図である。この酸素分圧制御1装置は、精製対象ガスである原料ガスを低酸素分圧に制御したガスに精製するガス精製部10と、ガスを環流させるための循環路4と、該循環路中に設けられた循環ポンプ5とを備えており、精製中のガスを循環させて精製度を上げる循環タイプとなっている。精製されたガスは、循環路4での循環後または循環と並行して、精製ガスを用いる処理装置Fに供給される。
【0021】
循環路4は、ガス精製部10の上流側及び下流側に接続された共通流路41と、処理装置Fを経る作動流路42と、処理装置Fを経ない流路を形成するバイパス流路43とを備えている。ガス精製部10の下流側の共通流路41は、酸素センサ22、循環用ポンプ5及び制御弁61を経て作動流路42及びバイパス流路43に接続している。作動流路42及びバイパス流路43の終端は、制御弁62を経て、ガス精製部10の上流側の共通流路41に接続している。また、ガス精製部10の上流側の共通流路41には、レギュレータ(REG)12、マスフローコントローラ(MFC)13が設けられている。
【0022】
循環路4の始端410(図の上左端)は、装置外のガス供給源に接続されるようになっており、該供給源から不活性ガス等の原料ガスが供給される。また、循環路4の始端410の直ぐ下流側には、制御弁11が設けられている。
【0023】
制御弁11は、始端410からの原料ガス流と、共通流路41からの精製ガス流との切り換え及びガス流の遮断の制御をするようになっている。レギュレータ12は、酸素ポンプ及び酸素センサに接続された共通流路41の圧力を一定に保持し、マスフローコントローラ13は、制御弁11を通過した原料ガスの流量を設定値に制御する。
【0024】
酸素ポンプ21は、図6に示したのと同様に固体電解質、電圧印可機構等を備えたポンプユニットで構成され、この実施形態では、3個のポンプユニット210を備えている。各ポンプユニット210は、酸化ジルコニウム製の筒状の固体電解質211の内外面に白金の電極層を設け、直流電源の−極を内側、+極を外側に接続している。酸素センサ22は、酸素ポンプ21により制御された酸素分圧を検知して検知信号を発する。
【0025】
ガス精製部10は、酸素ポンプ21と、調圧室27aを形成し該調圧室内に酸素ポンプ21を収容する仕切り壁27と、酸素ポンプ21及び酸素センサ22に接続された制御部23と、該制御部に接続された酸素分圧設定部24及び酸素分圧表示部25とを備えている。制御部23は、酸素分圧設定部24により設定された目標値及び酸素センサ22によって検知された測定値に基づいて酸素ポンプ21に対する作動電圧調節信号の発信等を行なって酸素ポンプ21の作動を制御する
【0026】
酸素分圧制御装置1のガス精製部10は、各ポンプユニット210における固体電解質211の内側を、精製すべきガスの供給側とし、固体電解質の外側を酸素の排出側としている。そして、排出側である外側領域を低酸素分圧雰囲気とする調整手段30を備えている。調整手段30は、図2に示すように、ガス精製部10に近似した副精製部の形態を有し、調整用原料ガスを低酸素分圧のガスに精製する。この調整手段30について、図1には酸素ポンプ21に対する配置状態を示し、詳細は図2に示している。図2では、図1の酸素分圧制御装置1の主要な部材番号(例えば、酸素ポンプ21)に対応する部材に「’」を付けて示し(例えば、酸素ポンプ21’)、以下では詳細な説明は省略する。
【0027】
調整手段30は、精製したガスを酸素分圧制御装置1の調圧室27a(図2の右下)内へ供給しながら環流させる副循環路4’と、該副循環路中に設けられた副循環ポンプ5’とを備えている。副循環路4’は、副酸素ポンプ2’及び副ポンプ5’を経る副共通流路41’と、この副共通流路から、調圧室27aに対して精製ガスの供給(IN)と排出(OUT)を行なう副作動流路42’と、副共通流路41’から、調圧室27aを経ない流路を形成する副バイパス流路43’とを備えている。副共通流路41’の始端410(図の左端)は、装置外のガス供給源に接続されるようになっており、該供給源から不活性ガス等の原料ガスが供給される。
【0028】
この調整手段30は、副共通流路41’の始端410’のすぐ下流側から順に接続された制御弁11’、レギュレータ(REG)12’、マスフローコントローラ(MFC)13’、副酸素ポンプ21’、副酸素センサ22’を備えている。副酸素ポンプ21’は、この実施形態では、3個のポンプユニット210’を備えている。制御部23’は、酸素分圧設定部24’及び酸素分圧表示部25’が接続され、副酸素センサ22’から送られた酸素分圧信号に基づいて、副酸素ポンプ21’の作動電圧調節を行なうための制御信号を発信する等により酸素ポンプ21’を制御する。副循環ポンプ5’は、副循環路4’全体のガス流の駆動源として作用する。副循環ポンプ5’の下流、並びに、作動流路42’とバイパス流路43’との合流点に制御弁61’,62’が設けられ、共通流路41’からのガス流を作動流路42’とバイパス流路43’とに切り換える操作が可能となっている。
【0029】
図1に示した酸素分圧制御装置1は、次のようにして使用される。目標とする酸素分圧を、酸素分圧設定部24に入力する。酸素ポンプ21は、加熱部28により所定温度に加熱され、固体電解質211に所定の電圧を印加される。加熱部28は、酸素ポンプ21の各ポンプユニット210に対して作用し、各固体電解質211を温度制御下に加熱するように構成されている。この加熱部28は、例えば、固体電解質211の外周にシースヒータを装着し、その外側を断熱材で覆ったもの等とすることができ、加熱部28の温度制御は、酸素ポンプ21の作動状態に応じて制御部23により行われる。
【0030】
初期段階では、ガス精製部10は、制御弁61,62により共通流路41からバイパス流路43に流れる循環経路に設定される。この状態で、制御弁11を開き、循環ポンプ5を作動させることにより、共通流路41の始端410から原料ガスを導入する。原料ガスは、短時間に目的とする酸素分圧に到達できるように、或る程度低い酸素分圧とされ、高純度ガス(酸素分圧が約10-2Pa)程度の低酸素分圧とするのが望ましい。
【0031】
導入された原料ガスは、レギュレータ12、マスフローコントローラ13により圧力及び流量が制御され、酸素ポンプ21において酸素が除去されることにより酸素分圧が低下する。その酸素分圧は酸素センサ22により検知され、酸素分圧表示部25に表示される。
【0032】
こうしてガスはバイパス流路43から共通流路41へと循環し、酸素ポンプ21による酸素除去が繰り返される。制御部23は、酸素センサ22によって検知された酸素分圧と、酸素分圧設定部24によって設定された目標値との比較に基づいて、各々の作動電圧を調節し、ガス循環に基づいて、酸素分圧を目標値に近づけて行く。こうして、例えば、温度600℃において約10-25Pa程度の従来到達可能な酸素分圧であれば、このようにして得ることができる。
【0033】
求める酸素分圧がこのような値であれば、共通流路41からバイパス流路43に流れる循環によって酸素分圧表示部25が示す酸素分圧が上記値に到達したところで、制御弁61,62を切り換えて、ガス流を共通流路41から作動流路42を流れる経路とする。これにより、所定酸素分圧のガスは、処理装置Fへと流れ、処理装置Fにおいて目的とする処理が行われることとなる。
【0034】
ところが、本発明の課題の項で説明したように、より低い酸素分圧を得ようとすると、固体電解質内の酸素分圧と固体電解質外の酸素分圧との差によって固体電解質への印加電圧に対抗する逆起電力が生じ、酸素ポンプ21の機能低下により酸素分圧低減が停止または遅滞する限界値に達し、目的を達成し得ない。これに対し、図示の装置は、従来到達し得なかった酸素分圧への到達を実現するものであり、次の特徴を有している。すなわち、本実施形態に係る酸素分圧制御装置は、上記構成に加えて、酸素ポンプ21を収容する調圧室27aと、この調圧室内における固体電解質211の外側領域(排出側領域)を低酸素分圧雰囲気とする調整手段30とを備えている。
【0035】
この実施形態における調整手段30は、前述の通り、ガス精製部10に近似した副精製部の形態を有しており、始端410’から供給される不活性ガス等の調整用原料ガスを低酸素分圧ガスに精製する。この調整手段30から低酸素分圧のガスを調圧室27a内に導入し、酸素ポンプ21の各固体電解質211の外側領域を低酸素分圧雰囲気に調整することができる。この調整により、固体電解質内外の酸素分圧差が減少する。その結果、逆起電力が低下し、固体電解質内の酸素分圧が上記限界値に達しても印加電圧による酸素分子放出作用が良好に維持され、従来技術が達成し得なかった超低酸素分圧の精製ガスを得ることができる。
【0036】
なお、調整手段30から供給される低酸素濃度ガスによって酸素分圧を低減する必要があるのは、調圧室27a内における固体電解質211の外側領域であるが、調整手段30による低酸素濃度ガスを調圧室27a内全体に供給してもよい。また、調圧室27a内の個々のポンプユニット210について固体電解質211の外側領域近傍を覆う隔壁を設け、この隔壁内に低酸素濃度ガスを供給するようにしてもよい。
【0037】
共通流路41からバイパス流路43に流れる循環によって酸素分圧表示部25が示す酸素分圧が目標値に到達したところで、制御弁61,62を切り換えて、ガス流を共通流路41から作動流路42を流れる循環経路とする。これにより、所定酸素分圧のガスは、処理装置Fへと流れ、処理装置Fにおいて目的とする処理が行なわれることとなる。
【0038】
次に、図3は、本発明の他の実施形態に係る酸素分圧制御装置を示している。この実施形態では、図2に示した調整手段30に代えて、調整手段30aが設けられている。他の構成は、図1に示したものと同様であるので、ここでは主として調整手段30aを図3に示して説明する。
【0039】
この調整手段30aは、酸素分圧制御装置1の調圧室27a内に還元性ガスを供給するものである。供給された還元性ガスは、調圧室27a内における酸素ポンプ21の固体電解質の外側領域に導入される。この実施形態においては、調圧室27aから調整手段30aへの環流は行なわれず、調圧室27aに供給(IN)された還元性ガスは、該調圧室27a外へ排気(OUT)される。
【0040】
調整手段30aは、還元性ガス供給装置31を備えている。還元性ガス供給装置31は、不活性ガスボンベ311と還元性ガスボンベ312と、各ボンベに接続されたレギュレータ321,322と、各レギュレータに接続されたマスフローコントローラ331,332とを備えている。調整手段30aは、マスフローコントローラ331,332から延びる流路39に接続された還元性ガスセンサ32を備え、さらに、還元性ガス分圧値を設定する還元性ガス分圧設定部34と、還元性ガスセンサ32による検出値を還元性ガス分圧設定部34での設定値と比較し、出力される還元性ガスの分圧を所定値に制御する還元性ガス分圧制御部33と、還元性ガスセンサ32の検出値を表示する還元性ガス分圧表示部35とを備えている。流路39における還元性ガスセンサ32の下流側には制御弁37が設けられ、還元性ガスが所定の圧力及び流量で調圧室27aに供給される。
【0041】
この実施形態において、還元性ガスは、例えば水素含有ガスとすることができる。水素含有ガスを用いた場合は、調整手段30aを備えた酸素分圧制御装置1において、以下の反応を得ることができる。原料ガス供給源から酸素分圧制御装置1に送られるガス(例えばアルゴン等の不活性ガス)中に僅かに含まれる酸素、水素及び水は、通常状態で以下の反応の平衡状態にある。
【0042】
【数1】

【0043】
この反応について、平衡定数をkp、各気体成分H2O,H2,O2の分圧をp(H2O),p(H2),p(O2)とすると、次の式が成立する。
【0044】
【数2】

【0045】
この実施形態によれば、酸素分圧制御装置1の酸素ポンプによる低い酸素分圧の限界値またはその近傍に達した状況において、調整手段30aから水素含有ガスが酸素ポンプ21の固体電解質の外側領域(排出側領域)に導入されるので、式2において、Kp一定の下に、右辺の分母におけるp(H2) が大きくなり、これに対応して分母のp(O2) が小さくなる。これは、固体電解質の外側領域における酸素分圧が低下することを意味する。その結果、固体電解質内外の酸素分圧差が減少して逆起電力が低下し、固体電解質内の酸素分圧がより低くなっても印加電圧による酸素分子放出作用が維持される。この状態で、精製ガスが循環するとさらに酸素ポンプ21の作用を受け、より低い酸素分圧への平衡移動が可能となる。このようにして、酸素分圧制御装置1は原料ガスを超低酸素分圧のガスに精製することができる。
【0046】
また、上記実施形態において、還元性ガスとして水素含有ガス以外のガスを用いた場合も、同様の原理により、酸素分圧制御装置1によって超低酸素分圧の精製ガスを得ることができる。
【0047】
なお、図3の実施形態において還元性ガスとして水素含有ガスを用いる場合は、還元性ガスボンベ312に水素ガスを充填し、ガスボンベ311の不活性ガスと混合する際の混合比を、2〜3体積%程度とし、爆発限界以下とするのが望ましい。
【0048】
図4は、本発明のさらに他の実施形態に係る酸素分圧制御装置を示している。この実施形態では、図2に示した調整手段30に代えて、調整手段30bを備えている。他の構成は、図1に示したものと同様であるので、ここでは主として調整手段30bを図4に示して説明する。
【0049】
この調整手段30bは、酸素分圧制御装置1の調圧室27a内に不活性ガスを供給するものである。供給された不活性ガスは、調圧室27a内における酸素ポンプ21の固体電解質の外側領域に導入される。この実施形態においては、調圧室27aから調整手段30bへの環流(図1のOUT)は行なわれず、調圧室27aに供給(IN)された不活性ガスは、該調圧室27a外へ排気(OUT)される。
【0050】
調整手段30bは、不活性ガス供給装置31bを備えている。不活性ガス供給装置31bは、不活性ガスボンベ311bと、該ボンベに接続されたレギュレータ321bと、該レギュレータに接続されたマスフローコントローラ330bとを備えている。調整手段30bは、マスフローコントローラ330bから延びる流路39に接続された不活性ガスセンサ32bを備え、さらに、不活性ガス供給量を設定する不活性ガス供給量設定部34bと、不活性ガスセンサ32bによる検出値を不活性ガス供給量設定部34bによる設定値と比較し、出力される不活性ガスの量を所定値に制御する不活性ガス供給量制御部33bと、不活性ガスセンサ32bによる検出値を表示する不活性ガス供給量表示部35bとを備えている。流路39における不活性ガスセンサ32bの下流側には、制御弁37が設けられ、不活性ガスが所定の圧力及び流量で調圧室27aに供給される。
【0051】
この実施形態によれば、酸素分圧制御装置1の酸素ポンプによる低い酸素分圧の限界値またはその近傍に達した状況において、調整手段30bから不活性ガスが酸素ポンプ21の固体電解質の外側領域に導入されるので、固体電解質外へ放出された酸素の一部が不活性ガスに置き換えられ、酸素分圧が低下する。その結果、固体電解質内外の酸素分圧差が減少して逆起電力が低下し、固体電解質内の酸素分圧がより低くなっても印加電圧による酸素分子放出作用が維持される。この状態で、精製ガスが循環すると、さらに酸素ポンプ21の作用を受け、より低い酸素分圧への平衡移動が可能となる。このようにして、酸素分圧制御装置1は原料ガスを超低酸素分圧のガスに精製することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、酸素分圧制御装置は、実施形態に示した循環タイプのものに代えて、ガス精製部(酸素ポンプ)を経た精製ガスを、同じ精製過程に戻すことなく、処理装置に供給するタイプ(ワンパスタイプ)とすることもできる。
【0053】
上記実施形態では、筒状をなす固体電解質の内側を、精製すべきガスの供給側とし、固体電解質の外側を酸素の排出側としたが、これを逆にして、固体電解質の外側を、精製すべきガスの供給側、内側を酸素の排出側とすることもできる。また、固体電解質を平面または曲面の板状とすることもできる。この場合は、固体電解質の一方の側及び他方の側のいずれかを、精製すべきガスの供給側、反対の側を酸素の排出側とすることができる。そして、固体電解質の供給側及び排出側のガスが相互に混合しないように、固体電解質に隣接する仕切り部材をガス精製部に設けるのが望ましい。
【0054】
また、酸素分圧制御装置の調整手段についても同様に、筒状をなす固体電解質の外側をガスの供給側、内側を酸素の排出側とすることもでき、固体電解質を平面または曲面の板状とし、その一方の側及び他方の側のいずれかをガスの供給側、反対の側を酸素の排出側とすることもできる。この場合も、板状固体電解質の供給側及び排出側のガスが相互に混合しないように、固体電解質に隣接する仕切り部材をガス精製部に設けるのが望ましい。
【0055】
調整手段が固体電解質の排出側領域に導入するガスは、実施形態に示した還元性ガス、不活性ガスの他、酸素に対する反応性ガスとすることもできる。導入された反応性ガスは、ガス精製部において固体電解質から排出された酸素と反応することにより、酸素を消費し、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする。このような酸素に対する反応性ガスとしては、例えば、一酸化炭素等を用いることができる。
【0056】
さらに、酸素分圧制御装置の調整手段は、固体電解質の排出側領域の減圧手段、若しくは該排出側領域の酸素分圧の減圧手段とすることもできる。固体電解質の排出側領域を減圧した場合は、該排出側領域の全圧が低下するので、これに伴って排出側領域が低酸素分圧雰囲気となる。また、排出側領域の酸素分圧の減圧をした場合も、排出側領域が低酸素分圧雰囲気となる。
【0057】
また、酸素ポンプの作動に伴って、その出力ガスの酸素分圧が目標値よりも低くなった場合には、固体電解質に印加する電圧の極性を逆にして酸素ポンプ内に酸素を取り込むことにより、目標値の酸素分圧を得ることができる。
【0058】
また、初期段階では調整手段を作動させることなく酸素ポンプを稼働させ、酸素ポンプの出力ガスが目標とする酸素分圧に接近した中間段階で調整手段を作動させてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1: 酸素分圧制御装置
4: 循環路
4’: 副循環路
5: 循環ポンプ
5’: 副循環ポンプ
10: ガス精製部
21: 酸素ポンプ
21’: 副酸素ポンプ
27a: 調圧室
30,30a,30b:調整手段
31: 還元性ガス供給装置
31b: 不活性ガス供給装置
33: 制御部
33b: 制御部
36: 循環ポンプ
39: 流路
41: 共通流路
41’: 副共通流路
42: 作動流路
42’: 副作動流路
43: バイパス流路
43’: 副バイパス流路
104: 酸素ポンプ
107: 制御部
210: ポンプユニット
211: 固体電解質
311,311b:不活性ガスボンベ
312: 還元性ガスボンベ
F: 処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有ガスを酸素ポンプにより低酸素分圧のガスに精製するための酸素分圧制御方法であって、酸素ポンプが備える固体電解質の一方の側及び他方の側のいずれかを供給側として、精製すべきガスを供給すると共に、固体電解質における該供給側とは反対の排出側領域を低酸素分圧雰囲気とすることを特徴とする酸素分圧制御方法。
【請求項2】
固体電解質の前記排出側領域に対して、低酸素分圧ガス、還元性ガス、不活性ガス、若しくは酸素に対する反応性ガスを導入し、または、該排出側領域の減圧、若しくは該排出側領域の酸素分圧の減圧をすることにより、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とすることを特徴とする請求項1に記載の酸素分圧制御方法。
【請求項3】
酸素含有ガスを低酸素分圧のガスに精製するためのガス精製部を備えた酸素分圧制御装置であって、前記ガス精製部は、固体電解質を備えた酸素ポンプを備え、該固体電解質の一方の側及び他方の側のいずれかを、精製すべきガスの供給側とし、固体電解質の反対の側を酸素の排出側とし、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする調整手段を備えていることを特徴とする酸素分圧制御装置。
【請求項4】
前記調整手段は、前記固体電解質の排出側領域に対する低酸素分圧ガス、還元性ガス、不活性ガス、若しくは酸素に対する反応性ガスの導入、または、該排出側領域の減圧、若しくは該排出側領域の酸素分圧の減圧をすることにより、該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とすることを特徴とする請求項3に記載の酸素分圧制御装置。
【請求項5】
前記調整手段が、大気より低い酸素分圧への精製のための副精製部を備え、
該副精製部は、固体電解質を有した副酸素ポンプと、該副酸素ポンプにより得られた低酸素濃度ガスを前記ガス精製部の酸素ポンプにおける固体電解質の排出側領域に導入して該排出側領域を低酸素分圧雰囲気とする手段とを備えていることを特徴とする請求項3に記載の酸素分圧制御装置。
【請求項6】
前記調整手段が、前記固体電解質の排出側領域を覆う仕切り壁を備えていることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の酸素分圧制御装置。
【請求項7】
前記仕切り壁が、密閉性の高い調圧室を形成し、前記調整手段は、調圧室内における前記固体電解質の排出側領域を低酸素分圧雰囲気とすることを特徴とする請求項6に記載の酸素分圧制御装置。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−106871(P2012−106871A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255027(P2010−255027)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000110859)キヤノンマシナリー株式会社 (179)
【Fターム(参考)】