説明

酸素濃縮装置

【課題】タール状物質に由来する酸素濃度低下と機器の故障を防止する酸素濃縮装置を提供する。
【解決手段】原料空気を供給するためのコンプレッサー3と、原料空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮するための吸着部とを備え、上記コンプレッサー3の吸気側に、0.3μmの微粒子を99.9%以上捕捉する吸気フィルター2が配置され、上記吸気フィルター2の濾過面積が、原料空気の1分あたりの流量に対して5cm/NL以上である。
このようにすることにより、原料空気に含まれる微小粒子状物質が有効に除去され、それらがコンプレッサーで加圧加熱されて生成するタール状物質によるコンプレッサー3、インラインフィルター5、逆止弁6、および電磁弁8等の故障を未然に防ぎ、酸素濃縮装置を長期間使用したときの酸素濃度の低下を防止し、故障の発生率を大幅に改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素との親和性の高い吸着剤を充填した吸着筒にコンプレッサーから原料空気を送り込み、酸素が濃縮された酸素濃縮ガスを取り出す圧力変動吸着式(PSA)の酸素濃縮装置に関するものであり、詳しくは、コンプレッサーや空気流路切替弁などの故障、不具合、性能低下などのトラブルを防ぎ、装置自体の性能安定性と長期運転信頼性を高めた酸素濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般に医療用として用いられる圧力変動吸着式の酸素濃縮装置の一例を示す。
【0003】
この例では、濃縮酸素を製造するための主な構成要素として、原料空気を送り込むコンプレッサー3、原料空気の送り先を切り替える電磁弁8,9、酸素を選択的に取り出す2本の吸着筒12,13を備えている。
【0004】
原料空気の流路は、通常は電磁弁8,9によって切り替えられて2本の吸着筒12,13に対して交互に原料空気が送り込まれる。各吸着筒12,13には、酸素よりも窒素との親和性が強いゼオライトが充填されている。原料空気が送り込まれた吸着筒12,13内では窒素がゼオライトに吸着されて酸素が濃縮され、製造された酸素濃縮ガスが最終的にカニューラ26を通じて使用者に供給される。
【0005】
片方の吸着筒(例えば12)にコンプレッサー3で加圧した原料空気を送り込んで酸素を製造している間、他方の吸着筒(例えば13)では、圧力を開放して前の酸素製造工程で吸着していた窒素を脱着するとともに、製造された酸素の一部を送り込んでパージすることが行われる。以上の工程を片方と他方で交互に行うように切り替え、繰り返して連続的に酸素を製造するのである。
【0006】
在宅医療用の酸素濃縮装置は、患者が24時間使用するものであるから、当然のことながら、その基本性能がいつも安定的に発揮され、故障が少ないことが求められる。性能が安定的に発揮されることと故障が少ないこととは互いに関連があり、両者とも同じ原因から不具合が発生することが多い。
【0007】
経験的に、故障や不具合が発生する主な機器や部材は、コンプレッサー3、インラインフィルター5、逆止弁6,7、電磁弁8,9、吸着筒12,13などがあげられるが、これらの機器や部材の重要な故障原因の一つとして、装置内に流れる空気中の異物がある。
【0008】
医療用酸素濃縮装置は、繊細な小型の機器や部材から構成されているため、原料空気中の異物や、運転中に装置自体から発生する異物が、機器の正常な運転を阻害する。そこで、これらの異物が装置の正常な運転を妨げないよう、医療用酸素濃縮装置には異物を捕集するため各種のフィルターが備えられている。
【0009】
図1に示す装置において、防塵フィルター1と吸気フィルター2は、原料空気中の異物を除去する目的で設けられている。また、インラインフィルター5は、コンプレッサー3で発生する異物を捕集する目的で設けられ、バクテリアフィルター21は、マスフローコントローラー22(流量設定器)を異物から保護するために設けられている。
【0010】
このような各種のフィルターに関する文献として、例えば下記の特許文献1〜4のような技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−188118号公報
【特許文献2】特開2004−261223号公報
【特許文献3】特開2005−329249号公報
【特許文献4】特開2006−262949号公報
【0012】
各特許文献には、つぎのような事項が開示されている。なお、以下の各文献の説明における符号および図番は、各文献記載のものである。
【0013】
◆特許文献1
上記特許文献1は、空気中の異物とフィルターについて、つぎのように記載されている。
(段落0002)「・・・装置内に取り込まれる空気は、防塵フィルター101と吸気フィルター102とによりゴミが除去され、・・・」
(段落0009)「・・・酸素濃縮器は空気中の空気を装置内に取り入れ、吸着剤にてガス分離をするものであるから当然に空気中のチリやホコリも装置の内部に入り込む。よって装置には空気取入口が設けられその部分に防塵フィルター101が設けられている。」
すなわち、特許文献1の記載では、フィルターで除去する対象は、ゴミ、チリ、ホコリである。
【0014】
◆特許文献2
上記特許文献2は、コンプレッサーの吐出側にシール材摩耗粉捕集用の不織布フィルターを備えることを開示し、フィルターの意義については次のように記述している。
(段落0013)「吸着性能安定性は、吸着剤性能の劣化状態に関係し、吸着剤の劣化については、水分の他、空気中に含まれる夾雑物の他、空気圧縮器内に使用されるシール材の摩耗粉の付着が悪影響を与える。通常、空気圧縮機の1次側には、吸入フィルタが設置されており、空気中の夾雑物の侵入を防止しているが、・・・」
(段落0014)「・・・空気圧縮機の2次側に摩耗粉捕集用のフィルタを装置に追加する場合、従来の金網フィルタでは、濾過面積が十分に取れないため、直ちに目詰まりによる圧力上昇を招き、装置の消費電力悪化につながり採用できない。その対策として、金網をプリーツ型に構成したり、焼結金属フィルタを使用しようとする場合、装置のサイズアップと重量アップを招く為、好ましくない。」
【0015】
ところが、実際には、目詰まりによる圧力上昇が起こると、上述されたような装置電力の悪化どころではなく、装置の停止や性能低下を引き起こしてしまうのである。
出願人自身も、後段において下記のような追加説明をしている。
(段落0024)「従来の構成の酸素濃縮器では、空気圧縮機から発生するシール材の摩耗粉が切り替えバルブのスプール部等に噛み込み、経時的に故障発生率を高め、同時に、吸着筒内に侵入することにより、吸着剤の性能劣化を招いていた。」
【0016】
また、この不織布フィルターの性能については、つぎのように記載している。
(段落0025)「該シール材摩耗粉捕集用フィルタのエレメントをASHRAE規格に定められる質量法試験で60〜100%の範囲で規定される不織布により構成し、」
すなわちこれは、ASHRAE試験法で採用される試験塵埃はアリソナ街路塵埃72%、カーボンブラック23%、コットンリンター5%の混合粉であり、市販の標準仕様の不織布エレメントはこのような試験塵埃を80〜90%捕集するものである。
【0017】
なお、吸入フィルターについては、下記の言及があるのみである。
(段落0013)「通常、空気圧縮機の1次側には、吸入フィルタが設置されており、空気中の夾雑物の侵入を防止している。」
【0018】
◆特許文献3
上記特許文献3は、ポータブル酸素濃縮装置に係る技術を開示しているが、コンプレッサー1次側のフィルターについては次のように記述しており、吸気フィルターの性能には一切言及されておらず、除去する対象はゴミであるものと理解される。
(段落0007)「・・・空気は、空気取入口100から取入れられ、フィルタ101と、消音バッファーも兼ねる吸気フィルタ102とによりゴミが除去された後、コンプレッサー(圧縮手段)105で圧縮される。」
(段落0011)」「<吸気フィルタ>吸気フィルタ102は、消音構造となっており、内部にフィルタを兼ね備えた一体構造となっている。約200cc程度の体積で、重量は120gw程度である。」
【0019】
なお、別に、流量設定器用フィルターについては次のように説明されており、ここでも除去対象の異物のサイズは100ミクロン程度のものと想定されている。
(段落0017)「・・・この流量設定器は流量制限をオリフィスで行っており、その穴孔径は設定される吐出圧力にもよるが最小で120〜150ミクロン(マイクロメータ)程度の孔径(平均孔径)が設定される。よって、ここで使用されるフィルタには100ミクロン(マイクロメータ)以下の孔径(平均孔径)のものが使用されることが流量を安定して得られる点で好ましい。」
【0020】
◆特許文献4
上記特許文献4は、除塵フィルター(図1の防塵フィルター1に対応)に清掃手段を備えた酸素濃縮装置を開示する。除塵フィルターの性能そのものについては言及がないが、次のような記述があり、フィルターは、塵埃即ち回収できる大きさのものを除去する機能であると理解される。
(段落0010)「・・・該フィルター清掃手段が、該フィルターに対して送風する手段と、該送風手段によって該フィルターから除去した塵埃を回収する手段を備える・・・」
【0021】
以上のように、医療用酸素濃縮装置において、防塵フィルター1と吸気フィルター2は空気中のゴミ、チリやホコリを除去する目的で備えられていた。特に、防塵フィルター1で除去されるものは回収される程度の大きさのゴミやチリ、ホコリなのであった。吸気フィルター2については、防塵フィルター1を補完するものと考えられるが、具体的にどのような性能を発揮しているのか、文献上は明らかではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
医療用酸素濃縮装置を長期にわたって運転していると、酸素濃度が低下してくることがある。その原因としては、吸着剤の吸湿による性能の低下、コンプレッサーの摩耗や異物付着による原料空気量の減少、電磁弁や逆止弁の故障などが従来から知られていた。
【0023】
しかしながら、本発明者らの調査によると、上述した原因だけでは説明できない酸素濃度の低下現象が起こることが明らかになってきた。そこで、本発明者らは、このような酸素濃度の低下減少の原因を究明すべく調査と研究を重ね、上記原因以外に、タール状物質がコンプレッサーや電磁弁を汚染することにより、酸素濃度が低下するうえ、それらの機器を故障させることを突き止めた。
【0024】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、タール状物質に由来する酸素濃度低下と機器の故障を防止する酸素濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するため、本発明の酸素濃縮装置は、原料空気を供給するためのコンプレッサーと、原料空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮するための吸着部とを備え、
上記コンプレッサーの吸気側に、0.3μmの微粒子を99.9%以上捕捉する吸気フィルターが配置され、
上記吸気フィルターの濾過面積が、原料空気の1分あたりの流量に対して5cm/NL以上であることを要旨とする。
【0026】
上述したように、酸素濃縮装置は長期にわたって運転すると酸素濃度が低下することがある。必ずしも総ての原因が解明されているわけではないが、例えば、吸着による吸着剤性能の低下、コンプレッサーの摩耗や異物付着による原料空気量の減少、電磁弁や逆止弁の故障などが知られている。
【0027】
コンプレッサーや電磁弁の異物による故障を防ぐため、酸素濃縮装置にはエアフィルターが装備されている。まず、外装の空気取入口にはスポンジやプラスチックの網でできたフィルターが備えられていて、室内空気中のゴミやチリ、ホコリを除去する。次にコンプレッサーの吸気側には、多くの場合濾紙でできた吸気フィルターが備えられている。さらに、コンプレッサーの吐出側にはいろいろな形状のインラインフィルターが配置されることが多い。
【0028】
しかしながら、これら一群のフィルターが有るにもかかわらず、長期使用によってコンプレッサーや電磁弁は、タール状物質で汚染され、不具合を起こすことがあることが、本発明者らの詳細な調査によって明らかになってきた。
【0029】
このようなタール状物質による汚染は、たばこの煙や蚊取り線香の煙が原因ではないかと推定されるのみで、本当に何が原因となって汚染されているのかの究明は行われてこなかった。したがって、このような汚染に対しては、使用環境での喫煙等に対して使用者に注意喚起する程度に留まっていて、抜本的な改善策がなされていなかったのが実情である。
【0030】
そこで、本発明者らは、長い期間使用したことにより酸素濃度の低下した酸素濃縮装置の詳細な調査を行った。すると、インラインフィルターがタール状物質で汚染され、原料空気の流量が低下したものがあり、タール状物質が由来するものは原料空気以外にはありえないことが明らかになった。
【0031】
ついで、これらの故障の原因となるタール状汚染物質を詳しく分析することにより、その由来を解明した。
【0032】
すなわち、上記タール状物質を赤外吸収スペクトル法とSEM−EDS法(X線分光による元素分析法)によって分析したところ、主成分としてカルボン酸エステルと硫酸アンモニウムが含まれていることがわかった。そして、在宅医療用の酸素濃縮装置の使用環境を考慮すると、カルボン酸エステルは家庭内の調理油に由来するものと推定され、硫酸アンモニウムはディーゼル車からの排気ガスに由来するものと推定された。
【0033】
インラインフィルターの上流にはコンプレッサーを挟んで吸気フィルターがある。通常に使用される吸気フィルターは濾紙をプリーツ状に折りたたんだ構造である。この酸素濃度が低下した酸素濃縮装置の吸気フィルターを調べてみると、吸気フィルターの濾紙エレメントには、チリやホコリはほとんど見あたらない。少し褐色に着色しているだけで、各文献において除去の対象と考えられていた目視できる程度の異物はほとんど見あたらなかったのである。
【0034】
これらの観察によって、タール状物質の前駆体は、吸気フィルターをすり抜け、コンプレッサーで発生し、インラインフィルターに捕集されたという構図が推定される。
【0035】
一方、各文献には吸気フィルターの性能まで開示されていないが、一般的には、2μm(マイクロメータ)の微粒子を99%捕集する規格のフィルターエレメントが使用されている。このような吸気フィルターは規格通りに性能を発揮し、ゴミ、チリ、ホコリが通過することはない。
【0036】
ところで、大気中には浮遊粒子状物質と呼ばれる粒子径10ミクロン以下の汚染物質が浮遊していることが知られている。特に粒子径が2.5ミクロン以下の微粒子は目に見えないほど小さく、微小粒子状物質(PM2.5)と呼ばれている。それらの微小粒子状物質はディーゼル車から排出される大量のディーゼル排気粒子に代表されるが、局所的にはタバコや線香などの燃焼によっても発生すると考えられる。
【0037】
ディーゼル排気粒子は、燃焼によって生じた凝集炭素原子、有機物質及び硫酸塩などから成る粒子の集合である。凝集炭素原子は比表面積が大きく、大量の有機物質を吸着している。硫酸塩は軽油に含まれる硫黄成分が二酸化硫黄に酸化され、一部が更にSOまで酸化されることによって生じる。カウンターイオンのアンモニアは空気中の窒素に由来しガス成分としても確認されている。
【0038】
図2は、ディーゼル排気粒子の粒径分布を示すものである。
【0039】
ディーゼル排気粒子は、質量では、その大部分が粒径0.1〜0.3μmの範囲内にある。また、粒子の個数では、その大部分が粒径0.005〜0.05μmの範囲にある。これらの微粒子は、条件によっては互いに凝集して粒径が変化することもある。
【0040】
これらのような知見に鑑みて、酸素濃縮装置のインラインフィルターに捕集されたタール状物質の前駆体はディーゼル排気粒子に代表される大気中の微小粒子状物質(PM2.5)であると推定された。
【0041】
それらの微粒子は非常に細かく、図2に示すように目に見えないレベルのサイズであり、従来使われている吸気フィルターをすり抜けることは容易に首肯できる。さらに、それらの微粒子は、発生後に互いに凝縮してサイズが変わる性質があることから、酸素濃縮装置では、それらの微粒子がコンプレッサーで圧縮され、断熱圧縮による圧力と温度上昇により互いに凝縮し、粒子径が大きくなることが推定できる。
【0042】
このようにして、目に見えないほど小さい燃焼ガス由来の微粒子は吸気フィルターをすり抜け、コンプレッサーの中で凝縮して粒子径が大きくなり、コンプレッサー下流のインラインフィルターを閉塞させるのである。仮に、インラインフィルターが配置されていなければ、凝縮した微粒子は電磁弁や逆止弁を汚染し、インラインフィルターの閉塞よりもさらに重大な故障を引き起こすことは容易に想像できる。
【0043】
このような目に見えないほど細かい微粒子の影響は、これまで気づかれることがなく、各文献においても、原料空気のフィルターが除去する対象は、ゴミ、ちり、ホコリと考えられていた。
【0044】
しかしながら、上述したような本発明者らによる詳細な調査の結果、コンプレッサーの吸気フィルターに要求される必須の機能は、実は、ゴミ、チリ、ホコリの除去ではなく、1μm以下の微粒子を捕捉することにあったのが明らかになったのである。
【0045】
そこで、本発明者らは、コンプレッサーの吸気側に0.3μmの微粒子を99.9%以上捕捉するフィルターを装備することにより、タール状物質に起因する様々な不具合を解決することに成功した。
【発明の効果】
【0046】
本発明の酸素濃縮装置は、上記コンプレッサーの吸気側に0.3μmの微粒子を99.9%以上捕捉する吸気フィルターを配置するとともに、上記吸気フィルターの濾過面積を、原料空気の1分あたりの流量に対して5cm/NL以上とした。
このようにすることにより、原料空気に含まれる微小粒子状物質が有効に除去され、これらがコンプレッサーで加圧加熱されて生成するタール状物質によるコンプレッサー、インラインフィルター、逆止弁、および電磁弁等の故障を未然に防ぎ、コンプレッサーや電磁弁等の機器の性能を正常に維持することができる。これにより、酸素濃縮装置を長期間使用したときの酸素濃度の低下を防止し、故障の発生率を大幅に改善する。このように、タール状物質に起因する様々な不具合を解決し、酸素濃縮装置の性能安定性と信頼性を高め、長期間にわたる性能維持を実現したのである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明が適用される酸素濃縮装置の一例を示す構成図である。
【図2】ディーゼル排気粒子の粒径分布を示す図である。
【図3】コンプレッサー周辺の構造を示す図である。
【図4】過酷試験におけるコンプレッサー周辺の構造を示す図である。
【図5−1】実施例の試験後におけるシリンダーヘッドの状態を示す写真である。
【図5−2】比較例の試験後におけるシリンダーヘッドの状態を示す写真である。
【図6】実施例および比較例の試験後におけるインラインフィルターの状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0049】
図1は、本発明を適用することができる酸素濃縮装置の一例を示す構成図である。
図3は、コンプレッサー3周辺の構成を示す図である。
この例は、在宅酸素療法に用いられる2筒式の圧力変動吸着法による酸素濃縮装置である。
【0050】
この酸素濃縮装置は、原料空気を供給するための圧縮機としてのコンプレッサー3と、上記圧縮機から供給された原料空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮するための吸着部としてそれぞれ機能する2本の吸着筒12,13とを備えている。また、上記コンプレッサー3から原料空気を供給する吸着筒12,13を切り替える電磁弁8,9を備えている。そして、吸着筒12,13に原料空気を送り込んで窒素を吸着し、酸素が濃縮された酸素濃縮ガスを供給チューブおよびカニューラ26を用いて使用者に供給するようになっている。
【0051】
以下、詳しく説明する。
【0052】
この酸素濃縮装置では、原料空気は、筐体28に取り付けられた防塵フィルター1と、空気流路の入口部分に設けられた吸気フィルター2によって異物が除去され、コンプレッサー3により加圧されて吸着筒12,13に導入される。コンプレッサー3は、モータ電力や空気の断熱圧縮熱などにより発熱するので、ブロワー4の送風により冷却する。コンプレッサー3で発生した異物はインラインフィルター5で除去する。
【0053】
吸着筒12,13には窒素との親和性が強い吸着剤(ゼオライト)が充填されており、例えば吸着筒12,13の原料口に原料空気が送り込まれると、吸着筒12の製品口からはゼオライトとの親和性が弱い酸素が先に出てくる。これを酸素濃縮ガスとして酸素バッファータンク19に蓄える。この工程を「酸素濃縮工程(加圧工程)」という。
【0054】
酸素濃縮工程の終盤になり、吸着筒12の製品口から窒素ガスが出てくる前に、原料空気の行先を一方の吸着筒12から他方の吸着筒13に切り替えることが行われる。各吸着筒12,13には、それぞれに対応するよう電磁弁8,9が設けられている。
【0055】
吸着筒12へ原料空気を送るときは、吸着筒12に対応した電磁弁8が「開」、吸着筒13に対応した電磁弁9が「閉」となるよう切り換え制御する。吸着筒13へ原料空気を送るときは、吸着筒13に対応した電磁弁9が「開」、吸着筒12に対応した電磁弁8が「閉」となるよう切り換え制御する。
【0056】
一方の吸着筒(この説明では12とする)で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間、前の酸素濃縮工程(加圧工程)が終わった他方の吸着筒(この説明では13とする)では、ゼオライトに窒素が吸着されている。そこで、吸着筒13の圧力を開放して窒素を大気に排出する。続いて、酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている吸着筒12で生成された酸素濃縮ガスの一部をパージ弁14を通じて吸着筒13の製品口から導入し、吸着筒13内を酸素で置換する。この一連の工程を「窒素脱着工程(パージ工程)」という。
【0057】
各吸着筒12,13には、それぞれに対応するよう開放弁10,11が設けられ、窒素脱着工程(パージ工程)を制御する。すなわち、吸着筒12で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間は、開放弁10を「閉」として吸着筒12内の加圧状態を維持する。吸着筒12で窒素脱着工程(パージ工程)を行うときには、開放弁10を「開」とし、吸着された窒素を大気に放出する。同様に、吸着筒13で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間は、開放弁11を「閉」として吸着筒13内の加圧状態を維持する。吸着筒13で窒素脱着工程(パージ工程)を行うときには、開放弁11を「開」として、吸着された窒素を大気に放出する。吸着筒12,13を大気開放する際の騒音は、排気出口に設けたサイレンサー27で消音する。
【0058】
パージ工程に用いられる酸素濃縮ガスは、酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている一方の吸着筒12(または13)の製品口から、窒素脱着工程(パージ工程)を行っている他方の吸着筒13(または12)の製品口へ、パージラインを通じて供給される。パージラインには、直動式のパージ弁14とオリフィス15,16が設けられている。パージ弁14は、パージの時間を正確に制御するために設置され、オリフィス15,16は通過する酸素濃縮ガスの流量を制御するために設置される。
【0059】
製造された酸素濃縮ガスは、酸素バッファータンク19に蓄えられ、減圧弁20で供給圧力が調整され、マスフローコントローラー22で流量を設定し、酸素濃度計23で酸素濃度を計測する。なお、マスフローコントローラー22と酸素濃度計23を異物から保護するためにバクテリアフィルター21が設けられている。
【0060】
また、騒音を発する機器や部品は金属製の防音ボックスの中に収容される。特に大きな騒音を発するのはコンプレッサー3と排気開放部である。ブロワー4の運転音とコンプレッサー3への吸気音がそれについで大きい。ブロワー4は、外気をコンプレッサー3に当てて冷却するものなので、コンプレッサー3と同居させることはできない。吸気フィルター2も酸素の少ない排気開放部と同居させることができない。従って、防音ボックスを2部屋に区分し、第1防音ボックス29にはコンプレッサー3と排気開放部を収容し、第2防音ボックス30にはブロワー4と吸気フィルター2を収容する。電磁弁8,9は、この例では、温度とスペースの関係から第2防音ボックス30に収容している。装置全体は木材とプラスチックから構築される筐体28に収納される。
【0061】
製造された酸素濃縮ガスは絶乾燥状態であるため、加湿器24で湿度を与え、カニューラ26を通じて使用に供される。上記加湿器24は、この例では、バブリング式の加湿器24であり、精製水を満たした容器内に、酸素濃度計23で酸素濃度が計測された酸素濃縮ガスを多孔質部材から噴出させることにより加湿するものである。
【0062】
そして、本実施形態では、コンプレッサー3の上流に設けた吸気フィルター2として、0.3μmの微粒子を99.9%以上捕捉するフィルターを装備した。また、上記吸気フィルター2の濾過面積を、原料空気の1分あたりの流量に対して5cm/NL以上となるよう設定した。また、好ましくは、吸気フィルター2の濾過エレメントは、金属製または樹脂製のハウジングに収容され、消音バッファーとしての機能を兼ね備えたものとすることができる。
【0063】
以下、詳しく説明する。
【0064】
上記吸気フィルター2としては、0.3μmの微粒子を99.9%以上捕捉しうるフィルターであれば、各種のものを使用することができる。例えば、JIS Z8122において0.3μmの微粒子を99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能をもつエアフィルターとして定義されたHEPAフィルターを適用することができる。「0.3μmの微粒子を99.9%以上捕捉」とは、JISにおけるHEPAフィルターの定義で用いられた「粒子捕集率」が、0.3μmの微粒子を99.9%以上であることを意味する。
【0065】
また、上記吸気フィルター2の濾過面積を、原料空気の1分間あたりの流量に対し、5cm/NL以上となるよう設定した。このようにすることにより、タール状の汚染となりうる微粒子を十分に捕捉するとともに、圧力損失の急激な増大も避けることができ、長期間安定した性能を維持することができる。
【実施例】
【0066】
5L/分の酸素濃縮ガス供給能力を持つ医療用の酸素濃縮装置を用いて、コンプレッサー上流に設置した吸気フィルターの比較試験を行った。使用した酸素濃縮装置の構成は、図1に示したものと同様である。比較試験に係るコンプレッサー周辺の構成は図3に示したものである。
【0067】
試験に供した吸気フィルターの仕様を下記の表1に示す。フィルター1とフィルター2は、本発明の実施例であり、0.3μmの微粒子を99.97%除去できるフィルターである。フィルター1は濾過面積が約880cmであり、フィルター2は濾過面積が約360cmである。フィルター3は比較例として準備したもので、通常用いられる代表的な吸気フィルターであり、濾過面積は約880cmとした。
【0068】
【表1】

【0069】
<酸素濃度>
5L/分の能力を持つ同一の医療用の酸素濃縮装置を用いて、表1に示す各種の吸気フィルターを設置して運転し、得られた酸素濃縮ガスの酸素濃度を測定した。原料空気の流量は、酸素濃縮ガスの製造量を5L/分とした場合が約56NL/分、製造量を3L/分とした場合が約40L/分である。その結果を下記の表2-1と表2-2に示す。
【0070】
【表2−1】

【0071】
【表2−2】

【0072】
表2-1からわかるように、フィルター1(実施例)とフィルター3(比較例)とを用いた場合の酸素濃度を比較すると、酸素製造量5L/分のときにはフィルター1が酸素濃度92.3%、フィルター3が92.5%となり、両者の差は0.2%であり、ほとんど差がない。酸素製造量3L/分のときには、フィルター1もフィルター3も酸素濃度94.7%で全く同一であった。
【0073】
表2-2からわかるように、フィルター2(実施例)とフィルター3(比較例)とを用いた場合の酸素濃度を比較すると、酸素製造量5L/分のときにはフィルター2が酸素濃度92.6%、フィルター3が93.5%であり、両者の間に0.9%の差が生じた。酸素製造量3L/分のときには、フィルター2が酸素濃度94.9%、フィルター3が酸素濃度94.7%でほとんど差がなかった。
【0074】
フィルターの微粒子除去性能が高いということは、フィルターエレメントが緻密であることを意味するから、空気の通過流量が減少することが予想される。原料空気の流量が減少すれば、製造される酸素濃縮ガスの量が減少し、酸素濃度の低下となって表れる。
【0075】
しかし、フィルター1のように濾過面積が約880cmあれば、酸素製造量5L/分のときにも酸素濃度は比較例のフィルター3と較べて低下せず、5L/分に対応する原料空気の流量が確保できることが確認された。
【0076】
一方、濾過面積が約360cmのフィルター2は酸素製造量3L/分のときは、比較例のフィルター3と同じ酸素濃度を確保するが、酸素製造量5L/分のときには酸素濃度が比較例と較べて0.9%低下する結果となった。このときの濃度低下の理由は、フィルター2は濾過面積が小さいので圧力損失により原料空気が減少したためと考えられる。すなわち、濾過面積が小さいフィルター2と濾過面積が大きなフィルター3とを、同じ条件でコンプレッサーを運転したためである。特に、原料空気の流量が大きい領域において、圧力損失の影響が大きく出たものと考えられる。しかし、濾過面積約360cmのフィルター2においても、コンプレッサーの出力を少し上げることにより、原料空気の流量を確保すれば、実用上の問題はなくなる。
【0077】
すなわち、吸気フィルターの濾過面積は、原料空気の流量1NL/分に対して360cm/56NL=6.4cm/NLあれば酸素濃度の目標は十分達成できる。また、880cm/56L=15.7cm/NLあればより好ましいことがわかる。したがって、本発明では、上記吸気フィルターの濾過面積を、原料空気の流量に対して5cm/NL以上となるよう設定したのである。
【0078】
<過酷試験>
過酷試験を行うことにより、微粒子に対する吸気フィルターの効果を比較した。
図4は、過酷試験に係るコンプレッサー3周辺の構成を示す図である。
【0079】
普遍的に使用環境に存在するもので、簡単に試験でき、定量も可能な微粒子発生源として蚊取り線香(アース社製渦巻き香)を選択した。蚊取り線香は煙発生器と示した密閉容器内で燃焼させ、発生した煙をチューブでコンプレッサー上流の吸気フィルターに直結し、全量が吸気フィルターおよびコンプレッサーを通過するようにした。2系列の試験系を用い、第1の系列には表1に記載したフィルター1(実施例)を搭載し、第2の系列には表1に記載したフィルター3(比較例)を搭載した。コンプレッサーは吐出圧力100kPa、吐出流量56L/分で運転した。蚊取り線香1巻きの重量は約13.0g、その両端に火を付けて1巻きを約3時間で燃焼させ、1巻きの燃焼が終わると、次の1巻きの燃焼を開始し、継続的に試験を実施した。
【0080】
フィルター3(比較例)を搭載した試験系では、運転開始後約19時間、約82gの蚊取り線香を燃焼させた時点でコンプレッサーの吐出流量が、56NL/分から10NL/分に激減した。ここで、試験系に何らかの異常が発生したと判断し、運転を中止して内部を点検した。同時にフィルター1(実施例)の系列も比較のために運転を停止して内部を点検した。吸気フィルター、コンプレッサーおよびインラインフィルターの状態を観察した。
【0081】
◆吸気フィルター
フィルター1(実施例)の濾過面、即ち原料空気取り入れ面は赤褐色に色濃く着色していた。それに対して裏側はほとんど着色していなかった。蚊取り線香から発生した原料空気中の微粒子がフィルター1の濾過面に捕捉され、裏面までは到達していないことがわかる。
フィルター3(比較例)の原料空気取り入れ面もフィルター1ほどではないが、赤褐色に着色し、裏側も表よりは薄いが、同様に着色していた。微粒子が濾過面だけに留まらず、フィルターの内部をすり抜けていることがわかる。
【0082】
◆コンプレッサー
図5−1にフィルター1(実施例)を搭載した試験系の試験後におけるシリンダーヘッドの吐出弁部分の状態を示す。コンプレッサー内部は、総ての空気流路部分が試験前と変わらないほど清浄であった。
図5−2にフィルター3(比較例)を搭載した試験系の試験後におけるシリンダーヘッドの吐出弁部分の状態を示す。コンプレッサー内部は、総ての空気流路が甚だしく汚染され、赤褐色タールが付着し、コンプレッサーとしての機能も損なわれていた。
【0083】
◆インラインフィルター
図6に、フィルター1(実施例)およびフィルター3(比較例)を搭載した試験系おのおのの試験後におけるインラインフィルターの状態を示す。
フィルター1(実施例)を搭載した試験系のインラインフィルターのエレメントは、濾過面が僅かに薄く灰色に着色していたが、エレメント本体は使用前と変わらぬ白い色調を維持していた。また、薄い灰色の着色はタール的な色調とは異なり、金属的な色調であった。実施例では、コンプレッサーで供給される原料空気が極めて清浄な状態を保っていたことがわかる。
フィルター3(比較例)を搭載した試験系のインラインフィルターのエレメントは全体が褐色に着色し、特に濾過面へのタール状物質の付着は顕著であった。この部分での圧力損失は非常に大きく、コンプレッサーが働いていたとしても、空気流量は低下していたと思われる。比較例では、コンプレッサーで供給される原料空気にタール状物質が含まれていたことがわかる。
【0084】
このように、比較例のフィルター3では、空気中の微小粒子状物質(PM2.5)を捕集し切れず、通過したものがコンプレッサーに導入されてしまう。コンプレッサー内では、導入された微小粒子状物質が断熱圧縮され、高圧と高温の環境下で凝縮し、タール状物質となってコンプレッサーに付着する。コンプレッサー内で発生したタール状物質は、圧縮された空気とともに下流のインラインフィルターに達し、それを閉塞させる。このとき使用したインラインフィルターのエレメントは、プラスチック多孔体で構成され、5μmの微粒子を95%除去する性能を有し、濾過面積は30cmである。すなわち、このとき使用したインラインフィルターのエレメントは、微小粒子状物質(PM2.5)まで捕捉できる性能ではない。それにもかかわらず閉塞するのは、微小粒子状物質がコンプレッサー内で凝縮し、タール状物質に成長するためである。
【0085】
これに対して、実施例のフィルター1は、驚異的な性能を発揮して、コンプレッサーの上流で微小粒子状物質を完全に捕集し、コンプレッサーならびにインラインフィルターをはじめとするその下流の機器や部材を、原料空気に由来する汚染や閉塞から完全に保護することができる。
【0086】
このような、吸気フィルターの違いとコンプレッサー周辺の状態の試験結果を下記の表3にまとめた。
【0087】
【表3】

【0088】
以上のように、本発明によれば、原料空気に含まれる微小粒子状物質が有効に除去され、それらがコンプレッサーで加圧加熱されて生成するタール状物質によるコンプレッサー、インラインフィルター、逆止弁、および電磁弁等の故障を未然に防ぎ、コンプレッサーや電磁弁等の機器の性能を正常に維持することができる。これにより、酸素濃縮装置を長期間使用したときの酸素濃度の低下を防止し、故障の発生率を大幅に改善する。このように、タール状物質に起因する様々な不具合を解決し、酸素濃縮装置の性能安定性と信頼性を高め、長期間にわたる性能維持を実現したのである。
【符号の説明】
【0089】
1 防塵フィルター
2 吸気フィルター
3 コンプレッサー
4 ブロワー
5 インラインフィルター
6 逆止弁
7 逆止弁
8 電磁弁
9 電磁弁
10 開放弁
11 開放弁
12 吸着筒
13 吸着筒
14 パージ弁
15 オリフィス
16 オリフィス
17 逆止弁
18 逆止弁
19 酸素バッファータンク
20 減圧弁
21 バクテリアフィルター
22 マスフローコントローラー
23 酸素濃度計
24 加湿器
26 カニューラ
27 サイレンサー
28 筐体
29 第1防音ボックス
30 第2防音ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気を供給するためのコンプレッサーと、原料空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮するための吸着部とを備え、
上記コンプレッサーの吸気側に、0.3μmの微粒子を99.9%以上捕捉する吸気フィルターが配置され、
上記吸気フィルターの濾過面積が、原料空気の1分あたりの流量に対して5cm/NL以上であることを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項2】
上記吸気フィルターは、濾過エレメントが金属製または樹脂製のハウジングに収容され、消音バッファーとしての機能を兼ね備える請求項1記載の酸素濃縮装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−179319(P2012−179319A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45824(P2011−45824)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)