説明

酸素濃縮装置

【課題】環境条件にかかわらず、酸素濃縮ガスの酸素濃度を確保しながら処方箋通りの流量を保証できる酸素濃縮装置を提供する。
【解決手段】質量流量計と流量制御弁を含むマスフローコントローラ22と、気圧センサ37で検知した使用環境の気圧に基づいて、マスフローコントローラ22における設定流量を、使用環境の気圧における正確な流量値に補正するCPU32とを備えたことにより、マスフローコントローラ22における設定流量を、使用環境の気圧における気体の体積に基づいた流量値に補正する。このため、使用環境の気圧に応じた正確な流量で酸素濃縮ガスを供給することができる。したがって、使用場所の標高や気温にかかわらず、医師の処方箋通りの酸素吸入治療を実現することができる。また、標高や気温の高い環境であっても、酸素濃度が低下することがなく、安定的に酸素濃度を維持した酸素吸入治療を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置を搭載し、主として医療目的で吸入される酸素濃縮ガスを供給するための酸素濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肺ガン、肺気腫、慢性気管支炎、肺炎などの疾患により呼吸器系の機能が低下した患者に対しては酸素吸入療法が施される。このような酸素吸入療法における酸素ガスの供給源としては酸素ガスボンベ、液体酸素貯槽、圧力変動吸着式(PSA)酸素濃縮装置などが使用される。近年では、圧力変動吸着式の酸素濃縮装置が、在宅酸素療法に使われる酸素ガスの供給源として主流になっている。
【0003】
圧力変動吸着式酸素濃縮装置の主な構成要素は、原料空気を送り込むコンプレッサー、原料空気の送り先を切り替える電磁弁、酸素を選択的に取り出す2本の吸着筒である。原料空気はフィルターによって異物を除去された後、コンプレッサーで圧縮されて吸着筒に送り込まれる。
【0004】
原料空気の流路は通常は電磁弁によって切り替えられる。吸着筒には窒素との親和性が酸素より強いゼオライトが充填されている。原料空気口から原料空気が送り込まれた吸着筒内では窒素が留まり、酸素が濃縮された酸素濃縮ガスが先に製品口から流出する。このように片方の吸着筒が酸素を製造している間、他方の吸着筒には製造された酸素の一部を送り込んで前工程で吸着していた窒素を酸素でパージする(洗い流す)。酸素濃縮ガスは酸素バッファータンクに送り込まれ、減圧弁で酸素ガス供給圧力が制御され、流量制御器(流量設定器)、酸素濃度計、加湿器を経由して、最終的にカニューラを通じて使用者に供給される。
【0005】
流量制御器としては、主として2つの方式のものが使われる。一つはオリフィスを用いるもの、もう一つは流量計と比例電磁弁あるいはそれらが統合された所謂マスフローコントローラーである。
【0006】
オリフィスを用いるものは、オリフィスの1次側と2次側の圧力差(差圧)が一定である時、流量はオリフィス開口の面積に比例するという原理に基づいている。実際には金属製円盤の円弧上に小孔径から大孔径まで、設定したい流量に応じた孔径のオリフィス開口を形成し、ロータリースイッチ形式で円盤を回転させて対応するオリフィスを選択するものである。
【0007】
一方、マスフローコントローラーはマスフローメーター(流量計)と比例電磁弁とを備えて構成される。マスフローメーターは微小のシリコンチップの上に発熱体と測温体などが配置されたマイクロフローセンサで、ガスの流れを測温体の温度変化で計測して、測定された流量が設定流量に一致するよう比例電磁弁の開度を調節するものである。
【0008】
このような酸素濃縮装置に関する先行技術文献として、下記の特許文献1〜4が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−259039号公報
【特許文献2】特開2003−144550号公報
【特許文献3】特開2002−45424号公報
【特許文献4】特開2007−89684号公報
【0010】
◆特許文献1
特許文献1は、熱式質量流量コントローラ(マスフローコントローラー)が装備された酸素濃縮装置を開示する。この酸素濃縮装置は、酸素ガスの流量計として熱式質量流量計を用い、流量制御弁としてソレノイドバルブやピエゾバルブを用い、酸素ガスの供給側に負荷がかかった場合でも設定流量値の酸素ガスを供給しようとするものである。
【0011】
◆特許文献2
特許文献2は、2次側の流量測定結果に基づいて流量調節バルブの開度を制御する酸素濃縮器を開示する。
【0012】
◆特許文献3
特許文献3は、高度センサで検知した標高に基づいて、高度が高い場合にオリフィスを切り替えてユーザに対する酸素ガスの流量を増やす酸素濃縮システムを開示する。
【0013】
◆特許文献4
特許文献4は、PSA式の酸素濃縮装置に関するものである。PSA式では気圧の低い環境で酸素濃度の低下が起こることから、気圧センサで気圧の低下を検知した場合に、コンプレッサーの回転数を上げて原料空気の供給量を増加させることを開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
酸素吸入療法における酸素濃縮ガスの吸入量は、医師の処方箋において、例えば「5.0〔L/分〕」のように、単位時間あたりの流量で指示される。
【0015】
酸素濃縮ガスの流量を処方箋通りに制御するために、一般に、オリフィスによる制御とマスフローコントローラーによる制御が採用されている。
【0016】
オリフィス方式は、1次側のガスを2次側に流す際に小さな開口であるオリフィスを通過させることにより流量を制御する。したがって、オリフィス方式では、オリフィスの1次側と2次側の差圧で流量が決定される。酸素濃縮装置では、1次側の圧力は減圧弁によりほぼ一定に制御される一方、2次側の圧力が一定であることが必要条件である。
【0017】
ところが、2次側には、酸素ガスを加湿する加湿器や、使用者が鼻から酸素ガスを吸入するためのカニューラ、カニューラと酸素濃縮装置を繋ぐ細いプラスチックチューブなどが存在する。バブリング式の加湿器は、末端に多孔体を装着したチューブから気泡状の酸素濃縮ガスを水中に放出するので、加湿器内の水位に応じて2次側の圧力は変動する。多孔体の閉塞により圧力損失が発生することもある。また、使用者は装置から離れた場所で酸素濃縮ガスを吸入するときにチューブを延長することがあり、チューブそのものも折れ曲がることがある。これらの要因でも2次側の圧力負荷が変動し、2次側の圧力は一定にならない。
【0018】
このように、2次側の圧力に変動があると、オリフィス前後の差圧も変動することになる。したがって、基本的に、オリフィス方式では、種々の2次側要因によって処方箋どおりの酸素吸入治療を実現できないことがあるのが実情である。
【0019】
マスフローコントローラー(質量流量計)は、通過するガスの質量を検知し、ガスの質量を制御することで流量を制御する。このため、酸素濃縮ガスの流量をマスフローコントローラーで制御する場合は、2次側の圧力変動に流量が影響されず、一定の流量での酸素濃縮ガスの供給が実現できる。
【0020】
マスフローコントローラーは、質量に基づいて流量を制御することから、計測した質量を体積に換算して流量を表現しなければならない。通常はひとつの標準状態(例えば20〔℃〕、1013〔hPa〕)の体積に換算して表示される。使用環境が標準状態から乖離している場合、体積としての流量が処方箋と一致しないことがある。
【0021】
マスフローコントローラーで流量制御する酸素濃縮装置を5.0〔L/分〕の流量に設定したとする。マスフローコントローラーは標準状態で5.0〔L/分〕になるように流れるガスの質量を制御する。もし酸素濃縮装置の使われる環境が標高1000〔m〕、気圧900〔hPa〕であれば、その環境における実際の体積流量は5.6〔L/分〕となり、処方箋の指示より多めの酸素を吸入させることになる。
【0022】
また、酸素濃縮ガスの体積流量は、環境温度によっても変動する。例えば、5.0〔L/分〕の設定をしたとすると、マスフローコントローラーは標準状態(20〔℃〕)で5.0〔L/分〕になるように流れるガスの質量を制御する。5〔℃〕の環境であれば、実体積流量は5×278/293=4.74〔L/分〕となる。逆に環境が35〔℃〕であれば実体積流量は5×308/293=5.26〔L/分〕となる。
【0023】
これらのことは、物理的にやむを得ないところではあるが、使用環境によっては、処方箋通りの流量が実現できなくなるのが実情である。
【0024】
以上のように、患者が治療のために酸素濃縮ガスを吸入する場合、医師は酸素ガスの流量を処方する。通常は〔L(リットル)/分〕という単位で処方されるが、流量は使用者側の流路の抵抗によって減少することがあり、その体積は温度と気圧に依存する。これらの変動要因を克服してどんな使用環境、どんな使用形態であっても処方箋通りの正確な流量の酸素吸入治療を実現することが望ましい。
【0025】
従来技術のうち、上記特許文献1および2は、酸素濃縮ガス使用者側の負荷変動に起因する流量変化を修正するものに過ぎず、環境要因による体積変動を補正しうるものではない。また、特許文献3は、環境の高度が高い場合にオリフィスを切り替えるものである。ユーザに対する酸素ガスの流量は増えるものの、流量が増えた分だけその濃度は低下するおそれがあり、処方箋どおりの酸素吸入治療を実現しうるものではない。また、特許文献4は、酸素濃縮ガスの濃度低下を抑えることを目指しているものである。環境要因による気圧の低下による体積流量変動には言及されていない。
【0026】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、どのような環境下であっても、酸素濃縮ガスの酸素濃度を確保しながら処方箋通りの供給流量を保証できる酸素濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するため、本発明の第1の酸素濃縮装置は、質量流量計と流量調節弁を含み、酸素濃縮ガスの流量を制御する流量制御手段と、
気圧センサにより使用環境の気圧を検知し、流量制御手段における設定流量を、使用環境の気圧における気体の体積に基づいた流量値に補正する補正手段とを備えたことを要旨とする。
【0028】
上記目的を達成するため、本発明の第2の酸素濃縮装置は、質量流量計と流量調節弁を含み、酸素濃縮ガスの流量を制御する流量制御手段と、
温度センサにより使用環境の温度を検知し、流量制御手段における設定流量を、使用環境の温度における気体の体積に基づいた流量値に補正する補正手段とを備えたことを要旨とする。
【0029】
上記目的を達成するため、本発明の第3の酸素濃縮装置は、質量流量計と流量調節弁を含み、酸素濃縮ガスの流量を制御する流量制御手段と、
気圧センサおよび温度センサにより使用環境の気圧と温度を検知し、流量制御手段における設定流量を、使用環境の気圧と温度における気体の体積に基づいた流量値に補正する補正手段とを備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の第1の酸素濃縮装置は、流量制御手段における設定流量を、使用環境の気圧における気体の体積に基づいた流量値に補正する。このため、装置を使用する標高の気圧に応じた正確な流量で酸素濃縮ガスを供給することができる。したがって、使用場所の標高にかかわらず、医師の処方箋通りの酸素吸入治療を実現することができる。また、標高の高い環境であっても、酸素濃度が低下することがなく、安定的に酸素濃度を維持した酸素吸入治療を行うことができる。
【0031】
本発明の第1の酸素濃縮装置において、気圧センサが、静電容量式のマイクロチップ型マイクロセンサ気圧計である場合には、
気圧センサを例えば制御基板に組み込むことが可能となり、機器への組み込みが容易で、装置自体を複雑化・大型化することがない。
【0032】
本発明の第1の酸素濃縮装置において、気圧センサが、酸素濃縮装置の運転制御基板の上に搭載されている場合には、
機器に対して容易に組み込んで、装置自体を複雑化・大型化することもない。
【0033】
本発明の第2の酸素濃縮装置は、流量制御手段における設定流量を、使用環境の温度における気体の体積に基づいた流量値に補正する。このため、装置を使用する環境温度に応じた正確な流量で酸素濃縮ガスを供給することができる。したがって、使用場所の気温にかかわらず、医師の処方箋通りの酸素吸入治療を実現することができる。また、気温の高い環境であっても、酸素濃度が低下することがなく、安定的に酸素濃度を維持した酸素吸入治療を行うことができる。
【0034】
本発明の第2の酸素濃縮装置において、温度センサが、酸素濃縮装置の運転制御基板の上に搭載されている場合には、
機器に対して容易に組み込んで、装置自体を複雑化・大型化することがない。
【0035】
本発明の第3の酸素濃縮装置は、流量制御手段における設定流量を、使用環境の気圧と温度における気体の体積に基づいた流量値に補正する。このため、使用環境の気圧と気温に応じた正確な流量で酸素濃縮ガスを供給することができる。したがって、使用場所の標高や気温にかかわらず、医師の処方箋通りの酸素吸入治療を実現することができる。また、標高や気温の高い環境であっても、酸素濃度が低下することがなく、安定的に酸素濃度を維持した酸素吸入治療を行うことができる。
【0036】
本発明の第3の酸素濃縮装置において、気圧センサと温度センサが、酸素濃縮装置の運転制御基板の上に搭載されている場合には、
機器に対して容易に組み込んで、装置自体を複雑化・大型化することがない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明が適用される酸素濃縮装置の一例を示す構成図である。
【図2】制御手段を示す機能ブロック図である。
【図3】マイクロフローセンサの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0039】
図1は本発明の一実施形態の医療用酸素濃縮装置のフローシートである。この例では、在宅酸素療法において用いられる2筒式圧力変動吸着法による酸素濃縮装置を示している。
【0040】
この酸素濃縮装置は、原料空気を供給するための圧縮機としてのコンプレッサー3と、上記圧縮機から供給された原料空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮するための吸着部としてそれぞれ機能する2本の吸着筒12,13とを備えている。また、上記コンプレッサー3から原料空気を供給する吸着筒12,13を切り替える電磁弁8,9を備えている。そして、吸着筒12,13に原料空気を送り込んで窒素を吸着し、酸素が濃縮された酸素濃縮ガスを酸素取出口25に接続された供給チューブおよびカニューラ26を用いて使用者に供給するようになっている。
【0041】
この酸素濃縮装置では、原料空気は、筐体28に取り付けられた防塵フィルター1と、空気流路の入口部分に設けられた吸気フィルター2によって異物が除去され、コンプレッサー3により加圧されて吸着筒12,13に導入される。コンプレッサー3は、モータ電力や空気の断熱圧縮熱などにより発熱するので、ブロワー4の送風により冷却する。コンプレッサー3で発生した異物はインラインフィルター5で除去する。
【0042】
吸着筒12,13には窒素との親和性が強い吸着剤(ゼオライト)が充填されており、例えば吸着筒12,13の原料口に原料空気が送り込まれると、吸着筒12の製品口からはゼオライトとの親和性が弱い酸素が先に出てくる。これを酸素濃縮ガスとして酸素バッファータンク19に蓄える。この工程を「酸素濃縮工程(加圧工程)」という。
【0043】
酸素濃縮工程の終盤になり、吸着筒12の製品口から窒素ガスが出てくる前に、原料空気の行先を一方の吸着筒12から他方の吸着筒13に切り替える。各吸着筒12,13には、それぞれに対応するよう電磁弁8,9が設けられている。
【0044】
吸着筒12へ原料空気を送るときは、吸着筒12に対応した電磁弁8が「開」、吸着筒13に対応した電磁弁9が「閉」となるよう切り換え制御する。吸着筒13へ原料空気を送るときは、吸着筒13に対応した電磁弁9が「開」、吸着筒12に対応した電磁弁8が「閉」となるよう切り換え制御する。
【0045】
一方の吸着筒(この説明では12とする)で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間、前の酸素濃縮工程(加圧工程)が終わった他方の吸着筒(この説明では13とする)では、ゼオライトに窒素が吸着されている。そこで、吸着筒13の圧力を開放して窒素を大気に排出する。続いて、酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている吸着筒12で生成された酸素濃縮ガスの一部をパージ弁14を通じて吸着筒13の製品口から導入し、吸着筒13内を酸素で置換する。この一連の工程を「窒素脱着工程(パージ工程)」という。
【0046】
各吸着筒12,13には、それぞれに対応するよう開放弁10,11が設けられ、窒素脱着工程(パージ工程)を制御する。すなわち、吸着筒12で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間は、開放弁10を「閉」として吸着筒12内の加圧状態を維持する。吸着筒12で窒素脱着工程(パージ工程)を行うときには、開放弁10を「開」とし、吸着された窒素を大気に放出する。同様に、吸着筒13で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間は、開放弁11を「閉」として吸着筒13内の加圧状態を維持する。吸着筒13で窒素脱着工程(パージ工程)を行うときには、開放弁11を「開」として、吸着された窒素を大気に放出する。吸着筒12,13を大気開放する際の騒音は、排気出口に設けたサイレンサー27で消音する。
【0047】
パージ工程に用いられる酸素濃縮ガスは、酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている一方の吸着筒12(または13)の製品口から、窒素脱着工程(パージ工程)を行っている他方の吸着筒13(または12)の製品口へ、パージラインを通じて供給される。パージラインには、直動式のパージ弁14とオリフィス15,16が設けられている。パージ弁14は、パージの時間を正確に制御するために設置され、オリフィス15,16は通過する酸素濃縮ガスの流量を制御するために設置される。
【0048】
製造された酸素濃縮ガスは、酸素バッファータンク19に蓄えられ、減圧弁20で供給圧力が調整され、マスフローコントローラー22で流量を制御し、酸素濃度計23で酸素濃度を計測する。なお、マスフローコントローラー22と酸素濃度計23を異物から保護するためにバクテリアフィルター21が設けられている。
【0049】
また、騒音を発する機器や部品は金属製の防音ボックスの中に収容される。特に大きな騒音を発するのはコンプレッサー3と排気開放部である。ブロワー4の運転音とコンプレッサー3への吸気音がそれについで大きい。ブロワー4は、外気をコンプレッサー3に当てて冷却するものなので、コンプレッサー3と同居させることはできない。吸気フィルター2も酸素の少ない排気開放部と同居させることができない。従って、防音ボックスを2部屋に区分し、第1防音ボックス29にはコンプレッサー3と排気開放部を収容し、第2防音ボックス30にはブロワー4と吸気フィルター2を収容する。電磁弁8,9は、この例では、温度とスペースの関係から第2防音ボックス30に収容している。装置全体は木材とプラスチックから構築される筐体28に収納される。
【0050】
製造された酸素濃縮ガスは絶乾燥状態であるため、加湿器24で湿度を与え、カニューラ26を通じて使用に供される。上記加湿器24は、この例では、バブリング式の加湿器24であり、精製水を満たした容器内に、酸素濃度計23で酸素濃度が計測された酸素濃縮ガスを多孔質部材から噴出させることにより加湿するものである。
【0051】
上記マスフローコントローラー22は、質量流量計と流量調節弁を含み、酸素濃縮ガスの流量を制御する本発明の流量制御手段として機能する。上記マスフローコントローラー22における目標流量は、制御手段31により補正される。
【0052】
図2は、上記制御手段31を示す機能ブロック図である。
【0053】
この制御手段31は、流量設定器34(図1には示していない)における設定流量に基づいてマスフローコントローラー22を制御するCPU32を備えている。上記流量設定器34では、処方箋で指示された流量を設定流量値として入力する。
【0054】
上記制御手段31は、気圧センサ37および温度センサ38を備え、気圧センサ37により使用環境の気圧を検知し、温度センサ38によりと使用環境の温度を検知する。上記CPU32は、マスフローコントローラー22における目標流量値を、使用環境の気圧と温度における気体の体積に基づいた流量値に補正し、本発明の補正手段として機能する。
【0055】
なお、この説明では、装置に気圧センサと温度センサの双方を備え、使用環境の気圧と温度の双方に基づいて流量値を補正するようにしたが、気圧センサだけを備えて使用環境の気圧だけに基づいて流量値を補正するようにしてもよいし、温度センサだけを備えて使用環境の温度だけに基づいて流量値を補正するようにしてもよい。
【0056】
第1圧力計35はコンプレッサー3の吐出圧力を計測し、CPU32では、第1圧力計35で検知したコンプレッサー3の吐出圧力が予め設定された圧力閾地を超えたときに、図示しない警報手段により圧力異常を警報する。
第2圧力計36は加湿器上流39の圧力を計測し、CPU32では、第2圧力計36が検知した加湿器上流39の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、図示しない警報手段により、加湿器24の洩れ・外れ、カニューラ26の折れ曲がり等の異常を警報する。
CPU32では、タイマ33を参照して予め定められたタイムサイクル通りに電磁弁8,9をオン/オフする。
また、タイマ33は、CPU32が酸素濃縮ガスの濃度と流量、圧力などを一定時間における平均値を算出する際に参照される。さらに、CPU32が装置の稼働時間を積算する際にもタイマ33が参照され、運転制御のいろいろな場面で参照される。
また、酸素濃度計23で検知した酸素濃度が、一定時間の間規定値を下回ったときに、CPU32では、図示しない警報手段により異常を警報する。
【0057】
以下、補正手段としてのCPU32の動作について詳しく説明する。
【0058】
マスフローコントローラー22は原理的に流れるガスの質量を計測して流量を制御するものであり、通常は20〔℃〕、1013〔hPa〕の条件に換算して体積流量を表現する。例えば5.0〔L/分〕と設定したとき、マスフローコントローラーは20〔℃〕、1013〔hPa〕において5.0〔L/分〕に相当する酸素ガスを流すから、もし環境の気圧が900〔hPa〕であれば、その環境における実際の体積流量は5.0×900/1013=5.63〔L/分〕となる。900〔hPa〕の環境で体積流量を正確に5.0〔L/分〕にしようとするならばマスフローコントローラーの設定流量を5.0×900/1013=4.44〔L/分〕とすればよい。
【0059】
気圧センサ37としては電気的信号が取り出せる形式のものなら特に限定するものではなく、各種のものを適用することができる。例えば、制御基板に組み込み可能な静電容量式マイクロチップセンサ(秋月電子通商社、MPL115A1、MPL115A2)を好適に用いることができる。また、気圧センサと温度センサが一体化したもの(秋月電子通商社、SPC1000−D01)を好適に用いることができる。
【0060】
マイクロセンサ気圧計は、集積回路の技術を応用して製造されたチップ型のもので、加工の精度が非常に高く、精度や安定性の点で優れており、機器への組込みも容易なことから、本発明には好適に適用することができる。その中でも、静電容量式のマイクロセンサはシリコン等でできたチャンバーがコンデンサを形成しているもので、気圧による電極間の距離の変化を静電容量の変化として検出し、デジタル信号として出力するもので、本発明には好適に適用することができる。
【0061】
酸素ガスの流量はマスフローメーターと比例電磁弁の組み合わせによって制御することができるが、両者を一体化したマスフローコントローラー22によっても好適に制御することができる。此処ではマスフローコントローラー22を適用した場合を説明する。
【0062】
マスフローコントローラー22の計測原理は、つぎの通りである。
【0063】
図3はマスフローコントローラー22に組み込まれるマイクロフローセンサの概念図である。
【0064】
マイクロフローセンサはシリコンチップ基台の表面上にヒータ(Rh)、上流側温度センサ(Ru)、下流側温度センサ、周囲温度センサ(Rr)が白金薄膜で形成されている。
【0065】
白金薄膜は温度に応じて抵抗値が変化し、測温抵抗体として機能する。ヒータ(Rh)は基台の中央部にあり、その両側にガス流れの上流側温度センサ(Ru)と下流側温度センサ(Rd)が、また周囲温度センサ(Rr)は基台の周辺部に配置されている。
【0066】
ガスの流れがないとき、ヒータ(Rh)両側の温度分布は図3の点線で示すように対称になり、上流側温度センサ(Ru)と下流側温度センサ(Rd)の温度は等しくなる。
【0067】
ここにガスの流れが生じると図3の実線で示すように上流側温度センサ(Ru)の温度は低下し、下流側温度センサ(Rd)の温度は上昇する。この温度差(抵抗値の差)をブリッジ回路で検出することにより流れに応じた電気出力が得られる。このようにマイクロフローセンサは熱を利用した計測原理を用いているため、出力は気体の熱伝導率に関係しており質量流量の計測ができる。
【0068】
ガスの流量制御をするときには、計測された質量流量が設定流量に一致するよう比例電磁弁の開度を調節するのである。このようにして、マスフローコントローラー22はオリフィス方式の流量制御と較べてはるかに正確な流量を供給できる。
【0069】
マスフローセンサが計測するのは酸素ガスの質量であるから、それを体積に換算して表現する必要がある。ふつうは気体の標準状態に換算して表示するのだが、技術分野によって様々な標準状態が定義されているのが実情である。
【0070】
例えば、従来の学校教育においては、気体の標準状態は0〔℃〕(273.15〔K〕)、1気圧(101.325〔kPa〕)とされ、これを基準状態(Normal condition)と称していた。また、SATP(標準環境温度と圧力、standard ambient temperature and pressure)といわれる、25〔℃〕、100.000〔kPa〕という標準が用いられる場合もある。
【0071】
本願では、人間の生活環境に最も近い20〔℃〕(293.15〔K〕)、1〔気圧〕(101.325〔kPa〕)を標準状態として説明をする。
【0072】
ここで、一般に、酸素濃縮装置に搭載されるマスフローコントローラー22は、事前に標準状態の酸素ガスを用いてキャリブレーションを行い、酸素ガス流量5.0〔L/分〕が選択されたときには、上述した20〔℃〕、1〔気圧〕の条件で5.0〔L/分〕の流量が得られるように制御される。なお、マスフローコントローラー22は、他の標準状態の体積にも換算できるように設計されているから、必要に応じて0〔℃〕、1〔気圧〕のときの体積流量を出力するように設定することも可能である。
【0073】
酸素濃縮装置が標準状態と同じ環境、即ち20〔℃〕、1〔気圧〕の環境で使用されるのなら処方箋通りの流量の酸素濃縮ガスを正確に流すことができ、処方箋に従った吸入治療を行うことができる。しかしながら、この標準状態から離れた環境で使用されると、酸素濃縮ガスの流量は処方箋から乖離してくるのである。
【0074】
例えば、軽井沢、米国のデンバー、中国の昆明、ヨルダンの死海において酸素濃縮装置がどのように動作するか考えてみよう。マスフローコントローラー22が酸素ガスを標準状態で5.0〔L/分〕流すとき、標高1000〔m〕、気圧900〔hPa〕の軽井沢では、気圧が低い分だけガスが膨張するので、流量は5.63〔L/分〕になる。標高1600〔m〕、気圧835〔hPa〕のデンバーでは6.07〔L/分〕、標高1900〔m〕、気圧805〔hPa〕の昆明では6.29〔L/分〕流れることになる。逆に、海抜マイナス400〔m〕、気圧1060〔hPa〕の死海では4.78〔L/分〕の流量となる。
【0075】
このように、装置が使用される環境によって、実際の流量が変わってくるのが実情である。そこで、どのような標高の環境でも正しい流量を提供するためには以下に述べるようにすればよい。
【0076】
まず、酸素濃縮装置に気圧センサ37と、さらに好ましくは温度センサ38を装備する。
【0077】
そして、流量設定器34において処方箋どおりに酸素流量5.0〔L/分〕が選択され、標高1000〔m〕の軽井沢で使用されるときは、気圧計が計測した気圧、ここでは900〔hPa〕を使って設定流量を補正し、5.0〔L/分〕×900/1013=4.44〔L/分〕をマスフローメーターに指示する。マスフローメーターは標準状態で4.44〔L/分〕の酸素を正確に流す。これはもちろん、気圧900〔hPa〕の環境では4.44〔L/分〕×1013/900=5.00〔L〕になるのである。
【0078】
同様に、酸素ガスの流量は環境の温度にも依存して変化する。
【0079】
環境温度が35〔℃〕であれば、標準状態、20〔℃〕で5.0〔L/分〕の流量は、5.0〔L/分〕×308/293=5.26〔L/分〕となる。
環境温度が35℃の場合を補正するには、マスフローメーターヘの指示値を、5.0〔L/分〕×293/308=4.765〔L/分〕とすればよい。
【0080】
以上に述べた手順を、気圧と気温の補正を含めて一般化するとマスフローコントローラー22への指示値は下記の式のようになる。
指示値=V×Pa×Ts/(Ps×Ta)〔L/分〕
V :酸素流量設定値〔L/分〕
Ps:標準状態の気圧〔hPa〕=1013.25〔hPa〕
Ts:標準状態の気温〔K〕=293.15〔K〕
Pa:環境の気圧〔hPa〕
Ta:環境の気温〔K〕
【0081】
上述の説明は、マスフローコントローラー22の制御機構を例にあげ、正確な酸素流量を供給する方法を述べたが、マスフローメーターと比例電磁弁の組み合わせに関しても同様に適用できる。
【0082】
また圧力変動吸着式の酸素濃縮装置によって製造される酸素ガスの流量制御ばかりでなく、酸素ガスがボンベや液体酸素容器から供給される場合であっても流量制御に質量流量計を用いるならば、本発明は同様に適用できる。
【0083】
以上のように、本実施形態によれば、マスフローコントローラー22における設定流量を、使用環境の気圧と温度における気体の体積に基づいた流量値に補正する。これにより、使用環境の気圧と気温に応じた正確な流量で酸素濃縮ガスを供給することができる。したがって、使用場所の標高や気温にかかわらず、医師の処方箋通りの酸素吸入治療を実現することができる。また、標高や気温の高い環境であっても、酸素濃度が低下することがなく、安定的に酸素濃度を維持した酸素吸入治療を行うことができる。
【0084】
また、気圧センサ37と温度センサ38が、酸素濃縮装置の運転制御基板の上に搭載されている場合には、機器に対して容易に組み込んで、装置自体を複雑化・大型化することもない。
【0085】
また、気圧センサ37が、静電容量式のマイクロチップ型マイクロセンサ気圧計である場合には、気圧センサ37を例えば基板組み込み可能となり、機器への組み込みが容易で、装置自体を複雑化・大型化することもない。
【符号の説明】
【0086】
1 防塵フィルター
2 吸気フィルター
3 コンプレッサー
4 ブロワー
5 インラインフィルター
8 電磁弁
9 電磁弁
10 開放弁
11 開放弁
12 吸着筒
13 吸着筒
14 パージ弁
15 オリフィス
16 オリフィス
19 酸素バッファータンク
20 減圧弁
21 バクテリアフィルター
22 マスフローコントローラー
23 酸素濃度計
24 加湿器
25 酸素取出口
26 カニューラ
27 サイレンサー
28 筐体
29 第1防音ボックス
30 第2防音ボックス
31 制御手段
32 CPU
33 タイマ
34 流量設定器
35 第1圧力計
36 第2圧力計
37 気圧センサ
38 温度センサ
39 加湿器上流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量流量計と流量調節弁を含み、酸素濃縮ガスの流量を制御する流量制御手段と、
気圧センサにより使用環境の気圧を検知し、流量制御手段における設定流量を、使用環境の気圧における気体の体積に基づいた流量値に補正する補正手段とを備えたことを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項2】
気圧センサが、静電容量式のマイクロチップ型マイクロセンサ気圧計である請求項1記載の酸素濃縮装置。
【請求項3】
気圧センサが、酸素濃縮装置の運転制御基板の上に搭載されている請求項1または2記載の酸素濃縮装置。
【請求項4】
質量流量計と流量調節弁を含み、酸素濃縮ガスの流量を制御する流量制御手段と、
温度センサにより使用環境の温度を検知し、流量制御手段における設定流量を、使用環境の温度における気体の体積に基づいた流量値に補正する補正手段とを備えたことを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項5】
温度センサが、酸素濃縮装置の運転制御基板の上に搭載されている請求項4記載の酸素濃縮装置。
【請求項6】
質量流量計と流量調節弁を含み、酸素濃縮ガスの流量を制御する流量制御手段と、
気圧センサおよび温度センサにより使用環境の気圧と温度を検知し、流量制御手段における設定流量を、使用環境の気圧と温度における気体の体積に基づいた流量値に補正する補正手段とを備えたことを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項7】
気圧センサと温度センサが、酸素濃縮装置の運転制御基板の上に搭載されている請求項6記載の酸素濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−228415(P2012−228415A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99343(P2011−99343)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)