説明

重合抑制剤の除去方法

【課題】再生可能な吸着剤を用いて、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物から重合抑制剤を除去する方法を提供すること。
【解決手段】下記成分(A)及び成分(B)を含有する組成物を細孔径が1Å以上4Å以下であるゼオライトに接触させて、当該組成物から成分(B)を除去する方法。
(A)重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を含有し、
分子量が20以上100以下である有機化合物。
(B)下記式(1)で表される化合物。


(式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のヒドロカルビル基又は炭素原子数1〜6のヒドロカルビルオキシ基を表し、mは1又は2を表し、nは0〜3の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合抑制剤の除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブタジエン等の重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を貯蔵、輸送する場合は、貯蔵中や移送中に当該化合物が重合することを防ぐために、4−tert−ブチルカテコールやメトキシヒドロキノン等の重合抑制剤が当該化合物に添加されていることがある。そして、当該化合物を重合反応に使用する場合には、当該化合物に含まれている重合抑制剤を除去してから当該化合物を使用することがある。
【0003】
重合抑制剤を除去する方法としては、例えば、特許文献1には、特定のアルミナを吸着剤として用いて、有機化合物中の4−tert−ブチルカテコールを除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2000−510477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法で使用されているアルミナは再生使用できないために、アルミナの吸着能力が低下する度に新たなアルミナを使用する必要がある。そのため、例えば、アルミナを充填塔内に充填して使用した場合には、充填塔を開放して、塔内のアルミナを取り出して廃棄し、新たなアルミナを充填する必要があり、十分満足のいくものではなかった。
【0006】
かかる状況のものと、本発明が解決しようとする課題は、再生可能な吸着剤を用いて、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物から重合抑制剤を除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記成分(A)及び成分(B)を含有する組成物を細孔径が1Å以上4Å以下であるゼオライトに接触させて、当該組成物から成分(B)を除去する方法に係るものである。
(A)重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を含有し、
分子量が20以上100以下である有機化合物。
(B)下記式(1)で表される化合物。

(式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のヒドロカルビル基又は炭素原子数1〜6のヒドロカルビルオキシ基を表し、mは1又は2を表し、nは0〜3の整数を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、再生可能な吸着剤を用いて、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物から重合抑制剤を除去する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書では、ヒドロカルビル基は炭化水素から一つの水素原子を除いた構造を有する1価の基を表し、ヒドロカルビルオキシ基とはヒドロキシ基の水素原子をヒドロカルビル基で置き換えた構造を有する1価の基である。
【0010】
本発明において使用するゼオライトは、細孔径が1Å以上4Å以下である。細孔径が4Åより大きい場合、ゼオライトと成分(A)及び成分(B)を含有する組成物を接触させた際に、当該組成物の温度が高くなってしまい、成分(A)が重合する可能性がある。細孔径が1Åより小さい場合、成分(B)の吸着量が低下することがある。
【0011】
ゼオライトは市販のものを用いることができる。また、2種類以上のゼオライトを併用してもよい。
【0012】
好ましくは、ゼオライトとしてはモレキュラーシーブ3A、モレキュラーシーブ4A、又はモレキュラーシーブ3Aとモレキュラーシーブ4Aの混合物を用いる。
【0013】
本発明においては、ゼオライトを使用する前に、真空乾燥などの処理を行ってもよい。
【0014】
本発明における重合性炭素−炭素二重結合とは、熱などにより付加重合を起こしうる炭素−炭素二重結合である。
【0015】
本発明における重合性炭素−炭素二重結合を有する有機化合物成分(A)の分子量は、20以上100以下であり、好ましくは40以上90以下である。該有機化合物の分子量が小さすぎると、細孔径が1Å以上4Å以下であるゼオライトと接触させると温度が上昇する場合があり、局所的な重合反応を引き起こしてしまうことがある。
【0016】
重合性炭素−炭素二重結合を有する分子量が20以上100以下の有機化合物成分(A)としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、塩化ビニル、クロロプレン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、ノルボルネン、アクリロニトリルなどをあげることができる。好ましくはブタジエン、イソプレンである。
【0017】
成分(B)は下記式(1)で表される化合物である。

(式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のヒドロカルビル基又は炭素原子数1〜6のヒドロカルビルオキシ基を表し、mは1又は2を表し、nは0〜3の整数を表す。)
【0018】
式(1)中、ヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基などのアリール基をあげることができる。ヒドロカルビルオキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基などをあげることができる。
【0019】
式(1)中、mは1又は2を表し、好ましくは2である。nは0〜3の整数を表し、好ましくは1〜3の整数である。
【0020】
式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のヒドロカルビル基、又は炭素原子数1〜6のヒドロカルビルオキシ基を表す。nが2以上の場合、複数のRは同じであっても、それぞれ異なっていてもよい。
【0021】
式(1)で表される化合物のうち、mが1であるものとして、フェノール、4−メトキシフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルクレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジシクロペンチル−4−メチルフェノールをあげることができる。mが2であるものとして、カテコール、ヒドロキノン、4−tert−ブチルカテコール、2−メトキシヒドロキノン、2−tert−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノンをあげることができる。これらは1種類以上用いられる。
【0022】
好ましくは、式(1)で表される化合物は、4−tert−ブチルカテコール、2−メトキシヒドロキノン、又は4−tert−ブチルカテコールと2−メトキシヒドロキノンの混合物であり、より好ましくは4−tert−ブチルカテコールである。
【0023】
本発明の成分(A)及び成分(B)を含有する組成物は、成分(A)及び成分(B)以外の成分を含んでいてもよい。成分(A)及び成分(B)以外の成分の分子量は好ましくは20以上100以下である。当該成分としては、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの、重合性炭素−炭素二重結合を有しない有機溶媒成分をあげることができる。
【0024】
成分(A)及び成分(B)を含有する組成物における成分(B)の含有量は、好ましくは1ppm〜20ppmであり、より好ましくは1ppm〜10ppmである。
【0025】
成分(A)及び成分(B)を含有する組成物における成分(A)の含有量は、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上である。
【0026】
本発明において、成分(A)及び成分(B)を含有する組成物を細孔径が1Å以上4Å以下であるゼオライトに接触させることにより、成分(B)をゼオライトに吸着させ、成分(B)を除去する。前記組成物は液体状態でゼオライトと接触させることが好ましい。前記組成物とゼオライトとを接触させる方法としては、吸着カラム、吸着塔などの公知の方法を用いることができる。
【0027】
前記組成物とゼオライトとを接触させる温度は、好ましくは−10℃以上60℃以下、より好ましくは0℃以上で40℃以下である。前記組成物とゼオライトとを接触させる圧力は、好ましくは0MPa−Gから0.45MPa−Gである。
【0028】
前記組成物とゼオライトとを接触させる時間は、好ましくは10秒〜2時間である。
【0029】
成分(B)が吸着したゼオライトを再生する方法としては、ゼオライトと水とを接触させ、成分(B)を溶出させる、などの方法を用いることができる。
【0030】
本発明の方法によれば、再生可能な吸着剤を用いて、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物から重合抑制剤を除去することができる。また、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物と吸着剤とを接触させた際に温度上昇の程度が低い。
【0031】
本発明の方法で成分(A)から重合抑制剤を除去し、その後、成分(A)を含む単量体成分を重合させることにより、重合体を得ることができる。成分(A)を含む単量体成分は、成分(A)以外のビニル化合物を含んでいてもよい。当該ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ジビニルナフタレンをあげることができる。重合体を製造する方法としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0032】
評価方法は次に述べるとおりである。
【0033】
1.吸着後残余濃度
最初に、4−tert−ブチルカテコールを工業用ヘキサンに溶解させ、濃度を100mg/Lとした溶液を調整した。25℃の当該溶液1L中を攪拌容器に投入し、攪拌しながら、次に25℃の吸着剤を100g投入し、60分間攪拌混合した後、溶液中の4−tert−ブチルカテコール濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。この数値が小さいほど、吸着性能に優れる。
2.発熱量指数
25℃の工業用ヘキサン1L中に25℃の吸着剤を100g投入して、攪拌を行いながら工業用ヘキサンの温度変化を180分間測定した。吸着剤を工業用ヘキサン中に投入してからの経過時間をt(分)、工業用ヘキサンの温度をT(℃)とし、(T−25)を縦軸に、tを横軸にとってプロットした曲線を作成し、当該曲線とt軸、直線t=180で囲まれた領域の面積を算出し、溶液の温度変化を発熱量指数とした。この数値が小さいほど、吸着剤と工業用ヘキサンとを接触させた際の温度上昇が小さい。
【0034】
試験例1
吸着剤としてゼオライト(モレキュラーシーブ3A、ユニオン昭和社製)を使用して上記の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0035】
試験例2
吸着剤としてゼオライト(モレキュラーシーブ13X、ユニオン昭和社製)を使用して上記の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0036】
試験例3
吸着剤としてアルミナ(ST1000、ユニオン昭和社製)を使用して上記の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び成分(B)を含有する組成物を
細孔径が1Å以上4Å以下であるゼオライトに接触させて、
当該組成物から成分(B)を除去する方法。
(A)重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を含有し、
分子量が20以上100以下である有機化合物。
(B)下記式(1)で表される化合物。

(式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のヒドロカルビル基又は炭素原子数1〜6のヒドロカルビルオキシ基を表し、mは1又は2を表し、nは0〜3の整数を表す。)
【請求項2】
細孔径が1Å以上4Å以下であるゼオライトがモレキュラーシーブ3A、モレキュラーシーブ4A、又はモレキュラーシーブ3Aとモレキュラーシーブ4Aの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
成分(B)が4−tert−ブチルカテコール、メトキシヒドロキノン、又は4−tert−ブチルカテコールとメトキシヒドロキノンの混合物である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
成分(A)がブタジエンである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で成分(A)及び成分(B)を含有する組成物から成分(B)を除去し、次に、成分(A)を含む単量体成分を重合する重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−162662(P2012−162662A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24658(P2011−24658)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】