説明

重合開始剤表面固定化材料の作製方法、及びグラフトポリマーパターンの作製方法

【課題】重合開始剤の自己組織化膜によるナノサイズオーダーのドメイン構造を、リソグラフィーなどの手段を用いず、簡便に作製しうる重合開始剤表面固定化材料の作製方法を提供すること。また、ナノサイズオーダーのドメイン構造を有するグラフトポリマーパターンを簡便に作製しうるグラフトポリマーパターンの作製方法を提供すること。
【解決手段】支持体表面に、該支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤を浸漬法又は蒸着法を用いて接触させた後、前記支持体上に接触した該重合開始剤の自己組織化により、前記支持体上に該支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造を形成する重合開始剤表面固定化材料の作製方法、該重合開始剤表面固定化材料の作製方法により得られた重合開始剤表面固定化材料のナノドメイン構造上に、グラフトポリマーを生成させる工程を有するグラフトポリマーパターンの作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体表面の機能性付与に関し、特に、固体表面に有機分子による超薄膜をパターン状に形成する方法に関し、より具体的には、重合開始剤表面固定化材料の作製方法、及びグラフトポリマーパターンの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体表面に種々の機能をもった分子層を固定し、表面特性を制御しようとする試みは比較的古くから行われている。
中でも、両親媒性の分子を水面上に展開・圧縮し、単分子層を形成した後、固体支持体上に移し取るラングミュア・ブロジェット(LB)法や、トリメトキシシリル基やトリクロロシリル基を持った長鎖アルキル化合物と表面水酸基を持った固体とを反応させて有機薄膜を作成させてなる自己組織化膜(SAM)が良く知られている。
上記SAMにおいては、LB膜のような分子を圧縮する操作は行わないが、アルキル基同士の相互作用によってLB膜と同様に高度に配向した高密度の膜が得られる(例えば、非特許文献1、2参照。)。
【0003】
更に、このようにして得られた固体表面の分子層を機能化するために、この分子層をナノサイズでパターン化する方法も良く知られている。
例えば、SAMの微細パターンを作るために、マイクロコンタクトプリンティングやリソグラフィーなどの手段が用いられ、この手段によって多種多様な微細パターンが形成されることが知られている(例えば、非特許文献3、4参照。)。これらの方法は、高価なリソグラフィーを必要とするが、最近の研究により、特に設備的に高価なソグラフイーなどの手段を使用しなくともSAM形成の際の溶媒、温度、時間などの反応条件を適切に選ぶことで、0.1μmから1μm程度の大きさのドメイン構造のパターンが得られることが報告されている(例えば、非特許文献5、6参照。)。この場合は、反応条件のコントロールを選ぶ必要があるが、安価にナノサイズのドメイン構造によるパターンが得られる利点がある。また、これらの方法で得られたSAMパターンは高密度記録材料などへの応用が検討されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
これまでSAM法を利用して得られるナノサイズのドメインパターンは長鎖アルキルシランカップリング剤のような低分子を使用した場合が報告されているのみであり、ポリマーによるナノドメイン構造の形成についての報告例は少ない。
しかし、応用用途を考えると高分子化合物によるナノドメイン構造は、記録材料の他に、光学フィルム、表面極性変化材料(例えば、非特許文献7参照。)などの多彩な応用用途が期待される。そのため、今後、支持体表面にナノドメイン構造を簡便に作製する方法や、それを応用し、高分子化合物によるナノドメイン構造(パターン)を簡便に作製する方法が要求されるものと考えられる。
【非特許文献1】A.Ulman, "An Introduction to ultrathin organic films from Langmuir-Blodgett to Self-Assembly", Academic Press. Inc., San Diego (1991)
【非特許文献2】「自己組織化ナノマテイリアル」フロンティア出版(2007)
【非特許文献3】G.M.Whitesides, Science, 263, 60 (1994)
【非特許文献4】H.-W.Le at al., 19. 1963 (2003)
【非特許文献5】A.Couzis, Langmuir, 17, 2001, 7789
【非特許文献6】T.Kato, Thin Solid Films vol 379, 230 (2000)
【非特許文献7】I.Luzinov, Polymer Preprints, 46(2) 80 (2005)
【特許文献1】特開2003−76036号公報
【特許文献2】特開2002−334414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明はこれらの状況を鑑み行われたものであって、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、重合開始剤の自己組織化膜によるナノサイズオーダーのドメイン構造を、リソグラフィーなどの手段を用いず、簡便に作製しうる重合開始剤表面固定化材料の作製方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、ナノサイズオーダーのドメイン構造を有するグラフトポリマーパターンを簡便に作製しうるグラフトポリマーパターンの作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、検討の結果、支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤を用いることで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、具体的には以下に示すものである。
【0007】
本発明の重合開始剤表面固定化材料の作製方法は、支持体表面に、該支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤を浸漬法又は蒸着法を用いて接触させた後、前記支持体上に接触した該重合開始剤の自己組織化により、前記支持体上に該支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明の重合開始剤表面固定化材料の作製方法においては、ナノドメイン構造の直径が1nm〜10μmのサイズであることが好ましい態様である。
また、支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤が、下記一般式(1)で表される構造を有することが好ましい。
【0009】
【化1】

【0010】
上記一般式(1)中、Qはシランカップリング基、チオール基、チオイソシアナト基、ニトリル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、モノアルキルシラン基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及び不飽和炭化水素基からなる群より選択される支持体結合性基を表し、Xは炭素数5〜40のアルキレン基を含む連結基を表し、Yはラジカルを発生しうる官能基を表す。
【0011】
本発明において、支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤が、下記一般式(2)で表される構造を有することがより好ましい。
【0012】
【化2】

【0013】
上記一般式(2)中、Xは炭素数5〜40のアルキレン基を含む連結基を表し、Yはラジカルを発生しうる官能基を表し、Zは加水分解基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、n+m=3の関係を満たす。
【0014】
前記一般式(1)及び(2)において、Yで表されるラジカルを発生しうる官能基が、炭素ハロゲン結合を有する化合物に由来する官能基、又は、ピリジニウム類化合物に由来する官能基であることが好ましい態様である。
【0015】
また、本発明のグラフトポリマーパターンの作製方法は、本発明の重合開始剤表面固定化材料の作製方法により得られた重合開始剤表面固定化材料のナノドメイン構造上に、グラフトポリマーを生成させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、重合開始剤の自己組織化膜によるナノサイズオーダーのドメイン構造を、リソグラフィーなどの手段を用いず、簡便に作製しうる重合開始剤表面固定化材料の作製方法を提供することができる。
また、本発明によれば、ナノサイズオーダーのドメイン構造を有するグラフトポリマーパターンを簡便に作製しうるグラフトポリマーパターンの作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の重合開始剤表面固定化材料の作製方法、及び、グラフトポリマーパターンの作製方法について、詳細に説明する。
【0018】
<重合開始剤表面固定化材料の作製方法>
本発明の重合開始剤表面固定化材料の作製方法は、支持体表面に、該支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤を浸漬法又は蒸着法を用いて接触させた後、前記支持体上に接触した該重合開始剤の自己組織化により、前記支持体上に該支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造を形成することを特徴とする。
以下、まず、支持体表面に、該支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤を浸漬法又は蒸着法を用いて接触させる方法について説明する(以下、「(a)工程」と称する場合がある)。
【0019】
〔(a)工程〕
本発明の重合開始剤表面固定化材料の作製方法における(a)工程では、支持体表面全体に対して、該支持体との結合部位を有する重合開始剤を、浸漬法又は蒸着法を用いて接触させる。
本工程で用いられる重合開始剤としては、支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤であり、自己組織化膜を形成し得る化合物であれば、如何なるものも用いることができるが、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。以下、「支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤」を、適宜、「支持体結合性開始剤」と称し、説明する。
【0020】
【化3】

【0021】
一般式(1)中、Qは支持体と結合しうる部位(支持体結合性基)を表し、Xは連結基を表し、Yは重合開始部位(ラジカルを発生しうる官能基)を表す。
【0022】
一般式(1)中のQで表される支持体結合性基としては、支持体表面に存在する官能基と反応して結合しうる反応性基が好ましく、具体的には、トリクロロシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシランなどのシランカップリング基、チオール基、チオイソシアナト基などの含硫黄官能基、ニトリル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、モノアルキルシラン基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、アルケン、アルキンなどの不飽和炭化水素基などが好ましく用いられる。
【0023】
このQで表される支持体結合性基は、支持体の材質に応じて、選択することが好ましい。
例えば、支持体が、金、銀、銅、白金、パラジウム、鉄などの金属や、GaAs、InPなどの半導体化合物であれば、Qで表される支持体結合性基としては、チオール基、チオイソシアナト基などの含硫黄官能基、モノアルキルシラン基が好ましい。特に、支持体が、金であれば、Qで表される支持体結合性基としてはチオール基が最も好ましい。
支持体が、白金、パラジウム、金、銀などの金属であれば、Qで表される支持体結合性基としてはニトリル基も好ましい態様の1つである。
【0024】
支持体が、Al、AgO、CuO、Zr/Alなどの金属酸化物、oxide−NHなどの酸化物であれば、Qで表される支持体結合性基としてはカルボキシル基が好ましい。
支持体が、ZrO、TiO、Al、Ta、Zr/Alなどの金属酸化物であれば、Qで表される支持体結合性基としてはホスホン酸基、リン酸エステル基も好ましい態様の1つである。
支持体が、TiO、Al、ガラス、石英、ITO、シリコン基板などであれば、Qで表される支持体結合性基としてはアミノ基が好ましい。
【0025】
また、支持体が、ガラス、マイカ、SiO、SnO、GeO、ZrO、TiO、Al、ITO、SUS、PTZなどであれば、Qで表される支持体結合性基としてはシランカップリング基が好ましい。
支持体が、水素終端化シリコン(Si−H)、ハロゲン化シリコン(Si−X、X=Cl,Br,I)などであれば、Qで表される支持体結合性基としては、水酸基や、不飽和炭化水素基が好ましい。
更に、支持体が、水素終端化ダイヤモンド(C−H)であれば、Qで表される支持体結合性基としては不飽和炭化水素基が好ましい。
【0026】
これらの組み合わせの中でも、支持体としては、入手し易さ、工業材料としての応用のし易さ、ドメイン構造の形成のし易さの点から、金、ガラス、石英、マイカ、ITO、TiO、シリコンが好ましく、また、Qで表される支持体結合性基としては、支持体との反応性、ドメイン構造の形成のし易さから、シランカップリング基、チオール基、カルボキシル基、ホスホン酸基が好ましい。
【0027】
一般式(1)におけるXは、Qで表される支持体結合性基と、Yで表されるラジカル発生基と、を連結することが可能で、且つ、自己組織化を促進しうる基であれば、特に制限はされないが、合成のし易さ、及び自己組織化のし易さの点から、有機連結基であることが好ましく、特に、炭素数5〜40のアルキレン基を含むことが好ましく、更に、炭素数8〜25のアルキレン基を含むことが好ましい。
【0028】
一般式(1)におけるYとしては、ラジカルを発生しうる官能基であれば、特に制限はされないが、光によりラジカルを発生しうる官能基、熱によりラジカルを発生しうる官能基、ATRP重合などに適用されるラジカルを発生しうる官能基が用いられる。
具体的には、水素引き抜き反応によりラジカルを発生するようなカルボニル基、ノリッシュタイプ1反応によりラジカルを発生するようなカルボニル基に隣接したC−C結合を有する官能基、ブロモ、クロロ、ヨードなどのハロゲン基を有する炭素原子を含む官能基、窒素−酸素、窒素−窒素、酸素−酸素、硫黄−硫黄結合、炭素−燐、燐−燐のようなヘテロ原子結合を含む官能基、アゾ基、などを挙げることができる。
【0029】
中でも、Yとしては、経時安定性、感度の点から、水素引き抜き反応によりラジカルを発生するようなカルボニル基、ノリッシュタイプ1反応によりラジカルを発生するようなカルボニル基に隣接したC−C結合を有する官能基、ブロモ、クロロなどのハロゲン基を有する炭素原子を含む官能基、窒素―酸素のようなヘテロ原子結合を含む官能基などが好ましい。
【0030】
Yとして、より具体的には、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(k)ピリジウム類化合物等に由来する官能基が好ましいものとして挙げられ、特開2004−123837号公報の〔0015〕〜〔0146〕に記載の構造を有する官能基を使用することができる。
中でも、Yとしては、炭素ハロゲン結合を有する化合物に由来する官能基、又は、ピリジニウム類化合物に由来する官能基であることが好ましい態様である。
【0031】
本発明において、支持体結合性開始剤が、下記一般式(2)で表される構造を有することがより好ましい。
【0032】
【化4】

【0033】
上記一般式(2)中、Xは炭素数5〜40のアルキレン基を含む連結基を表し、Yはラジカルを発生しうる官能基を表し、Zは加水分解基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、n+m=3の関係を満たす。
【0034】
一般式(2)におけるX及びYは、前記一般式(1)におけるX及びYと同義であり、好ましい例も同様である。
【0035】
一般式(2)におけるZは加水分解基を表す。加水分解基としては、具体的には、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アシロキシ基(アセトキシ基、プロパノイルオキシ基など)などが挙げられ、中でも、反応性が良好な点で、メトキシ基、エトキシ基、塩素原子が好ましい。
なお、一般式(2)中、Zが複数ある場合は、同一であっても異なっていてもよい。
【0036】
一般式(2)におけるRは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
なお、一般式(2)中、Rが複数ある場合は、同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
一般式(2)中、mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、n+m=3の関係を満たす。中でも、mは0〜1が好ましく、nは2〜3が好ましい。
【0038】
本発明において、ナノドメイン構造を形成し易くするためには、一般式(1)で表される化合物(支持体結合性開始剤)において、Xとして長鎖のアルキレン基を有する以外に、Yで表されるラジカルを発生しうる官能基としては、該官能基自体の自己凝集性がある程度低いことが必要である。そのためには、X−Yで表される構造中に、エステル基や、アミド基であれば合わせて2個以内の範囲で、また、フェニル基やナフチル基などの芳香環であれば合わせて2個以内の範囲で、更に、ヘテロ芳香環であれば多くても3つの環が縮環したもの、を含むことが好ましい。X−Yで表される構造中に、これ以上のアルキレン基以外の基を導入するとナノドメイン構造の形成性が低下することになる。
【0039】
以下、一般式(1)で表される化合物の具体例〔例示化合物T1〜T8〕を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0040】
【化5】

【0041】
本工程では、前述のような支持体結合性開始剤を、支持体表面に、浸漬法又は蒸着法を用いて接触させる。
本発明においては、特に、浸漬法が、操作が簡便であるため、好ましい態様である。
【0042】
ここで、本工程における浸漬法は、溶媒中に支持体結合性開始剤を溶解し、その溶液に支持体を浸漬することで行われる。
ここれ用いられる溶媒としては、支持体結合性開始剤が反応しない限り、如何なる溶媒でも使用可能であるが、支持体への吸着性を促進する観点から、極性の低い溶媒が好ましい。
具体的には、ヘキサン、シクロヘキサン、ビシクロヘキシル、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素化合物、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタンなどのハロゲン系炭化水素化合物が好ましい。また、これらは単独で使用してもよいし、これらの混合溶媒も有効である。
【0043】
溶液中の支持体結合性開始剤の濃度は、0.01質量%から10質量%の間であることが好ましく、0.1質量%から1質量%の間がより好ましい。この範囲であると、支持体結合性開始剤の支持体への吸着速度を高めることができ、また、良好な自己組織化膜が得られ易い。
また、この溶液中に支持体を浸漬する時間は、使用する支持体結合性開始剤に応じて、適宜、決定すればよく、10秒から60分の間が好ましく、特に20秒から30分までの間がより好ましい。
また、浸漬温度(溶液の温度)は40℃以下が好ましく、下限値としては、マイナス20℃である。
【0044】
一方、本工程における蒸着法は、大気下、加熱又は真空により支持体結合性開始剤を気化させ、これを支持体表面に吸着させる方法である。支持体結合性開始剤を気化させる方法としては、いずれの方法も採用することができるが、支持体の温度をできるだけ低温に保ち、ナノドメイン構造を形成しやすくするためには、低温で吸着させることができる真空法を用いることが好ましい。
真空法では、排気ポンプ系と減圧チャンバーを有する真空装置が用いられる。好ましい真空度は、10pa以下、特に10−2Pa以下が好ましい。また、真空度の下限値としては、10−8paが好ましい。
また、支持体結合性開始剤を加熱するボートの温度は、300℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0045】
蒸着法を適用した際の条件としては、上記の如く、真空下で行うのが好ましいが、蒸着する支持体結合性開始剤が熱的に安定な場合には、大気下で行うことができる。この場合は、密封した容器内の別々の場所に、支持体結合性開始剤と支持体とをそれぞれ入れ、50℃〜300℃の範囲、好ましくは100℃〜250℃の範囲に加熱することにより、蒸着が行われる。
【0046】
なお、本発明においては、浸漬法及び蒸着法により支持体結合性開始剤を支持体表面に接触させる方法について述べているが、これらの方法以外にも、例えば、A. Ulman Chem. Rev., 96,1533, (1996)に記載の自己組織化膜の形成方法を適用することができる。
【0047】
次に、本工程で用いられる支持体について説明する。
本発明における支持体は、支持体結合性開始剤が接触される表面を有していれば、その形状、材質は問わないが、支持体結合性開始剤との吸着性や凝集性を考慮して、適宜、選択されればよい。
なお、本発明においては、後述のように、支持体結合性開始剤自身の自己組織化により、支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造を形成することができるため、支持体結合性開始剤との吸着性が高い領域が表面に局所的に存在するような特殊な支持体を必要としない。つまり、本発明は、単一の材質からなり、支持体結合性開始剤との吸着性が均一な表面を有する支持体に対して、該支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造を、容易に形成することができる。
【0048】
支持体の材質としては、支持体結合性開始剤中のQ(支持体結合性基)との好ましい組み合わせとして前述されたような、金、銀、銅、白金、パラジウム、鉄などの金属や、GaAs、InPなどの半導体化合物、Al、AgO、CuO、ZrO、TiO、Ta、Zr/Alなどの金属酸化物、oxide−NHなどの酸化物、ガラス、マイカ、SiO、SnO、GeO、ITO、SUS、PTZ、水素終端化シリコン(Si−H)、ハロゲン化シリコン(Si−X、X=Cl,Br,I)、水素終端化ダイヤモンド(C−H)、等が挙げられる。
なお、支持体の形状としては、自己組織化膜の形成のし易さの点から、凹凸のない平坦な基板が好ましい。平坦度としてはRaの値で1μ以下が好ましく、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは10nm以下である。
【0049】
以上のようにして、支持体表面全体には支持体結合性開始剤が付与される。
その後、支持体表面に付与された支持体結合性開始剤の自己組織化により、支持体上に該支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造を形成することができる。
以下、(a)工程後、支持体結合性開始剤の自己組織化を用いて重合開始剤表面固定化材料が作製されるまでの工程を、適宜、(b)工程を称し、説明する。
【0050】
〔(b)工程〕
本発明の重合開始剤表面固定化材料の作製方法における(b)では、(a)工程後の支持体上で支持体結合性開始剤が自己組織化することを利用している。
ここで、本発明における「支持体結合性開始剤の自己組織化」とは、支持体上に付与された支持体結合性開始剤が自然に移動、凝集し、ナノドメイン構造を形成することを意味する。
一般的に、液相法により形成される有機シラン化合物の単分子膜は、液相中で成長した有機シラン化合物分子の二次元会合体が固体表面へと吸着することで成長すると理解されている。この会合体が酸化物基板表面に存在する極薄吸着水層上を移動することで更に集積化し、結果として、ナノドメイン構造まで成長することなる。
そこで、本工程においては、支持体表面に付与された支持体結合性開始剤が凝集し易い、つまり、支持体表面を移動し易い環境を形成することが好ましい。
【0051】
例えば、(a)工程において、浸漬法により支持体表面に支持体結合性開始剤が付与された場合、支持体結合性開始剤の移動性・凝集性を高め、ナノドメイン構造まで成長させるためには、付与された液相の温度を60℃以下とすることが好ましく、40℃以下とすることがより好ましい。特に、付与された液相の温度の下限値としては、30℃から室温程度が好ましい。
【0052】
また、(a)工程において、蒸着法により支持体表面に支持体結合性開始剤が付与された場合、支持体結合性開始剤の移動性・凝集性を高め、ナノドメイン構造まで成長させるためには、支持体温度を100℃以下とすることが好ましく、60℃以下とすることがより好ましい。また、支持体温度の下限値としては、自己組織化膜の形成性の点から、20℃が好ましい。
【0053】
以上のような状態で、支持体結合性開始剤が自己組織化することで、支持体表面には支持体結合性開始剤が局所的に凝集した状態のナノドメイン構造が形成される。また、支持体と支持体結合性開始剤との反応が起こり、重合開始剤が支持体に結合した状態を形成することができる。
【0054】
本発明における機構は明らかではないが以下のように推測される。
即ち、(a)工程後、支持体表面に物理吸着した支持体結合性開始剤は、時間と共に移動、凝集し、自己組織化膜を形成する。その後、支持体と支持体結合性開始剤とが反応し、強固な化学結合を形成することで、支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造が形成されるものと推定される。
【0055】
以上のように、前述の(a)及び(b)工程を経ることで、支持体上には、該支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造が形成される。
本発明において、「重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造」とは、支持体結合性開始剤が支持体表面に付与された後、それ自身の凝集力により凝集し、1nm〜10μm程度の凝集体を形成し、更に、支持体表面との化学反応により支持体に固定化された凝集体構造を取ったものである。
この構造は時間とともに変化し、長時間の支持体結合性開始剤と支持体とを接触させた場合には、最終的には支持体結合性開始剤は支持体表面全体を覆ってしまい、支持体表面全体に該支持体と結合した重合開始剤による薄膜が形成される。言い換えれば、本発明におけるナノドメイン構造は、支持体表面全体を覆う均一な重合開始剤による薄膜を形成する途中過程で生成するものである。重合開始剤ではない単純な長鎖アルキルシランカップリング剤が形成する典型的な自己組織化膜のドメイン構造の生成過程は、非特許文献6に記載されている。一般に自己組織化膜の形成し易さは長鎖アルキル基の凝集力に依存するため、芳香族環のような大きな置換基があるとアルキル基があってもアルキル基の凝集力を妨げるため自己組織化膜はできにくい。このような点から、本発明においては、支持体結合性開始剤の中でも、前述のような、一般式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。即ち、一般式(1)で表される化合物(特に好ましくは、一般式(1)で表される化合物において、X−Yで表される構造中に、エステル基や、アミド基であれば合わせて2個以内の範囲で、また、フェニル基やナフチル基などの芳香環であれば合わせて2個以内の範囲で、更に、ヘテロ芳香環であれば多くても3つの環が縮環したもの、を含む態様)であれば、ラジカルを発生しうる官能基などの重合開始剤として機能する構造単位があっても、自己組織化膜を容易に形成することができ、その結果、ナノドメイン構造が得られる。
【0056】
ここで、本発明におけるナノドメイン構造は、エリプソメトリーを用いて、支持体上に形成された薄膜の膜厚を測定し、また、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、中心線表面粗さ、及び最大高低差を測定することで、観察することができる。
本発明において、ナノドメイン構造の直径は、1nm〜10μmの範囲であることが好ましく、10nm〜3μmの範囲であることがより好ましい。
ここで、「ナノドメイン構造の直径」とは、ナノドメイン構造(凝集体)が不定形であるため、その不定形の凝集体において、最大の距離となる部分の長さを意味する。
また、ナノドメイン構造は支持体表面に対して、被覆面積率として1%〜90%の範囲で存在することが好ましく、10%〜70%の範囲で存在することが好ましい。
【0057】
<グラフトポリマーパターンの作製方法>
本発明のグラフトポリマーパターンの作製方法は、本発明の重合開始剤表面固定化材料の作製方法により得られた重合開始剤表面固定化材料のナノドメイン構造上に、グラフトポリマーを生成させる工程(以下、(c)工程と称する。)を有することを特徴とする。
【0058】
〔(c)工程〕
この(c)工程には、支持体のナノドメイン構造上に、ラジカル重合可能な不飽和化合物(以下、単に重合性化合物と称する場合がある。)を接触させた後、露光する方法が用いられる。
本工程では、モノマー、マクロモノマー、又はラジカル重合性基を有する高分子化合物等の重合性化合物を含有する溶液を、ナノドメイン構造を有する支持体上に塗布する、又は、ナノドメイン構造を有する支持体を前記溶液中に浸漬させた後、露光を行うことで、重合性化合物がナノドメイン構造に結合したり、また、重合性化合物同士が重合して、グラフトポリマーが生成する。
【0059】
(ラジカル重合可能な不飽和化合物)
ラジカル重合可能な不飽和化合物(重合性化合物)としては、モノマー、マクロモノマー、或いはラジカル重合性基を有する高分子化合物のいずれも用いることができる。
例えば、これらの重合性化合物は公知のものを任意に使用することができ、用途に応じて、種々の相互作用性基を有する重合性化合物を用いることができる。
【0060】
本発明において特に有用な重合性化合物としては、ラジカル重合性基の他、機能性材料を吸着しうる官能基を有するものが好ましく、このような官能基としては、例えば、極性基が挙げられる。この極性基の中でも、親水性基が好ましく、より具体的には、アンモニウム、ホスホニウなどの正の荷電を有する官能基、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有する官能基、その他にも、例えば、水酸基、アミド基、スルホンアミド基、アルコキシ基、シアノ基などの非イオン性基が挙げられる。
以下、極性基を有する重合性化合物について具体的に説明する。
【0061】
本発明に用いうる極性基を有する重合性化合物としてのモノマーは、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、スチレンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルチオフェン、スチレン、エチル(メタ)アクリル酸エステル、n−ブチル(メタ)アクリル酸エステルなど炭素数1〜24までのアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0062】
本発明に用いうる極性基を有する重合性化合物としてのマクロモノマーは、前記モノマーを用いて公知の方法にて作製することができる。本態様に用いられるマクロモノマーの製造方法は、例えば、平成1年9月20日にアイピーシー出版局発行の「マクロモノマーの化学と工業」(編集者 山下雄也)の第2章「マクロモノマーの合成」に各種の製法が提案されている。
このようなマクロモノマーの有用な重量平均分子量は、500〜50万の範囲であり、特に好ましい範囲は1000〜5万である。
【0063】
本発明に用いうる極性基を有する重合性化合物としての高分子化合物とは、極性基と、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基(重合性基)と、を導入したポリマーを指す。このポリマーは、少なくとも末端又は側鎖にエチレン付加重合性不飽和基を有するものであり、側鎖にエチレン付加重合性不飽和基を有するものがより好ましく、末端及び側鎖にエチレン付加重合性不飽和基を有するものが更に好ましい。
このような高分子化合物の有用な重量平均分子量は、500〜50万の範囲で、特に好ましい範囲は1000〜5万である。
【0064】
極性基と重合性基とを有する高分子化合物の合成方法としては、i)極性基を有するモノマーと重合性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)極性基を有するモノマーと重合性基前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)極性基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法が挙げられる。
好ましい合成方法は、合成適性の観点から、ii)極性基を有するモノマーと重合性基前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により重合性基を導入する方法、iii)極性基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法である。
【0065】
上記i)及びii)の合成方法に用いられる極性基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、より具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン(下記構造)、スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニル安息香酸等が挙げられ、一般的には、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、アミド基、ホスフィン基、イミダゾール基、ピリジン基、若しくはそれらの塩、及びエーテル基などの官能基を有するモノマーが使用できる。
【0066】
【化6】

【0067】
上記極性基を有するモノマーと共重合する重合性基を有するモノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートが挙げられる。
また、上記ii)の合成方法に用いられる重合性基前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜や、特開2003−335814号公報に記載の化合物(i−1〜i−60)が使用することができ、これらの中でも、特に下記化合物(i−1)が好ましい。
【0068】
【化7】

【0069】
更に、上記iii)の合成方法に用いられる極性基を有するポリマー中の、カルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、及びエポキシ基などの官能基との反応を利用して、重合性基を導入するために用いられる重合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどがある。
【0070】
上記ii)の合成方法における、極性基を有するモノマーと重合性基前駆体を有するモノマーとを共重合させた後の、塩基などの処理により重合性基を導入する方法については、例えば、特開2003−335814号公報に記載の手法を用いることができる。
【0071】
以上、重合性化合物として、極性基(親水性基)を有する重合性化合物について主として説明したが、本発明は、特にこれらの化合物に限定されるものではなく、その用途に応じて、生成するグラフトポリマーの種類(官能基の種類)を、適宜、選択すればよい。
例えば、本発明のグラフトポリマーパターンの作製方法において、親/疎水性パターンを形成する場合には、疎水性の支持体を用い、また、親水性基を有する重合性化合物を用いて親水性のグラフトポリマーを生成させればよい。また、親水性の支持体を用い、疎水性基を有する重合性化合物を用いて疎水性のグラフトポリマーを生成させることでも、親/疎水性パターンを得ることもできる。
また、撥油、撥水性のパターンを作製する場合には、フッ素原子を含む重合性化合物を使用すればよい。
【0072】
これらの重合性化合物は、単体でナノドメイン構造を有する支持体へと接触させてもよいし、溶剤に分散或いは溶解させた状態で当該支持体へと接触させてもよい。この接触方法としては、ナノドメイン構造を有する支持体を、特定ポリマーを含有する液状組成物中に浸漬することで行ってもよいが、取り扱い性や製造効率の観点からは、当該支持体表面に、重合性化合物をそのまま接触させるか、重合性化合物を含有する液状組成物を塗布して塗膜を形成する方法、更には、その塗膜を乾燥して、支持体表面に重合性化合物を含有する層(グラフトポリマー前駆体層)を形成することにより行うことが好ましい。
【0073】
重合性化合物を含有する液状組成物を構成する溶剤としては、主成分である重合性化合物を溶解或いは分散することが可能であれば特に制限はない。前述のような極性基(親水性基)を有する重合性化合物を用いる場合には、水、水溶性溶剤などの水性溶剤が好ましく、これらの混合物や、溶剤に更に界面活性剤を添加してもよい。
使用できる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトン、シクロヘキサノンの如きケトン系溶剤、ホルムアミド、ジメチルアセトアミドの如きアミド系溶剤、などが挙げられる。
【0074】
また、この液状組成物に対し、必要に応じて添加することのできる界面活性剤は、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン190、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0075】
支持体表面に重合性化合物を含有する液状組成物を塗布して塗膜を形成する方法を用いた場合には、その塗布量としては、充分な塗布膜を得る観点からは、固形分換算で0.1g/m〜10g/mが好ましく、特に0.5g/m〜5g/mが好ましい。
また、グラフトポリマー前駆体層を形成する場合、その厚みは、0.01μm〜20μmの範囲であることが好ましく、0.05μm〜10μmの範囲であることがより好ましく、0.1μm〜5μmの範囲であることが更に好ましい。
【0076】
(露光)
本工程における露光は、支持体結合性開始剤からラジカルを生じさせることのできるものであれば特に制限はなく、紫外光、可視光などの光照射、電子線、ガンマ線、X線などの高エネルギー線照射が用いられる。特に、装置のコストの点から、紫外線、若しくは可視光線による露光が好ましい。
この露光により、ナノドメイン構造上には、このナノドメイン構造を構成する重合開始剤と結合したグラフトポリマーが生成する。
【0077】
以上のようにしてグラフトポリマーが生成した後、支持体は、溶剤浸漬や溶剤洗浄などの処理が行われ、残存するホモポリマーを除去して、精製される。具体的には、水やアセトンによる洗浄、乾燥などが挙げられる。ホモポリマーの除去性の観点からは、超音波などの手段をとってもよい。
精製後は、その表面に残存するホモポリマーが完全に除去され、支持体上のナノドメイン構造と強固に結合したグラフトポリマーのみが存在することになる。
【0078】
このようにして得られたグラフトポリマーパターンは、表面物性を変化させるための材料、高密度記録材料、異方性光学材料、生体適合性材料、超親水性材料、超撥水性材料などへの基礎材料として有用である。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0080】
〔実施例1〕
(蒸着法を用いた支持体結合性開始剤の付与)
小型真空蒸着装置VPC−1100(ULVAC社製)を使用して、支持体結合性開始剤である前述の例示化合物T6をシリコン基板に蒸着した。
ここで、真空度は1×10−3Paであった。また、重合開始剤を加熱する温度は150℃とし、ボートからシリコン基板までの距離は10cmとした。蒸着時間は3分で行った。
蒸着終了後のシリコン基板を装置内で10分間放冷後、装置から取り出し、アセトンで表面を洗浄し、支持体に化学結合していない余分な支持体結合性開始剤を取り除いた。
【0081】
上記のようにして得られた重合開始剤表面固定化材料の表面を、AFM(SII−NT社製SPA400/SPI3800N型、AFM装置)により観察したところ、直径10nmのナノドメイン構造が確認された。また、例示化合物T6の鎖長は25Åであり、また、このナノドメイン構造の高さを、エリプソメトリー(溝尻光学(株)製、DHA−XA/S4)により測定したところ、最大高低差が23Åであったため、例示化合物T6(支持体結合性開始剤)がほぼ垂直に起立した状態の自己組織化膜によるナノドメイン構造であることが判明した。
ここで、AFMの測定は、100μmスキャナー、SI−DF20カンチレバーを使用し、測定条件:DFMモード、測定解像度:256pixel×256line、測定範囲:1μm□、3μm□で行った。
【0082】
〔実施例2、比較例1〜3〕
(浸漬法を用いた支持体結合性開始剤の付与)
UVオゾンで事前に表面洗浄したウェハ(SiO)を、支持体結合性開始剤である例示化合物T1の0.116%トルエン溶液に、浸漬することによって行った。なお、実施例2では浸漬時間3分、実施例3では浸漬時間10分、比較例1では浸漬時間30分、比較例2では浸漬時間60分とした。また、この際の浸漬液の温度は20℃であった。
浸漬後のウェハ浸漬液から取り出し、トルエンで表面を洗浄し、支持体に化学結合していない余分な支持体結合性開始剤を取り除いた。
【0083】
上記のようにして得られた重合開始剤表面固定化材料の表面を、実施例1と同様の条件で、AFM(SII−NT社製SPA400/SPI3800N型、AFM装置)により観察した。
実施例2、比較例1〜3で得られた重合開始剤表面固定化材料のAFM画像を図1に示す。図1に示される画像の測定範囲は、3μm□である。
【0084】
実施例2で得られた重合開始剤表面固定化材料の画像によれば、全体に濃度の差異が明確なパターンが見られ、ナノドメイン構造が形成されていることが分かる。
比較例1で得られた重合開始剤表面固定化材料の画像によれば、全体に濃度の差異が少なく、ナノドメイン構造が形成されていないことが分かる。
比較例2で得られた重合開始剤表面固定化材料の画像によれば、全体に濃度の差異がなく、ナノドメイン構造が形成されていないことが分かる。
比較例3で得られた重合開始剤表面固定化材料の画像によれば、全体に濃度の差異がなく、ナノドメイン構造が形成されていないことが分かる。
【0085】
また、図1中の実施例2で得られた重合開始剤表面固定化材料のAFM画像を拡大したものが図2(a)に示される画像である。また、図2(b)は、この図2(a)の線分a−aにおける高さプロファイル画像である。
これらの画像により、実施例2で得られた重合開始剤表面固定化材料には、20nm〜60nmで、高さ10Å程度のナノドメイン構造が存在することが確認された。
【0086】
ここで、実施例2、比較例1〜3で得られた重合開始剤表面固定化材料について、エリプソメトリー(溝尻光学(株)、DHA−XA/S4)による膜厚の測定結果、AFM測定により得られた中心線平均粗さ、及び最大高低差を、下記表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
実施例2における膜厚は上記表1に示す通りであり、例示化合物T1は鎖長が25.4Åであり、最大高低差が23Åであることから、ほぼ垂直に起立した状態の自己組織化膜によるナノドメイン構造であることが判明した。
また、比較例1〜3では、膜厚も大きく、中心線平均粗さが小さく、また、最大高低差も実施例1の半分以下であることから、支持体表面全体に均一な膜が形成されていることが分かる。
【0089】
〔実施例4〕
(グラフトポリマーパターンの作製)
実施例2で得られた重合開始剤表面固定化材料を、アクリル酸の10質量%の水溶液に浸漬し、その後、UV露光機(ウシオ製、形式UVX02516S1)を用いて10分間露光した。露光の後、水に1時間浸漬し、表面を洗浄した。
この表面をAFM(SII−NT社製SPA400/SPI3800N型、AFM装置)により観察したところ、直径30Å、高さ100nmのアクリル酸によるグラフトポリマーパターンが確認された。
【0090】
〔比較例4〕
実施例2と同様に処理したシリコンウェハの上に、前記例示化合物T1の0.1質量%のトルエン溶液をスピナーを使用して塗布した。回転数は700rpmで、20秒で塗布を行った。得られた塗膜の膜厚を、エリプソメーター(溝尻光学(株) DHA−XA/S4)で測定したところ30nmであった。
また、塗布面を実施例2と同様にAFMで観察したが、ウェハ上に均一な膜が形成しており、ナノドメイン構造は認めなれなかった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例2、比較例1〜3で得られた重合開始剤表面固定化材料のAFM画像である。画像のサイズは3μm×3μmである。
【図2】図2(a)は、図1中の実施例2で得られた重合開始剤表面固定化材料のAFM画像を拡大したものであり、図2(b)は、この図2(a)の線分a−aにおける高さプロファイル画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体表面に、該支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤を浸漬法又は蒸着法を用いて接触させた後、前記支持体上に接触した該重合開始剤の自己組織化により、前記支持体上に該支持体と結合した重合開始剤の自己組織化膜によるナノドメイン構造を形成する重合開始剤表面固定化材料の作製方法。
【請求項2】
前記ナノドメイン構造の直径が1nm〜10μmのサイズであることを特徴とする請求項1に記載の重合開始剤表面固定化材料の作製方法。
【請求項3】
前記支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤が、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の重合開始剤表面固定化材料の作製方法。
【化1】

(上記一般式(1)中、Qはシランカップリング基、チオール基、チオイソシアナト基、ニトリル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、モノアルキルシラン基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及び不飽和炭化水素基からなる群より選択される支持体結合性基を表し、Xは炭素数5〜40のアルキレン基を含む連結基を表し、Yはラジカルを発生しうる官能基を表す。)
【請求項4】
前記支持体と結合しうる部位を有する重合開始剤が、下記一般式(2)で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の重合開始剤表面固定化材料の作製方法。
【化2】

(上記一般式(2)中、Xは炭素数5〜40のアルキレン基を含む連結基を表し、Yはラジカルを発生しうる官能基を表し、Zは加水分解基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、n+m=3の関係を満たす。)
【請求項5】
前記Yで表されるラジカルを発生しうる官能基が、炭素ハロゲン結合を有する化合物に由来する官能基、又は、ピリジニウム類化合物に由来する官能基であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の重合開始剤表面固定化材料の作製方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の重合開始剤表面固定化材料の作製方法により得られた重合開始剤表面固定化材料のナノドメイン構造上に、グラフトポリマーを生成させる工程を有するグラフトポリマーパターンの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−270060(P2009−270060A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123687(P2008−123687)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】