説明

重質油、超重質油及び残留油の水素化分解法

【課題】非分解残留分に含まれる金属を回収する。
【解決手段】水素化分解法は、バナジウム及び/又はニッケルを含む重質原料、8族〜10族の少なくとも1つの金属及び6族の少なくとも1つの金属を含む触媒エマルジョン、水素並びに有機添加物を水素化分解状態の水素化分解領域に供給する工程と、8族〜10族の前記金属、6族の前記金属並びにバナジウム及び/又はニッケルを含む固体炭素質物質と改質された炭化水素生成物とを生成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒水素化分解法、特に、触媒水素化分解法の工程と添加物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常の水素化分解法の一公知例は、2008年5月1日に出願されて、本願の優先権主張の基礎となる米国特許出願と同時に米国特許庁に係属する同一承継人の米国特許出願第12/113,305号(下記特許文献1)に開示される。前記米国出願に開示される方法では、予め水溶液又は他の溶液で触媒を生成し、単一又は2種以上の油水溶液触媒エマルジョンを準備した後、油水溶液エマルジョンを原料に混合して、得られる混合物の水素化分解が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0023965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記米国出願に開示される方法は、所望の水素化分解(水素転化)に通常有効である。しかしながら、使用する触媒が高価になる点に留意すべきである。再利用できる触媒を回収する方法を見出すことが有利である。
【0005】
また、水素化分解反応器内に発生する発泡等の作用は、多くの有害な作用を招来するので、有害な発泡作用等を解消する解決法を提供することが望ましい。
【0006】
高含有量の金属、硫黄及びアスファルテンを含む重質残留分(重質残油)に通常使用する水素化分解法では、再生可能な高濃度の触媒を使用しない限り、80重量%を超える高分解率を達成できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、触媒金属と原料金属とを抽出する作用と、工程反応器から発生する流動重質物又は非分解(非転化)残留物質内に触媒金属と原料金属とを凝縮し濃縮する作用とを生ずる添加物と、触媒水素化分解法とを使用することにより、流動重質物を処理して、触媒金属と原料金属を回収することができる。流動重質物を薄片状物質(フレーク)に加工することができる。また、薄片状物質を更に処理して、触媒金属と本来原料中に含まれる他の金属とを薄片状物質から回収できる。前記処理法により、回収した金属を工程中で有利に再使用し又は他の方法で有利に処理できる。
【0008】
本発明による水素化分解法は、バナジウム及び/又はニッケルを含む重質原料、8族〜10族の少なくとも1つの金属及び6族の少なくとも1つ金属を含む触媒エマルジョン、水素並びに有機添加物を水素化分解状態にある水素化分解領域に供給する工程と、8族〜10族の前記金属、6族の前記金属及びバナジウムを含む固体炭素系物質と改質された炭化水素生成物とを生成する工程とを含む。本明細書では、触媒エマルジョン中の金属を触媒金属といい、重質原料中の金属を原料金属という。
【0009】
また、添加物を使用して、反応器内の全流体動態を制御しかつ向上できる。これにより、反応器内で添加物を使用して発泡抑制作用を発生し、発泡の抑制により、工程中の温度も良好に制御できる。
【0010】
添加物は、コークス、カーボンブラック、活性コークス、煤及びそれらの組み合せから成る群から選択される有機添加物が好ましい。コークスの好適な原料は、列挙するものに限定されないが、硬質炭又は無煙炭から生成されるコークス及び未処理残留分(未処理残油)等を水素化処理し又は炭素を除去したコークスである。
【0011】
通例、初留温度500℃程度の減圧残留分(減圧残油)として重質留分等の原料を液相水素化分解工程に添加物を有利に使用できる。
【0012】
液相水素化分解工程では、水素、単一又は2つ以上の超分散触媒、硫黄剤及び有機添加物に重質原料を反応領域内で接触させる。有機添加物は、他の用途にも適するが、上向並流三相気泡塔型反応器内で好適な一工程が実施される。上向並流三相気泡塔型反応器では、重質原料に対して約0.5〜約5.0重量%の量で、好ましくは粒径約0.1〜約2,000μmの有機添加物を工程に添加することができる。
【0013】
本発明では、有機添加物を使用して、本明細書中に記載するように液相水素化分解工程を実施すれば、有機添加物は、例えばニッケル及びモリブデン等の触媒金属を水素化分解工程から除去する作用があり、更に、通例バナジウム等の原料金属を重質原料から除去する作用も生ずることができる。このように、液相水素化分解工程の生成物は、非常に改質された炭化水素生成物と、原料金属と触媒金属等の金属を含有する非分解残留分(残油)とを含む。例えば、重質炭化水素、有機添加物、濃縮された触媒金属及び原料金属を含む非分解残油を固体、即ち薄片状物質に処理できる。薄片状物質は、回収可能な貴重な金属原料となる。
【発明の効果】
【0014】
重質原料の非分解残留分を薄片状物質に処理して再利用すると共に、薄片状物質から触媒金属と原料金属とを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の好適な実施の形態を添付図について以下詳細に説明する。
【図1】本発明による水素化分解法の概念を示す略示図
【図2】本発明の水素化分解法を実施するシステムの詳細な略示図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、重質原料の触媒水素化分解法及び添加物に関する。触媒金属と原料金属の捕捉剤として作用する添加物は、後に抽出される触媒金属と原料金属を残留相内に凝縮し又は濃縮する作用がある。また、発泡制御剤となる添加物を使用して、全工程条件を改質できる。
【0017】
図1は、原料、好ましくは超分散型触媒、有機添加物、硫黄剤及び水素を供給する水素化分解装置100を示す。水素化分解装置100内で原料を水素化分解又は水素化転化すると、水素化分解装置100から流出する流体は、改質された炭化水素相と、残留分又は残油とを含み、改質された炭化水素相は、液相と気相とに分離され、分離された液相と気相とを更に処理しかつ/又は所望により気体回収装置に供給する一方、他方では、除去される触媒金属と原料金属とを含む使用済み有機添加物材料の薄片状物質(フレーク)に残留分(残油)を凝固することができる。
【0018】
重質原料は、どのような重質炭化水素でもよいが、特に好適な重質原料は、下表1に示す特性を有する減圧残留分(減圧残油)である。
【0019】
【表1】

【0020】
限定列挙ではないが、タールサンド(極めて粘質な油分を含む砂岩)及び/又はビチューメン(瀝青、堆積岩中の有機物のうち、有機溶媒に溶出する有機物)から得られる他の原料も重質原料として使用できる。
【0021】
例えば、真空蒸留装置(VDU)又は他の適切な供給源から減圧残油(VR)を重質原料として供給できる。バナジウム及び/又はニッケル等の原料金属を含みかつ水素化分解により特に有効に改質できる種類であれば、他の類似の原料を重質原料として使用できる。
【0022】
図2に示すように、所望のエマルジョン(乳濁液)と他の反応流体とを混合した混合原料を反応器25,27内に直接供給できるので、混合以外に全く前処理を行わない点で有利である。
【0023】
前記のように、コークス、カーボンブラック、活性コークス、煤及びそれらの混合物等の有機添加物を添加物として使用することが好ましい。多くの何れの供給源からも得られる前記添加物は、非常に安価で容易に調達できる。粒径約0.1〜約2,000μmの有機添加物が好ましい。
【0024】
米国特許出願公開第2009/0023965号公報に開示される金属相を触媒として使用することが好ましい。元素周期表の8族、9族又は10族から選択される一方の金属と、元素周期表の6族から選択される他方の金属とにより、金属相を形成することが有利である。旧周期表では、VIA族金属及びVIIIA族金属又はVIB族金属及びVIIIB族金属とも前記金属を指称する。
【0025】
各類の金属を異なるエマルジョン中に配合し、原料と共に個別に又は一緒に前記エマルジョンを供給材料として高温反応領域中に配置して、高温反応領域の高温によりエマルジョンを分解し、所望通り原料中に分散される触媒相を形成することが有利である。本発明の範囲では、単一のエマルジョン中でも異なる複数のエマルジョン中でもいずれでも前記金属を配合できるが、個別の又は異なるエマルジョン中に前記金属を配合することが特に好ましい。
【0026】
8族〜10族の金属には、ニッケル、コバルト、鉄及びそれらの組み合せが好適であり、6族の金属には、モリブデン、タングステン及びそれらの組み合せが好適である。特に好適な組み合せ金属は、ニッケルとモリブデンである。
【0027】
下記の通り、エマルジョンを準備する。8族、9族又は10族と6族との両族の金属を水滴中に含む水−油系単純エマルジョンが生成される。別法として、複数の金属相のうち一つの金属相をそれぞれ含む2つの個別のエマルジョンを生成して、水素化分解工程に供給してもよい。前記エマルジョン系は、何れも本発明の広い技術的範囲に包含されよう。
【0028】
2種以上の金属を利用することも、本発明の技術的範囲に包含されよう。例えば、8族、9族又は10族から2種又はそれ以上の金属をエマルジョンの触媒相に配合することができる。
【0029】
また、本発明では、6族の金属を硫化物金属塩として配合すれば、触媒相として特に有効であることが判明した。水素化分解工程間に分解される前記硫化物は、その後の水素化分解工程で有利な硫化物金属粒子を形成する。
【0030】
重質原料に対する触媒金属の重量比率を約50〜約1,000重量ppm(wtppm)とするのに十分な量で、単一又は複数の触媒エマルジョン及び重質原料を反応器に供給することが好ましい。
【0031】
如何なる適切な供給源からでも水素化分解工程に水素を供給できる。
【0032】
下記表2に反応条件を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
特定の原料から得られる通常の収率を下表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
本発明では、懸濁液(スラリー又は泥漿)供給工程にある水素化分解装置100は、減圧残油(VR)を収容する。減圧残油に添加物粒子を添加して、懸濁液を生成し、攪拌する。ゲージ圧力で20MPaG(200barg)を超える高い圧力を発生する高圧スラリーポンプにより、水素化分解装置100内で懸濁液を汲み上げて攪拌することが好ましい。また、400℃を超える高温に水素化分解装置100内の懸濁液を加熱することが好ましい。触媒エマルジョン、硫黄剤及び水素は、上流からスラリー供給部に注入される。必要に応じて、懸濁液を加熱するスラリー炉の後段で更に水素を添加することができる。
【0037】
減圧残油、有機添加物、触媒エマルジョン、硫黄剤及び水素の全混合物を反応器内に導入し、全混合物は、所望の軽量物質に徹底的に水素化分解(水素転化)される。水素化分解される多くの物質は、高圧高温分離器内で蒸気として分離され、水素化処理及び必要に応じて更に水素化分解を行う次の装置に、分離された蒸気を送出することができる。また、所望により、生成される減圧軽油(VGO)を次段の反応器に供給できる。
【0038】
一方、分離器の底部に滞留する重質懸濁液状態の生成物は、真空蒸留装置に送られ、残留する全ての軽量物質は、減圧下で回収され、非分解残油である最終底部残油を他種の工程に送出して、固体物質に転化することができる。真空蒸留装置の1つは、底部残油を凝固できる薄片成形器(フレーカ)でもよい。得られる薄片状物質は、有利な下記組成を有する。
【0039】
【表4−1】

【0040】
【表4−2】

【0041】
表4−2に示す単位「% OFF」は、高温ガスクロマトグラフィー分析法を使用して、誘導蒸留(米国材料試験協会規格ASTM-D7169)により推定される蒸留時の蒸気凝縮液体の百分率、即ち、留出物の百分率(重量%)を示す。薄片状物質は、残留する有機添加物、触媒金属及び原料金属を含み、原料金属は、本発明の工程により触媒を使用して取り出され、薄片状物質は、便利な金属供給源として需要者にそのまま提供でき、燃料として使用でき、又は、更に処理して、工程用触媒等として再利用する金属を薄片状物質から抽出することができる。例えば、凝縮されて残留する金属を含む薄片状物質から、燃焼又は熱酸化により全炭化水素を除去して、薄片状物質を灰分に転換し又は溶媒分解法により金属を含有する薄片状物質から金属を分離し、抽出することがでる。
【0042】
勿論、水素化分解工程に使用される触媒金属のみならず、原料に固有のバナジウム等の特定の金属も回収すべき金属に含まれる。前記の全金属を回収する一好適な方法は、各段階で金属を分離して、非常に微細な粒子を回収できる炭素濾過装置を使用する多段階工程にある。
【0043】
図2は、本発明の工程を実施する詳細なシステムを示す。図示のように、システムは、単一又は2つ以上の反応器、本実施の形態では、2つの反応器25,27を有する後述の水素化分解器を備える。
【0044】
反応器25,27内で水素化分解が実施される。反応器25,27は、例えばライン26により直列に接続され、原料と他の種々の反応成分とを組み合わせた混合材料が反応器25,27に供給される。
【0045】
反応器25の左側に図示するように、減圧原油又は減圧残油の供給状態を示す処理すべき原料自体は、添加物調合装置1からライン2を通じて混合器3に供給され、コークス添加物に混合され、原料とコークス添加物との得られる原料混合物は、ライン4を通じてスラリーポンプ5に送られ、図示のように、スラリーポンプ5は、ライン18を通じて原料とコークス添加物との懸濁液を原料加熱器21に向って圧送することが有利である。また、単一又は2種以上の触媒エマルジョン、本実施の形態では、前記の通り、2種の触媒エマルジョンをタンク10,14内で準備し、ライン11,15、各ポンプ12,16及びライン13,17を通じてライン18に触媒エマルジョンを圧送し、ポンプ5と加熱器21との間の単一又は複数の接続点で原料と添加物との混合物に触媒エマルジョンを混合することが好ましい。
【0046】
図2に略示するように、減圧残油原料とコークス添加物とを既に送出するライン18に触媒エマルジョンを導入して、ライン18の上流に設けられる任意の触媒エマルジョン調合装置で触媒エマルジョンを調合できる。
【0047】
水素化分解工程の開始時に、ポンプ8によりタンク6からライン7を通じてライン9に圧送される硫黄剤は、ライン18上で他の反応体に混合される。これにより、所望の活性エマルジョン種が形成される。生成物から再生される気体内に含まれる硫化水素(H2S)から硫黄剤を再生し、後述の種々の分離装置を通じて得られる硫黄ガスをライン50に供給し、必要に応じて反応器25に帰還させて再利用することが好ましい。
【0048】
所望の水素化分解を実施するため、流動反応体にも水素を供給できる。図2は、ライン51から52を通じて水素化分解工程に供給される新規水素と、ライン52に混合される再生水素とを示し、新規水素と再生水素は、予熱器19,22及びライン20,23に供給される。水素化分解工程に使用すべき水素ガス30〜90重量%を予熱器19とライン20に第1の水素ガスとして供給して、予熱器19内で水素ガスを約200〜約600℃の温度に加熱した後、加熱器21の前段階で他の反応用混合物に混合し、ライン24を通じて反応器25に混合物を供給することが好ましい。
【0049】
加熱器21の後段でライン23からの第2の水素ガスがライン24に供給される。
【0050】
加熱器21に導入される添加物、原料、触媒エマルジョン及び水素の混合物は、所望の流体温度に加熱された後、水素化分解状態(環境)に暴露する反応器25,27に送られる。反応器25,27から流出する生成物は、ライン28を通じて高圧高温(HPHT)の分離器29に供給され、分離器29内で非分解液体、有機添加物及び使用済触媒を含む重質生成物から軽質生成物が分離される。高圧高温の分離器29から取り出される液体と重質相は、真空閃光塔を備える金属回収器32に搬送される。この段階では、固化装置を有する金属回収器32に分離器29から液体と重質相を搬送できる。
【0051】
また、図示の実施の形態では、流動する反応体に2箇所で水素が加えられる。水素を導入する第1の部位は、加熱器21の直前であり、追加の水素を導入する第2の部位は、加熱器21の下流である。図2に示す再生水素と補給用の新規水素により全水素が供給される。図示のように、加熱器21に供給される前に少なくとも一部の導入水素は、予熱器19を通過し、残部の導入水素は、予熱器22を通過する。
【0052】
液体、固体及び気体を上方に流動させる反応器25,27は、内部設備を有し又は内部設備がなく、底壁と頂壁とが垂直方向に離間して配置される複数の管状の反応器であることが有利である。反応器25,27は、平均温度250〜500℃、好ましくは400〜490℃、水素分圧5Mpa〜30Mpa(50〜300bar)及び気体/液体比0.1〜15標準m3/kg(100〜15,000標準m3/ton)で水素化分解を実施する領域を形成する。
【0053】
ライン28を通じて反応器27から排出される複数の生成物は、分離器29,39内で選別され、軽質生成物は、重質生成物から分離・抽出される点に留意すべきである。重質生成物は、非分解液体、有機添加物及び使用済触媒を含有する。
【0054】
分離器29で分離される重質生成物は、ライン31を通じて金属回収器32に供給される。金属回収器32では、減圧残油塔等を使用して、未水素化残油と有機添加物から重質水素化軽油(ガスオイル)(HHGO)が分離される。重質水素化軽油は、エマルジョン調合と残油の混合に使用でき、非分解液体及び有機添加物を販売可能な薄片状物質に冷却できる。非分解液体及び有機添加物から又は薄片状物質から、触媒金属、特定の金属等の金属を抽出することができる。
【0055】
高温分離器29の底部に蓄積される重質生成物は、様々な用途を有し、いくつかの非限定用途例を後述する。
【0056】
金属抽出工程では、真空蒸留塔の底部物質から選択される薄片状物質又は中間原料は、金属回収可能な形態に転化される。薄片状物質又は中間原料から2段階工程で金属を回収すべきである。第1段工程では、低温又は高温での薄片状物質の熱分解又は熱酸化を行ってタールを除去し、第2段工程では、薄片状物質の酸性浸出溶解又は塩基性浸出溶解を行う。
【0057】
タンク33からライン34及びポンプ35を通じてライン36及び30に洗浄水を供給するので、分離器29からライン30に排出される軽質生成物に洗浄水が混合される。ライン30を通る混合物は、熱交換器37内で冷却された後、ライン38を通じて第2の分離器39に送出される。
【0058】
第2の分離器39から第1の流体40、第2の流体41及び第3の流体42が排出される。第1の流体40は、酸性水を含み、第2の流体41は、再生ライン45と浄化部46とに流れる工程ガス(C1-4,H2S,NH3,H2,C5+)であり、第3の流体42は、液体生成物を含む。
【0059】
濾過器47を通過する再生ガス45から不純物を除去した後、圧縮機49により圧縮されて新規水素51に混合される。10/90〜50/50(新規水素/再生ガス混合比)の割合で混合水素は、気体予熱器19,22に送出される。
【0060】
ライン53からライン54,55,56を通じて、必要な種々の部位で反応器25,27及び分離器29に新規水素が供給される点に留意すべきである。
【0061】
例1
図2に示すシステムに従い、下記実験を行った。
【0062】
ペトロスアタ社製ベネズエラ産石油の通常の減圧残油(VR)を含む重質原料を総容積10BPDの反応器内に供給した。内部に設備を設けないスラリー気泡塔反応器をこの反応器に使用して、予熱器装置と冷却気体注入法により反応器の温度を制御した。この反応器は、長さ1.6m、直径12cmである。
【0063】
空間速度520kg/m3h(0.52ton/m3h)、全圧力17MPaG(170barg)、気液比(気体と液体との比)(H2/液体)5872標準m3/m3(32990scf/bbl)、及び気体速度5.98cm/sにより、この反応器を作動した。濃度1.5重量%、粒径200〜300μmの有機添加物を原料に添加した。前記状態で、超分散触媒を工程中に注入して、ニッケル92重量ppmと、硫化モリブデン350重量ppmとを反応器内に配合した。ここで、質量単位トンをton、時間単位をhとする。
【0064】
反応器内の平均温度は、458℃であった。前記状態に達した平均残油転化率は、94.3重量%であり、アスファルテン転化率は、89.2重量%であった。
【0065】
温度500℃又はこれ以上の温度での残油(R)の転化率X500℃+を下式で算出した。ここで、反応器内に導入する残油重量をRin、反応器から流出する転化残油重量をRoutとする。
【0066】
【数1】

【0067】
例1で説明した工程を21日間連続運転で実施した。この試験中3個直列接続型垂直スラリー反応器を使用した。
【0068】
例1の結果は、下表の通りである。
【0069】
【表5−1】

【0070】
【表5−2】

【0071】
例2
図2に示すシステムに従い、下記実験を行った。
【0072】
アサバスカ原油から製造したカナダ産石油の減圧残油(VR)試料を使用して試験を実施した。
【0073】
例1で使用した内部設備のない同一のスラリー気泡塔反応器を備える総容積10BPDを有する試験プラントにこの減圧残油を供給し、予熱器装置と冷却気体の圧入により温度を制御した。
【0074】
この試験では、2つの異なる空間速度420kg/m3h(0.42ton/m3h)及び730kg/m3h(0.73ton/m3h)で反応器を作動した。この試験中3個直列接続型垂直スラリー反応器を使用した。20日間連続運転で試験プラントを作動した。
【0075】
反応器の作動条件を、空間速度420kg/m3h(0.42ton/m3h)、全圧力16.9MPaG(169barg)、気液比(H2/液体)6069標準m3/m3(34098scf/bbl)、気体速度7.48cm/s、粒径200〜300μmを有する有機添加物濃度1.5重量%として、超分散触媒を注入して、反応器内にニッケル92重量ppmと、モリブデン350重量ppmを得た。前記状態を11日間保持した。
【0076】
反応器内の平均温度は、453℃であった。前記条件に達した平均残油転化率は、91.9重量%であり、アスファルテン転化率は、93.6重量%であった。
【0077】
前記条件による結果は、下表の通りである。
【0078】
【表6】

【0079】
空間速度730kg/m3h(0.73ton/m3h)、全圧16.9MPaG(169barg)、気液比(H2/液体)3528標準m3/m3(19818scf/bbl)、気体速度7.57cm/s、有機添加物の濃度1.5重量%及び粒径200〜300μmの条件により、超分散触媒を注入して、反応器内で92重量ppmのニッケル及び350重量ppmのモリブデンが得られた。
【0080】
反応器内の平均温度は、462℃であった。前記条件に達した平均残油転化率は、91.2重量%であり、アスファルテン転化率は、83.7重量%であった。前記状態を6日間保持した。
【0081】
前記条件による結果は、下表の通りである。
【0082】
【表7】

【0083】
例3
図2に示すシステムに従って、下記実験を行った。
【0084】
メレイ原油、サンタバーバラ原油、アナコワックス原油及びメサ原油を含む複数のベネズエラ石油の減圧残油(VR)混合物を使用して第3の試験を行った。
【0085】
例1と同一の中空のスラリー気泡塔反応器を備える総容積日量1590リットル(10BPD)の試験プラントにこの減圧残油を供給し、予熱器装置と冷却気体の圧入により温度を制御した。
【0086】
この試験では、触媒と固体濃度を変えながら、2つの異なる空間速度400kg/m3h(0.4ton/m3h)と500kg/m3h(0.5ton/m3h)とにより反応器を作動した。この試験中3個直列接続型垂直スラリー反応器を使用した。39日間連続運転で試験プラントを作動した。
【0087】
空間速度400kg/m3h(0.4ton/m3h)では、以表に要約するように、固体、触媒及び硫黄アンモニウム濃度が変化した。
【0088】
【表8】

【0089】
動作条件及び空間速度500kg/m3h(0.5ton/m3h)での結果を以表に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
例4
図2に示すシステムに従って、下記実験を行った。
【0092】
メレイ原油及びメサ原油を含むベネズエラ石油の減圧残油(VR)を使用してこの例を実施した。
【0093】
例1と同一の中空のスラリー気泡塔反応器を備える総容積日量1590リットル(10BPD)の試験プラントにこの減圧残油を供給し、予熱器装置と冷却気体の圧入により温度を制御した。
【0094】
この試験では、3個直列接続型垂直スラリー反応器を使用して、空間速度400kg/m3h(0.4ton/m3h)で反応器を作動した。
【0095】
全圧力16.9MPaG(169barg)、気体対液体比(H2/液体)7251標準m3/m3(40738scf/bbl)、気体速度6.4cm/sで反応器を作動した。
【0096】
濃度1.5重量%、粒径212〜850μmの有機添加物を原料に加えた。前記条件では、超分散触媒を工程に注入して、ニッケル132重量ppmと、モリブデン500重量ppmとを反応器内で得た。
【0097】
反応器内の平均温度は、452.1℃であった。前記条件に達した平均残油転化率は、80.9重量%であり、アスファルテン転化率は、76.5重量%であった。21日間連続運転で試験プラントを作動した。
【0098】
この結果を要約すると下表の通りである。
【0099】
【表10−1】

【0100】
【表10−2】

【0101】
前記の例は、本発明による工程を使用すれば、優れた結果が得られることを示すものである。
【0102】
本明細書の開示は、好適な実施の形態の詳細を示す。例示目的で前記特定の実施の形態を示すものと認識すべきであり、如何なる場合も、下記特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定するように、実施の形態を解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、重質残留物質の水素化分解処理の際に発生する発泡を抑制すると共に、水素化分解処理に使用する材料から金属成分を回収する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
(1)・・添加物調合装置、 (29,39)・・分離器、 (25,27)・・反応器、 (32)・・金属回収器、 (100)・・水素化分解装置、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウム及びニッケルから成る群から選択される少なくとも1つの原料金属を含む重質原料、8族〜10族の少なくとも1つの金属及び6族の少なくとも1つの金属を含む触媒エマルジョン、水素並びに有機添加物を水素化分解状態の下で水素化分解領域に供給する工程と、
8族〜10族の前記金属、6族の前記金属及び少なくとも1つの原料金属を含む固体炭素系物質と、改質された炭化水素生成物とを生成する工程とを含むことを特徴とする水素化分解法。
【請求項2】
減圧残油、重質原油、超重質原油及びそれらの組み合せから成る群から重質原料を選択する工程を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項3】
重質原料は、減圧残油である請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項4】
重質原料の比重は、約1.07〜約1.02(API度1〜7)である請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項5】
重質原料の金属含有量は、約200〜約2,000重量ppmである請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項6】
重質原料の金属組成は、バナジウム及びニッケルを含有する請求項5に記載の水素化分解法。
【請求項7】
触媒エマルジョンは、8族〜10族の金属を含む第1の触媒エマルジョンと、6族の金属を含む第2の触媒エマルジョンとを含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項8】
ニッケル、コバルト、鉄及びそれらの組み合せから成る群から8族〜10族の金属を選択する工程を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項9】
モリブデン、タングステン及びそれらの組み合せから成る群から6族の金属を選択する工程を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項10】
6族の金属は、6族の硫化金属塩の形態である請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項11】
有機添加物は、コークス粒子を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項12】
コークス粒子の粒径は、約0.1〜約2,000μmである請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項13】
原料コークスを粉砕し分粒して、原料コークス粒子を生成する工程と、
原料コークス粒子を熱処理して、有機添加物として使用するコークス粒子を生成する工程とを含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項14】
少なくとも転化率約80重量%の改質された炭化水素を重質原料から生成する工程を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項15】
水素化分解により、固体炭素系物質を含む非分解残油を生成する工程を含み、
非分解残油から得られる固体炭素系物質の炭素含有量は、約85〜約93重量%である請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項16】
固体炭素系物質は、薄片状物質である請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項17】
重質原料に有機添加物を添加して、添加原料混合物を生成する工程と、
添加原料混合物に触媒エマルジョンを添加して、触媒原料混合物を生成する工程と、
触媒原料混合物に水素を添加して、水素化分解領域に供給される反応混合物を生成する工程とを含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項18】
前記工程を連続して実施する工程を含む請求項17に記載の水素化分解法。
【請求項19】
循環しない貫流方式で原料を使用して前記工程を実施する工程を含む請求項18に記載の水素化分解法。
【請求項20】
水素化分解状態の反応器圧力は、約13〜約21MPaG(約130〜約210barg)、反応器温度は、約430〜約470℃である請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項21】
約50〜約1,000重量ppmの触媒金属と重質原料との重量比率となる量で、触媒エマルジョンと重質原料とを反応器に供給する工程を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項22】
固体炭素系物質を除く重量基準による生産収量は、重質原料の重量を超える請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項23】
金属回収装置に固体炭素系物質を供給して、8族〜10族の金属、6族の金属及び原料の少なくとも1つの金属を分離する工程を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項24】
改質された炭化水素生成物は、気相と液固相とを含み、液固相は、固体炭素系物質と、非分解残油とを含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項25】
一連の水素処理装置に気相を供給して、更に改質を行う工程と、
真空閃光塔に液固相を供給して、非分解重質原料から残留軽質物質を分離する工程と、
金属回収装置に固体炭素系物質を搬送する工程とを含む請求項24に記載の水素化分解法。
【請求項26】
水素化分解領域は、上向並流三相気泡塔型反応器を備える請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項27】
重質原料に対して約0.5〜約5.0重量%の量で有機添加物を添加する工程を含む請求項26に記載の水素化分解法。
【請求項28】
有機添加物の粒径は、約0.1〜約2,000μmである請求項26に記載の水素化分解法。
【請求項29】
タールサンド、ビチューメン及びそれらの組み合せの少なくとも1つから原料を誘導する工程を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項30】
何の前処理を行わない原料を水素化分解状態に暴露する工程を含む請求項1に記載の水素化分解法。
【請求項31】
8族〜10族の金属、6族の金属及びバナジウムを含有する固体炭素系物質を含むことを特徴とする水素化分解生成組成物。
【請求項32】
ニッケル、コバルト、鉄及びそれらの組み合せから成る群から8族〜10族の金属を選択する請求項31に記載の水素化分解生成組成物。
【請求項33】
モリブデン、タングステン及びそれらの組み合せから成る群から6族の金属を選択する請求項31に記載の水素化分解生成組成物。
【請求項34】
薄片状物質は、約85〜約93重量%の炭素含有量を有する請求項31に記載の水素化分解生成組成物。
【請求項35】
固体炭素系物質は、薄片状物質である請求項31に記載の水素化分解生成組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−111620(P2011−111620A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151993(P2010−151993)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(591223574)インテベプ エス エー (5)
【Fターム(参考)】