説明

重質油の熱分解方法

【課題】新たな加熱設備などを設けることなく、低コストで、重質油を熱分解する際に、加熱炉チューブでのコーキングを抑制し、連続して、安定的に熱分解装置を長期間に亘って運転することが可能となる。
【解決手段】芳香族分の含有量が80重量%以上であり、かつ3環以上の多環芳香族分の含有量が25重量%以上、アスファルテン分が2〜20%である原料重質油を、温度400〜600℃、圧力0.01〜1.0MPaで熱分解する重質油の熱分解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンクラッカーなどのオレフィン製造プロセスで副生する重質油の熱分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフサなどの石油留分を熱分解してエチレンを製造する、いわゆるエチレンクラッカーなどのオレフィン製造プロセスで副生する重質油は、石炭乾留タールや石油留分の接触分解の塔底油と比較すると、硫黄、窒素、重金属分が少なく、各種炭素材料の原料物質として適した性状を有しているが、これらの重質油(ボトム油又はエチレンヘビーエンド)は、もっぱら石油化学プロセス内での自家用燃料として利用するに留まっていた。
本出願人は、この自家用燃料としてしか利用されてこなかったオレフィン製造プロセスで副生する重質油を熱分解処理して、より付加価値の高い自動車用燃料油、暖房用燃料油といったガソリン、灯油、軽油等の中間留分や、高品質コークス燃料や加炭材、アルミニウム精錬用電極、二次電池電極等の炭素材として好適な高純度の石油コークスを製造する方法を提案した(特許文献1及び2)。
【0003】
しかしながら、このオレフィン製造プロセスで副生する重質油を熱分解すると、熱分解装置の加熱炉チューブにコーキングが発生し、ひいてはチューブが閉塞し、熱分解装置を長期間、連続して運転ができなくなるという問題があった。
一方、重質油の熱分解処理などにおいて、コーク生成を抑制する方法として、凝集緩和処理剤の存在下に、予め150〜350℃の温度でアスファルテンの凝集緩和処理を行うことが提案されている(特許文献3)。しかし、この方法は、有機溶媒や有用な石油留分等を凝集緩和剤として用いる必要があり、また新たに加熱設備を設ける必要などがあり、好ましいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−102471号公報
【特許文献2】特開2009−102477号公報
【特許文献3】特開2005−307104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するもので、本発明の目的は、新たな加熱設備などを設けることなく、低コストで、重質油を熱分解する際に、加熱炉チューブでのコーキングを抑制し、連続して、安定的に熱分解装置を長期間に亘って運転する方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、この重質油中では、アスファルテンは、一環、二環の芳香族炭化水素に覆われて安定して分散しているが、加熱によって、重質油中の一環、二環の芳香族炭化水素の含有量が変化することにより、特にアスファルテン分が2%以上あると、このアスファルテン分が会合してスラッジとなって沈降してコーキングを生じるが、驚くべきことに、三環以上の芳香族炭化水素が所定量以上存在すると、このアスファルテン分の分離、会合が防止され、コーキングの発生を抑制できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、本発明は次のとおりである。
(1)芳香族分の含有量が80重量%以上であり、かつ三環以上の多環芳香族分の含有量が25重量%以上、アスファルテン分が2〜20%である原料重質油を、温度400〜600℃、圧力0.01〜1.0MPaで熱分解する重質油の熱分解方法。
(2)前記原料重質油が、オレフィン製造プロセスで副生する重質油に、一環芳香族分と二環芳香族分の合計含有量が60重量%以下で、三環以上の多環芳香族分が40重量%以上の第2の重質油を混合したものである上記(1)に記載の重質油の熱分解方法。
(3)前記第2の重質油が、流動接触分解残渣油及び/又は重質熱分解油である上記(1)又は(2)に記載の重質油の熱分解方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、新たな加熱設備などを設けることなく、低コストで、重質油を熱分解する際に、熱分解装置の加熱炉チューブでのコーキング発生を抑制し、連続して、安定的に熱分解装置を長期間に亘って運転できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の原料重質油は、芳香族分の含有量が80重量%以上、好ましくは85重量%、より好ましくは90重量%以上のものである。芳香族分が80重量%未満であると加熱炉でのコーキングが生じやすくなる。また、三環以上の多環芳香族分の含有量が25重量%以上、好ましくは30重量%以上のものである。三環以上の多環芳香族分の含有量が25重量%未満であると加熱炉でのコーキングが生じやすくなる。
この芳香族分は、TLC法(Thin Layer Chromatography)により測定されるものである。このTLC法は、例えば、クロマトロッド(株式会社三菱化学ヤトロン社製、クロマロッド−SIII)に、試料をチャージし、まずノルマルヘキサンで展開してサチュレート分を分離し、次いでトルエンで展開してアロマ分を分離し、さらにジクロロメタン/メタノール(95:5)でレジン分を展開し、3つのブロックに分離する。その後、薄層自動検出装置(株式会社三菱化学ヤトロン社製、new MK−5)により3つのそれぞれのブロックを水素炎イオン化検出器で定量してサチュレート分、アロマ分、レジン分として測定することができる。また、多環芳香族分はイギリス石油協会規格IP391に準じて測定されるものである。
【0009】
さらに、本発明の原料重質油はアスファルテン分が2〜20%、好ましくは4〜12%のものである。アスファルテン分が20%より多くなると加熱炉でのコーキングが生じやすくなる。アスファルテン分が2%未満だと、コーキングの問題は生じないが、オレフィン製造プロセスで副生する重質油の処理量が減少するため好ましくない。また、加熱炉でのコーキングの発生を抑制するためには、アスファルテン分/三環以上の多環芳香族分の比(重量比)を0.05〜0.5にすることが好ましく、より好ましく0.07〜0.4とするとよい。なお、アスファルテン分は、イギリス石油協会規格IP143に準拠して測定(トルエンに可溶で、n−ヘプタンに不溶な物質の割合)されるものである。
【0010】
また、この原料重質油は、蒸留性状の5%留出温度が150〜250℃が好ましく、170〜230℃がより好ましく、特には180〜210℃が好ましい。95%留出温度は450〜650℃が好ましく、500〜610℃がより好ましく、特には515〜600℃が好ましい。5%留出温度が150℃より低いと熱分解処理した際に低級炭化水素留分(常温常圧でガス状の炭化水素)が多くなり、また、250℃より大きいと原料油の動粘度が高くなるので、流動性を持たせるために加熱する必要が生じ、消費熱量が大きくなり、あまり好ましくない。また、95%留出温度が450℃より低いと熱分解処理した際に得られる360℃以下の中間留分の生成量が低くなり、また、650℃より大きいと残留炭素分が増加し、コークドラム前段の加熱炉でコーキングをおこし易くなるので、あまり好ましいものではない。さらに、50%留出温度は300〜400℃が好ましく、330〜380℃がより好ましい。なお、この蒸留性状は、JISK2254(ガスクロ法)に規定する方法で測定されるものである。
【0011】
この原料重質油中の硫黄分、窒素分は低いほど望ましいが、硫黄分は好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下である。同様に、窒素分は好ましくは0.2重量%以下で、より好ましくは0.1重量%以下である。なお、この硫黄分は、JIS K2541(放射線式励起法、紫外蛍光法)に、窒素分はJISK2609(化学発光法)に規定する方法で測定されるものである。
【0012】
また、原料重質油の動粘度は、ハンドリング性及び流動性を持たせるための加熱にエネルギーを投入しなければならなくなることなどから、50℃における動粘度が、好ましくは5〜500mm/sであり、より好ましくは10〜100mm/s、特には20〜70mm/sである。なお、この動粘度は、JIS K2283に規定する方法で、50℃で測定されるものである。
【0013】
上記原料重質油は、オレフィン製造プロセスで副生する重質油に、一環芳香族と二環芳香族の合計含有量が50重量%以下で、三環以上の多環芳香族分が50重量%以上の第2の重質油を混合することで調製できる。
【0014】
オレフィン製造プロセスで副生する重質油は、特に限定するものではなく、公知の任意のオレフィン製造プロセスを所定の運転条件下で稼動して得られた重質油を用いることができる。オレフィン製造プロセスでは、炭化水素の熱分解により目的とするオレフィン分(エチレン、プロピレン)やバイプロダクトのLPG、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)等のガソリン留分、水素、メタン等のガス分とともに、重質油が生成される。重質油の物性は、オレフィン製造プロセスで処理される原料炭化水素によって異なるが、本発明の重質油は、プロパン、ブタン等のLPG、ナフサ、灯軽油、あるいは減圧軽油などの炭化水素を処理するオレフィン製造プロセスから副生する、いずれの重質油も用いることができる。より好ましくはエチレンクラッカーに代表されるオレフィン製造プロセスから得られる、いわゆるエチレンボトムあるいはエチレンヘビーエンドと称される重質油である。
なお、オレフィン製造プロセスとしては、Lummus法オレフィンプロセスやStone & Webster Eng.社、Kinetics Technology International社、M. W. Kellogg社のプロセスなどが知られており(例えば、石油学会編「石油化学プロセス」、講談社サイエンティフィク、25〜27頁、2001年出版)、これらのいずれのプロセスからの重質油でもあっても好適に用いることができる。
【0015】
オレフィン製造プロセスから得られる、いわゆるエチレンボトムあるいはエチレンヘビーエンドと称される重質油は、芳香族分の含有量は80重量%以上、好ましくは85重量%、であり、一環芳香族と二環芳香族の合計含有量が50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特には70重量%以上、三環以上の多環芳香族分の含有量が25重量%以下、好ましくは5〜20重量%のものである。蒸留性状としては5%留出温度が150〜230℃が好ましく、170〜210℃がより好ましく、95%留出温度は550〜700℃が好ましく、600〜650℃がより好ましい。
【0016】
アスファルテンは、ベンゼン環が5〜6個縮合した縮合環とパラフィン側鎖とからなり、縮合環部分は芳香族炭化水素と、側鎖部分はパラフィン系炭化水素とミセル構造を形成して、油中に分散している。ところで、オレフィン製造プロセスで副生する重質油は、アスファルテン分の含有量が高い割には、三環以上の多環芳香族分が少なく、一環、二環に芳香族分が多いので、縮合環とミセル構造を形成しているのは、比較的軽い一環、二環の芳香族分と考えられる。この比較的軽い一環、二環の芳香族分は、加熱により、容易にミセル構造が解体して、スラッジとして析出し、コーキングが生じるものと推測される。
【0017】
本発明者は、この推測に基づき、アスファルテン分が比較的少なく、三環以上の多環芳香族分の多い重質油を混合した結果、加熱によるスラッジの析出が抑制され、コーキングの発生を防ぐことができたものである。したがって、上記オレフィン製造プロセスで副生する重質油に混合される第2の重質油は、一環と二環芳香族分の合計含有量が少なく、三環以上の多環芳香族分の含有量が多い、すなわち、一環芳香族分と二環芳香族分の合計含有量は60重量%以下が好ましく、より好ましくは50重量%以下、特には40重量%以下で、三環以上の多環芳香族分は40重量%以上が好ましく、より好ましくは50重量%以上、特には60重量%以上の重質油が好ましい。
【0018】
このような第2の重質油としては、流動接触分解残渣油や熱分解重質油が好適である。
流動接触分解残渣油は、通常、重質軽油、減圧軽油、常圧蒸留残渣油を、流動する触媒と約430〜550℃で接触させて分解し、ガソリン留分や軽油留分を生成する流動接触分解装置から副生するスラリーオイル或いはデカンテッドオイルである。このほか、水素化脱硫を経た原料油、例えば、間接脱硫留出油、直脱留出油などを流動接触分解装置で処理して得られたスラリーオイル或いはデカンテッドオイルなども流動接触分解残渣油に含まれる。この流動接触分解残渣油には、一般に、アスファルテン分は数%以下と少なく、一環及び二環芳香族分は合計で20〜40重量%程度、三環以上の多環芳香族分が50重量%以上含まれている。
【0019】
熱分解重質油とは、常圧蒸留残渣油や減圧蒸留残渣油に熱を加えてラジカル反応を主体とした分解反応により得られる留出分のうち、ガス、ガソリン・ナフサ、灯・軽油留分を回収した後の分留温度360℃以上の留出残油である。例えば、ビスブレーキングプロセス、フルードコーキングプロセス、フレキシコーキングプロセス、ディレードコーキングプロセス、ユリカプロセス、HSCプロセス(例えば、石油学会編「石油精製プロセス」、講談社サイエンティフィク、197〜205頁、1998年出版参照)などのプロセスから得られるものが好適である。この熱分解重質油には、一般に、アスファルテン分は数%以下と少なく、一環及び二環芳香族分は合計で10〜30重量%程度、三環以上の多環芳香族分が60重量%以上含まれている。
【0020】
オレフィン製造プロセスで副生する重質油と第2の重質油の混合割合は、それぞれの重質油中の芳香族分、三環以上の多環芳香族分及びアスファルテン分の含有量が、プロセスの種類や処理原料、条件より変動するため、一概には決めることができないが、通常は、オレフィン製造プロセスで副生する重質油を20〜80重量%、第2の重質油を80〜20重量%の範囲で適宜選定でき、混合後の原料重質油中の芳香族分が80重量%以上、三環以上の多環芳香族分が25重量%以上、アスファルテン分が2〜20%になるような割合で混合して調製するとよい。
【0021】
本発明においては、上記原料重質油を熱分解するが、この熱分解は、例えば、ビスブレーキングプロセス、フルードコーキングプロセス、フレキシコーキングプロセス、ディレードコーキングプロセス、ユリカプロセス、HSCプロセスなどのプロセスを用いて行うことができる。
なかでもディレードコーキングプロセスを用いることが好ましい。この場合、ディレードコーキングプロセスの装置構成、運転条件は特に限定されるものではなく、公知の任意の製造装置、運転条件を採用できる。ディレードコーキングプロセスは加熱炉で原料油を加熱してコークドラムに張り込み、そこで蒸し焼き状態で熱分解縮重合反応が行われ、より付加価値の高いガス、分解ガソリン、灯油軽油などの石油留分(熱分解処理油)を生成すると同時に、コークスを製造する装置である。コークスはコークドラム中に堆積していくので、いっぱいになったコークドラムは系から切り離して堆積したコークスを切り出す。空になったコークドラムは、再び加熱された原料油を受け入れて熱分解縮重合反応を行う。ディレードコーキングプロセスは、通常、複数基のコークドラムを備えていて、上記の操作を順繰りに繰り返すことが行われる。
【0022】
上記原料重質油は、反応温度400〜600℃、より好ましくは450〜550℃、反応圧力0.01〜1.0MPa、より好ましくは0.05〜0.5MPaで熱分解される。これらの反応条件は、この範囲内で適宜設定することができるが、熱分解処理油の収率が50重量%以上、特には60重量%以上になるように設定することが好ましい。熱分解の反応温度は、400℃より低いと、熱分解処理油の収率が低くなり、好ましくなく、また600℃を超えると分解ガスの生成量が増加し、好ましくない。反応圧力が、1.0MPaより高いと、熱分解処理油の収率が低くなり、好ましくない。
【0023】
液空間速度は装置の大きさやコークスの生成量を考慮して設定して構わないが、好ましくは0.01〜0.5h−1であり、より好ましくは0.1〜0.3h−1である。
なお、ここで熱分解処理油の収率(wt%)は、次の式(1)によって得られる値を意味する。
熱分解処理油の収率=熱分解油の重量/原料供給量×100 (1)
上記式中、熱分解油の重量は、熱分解実験装置の空冷式コンデンサに回収された油の重量であり、原料供給量は、熱分解装置への原料重質油の供給量(重量)である。
【0024】
前記熱分解は、熱分解処理油の収率が30重量%以上、特には50重量%以上となるようにすることが好ましく、また、得られた熱分解処理油に含まれる360℃以下の留分の比率が65重量%以上となるようにすることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。また、270℃以下の留分が50容量%以上にすることが好ましく、60容量%以上がより好ましい。さらに、150〜270℃の留分が30容量%以上になるようにすることが好ましく、40容量%以上がより好ましく、150〜360℃の留分は60容量%以上となるようにすることが好ましく、70容量%以上がより好ましい。
【0025】
前記熱分解により得た熱分解処理油は、分留、抽出など種々の方法により分画処理することにより、ガソリン、灯油、軽油など各種の燃料油や、又はそれらを製造するための調合用基材等を得ることができる。
熱分解処理油は、蒸留性状の5%留出温度が120〜230℃、特には140〜210℃のものが好ましく、また95%留出温度が、290〜520℃、特には310〜500℃のものが好ましい。この熱分解処理油のうち、360℃以下の留分は、分留をはじめとするその他各種の石油精製手段を用いて上記の各種燃料油、あるいはそれらの基材として分離、調製することができる。また、360℃以上の留分は、上記第2の重質油として、再利用することができる。
【0026】
すなわち、得られた熱分解処理油を分留することにより、例えば、30〜220℃の留分はガソリン基材として、150〜270℃の留分は灯油基材として、また、150〜360℃の留分が軽油基材として、それぞれ回収することができる。また、熱分解処理油の硫黄分は、0.5重量%以下が好ましく、より好ましくは0.2重量%以下であり、また、窒素分は1000重量ppm以下が好ましく、より好ましくは200重量ppm以下である。プロダクト中の硫黄分、窒素分は、原料の重質油の性状に依存するが、含有する不純物量は少ないほど好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、この実施例は本発明を限定するものではない。
各原料油基材としては次のものを用いた。
エチレンボトム油は、原油由来のナフサを熱分解してエチレンを製造するオレフィン製造プロセス(Lummus社、オレフィンプロセス)から得られたエチレンボトム油を用いた。接触分解残渣油Aは、脱硫減圧軽油を原料とし、これをゼオライト触媒を用いて、接触分解して得られた接触分解残渣油を用いた。接触分解残渣油Bは、直留残渣油を原料とし、これをゼオライト触媒を用いて、接触分解して得られた接触分解残渣油を用いた。また、重質熱分解油は、流動接触分解残渣油を中心とする混合油を原料とするディレードコーカープロセスから得られた重質熱分解油を用いた。表1に各種原料油基材の性状を示す。
これらを表2に示す割合で混合した原料重質油を用い、熱分解実験装置により反応圧力0.50MPa、反応温度500℃の条件下で30分間熱分解した。
反応終了後、装置内の熱分解油及び固形分を回収し、目開き0.1μmのフィルターで濾過した。固形分の回収及び固形物の洗浄にはトルエンを使用した。フィルター上の固形分は、乾燥後、測定し、熱分解に供した原料重質油に対する割合として求め、この結果を表2に示した。
なお、熱分解実験装置は、加熱部と冷却部からなる金属製の反応装置であり、加熱部には最大50gの試料を仕込むことが可能な装置であり、冷却部は空冷式のコンデンサである。圧力の調整は窒素によって行った。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
この結果から、原料重質油中にアスファルテン分を2%以上含有していても、芳香族分の含有量が80重量%以上であり、かつ三環以上の多環芳香族分の含有量が25重量%以上であれば、生成する固形分が少なく、コーキングが抑制されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、エチレンクラッカーなどのオレフィン製造プロセスで副生する重質油の熱分解に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族分の含有量が80重量%以上であり、かつ三環以上の多環芳香族分の含有量が25重量%以上、アスファルテン分が2〜20%である原料重質油を、温度400〜600℃、圧力0.01〜1.0MPaで熱分解する重質油の熱分解方法。
【請求項2】
前記原料重質油が、オレフィン製造プロセスで副生する重質油に、一環芳香族分と二環芳香族分の合計含有量が60重量%以下で、三環以上の多環芳香族分が40重量%以上である第2の重質油を混合したものである請求項1に記載の重質油の熱分解方法。
【請求項3】
前記第2の重質油が、流動接触分解残渣油及び/又は重質熱分解油である請求項1又は2に記載の重質油の熱分解方法。

【公開番号】特開2011−63632(P2011−63632A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212635(P2009−212635)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(502053100)石油コンビナート高度統合運営技術研究組合 (72)
【Fターム(参考)】