説明

重金属汚染土壌の浄化方法

【課題】植栽による重金属汚染土壌の浄化方法において、寒冷地から暖地までの広い地域において、大規模面積の重金属汚染の浄化を可能とする技術体系の確立を課題とする。
【解決手段】重金属に汚染された土地に植物を植栽し、生育後の前記植物を植栽地から除去して処理をする重金属汚染土壌の浄化方法において、植栽植物がイネであることを特徴とする重金属汚染土壌の浄化方法であり、前記植栽において、通常の稲栽培に対し窒素の施用量を1.1〜2倍とすることが好ましく、最高分げつ期以降の土壌水分状態を圃場容水量ないし毛管連絡切断含水量程度とすることが好ましい。又、前記イネが、インド型及び/又は日印交雑型品種が好ましく、中でも難脱粒性インド型品種が特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属汚染土地の土壌の浄化方法に関し、更に詳しくは大面積の処理を可能とする浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウム、亜鉛、銅、鉛等の重金属は、一般の土壌中にも微量ながら存在する重金属であるが、鉱山開発等により地中から掘り出され、煤煙や排水等により高濃度に汚染された土地の存在が問題となっている。中でも重金属に高濃度に汚染された農地で栽培された作物の摂取は、健康に悪影響を与えることが知られており、特にカドミウム高含有米の摂取はイタイイタイ病の主要原因とされている。
【0003】
しかし、イタイイタイ病の主要因とされる程の高濃度汚染レベルのほかにも、低濃度汚染レベルの農耕地等が広範囲に存在し、これら重金属に汚染された土地の金属濃度を、より一層低減させることが望まれている。これらの重金属汚染地に対する改善対策としては、客土等の土木工法が最も有望であると考えられるが、10アール当たりの費用が300〜500万円と非常に高コストであること、浄化対象となる土地を全て客土するだけの土壌が不足していること、更に農耕土においては、客土土壌は基本的に肥沃度の極めて低い山土であるため、肥沃な土壌を作るのに長期間を要するなどの問題がある。
【0004】
又、重金属汚染土壌に、重金属結合キレート剤、アミノ酸又はその塩等の化学処理剤を投与する方法(特許文献1及び特許文献2を参照。)や、土壌中に通電しての重金属汚染物質を取り除く方法(特許文献3を参照。) 等が提案されている。しかし農地等のごとく、改善対象の面積範囲が広大である場合には、これらの方法により全ての対象を処理することは事実上不可能である。
【0005】
そこで、高濃度に重金属を吸収する植物を汚染圃場に栽培して汚染土壌を修復する方法(以下ファイトレメディエーションということがある。)が、広範囲な対象への処理を可能とし、且つコスト等の面からも有利であることから着目されている。例えば飼料用ビート(Beta vulgaris var alba)及び、クロタラリア種(Crotalaria juncea)を用いる方法が提案されている (特許文献4を参照。)。しかし該植物は栽培地域が限定され、又は栽培体系が機械化されていないことから、広く国内の農地等を対象とするには不十分である。
【0006】
又、ファイトレメディエーションとして、ケナフ、オクラ、ヒマワリを用いた試験結果が報告されており(特許文献5を参照) 、中でもケナフは、カドミウム吸収量が505g/ha(乾物重量当りカドミウム濃度12.7 mg/kg) と大きかったが、ケナフは乾物生産量が39.7 t/haと莫大で、収穫作業や収穫物の焼却等の収穫後処理に膨大な時間を必要とする。
【0007】
【特許文献1】特開2004−314007号公報
【特許文献2】特開2005−219013号公報
【特許文献3】特開2005−7237号公報
【特許文献4】特開2002−331281号公報
【特許文献5】特開2002−331281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を踏まえ、植栽による重金属汚染土壌の浄化方法において、寒冷地から暖地までの広い地域において、大規模面積の重金属汚染の浄化を可能とする技術体系の確立を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、イネが意外にも多量の重金属を吸収することを見出し、本発明に至った。即ち本発明は以下の通りである。
<1> 本発明は、重金属に汚染された土地に植物を植栽し、生育後の前記植物を植栽地から除去して処理をする重金属汚染土壌の浄化方法において、植栽植物がイネであることを特徴とする重金属汚染土壌の浄化方法である。
<2> 前記植栽において、通常の稲栽培に対し窒素の施用量を1.1〜2倍とすることが好ましく、最高分げつ期以降の土壌水分状態を圃場容水量ないし毛管連絡切断含水量程度とすることが好ましい。
<3> 前記イネが、インド型及び/又は日印交雑型品種が好ましく、中でも難脱粒性インド型品種が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
イネを栽培することにより、特に畑条件及び/又は最高分げつ期以降の土壌水分状態を圃場容水量ないし毛管連絡切断含水量程度で栽培することにより、植物体地上部にカドミウム等の重金属が蓄積され、地上部を収穫することにより、効率的に汚染された土壌中の重金属類を除去することが可能である。イネの地上部カドミウム収奪量はケナフに匹敵し、乾物生産量はケナフの1/2以下であり、収穫後の処理においても有利である。更にイネは機械による大規模栽培体系が確立されており、大面積を対象として極めて効率的に浄化処理をすることができる。又本発明は、寒冷地から暖地まで普遍的に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、重金属汚染土壌を含有する土地に植物を植栽し、生育後の前記植物を植栽地から除去して処理をする重金属汚染土壌の浄化方法において、植栽植物がイネ(Olyza sativa L.)であることを特徴とする重金属汚染土壌の浄化方法である。以下本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、イネを栽培し得る条件を具備した土地であれば、農地に限らず、カドミウム、亜鉛、鉛、銅等の重金属、又はそれらの化合物による汚染地に用いることができる。前記重金属の濃度が極めて高いときは、イネは重金属の過剰吸収により途中で枯死することがあるが、その場合においても枯死前に刈り取ることにより、土壌金属を浄化することができる。したがって高濃度汚染土地においては、本発明を何年か継続実施することにより土壌中の金属を浄化することができる。しかし本発明は、前記重金属に軽度に汚染された土地に対し、特に有効であり、前記汚染の程度としては、土壌中のカドミウム濃度が5 mg/kg、同銅濃度が30 mg/kg、同鉛濃度が100 mg/kg、同亜鉛濃度が200 mg/kg以下の範囲が好ましい。
【0013】
本発明に用いられるイネは、根の地下部への伸張が地下30cm程度であるため、本発明は前記重金属が地下30cm以内に存在することが好ましい。又本発明は、機械を効率的に使用できる大面積圃場において、より効果的に用いることができ好ましい。
【0014】
本発明に用いられるイネの栽培は、通常の稲作と同様に、土地を10〜15cm耕起して行なうが、施肥は通常の稲作の窒素施用量に対し1.1〜2倍とすることが好ましく、1.3〜1.7倍がより好ましい。
【0015】
前記土地が水田のように湛水することが可能なときは、通常の稲作と同様に育苗をして、苗を移植することが好ましい。該移植の際の裁植密度は、移植機等の機械の利用を考慮すると、通常の稲作と同程度することが好ましい。前記土地が畑地のように湛水することが不可能なときは、種子を直接該土地に播種する。該播種は条播とし、裁植密度は通常の陸稲作の裁植密度(条間60cm)に対して150〜250%の密植とすることが好ましく、特に条間を25〜30cm程度にすることが好ましい。
【0016】
前記土地が水田等の湛水状態の場合は、移植後も湛水を維持し、最高分げつ期に落水して、以後の土壌水分状態を圃場容水量ないし毛管連絡切断含水量程度とし、土壌を酸化的に保つことが、重金属(特にカドミウム)が可溶化し作物に吸収されやすくなるため好ましい。前記土地が畑状態の場合は、水田と同様の栽培中の水分管理は困難であるが、イネの生育ステージとして最高分げつ期以降は過度の潅水を避けて、土壌を酸化的に保つことが好ましい。
【0017】
前記イネ(Olyzasativa L.)は、ジャポニカ種、インド型種、ジャワニカ種等のいずれのイネも用いることができるが、中でもインド型もしくは日印交雑型のイネ品種が、重金属の吸収量が多くより好ましい。特に、「IR8」、「モーれつ」、「ミナミユタカ」等のインド型種の品種が好ましい。
【0018】
本発明において、植栽したイネは、生育ステージとして糊熟期〜黄熟初期を過ぎると脱粒することがあるため、糊熟期〜黄熟初期に収穫することが好ましい。しかし「ミナミユタカ」のような難脱粒性品種の場合は、完熟期まで収穫を待つことができ、重金属吸収量も増加するため、前記インド型品種の中でも一層好ましい。
【0019】
前記収穫後のイネは、植栽圃場から除去した後に、乾燥、焼却し、焼却灰を回収することにより重金属を土壌から浄化することができる。
【実施例】
【0020】
以下本発明の更に具体的な内容を、実施例に基づき説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
水田及び転換畑で栽培され、機械による栽培体系が確立されているイネ、ダイズ、トウモロコシを供試作物として、ポットによるカドミウム吸収試験を行った。試験は2002年と2003年の6月〜8月に、茨城県つくば市の(独)農業環境技術研究所内温室において、700 mlサイズのポットを用いて行った。前記ポットに汚染土壌として、汚染源が亜鉛精錬工場由来の煤煙とされる灰色低地土(以下土壌Aという。)、汚染源が廃鉱山の排水とされる黒ボク土(以下土壌Bという。)、汚染源が廃鉱山の排水とされる灰色低地土(以下土壌Cという。)、汚染源が亜鉛精錬工場由来の煤煙とされる黒ボク土(以下土壌Dという。)の各土壌を、作土層として深さ15cmまでを採取し、実施例1の汚染土壌として供試した。
【0021】
前記土壌Aの重金属濃度は、カドミウム1.7mg/kg、銅5.2mg/kg、鉛8.0mg/kg、亜鉛46.0mg/kgで、土壌Bの重金属濃度は、カドミウム2.9mg/kg、銅6.6mg/kg、鉛4.8mg/kg、亜鉛22.3mg/kgで、土壌Cの重金属濃度は、カドミウム0.3mg/kg、銅5.1mg/kg、鉛14.6mg/kg、亜鉛9.1mg/kgで、土壌Dの重金属濃度は、カドミウム9.8mg/kg、銅22.3mg/kg、鉛37.8 mg/kg、亜鉛381.4mg/kgであった。前記土壌の重金属濃度の測定は、風乾後、2mmのふるいを通し、0.1 mol /l塩酸抽出法(土壌環境分析法、博友社、349-353ページ)に準じて行った。分析値は絶乾土(105℃乾燥)換算値で示した。
【0022】
供試品種として、イネがジャポニカ品種である「日本晴」(入手先:JA全農)、及び日印交雑型品種である「密陽23号」(入手先:農業生物資源ジーンバンク)を、ダイズは「エンレイ」(入手先:カネコ種苗)及び「スズユタカ」(入手先:佐藤政行種苗)を、トウモロコシは「ゴールドデント」(入手先:カネコ種苗)をそれぞれ用いた。
【0023】
前記各土壌600 mlを充填した前記ポットを用いて、前記供試品種を2年間連続栽培した。1年目は全ての供試品種について生育期間を統一するために、栽培期間を2ヶ月間とした。
【0024】
前記ポットには肥料を、窒素、リン酸、カリ、苦土石灰(kg/10a)として、ダイズが4−30−20−100(炭酸カルシウムでpH6に矯正後に施用)、イネ、トウモロコシが20−20−20−100の割合で施用した。ポット試験のため、各供試作物の標準施肥量の倍量を施用した。
【0025】
前記施肥後、イネは各10粒、ダイズとトウモロコシは各4粒づつポットに播種し、3週間後に間引きを行ない、ポットあたりイネは5本立て、ダイズとトウモロコシは2本立てとした。各処理は4反復とし、それらの平均値を各処理の測定値とした。
【0026】
前記ポットの水分は、栽培期間中、畑状態に近似した圃場容水量の水分状態を維持するよう潅水し栽培した。畑状態に近似しての栽培としたのは、土壌が酸化的に保たれることにより、重金属(特にカドミウム)が可溶化し作物に吸収されやすくなるためである。
【0027】
前記各供試品種について、8月下旬(トウモロコシ:絹糸抽出期、ダイズ:開花終了期、イネ1年目:最高分げつ期)に、土表面から1cm以上を植物体地上部として収穫し、各供試品種の土壌中からの重金属の吸収量を測定した。該植物体地上部収穫後、ポットの土壌から根を取り除き風乾後、一部を土壌中重金属の分析に供した。
【0028】
前記測定は、地上部全体を通風乾燥機により乾燥し(60℃、48時間)、電子天びんにより乾物重量を測定した。又、地上部重金属濃度は、乾燥した植物体を粉砕し、硝酸−過塩素酸−硫酸法(各強酸を3:1:1の割合で混合:植物栄養実験法、博友社、125-128ページに準ずる)により分解し、分解液をICP発光分析装置(Varian社製)で測定した。地上部重金属吸収量は、乾物重量に地上部重金属濃度を掛けて算出した。
【0029】
前記土壌中重金属の分析に供した残りの土壌は、各処理ごとに4反復分を混和した後に4分割し、各ポットの根量を統一するため1cmに切断した前作の根を各5gづつ添加して、2年目の栽培土壌とした。2年目は、収穫時の生育ステージを生殖成長期に統一するために、栽培期間をイネのみ3ヶ月、他は2ヶ月とした以外は、1年目と同様の栽培方法を行なった。
【0030】
前記各供試品種について、トウモロコシ、及びダイズは1年目と同様の8月下旬に、イネは9月下旬(出穂期)に、1年目と同様に収穫、乾物重量、地上部重金属濃度の測定を行ない、地上部重金属吸収量を算出した。1年目及び2年目の結果について、地上部重金属濃度を表1に、植物体乾物重量とポットあたりの植物体地上部吸収量を表2に示す。なお表1以降の表中の「n.d.」は検出限界以下であることを示す。
【0031】
又、2年目栽培終了後の前記ポットの残土について、栽培前と同様にして土壌中の重金属濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表1、及び表2の結果より、各植物体地上部の重金属濃度は土壌A、B、C、Dともに、鉛以外のいずれの金属に対しても、イネが最も高く、トウモロコシが銅を除き最も低い結果となった。各植物体地上部の重金属吸収量は、土壌A、B、Cでは、いずれの金属に対しても、イネが最も高く、トウモロコシが銅を除き最も低い結果となった。年次間においては、トウモロコシやダイズでは1年目に対し、2年目の地上部重金属吸収量が低下したのに対し、イネは1年目に対し、2年目の地上部金属吸収量の低下は見られなかった。土壌Dでは1年目は全ての重金属においてイネの地上部吸収量が最も低かった。しかし、2年目では全ての重金属においてイネの地上部吸収量が最も高かった。総体的にイネの地上部吸収量が高く、中でも「密陽23号」の地上部吸収量は最も高かった。
【0036】
前記土壌Dで1年目のイネの地上部吸収量が低かったのは、土壌Dの重金属汚染の程度が大きいため、重金属汚染による生育障害を生じたためと思われ、土壌Dにおける1年目のイネの生育は、生育後半に葉色が緑色から黄色さらに白色へと退色し、乾物重も低くなった。なお、トウモロコシ、ダイズは全ての土壌で順調な生育を示し、表2に示されるとおり、1年目のほうが2年目より乾物重が高かった。しかしイネは、全ての土壌で2年目のほうが1年目より乾物重が高かった。
【0037】
表3の結果より、植物間においてはイネの土壌浄化能力が高く、重金属間においてはカドミウム、亜鉛への効果が特に高く、銅、鉛については土壌浄化が顕著には認められなかった。
実施例1の結果より、イネの重金属吸収能力が高いことから、以後国内各地の各種の圃場において、各種イネ品種を用いて実施例2〜4を行った。
【0038】
<実施例2>
温暖地、水田条件下で重金属吸収試験を行った。圃場として九州地方の水田を用いた。該水田は亜鉛精錬工場由来の煤煙による重金属汚染圃場である。該圃場の深さ15cmまでの土壌を作土層として採取し、土壌分析の対象とした。土壌重金属濃度は実施例1と同様の測定方法により測定した。該土壌の重金属濃度は、カドミウム2.7mg/kg、銅 8.2 mg/kg、鉛 13.7 mg/kg、亜鉛 81.7 mg/kgであった。
【0039】
供試イネ品種として、日印交雑型品種「密陽23号」(入手先:農業生物資源ジーンバンク)、インド型品種「IR-8」(入手先:農業生物資源ジーンバンク)及びインド型品種「モーれつ」(入手先:キリンビール)を用いた。
【0040】
施肥については、窒素、リン酸、カリ(kg/10a)で14−10−10の割合で行った。通常のイネ栽培における標準的な施用量は、窒素、リン酸、カリで10−10−10であり、前記窒素施用量が通常の水稲栽培の1.4倍とした。
【0041】
該圃場の水管理として落水時期を変えた、1区:イネの生育ステージとしては最高分げつ期である7月29日、2区:穂ばらみ期〜幼穂形成期である8月23日、3区:穂揃い期〜出穂期である9月16日、に落水を行ない、各区ともに以後の湛水は行なわなかった。
【0042】
前記各区の大きさは7m×15mとし、さらに各区を3分割した小区画(7m×5m)に、イネを1品種づつ作付けした。各処理の反復数は1とした。前記イネ各品種の移植を6月下旬に行った。3品種ともに、株間15cm、畝間30cmで行ない、栽植密度は22.2株/mと通常の水稲栽培と同程度とした。
【0043】
前記イネ各品種は、10月中旬(黄熟〜完熟期)に土表面から5cm以上を植物体地上部として、各小区画の中の2地点から10株づつサンプリングを行ない、2地点の平均値を各小区画の測定値とした。各供試品種ともに若干の脱粒が認められ、中でも完熟期に達していた「密陽23号」が多かった。収穫物について、実施例1と同様の方法により地上部重金属濃度、及び地上部乾物重量を測定し、地上部重金属吸収量を算出した。結果を表4に示す。又、収穫後の一つの稲株を中心に含むように15cm×30cm×深さ15cmのブロック状に土壌を採取し、稲株と根を除去し、2mmのふるいを通したものを実施例1と同様の手法で土壌中のカドミウム濃度を測定した。土壌の場合も地上部と同様に、各小区画の中の地上部を収穫した2地点から土壌のサンプリングを行ない、その平均値を各小区画の測定値とした。結果を表5に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
表4の結果から、各品種ともに落水時期が早期であるほど、イネ地上部の重金属吸収量が増加した。特に落水時期の遅い3区は、各品種ともに1区に対して1割〜2割の吸収量に過ぎなかった。品種間においては、「モーれつ」が、カドミウム、銅、亜鉛のいずれの金属に対しても高い吸収量を示した。地上部乾物生産量は、3品種ともに15 t/ha以下であり、ケナフの1/2以下であった。1区の「モーれつ」の地上部カドミウム濃度は26.4 mg/kgで、ケナフ(12.7mg/kg、特許文献5を参照)の約2倍であった。
【0047】
表5の結果から、各品種ともに、落水時期が早期であるほど、土壌の浄化能力が高いことが示された。特にインド型品種である「IR-8」及び「モーれつ」のカドミウムに対する浄化能力が高った。
【0048】
<実施例3>
寒冷地、水田条件下での重金属吸収試験を行った。圃場として東北地方の廃鉱山由来の排水による重金属汚染水田2箇所(以下圃場A、及び圃場Bという。)を用いた。土壌重金属濃度は、圃場Aがカドミウム1.0 mg/kg、銅11.8 mg/kg、鉛30.6 mg/kg、亜鉛25.3 mg/kgで、圃場Bがカドミウム1.6 mg/kg、銅18.6mg/kg、鉛28.9 mg/kg、亜鉛69.2 mg/kgであった。該土壌重金属濃度は実施例2と同様の採取、測定方法により測定した。
【0049】
供試イネ品種として、圃場Aは日印交雑型品種「密陽23号」、インド型品種「IR-8」、インド型品種「モーれつ」を用い、圃場Bは前記3品種に加え、日印交雑型品種「はばたき」を用いた。圃場Aの場合、1区画の大きさは15m×15mで、さらに3分割した小区画(15m×5m)に、イネを1品種づつ作付けした。これを3区画用意し各処理の反復数を3とした。圃場Bの場合、1区画の大きさは17m×18mで、さらに4分割した小区画(17m×4.5m)に、イネを1品種づつ作付けした。これを3区画用意し各処理の反復数を3とした。
【0050】
施肥については、両圃場ともに、窒素、リン酸、カリ(kg/10a)で14−10−14.5の割合で行った。窒素及びカリ施用量をコシヒカリ等の水稲品種の施肥量10−10−10の約1.5倍とした。
【0051】
前記イネ各品種の移植を5月下旬に行なった。各品種ともに、株間15cm、畝間30cmで行ない、栽植密度は22.2株/mと通常の水稲栽培と同程度とした。前記イネ各品種の落水時期を7月下旬(最高分げつ期)に設定し、それ以後湛水は行なわなかった。
【0052】
前記イネ各品種は10中旬(出穂期〜黄熟期)に、土表面から5cm以上を植物体地上部として、各小区画の中の2地点から10株づつサンプリングを行ない、2地点の平均値を各小区画の測定値とし、3小区画分のデータの平均値を各処理の測定値とした。「IR-8」は出穂期であったため脱粒はみられなかったが、その他の各供試品種に関しては、若干の脱粒が見られた。
【0053】
前記収穫物について、実施例1と同様の測定方法により地上部重金属濃度、及び地上部乾物重量を測定した。結果を表6に示す。又、収穫後の土壌中のカドミウム濃度を実施例2と同様の方法により測定した。土壌についても地上部と同様に、各小区画の地上部を収穫した2地点からサンプリングを行ない、その平均値を各小区画の測定値とし、3小区画分のデータの平均値を各処理の測定値とした。結果を表7に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
表6の結果から、寒冷地においても各金属ともに「モーれつ」が高い吸収量を示し、特にカドミウム、亜鉛において極めて高い吸収量を示した。地上部乾物生産量は、全てのイネ品種において両圃場ともに11 t /ha以下であり、ケナフの1/4以下であった。「モーれつ」の地上部カドミウム濃度は30.5mg/kg(圃場A)及び49 mg/kg(圃場B)で、ケナフの約2倍〜4倍であった。しかし表7の結果からは、実施例2に比較して、カドミウムの地上部吸収量は高い値であるが、土壌の浄化効果は低かった。これは実施例3では処理の反復数を3としており、反復数間のばらつきが大きかったためと、作土層だけでなく深さ15cm以下の下層土から重金属を吸収した可能性があるためと考えられる。
【0057】
<実施例4>
温暖地、畑条件下で重金属吸収試験を行った。圃場として九州地方の水田転換畑を用いた。該畑地は、亜鉛精錬工場由来の排煙による重金属汚染圃場である。該畑地の土壌重金属濃度は、カドミウム1.7 mg/kg、銅 6.0 mg/kg、鉛 9.1 mg/kg、亜鉛 48.0 mg/kgであった。該土壌重金属濃度は実施例2と同様の採取、測定方法により測定した。
【0058】
供試イネ品種、及び施肥については、実施例2と同様とした。試験区の大きさは10m×15mで、さらに3分割した小区画(10m×5m)にイネを1品種づつ作付けした。各処理の反復数は1とした。前記イネ各品種の栽培は、播種を6月上旬に行った。播種は条播で行ない、条間を通常陸稲栽培の条間60cmの約半分である30cmとした。又、播種後に陸稲用除草剤を土壌表面に施用した。
【0059】
畑条件の場合、栽培中の水分供給は播種後イネの全生育期間を通じて自然降雨を基本とするが、晴天が長期間続く場合は、必要に応じ潅水を行なう必要がある。しかし、本試験中は降雨量で生育に必要水分が満たされたため、潅水は行なわなかった。
【0060】
前記イネ各品種は10月下旬(黄熟から完熟期)に土表面から5cm以上を植物体地上部として収穫した。前記イネ各品種は10月中旬(黄熟〜完熟期)に土表面から5cm以上を植物体地上部として、各小区画の中の2地点から10株づつサンプリングを行ない、2地点の平均値を各小区画の測定値とした。各供試品種ともに若干の脱粒が認められ、特に完熟期に達していた「密陽23号」が多かった。収穫物について、実施例1と同様の方法により地上部重金属濃度、及び地上部乾物重量を測定し、地上部重金属吸収量を算出した。結果を表8に示す。又、収穫後の土壌中のカドミウム濃度を実施例2と同様の方法により測定した。結果を表9に示す。
【0061】
【表8】

【0062】
【表9】

【0063】
表8の結果から、地上部乾物生産量は、3品種ともに12 t/ha以下であり、ケナフ(39.7 t/ha、特許文献5を参照)の1/3以下であった。地上部カドミウム濃度は、3品種ともにケナフ(12.7mg/kg、特許文献5を参照)の倍以上で、特にインド型品種である「IR-8」及び「モーれつ」の地上部カドミウム濃度は約52mg/kgと、ケナフの約4倍であった。地上部カドミウム吸収量は「IR-8」で608 g/ha、「モーれつ」で497 g/haであった。銅、亜鉛に関しても、「モーれつ」の吸収量が最も高かった。
【0064】
表9の結果から、各品種ともに高い土壌浄化能力を示した。「密陽23号」より地上部カドミウム吸収量が高い「IR8」や「モーれつ」の浄化能力が「密陽23号」より低いか同等であるのは、作土層だけでなく深さ15cm以下の下層土からも重金属を吸収している可能性があるためと思われる。
【0065】
<実施例5>
易脱粒性インド型品種「モーれつ」(入手先:キリンビール)とその突然変異による難脱粒性品種「ミナミユタカ」(入手先:宮崎県総合農業試験場)のポットによるカドミウム吸収試験を行った。試験は2005年の6月〜10月に、茨城県つくば市の(独)農業環境技術研究所内温室において、1/5000ワグネルポットを用いて行った。
【0066】
前記ポットに汚染土壌として、汚染源が不明であるが重金属濃度が、カドミウム0.5 mg/kg、銅34.6 mg/kg、鉛8.4 mg/kg、亜鉛17.7mg/kgである灰色低地土(土壌Eという。)と、汚染源が廃鉱山の排水とされる、重金属濃度がカドミウム0.9 mg/kg、銅11.7mg/kg、鉛33.8mg/kg、亜鉛24.9 mg/kgである灰色低地土(土壌Fという。)と、汚染源が廃鉱山の排水とされる、重金属濃度がカドミウム1.6 mg/kg、銅23.2mg/kg、鉛30.7 mg/kg、亜鉛67.7 mg/kgである灰色低地土(土壌Gという。)を用いた。各土壌は作土層として深さ15cmまでを採取したものである。該土壌重金属濃度は実施例1と同様の測定方法により測定した。
【0067】
前記土壌E、土壌F、土壌Gを前記ワグネルポットに2.5kgづつ充填し、施肥について、窒素、リン酸、カリで20−20−20(kg/10a)の割合で施用した。各イネは3週間育苗した後、3粒を1本として各ポットに移植した。移植後は湛水条件で栽培し、7月下旬(最高分げつ期)に落水して、それ以後の潅水は底面給水法で行なった。各処理は3反復で行なった。
【0068】
前記イネ各品種は10中旬(黄熟期)と11月上旬(完熟期)に土表面から5cm以上を植物体地上部として収穫し、実施例1と同様の測定方法により地上部重金属濃度、及び地上部乾物重量を測定した。結果を表10に示す。
【0069】
【表10】

【0070】
表10の結果から、「モーれつ」、「ミナミユタカ」ともに黄熟期より完熟期において、地上部の重金属吸収量、特にカドミウム吸収量が高かった。又、収穫時期が同一の場合「モーれつ」より「ミナミユタカ」のほうが地上部の重金属吸収量、特にカドミウム吸収量が高かった。「モーれつ」は易脱粒性なので収穫が完熟期であるとほとんどのもみが脱粒し、落下した籾の吸収量分が低下するともに脱粒したイネが翌年雑草化する危険が生じるため、完熟期の収穫は好ましくない。したがって地上部重金属吸収量が最大となる完熟期に収穫しても脱粒の可能性が極めて低い難脱粒性の「ミナミユタカ」がファイトレメディエーションに用いるイネ品種として望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、温暖地から寒冷地までの日本国内の広い範囲において、効率的に重金属汚染土壌を浄化することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属に汚染された土地に植物を植栽し、生育後の前記植物を植栽地から除去して処理をする重金属汚染土壌の浄化方法において、植栽植物がイネであることを特徴とする重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
前記植栽において、一般の稲栽培に対して窒素の施用量を1.1〜2倍とする請求項1に記載された重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記植栽において、最高分げつ期以降の土壌水分状態を圃場容水量ないし毛管連絡切断含水量程度とする請求項1又は請求項2に記載された重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
前記土地が農地である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
前記イネがインド型及び/又は日印交雑型品種である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項6】
前記イネが難脱粒性インド型品種である請求項5に記載された重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項7】
前記生育後の植物を植栽地から除去した後に、除去物を焼却し焼却物を回収する処理方法である請求項1乃至請求項6のいずれかに記載された重金属汚染土壌の浄化方法。




【公開番号】特開2007−209894(P2007−209894A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32490(P2006−32490)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】