説明

野球ボール用表皮材

【課題】本発明の目的は、野球に使用できる耐久性があり、またボールを掴む感触も良好な野球ボール用表皮材を提供することにある。
【解決手段】本発明は、基体層(1)、バインダー層(2)およびフィルム層(3)がこの順序に配置され、基体層(1)は、繊維絡合体と多孔質高分子弾性体からなる含浸層(1−a)を有し、フィルム層(3)は、100%モジュラスが4〜8MPaの高分子弾性体および無機粒子を含有し、無機粒子の含有量が20〜50重量%であり、厚みが20〜150μmであることを特徴とする野球ボール用表皮材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は野球ボール用表皮材であって、耐久性が良好で、ボールを掴む感触が良好な表皮材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬式野球ボールの表皮材としては、野球規則1.09において「ボールはコルク、ゴムまたはこれに類する材料の小さい芯に糸を巻きつけ、白色の馬皮または牛皮二片でこれを包み、頑丈に縫い合わせて作る。重量は5ozないし5oz1/4(141.7g〜148.8g)、周囲は9inないし9in1/4(22.9cm〜23.5cm)とする。」と規定されている。従来から、ほとんどの場合、天然皮革である牛皮が用いられている。
しかし天然皮革の表皮材の場合、1枚ごとの強度のバラツキがあったり、またボールが雨に濡れた場合においては、水分を吸収してボール重量が変化したり、表皮材が伸び縮みすることでボール表面が変形したりするなどの欠点を持っている。このため練習用の野球ボールにおいては、雨に濡れて使用することが可能で、安価で長期に使用可能なものが求められており、天然皮革の上記のような欠点に対して従来から改善の要望があった。
【0003】
特許文献1には、天然皮革の上記の欠点を改善するため、表皮材として天然皮革に代えて合成繊維と高分子弾性体からなる人工皮革を使用し、ボールの吸水を下げる方法が提案されている。しかし天然皮革の表面が、コラーゲン繊維を型押しや樹脂処理で仕上げたもので、汗等で指が濡れた場合においても、ボールを投げたり、また掴む場合にボールが滑り難く感触が良好である特性を持っているのに対し、人工皮革の表皮は、ウレタン等の均一な高分子弾性体樹脂で覆われていることから、従来の天然皮革と感触が異なり、汗等で滑り易いという問題があった。
また、特許文献2、特許文献3には、汗等による滑り易さを改善する方法として、表面の多孔質層にミクロホールを設けて汗等を吸収させて滑り難くする方法が提案されている。また特許文献4には、表面に立毛層を設け、その立毛面にノンスリップ性を付与する樹脂が非連続状に付与し、内部に通じる孔を有することで、滑り難くする方法が開示されている。しかし、これらの方法は、表面は滑り難いものとなるが、野球において必要な表面の耐久性が確保できないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−210043号公報
【特許文献2】特開2000−328465号公報
【特許文献3】特開2004−277961号公報
【特許文献4】特開平9−87974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、野球に使用できる耐久性があり、かつボールを掴む感触も良好な野球ボール用表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定のモジュラスを有する高分子弾性体中に、特定量の無機粒子を含有させ、特定の厚みを有するフィルム層を表層に形成することにより、耐久性およびボールを掴む感触が良好な野球ボール用表皮材が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、以下の発明を包含する。
1. (i)基体層(1)、バインダー層(2)およびフィルム層(3)がこの順序に配置され、
(ii)基体層(1)は、繊維絡合体と多孔質高分子弾性体からなる含浸層(1−a)を有し、
(iii)フィルム層(3)は、100%モジュラスが4〜8MPaの高分子弾性体および無機粒子を含有し、無機粒子の含有量が20〜50重量%であり、厚みが20〜150μmである、
ことを特徴とする野球ボール用表皮材。
2. 基体層(1)は、含浸層(1−a)の上に高分子弾性体からなるコート層(1−b)を有する前項1記載の野球ボール用表皮材。
3. フィルム層(3)の上にグリップ剤が塗布された前項1または2記載の野球ボール用表皮材。
4. バイレック法24時間(JIS L1907)での吸水速度が5mm以下の前項1〜3のいずれか一項に記載の野球ボール用表皮材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の野球ボール用表皮材は、野球に必要な耐久性があり、かつボールを掴む感触が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の野球ボール用表皮材は、基体層(1)、バインダー層(2)およびフィルム層(3)がこの順序に配置されている。以下、これらの層について説明する。
【0010】
<基体層(1)>
基体層(1)は、繊維絡合体と多孔質高分子弾性体からなる含浸層(1−a)を有する。
繊維絡合体に用いられる繊維としては、ポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの再生繊維、あるいは天然繊維などを挙げることができる。これらの繊維は単独または混合して用いることができる。ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維が好ましい。ポリエステル系繊維は、吸水率が低いので、水分を吸収し難く、さらには水分吸水による伸び、水分発散による縮みが少なくなる。そして、このような繊維は、カード、ウェバー、レーヤー、ニードルパンチングなど公知の手段で不織布などの繊維絡合体とすることができる。
【0011】
含浸層(1−a)に含まれる多孔質高分子弾性体としては、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリエステルエラストマー、合成ゴムなどを挙げることが出来る。中でもポリウレタンエラストマーが好ましい。強度と衝撃吸収性をバランスさせるために、含浸層(1−a)に用いられるポリウレタンエラストマーの100%伸長応力は、好ましくは5〜15MPa、より好ましくは8〜12MPaである。さらには多孔質にするために、湿式凝固用ポリウレタンなどが好ましく用いられる。
含浸層(1−a)の厚さは、好ましくは0.7〜3.0mm、より好ましくは1.0〜2.0mmである。
含浸層(1−a)は、例えば、繊維絡合体に高分子弾性体の溶液を含浸させた後、湿式凝固させて得ることができる。
【0012】
また基体層(1)は、含浸層(1−a)の上に高分子弾性体からなるコート層(1−b)を有することが好ましい。高分子弾性体は、含浸層(1−a)に含まれる高分子弾性体として例示されたものと同じものを用いることができる。高分子弾性体は多孔質であることが好ましい。
コート層(1−b)の厚さは、好ましくは50〜350μm、より好ましくは150〜250μmである。
コート層(1−b)は、繊維絡合体に高分子弾性体の溶液を含浸させ湿式凝固させる前の含浸層(1−a)の上に、高分子弾性体の溶液を塗布した後、湿式凝固させて得ることができる。
基体層(1)は、コート層(1−b)の上を研磨処理し、コート層(1−b)面の接着性を向上されたものが好ましい。
また、基体層(1)は水分を吸収し難くするために、フッ素系・シリコン系の樹脂で撥水処理されていることが好ましい。より好ましくは、含浸層(1−a)、コート層(1−b)の高分子弾性体にフッ素系の樹脂を添加する方法が挙げられる。
【0013】
<フィルム層(3)>
本発明の野球ボール用表皮材は、フィルム層(3)を有する。
フィルム層(3)は、100%モジュラスが4〜8MPa、好ましくは5〜7MPaの高分子弾性体から構成される。この範囲の高分子弾性体よりモジュラスが高い場合、表面に硬さを感じてボールを掴む感触が悪くなる。またよりモジュラスが低い場合は、粘着感が強すぎて、ボールを投げにくくなる、また耐摩耗性も劣るものとなる。
フィルム層(3)に、好ましく使用される高分子弾性体としては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。特にポリウレタン樹脂が好ましい。
フィルム層(3)が、100%モジュラスが4〜8MPaの高分子弾性体のみからなると、ボール用としては粘着感が強すぎ、また、ボール表面が濡れた場合、表面に引っかかりがなく、ボールが滑りやすくなる。
そこで本発明の野球ボール用表皮材は、フィルム層(3)が無機粒子を含有し、その含有量が20〜50重量%、好ましくは25〜35重量%である。表面にこのように多量の無機粒子を含有することで、表面に引っかかりができ、ボール表面が濡れた場合でも、ボールが滑りにくくなる。無機粒子の含有量を多くすると、表面が削れやすい傾向がでてくる、また少ないと表面の引っかかりも少なくなる。
【0014】
無機粒子としては、無機顔料、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、シリカ等、一般に用いられるものであれば特に制限は無い。特に、顔料として使用する酸化チタンが好ましく、また一般に硬式野球ボールは白く、酸化チタンの白が適している。
フィルム層(3)の厚みは、20〜150μm、好ましくは30〜100μm、より好ましくは35〜50μmである。フィルム層(3)が20μm以上あることで、野球のプレーで表面が少し削れた場合でも、ボールを掴む感触の変化が少なく、また、フィルム層(3)に多量の無機粒子と20μm以上の厚みがあることで、弾性体の柔らかさも感じやすくグリップ感がでる効果がある。またフィルム層(3)が150μm以上になると、無機粒子が多い部分のフィルム層(3)が厚くなり表面がもろくなってしまう。
フィルム層(3)の厚みを所定の範囲にすること、および基体層(1)のクッションによって、本発明の野球ボール用表皮材を使用した野球ボールは、天然皮革の野球ボールと比べて、実際の練習で使用した場合、およそ1.5倍近い耐久性が得られる。フィルム層(3)がこの厚みより薄い場合は、フィルム層(3)の耐久性が低くなり、反対にフィルム層(3)がこの厚みより厚い場合は、表皮のタッチがフィルム層(3)だけのものとなり、基体層(1)のクッション感が損なわれるものとなる。
野球ボール用表皮材の強度や屈曲性改善のために、フィルム層(3)とバインダー層(2)との間に中間層(4)を形成することもできる。中間層(4)に、好ましく使用される高分子弾性体としては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。特にポリウレタン樹脂が好ましい。中間層(4)は複数形成してもよい。本発明では、最も表側の層をフィルム層(3)と呼ぶ。
【0015】
<バインダー層(2)>
本発明の野球ボール用表皮材は、基体層(1)とフィルム層(3)とを接着させるためにこれらの間にバインダー層(2)を有する。
バインダー層(2)の樹脂としては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂等の公知の高分子弾性体を挙げることができる。特にポリウレタン樹脂が好ましい。
バインダー層(2)は、柄によって厚みに凹凸があってもよいが、その厚みは、好ましくは平均厚さで30〜250μm、より好ましくは40〜100μmである。
フィルム層(3)とバインダー層(2)との厚みの合計は、中間層がある場合にはその厚みも加えて最も薄くなる部分において、50μm以上が好ましく、さらに好ましくは70μm以上である。また最も厚くなる部分において、300μm以下が好ましく、さらに好ましくは200μm以下である。
フィルム層(3)およびバインダー層(2)は、基体層(1)の上に転写(ラミネート)方式によりコートして形成することができる。この場合、まず離型紙等の転写ベース上に転写するフィルム層(3)を形成する。即ち離型紙上に、高分子弾性体の塗布液をコートし、乾燥することで、離型紙上にフィルム層(3)を作成する。この際、フィルム層(3)の厚みを調整するために、同じ塗布液を重ねて塗布して作成することもできる。
野球ボール用表皮材の強度や屈曲性改善のためにフィルム層(3)上に別の高分子弾性体の塗布液をコートし乾燥することで、フィルム層(3)とバインダー層(2)との間に中間層(4)を形成することもできる。中間層(4)は複数形成してもよい。
【0016】
その後、フィルム層(3)または中間層(4)の上にバインダー層(2)となる塗布液をコートし、転写ベースと貼り合せを行う。このように高分子弾性体のコート、乾燥を複数回行い、目的の色、外観、表面のタッチに適した塗布液をコートしていく。
天然皮革は表面からの吸水がある。これに対して、ポリウレタンからなるフィルム層(3)を有し、ポリエステル繊維絡合体とポリウレタンの多孔質体からなる基体層(1)が、フッ素樹脂で撥水処理されている本発明の野球ボール用表皮材は、表面からの吸水が少ない。また本発明の野球ボール用表皮材は、断面からの吸水も天然皮革に比べ少なく優れている。
本発明の野球ボール用表皮材のバイレック法24時間(JIS L1907)での断面からの吸水速度は5mm以下であり水の吸収が少ない。一方、天然皮革では50mm以上である。
本発明の野球ボール用表皮材は、吸水が少なく、例えば、雨天時に使用しても、野球ボールの表面から吸水がなく、またボール縫い目からの吸水も少なくなることで、ボールの重量変化が少なく、表皮材の伸び縮みが少なくボール表面が安定することで耐久性も上がる効果が得られる。
【0017】
<グリップ剤>
さらに、このフィルム層(3)の上部には、野球ボールを購入後、使用するにあたり、当初、より強めのグリップを感じるように、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、石油系炭化水素樹脂等で、伸長応力が0.5〜4MPaとなるグリップ剤で5g/m以下でグリップを調整することが好ましい。さらに本発明の野球ボール用表皮材は、フィルム層(3)に無機粒子を固形分濃度20〜50重量%含有するので、このグリップ剤が表皮に保持されることにより、より長期に適度なグリップが保たれる。
本発明の野球ボール用表皮材は、含浸層(1−a)、バインダー層(2)、フィルム層(3)を必須として、好ましくは他の層は以下の順序で層が配置されている。
含浸層(1−a)/コート層(1−b)/バインダー層(2)/中間層(4)/フィルム層(3)/グリップ剤。
【実施例】
【0018】
[実施例1]
(含浸層(1−a))
ポリエチレンテレフタレート繊維(単糸繊度2detex、長さ51mm)を、カード、クロスラッパー、ニードルロッカー、温水収縮処理、カレンダーの工程を通し、重さ390g/m、厚さ1.15mm、見掛け密度0.34g/cmの不織布を得た。
この不織布に、100%モジュラス9MPaのポリエステルエーテル系ポリウレタン(P,P’−ジフェニルメタンジイソシアネートより合成されたもの)10%濃度およびフッ素系樹脂0.1%濃度のジメチルホルムアミド溶液を含浸した。
【0019】
(コート層(1−b))
次いで、基材厚さの80%でスクイズし基材の圧縮が回復する前に、100%モジュラスが9MPaのポリエステルエーテル系ポリウレタン20%濃度およびフッ素系樹脂0.2%濃度のジメチルホルムアミド溶液を片面に700g/mの目付でコーティングした後、10%のジメチルホルムアミドを含有する40℃の水中で高分子弾性体を湿式凝固させ、水洗、乾燥を行い、含浸層(1−a)およびコート層(1−b)を有する基体層(1)を得た。
得られた基体層(1)は、多孔質ポリウレタンとポリエステル繊維からなる含浸層(1−a)とその上に形成された多孔質ポリウレタンを含有するコート層(1−b)を有し、基体層(1)の厚さは1.35mm、この内、コート層(1−b)の厚さが230μm、目付600g/mであった。
【0020】
(研磨)
このコート層の表面を研磨ペーパーで研磨し、コート層の表面の接着性を上げた物を、転写ベースとした。
【0021】
(フィルム層(3))
次いで、毛穴調の離型紙上に、フィルム層(3)を作成するため、100%モジュラスが7MPaのエステルエーテル系ポリウレタン(固形分濃度30重量%)を100部に対し、DMF(ジメチルホルムアミド)50部、MEK(メチルエチルケトン)50部を混合した混合液1を作成し、これに無機粒子として、酸化チタン含有無機顔料、(酸化チタン50重量%/ポリウレタン樹脂10重量%/溶剤40重量%)50部を混合したものを塗布液1とした。この塗布液1を、先の離型紙上に、目付け125g/mとなるようにコートし、110℃で乾燥して、その後、同様の塗布液を使用して、再度125g/mとなるようにコートし、乾燥して、厚さ35μmのフィルム層(3)を得た。このフィルム層(3)は、全体に対して酸化チタンを固形分濃度で31重量%含有するものであった。
【0022】
(バインダー層(2))
次いで、バインダー層(2)として、2液型ポリエステルエーテル系ポリウレタン(固形分濃度65%)を100部に対し、DMF15部、架橋剤9部、架橋促進剤1部、さらに白色顔料(固形分濃度50重量%)5部を混合したものを塗布液とした。この塗布液を、フィルム層(3)上に、目付け170g/mとなるようにコートし、110℃で20秒間、乾燥後、樹脂のタックが残る状態で、先の転写ベースのコート層(1−b)面と貼り合わせて、さらに温度100℃で30秒乾燥し、架橋のため温度70℃の雰囲気下で48時間熟成を行った後、離型紙と分離を行った。
分離後のシート状物は、基体層(1)上にバインダー層(2)を介して高分子弾性体のフィルム層(3)を有し、このフィルム層(3)とバインダー層(2)の厚さの合計は、厚みの薄いところで80μm、厚みの厚いところで120μmのものであった。その内、表面側のフィルム層(3)の35μmは、100%モジュラスが7MPaの高分子弾性体からなり、無機粒子を31重量%含有するものであった。またバインダー層(2)の平均厚さは65μmであった。
【0023】
(グリップ剤)
次いで、グリップ剤として、100%モジュラスが5MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂100部、分子量2000のポリブタジエン(ゴム成分)50部、シリカ5部を、ジメチルホルムアミド:テトラヒドロフラン:トルエンの混合溶剤で溶解したものを塗布液として、この塗布液を固形分で、2g/mとなるようにグラビアロールで塗布した。このグリップ剤配合品での100%伸長応力は2.5MPaであった。出来上がったシート状物は、高分子弾性体の表皮層上にグリップ剤をもつ野球ボール用表皮材となった。
この野球ボール用表皮材を、シートで評価したところ、適度なグリップがあり、汗を想定し、手を湿らした状態でも、タッチの変化が少なく、野球用に適したものに感じられた。耐久性については、相対評価のため、テーバ摩耗(JIS1096、摩耗輪H22、荷重1Kg、500回)で評価したところ、摩耗はフィルム層(3)で留まり、タッチの変化も少なく耐久性に優れるものであった。また、吸水性については、バイレック法24時間(JIS L1907)で評価したところ、0mmで全く吸水しないものであった。
また、この表皮材を使用し野球ボールを作製して、実用評価をしたところ、ボールの表皮のタッチは野球用に適した適度なグリップ感があり。また、雨天においても水の浸透が少なく、かつ表皮の耐久性は、野球用に用いることができるレベルであった。
【0024】
[実施例2]
実施例1において、グリップ剤を処理する前のものを野球ボール用表皮材とした。このシートを評価したところ、実施例1に比べ、タッチはグリップが少ないが、適度なタッチであり、また手を湿らした状態でも、タッチの変化は少なく、またテーバ摩耗の評価では、摩耗はフィルム層(3)で留まり、タッチの変化も少なく耐久性に優れるものであり、実施例1と同様に、野球用に適したものであった。
【0025】
[比較例1]
フィルム層(3)の塗布液を作成するにあたり、100%モジュラスが11MPaのエステルエーテル系ポリウレタン(固形分濃度30%)を使用し、無機粒子として、酸化チタン含有無機顔料5部を用いてフィルム層(3)を作成する以外は、実施例1と同様の条件にして、野球用の野球ボール用表皮材を作成した。この表面側のフィルム層は、全体に対して酸化チタンを固形分濃度で7%含有するものであった。このシートを評価したところ、実施例2に比べ、手を湿らした状態で非常に滑りやすく、野球用に適さないものであった。
【0026】
[比較例2]
フィルム層(3)の厚みが半分となるように、塗布液の目付け110g/mで1回のみコートする以外は、実施例1と同様に作成し、野球ボール用表皮材を得た。この表面側のフィルム層(3)の厚みは15μmであった。
このシートをテーバ摩耗で評価したところ、一部でフィルム層(3)がなくなりバインダー層(2)がみられ、タッチの変化も大きく感じられ、野球用としては、耐久性で適さないものであった。
【0027】
[比較例3]
野球ボール用の天然皮革表皮材を、テーバ摩耗で評価したところ、実施例1、2に比べて、非常に深く削られ、実施例1、2より野球ボールに使用した場合、耐久性が低いものであった。
また、吸水性については、バイレック法24時間(JIS L1907)で評価したところ、80mmの吸水がみられ、さらに吸水した部分は、伸びた状態がみられ、野球ボールに使用した場合、雨天時は、吸水し使用困難になるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の表皮材は野球ボールの材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)基体層(1)、バインダー層(2)およびフィルム層(3)がこの順序に配置され、
(ii)基体層(1)は、繊維絡合体と多孔質高分子弾性体からなる含浸層(1−a)を有し、
(iii)フィルム層(3)は、100%モジュラスが4〜8MPaの高分子弾性体および無機粒子を含有し、無機粒子の含有量が20〜50重量%であり、厚みが20〜150μmである、
ことを特徴とする野球ボール用表皮材。
【請求項2】
基体層(1)は、含浸層(1−a)の上に高分子弾性体からなるコート層(1−b)を有する請求項1記載の野球ボール用表皮材。
【請求項3】
フィルム層(3)の上にグリップ剤が塗布された請求項1または2に記載の野球ボール用表皮材。
【請求項4】
バイレック法24時間(JIS L1907)での吸水速度が5mm以下の請求項1〜3のいずれか一項に記載の野球ボール用表皮材。

【公開番号】特開2011−24788(P2011−24788A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173902(P2009−173902)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【出願人】(509211446)有限会社 田浦 (1)