説明

量子ビット読出装置および方法

【課題】単一物質系からなる量子ビットを個別に読み出す。
【解決手段】共振器101と、共振器に含まれ複数の物質系を含み各物質系の5つのエネルギー状態を低いエネルギー順に|0>、|1>、|g>、|e1>、|e2>と表示すると|g>−|e1>間遷移が全物質系共通の共振器モードに共鳴し、|0>と|1>とで量子ビットを表現する物質405と、|g>−|e2>間遷移、|1>−|e2>間遷移に共鳴する光を生成する手段401と、|1>を|g>に移行する光を生成する手段409と、共振器モードに結合する光を生成しこの光を共振器へ入射する手段201と、この光の共振器からの反射光、透過光の強度を測定する手段201,202と、反射光、透過光の強度から物質系iの量子ビットを読み取る手段410と、物質系iを元の状態に戻す光を生成する手段409とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両側共振器の共振器モードと単一物質系(単一原子、単一イオン等)との結合系の反射光および透過光の強度が、物質系の状態により、入射光強度の強弱にかかわらず大きく変化することを利用して、共振器内に複数個存在する単一物質系からなる量子ビットを、十分な強度の光の大きな強度変化を検出することにより個別に読み出す量子ビット読出装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子計算の結果は、多くは単一の原子、イオン、光子などからなる量子ビット(ここでは、量子計算において情報を担う物理系の量子状態および物理系そのもののいずれも、量子ビットと呼ぶ)の状態として表されるため、それら単一物質系の状態を読み出す必要がある。光と結合する量子ビットの場合、読み出したい量子ビットへの光照射により、その量子ビットの状態に応じて量子ビットが励起されたりされなかったりする際に、放出されたりされなかったりする光子を観測する手法が高感度で現実的である。その際、電磁トラップ中のイオンや、原子のような気体ならば、厳密な選択側を利用して、元の状態にのみ緩和する遷移を励起することで、量子ビットの状態に応じて、何度でも励起、緩和を繰り返させ、多数の光子を放出させることが可能である。
【0003】
しかし、結晶中のイオンの核スピンのような固体中の量子ビットの場合、様々な相互作用で、エネルギー状態の角運動量、スピン等が混ざり合い、厳密な選択則がなく、一度励起された量子ビットが、どこの準安定な状態に緩和するかは確率的である。したがって、読み出しには単一の光子を確実に検出する必要があった。アディアバティック・パッセージを用いて、共振器モードに共鳴する準位に確実に量子ビットの状態を移しては戻すということを繰り返し、その際に光子の放射される空間モードを限定しかつ光子検出の機会を複数設けることで、光子検出の失敗確率を下げることは可能だが、この場合もやはり単一光子検出が必要である。
【0004】
近年、微弱光と光子計数を利用した共振器中の単一原子の真空ラビ分裂(ノーマルモード・スプリッティングとも呼ばれる)の観測が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、片側共振器の共振器モードと単一あるいは複数の原子との結合系に単一光子を入射する場合の、原子状態による反射光子の位相の違いを利用して、光子/原子間、原子/原子間(光子を媒介とする)の量子ゲートを実行する提案が行われている。このように、共振器モードと物質系との結合系の光学応答は、たとえ1個の物質系との結合であっても、その物質系の状態により大きく変化するため、単一物質系の状態を観測するために利用できる。
【非特許文献1】Phys. Rev. Lett. 93, 233603 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この共振器モードと物質系との結合系の応答を、単一の共振器内に複数個存在する量子ビットの読み出しに利用する具体的方法は知られていない。
【0006】
この発明は、上述した事情を考慮してなされたものであり、共振器内に複数個存在する単一物質系(単一原子、単一イオン等)からなる量子ビットを、十分な強度の光の大きな強度変化を検出することにより個別に読み出す量子ビット読出装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明の量子ビット読出装置は、共振器モードを有する共振器と、前記共振器の内部に含まれ、内部に複数の物質系(物質系1、・・・、物質系n(nは2以上の整数))を含んでいて、各物質系は少なくとも5つのエネルギー状態を有し、各物質系i(iはn以下の自然数)が有する前記5つのエネルギー状態を、低いエネルギーを有する状態から順に|0>、|1>、|g>、|e1>、|e2>と表示すると、|g>−|e1>間遷移が全ての前記物質系で共通の共振器モードに共鳴し、|0>と|1>とで量子ビットを表現する物質と、|g>−|e2>間遷移、|1>−|e2>間遷移にそれぞれ共鳴する第1パルス光、第2パルス光を生成する生成手段と、前記第1パルス光の強度が前記第2パルス光に対して強い状態から前記第2パルス光の強度が前記第1パルス光に対して強い状態に移行するように前記第1パルス光と前記第2パルス光とが時間的に重なるように制御して第3の光を生成する第1制御手段と、前記第3の光を前記物質系iに照射する第1照射手段と、前記共振器モードに結合する観測光を生成し該観測光を前記共振器の外部から該共振器へ入射する入射手段と、前記観測光の反射光および前記観測光の透過光の少なくともいずれか1つの強度を測定して量子ビットを読み取る読取手段と、前記量子ビットを読み取った後に、前記第2パルス光の強度が前記第1パルス光に対して強い状態から前記第1パルス光の強度が前記第2パルス光に対して強い状態に移行するように前記第1パルス光と前記第2パルス光とが時間的に重なるように制御して第4の光を生成する第2制御手段と、前記第4の光を前記物質系iに照射する第2照射手段と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の量子ビット読出装置および方法によれば、共振器内に複数個存在する単一物質系(単一原子、単一イオン等)からなる量子ビットを、十分な強度の光の大きな強度変化を検出することにより個別に読み出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る量子ビット読出装置および方法について詳細に説明する。なお、以下の実施形態中では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
まず、本発明の実施形態に係る量子ビット読出装置および方法について詳細に説明する前に、共振器内に複数個存在する単一物質系からなる量子ビットを、十分な強度の光の大きな強度変化の検出により個別に読み出せるようになる機構を説明する。
本実施形態では、共振器モードと共振器内の物質系との結合により、共振器モードと物質系との結合系の反射スペクトルおよび透過スペクトルが大きく変化することを利用する。
【0010】
共振器101内の原子(以下では原子、イオン、分子、量子ドットなどの物質系を代表して原子と呼ぶ)のエネルギー状態について図1を参照して説明する。図1はエネルギー状態についての模式的な図である。エネルギー状態はエネルギーの低い方から順に|0>、|1>、|g>、|e1>、|e2>とし、|g>−|e1>間遷移が共振器モードに共鳴しているとする。共振器101は、共振器モードを有していて、例えば、共振器モードがPr3+イオンのの電子状態が超微細構造分裂で分裂している状態の一つと、の電子状態の一つが超微細構造分裂で分裂している状態の一つとの間の遷移(図1の例では|g>−|e1>間遷移が対応)に共鳴するように作られている。
【0011】
次に、空の共振器の場合、共振器内の単一原子が|g>の状態にある場合、および、共振器内の単一原子が|0>の状態あるいは|1>の状態にある場合の、共振器モードと原子との結合系(以下、共振器モード/原子結合系と略す)の反射スペクトルおよび透過スペクトルについてそれぞれ図2(a)、図2(b)、図2(c)を参照して説明する。
ビームスプリッター201は、光源からの光を透過させ、共振器101からの光を反射させ、光検出器202に導く。
光検出器202、203は、それぞれ共振器101からの反射光、共振器101からの透過光を検出する。
【0012】
空の共振器の場合(図2(a)):共振器モードに共鳴する光(角周波数ωとする)を共振器モードに空間モードを合わせて共振器101に入射する。このとき、共振器101を構成するミラーの反射率と共振器長で決まる共鳴幅(減衰率)に対して、ミラーや(もしあれば)共振器内を満たしている媒質による吸収や散乱などに起因する損失の速度が小さい場合には、光は反射率ほぼ0でほとんど反射せず、透過率ほぼ1で透過する。入射光の周波数をωの近傍で掃引すると、図2(a)に示すように、反射スペクトルはωに反射率ほぼ0のディップを示し、透過スペクトルはωに透過率ほぼ1のピークを示す。なお、本実施形態での「周波数」という用語は、「角周波数」と明示してあるか、数値に明示的な「×2π」を含む場合は角周波数を、その他の場合は単なる周波数を表す。
【0013】
原子の状態が|g>の場合(図2(b)):これは、共振器内の共振器モードと共鳴する場所にある単一の原子の状態が|g>の場合、つまり、単一の原子の状態が共振器モードと共鳴する遷移に関わる状態である場合に対応する。角周波数ωの光を共振器モード/原子結合系に入射すると、光は透過率ほぼ0でほとんど透過せず、逆に反射率ほぼ1で反射するようになる。入射光の周波数をωの近傍で掃引すると、図2(b)に示すように、透過スペクトルはωを中心に低周波数側と高周波側に分かれた2本のピークを示し、そのピークの分裂幅は共振器モードと原子との結合の大きさを示す結合定数gの2倍程度となる。この透過スペクトルのピークの分裂は、真空ラビ分裂あるいはノーマルモード・スプリッティングと呼ばれる。角周波数ωの光は、2本の透過ピークの真ん中の透過光強度が落ち込む周波数の光となり、ほとんど透過しない。また、入射光の周波数をωの近傍で掃引すると、図2(b)に示すように、反射スペクトルはωを中心に低周波数側と高周波側に分かれた2つのディップを示し、そのディップの分裂幅は2×g程度となる。角周波数ωの光は、2つのディップの真ん中の反射率の高い周波数の光となり、反射率ほぼ1で反射する。
【0014】
原子の状態が|0>、|1>の場合(図2(c)):これは、共振器内の共振器モードと共鳴する場所にある単一の原子の状態が|0>あるいは|1>の場合、つまり、単一の原子の状態が共振器モードと共鳴する遷移に関わる2つの状態ではない状態である場合に対応する。この場合、共振器モード/原子結合系は、図2(c)に示すように、空の共振器の場合(図2(a))と同様な反射スペクトルおよび透過スペクトルを示す。
【0015】
図2(a)、図2(b)、図2(c)を参照して説明したように、原子の状態が、|g>であるか、|0>または|1>であるかによって反射スペクトルおよび透過スペクトルが劇的に変化することがわかる。
【0016】
ところで、共振器モードと原子との結合定数gと、共振器モードと共鳴した原子の遷移の位相緩和速度γ、共振器の減衰定数κが、
/(κγ)>1 (1)
を満たす場合、この原子の状態に依存した反射スペクトルおよび透過スペクトルの変化が明瞭に観測できると考えられる。ただし、g<κでかつ小さなγにより式(1)が満たされる場合には、図2(b)の透過スペクトルに関しては、ピークの分裂というよりは山形の透過スペクトルの中心に細い透過率ほぼゼロにまで落ち込む穴があき、反射スペクトルに関しては、反射が落ちこむディップの中心に、細く、ピークがほぼ1に達する反射率のスパイクが生じると表現したほうがよい状況になると予想される。
【0017】
このように、共振器モード/原子結合系では、原子が共振器モードと共鳴している遷移に関わる状態にあるかないかにより、たとえその原子が単一原子であってもある周波数の光に対する反射率や透過率が大きく変化するため、この変化を原子の状態つまり量子ビットの読み出しに利用できる可能性がある。また、その際に読み出しに利用する入射光を強くすることで、測定に十分な大きさの反射光や透過光の変化が得られる可能性がある。
【0018】
一方、共振器モード/原子結合系にある角周波数の光を入射した場合の透過光強度のとり得る値は、原子が多数で、それらの原子が共振器モードと共鳴している遷移に関わる状態にあり、かつ入射光強度が強い場合には、多値をとる。その結果、光双安定性と呼ばれる現象を示すことが知られている(Phys. Rev. A 56, 3262 (1997))。その場合、入射光強度が強すぎると、出力光強度の角周波数依存の解の一つとして、入射光の角周波数ωを中心に左右対称なピークが現れるだけの解が存在する。したがって、入射光強度が強すぎる場合、ω近傍で入力光の角周波数を掃引しながら出力光強度を測定するなどした際、原子が共振器モードと共鳴している遷移に関わる状態にあるかないかの区別がωにおける反射光や透過光の大きな強度変化として現れない可能性がある。
【0019】
しかし、単一原子の場合には、入射光強度が強くても分裂が見えることが示されている(Cavity Quantum Electrodynamics, edited by P. R. Berman (Academic Press, Inc., San Diego, 1994), pp396-399. )。したがって、単一原子の量子状態つまり量子ビットの読み出しの場合には、強い光を利用しても、透過光や反射光の大きな強度変化として量子ビットの値を読み出すことが可能であると考えられる。
【0020】
次に、原子の状態の変化について図3を参照して考察する。
角周波数ωの強い光を、原子が|g>の状態にある共振器モード/原子結合系に入射する場合を考える。光は、共振器表面で大部分反射されるが、共振器内にもわずかに進入する。入射光強度が強ければ共振器内の光強度もそれに応じて強くなる。その際、原子が共振器モードと共鳴する遷移に関わる状態のうちの低い方のエネルギーの状態、すなわち原子が|g>の状態にあれば、共振器内の光で原子が励起され、|g>の状態にあった原子が|e1>の状態に励起された後、|0>や|1>の状態に緩和することで原子の状態が変わる可能性がある。
【0021】
本実施形態では、共振器モード/原子結合系に光を入射し、原子の状態を観測する際に、観測時間すなわち光を入射し続ける時間Tを、共振器モードと共鳴する遷移に関わる状態のうちの高い方のエネルギーの状態の寿命Tより短くし、結合定数gの2倍の逆数1/(2×g)より長くする。つまり、次式の条件を満たすようにする。
1/(2×g)<T<T (2)
|g>の状態から|e1>の状態への励起と、そこからの緩和による状態変化には、|e1>の状態の寿命T程度より長い時間がかかるため、式(2)を満たせば、観測時間中に|e1>の状態を経由する原子の状態変化を抑えられる。
また、結合定数gの2倍程度の周波数幅を持つ透過あるいは反射の変化を観測するには、1/(2×g)程度以上の観測時間が必要であるが、式(2)はその条件も満たす。
【0022】
すなわち、式(2)の条件を満たせば、原子の状態を変化させずに状態すなわち量子ビットの値を読み出すことができる。この場合に、原子の量子状態を変えずに読み出すことができるもう一つの理由は、最終的に量子ビットを読み出したい物質の状態が固有状態であり、その固有値を読み出す観測になるということである。換言すれば、最終的に量子ビットを読み出したい物質の状態が重ね合わせの状態(例えば、α|0>+β|1>、α≠0かつβ≠0)ではなく、固有状態(例えば、α|0>だけ、β|1>だけの状態)であり、この固有値を読み出すということである。
【0023】
次に、本実施形態の量子ビット読出方法により、共振器中に複数個の原子を量子ビットとして含む場合に、特にi番目の量子ビット(量子ビットi)を読み出す方法を図1や図3のエネルギー状態を取り得る原子を一例として説明する。
【0024】
まず、量子ビットiを表す原子の|g>−|e2>間遷移、|1>−|e2>間遷移にそれぞれ共鳴するパルス光1とパルス光2とを、パルス光1の強度がパルス光2に対して強い状態からパルス光2の強度がパルス光1に対して強い状態に移行するようにパルスを時間的に重ねて原子iに照射する。なお、下付添え字のiはi番目の原子であることを示す。また、i番目の原子の選択的な操作は、空間的あるいは周波数的に他の原子と区別することで行う。すなわち、レーザーの照射位置や角周波数を調整して行う。なお、同じ種類の原子でも固体中の位置によって遷移エネルギーに多少のばらつきが生じるため、周波数的に他の原子と区別することができる。
【0025】
この光照射によりアディアバティック・パッセージと呼ばれる物理過程が起こり、|1>の状態が|g>に変化する。すなわち、物質系が|1>の状態にあれば|g>の状態に変化するが、|0>の状態にあれば変化しない。この変化の際、原子は|1>と|g>の重ね合わせの状態(ダーク・ステートと呼ばれる)を保ったまま変化し、|e2>へ励起されることはない。この場合、このアディアバティック・パッセージの代わりに、|e2>への励起を経由した光ポンピングによるポピュレーション移動を利用することはできない。光ポンピングの場合は十分に行ったとしても、|e2>から下準位への緩和の際、確実には|g>に変化せず、初期状態が|1>なら|0>へ、|0>なら|1>へ原子の状態が変化する可能性があるからである。
【0026】
次に、共振器モードに共鳴する角周波数ωの光を共振器モードの空間モードに合わせて原子の|e1>の寿命より短く、原子と共振器モードとの結合定数gの2倍の逆数1/(2×g)よりも長い時間入射し、その反射光強度と透過光強度の片方あるいは両方を測定し、その測定値より、原子が|g>の状態であるかないかの情報を得る。
共振器を構成するミラーの反射率と共振器長で決まる共鳴幅(減衰率)に対して、ミラーや(もしあれば)共振器内を満たしている媒質による吸収や散乱などに起因する損失の速度が小さい場合には、反射率が約1、透過率が約0ならば、図2(b)に示したように、原子は|g>の状態にあることが、反射率が約0、透過率が約1ならば、図2(c)に示したように、原子は|g>の状態にないことがわかる。
【0027】
|g>の状態にないことが観測されれば、原子iすなわち量子ビットiの状態は|0>であったことがわかる。すなわち、上述したアディアバティック・パッセージによって状態|g>に変化しない状態、状態|0>であったことを示している。
また、|g>の状態にあることが観測されれば、量子ビットiの状態は|1>であったことがわかる。すなわち、アディアバティック・パッセージによって、状態|1>が状態|g>に変化したことを示している。
【0028】
このようにして、i番目の量子ビットの値を読み出すことができる。すなわち、この例では、i番目の量子ビットが状態|0>なのか、状態|1>なのかを読み出すことができる。
なお、上記とは別のアディアバティック・パッセージとして、|1>の状態を|g>に変化させる操作の代わりに、|0>−|e2>間遷移に共鳴するパルス光をパルス光2として上記の操作を行い、|g>の状態にあれば、|0>であったことがわかるようにしても、同様にi番目の量子ビットの値を読み出すことができる。
【0029】
この読み出しの後、次の量子ビット読み出しの妨げにならないように、原子iの状態を共振器モードと共鳴する遷移に関わらない状態に変化させておく必要がある。そのために今度は、パルス光2の強度がパルス光1に対して強い状態から、パルス光1の強度がパルス光2に対して強い状態に移行するようにパルスを時間的に重ねて原子iに照射し、アディアバティック・パッセージにより、原子iが|g>の状態にあった場合には、|g>の状態から|1>に変化させる。すなわち、i番目の量子ビットiを表す原子の状態を、i番目の量子ビットの値を読み出す前の状態に戻す。このようにすれば、一度読み出した量子ビットを再び読み出したい場合にも対応することができる。
【0030】
また、通常、一度読み出した量子ビットを再び読み出すことはないので、原子を必ずしももとの状態に戻す必要はない。この場合は、|g>−|e2>間、|0>−|e2>間遷移にそれぞれ共鳴する2つのパルス光によるアディアバティック・パッセージで、|g>の状態を|0>に変化させてもよいし、|g>−|e2>間あるいは、|g>−|e1>間遷移に共鳴する光を原子iに十分照射し、原子iが|g>の状態にあった場合には、|e2>あるいは|e1>への励起と自然放出で、|0>か|1>のどちらかに変化させるという方法をとってもよい。
【0031】
なお、アディアバティック・パッセージを行う際、上準位として状態|e1>でなく状態|e2>を利用するのは、共振器モードと共鳴する遷移に関わる状態のうちの高い方のエネルギーの状態|e1>を利用した場合、原子の状態変化に伴って共振器モードとの強い結合で共振器モードが励起され共振器モードに光子が存在する状態になり、その光子を再吸収することで原子の状態が意図しない状態に変化することを避けるためである。
【0032】
以上の一連の操作を原子iに施した後、同様にして、次のi+1番目の原子を読み出し、以下同様にして順次量子ビットを読み出せば、本実施形態により、共振器内に複数個存在する単一物質系からなる量子ビットを、十分な強度の光の大きな強度変化の検出により個別に読み出すことが可能になる。
【0033】
次に、以上に説明した量子ビット読出方法を実現する量子ビット読出装置について図4を参照して説明する。
本実施形態の量子ビット読出装置は、図4に示すように、光源1、光源2、コントローラー404、光検出器202、203、結晶405、クライオスタット406、超高反射率ミラー407、レーザー光制御部409、量子ビット判定部410を含んでいる。なお、光源2、光検出器451〜454は、後述する実施例で使用する。光検出器451〜454は、高効率の集光系を備えていて、共振器101から生じる微弱な単一光子を、高感度、高効率に検出する。光検出器451〜454は、光検出器202、203よりも高感度かつ高効率である。
【0034】
光源1は、アルゴンイオンレーザー励起リング色素レーザー401が生成する光を、ビームスプリッター421、422、201、ミラー411〜414、狭窄化システム402により操作して、共振器101に導く。光源2は、アルゴンイオンレーザー励起リング色素レーザー401が生成する光を、ビームスプリッター421〜429、ミラー411、415〜419、狭窄化システム402,403により操作して、周波数設定用音響光学効果素子431〜435、パルス形成・タイミング制御用音響光学効果素子441〜445により操作して、共振器101に導く。ビームスプリッター421〜429は、透過光と反射光に分けあるいは透過光と反射光とを合わせて光を次段に導く。ミラー411〜419は、光を反射させて次段に光を導く。狭窄化システム402,403は、入射した光を狭窄化する。狭窄化システム402,403は、それぞれ光のスペクトル幅を1kHz、100kHzに狭窄化する。周波数設定用音響光学効果素子431〜435は、入射した光の周波数を設定する。パルス形成・タイミング制御用音響光学効果素子441は、入射光からパルス形成をしたり、入射光を出力するタイミングを制御する。コントローラー404は、周波数設定用音響光学効果素子431〜435、パルス形成・タイミング制御用音響光学効果素子441〜445を制御して、光源2から発する光を制御する。コントローラー404は、上述したアディアバティック・パッセージを行うためのパルス光を生成したり、|g>−|e2>間あるいは、|g>−|e1>間遷移に共鳴する光を生成するように制御する。
【0035】
結晶405は、例えば、後述する実施例に記載のPr3+:YSiO結晶であるが、本実施形態による作用効果が現れる物質であれば結晶に限定されない。
【0036】
クライオスタット406は、その内部を超低温に保つためのものであり、後述の実施例では内部を1.5Kに保つ。超高反射率ミラー407は、極めて高い反射率で光を反射させる。
【0037】
レーザー光制御部409は、光源1、光源2の源となる、共振器モードに共鳴する角周波数ωの光を生成するように制御する。
【0038】
量子ビット判定部410は、光検出器202、203がそれぞれ検出した反射光と透過光から反射光強度と透過光強度とを測定し、事前に検出した、共振器101に入射する入射光強度を利用し、反射光強度と透過光強度と入射光強度から、反射率と透過率を計算し、量子ビットが状態|0>であるか状態|1>であるかを判定する。
【0039】
図2(a)、図2(b)、図2(c)でのωの光は、光源1が発生する。リング色素レーザー401がレーザー光を生成し、ビームスプリッターがこのレーザー光を反射し、このレーザー光がミラー411によって反射され、狭窄化システムがこの反射光をスペクトル幅1kHzに狭窄化し、ビームスプリッター422が狭窄化されたビーム光を反射し、さらにミラー412,413,414がこの反射光をビームスプリッター201に導く。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
本実施例の量子ビット読出装置および方法では、量子ビットとして、YSiOの10−5%のY3+イオンをPr3+イオンに置換したPr3+:YSiO結晶中のPr3+イオンを利用する。結晶は10mm×10mm×10mm程度の大きさで、表面に超高反射率のミラーが形成され、共振器構造になっている。またその共振器モードは、Pr3+イオンの間遷移(約494.73×2πTHz)に共鳴するように作られ、モードウエスト半径が約1μmとなっている。結晶は、クライオスタット中に設置され1.5Kに保たれる。
【0041】
なお、Pr3+:YSiO結晶中のPr3+イオンのエネルギー状態は図5に示す通りである。は、3つのエネルギー状態(低い方のエネルギー状態から順に、|±5/2>、|±3/2>、|±1/2>)を有し、も、3つのエネルギー状態(低い方のエネルギー状態から順に、|±1/2>、|±3/2>、|±5/2>)を有している。以下、の3つのエネルギー状態|±5/2>、|±3/2>、|±1/2>をそれぞれ|0>、|1>、|g>とし、の3つのエネルギー状態|±1/2>、|±3/2>、|±5/2>をそれぞれ|e1>、|e2>、|e3>とする。
【0042】
光源は図4の光源2を使用する。光源2では、アルゴンイオンレーザー励起のリング色素レーザー401からのレーザーを図には示していないが、参照用共振器と音響光学効果素子と電気光学効果素子によるフィードバック系による狭窄化システムで100kHzに狭窄化し、絶対周波数を安定化した光を用い、そのレーザー光を分岐し音響光学効果素子433〜435で周波数をシフトさせることで、図6に示す次の角周波数を持つ3つの光を用意する。
ω=ω+4.6MHz×2π
ω=ω+(10.2MHz+4.6MHz)×2π
ω=ω+(10.2MHz+17.3MHz)×2π
ここで、ωは共振器モードの周波数であり、結晶中のPr3+イオンの間遷移における不均一分布の端に位置する494.68×2πTHz(約606.035nm)近傍のある決まった角周波数である。
【0043】
さらに光源2では、アルゴンイオンレーザー励起のリング色素レーザー401を、図4には示していないが、参照用共振器と音響光学効果素子と電気光学効果素子によるフィードバック系で、狭窄化システム402が1kHzにスペクトルを狭窄化し絶対周波数を安定化し、レーザー光を分岐し音響光学効果素子431,432で周波数をシフトさせることで、スペクトル幅1kHzで角周波数ω、ωの近傍で角周波数を掃引できる2つの光を用意する。
【0044】
まず、単一イオン系を設定するために、本実施例では、これらの共振器付きの結晶101と光源2を用いて、量子ビットとして利用するイオンの遷移角周波数を測定する。その方法と装置類は以下のとおりである。
結晶101の周囲に複数の光検出器451〜454を設置し、結晶中のPr3+イオンから放出される光子をなるべく効率よく検出できるようにする。
この状態で、スペクトル幅100kHzの3つの光を、ω、ωの光は、それぞれパルス幅2μs、パルス間隔(周期)4μsのパルス列にしてお互い位相をπずらし、ωは連続光として同時に照射し、レーザースペクトル幅の精度内で図6に示すような遷移角周波数を持つイオン以外を、これら3つの角周波数の光のいずれとも相互作用しない状態に移す。この3つの光の照射直後に、スペクトル幅100kHzのωとωの光を照射して図6に示す遷移角周波数を持つイオンを状態|1>に移す。
【0045】
次に、スペクトル幅1kHzの角周波数ω近傍の光を、ωを中心に200kHzの範囲に渡り5×10Hz/sの掃引速度で掃引する(第1の掃引とする)。第1の掃引中、4つの光検出器451〜454のいずれかが光子を検出した場合、検出時の照射光の角周波数ω(t1)を一時的に記録し、続けてスペクトル幅1kHzのω近傍の光を、ωを中心に200kHzの範囲に渡り5×10Hz/sの掃引速度で掃引する(第2の掃引とする)。第2の掃引中、4つの光検出器451〜454のいずれかが光子を検出した場合、検出時の照射光の角周波数ω(t2)を一時的に記録する。次に再びスペクトル幅1kHzの角周波数ω近傍の光を、ωを中心に200kHzの範囲に渡り5×10Hz/sの掃引速度で掃引する(第3の掃引とする)。第3の掃引中、4つの光検出器451〜454のいずれかが光子を検出した場合、検出時の照射光の角周波数ω(t3)を一時的に記録する。このときもし、ω(t1)=ω(t3)であれば、角周波数ω(1)=ω(t1)=ω(t3)、ω(1)=ω(t2)として、ある単一のイオンの遷移角周波数の値の組ω(1)、ω(1)を得るのでその値を記録する。ω(t1)とω(t3)が等しくない場合は、ω、ω、ωの3つの光照射により、(レーザースペクトル幅の精度内で)図6に示す遷移角周波数を持つイオンを状態|1>に移す操作と、スペクトル幅1kHzのω、ωの光の周波数掃引によりある単一のイオンの遷移角周波数の値の組を得る操作を再び行う。この一連の操作を1つ目のイオンの遷移角周波数の組ω(1)、ω(1)が得られるまで行う。
【0046】
1つ目のイオンの遷移角周波数の組が得られたら、再びω、ω、ωの3つの光照射から始まる上記の一連の単一のイオンの遷移角周波数の値の組を得る操作を行い、2つ目のイオンの遷移角周波数の組を得る。このようにして、順次イオンの遷移角周波数の組を測定していく。ただし、新たなイオンの遷移角周波数の組の測定の際の第1の掃引では、前回までにイオンの遷移角周波数として確定した角周波数と異なる角周波数が得られた場合のみ一時的に記録し、第2の掃引に移る。
【0047】
このようにして、複数のイオンに対する遷移角周波数の組を得る。その際、第1、第2、第3のいずれかの掃引で光子が検出できなかった場合は、3つの光照射による操作からやり直す。このようにして得られた複数のイオンに対する、1kHzの精度で得られた遷移角周波数の組を(ω(j),ω(j))とする。ただしjは遷移角周波数の組が求められたj個目のイオンを表す。
【0048】
本実施例では、イオンの量子状態操作に必要な時間を抑えるため、つまり、ある程度短いパルス光(パルス幅に応じてスペクトル幅の広がったパルス光)で操作を行うために、遷移角周波数が互いに50kHz以上離れた2つのイオンを量子ビットとして用いる。本実施例では角周波数がω(1)とω(1)の1個目のイオンと角周波数がω(2)とω(2)の2個目のイオンがその条件を満たすとして、それぞれ量子ビット1、量子ビット2として利用することにする。
【0049】
以下で、本実施例の量子ビット読出装置および方法について説明する。
図7に示すように、遷移角周波数の値を1kHzの精度で調べたイオンを含む共振器付き結晶405の2つの対向するミラーの片側に面してビームスプリッター201を設置し、ビームスプリッター201を通して、上記スペクトル幅狭窄化システム402で1kHzに狭窄化したωの光を光源1から共振器付き結晶405に照射できるようになっている。また、共振器付き結晶405からの反射光強度を測定する光検出器202と透過光強度を検出する光検出器203が設置されている。また、上記の角周波数ω、ω、ωの光を、ωに関してはスペクトル幅100kHz、ω、ωに関しては、スペクトル幅100kHzと1kHzで照射できる光源2が用意されている。
【0050】
まず、ω、ω、ωの3つの光照射により、図6に示す遷移角周波数をレーザーのスペクトル幅の範囲内で持つイオンを状態|1>に移す。
次に、ω(2)とω(2)の光を、それぞれパルス幅2μs、パルス間隔(周期)4μsのパルス列にしてお互い位相をπずらして結晶405に照射し、量子ビット2の状態を|1>から状態|0>にする。状態|0>、状態|1>の2つの状態で量子ビットを表すとすると、量子ビット1は状態|1>、量子ビット2は状態|0>となる。これで、量子ビット1,2のエネルギー状態の設定が整った。以下に、本実施形態の量子ビット読出装置および方法によって、この量子ビット1,2の状態を読み出せることを示す。
【0051】
次に、光源2から、半値全幅20μsのガウス型に整形した、上記角周波数ω(1)の光とω(1)の光を、ω(1)の光に対してω(1)の光が20μs遅延するように照射し、アディアバティック・パッセージを用いて、量子ビット1の状態|1>を状態|g>に変化させる。
【0052】
この状態で、光源1から、角周波数ωの光の空間モードを共振器付き結晶405の共振器モードに合わせて共振器付き結晶405に入射し、反射光と透過光の強度をそれぞれ光検出器202、203で測定する。ただし、入射する光の継続時間を10μsとする。
この場合の入射光強度をIin、測定された反射光強度をI(1)、測定された透過光強度をI(1)とすると、I(1)/Iin≒1、I(1)/Iin≒0となり、量子ビット1は|1>であることを読み取ることができる。
【0053】
次に、光源2から、半値全幅20μsのガウス型に整形した、上記角周波数ω(1)の光とω(1)の光を、今度はω(1)の光に対してω(1)の光が20μs遅延するように照射し、アディアバティック・パッセージを用いて、量子ビット1の状態の|g>を状態|1>に変化させ、元の状態に戻す。
【0054】
次に、光源2から、半値全幅20μsのガウス型に整形した、上記角周波数ω(2)の光とω(2)の光を、ω(2)の光に対してω(2)の光が20μs遅延するように照射し、アディアバティック・パッセージを用いて、量子ビット2の状態|1>を状態|g>に変化させる。
【0055】
この状態で、光源1から、角周波数ωの光の空間モードを共振器付き結晶405の共振器モードに合わせて共振器付き結晶405に入射し、反射光と透過光の強度をそれぞれ光検出器202、203で測定する。ただし、入射する光の継続時間を10μsとする。この場合の入射光強度をIin、測定された反射光強度をI(2)、測定された透過光強度をI(2)とすると、I(2)/Iin≪I(1)/Iin、I(2)/Iin≫I(1)/Iinとなり、量子ビット2は状態|1>ではなく、状態|0>であることを読み取ることができる。
【0056】
上記の一連の読み出しの操作は、イオンの電子基底状態の核スピンの状態(|±5/2>、|±3/2>、|±1/2>)間の縦緩和時間より短い時間、例えば100ms以内で行われる。
【0057】
本実施例の条件では、結合定数(約750kHz(角周波数))、測定時間(10μs)、イオンの上準位の寿命(約200μs)が式(2)を満たし、単一イオンからなる量子ビットであるにもかかわらず、量子ビットの値に応じて大きな反射光および透過光の強度変化が起こり、読み出しが容易になっていることが示されている。また、量子ビットを読み出した後、量子ビットの状態の共振器モードに共鳴する遷移に関わる状態を関わらない状態に変化させることにより、次の量子ビットが正しく読み出せる、すなわち複数の量子ビットを読み出せることが示されている。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様の共振器付き結晶405と装置類を利用する。ただし、角周波数ωの光を共振器付き結晶405に入射し、反射光と透過光の強度をそれぞれ測定して量子ビットを読み出した後、量子ビット1の状態の|g>を他の状態に変化させる際、実施例1のように2波長の光によるアディアバティック・パッセージを利用する代わりに、光源2からω(1)の光を十分照射し、|e2>への励起と|0>または|1>への緩和を利用して、|g>を他の状態に変化させる。本実施例の方法でも、量子ビット2を正しく読み出すことを示すことができる。
【0059】
以上に示した実施形態によれば、両側共振器の共振器モードと単一物質系(単一原子、単一イオン等)との結合系の反射率および透過率が、物質系の状態により、入射光強度の強弱にかかわらず大きく変化すること等を利用して、共振器内に複数個存在する単一物質系からなる量子ビットを、十分な強度の光の大きな強度変化を検出することにより個別に読み出すことが可能になる。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】共振器内の原子のエネルギー状態と共振器モードを説明するための図。
【図2】共振器モード/原子結合系の状態変化による反射スペクトルおよび透過スペクトルの変化を示す図。
【図3】共振器モードの光子により原子の状態が変わってしまう場合を説明するための図。
【図4】本実施形態の量子ビット読出装置のブロック図。
【図5】実施例でのPr3+:YSiO結晶中のPr3+イオンのエネルギー状態を示す図。
【図6】実施例での角周波数ω、ω、ωの3つの光で選択されたイオンの遷移角周波数を示す図。
【図7】実施例での量子ビット読み出しの際に用いる光と光検出器を説明するための図。
【符号の説明】
【0062】
101・・・共振器、201、421〜429・・・ビームスプリッター、202、203、451〜454・・・光検出器、401・・・アルゴンイオンレーザー励起リング色素レーザー、402,403・・・スペクトル幅狭窄化システム、404・・・コントローラー、405・・・結晶、406・・・クライオスタット、407、408・・・超高反射率ミラー、409・・・レーザー光制御部、410・・・量子ビット判定部、411〜419・・・ミラー、431〜435・・・周波数設定用音響光学効果素子、441〜445・・・パルス形成・タイミング制御用音響光学効果素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器モードを有する共振器と、
前記共振器の内部に含まれ、内部に複数の物質系(物質系1、・・・、物質系n(nは2以上の整数))を含んでいて、各物質系は少なくとも5つのエネルギー状態を有し、各物質系i(iはn以下の自然数)が有する前記5つのエネルギー状態を、低いエネルギーを有する状態から順に|0>、|1>、|g>、|e1>、|e2>と表示すると、|g>−|e1>間遷移が全ての前記物質系で共通の共振器モードに共鳴し、|0>と|1>とで量子ビットを表現する物質と、
|g>−|e2>間遷移、|1>−|e2>間遷移にそれぞれ共鳴する第1パルス光、第2パルス光を生成する生成手段と、
前記第1パルス光の強度が前記第2パルス光に対して強い状態から前記第2パルス光の強度が前記第1パルス光に対して強い状態に移行するように前記第1パルス光と前記第2パルス光とが時間的に重なるように制御して第3の光を生成する第1制御手段と、
前記第3の光を前記物質系iに照射する第1照射手段と、
前記共振器モードに結合する観測光を生成し該観測光を前記共振器の外部から該共振器へ入射する入射手段と、
前記観測光の反射光および前記観測光の透過光の少なくともいずれか1つの強度を測定して量子ビットを読み取る読取手段と、
前記量子ビットを読み取った後に、前記第2パルス光の強度が前記第1パルス光に対して強い状態から前記第1パルス光の強度が前記第2パルス光に対して強い状態に移行するように前記第1パルス光と前記第2パルス光とが時間的に重なるように制御して第4の光を生成する第2制御手段と、
前記第4の光を前記物質系iに照射する第2照射手段と、を具備することを特徴とする量子ビット読出装置。
【請求項2】
共振器モードを有する共振器と、
前記共振器の内部に含まれ、内部に複数の物質系(物質系1、・・・、物質系n(nは2以上の整数))を含んでいて、各物質系は少なくとも5つのエネルギー状態を有し、各物質系i(iはn以下の自然数)が有する前記5つのエネルギー状態を、低いエネルギーを有する状態から順に|0>、|1>、|g>、|e1>、|e2>と表示すると、|g>−|e1>間遷移が全ての前記物質系で共通の共振器モードに共鳴し、|0>と|1>とで量子ビットを表現する物質と、
|g>−|e2>間遷移、|1>−|e2>間遷移にそれぞれ共鳴する第1パルス光、第2パルス光を生成する生成手段と、
前記第1パルス光の強度が前記第2パルス光に対して強い状態から前記第2パルス光の強度が前記第1パルス光に対して強い状態に移行するように前記第1パルス光と前記第2パルス光とが時間的に重なるように制御して第3の光を生成する第1制御手段と、
前記第3の光を前記物質系iに照射する第1照射手段と、
前記共振器モードに結合する観測光を生成し該観測光を前記共振器の外部から該共振器へ入射する入射手段と、
前記観測光の反射光および前記観測光の透過光の少なくともいずれか1つの強度を測定して量子ビットを読み取る読取手段と、
前記量子ビットを読み取った後に、|g>−|e1>間遷移、および、|g>−|e2>間遷移のうちのいずれか1つの遷移に共鳴する光を前記物質系iに照射する第2照射手段と、を具備することを特徴とする量子ビット読出装置。
【請求項3】
前記測定手段は、前記観測光の反射光および前記観測光の透過光の少なくともいずれか1つの強度を測定する場合に、その測定時間Tが、共振器モードと物質系との結合定数の2倍の逆数T=1/(2×g)、物質系の励起状態|e1>の寿命Tに対して、
< T < Tを満たすように測定時間Tを調整することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の量子ビット読出装置。
【請求項4】
内部を一定の温度に保つクライオスタットをさらに具備し、
前記共振器、および、前記物質は、前記クライオスタットの内部に含まれていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の量子ビット読出装置。
【請求項5】
共振器モードを有する共振器を用意し、
前記共振器の内部に含まれ、内部に複数の物質系(物質系1、・・・、物質系n(nは2以上の整数))を含んでいて、各物質系は少なくとも5つのエネルギー状態を有し、各物質系i(iはn以下の自然数)が有する前記5つのエネルギー状態を、低いエネルギーを有する状態から順に|0>、|1>、|g>、|e1>、|e2>と表示すると、|g>−|e1>間遷移が全ての前記物質系で共通の共振器モードに共鳴し、|0>と|1>とで量子ビットを表現する物質を用意し、
|g>−|e2>間遷移、|1>−|e2>間遷移にそれぞれ共鳴する第1パルス光、第2パルス光を生成し、
前記第1パルス光の強度が前記第2パルス光に対して強い状態から前記第2パルス光の強度が前記第1パルス光に対して強い状態に移行するように前記第1パルス光と前記第2パルス光とが時間的に重なるように制御して第3の光を生成し、
前記第3の光を前記物質系iに照射し、
前記共振器モードに結合する観測光を生成し該観測光を前記共振器の外部から該共振器へ入射し、
前記観測光の反射光および前記観測光の透過光の少なくともいずれか1つの強度を測定して量子ビットを読み取り、
前記量子ビットを読み取った後に、前記第2パルス光の強度が前記第1パルス光に対して強い状態から前記第1パルス光の強度が前記第2パルス光に対して強い状態に移行するように前記第1パルス光と前記第2パルス光とが時間的に重なるように制御して第4の光を生成し、
前記第4の光を前記物質系iに照射することを特徴とする量子ビット読出方法。
【請求項6】
共振器モードを有する共振器を用意し、
前記共振器の内部に含まれ、内部に複数の物質系(物質系1、・・・、物質系n(nは2以上の整数))を含んでいて、各物質系は少なくとも5つのエネルギー状態を有し、各物質系i(iはn以下の自然数)が有する前記5つのエネルギー状態を、低いエネルギーを有する状態から順に|0>、|1>、|g>、|e1>、|e2>と表示すると、|g>−|e1>間遷移が全ての前記物質系で共通の共振器モードに共鳴し、|0>と|1>とで量子ビットを表現する物質を用意し、
|g>−|e2>間遷移、|1>−|e2>間遷移にそれぞれ共鳴する第1パルス光、第2パルス光を生成し、
前記第1パルス光の強度が前記第2パルス光に対して強い状態から前記第2パルス光の強度が前記第1パルス光に対して強い状態に移行するように前記第1パルス光と前記第2パルス光とが時間的に重なるように制御して第3の光を生成し、
前記第3の光を前記物質系iに照射し、
前記共振器モードに結合する観測光を生成し該観測光を前記共振器の外部から該共振器へ入射し、
前記観測光の反射光および前記観測光の透過光の少なくともいずれか1つの強度を測定して量子ビットを読み取り、
前記量子ビットを読み取った後に、|g>−|e1>間遷移、および、|g>−|e2>間遷移のうちのいずれか1つの遷移に共鳴する光を前記物質系iに照射することを特徴とする量子ビット読出方法。
【請求項7】
前記観測光の反射光および前記観測光の透過光の少なくともいずれか1つの強度を測定する場合に、その測定時間Tが、共振器モードと物質系との結合定数の2倍の逆数T=1/(2×g)、物質系の励起状態|e1>の寿命Tに対して、
< T < Tを満たすように測定時間Tを調整することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の量子ビット読出方法。
【請求項8】
内部を一定の温度に保つクライオスタットを用意し、
前記共振器、および、前記物質は、前記クライオスタットの内部に含まれていることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の量子ビット読出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−233388(P2008−233388A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71087(P2007−71087)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】