説明

量子位相シフトゲート装置

【課題】 偏光状態が未知であるような、互いに異なる光経路上を進行する制御光子及び標的光子に対する量子位相シフトゲート操作を可能にする量子位相シフトゲート装置を提供する。
【解決手段】 量子位相シフトゲート装置において、原子系12が励起準位の場合に対しては位相をπだけ変えて光子を反射し、基底準位gの場合に対しては光子を透過する原子−共振器系と、前記透過した光子を反射する手段と、原子系の基底準位gと第一励起準位e1間で回転操作を行うためのレーザーパルス生成装置と、光子のX偏光成分とY偏光成分を分離または合体させる偏光ビームスプリッター6,7と、光を全反射する反射鏡14,15とを備え、レーザーパルスを共振器軸方向から照射して、制御光子と標的光子を互いに異なる入出力部から処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子の偏光状態を測定する装置に係り、特に、量子位相シフトゲート装置及びその応用としてのベル状態測定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光や物質の量子力学的な状態を利用する量子情報技術は、安全性の高い暗号通信や、秘匿性の高い認証など、高度なセキュリティ技術を提供することができると期待されている。例えば、量子暗号通信では、量子力学的な2自由度を用いて表現される情報(以後、量子情報)を単一光子に乗せて伝送することで、通信路上での盗聴者の存在を確実に検知することができ、安全な秘密鍵の配布が可能になる。
【0003】
ここでいう量子情報とは、以下のように説明される。
【0004】
例えば、|0>、|1>という量子力学的な2自由度を用いることにする。古典的な情報(古典ビット)との違いは、量子情報では|0>と|1>という2通りの状態だけでなく、それらの間の重ね合わせ、a|0>+b|1>という状態まで表現できる点である。ここで、aとbは、|a|2 +|b|2 =1を満たす複素数である。これは、0、1という2通りの値しか表現できない古典的なビットと比較して、量子ビットと呼ばれている。
【0005】
なお、量子ビットの情報処理には、量子位相シフトゲートなどの量子状態に対する条件付制御が不可欠である。量子位相シフトゲートとは、2つの量子ビット(制御ビットと標的ビット)からなる状態のうち、状態|1>|1>の場合についてだけ、その位相をπだけ変えて、状態exp[−iπ]|1>|1>に変換するゲートである。その他の状態、|1>|0>, |0>|0>, |0>|1>は、このゲートによって何ら変化を受けない。
【0006】
光子を量子位相シフトゲートの入力量子ビットとして用いる場合は、主として、光子の偏光モードに量子情報が符号化される。例えば、水平偏光|H>と垂直偏光|V>という2自由度を、量子情報を表現するための基底として用いることができる。このことから、その他の直線偏光や円偏光も|H>と|V>の重ね合わせとして表現できるため、光子の偏光状態によって1量子ビットを完全に記述できる。
【0007】
単一原子は、単一光子レベルの光に対して敏感に反応し、光子数に応じて、劇的にその光応答を変えることから、近年、光子に対する量子位相シフトゲートの実現に向けて、原子を用いた装置の研究が、実験と理論の両面で盛んに行われている。原子系と光子とを効率的に相互作用させるために、原子系の周りを共焦点型共振器で覆った、原子−共振器系が原子を用いた装置の主要部分である。共振器を構成しているミラーから入射する光に対する、原子−共振器系の光応答は、共振器の緩和率:κ、共振器を構成する左側(M1)と右側(M2)のミラーの透過率の比:(M1の透過率)/(M2の透過率)、原子系と共振器単一モードとの結合定数:λ、共振器単一モード場以外のすべてのモード場との結合による原子系の緩和率:γによって、特徴づけることができる。特に、量子位相シフトゲートのために原子−共振器系を用いるには、緩和率κと結合定数λとが緩和率γよりもずっと大きいことが必要条件である。その理由は、共振器単一モード場を介さない原子系の緩和は、光子を勝手な方向に放出してしまい、光子損失となるからである。
【0008】
実験では、Turchettとその共同研究者たちが、原子を用いた装置による量子位相シフトゲートの提案とその原理検証を行った(下記非特許文献1)。
【0009】
この実験において、原子−共振器系は、(共振器軸長と共振器モード断面積が各々、56μmと35μmである)共焦点型共振器の共振器軸に対して垂直方向から、共振器内に向けて、セシウム原子ビームを入射し、共振器内平均原子数を約1.0 にすることによって実現した。共振器の左側の球面ミラー(M1)の透過率が右側の球面ミラー(M2)のものよりもずっと小さく、実際の透過率の比は、(M2の透過率)/(M1の透過率)=約3×102 であった。このようにミラーの透過率が互いに極端に異なる共振器のことを「片側共振器」と呼び、反対に、互いにほぼ同じである共振器を「両側共振器」とここでは呼ぶことにする。共振器のガウシアンモードが、セシウム原子の(6S1/2 、F=4、m=4)→(6P3/2 、F′=5、m′=5)遷移と強く結合しており、その結合定数λはλ=20MHzであった。共振器緩和率κと緩和率γは、各々、75MHzと2.5MHzであった。また、原子が共振器を通過する時間は、T0 =224nsであった。
【0010】
彼らの提案する量子位相シフトゲートは、標的ビットに相当する微弱プローブ光と制御ビットに相当する微弱ポンプ光とを共振器軸方向から入射し、ポンプ光の右回り偏光成分と原子との相互作用によって、プローブ光の右回り偏光成分の位相を変調させる方法である。また、相互作用後、ポンプ光とプローブ光を分離できるように、これらの光は互いに中心周波数が異なっており、セシウム原子の遷移周波数からポンプ光の中心周波数は20MHz、プローブ光は30MHz離れた周波数になっていた。
【0011】
この原理検証のために、ポンプ光とプローブ光とを共振器の左側のミラー(M1)から入射し、共振器内の平均光子数が1になるまでポンプ光の平均光子数を増加させたときのプローブ光の位相シフトを、共振器の透過側〔右側の球面ミラー(M2)の側〕に置かれたヘテロダイン検出器で測定した。結果として、13〜16度の位相変化を観測した。
【0012】
しかしながら、彼らの提案とその実験では、量子位相シフトゲートに必要な、位相シフトをπにすると同時に、共振器を反射することによる光子損失をゼロにする方法までは検討されなかった。北大の研究グループは、これらの方法について検討し、原子を用いた装置の提案とその理論解析を行った(下記特許文献1及び非特許文献2)。
【0013】
この提案における原子−共振器系は、Turchetteらのものとよく似ている。異なる点は、制御ビットに相当するポンプ光子(制御光子)と標的ビットに相当するプローブ光子(標的光子)の中心周波数が、互いに同じで、かつ共振器のガウシアンモードの中心周波数と同じである点と、透過率の高い右側の球面ミラー(M2)側から光子を入射し、反射した光子をゲートの出力とする点である。ただし、この提案では、ポンプとプローブを分離するために、原子−共振器系を二つ必要とし、これらをマッハツェンダー型干渉計内の二つの光経路の各々に置く必要がある。その理論解析は、光子の波束幅を適切に選ぶことによって、位相をπ変化させることができ、かつ、ゲート操作における光子の損失がTurchetteらの提案と比べてずっと小さくできることを示した。さらに、この解析によりわかったことは、制御光子と標的光子の右回り円偏光成分は、共振器内原子を介して、互いに非線形相互作用するため、これらの光子は時間的及び空間的に互いに量子的な相関を持つことである。そのため、ゲートから出力されたこれらの光子の波形は、偏光が互いに同じ場合と互いに違う場合とで異なる。
【0014】
偏光状態に依存したこのような波形変化は、量子位相シフトゲートを量子制御NOTゲートとして用いる場合に問題となる。量子制御NOTゲートとは、制御量子ビットが1の場合だけ、標的量子ビットの値を反転させるゲートである。量子位相シフトゲートを量子制御NOTゲートとして用いる場合には、入力標的量子ビットの符号化基底を基底{1/√2(|0>+|1>)、1 /√2(|0>−|1>)}にとり、量子位相シフトゲートからの出力標的量子ビットの符号化基底を基底{|0>、|1>}にユニタリ変換する必要がある。したがって、偏光状態に量子ビット情報を符号化する場合、量子位相ゲートからの出力制御(標的)光子の波束波形は光子の偏光状態によらず同じであることが要求される。この要求が満たされないと、出力標的量子ビットに対する符号化基底の変換に失敗する。したがって、北大のグループの提案は、量子制御NOTゲートへの応用にとって最適ではない。
【0015】
その要求を満たし、量子制御NOTゲートへの応用に最適な、原子を用いた新しい方法が提案されている(下記非特許文献3)。Turchetteらと北大のグループが用いた、片側共振器による原子−共振器系は、弱結合領域(κ>λ)であったが、この提案では、強結合領域(λ>κ)の系を用いる。図14に原子系のエネルギー準位を示す。原子系の第一励起準位e1及び第二励起準位e2間が共振器の単一モード(Turchetteらの実験におけるガウシアンモードに相当する)と強く結合していて、基底準位gと第一励起準位e1間は結合していない。入射光子の中心周波数は、共振器の単一モードと同じである。この原子−共振器系の光応答は次のようになっている。原子系が基底状態gになっているときは、透過率の高い右側の球面(図15の5)ミラー側から入射した光子は、位相をπだけ変えて反射するが、第一励起準位状態e1になっているときは、位相は変化しないで反射する。したがって、レーザーパルスを用いて、基底準位gと第一励起準位e1の間で回転操作を行えば、入射光子の位相をπと0との間で自由に変えることができる。ここで、回転操作とは、基底準位の状態を|g>、第一励起準位の状態を|e1>、回転演算子をR(θ)と表すとき、基底状態に対しては、R(θ)|g>=Cos(θ/2)|g>+Sin(θ/2)|e1>となり、第一励起状態に対しては、R(θ)|e1>=−Sin(θ/2)|g>+Cos(θ/2)|e1>となる操作である。
【0016】
図15に、この共焦点型片側共振器を用いた量子位相シフトゲート装置を示す。量子ビットの情報は、光子の偏光状態に符号化される。符号化基底は、{|0>、|1>}とし、X偏光状態|X>を量子ビット固有状態|1>に、Y偏光状態|Y>を量子ビット固有状態|0>に対応させる。X偏光状態とY偏光状態は互いに直交している。制御光子Cと標的光子Tは、同一光経路上を偏光ビームスプリッター2に向かって進行する。これがこの量子位相シフトゲートの入出力部である。偏光ビームスプリッター2は、X偏光成分を透過し、Y偏光成分を反射する。反射鏡1は、光を全反射する。このとき、この装置の1光子入力に対する応答をユニタリ演算子で表すと次のように表すことができる。Uj =Exp[−i π|g><g||X>j <X|] 、ただし、制御光子の偏光状態に作用するとき、j=Cと表し、標的光子に作用するときは、j=Tと表す。この演算子は、原子系が基底状態の場合だけ、光子のX偏光成分の位相をπ変化させて入出力部に返す応答を表している。なお、図15において、3は原子系、4,5は2枚の球面ミラーである。
【0017】
この演算子と回転演算子R(θ)を用いて、量子位相シフトゲートのための操作は、UQPG (|g>+|e1>)/√2|Ψ>C |Φ>T と表すことができる。ただし、UQPG =UC R(−π/2)UT R(π/2)UC であり、|Ψ>C |Φ>T は各々、制御光子と標的光子の偏光状態である。演算子UQPG は、量子位相ゲートの演算Exp[−iπ|X>C <X||X>T <X|]と等価である。この量子位相シフトゲート装置は、制御(標的)光子の波束幅を共振器緩和時間1/κよりも十分大きく選ぶことによって、出力波形は入力のものと比べてほとんど変化しなくできる。また、この提案における光子の損失は、北大のグループの提案と比べて遜色がない。したがって、量子制御NOTゲートとして用いるのに最適な提案といえる。
【0018】
一方、量子位相シフトゲートを量子制御NOTゲートとして用いる場合の重要な応用の一つに、ベル状態測定がある(下記非特許文献4)。ベル状態とは、2つの量子ビットによって、(1/√2)(|1>|1>±|0>|0>)及び(1/√2)(|1>|0>±|0>|1>)と表される。また、2つの量子ビットの合成系の状態は、これらの状態を用いて完全に記述することができる。そして、ベル状態測定とは、これらの4つの状態のうちのどれかに、入力状態を射影し、どの状態へ射影されたかを判定する測定である。
【0019】
この測定の実現は、長距離間で量子相関を共有するための量子中継システムの構築にとって不可欠である。このシステムは、二組の2光子ベル状態を用意し、個々のベル状態から1光子を取り出してきて、それら2つの光子に対してベル状態測定を行うと、残った光子の間に量子相関をつくることができる。これらの残った光子が互いにある程度遠く離れていれば、空間的に離れた二つのノードの間で、量子相関を共有したことになる。したがって、このシステムを複数用意すれば、量子相関の共有を長距離化することができる。
【特許文献1】特開2004−020970号公報
【非特許文献1】Q.A.Turchette,C.J.Hood,W.Lange,H.Mabuchi,and H.J.Kimble,Phys.Rev.Lett.75,4710(1995).
【非特許文献2】K.Kojima,H.F.Hofmann,S.Takeuchi,K.Sasaki,Phys.Rev.A 70,013810(2004)
【非特許文献3】L.−M.Duan,and H.J.Kimble,Phys.Rev.Lett.92,127902(2004).
【非特許文献4】M.A.Nielsen,and I.L.Chuang,Quantum Computation and Quantum Information,Cambridge,p.25(2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
量子位相ゲートを量子制御NOTゲートとして用いる場合、原子を用いた装置による2光子間量子位相ゲートの提案のなかで、最適なものは、強結合領域の原子−共振器系を用いた提案であることを背景技術において述べたが、この提案には、量子中継システムにおけるベル状態測定への応用に向けて改善すべき問題点が二つある。
【0021】
第一の改善すべき問題点は、この量子位相シフトゲートに入力する前に、制御光子および標的光子は、同一光経路上を同一方向に進行し、かつ、標的光子の波束は制御光子の波束と互いに重ね合わされないほどに遅延していなければならないという点である。
【0022】
その理由は、量子中継システムではベル状態測定を行うために、制御光子と標的光子は、互いに異なる光経路を通って測定装置の場所までやってくるが、この装置内に配置された上述の量子位相シフトゲートの入力に際しては、同一の光経路上を同一方向に進行し、かつ、標的光子の波束が制御光子の波束と重ね合わされないように、光子の進行経路を予め変換しておかなければならないからである。特に、任意の偏光状態を持つこれらの光子の進行経路を上述のように変換することは大変困難であり、未解決問題である。
【0023】
第二の改善すべき問題点は、回転操作のために、レーザーパルスを照射して、共振器内原子系の状態を制御しなければならない点である。
【0024】
その理由は、量子中継システムは主に通信波長帯域(〜1.5μm)において用いられ、制御光子と標的光子の中心周波数がこの帯域に近づくにつれて、共振器長が数μmとなり、共焦点型共振器の共振器軸の垂直方向からレーザーパルスを照射して原子系の状態を精確に制御することが、共振器によるレーザーの散乱などにより困難となるため、共振器軸方向からレーザーパルスを照射しなければならないが、この提案では、共振器軸方向からレーザーパルスを入射し、原子系の状態を制御する方法については検討されていないからである。
【0025】
一方、量子ビットの情報を光子の偏光モードに符号化したとき、ベル状態測定において、量子位相シフトゲートの実現以外の部分で問題となる点は、制御光子と標的光子を直接測定する点である。その理由は、ベル状態測定の成功確率が、制御光子と標的光子を検出する際に、量子効率と暗係数率とによって特徴付けられた光検出器の性能によって制限されるからである。
【0026】
本発明は、上記状況に鑑みて、偏光状態が未知であるような、互いに異なる光経路上を進行する制御光子及び標的光子に対する量子位相シフトゲート操作を可能にする量子位相シフトゲート装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕量子位相シフトゲート装置において、原子系が励起準位の場合に対しては位相をπだけ変えて光子を反射し、基底準位の場合に対しては光子を透過する原子−共振器系と、前記透過した光子を反射する手段と、原子系の基底準位gと第一励起準位e1間で回転操作を行うためのレーザーパルス生成装置と、光子のX偏光成分とY偏光成分を分離または合体させる偏光ビームスプリッターと、光を全反射する反射鏡とを備え、レーザーパルスを共振器軸方向から照射して、制御光子と標的光子を互いに異なる入出力部から処理するようにしたことを特徴とする。
【0028】
〔2〕量子位相シフトゲート装置において、原子系が第一励起準位の場合に対しては基底準位の場合と比べて、位相をπだけ変えて光子を反射する原子−共振器系と、原子系の基底準位gと第一励起準位e1間で回転操作を行うためのレーザーパルス生成装置と、光子のX偏光成分とY偏光成分を分離または合体させる偏光ビームスプリッターと、標的光子X偏光成分の光経路を制御光子X偏光成分の光経路に変換し、また、その逆変換をする手段と、光を全反射する反射鏡とを備え、レーザーパルスを共振器軸方向から照射して、制御光子と標的光子を互いに異なる入出力部から処理するようにしたことを特徴とする。
【0029】
〔3〕上記〔1〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記原子−共振器系は、透過率の等しいミラーで構成された両側共振器を用い、左側のミラーの入出力場を制御光子の入出力部とし、右側のミラーを標的光子の入出力部として用いることを特徴とする。
【0030】
〔4〕上記〔1〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記量子位相シフトゲートの動作は、前記原子系の状態を(|g>+|e1>)/√2とすることにより、入射光子の透過成分及び反射成分との間に量子もつれあい状態(|g>|透過成分>−|e1>|反射成分>)/√2を生成し、透過した光子を反射する手段によって、この状態をもつれ合っていない状態(|g>−|e1>)|反射成分>/√2に変換するようにしたことを特徴とする。
【0031】
〔5〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記原子−共振器系は、前記レーザーパルスを共振器の共振器軸方向から入射することにより前記原子系の状態を直接制御するために、基底準位gと第一励起準位e1の間の遷移周波数がある一つの共振器モードの吸収スペクトラム幅内になるように、前記原子系と共振器軸長を選び、そして、前記共振器単一モードとそれらの準位間の結合(結合定数λ1)が弱結合領域になるように、共振器を構成するミラーの透過率を選ぶことにより、結合定数λ1をその共振器単一モードの緩和率κ′よりも小さくするようにしたことを特徴とする。
【0032】
〔6〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子位相シフトゲート装置において、これらの装置の全体の動作は、前記原子−共振器系における前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間と共振器単一モードとの結合が弱結合領域であるか強結合領域であるかによらないことを特徴とする。
【0033】
〔7〕上記〔1〕記載の量子位相シフトゲート装置において、ベル状態測定装置は、前記制御光子と前記標的光子の偏光状態が互いに同じか否かを判定するための偏光パリティ量子非破壊測定装置と、量子位相シフトゲートとアダマール変換ゲートとアダマール逆変換ゲートとにより構成された量子制御NOTゲートと、前記標的光子の偏光状態がX偏光の場合にY偏光に変換する手段とを備え、入力2光子偏光状態を4つのベル状態のうちの一つの状態に射影し、どの状態に射影されたかをこれらの光子の状態を破壊することなく判定するようにしたことを特徴とする。
【0034】
〔8〕上記〔7〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記ベル状態測定装置の全体の動作は、前記量子制御NOTゲートにより、前記制御光子と前記標的光子からなる合成系の偏光状態の基底を、4つのベル状態から4つの偏光固有状態{|X>|X>、|X>|Y>、|Y>|X>、|Y>|Y>}へ1対1で基底変換して、次に、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置による射影測定により、偏光固有状態{|X>|X>、|X>|Y>}を基底とする状態あるいは偏光固有状態{|X>|Y>、|Y>|X>}を基底とする状態に射影し、前記標的光子の偏光状態がX偏光の場合にY偏光に変換する手段により、前記偏光固有状態{|X>|X>、|X>|Y>}を基底とする状態は{|X>|Y>、|X>|X>}を基底とする状態へ、前記偏光固有状態{|X>|Y>、|Y>|X>}を基底とする状態は{|X>|Y>、|Y>|Y>}を基底とする状態へ変換し、次に、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置による射影測定により、4つのうち一つの偏光固有状態に射影することにより、最終的に観測者が知る偏光固有状態から、4つのベル状態のうちどのベル状態に射影されたのかを前記観測者が知るようにしたことを特徴とする。
【0035】
〔9〕上記〔7〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置は、請求項1または請求項2に記載の量子位相シフトゲートとアダマール変換ゲートとその逆変換ゲートとにより構成された量子制御NOTゲートと補助光子の偏光状態を測定するための手段とを備え、前記補助光子の偏光状態を測定することによって、互いに異なる光経路上を進行する制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じか否かを、これらの光子の状態を破壊することなく判定するようにしたことを特徴とする。
【0036】
〔10〕上記〔9〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置の全体の動作は、前記補助光子をアダマール変換した後、その補助光子と前記制御光子とを請求項1または請求項2に記載の量子位相シフトゲートの標的側入力部と制御側入力部とから各々入力し、続いて、出力された補助光子と前記標的光子を前記量子位相シフトゲートの標的側入力部と制御側入力部とから各々入力し、出力された補助光子をアダマール逆変換した後、その補助光子の偏光状態を測定し、その結果、前記補助光子の偏光状態の測定結果が初期偏光状態と同じである場合は、前記制御光子と前記標的光子の偏光状態は互いに同じであり、前記測定結果が初期偏光状態と異なる場合は前記制御光子と前記標的光子の偏光状態は互いに異なるようにしたことを特徴とする。
【0037】
〔11〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記制御光子及び前記標的光子の中心周波数は、前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の遷移周波数と同じとし、その周波数スペクトラム幅は、前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の吸収スペクトラムの半値幅と同じか狭いようにしたことを特徴とする。
【0038】
〔12〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記制御光子及び前記標的光子の光子波束の縦モード(進行方向)の波形は、関数exp[−Γ|x|] で90%以上の近似ができる波束を用い、Γは、前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間と共振器単一モードとの結合が弱結合領域の場合はこれらの準位間の(共振器軸方向から検出された)吸収スペクトラムの半値幅の半分以下で、強結合領域の場合は前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間と共鳴する共振器単一モードの緩和率以下であるようにしたことを特徴とする。
【0039】
〔13〕上記〔1〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記透過した光子を反射する手段の構成要素である偏光フィルターは、光を全反射するための前記反射鏡と、X偏光を透過しY偏光を反射するための前記偏光ビームスプリッターと、直線偏光と円偏光とを相互に変換するための前記λ/4波長板と、偏光の0度回転あるいは90度回転を選択して行うための動的偏光回転子とからなり、前記動的偏光回転子を用いて、偏光の0度回転と90度回転を任意に行うことにより、前記Y偏光成分は常に透過し、前記X偏光成分は反射と透過の選択を任意に行えるようにしたことを特徴とする。
【0040】
〔14〕上記〔2〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記標的光子のX偏光成分の光経路を前記制御光子のX偏光成分の光経路に変換し、また、その逆変換をする手段は、前記標的光子のX偏光成分だけをY偏光に変換し、逆に、前記標的光子のY偏光成分だけをX偏光に変換する動的偏光回転子と、制御光子であるか標的光子であるかによらずX偏光成分をY偏光に変換し、逆にそれらのY偏光成分をX偏光に変換する静的偏光回転子とからなるようにしたことを特徴とする。
【0041】
〔15〕上記〔9〕記載の量子位相シフトゲート装置において、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置の構成要素の一つである進行方向切り替え手段は、動的偏光回転子と、偏光ビームスプリッターと、反射鏡と、静的偏光回転子とを含み、前記動的偏光回転子は、入射光の偏光を90度回転または0度回転させることを選択的に行える回転子であり、前記偏光ビームスプリッターは、X偏光を反射し、Y偏光を透過するものと、X偏光を透過し、Y偏光を反射するものと両方が用いられ、前記反射鏡は光を全反射し、前記静的偏光回転子は、入射光の偏光を45度回転させるようにして、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置の補助光子検出器が反応したときだけ、入射光の偏光を90度回転するように前記動的偏光回転子を設定することにより、その補助光子検出器が反応しないときは前記制御光子及び前記標的光子を請求項1または請求項2記載の量子位相シフトゲートの入出力部に送り返すようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0043】
(1)偏光状態が未知であるような、互いに異なる光経路上を進行する制御光子及び標的光子に対する量子位相シフトゲート操作ができる。
【0044】
第一の理由は、両側共振器の二つの入出力場の各々を制御光子の入出力部と標的光子の入出力部として用い、ゲート処理ができるためである。
【0045】
第二の理由は、標的光子のX偏光成分の光経路を制御光子のX偏光成分の光経路に変換し、また、その逆変換をする手段により、共振器の入出力場が一つしかない場合において、制御光子と標的光子を互いに異なる入出力部からゲート処理ができるためである。
【0046】
(2)制御光子と標的光子の偏光状態を破壊することのないベル状態測定ができる。
【0047】
その理由は、偏光パリティ量子非破壊測定装置を2回又は3回用いて、出力された補助光子の偏光についての情報を集計することにより、4つのベル状態のうちどの状態に射影されたかを判定できるためである。
【0048】
(3)互いに異なる光経路上を進行する制御光子と標的光子の偏光が互いに同じであるか異なるかをこれらの光子を破壊することなく判定できる。
【0049】
その理由は、本発明による量子位相シフトゲートを用いた量子制御NOTゲートを2つ用いて、制御光子と標的光子の偏光が互いに同じであるか異なるかに応じて、これらの光子の偏光状態を変えないで、補助光子の偏光状態を変えることができることと、制御光子と標的光子に対する繰り返し測定ができることのためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
本発明の量子位相シフトゲート装置は、原子系が励起準位の場合に対しては位相をπだけ変えて光子を反射し、基底準位の場合に対しては光子を透過する原子−共振器系と、前記透過した光子を反射する手段と、原子系の基底準位gと第一励起準位e1間で回転操作を行うためのレーザーパルス生成装置と、光子のX偏光成分とY偏光成分を分離または合体させる偏光ビームスプリッターと、光を全反射する反射鏡とを備え、レーザーパルスを共振器軸方向から照射して、制御光子と標的光子を互いに異なる入出力部から処理するようにした。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
〔第一の実施形態〕
図1は本発明の第一の実施形態である両側共振器を用いた量子位相シフトゲートの構成要素とそれらの関係を示す模式図、図2は本発明の第一の実施形態の全体の動作のブロック図である。
【0052】
図1に示すように、本発明の第一の実施形態である両側共振器を用いた量子位相シフトゲートは、原子−共振器系(ミラー10,11及び原子系12)と、共振器を透過した光子を反射する装置(偏光フィルター8,9及び偏光方向切り替えスイッチ13)と、制御(標的)光子波束を分波及び合波する装置(偏光ビームスプリッター6,7及び反射鏡14,15)と、共振器内の原子系12の状態を制御するためのレーザーパルス生成装置42,43とから構成されている。
【0053】
原子−共振器系は、前述の図14に示されるような準位構造をもった原子系12と、透過率の等しい二つのミラー10,11により構成された両側共振器とを含む。原子系の第一励起準位e1と第二励起準位e2間は、制御(標的)光子によって励起された共振器単一モードと共鳴するが、基底準位gと第一励起準位e1間は共鳴しない。
【0054】
次に、入力1光子に対する原子−共振器系(図1及び図2参照)の応答の概略を説明する。
【0055】
この共振器は両側共振器であるため、光子をミラー10側から入力してもミラー11側から入力しても同じ応答を示す。原子系の第一励起準位e1と基底準位gの間で回転操作を行うことによって、1 光子入力に対するこの共振器の透過率および反射率を任意に選ぶことができる。ここで、回転操作とは、基底準位の状態を|g>、第一励起準位の状態を|e1>、回転演算子をR(θ)と表すとき、基底状態に対しては、R(θ)|g>=Cos(θ/2)|g>+Sin(θ/2)|e1>となり、第一励起状態に対しては、R(θ)|e1>=−Sin(θ/2)|g>+Cos(θ/2)|e1>となる操作である。例えば、原子系の状態がCos(θ/2)|g>+Sin(θ/2)|e1>ならば、透過率は(Cos(θ/2))2 で反射率は(Sin(θ/2))2 となる。また、透過した光子と反射した光子の位相差はπになる。そして、反射した光子と第一励起準位とが互いに相関し、透過した光子と基底状態が互いに相関した、原子系と光子のもつれ合い状態を生成する。例えば、原子系の状態が、Cos(θ/2)|g>+Sin(θ/2)|e1>の場合、もつれ合い状態Cos(θ/2)|g>|透過した光子の状態>−Sin(θ/2)|e1>|反射した光子の状態>を生成する。
【0056】
共振器を透過した光子を反射する装置は、偏光フィルター8,9と、偏光方向切り替えスイッチ13とを含み、1光子入力に対してそれぞれ概略次のように応答する。
【0057】
偏光フィルター8,9は、直交する二つの偏光をX偏光、Y偏光と表すとき、一方の偏光成分を透過し、他方を反射する装置である。いずれの偏光成分を透過し反射するかは任意に選ぶことができる。
【0058】
偏光方向切り替えスイッチ13は、制御(標的)光子波束の位置と時間情報をもとに、偏光フィルター8,9を透過する偏光成分を選択する装置である。
【0059】
制御(標的)光子波束を分波及び合波する装置は、偏光ビームスプリッター6,7と反射鏡14,15とを含む。
【0060】
この偏光ビームスプリッター6,7は、光子波束のX偏光成分を反射し、Y偏光成分を透過する装置であり、反射鏡14,15は、光を全反射する装置である。
【0061】
また、レーザーパルス生成装置42,43は、基底準位gと第一励起準位e1との間における原子系12の状態の回転操作を、ラビ振動によって行うための装置である。但し、これを行うために、Y偏光共振器単一モードと、基底状態と第一励起状態の間との結合は、共振器緩和率κよりも小さくなければならない、また、基底状態と第一励起状態の間の遷移周波数が2κで決まる共振器の吸収スペクトラム幅内に入っていなければならない。
【0062】
次に、図2を参照して本実施の形態の全体の動作について詳細に説明する。
【0063】
まず、原子系12の初期状態を、(|g>+|e1>)/√2にする(ステップS1)。
【0064】
次に、制御光子波束を分波及び合波する装置により、入力制御光子波束をX偏光成分とY偏光成分とに分波する(ステップS2)。さらに、制御光子X偏光成分をミラー10から入射し、原子−共振器系と相互作用させる(ステップS3)。そして、共振器を透過した光子を反射する装置を用いて、透過した制御光子X偏光成分を図1のミラー10側に戻す(ステップS4)。その後、レーザーパルス生成装置42を用いて、原子系12に回転演算子R(θ=−π/2)で表される回転操作を行う(ステップS5)。さらに、制御光子波束を分波及び合波する装置により、制御光子のY偏光成分とX偏光成分を合波する(ステップS6)。
【0065】
次に、標的光子波束を分波及び合波する装置により、入力標的光子波束をX偏光成分とY偏光成分とに分波する(ステップS7)。さらに、標的光子X偏光成分をミラー11から入射し、原子−共振器系と相互作用させる(ステップS8)。そして、共振器を透過した光子を反射する装置を用いて、透過した制御光子X偏光成分を図1のミラー11側に戻す(ステップS9)。その後、レーザーパルス生成装置を用いて、原子系12に回転演算子R(θ=π/2)で表される回転操作を行う(ステップS10)。さらに、標的光子波束を分波及び合波する装置により、標的光子のY偏光成分とX偏光成分を合波する(ステップS11)。
【0066】
そこで、再度、制御光子波束を分波及び合波する装置により、入力制御光子波束をX偏光成分とY偏光成分とに分波する(ステップS12)。さらに、制御光子X偏光成分をミラー10から入射し、原子−共振器系と相互作用させる(ステップS13)。そして、共振器を透過した光子を反射する装置を用いて、透過した制御光子のX偏光成分を図1のミラー10側に戻す(ステップS14)。最後に、制御光子波束を分波及び合波する装置により、制御光子のY偏光成分とX偏光成分を合波する(ステップS15)。以上で、本実施形態の全体の動作は完了する。
【0067】
次に、上述の全体の動作を定式化する。
【0068】
制御(標的)1光子入力に対する図1の装置全体の応答は、ユニタリ演算子で表すと、Uj =Exp[−i π|e1><e1||X>j <X|]、但し、制御光子の偏光状態に作用するときは、j=Cと表し、標的光子に作用するときは、j=Tと表す。このとき、本実施形態の全体の動作は、UQPG (|g>+|e1>)/√2|Ψ>C |Φ>T と書ける。但し、UQPG =UC R(π/2)UT R(−π/2)UC であり、|Ψ>C と|Φ>T は各々、制御光子と標的光子の偏光状態である。演算子UQPG は、量子位相ゲートの演算子Exp[−iπ|X>C <X||X>T <X|]と同等である。
【0069】
次に、本実施の形態の効果について説明する。
【0070】
本実施の形態では、光子の入出力部を二つ持つように構成されているため、互いに異なる光経路を進行する偏光状態が未知の2つの光子をゲート処理することができる。また、本実施の形態では、共振器軸方向からレーザーパルスを原子系に照射し、その状態を制御するように構成されているため、通信波長帯域の共振器内においても原子系の状態を精確に制御することができる。
(実施例1)
以下、第一の実施形態の具体的な実施例を述べる。
【0071】
図3は本発明の第一の実施形態である量子位相シフトゲートの実施例を示す図、図4は本発明の第一の実施形態である両側共振器を用いた量子位相シフトゲートの実施例で用いられるV型3準位原子系の準位構造を示す図、図5は偏光フィルターの構成図である。
【0072】
本実施例では、図3に示すように、原子−共振器系(球面ミラー10r、11r及び原子系12r)と、偏光ビームスプリッター6r,7r,45と、偏光フィルター8r,9rと、反射鏡14r,15rと、偏光方向切り替えスイッチ13rと、Y偏光レーザーパルス42r,43rと、静的偏光回転子41と、光検出器44とを備えた両側共振器を用いた量子位相シフトゲートである。但し、偏光ビームスプリッター、反射鏡、偏光フィルターが与える固有の位相シフトは、これらの光学要素に適切なコーティングを施すことによって回避でき、また、光学距離を調整することによっても回避できる問題であるため、以下では考慮されない。
【0073】
原子−共振器系は、原子系12rと、透過率の等しい二つの球面ミラー10r,11rにより構成された共焦点型両側共振器とを含む。原子系12rは、セシウム原子のV型三準位原子系を用いる。図4はそのV型三準位原子系の準位構造を示す。セシウム原子の場合、図4の第一励起準位e1は(6S1/2 、F=4、m=4)が対応し、同様にして、第二励起準位e2は(6P3/2 、F′=5、m′=5)が、基底準位gは(6P3/2 F′=5、m′=3)が対応する。このとき、第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の遷移周波数と基底準位g及び第一励起準位間の遷移周波数は約3.5×1014Hzとなる。振動子強度は、第一励起準位e1及び第二励起準位e2間が基底準位g及び第一励起準位e1間の約45倍となる。また、第一励起準位e1及び第二励起準位e2間は、共振器の右回り円偏光TEM00モードと強く共鳴し、基底準位g及び第一励起準位e1間は、左回り円偏光TEM00モードと強く共鳴する。
【0074】
この両側共振器のフィネスFは約1.8×104 である。このとき、共振器軸長は約56μm、球面ミラー10r,11rの曲率半径は約45cm〜約100cmとなり、その透過率は約1.8×10-4で、透過損失は5×10-5以下となる。以上の条件の下で、この共振器のTEM00モードのビームウエイストは約36μmとなる。但し、回折損失を減らすため、球面ミラー10r、11rの曲率半径は、約45cm〜約100cmの範囲で互いに異なる場合もある。
【0075】
以上の条件の下で、共振器の減衰率κは約80MHz、共振器の右回り円偏光TEM00モードと原子系との結合定数λ+ は約20MHz、左回り円偏光TEM00モードと原子系との結合定数λ- はλ+ /√45=約3.0MHzとなる。したがって、弱結合領域(κ/4≧λ+ 、λ- )であることから、共振器軸方向への原子輻射緩和率は、それぞれ、λ+ 2 /κ=約5.3MHz、λ- 2 /κ=約0.12MHzとなる。
【0076】
セシウム原子は、オーブンから放出され、速度選択装置に入る。この速度選択装置を通過したセシウム原子は光ポンピングにより第一励起状態に準備され、その後、共振器軸方向と垂直な方向から共振器に入射する。速度選択を行うことによって、共振器内での相互作用時間を制御する。
【0077】
ゲート処理にかかる時間は、約2μs〔=(原子共振器系との相互作用時間〜0.1μs)×光子数×10〕あればよいので、原子が共振器を横切るのにかかる時間は、約20μsであればよい。したがって、セシウム原子の速度は、(ビームウエイスト)/(ゲート処理時間×10)=36μm/20μs=1.8m/s以下であることが望ましい。但し、ゲート処理時間には、制御光子と標的光子の間の遅延時間は含めていない。その理由は、この時間間隔において原子状態は、第一励起準位e1になっており、この場合、V型三準位のうちもっとも緩和時間の長い(〜50μs)安定した準位であるからである。
【0078】
偏光ビームスプリッター6r,7r,45は、光損失を減らすために、例えば、レーザーライン用キューブタイプ偏光ビームスプリッター(透過率99%以上)を用いる。このレーザーライン用キューブタイプ偏光ビームスプリッターは、S偏光を反射し、P偏光を透過する。したがって、実施例では、X偏光をS偏光、Y偏光をP偏光として扱う。また、反射鏡14r,15rは、光を全反射する。例えば、光損失を減らすために、誘電対全反射ミラー(反射率99%以上)を用いる。
【0079】
偏光フィルター8r,9rは、図5に示すように、反射鏡47,63,64と偏光ビームスプリッター48,62とλ/4波長板49と動的偏光回転子46とを含む。λ/4波長板49は、X偏光成分を右回り円偏光に変換およびその逆変換をするために、X偏光方向に対して結晶軸を45度傾けて配置される。例えば、光損失を減らすために、水晶波長板(透過率99%以上)を用いる。動的偏光回転子46は、例えば、光損失を減らすために、KD* P製ポッケルスセル(透過率99%以上のものが望ましい)を用いる。X偏光成分をY偏光成分に変換およびその逆変換をするために、X偏光方向に対して結晶軸を45%傾けて配置される。偏光ビームスプリッター48,62は、X偏光を透過し、Y偏光を反射するビームスプリッターである。このような構成を採用し、Y偏光成分は常に透過するが、X偏光成分は、動的偏光回転子46により透過と反射を任意に行えるようにした。
【0080】
図3の偏光方向切り替えスイッチ13rは、光子波束の位置と時間ついての情報をもとに、偏光フィルター8r,9rを透過する偏光成分を自動的に選択する装置である。これは、例えば、ポッケルスセルを図5の動的偏光回転子46として用いる場合、ポッケルスセルに電圧をパルス的に印加するように指令を送るための装置である。
【0081】
制御光子をゲート処理する際には、図3の偏光フィルター8rはX偏光成分を透過する設定になっており、偏光フィルター9rはX偏光成分を反射する設定になっている。
【0082】
一方、標的光子をゲート処理する際には、偏光フィルター9rはX偏光成分を透過する設定になっており、偏光フィルター8rはX偏光成分を反射する設定になっている。
【0083】
レーザーパルス生成装置42rは、共振器内の原子系12rを制御するためと、原子が共振器内の適切な位置に存在することを確認するために用いられる。この確認のために、微弱光を原子系12rに照射し、この原子系12rからの輻射を光検出器44で観測する。静的偏光回転子41と、偏光ビームスプリッター45は、この輻射を、図3のレーザーパルス生成装置43rから分離するために用いられる。例えば、原子寿命(約10μs)よりもずっと短時間に原子系12rの状態を変えるために、約100ナノ秒の矩形π/2パルス生成装置を用いる。
【0084】
制御(標的)光子の中心周波数は、第一の励起準位e1及び第二励起準位e2間の遷移周波数ω1と同じとし、その周波数スペクトラム幅は、第一の励起準位e1及び第二励起準位e2間の吸収スペクトラムの半値幅(約40MHz)と同じか狭いとする。光子波束の縦モード(進行方向)の波形は、原子系の吸収に起因した波形変化の影響が小さいという点で、関数exp[−Γ|x|] で近似できる波束を用いることが望ましい。ただし、xは光子の時間位置を表し、Γは共振器軸方向への緩和率を表す。この場合、緩和率Γは、第一の励起準位e1及び第二励起準位e2間の吸収スペクトラムの半値幅(約20MHz)以下であればよい。量子ビットの情報は制御及び標的光子の直交する二つの偏光、X偏光とY偏光とに符号化される。
【0085】
以上、このような構成を採用した量子位相シフトゲートの動作は実施形態1の全体の動作と同じである。但し、全体の動作を開始する前に、レーザーパルス生成装置42rにより、微弱光を共振器に照射し、原子が共振器内の適切な位置に存在することを、光検出器44による共振器の透過率測定によって確認する必要がある。実際には、その透過率が1から10-2以下に変化したら、ゲート処理を開始する。
〔第二の実施形態〕
本発明の第二の実施形態として、偏光パリティ量子非破壊測定装置について説明する。
【0086】
偏光パリティ量子非破壊測定装置は、補助光子の偏光状態を測定することによって、制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じか否かを、これらの光子の状態を破壊することなく判定する装置である。
【0087】
図6は本発明の第二の実施形態である偏光パリティ量子非破壊測定装置の構成要素とそれらの関係を示す模式図、図7は本発明の第二の実施形態の全体の動作のブロック図である。
【0088】
図6に示されるように、本発明の第二の実施形態の偏光パリティ量子非破壊測定装置は、アダマール変換ゲート23と、アダマール逆変換ゲート22と、本発明による量子位相シフトゲート24,25と、補助光子検出手段(進行方向切り替え手段16,17と、偏光ビームスプリッター21と、光検出器19,20と、信号検出器18)とから構成されている。
【0089】
アダマール変換ゲート23はX偏光状態|X>を(|X>+|Y>)/√2に変換し、Y偏光状態|Y>を−(|X>−|Y>)/√2に変換する装置である。一方、アダマール逆変換ゲート22はアダマール変換ゲート23とは逆の変換を行う装置である。
【0090】
量子位相シフトゲート24,25は、本発明の第一の実施形態において説明した装置である。
【0091】
また、補助光子検出手段は、進行方向切り替え手段16,17と、偏光ビームスプリッター21と、光検出器19,20と、信号検出器18とを含む。進行方向切り替え手段16,17は、信号検出器18が信号を検知した場合、制御光子と標的光子を通過させ、検知しなかった場合、制御光子と標的光子を各々の入力部に送り返す。光検出器19,20とX偏光を反射しY偏光を透過する偏光ビームスプリッター21は、補助光子の偏光状態を検出するために用いる。
【0092】
次に、図7を参照して、本実施の形態の全体の動作について詳細に説明する。
【0093】
まず、補助光子を直交する二つの偏光、X偏光とY偏光のうち、X偏光にする(ステップS1)。次に、X偏光補助光子をアダマール変換ゲート23に入れる(ステップS2)。さらに、上述のアダマール変換ゲート23から出力された補助光子と制御光子を量子位相シフトゲート25の各入力部に入れる(ステップS3)。また、出力された補助光子と標的光子を量子位相シフトゲート24の各入力部に入れる(ステップS4)。そして、出力部からの補助光子をアダマール逆変換ゲート22に入れる(ステップS5)。ここで、制御光子と標的光子の偏光が共にX偏光あるいはY偏光である場合は、補助光子はX偏光となり、偏光が互いに異なる場合は、Y偏光となる。次に、補助光子の偏光がX偏光とY偏光のいずれであるかを偏光ビームスプリッター21と光検出器19,20を用いた測定によって判定する(ステップS6)。X偏光の補助光子は、光検出器19に向かい、Y偏光の補助光子は、光検出器20に向かう。光検出器19における検出は、制御光子と標的光子の偏光が互いに同じであることを意味し、光検出器20における検出は、制御光子と標的光子の偏光が互いに異なることを意味する。測定に失敗した場合、すなわち、信号検知器18が反応しなかった場合は、新規に補助光子を用意し、進行方向切り替え手段16、17を用いて、制御及び標的光子をこの装置の入力部に戻す。
【0094】
以上で、本実施形態の全体の動作は完了する。
【0095】
次に、本実施の形態の効果について説明する。本実施の形態では、補助光子の偏光状態を破壊する代わりに、制御光子と標的光子の偏光状態を破壊することなく、これらの光子の偏光が互いに同じか否かを判定するよう構成されているため、制御光子と標的光子の偏光状態を、補助光子を用いて繰り返し測定することにより、理想的な検出器がなくても漸近的に成功確率100%の判定ができる。
(実施例2)
以下、第二の実施形態の具体的な実施例を述べる。
【0096】
量子位相シフトゲートの実施例は実施例1または後述の実施例4と同じである。
【0097】
アダマール変換ゲート23とアダマール逆変換ゲート22は、偏光を45度回転させるファラデー回転素子によって達成できる。この時、光損失を減らすために、透過率99%以上のファラデー回転素子が望ましい。
【0098】
図8は、図6に示す進行方向切り替え手段16,17の実施例を示す図である。
【0099】
この進行方向切り替え手段16,17は、動的偏光回転子50,51と、偏光ビームスプリッター52,58,59,60と、反射鏡53,54,55,56と、ファラデー回転素子57,61とを含む。
【0100】
動的偏光回転子50,51は、入射光の偏光を90度回転または0度回転させることを選択的に行える回転子である。光損失を減らすために、例えば、KD* Pポッケルスセルを用いる。偏光ビームスプリッター52,58,59は、X偏光を反射し、Y偏光を透過する。一方、偏光ビームスプリッター60はX偏光を透過し、Y偏光を反射する。反射鏡53,54,55,56は、光を全反射する。ファラデー回転素子57,61は、入射光の偏光を45度回転させる。このような構成を採用して、図6に示す信号検知器18が反応したときだけ、入射光の偏光を90度回転するように動的偏光回転子50,51を設定することにより、図6に示す信号検知器18が反応しないときは、制御光子及び標的光子を量子位相シフトゲート24,25の入力部に送り返すことができる。
【0101】
図6に示す光検出器19,20は、理想的な検出器(量子効率100%;暗計数率0%)である必要はないが、量子効率が高く、暗計数率が低いほど、制御光子と標的光子に対する繰り返し測定の回数が少なくできるため、理想的な検出器に近いほうが望ましい。
【0102】
以上、このような構成を採用した偏光パリティ量子非破壊測定装置の動作は、第二の実施形態の全体の動作と同じである。
〔第三の実施形態〕
本発明の第3の実施形態として、ベル状態測定装置について説明する。
【0103】
ベル状態測定装置は、制御光子と標的光子の合成系の偏光状態が4つのベル状態のうちどの状態であるかを判定する測定装置である。
【0104】
図9は本発明の第三の実施形態であるベル状態測定装置の構成要素とそれらの関係を示す模式図であり、図10は本発明の第三の実施形態の全体の動作のブロック図である。
【0105】
図9に示すように、本発明の第三の実施形態であるベル状態測定装置は、第一の実施形態で説明した量子位相シフトゲート29と、第二の実施形態で説明した偏光パリティ量子非破壊測定装置27,28と、アダマール変換ゲート30,81とアダマール逆変換ゲート31と、X→Y変換装置26とを含む。X→Y変換装置26は、X偏光成分をY偏光に変換する装置である。
【0106】
次に、図10を参照して、本実施の形態の全体の動作を詳細に説明する。
【0107】
まず、標的光子をアダマール変換ゲート30に入れる(ステップS1)。次に、制御光子を量子位相シフトゲート29の入力部に、アダマール変換ゲート30から出力された標的光子を量子位相シフトゲート29の入力部に入れる(ステップS2)。さらに、量子位相シフトゲート29から出力された標的光子をアダマール逆変換ゲート31に入れ、出力された制御光子をアダマール変換ゲート81に入れる(ステップS3)。ここで、入力2光子の偏光状態がベル状態1/√2(|X>|X>+|Y>|Y>)であった場合、出力された制御及び標的光子の合成系の偏光状態は、偏光状態|Y>|Y>に変換され、ベル状態1/√2(|X>|X>−|Y>|Y>)の場合、偏光状態|X>|Y>に変換される。同様にして、1/√2(|X>|Y>+|Y>|X>)は、偏光状態|Y>|X>に、1/√2(|X>|Y>−|Y>|X>)は、偏光状態|X>|X>に変換される。次に、制御光子と標的光子と補助光子を偏光パリティ量子非破壊測定装置27に入れ、制御光子と標的光子の偏光が互いに同じか否かを判定する(ステップS4)。さらに、標的光子のX偏光成分をX→Y変換装置26によりY偏光に変える(ステップS5)。次いで、制御光子と標的光子を偏光パリティ量子非破壊測定装置28に入れ、制御光子と標的光子の偏光が互いに同じか否かを判定する(ステップS6)。
【0108】
偏光パリティ量子非破壊測定装置27において、偏光が互いに同じと判定され、偏光パリティ量子非破壊測定装置28においても互いに同じと判定された場合、偏光パリティ量子非破壊測定装置27に入る直前の制御光子と標的光子との合成系の偏光状態は、偏光状態|Y>|Y>であり、したがって、ベル状態測定装置は、この装置に入る直前の入力制御光子及び標的光子の偏光状態をベル状態1/√2(|X>|X>+|Y>|Y>)に射影する。同様にして、偏光パリティ量子非破壊測定装置27において、偏光が互いに同じと判定され、偏光パリティ量子非破壊測定装置28において互いに異なると判定された場合、偏光状態|X>|X>であり、したがって、ベル状態測定装置は、ベル状態1/√2(|X>|Y>−|Y>|X>)に射影する。偏光パリティ量子非破壊測定装置27において、偏光が互いに異なると判定され、偏光パリティ量子非破壊測定装置28において偏光が互いに同じと判定された場合、偏光状態|Y>|X>であり、したがって、ベル状態1/√2(|X>|Y>+|Y>|X>)に射影する。偏光パリティ量子非破壊測定装置27において、偏光が互いに異なると判定され、偏光パリティ量子非破壊測定装置28においても互いに異なると判定された場合、偏光状態|X>|Y>であり、したがって、ベル状態1/√2(|X>|X>−|Y>|Y>)に射影する。
【0109】
以上で、本実施形態の全体の動作は完了する。
【0110】
次に、本実施の形態の効果について説明する。
【0111】
本実施の形態では、偏光パリティ量子非破壊測定装置を用いることにより、制御光子と標的光子の偏光状態を破壊することなく、これらの光子の偏光状態が4つのベル状態のうちの一つに射影されるように構成されているため、漸近的に成功確率100%でベル状態の判定ができる。
(実施例3)
以下、第三の実施形態の具体的な実施例を述べる。
【0112】
図11は本発明の第三の実施形態であるベル状態測定装置の実施例を示す図である。
【0113】
図11に示すように、ベル状態測定装置は、第一実施形態で説明した量子位相シフトゲート37と、偏光ビームスプリッター38と、偏光パリティ量子非破壊測定装置32,33,34と、アダマール変換ゲート35,82とアダマール逆変換ゲート36と、X→Y変換装置(偏光ビームスプリッター39と、静的偏光回転子40)とを備えている。
【0114】
このベル状態測定装置における各構成要素(量子位相シフトゲート37;偏光パリティ量子非破壊測定装置32,33,34;アダマール変換ゲート35,82;アダマール逆変換ゲート36;偏光ビームスプリッター38,39)の実施例は、実施例1及び2と同じである。
【0115】
本実施例は、本実施形態と比べ、偏光パリティ量子非破壊測定装置が一つ多いせいで、測定者の行う判定方法が少し複雑になっている。
【0116】
以下に本実施例の判定方法を述べる。
【0117】
偏光パリティ量子非破壊測定装置32がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じであると判定し、偏光パリティ量子非破壊測定装置34がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに異なると判定したとき、ベル状態測定装置は、この装置に入る直前の状態をベル状態1/√2(|X>|Y>−|Y>|X>)に射影する。同様にして、偏光パリティ量子非破壊測定装置32がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じであると判定し、偏光パリティ量子非破壊測定装置34がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じであると判定し、さらに、偏光パリティ量子非破壊測定装置33がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じであると判定したとき、ベル状態測定装置は、この装置に入る直前の状態をベル状態1/√2(|X>|X>+|Y>|Y>)に射影する。偏光パリティ量子非破壊測定装置32がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに異なると判定し、偏光パリティ量子非破壊測定装置34がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じであると判定し、さらに、偏光パリティ量子非破壊測定装置33がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じであると判定したとき、ベル状態測定装置は、この装置に入る直前の状態をベル状態1/√2(|X>|Y>+|Y>|X>)に射影する。偏光パリティ量子非破壊測定装置32がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに異なると判定し、偏光パリティ量子非破壊測定装置34がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに異なると判定し、さらに、偏光パリティ量子非破壊測定装置33がこの装置に入る直前の制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じであると判定したとき、ベル状態測定装置は、この装置に入る直前の状態をベル状態1/√2(|X>|X>−|Y>|Y>)に射影する。
〔他の発明を実施するための最良の形態〕
次に、本発明の第2の発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0118】
図12は本発明の第2の発明を実施するための最良の形態を示す図である。
【0119】
図12を参照すると、本発明の第2の発明を実施するための最良の形態は、原子−共振器系(原子系65及びミラー66,67)と、偏光ビームスプリッター70,71,72と、動的偏光回転子69と、静的偏光回転子68と、全反射鏡73,74と、レーザーパルス生成装置75と、原子系65の応答を確認する手段(ビームスプリッター77,78,79、反射鏡81及び光検出器76,80)とから構成されている。
【0120】
原子−共振器系(原子系65及びミラー66,67)は、図4に示すV型3準位原子系と、ミラー66,67とから構成された片側共振器(ミラー66の透過率は、ミラー67の透過率よりもずっと小さい。)とを含む。原子系の第一励起準位e1と第二励起準位e2間は、制御(標的)光子によって励起された共振器単一モードと共鳴するが、基底準位gと第一励起準位e1間は共鳴しない。この原子−共振器系は概略次のように動作する。
【0121】
ミラー67側から光子が入射すると、原子系65の状態が第一励起状態(e1)の場合、基底状態(g)の場合と比べて光子の位相を相対的にπだけ変えてその光子を反射する。従って、原子系65の状態が、Cos(θ/2)|g>+Sin(θ/2)|e1>の場合、ミラー67側から光子が入射すると、状態(Cos(θ/2)|g>−Sin(θ/2)|e1>)|反射した光子の状態>を生成する。
【0122】
偏光ビームスプリッター70は、互いに直交する偏光Xと偏光Yのうち、Y偏光を反射し、X偏光を透過するビームスプリッターで、偏光ビームスプリッター71,72は、X偏光を反射し、Y偏光を透過するビームスプリッターである。
【0123】
動的偏光回転子69は、標的光子の偏光状態を90度回転させる装置であって、標的光子がこの装置にX偏光状態で入射した場合は、Y偏光状態に変換し、逆にY偏光状態で入射した場合は、X偏光状態に変換する。
【0124】
静的偏光回転子68は、光子の偏光状態を90度回転させる装置であって、光子がこの装置にX偏光状態で入射した場合は、Y偏光状態に変換し、逆にY偏光状態で入射した場合は、X偏光状態に変換する。この静的偏光回転子68は、標的光子と制御光子とを区別しない点で、動的偏光回転子69と異なる。
【0125】
全反射鏡73,74は、偏光ビームスプリッター71,72を透過したY偏光成分を全反射する装置である。
【0126】
レーザーパルス生成装置75は、V型3準位原子系の第一励起準位e1と基底準位gとの間における遷移と共鳴するY偏光レーザーパルスを生成する装置であって、この原子系65の状態を第一励起準位e1と基底準位gとの間で制御するためと、原子系65の共振器内での位置を確認するために用いられる。但し、これらを行うために、Y偏光共振器単一モードと、基底準位gと第一励起準位e1間における遷移との結合は、共振器緩和率κよりも小さくなければならない、また、基底状態と第一励起状態の間の遷移周波数が2κで決まる共振器の吸収スペクトラム幅内に入っていなければならない。
【0127】
原子系65の応答を確認する手段(ミラー77,78,79及び光検出器76,80)は、ミラー78により、レーザーパルス生成装置75から生成されたパルスの一部を反射し、その反射光を参照光とし、原子−共振器系から偏光ビームスプリッター70を経由して戻ってきた光をミラー79で一部反射し、その反射光を信号光とし、ミラー77でその参照光とその信号光とを干渉させることにより、原子系65の共振器内での位置を、光検出器76,80を用いて確認する手段である。
【0128】
次に、図13のフローチャートを参照して、本実施の形態の全体の動作について詳細に説明する。
【0129】
まず、原子系65の初期状態を(|g>+|e1>)/√2にする(ステップS1)。次に、制御光子波束を偏光ビームスプリッター71により、X偏光成分とY偏光成分とに分波する(ステップS2)。さらに、制御光子X偏光成分をミラー67から入射し、原子−共振器系と相互作用させる(ステップS3)。その後、レーザーパルス生成装置を用いて、原子系65に回転演算子R(θ=−π/2)で表される回転操作を行う(ステップS4)。ここで、回転操作とは、基底準位の状態を|g>、第一励起準位の状態を|e1>、回転演算子をR(θ)と表すとき、基底状態に対しては、R(θ)|g>=Cos(θ/2)|g>+Sin(θ/2)|e1>となり、第一励起状態に対しては、R(θ)|e1>=−Sin(θ/2)|g>+Cos(θ/2)|e1>となる操作である。その後偏光ビームスプリッター71により、制御光子のY偏光成分とX偏光成分を合波する(ステップS5)。
【0130】
次に、標的光子波束を偏光ビームスプリッター72により、X偏光成分とY偏光成分とに分波する(ステップS6)。さらに、標的光子X偏光成分を静的偏光回転子68によりY偏光に変換し、偏光ビームスプリッター71を透過させる(ステップS7)。その後、動的偏光回転子69により、再びX偏光に変換する(ステップS8)。標的光子X偏光成分をミラー67から入射し、原子−共振器系と相互作用させる(ステップS9)。次に、レーザーパルス生成装置を用いて、原子系65に回転演算子R(θ=π/2)で表される回転操作を行う(ステップS10)。標的光子X偏光成分を動的偏光回転子69によりY偏光に変換し、偏光ビームスプリッター71を透過させる(ステップS11)。その透過した標的光子Y偏光成分を静的偏光回転子68により、再びX偏光に変換する(ステップS12)。そして、偏光ビームスプリッター72により、標的光子のY偏光成分とX偏光成分を合波する(ステップS13)。
【0131】
その後、再度、偏光ビームスプリッター71により、入力制御光子波束をX偏光成分とY偏光成分とに分波する(ステップS14)。さらに、制御光子X偏光成分をミラー67から入射し、原子−共振器系と相互作用させる(ステップS15)。最後に、制御光子波束を偏光ビームスプリッター71により、Y偏光成分とX偏光成分を合波する(ステップS16)。
【0132】
以上で、本実施形態の全体の動作は完了する。
【0133】
次に、上述の全体の動作を定式化する。
【0134】
制御(標的)1光子入力に対する図12の装置全体の応答は、ユニタリ演算子で表すと、Uj =Exp[−i π|e1><e1||X>j <X|] 、ただし、制御光子の偏光状態に作用するときは、j=Cと表し、標的光子の偏光状態に作用するときは、j=Tと表す。このとき、本実施形態の全体の動作は、UQPG (|g>+|e1>)/√2|Ψ>C |Φ>T と示すことができる。ただし、UQPG =UC R(π/2)UT R(−π/2)UC であり、|Ψ>C と|Φ>T は各々、制御光子と標的光子の偏光状態である。演算子UQPG は、量子位相シフトゲートの演算子Exp[−iπ|X>C <X||X>T <X|]と同等である。
【0135】
次に、本実施の形態の効果について説明する。
【0136】
本実施の形態では、制御光子のX偏光成分と標的光子のX偏光成分を同一の光経路を進行するように変換し、逆に、同一の光経路上の制御光子X偏光成分と標的光子X偏光成分を互いに異なる光経路上を進行するよう変換するように構成されているため、互いに異なる光経路を進行する偏光状態が未知の2つの光子をゲート処理することができる。また、本実施の形態では、共振器軸方向からレーザーパルスを原子系に照射し、その状態を制御するように構成されているため、通信波長帯域の共振器内においても原子系の状態を精確に制御することができる。
(実施例4)
以下、本発明を実施するための最良の形態の具体的な実施例を述べる。
【0137】
図12に示すように、原子−共振器系は、原子系65と、透過率の異なる二つの球面ミラー66,67により構成された共焦点型片側共振器とを含む。原子系65は、前述の図4に示すセシウム原子のV型三準位原子系を用いる。セシウム原子の場合、図4の第一励起準位e1は(6S1/2 、F=4、m=4)が対応し、同様にして、第二励起準位e2は(6P3/2 、F′=5、m′=5)が、基底準位gは(6P3/2 、F′=5、m′=3)が対応する。このとき、第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の遷移周波数と基底準位g及び第一励起準位e1間の遷移周波数は約3.5×1014Hzとなる。振動子強度は、第一励起準位e1及び第二励起準位e2間が基底準位g及び第一励起準位e1間の約45倍となる。第一励起準位e1及び第二励起準位e2間は、共振器の右回り円偏光TEM00モードと強く共鳴し、基底準位g及び第一励起準位e1間は、左回り円偏光TEM00モードと強く共鳴する。
【0138】
この片側共振器のフィネスFは約1.8×104 である。このとき、共振器軸長は、約56μm、球面ミラー66,67の曲率半径は約45cm〜約100cmとなり、その透過率はミラー66が約1.0×10-6でミラー67が約3.5×10-4、透過損失は5×10-5以下となる。
【0139】
以上の条件の下で、この共振器のTEM00モードのビームウエイストは約36μmとなる。ただし、回折損失を減らすため、球面ミラー66,67の曲率半径は、約45cm〜約100cmの範囲で互いに異なる場合もある。
【0140】
また、共振器の減衰率κは約80MHz、共振器の右回り円偏光TEM00モードと原子系との結合定数λ+ は約20MHz、左回り円偏光TEM00モードと原子系との結合定数λ- はλ+ /√45=約3.0MHzとなる。したがって、弱結合領域(κ/4≧λ+ 、λ- )であることから、共振器軸方向への原子輻射緩和率は、それぞれ、λ+ 2 /κ=約5.3MHz、λ- 2 /κ=約0.12MHzとなる。
【0141】
セシウム原子は、オーブンから放出され、速度選択装置に入る。この装置を通過した原子は光ポンピングにより第一励起状態に準備され、その後、共振器軸方向と垂直な方向から共振器に入射する。速度選択を行うことによって、共振器内での相互作用時間を制御する。
【0142】
ゲート処理にかかる時間は、約2μs〔=(原子−共振器系との相互作用時間〜0.1μs)×光子数×10〕あればよいので、原子が共振器を横切るのにかかる時間は、約20μsであればよい。従って、セシウム原子の速度は、(ビームウエイスト)/(ゲート処理時間×10)=36μm/20μs=1.8m/s以下であることが望ましい。ただし、ゲート処理時間には、制御光子と標的光子の間の遅延時間は含めていない。その理由は、この時間間隔においての原子状態は第一励起準位e1になっており、この場合、V型三準位のうちもっとも緩和時間の長い(〜50μs)安定した準位であるからである。
【0143】
偏光ビームスプリッター71,72は、光損失を減らすために、例えば、レーザーライン用キューブタイプ偏光ビームスプリッター(透過率99%以上)を用いる。このレーザーライン用キューブタイプ偏光ビームスプリッターは、S偏光を反射し、P偏光を透過する。従って、実施例では、X偏光をS偏光、Y偏光をP偏光として扱う。
【0144】
全反射鏡73,74は、光を全反射する。光損失を減らすために、例えば、誘電対全反射ミラー(反射率99%以上)を用いる。
【0145】
動的偏光回転子69は、光損失を減らすために、例えば、KD* P製ポッケルスセル(透過率99%以上のものが望ましい)を用いる。X偏光成分をY偏光成分に変換およびその逆変換をするために、X偏光方向に対して結晶軸を45度傾けて配置される。
【0146】
偏光ビームスプリッター70は、X偏光を透過し、Y偏光を反射するビームスプリッターである。例えば、レーザーライン用キューブタイプ偏光ビームスプリッター(透過率99%以上)を用いる。
【0147】
レーザーパルス生成装置75は、共振器内の原子系65の状態を制御するためと、原子系が共振器内の適切な位置に存在することを確認するために用いられる。この確認のために、微弱光を原子−共振器系(原子系65及びミラー66,67)に照射し、原子系65の応答を確認する手段(ミラー77,78,79及び光検出器76,80)で、原子−共振器系からの戻り光と参照光の干渉を観測する。例えば、原子寿命(約10μs)よりもずっと短時間に原子系65の状態を変えるために、約100ナノ秒の矩形π/2パルス生成装置を用いる。
【0148】
また、原子系65の応答を確認する手段におけるミラー77,78,79の反射率は10分の1以下でよい。
【0149】
静的偏光回転子68は、制御光子と標的光子を区別することなく、X偏光成分はY偏光に、逆にY偏光成分はX偏光に変換する。例えば、透過率99%以上のファラデー回転子を用いることが望ましい。
【0150】
制御(標的)光子の中心周波数は、第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の遷移周波数ω1と同じとし、その周波数スペクトラム幅は、第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の吸収スペクトラムの半値幅(約40MHz)と同じか狭いとする。光子波束の縦モード(進行方向)の波形は、原子系の吸収に起因した波形変化の影響が小さいという点で、関数exp[−Γ|x|] で近似できる波束を用いることが望ましい。但し、xは光子の時間位置を表し、Γは共振器軸方向への緩和率を表す。この場合、緩和率Γは、第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の吸収スペクトラムの半値幅(約20MHz)以下であればよい。量子ビットの情報は制御及び標的光子の直交する二つの偏光、X偏光とY偏光とに符号化される。
【0151】
以上、このような構成を採用した量子位相シフトゲートの動作は、本発明の第2の発明の全体の動作と同じである。但し、全体の動作を開始する前に、レーザーパルス生成装置75により、微弱光を原子−共振器系に照射し、原子−共振器系からの戻り光とミラー78で分離した参照光の干渉を観測し、原子系65が共振器内の適切な位置に存在することを確認する必要がある。
【0152】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の量子位相シフトゲートは、安全性の高い暗号通信や、秘匿性の高い認証など、高度なセキュリティ技術として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の第一の実施形態である両側共振器を用いた量子位相シフトゲートの構成要素とそれらの関係を示す模式図である。
【図2】本発明の第一の実施形態の全体の動作のブロック図である。
【図3】本発明の第一の実施形態である両側共振器を用いた量子位相シフトゲートの実施例を示す図である。
【図4】本発明の第一の実施形態である両側共振器を用いた量子位相シフトゲートの実施例で用いられるV型3準位原子系の準位構造を示す図である。
【図5】偏光フィルターの構成図である。
【図6】本発明の第二の実施形態である偏光パリティ量子非破壊測定装置の構成要素とそれらの関係を示す模式図である。
【図7】本発明の第二の実施形態の全体の動作のブロック図である。
【図8】図6に示す進行方向切り替え手段の実施例を示す図である。
【図9】本発明の第三の実施形態であるベル状態測定装置の構成要素とそれらの関係を示す模式図である。
【図10】本発明の第三の実施形態の全体の動作のブロック図である。
【図11】本発明の第三の実施形態であるベル状態測定装置の実施例を示す図である。
【図12】本発明の第2の発明を実施するための最良の形態を示す図である。
【図13】本発明の第2の発明を実施するための最良の形態の全体動作のブロック図である。
【図14】従来の非特許文献3に記載されている原子系のエネルギー準位を示す図である。
【図15】従来の非特許文献3に記載されている共焦点型片側共振器を用いた量子位相シフトゲートの模式図である。
【符号の説明】
【0155】
6,6r,7,7r,21,38,39,45,52,58,59,71、72 偏光ビームスプリッター(X偏光成分を反射し、Y偏光成分を透過)
8,8r,9,9r 偏光フィルター(X偏光の光が透過するとき、Y偏光の光を反射、逆にX偏光の光が反射するとき、Y偏光の光を透過)
10,10r,11,11r 両側共振器を構成するミラー
12,12r,65 共振器内の原子系
13,13r 偏光方向切り替えスイッチ(光子のX偏光成分を偏光フィルタで透過させるか反射させるかを制御するためのスイッチ)
14,14r,15,15r,47,53,54,55,56,63,64,73,74,81 反射鏡
16,17 進行方向切り替え手段
18 信号検出器
19,20,44,76,80 光検出器
22,31,36 アダマール逆変換ゲート
23,30,35,81,82 アダマール変換ゲート
24,25,29,37 量子位相シフトゲート
26 X→Y変換装置
27,28,32,33,34 偏光パリティ量子非破壊測定装置
42,42r,43,43r,75 原子系の状態を制御するためのレーザーパルス生成装置
40,41,46,50,51,69 動的偏光回転子(例えば、ポッケルスセル、X偏光をY偏光に、Y偏光をX偏光に変換する素子)
48,60,62,70 偏光ビームスプリッター(X偏光成分を透過し、Y偏光成分を反射)
49 λ/4波長板(直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換する素子)
57,61,68 静的偏光回転子(例えば、ファラデー回転子)
66,67 片側共振器を構成するミラー(ミラー66の透過率はミラー67の透過率よりずっとと小さい)
77,78,79 ビームスプリッター(反射率が10分の1以下)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)原子系が励起準位の場合に対しては位相をπだけ変えて光子を反射し、基底準位の場合に対しては光子を透過する原子−共振器系と、
(b)前記透過した光子を反射する手段と、
(c)原子系の基底準位gと第一励起準位e1間で回転操作を行うためのレーザーパルス生成装置と、
(d)光子のX偏光成分とY偏光成分を分離または合体させる偏光ビームスプリッターと、
(e)光を全反射する反射鏡とを備え、
(f)レーザーパルスを共振器軸方向から照射して、制御光子と標的光子を互いに異なる入出力部から処理するようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項2】
(a)原子系が第一励起準位の場合に対しては基底準位の場合と比べて、位相をπだけ変えて光子を反射する原子−共振器系と、
(b)原子系の基底準位gと第一励起準位e1間で回転操作を行うためのレーザーパルス生成装置と、
(c)光子のX偏光成分とY偏光成分を分離または合体させる偏光ビームスプリッターと、
(d)標的光子X偏光成分の光経路を制御光子X偏光成分の光経路に変換し、また、その逆変換をする手段と、
(e)光を全反射する反射鏡とを備え、
(f)レーザーパルスを共振器軸方向から照射して、制御光子と標的光子を互いに異なる入出力部から処理するようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項3】
請求項1記載の量子位相シフトゲート装置において、前記原子−共振器系は、透過率の等しいミラーで構成された両側共振器を用い、左側のミラーの入出力場を制御光子の入出力部とし、右側のミラーを標的光子の入出力部として用いることを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項4】
請求項1記載の量子位相シフトゲート装置において、前記量子位相シフトゲートの動作は、前記原子系の状態を(|g>+|e1>)/√2とすることにより、入射光子の透過成分及び反射成分との間に量子もつれあい状態(|g>|透過成分>−|e1>|反射成分>)/√2を生成し、透過した光子を反射する手段によって、この状態をもつれ合っていない状態(|g>−|e1>)|反射成分>/√2に変換するようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の量子位相シフトゲート装置において、前記原子−共振器系は、前記レーザーパルスを共振器の共振器軸方向から入射することにより前記原子系の状態を直接制御するために、基底準位gと第一励起準位e1の間の遷移周波数がある一つの共振器モードの吸収スペクトラム幅内になるように、前記原子系と共振器軸長を選び、そして、前記共振器単一モードとそれらの準位間の結合(結合定数λ1)が弱結合領域になるように、前記共振器を構成するミラーの透過率を選ぶことにより、結合定数λ1をその共振器単一モードの緩和率κ′よりも小さくするようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項6】
請求項1又は2記載の量子位相シフトゲート装置において、これらの装置の全体の動作は、前記原子−共振器系における前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間と共振器単一モードとの結合が、弱結合領域であるか強結合領域であるかによらないことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項7】
請求項1又は2記載の量子位相シフトゲート装置において、ベル状態測定装置は、前記制御光子と前記標的光子の偏光状態が互いに同じか否かを判定するための偏光パリティ量子非破壊測定装置と、量子位相シフトゲートとアダマール変換ゲートとアダマール逆変換ゲートとにより構成された量子制御NOTゲートと、前記標的光子の偏光状態がX偏光の場合にY偏光に変換する手段とを備え、入力2光子偏光状態を4つのベル状態のうちの一つの状態に射影し、どの状態に射影されたかをこれらの光子の状態を破壊することなく判定するようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項8】
請求項7記載の量子位相シフトゲート装置において、前記ベル状態測定装置の全体の動作は、前記量子制御NOTゲートにより、前記制御光子と前記標的光子からなる合成系の偏光状態の基底を、4つのベル状態から4つの偏光固有状態{|X>|X>、|X>|Y>、|Y>|X>、|Y>|Y>}へ1対1で基底変換して、次に、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置による射影測定により、偏光固有状態{|X>|X>、|X>|Y>}を基底とする状態あるいは偏光固有状態{|X>|Y>、|Y>|X>}を基底とする状態に射影し、前記標的光子の偏光状態がX偏光の場合にY偏光に変換する手段により、前記偏光固有状態{|X>|X>、|X>|Y>}を基底とする状態は{|X>|Y>、|X>|X>}を基底とする状態へ、前記偏光固有状態{|X>|Y>、|Y>|X>}を基底とする状態は{|X>|Y>、|Y>|Y>}を基底とする状態へ変換し、次に、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置による射影測定により、4つのうち一つの偏光固有状態に射影することにより、最終的に観測者が知る偏光固有状態から、4つのベル状態のうちどのベル状態に射影されたのかを前記観測者が知るようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項9】
請求項7記載の量子位相シフトゲート装置において、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置は、請求項1または請求項2に記載の量子位相シフトゲートとアダマール変換ゲートとアダマール逆変換ゲートとにより構成された量子制御NOTゲートと補助光子の偏光状態を測定するための手段とを備え、前記補助光子の偏光状態を測定することによって、互いに異なる光経路上を進行する制御光子と標的光子の偏光状態が互いに同じか否かを、これらの光子の状態を破壊することなく判定するようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項10】
請求項9記載の量子位相シフトゲート装置において、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置の全体の動作は、前記補助光子をアダマール変換した後、その補助光子と前記制御光子とを請求項1または請求項2に記載の量子位相シフトゲートの標的側入力部と制御側入力部とから各々入力し、続いて、出力された補助光子と標的光子を前記量子位相シフトゲートの標的側入力部と制御側入力部とから各々入力し、出力された補助光子をアダマール逆変換した後、その補助光子の偏光状態を測定し、その結果、前記補助光子の偏光状態の測定結果が初期偏光状態と同じである場合は、前記制御光子と前記標的光子の偏光状態は互いに同じであり、前記測定結果が初期偏光状態と異なる場合は前記制御光子と前記標的光子の偏光状態は互いに異なるようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項11】
請求項1又は2記載の量子位相シフトゲート装置において、前記制御及び前記標的光子の中心周波数は、前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の遷移周波数と同じとし、その周波数スペクトラム幅は、前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間の吸収スペクトラムの半値幅と同じか狭いようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項12】
請求項1又は2記載の量子位相シフトゲート装置において、前記制御光子及び前記標的光子の光子波束の縦モード(進行方向)の波形は、関数exp[−Γ|x|] で90%以上の近似ができる波束を用い、Γは、前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間と共振器単一モードとの結合が弱結合領域の場合はこれらの準位間の(共振器軸方向から検出された)吸収スペクトラムの半値幅の半分以下で、強結合領域の場合は前記第一励起準位e1及び第二励起準位e2間と共鳴する共振器単一モードの緩和率以下であるようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項13】
請求項1記載の量子位相シフトゲート装置において、前記透過した光子を反射する手段の構成要素である偏光フィルターは、光を全反射するための前記反射鏡と、X偏光を透過しY偏光を反射するための前記偏光ビームスプリッターと、直線偏光と円偏光とを相互に変換するためのλ/4波長板と、偏光の0度回転あるいは90度回転を選択して行うための動的偏光回転子とからなり、該動的偏光回転子を用いて、偏光の0度回転と90度回転を任意に行うことにより、前記Y偏光成分は常に透過し、前記X偏光成分は反射と透過の選択を任意に行えるようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項14】
請求項2記載の量子位相シフトゲート装置において、前記標的光子のX偏光成分の光経路を前記制御光子のX偏光成分の光経路に変換し、また、その逆変換をする手段は、前記標的光子のX偏光成分だけをY偏光に変換し、逆に、前記標的光子のY偏光成分だけをX偏光に変換する動的偏光回転子と、制御光子であるか標的光子であるかによらずX偏光成分をY偏光に変換し、逆にそれらのY偏光成分をX偏光に変換する静的偏光回転子とからなるようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。
【請求項15】
請求項9記載の量子位相シフトゲート装置において、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置の構成要素の一つである進行方向切り替え手段は、動的偏光回転子と、偏光ビームスプリッターと、反射鏡と、静的偏光回転子とを含み、前記動的偏光回転子は、入射光の偏光を90度回転または0度回転させることを選択的に行える回転子であり、前記偏光ビームスプリッターは、X偏光を反射し、Y偏光を透過するものと、X偏光を透過し、Y偏光を反射するものと両方が用いられ、前記反射鏡は光を全反射し、前記静的偏光回転子は、入射光の偏光を45度回転させるようにして、前記偏光パリティ量子非破壊測定装置の補助光子検出器が反応したときだけ、入射光の偏光を90度回転するように前記動的偏光回転子を設定することにより、前記補助光子検出器が反応しないときは前記制御光子及び前記標的光子を請求項1または請求項2記載の量子位相シフトゲートの入出力部に送り返すようにしたことを特徴とする量子位相シフトゲート装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図4】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2008−275673(P2008−275673A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115699(P2007−115699)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】