説明

量子計算機及び量子計算方法

【課題】大規模なクラスター状態を作りやすくする。
【解決手段】複数の小光学系801〜821と、隣り合った2つの小光学系の間に2つずつ配置されている切り替え可能ミラー701〜740と、を具備し、単一光子源は、各小光学系へ光子が入射されるように配置され、偏光測定系は、半波長板と、半波長板を透過した光子が入射される偏光ビームスプリッターと、偏光ビームスプリッターを透過した光子を検出する光検出器と、偏光ビームスプリッターで反射された光子を検出する光検出器と、を具備し、切り替え可能ミラーは、各偏光測定系が各小光学系から出力された光子の偏光を測定できるように配置され、複数の第1ミラーは、光学系の中の小光学系から切り替え可能ミラーによって出力された光子が、隣接する光学系の中の小光学系へ切り替え可能ミラーを介して入射できるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光共振器と原子の結合を利用した量子計算機及び量子計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2001年にRaussendorfとBriegelによって「クラスター状態」という特殊なエンタングル状態を利用した、測定に基づく新しい量子計算方法が提案された(例えば、非特許文献1参照)。これまでにクラスター状態を利用した量子計算機の実現方法がいくつか提案されているが(例えば、非特許文献2及び3参照)、大規模なクラスター状態をより作りやすい実現方法の提案が期待されている。
【非特許文献1】R. Raussendorf and H. J. Briegel, Physical Review Letters 86, 5188 (2001).
【非特許文献2】M. A. Nielsen, Physical Review Letters 93, 040503 (2004).
【非特許文献3】S. D. Barrett and P. Kok, Physical Review A 71, 060310 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、大規模なクラスター状態を作りやすい量子計算機及び量子計算方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の課題を解決するため、本発明の量子計算機は、複数の光学系と、複数の単一光子源と、複数の偏光測定系と、複数の第1のミラーと、を具備する量子計算機において、
各前記光学系は、第1の半波長板と、前記第1の半波長板を透過した光子が入射される第1の偏光ビームスプリッターと、前記第1の偏光ビームスプリッターで反射された光子が入射される第1の偏光回転子と、前記第1の偏光回転子を透過した光子が入射される第2のミラーと、前記第1の偏光ビームスプリッターを透過した光子が入射される第2の偏光回転子と、前記第2の偏光回転子を透過した光子が入射され、内部に原子を有する光共振器と、を具備する複数の小光学系と、
隣り合った2つの前記小光学系の間に2つずつ配置されている切り替え可能ミラーと、
を具備し、
前記単一光子源は、各前記小光学系へ光子が入射されるように配置され、
前記偏光測定系は、第2の半波長板と、前記第2の半波長板を透過した光子が入射される第2の偏光ビームスプリッターと、前記第2の偏光ビームスプリッターを透過した光子を検出する光検出器と、前記第2の偏光ビームスプリッターで反射された光子を検出する光検出器と、を具備し、
前記切り替え可能ミラーは、各前記偏光測定系が各前記小光学系から出力された光子の偏光を測定できるように配置され、前記複数の第1のミラーは、前記光学系の中の前記小光学系から前記切り替え可能ミラーによって出力された光子が、隣接する前記光学系の中の前記小光学系へ前記切り替え可能ミラーを介して入射できるように配置されていることを特徴とする。
本発明の量子計算方法は、上記に記載の量子計算機を用いた量子計算方法において、1つの光子が前記複数の小光学系を通過するように前記光子が入射され、前記偏光測定系によって前記光子の偏光を測定し、この偏光測定の結果に応じて前記小光学系の原子によって表される量子ビットに1量子ビットゲートを行うことによって、前記小光学系の原子の状態で表される量子ビットからなるクラスター状態を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の量子計算機及び量子計算方法によれば、大規模なクラスター状態を容易に生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態にかかる量子計算機及び量子計算方法について詳細に説明する。
【0007】
まず、本発明の実施形態にかかる量子計算機及び量子計算方法の原理的な事項を説明する。
光共振器内に原子があり、その共振器と原子の結合が強い場合、共振器の共鳴周波数の光を共振器に入射したときの共振器内の光強度が、原子のない場合に比べ変化する現象が生じうる。ここで、一般に、共振器と原子の結合が強いとは、この結合の結合定数gが共振器の緩和率κと原子の緩和率γに比べて大きい(g>κ,γ)ことを意味する。
【0008】
つまり、この現象では、共振器に強く結合する原子がない場合には入射光は共振器に共鳴して共振器内に入るが、共振器に強く結合する原子がある場合には入射光は共振器内に入ることができずに反射される。ここで入射光の強度には制限があり、入射光が強すぎると原子があるか否かによるこの変化は起こらなくなるので、入射光はこの変化が十分起こる程度に弱くなければならない。後述するように、この効果を利用すると、光子の偏光で表される量子ビットと原子の基底状態で表される量子ビットに対する制御位相反転ゲートを実現することができる。
【0009】
次に、本実施形態の量子計算機の基本的な構成要素となる光学系について図1を参照して説明する。
この基本的な光学系(以下、基本光学系と呼ぶ)は、光子の偏光状態で表した量子ビットと原子の2つの状態で表した量子ビットに対して制御位相反転ゲート(CPFゲート)を行うことができる。CPFゲートとは、1量子ビットゲートを合わせて任意の量子計算を行うことができる基本的な2量子ビットゲートの1つで、2つの入力ビットの両方が1のときのみ位相を反転させるという動作をする。
【0010】
この基本光学系は、図1に示すように、半波長板(以下、HWPと称する)501と、偏光ビームスプリッター(以下、PBSと称する)101と、2つの偏光回転子(図では、1/4波長板(以下、QWPと称する))201,202と、同じ方向かつ逆向きに反射する高反射ミラー301と、3準位を有する原子を含んだ片側光共振器401とからなる。
PBS101は、入射光の垂直偏光を有する光を光源から反射し、水平偏光を有する光を透過する。
QWP201,202は、2回光を通過させることで垂直偏光と水平偏光とを入れ替えることができる。PBS101とQWP201,202はこれらの性質に基づいて入射光と反射光を分離するためのものである。この場合、片側光共振器401には円偏光が入射されることになる。また、QWPの代わりにファラデー回転子と半波長板(以下、HWPと称する)を偏光回転子として用いれば同じように入射光と反射光を分離でき、かつ、片側光共振器401に直線偏光を入射することができる。しかし、ここではQWPを用いる。
HWP501は光子の偏光を調整する。高反射ミラー301は、同じ方向かつ逆向きに入射光を反射する。
片側光共振器401は、共振器内に強く結合する原子がない場合には入射光が共振器内に入って反射し、共振器に強く結合する原子がある場合には入射光が共振器内に入れずに反射する。ここで、入射される光子の周波数は共振器の共鳴周波数に等しく設定しておく。片側光共振器401は、例えば、1つのミラーが一部透過ミラーでもう1つのミラーが高反射ミラーからなるファブリペロ共振器である。
【0011】
次に、片側光共振器401内に存在させる原子のエネルギー準位について図2を参照して説明する。図2は3準位を有する原子のエネルギー準位を示す図である。
本実施形態では、安定な下準位の状態|0>と状態|1>が量子ビットを示すのに用いられる。原子の|1>−|2>間遷移は入射光(共振器モード)と強く結合している。ここで、「入射光(共振器モード)と強く結合している」とは、共振器モードと原子の|1>−|2>間遷移の結合定数が共振器の緩和率及び原子の緩和率よりも大きく、かつ、|1>−|2>間遷移の遷移周波数が入射光の周波数(共振器の共鳴周波数に等しい)に等しく、かつ、|1>−|2>間遷移が選択則により入射光の円偏光とは結合するがそれと反対の円偏光とは結合しない、という意味である。
【0012】
一方、|0>−|2>間遷移は大きな離調周波数により入射光(共振器モード)と相互作用しない。簡単のため、ここでは入射光を単一光子パルスとして考察する。本実施形態では、コヒーレント光を入射光として使うこともでき、この場合、光子が1つ観測された時点で入射を止めることで単一光子パルスと同じ結果が得られる。ここで、このコヒーレント光は、上述の原子の有無に依存した共振器内の光強度変化が観測できる程度に弱いとする。
【0013】
図1のように、左側から共振器の共鳴周波数に等しい周波数の単一光子が入射される。
【0014】
始状態を、
【数1】

【0015】
とする。ここで、1番目のケットベクトルは原子の状態、2番目のケットベクトルは光子の偏光状態を表す。VとHはそれぞれ垂直偏光(以下、V偏光と称する)と水平偏光(以下、H偏光と称する)を意味する。VとHがそれぞれビットの0と1に対応するとする。
【0016】
図1を参照して説明すると、V偏光の光子はPBS101によって反射され高反射ミラー301へと導かれる。高反射ミラー301によって反射されPBS101に戻ってきたこの光子の偏光はQWP202の効果でH偏光になっているので、今度はPBSを透過する。
一方、H偏光の光子はPBS101を透過し片側光共振器401へ導かれる。原子の状態が|0>であれば片側光共振器401は空の共振器と効果は同じなので光子は片側光共振器401内に入り、原子の状態が|1>であれば片側光共振器401と原子の強い結合の結果、光子は片側光共振器401内に入れずに反射される(例えば、L.-M. Duan and H. J. Kimble, Phys. Rev. Lett. 92, 127902 (2004)参照)。
【0017】
光子が片側光共振器401内に入った場合と入らなかった場合で光子の位相は180度ずれる。以上から、偏光がH偏光で原子の状態が|1>のときのみ位相が反転するということを実現できる。これは式で表すと、
【数2】

【0018】
となり、原子の基底状態|0>,|1>及び光子の偏光状態|V>,|H>を2つの入力量子ビットとしたCFPゲートになっている(ただし、偏光が入れ替わることを除いて、である)。この式で|H>と|V>が入れ替わったのはQWP201,202の効果による。こうして、図1の基本光学系によって原子の量子ビットと光子の量子ビットに関して(偏光が入れ替わることを除き)CPFゲートが実現できることがわかった。
【0019】
次に、図1の基本光学系を図4のように並べることによって、各基本光学系の原子の状態で表される量子ビットに対して図3のような十字型のクラスター状態が生成できることを説明する。ここで、クラスター状態の定義は、丸のところに量子ビットを配置し、すべての量子ビットを、
【数3】

【0020】
という状態に用意しておいて、線でつながれた量子ビット間にCPFゲートを施してできる状態であり、図3のクラスター状態の場合、
【数4】

【0021】
と表せる。ただし、ケットベクトルの真ん中の量子ビットが図3に示した十字の中央の量子ビットに対応している。簡単のため、図4において基本光学系は単に四角で表した。四角の中のL,T,C,B,Rは、各基本光学系がそれぞれ図3のクラスター状態の左、上、中央、下、右の量子ビットに対応していることを表す。
【0022】
以下、この十字型クラスター状態生成の原理について説明する。クラスター状態を用いた量子計算の方法については後の実施例にて具体例で説明することとし、それまではクラスター状態の生成法に限って説明する。
初めに原子をすべて、
【数5】

【0023】
に用意する。図4のように、左の光源から直線偏光の単一光子が入射され、最初の基本光学系Lの中のHWPによって、
【数6】

【0024】
が基本光学系L801のPBSに入射されるようにする。残りの基本光学系T802,C802,B804,R805の中のHWPは偏光が反転するようにしておく。その後、HWP502によって光子の偏光に対するアダマールゲート、
【数7】

【0025】
を行い、PBS102で分けて光検出器601,602で光子を受け取ったか否かを検出することで光子の偏光を測定する。測定結果に対応して、最終的な原子の状態は次のようになる。
【数8】

【0026】
ここで、ケットベクトルの中の±は左から順に基本光学系L801,T802,C803,B804,R805の中の原子の状態を表しており、
【数9】

【0027】
である。真ん中の原子(基本光学系C803の原子)に対してアダマールゲート、
【数10】

【0028】
を施し、測定結果がH偏光の場合はさらに基本光学系C803の原子に位相反転ゲート、
【数11】

【0029】
を施すと、最終的な状態は、
【数12】

【0030】
となる。ここで、原子に対する1量子ビットゲートは原子に直接レーザー光を当てて公知の方法で実現できるが、簡単のためそれに利用する光の光路は図示しない。以下、同様である。
【0031】
この最終的な状態は図3に示した十字型のクラスター状態である。こうして、図4の光学系を使えば1つの光子が入射されてその偏光を測定し測定結果に応じて1量子ビットゲートを行うだけで、図3のような十字型の5量子ビットクラスター状態ができることがわかった。
【0032】
本発明の実施形態は、上述の十字型クラスター状態の生成法に基づいて大規模なクラスター状態を生成するものである。以下、この手法を説明する。
図5に本実施形態の量子計算機が生成する大規模なクラスター状態を示す。この形状のクラスター状態はどんな量子計算に対しても利用できる、いわゆる万能クラスター状態である(例えば、A. M. Childs, D. W. Leung, and M. A. Nielsen, Phys. Rev. A 71, 032318 (2005)参照)。図5のクラスター状態は、十字がつながった形状をしているが、図5での実線と点線のように、隣り合った十字が異なるグループに属するようにこれらの十字を2グループに分ける。以下、それぞれのグループを実線グループ、点線グループと呼ぶこととする。
【0033】
まず、図3、図4を参照して示した上述の生成法によって実線グループの十字型クラスター状態を生成する。これらの十字型クラスター状態は同時に生成可能なので、光子の損失などによる十字生成の失敗がない理想的な場合には、1つの十字型クラスター状態を生成するのと同じ時間ですべての実線グループのクラスターを生成できる。十字生成に失敗する可能性がある場合は後に図12を参照して説明する。
【0034】
次に、点線グループの十字をやはり上述の十字型クラスター状態の生成法によって実現する。この場合も1つの十字型クラスター状態の生成にかかる時間と同じ時間ですべての点線グループのクラスターを生成できる。このようにして、十字生成の失敗がない理想的な場合には、十字型クラスター状態を1つ生成するのにかかる時間の2倍の時間で図5のような大規模な万能クラスター状態を生成できる。
【0035】
次に、図5の大規模なクラスター状態を生成するための光学系を図6、図7に示す。
図6に示した光学系と図7に示した光学系は図示されている光路が異なるだけで、全く同じ構造をしている。ここで、基本光学系L,T,C,B,Rはそれぞれ、実線グループの十字型クラスター状態の左、上、中央、下、右の量子ビットに対応している。基本光学系C’は、点線グループの十字型クラスター状態の中央の量子ビットに対応している。すなわち、基本光学系C’は、図5に示した「C’」の量子ビットに対応している。また、図5に示した実線グループの十字型クラスター状態のSC1、SC2、SC3、SC4は、それぞれ図6の同じ記号を付した光学系が対応している。
【0036】
図6の光路は実線グループの十字型クラスター状態を作るために光子が通るものであり、図7の光路は点線グループの十字を実現するために光子が通るものである。
【0037】
また、
【数13】

【0038】
はそこから光子が入射されることを示しており、
【数14】

【0039】
はそこでHWPによって偏光状態に対するアダマールゲートを行ってさらにPBSと2つの光検出器によって偏光が測定されることを表している。簡単のため、単一光子源、及び、偏光状態に対するアダマールゲートと偏光測定に必要な装置は図6以降には示さない。
【0040】
また、図6以降、長方形で表されたミラーは、高反射と高透過が切り替えられる特殊なミラーである(以下、切り替え可能ミラーと呼ぶ)。ここで、切り替え可能ミラーの実装について図8及び図9を参照して説明する。図8は、リング型共振器を用いて切り替え可能ミラーを実現することを示す図であり、図9は、エタロンを用いて切り替え可能ミラーを実現することを示す図である。
リング型共振器は、図8に示すように、入出力用ミラー851,852、高反射ミラー351,352、共振器長調整器951からなる。入出力用ミラー851,852は、透過率が等しく設定されている。共振器長調整器951は、光学的距離で測る共振器長を調整する。共振器長調整器951は、例えば、屈折率変化で調整するなら電気光学効果素子を、物理的距離で調整するなら圧電効果素子を用いることができる。電気光学効果素子は、電圧を印加することにより屈折率を変化させ光学的距離を変化させる。電気光学効果素子の方が圧電効果素子よりも応答が速いので、電気光学効果素子を用いた共振器長調整器951は迅速に共振器長を調整することができる。
【0041】
以上により、共振器長調整器951が入射光と共鳴しないように共振器長を設定した場合は入射光を反射し、入射光と共鳴するように共振器長を設定した場合は入射光を透過する。したがって、リング型共振器を用いて切り替え可能ミラーを実現することができる。
【0042】
エタロン1751は、入射角度を調整することによって高透過になったり高反射になったりする。したがって、エタロン1751に入射する光の入射角度を調整すればよい。例えば、エタロン1751を或る軸を中心として回転させ入射角度を調整する。図9に示すように、高反射ミラー351を配置することによって、反射光を自在な方向と向きに取り出すことができる。
【0043】
図5の大規模なクラスター状態の生成法の説明に戻る。図6では、光子はまずLの基本光学系へ入射され、T,C,B,Rの基本光学系を通り、その後、偏光状態に対するアダマールゲート及び偏光測定がなされる。これによって、実線グループの十字型クラスター状態が生成できる。図7では、光子はまずTの基本光学系へ入射され、R,C’,L,Bの基本光学系を通り、その後、偏光状態に対するアダマールゲート及び偏光測定がなされる。これによって、点線グループの十字が実現できる。
【0044】
また、本実施携帯の量子計算機は量子ビットの読み出しも効率的に行うことができる。
図10を参照して、基本光学系Cの量子ビットを読み出す場合を詳しく説明する。切り替え可能ミラー704,705を高透過とし、基本光学系CにH偏光の単一光子パルスが入射される。基本光学系Cの原子の量子ビットと光子の量子ビットに関するCPFゲートを行う。切り替え可能ミラー706を高透過とし、光子の偏光を測定する。このようにして基本光学系Cの量子ビットの読み出しが実現できる。
【0045】
その原理を図11の量子回路図を参照して説明する。図11は、図10が量子ビットの読み出しになっていることを説明するための量子回路図である。
【0046】
図10の回路を量子回路で表すと図11の量子回路になる。図11の量子回路では、光子の量子ビットの入力は|0>で、ゲートはHゲートとしている。この量子回路は量子ビットの読み出しになっている。
【0047】
また、この読み出し手法を使って、基本光学系Cの量子ビットの読み出しと同時に、基本光学系C以外の基本光学系の量子ビットの読み出しも行える。このように、本実施形態の量子計算機によれば、量子ビットの読み出しも並列的に行うことができる。
【0048】
次に、光子の損失などによって十字の生成が失敗する可能性がある場合について図12を参照して説明する。図5、図6、図7を参照して説明した手法によれば、理想的には1つの十字型クラスター状態を生成するのにかかる時間の2倍の時間で大規模な万能クラスター状態を実現できる。しかし、実際には光子の損失や検出器の100%に満たない検出効率のために光子を検出できずに失敗するということが考えられるので、その場合でも大規模な万能クラスター状態が実現できることを示す必要がある。以下、光子が検出できずに失敗することがある現実的な場合にも大規模な万能クラスター状態が生成できる手法について説明する。
【0049】
初めに行う実線グループの十字型クラスター状態の生成では、光子が検出されるまで繰り返すことで確実に生成することができる(図12の左図参照)。
次に行う点線グループの十字の生成の場合は、光子を検出できずに失敗すると、生成に失敗した点線の十字の周りの4つの実線グループの十字も壊れてしまう。その場合、周りの4つの実線グループの十字の中央の量子ビットの状態が0か1かを測定し、測定結果が1の場合はその量子ビットが測定前につながっていた量子ビットに位相反転ゲートを施す。こうすることで、失敗した点線グループの十字とその周りの4つの実線グループの十字を、それらを除いた部分はクラスター状態のまま、そのクラスター状態から切り離すことができる(図12の中央の図参照)。ここで、失敗した点線グループの十字は図12の真ん中の十字である。この中央の点線グループの十字は、失敗しているので図12には描かれていない。
【0050】
次に、失敗した点線グループの十字を成功するまで繰り返して確実に生成する(図12の右図参照)。図12の右図には、図の中央に生成が成功した点線グループの十字が描かれている。その後、生成が成功した点線グループのこの十字の周りに、4つの実線グループの十字を生成する。この実線グループの十字の失敗した場合は点線グループの十字の生成に失敗したときと同様の操作を行う。この作業を繰り返すことで、最終的に大規模なクラスター状態を完成することができる。
【0051】
1つの十字の生成に失敗すると4つの十字を破壊してしまうので、失敗確率が低くなければ繰り返しても大規模なクラスター状態を完成できない。繰り返すことで大規模なクラスター状態を完成できるための失敗確率pに対する条件は、p<0.25となる。これは次のようにしてわかる。
実線グループと点線グループの十字がそれぞれN個あるとする。点線グループ生成の結果、失敗したために再び生成しなければならなくなる実線グループの十字の平均的な数はN×4p個である。次に、これらの実線グループの十字を生成する際に生成に失敗し、再び生成しなければならなくなる点線グループの十字の平均的な数はN×4p×4pである。これを繰り返して、再び生成しなければならない十字の数が最終的にゼロになるためにはp<0.25であればよい。
【0052】
pに対する条件を緩和するには、図5のクラスター状態を生成するのに図13のようなクラスター状態を使えばよい。図13では、実線グループの十字型クラスター状態を、十字の中央から4つではなく8つの腕が出た形の米型クラスター状態で置き換えてある。このため、点線グループの十字の生成に失敗してもまだ周りの米型クラスター状態には使える腕が残っているので、周りの4つの米形クラスター状態を壊す前にもう一度この点線グループの十字の生成に挑戦できる。
最悪のケースでは1つの米型クラスター状態の周りの4つの点線グループの十字がすべて失敗するが、この場合でも米型クラスター状態にはまだ4つの使える腕があるので、失敗した4つの点線グループの十字の生成にもう一度だけ挑戦できる。
【0053】
失敗した場合は、その失敗した点線グループの十字の各量子ビットに対して状態が0か1かを測定し、測定結果が1の場合はその量子ビットが測定前につながっていた量子ビットに位相反転ゲートを施すことで、これらを周りのクラスター状態から切り離す。成功した場合は、米型クラスター状態の余った腕の各量子ビットに対して状態が0か1かを測定し、測定結果が1の場合はその量子ビットが測定前につながっていた量子ビットに位相反転ゲートを施すことで、これらを周りのクラスター状態から切り離す。2回目で再び失敗した場合は、周りの4つの米型クラスター状態を中央の量子ビットの測定によって壊して、失敗した点線グループの十字を生成するという、すべて十字の場合と同様の作業を行う。
【0054】
この場合、生成しなければならない十字または米型の平均的な数は、米型クラスター状態生成の失敗確率もpとすると、N×4p×4p×・・・となるので、pに対する条件はp<4−2/3≒0.4となり、すべて十字の場合に比べて緩和されている。また、米型クラスター状態生成の失敗確率をApであるとすると、条件はp<(4A)−1/3となり、すべて十字の場合に比べて条件が緩和されるためには、0<A<4であればよい。
【0055】
上記の米型クラスター状態のような中央から放射状に腕が出た形のクラスター状態は、腕の数が何本であっても十字型クラスター状態の場合と同様の方法で生成できる。つまり、量子ビットの数だけ基本光学系を並べ、それらに1つの光子を通し、光子の偏光状態に対するアダマールゲート及び偏光測定を行い、中央の量子ビットにアダマールゲートを施し、偏光測定の結果がH偏光の場合のみ中央の量子ビットに位相反転ゲートを施せばよい。
【0056】
次に、図13のクラスター状態を実現するための光学系を図14、図15、図16に示す(これらは図示されている光路が異なるだけで、全く同じ構造をしている)。基本光学系L、L’、T、T’、C、B、B’、R、R’はそれぞれ、米型クラスター状態の左の2つ、上の2つ、中央、下の2つ、右の2つの量子ビットに対応し、基本光学系C’は点線グループの十字型クラスター状態の中央の量子ビットに対応している。
【0057】
図14の光路はL、L’、T、T’、B、B’、R、R’とCをつないで米型クラスター状態を生成するための光子が通るもの、図15の光路はL,T,B,RとC’をつないで点線グループの十字を生成するための光子が通るもの、図16の光路はL’,T’,B’,R’とC’をつないで点線グループの十字を生成するための光子が通るものである。
【0058】
以上に示した実施形態によれば、十字型クラスター状態を効率的に生成して、大規模な万能クラスター状態を容易に作ることができる。また、実施形態によれば、光子が検出できずに失敗することがある現実的な場合でも、十字方クラスター状態よりも中央からの腕の数が多い放射状のクラスター状態(例えば、米型クラスター状態)を効率的に生成して、大規模な万能クラスター状態を容易に作ることができる。
【実施例】
【0059】
(第1の実施例)
本実施例では、図17のクラスター状態を生成し、図18、図19の量子計算を行い、結果を確認する。
図18、図19において、Hはアダマールゲート、Zは位相反転ゲート、×2つを線で結んだものはCPFゲートを表す。以下の説明のために、図17において量子ビットには番号がつけてある。図17のクラスター状態を実現するための光学系を図20、図21に示す(これらは図示されている光路が異なるだけで、全く同じ構造をしている)。
【0060】
本実施例において、基本光学系は図22のように実現される。本実施例では、図2に示したような3準位を有する共振器内の原子として、YSiO結晶中にドープされたPr3+イオンを用いる。Pr3+イオンのエネルギー準位は、図23に示すようになる。また、Pr3+イオンによる光の吸収には直線偏光に関する選択性がある。そこで、本実施例では光共振器1301の前にQWPではなくファラデー回転子1501とHWP502を設置し、光共振器1301に直線偏光が入射するようにする。光共振器1301は結晶表面をミラーコーティングすることで作製する。結晶の向きはV偏光の吸収が最も強くなるようにする。したがって、光共振器1301の前のHWP502はV偏光が光共振器1301に入射されるように調整する。また、光共振器1301全体がクライオスタット1401の中に設置され、ヘリウム温度に保持される。
【0061】
本実施例において、共振器長は10mm、共振器モードのウエスト半径は5μm、入力用ミラーの透過率は10−6である。このとき、ウエストにおける共振器モードと原子の結合定数gはおよそ16kHz、共振器モードの光子の緩和率κはおよそ8kHzとなる。また、イオンの励起状態の緩和率γはおよそ10kHzである。g>κ,γを満たすので、強結合である。切り替え可能ミラーは図24に示したリング型共振器で実現される。また、本実施例では、共振器長調整器として電気光学効果素子を用いる。
【0062】
状態の初期化は、非常に濃度の薄い周波数帯で光ポンピングによって状態|1>に持っていき、真空ラビ分裂を観測することで状態|1>のイオンが1つしかないことを確認し、量子力学の原理に基づく手法であるアディアバティック・パッセージ(adiabatic passage)によって|+>に用意することで達成される。状態が0か1かの読み出しは、図10を用いてすでに説明した方法で行う。
【0063】
クラスター状態生成や量子ビットの読み出しに必要な単一光子は、上記の共振器と同じ共振器を用意し、それを用いて生成する。上述の|+>を用意する方法と同様にしてその共振器内の1つの原子の状態を|0>に準備する。横から光共振器1301の共鳴周波数よりも17.30MHz高い周波数の光を徐々に当てていき、アディアバティック・パッセージによって原子の状態は|1>へ、共振器モードの光子の状態は単一光子状態へ移させる。この光子が共振器の出力ミラーから漏れてきたものを入射用単一光子として用いる。
【0064】
図17のクラスター状態を作るには、まず図20のように光子を通して実線部分を作り、次に図21のように光子を通して点線部分を作る。本実施例では、光子が検出できずに失敗した場合は初めからやり直すことで図17のクラスター状態を完成させる。
【0065】
図18の量子計算を図17のクラスター状態を使って行うには、以下のようにする(M. A. Nielsen, Phys. Rev. Lett. 93, 040503 (2004)及びA. M. Childs, D. W. Leung, and M. A. Nielsen, Phys. Rev. A 71, 032318 (2005)参照)。ただし、Hをアダマールゲート、XをNOTゲート、Zを位相反転ゲートとし、「測定する」とはビットが0か1かを読み出すことを意味するとする。
【0066】
1.量子ビット1及び3を測定し、結果が1のときは右隣の量子ビット(4または6)にZを行う。また、量子ビット2にHを行い、その後、測定し、結果が1のときは量子ビット5にXを行う。
2.量子ビット5及び7にHを行い、その後それぞれ測定し、結果が0のときはHを、1のときはHXを下隣の量子ビット(6または8)に行う。
3.量子ビット9及び11にHを行う。
【0067】
これによって、量子ビット9,10,11の最終的な状態は図18の出力と一致する。このように、クラスター状態量子計算では、一旦クラスター状態が作れたら、後は1量子ビットゲートと測定によって量子計算が実行できる。
【0068】
また、図19の量子計算を図17のクラスター状態を使って行うには、上記の手続きにおいて、量子ビット2の測定結果が1のときではなく0のときに量子ビット5にXを行えば、後は上記の手続きと同じようにすればよい。
【0069】
以上のようにして、図17のクラスター状態を生成し、図18、図19に対応する量子計算を行ったところ、確かに図18、図19と同じ出力が観測された。
【0070】
(第2の実施例)
本実施例では、図25のようなクラスター状態を使って図17のクラスター状態を生成し、図18、図19の量子計算を行い、結果を確認する。これを実現するための光学系を図26、図27、図28に示す(これらは図示されている光路が異なるだけで、全く同じ構造をしている)。
図25のようなクラスター状態を使って図17のクラスター状態を作るには、まず図26のように光子を通して図25の実線部分を作り、次に図27のように光子を通して図25の点線部分を作る。第1の実施例と異なり、本実施例では点線部分の生成に一度失敗しても図28のように光子を通すことで実線部分を作り直すことなくもう一度点線部分の生成に挑戦できる。
【0071】
図27の光路による1回目の点線部分生成に失敗した場合は、その失敗した点線部分の各量子ビットの状態が0か1かを測定し、測定結果が1の場合はその量子ビットが測定前につながっていた量子ビットに位相反転ゲートを施すことで、これらを周りのクラスター状態から切り離す。成功した場合は、実線部分の余った量子ビットに対して状態が0か1かを測定し、測定結果が1の場合はその量子ビットが測定前につながっていた量子ビットに位相反転ゲートを施すことで、これらを周りのクラスター状態から切り離す。図28の光路による2回目の点線部分の生成に再び失敗した場合は、初めからやり直す。こうして、最終的に図17のクラスター状態を生成できるので、後は第1の実施例と同様にして図18、図19の量子計算を実行すればよい。
【0072】
以上のようにして、図17のクラスター状態を生成し、図18、図19に対応する量子計算を行ったところ、確かに図18、図19と同じ出力が観測された。
【0073】
(第3の実施例)
入射角度を調整することができるエタロンによって切り替え可能ミラーを実現し、第1の実施例と同様にして図17のクラスター状態を生成し、図18、図19に対応する量子計算を行ったところ、確かに図18、図19と同じ出力が観測された。
【0074】
(第4の実施例)
入射角度を調整することができるエタロンによって切り替え可能ミラーを実現し、第2の実施例と同様にして図17のクラスター状態を生成し、図18、図19に対応する量子計算を行ったところ、確かに図18、図19と同じ出力が観測された。
【0075】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】原子の状態で表される量子ビットと光の偏光状態で表される量子ビットに関する制御位相反転ゲート(CPFゲート)を行うための光学系を示す図。
【図2】図1の片側光共振器内に存在させる原子のエネルギー準位を表す図。
【図3】十字型のクラスター状態を表す図。
【図4】図3の十字型のクラスター状態を生成するための光学系を示す図。
【図5】本発明の実施形態にかかる量子計算機が生成する大規模なクラスター状態を表す図。
【図6】本発明の実施形態にかかる量子計算機と、図5の実線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図7】本発明の実施形態にかかる量子計算機と、図5の点線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図8】リング型共振器を用いて切り替え可能ミラーを実現することを示す図。
【図9】エタロンを用いて切り替え可能ミラーを実現することを示す図。
【図10】原子の状態で表される量子ビットの読み出し法を示す図。
【図11】図10の量子回路を読み出す様子を示した図。
【図12】十字型クラスター状態の生成に失敗する可能性がある場合に、大規模なクラスター状態を生成するための手順を説明するための図。
【図13】図5の実線の十字型クラスター状態を、中央の量子ビットから腕が8本出た米型クラスター状態で置き換えた、大規模クラスター状態を示す図。
【図14】図13のクラスター状態を生成するための量子計算機と、図5の実線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図15】図13のクラスター状態を生成するための量子計算機と、図5の点線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図16】図13のクラスター状態を生成するための量子計算機と、図15の光路で点線部分を作るのに失敗した場合に、図5の点線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図17】第1の実施例及び第2の実施例で実現されるクラスター状態を示す図。
【図18】第1の実施例及び第2の実施例で実現される量子計算を表す図。
【図19】第1の実施例及び第2の実施例で実現される量子計算を表す図。
【図20】第1の実施例の量子計算を実現するための量子計算機と、図17の実線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図21】第1の実施例の量子計算を実現するための量子計算機と、図17の点線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図22】第1の実施例及び第2の実施例において、原子の状態で表される量子ビットと光の偏光状態で表される量子ビットに関するCPFゲートを行うための光学系を示す図。
【図23】YSiO結晶中にドープされたPr3+イオンのエネルギー準位を示す図。
【図24】第1の実施例及び第2の実施例において、切り替え可能ミラーとして使われるリング型共振器を表す図。
【図25】第2の実施例で実現されるクラスター状態を表す図。
【図26】第2の実施例の量子計算を実現するための量子計算機と、図25の実線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図27】第2の実施例の量子計算を実現するための量子計算機と、図25の点線部分を作るための光子の光路を示す図。
【図28】第2の実施例の量子計算を実現するための量子計算機と、図27の光路で図25の点線部分を作るのに失敗した場合に図25の点線部分を作るための光子の光路を示す図。
【符号の説明】
【0077】
101、102…偏光ビームスプリッター、201、202…1/4波長板、301、351、352…高反射ミラー、401…図2のような3準位を有する原子を含む片側共振器、501〜503…半波長板、601、602…光検出器、701〜750…切り替え可能ミラー、801〜823…図1に示した光学系、851、852…入出力用ミラー、901〜913…図19に示した光学系、1001、1002…ビームスプリッター、951、1101…共振器長調整器(電気光学効果素子)、1301…Pr3+:YSiOを加工して作製した光共振器(太線が高反射ミラー、細線が入力用ミラー)、1401…クライオスタット、1501、1502…ファラデー回転子、1751…エタロン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光学系と、複数の単一光子源と、複数の偏光測定系と、複数の第1のミラーと、を具備する量子計算機において、
各前記光学系は、
第1の半波長板と、
前記第1の半波長板を透過した光子が入射される第1の偏光ビームスプリッターと、
前記第1の偏光ビームスプリッターで反射された光子が入射される第1の偏光回転子と、
前記第1の偏光回転子を透過した光子が入射される第2のミラーと、
前記第1の偏光ビームスプリッターを透過した光子が入射される第2の偏光回転子と、
前記第2の偏光回転子を透過した光子が入射され、内部に原子を有する光共振器と、を具備する複数の小光学系と、
隣り合った2つの前記小光学系の間に2つずつ配置されている切り替え可能ミラーと、
を具備し、
前記単一光子源は、各前記小光学系へ光子が入射されるように配置され、
前記偏光測定系は、
第2の半波長板と、
前記第2の半波長板を透過した光子が入射される第2の偏光ビームスプリッターと、
前記第2の偏光ビームスプリッターを透過した光子を検出する光検出器と、
前記第2の偏光ビームスプリッターで反射された光子を検出する光検出器と、を具備し、
前記切り替え可能ミラーは、各前記偏光測定系が各前記小光学系から出力された光子の偏光を測定できるように配置され、
前記複数の第1のミラーは、前記光学系の中の前記小光学系から前記切り替え可能ミラーによって出力された光子が、隣接する前記光学系の中の前記小光学系へ前記切り替え可能ミラーを介して入射できるように配置されていることを特徴とする量子計算機。
【請求項2】
前記複数の第1のミラーに光子が入射せず各前記光学系でN(N:5以上の自然数)量子ビットクラスター状態を生成するように、各前記光学系に光子が同時に入射される第1の入射手段と、
前記複数の第1のミラーに光子が入射して複数の前記光学系を使用してN量子ビットクラスター状態を生成するように、各前記光学系に光子が同時に入射される第2の入射手段と、を具備することを特徴とする請求項1に記載の量子計算機。
【請求項3】
前記切り替え可能ミラーは、
透過率が等しく設定されている2つの入出力用のミラーと、
少なくとも1つ以上の高反射ミラーと、
入射光を反射させるか透過させるかに応じて、共振器長を調整する共振器長調整器と、を具備し、
前記2つの入出力用のミラーと、前記少なくとも1つ以上の高反射ミラーとは、リング型共振器を構成する様に配置され、
前記共振器長調整器は、前記リング型共振器の光路に設置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の量子計算機。
【請求項4】
前記共振器長調整器は、電気光学効果素子又は圧電効果素子からなることを特徴とする請求項3に記載の量子計算機。
【請求項5】
前記切り替え可能ミラーは、入射角度を調整することができるエタロンを具備することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の量子計算機。
【請求項6】
前記第1及び第2の偏光回転子は、半波長板とファラデー回転子、又は、1/4波長板からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の量子計算機。
【請求項7】
前記光共振器が有する原子は、結晶中にドープされた不純物原子であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の量子計算機。
【請求項8】
請求項1に記載の量子計算機を用いた量子計算方法において、
1つの光子が前記複数の小光学系を通過するように前記光子が入射され、
前記偏光測定系によって前記光子の偏光を測定し、
この偏光測定の結果に応じて前記小光学系の原子によって表される量子ビットに1量子ビットゲートを行うことによって、前記小光学系の原子の状態で表される量子ビットからなるクラスター状態を生成することを特徴とする量子計算方法。
【請求項9】
前記光学系の中の小光学系を1つおきに5個ずつのグループに分け、
各グループの5量子ビットに対して請求項7に記載の量子計算方法を適用して5量子ビットのクラスター状態を生成し、
前記5量子ビットクラスター状態に属していない量子ビットと、その前後左右4つの5量子ビットクラスター状態にそれぞれ属する4つの量子ビットとに対して請求項7に記載の量子計算方法を適用することによって、クラスター状態を生成することを特徴とする請求項8に記載の量子計算方法。
【請求項10】
前記光学系の中の小光学系を1つおきにN個(N:6以上の自然数)ずつのグループに分け、
各グループのN量子ビットに対して請求項7に記載の量子計算方法を適用して複数のN量子ビットのクラスター状態を生成し、
前記N量子ビットクラスター状態に属していない量子ビットと、その前後左右4つのN量子ビットクラスター状態にそれぞれ属する4つの量子ビットとに対して請求項7に記載の量子計算方法を適用し、
クラスター状態を生成することに失敗した場合は、前記N量子ビットクラスター状態に属していない量子ビットと、前記の4つの量子ビットとは異なる前記4つのN量子ビットクラスター状態にそれぞれ属する4つの量子ビットとに請求項7に記載の量子計算方法を適用することを繰り返すことによって、クラスター状態を生成することを特徴とする請求項8に記載の量子計算方法。
【請求項11】
前記小光学系に光子が入射され、前記光子の偏光を前記偏光測定器で測定することによって、前記小光学系の原子の状態で表される量子ビットの読み出しを行うことを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の量子計算方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2007−94017(P2007−94017A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283365(P2005−283365)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】