金型加工方法
【課題】型表面の整形対象領域における微小な除去加工を可能とし、かつ、コンパクトなエッチング加工が可能であるとともに、意図しない領域のエッチングを抑制して加工精度の向上を図ることができる金型加工方法を提供すること。
【解決手段】金型2の鏡面部2bの整形対象領域20を除去して整形する金型加工方法であって、鏡面部2bの整形対象領域20を包囲して、整形対象領域20がエッチング液Eに曝されるエッチング液充填空間40を形成する充填空間形成部材4を、鏡面部2bに設置する充填空間形成部材設置工程と、エッチング液充填空間40にエッチング液Eを充填し、整形対象領域20をエッチング液Eに曝してエッチング作用により除去するエッチング工程と、を備えていることを特徴とする金型加工方法とした。
【解決手段】金型2の鏡面部2bの整形対象領域20を除去して整形する金型加工方法であって、鏡面部2bの整形対象領域20を包囲して、整形対象領域20がエッチング液Eに曝されるエッチング液充填空間40を形成する充填空間形成部材4を、鏡面部2bに設置する充填空間形成部材設置工程と、エッチング液充填空間40にエッチング液Eを充填し、整形対象領域20をエッチング液Eに曝してエッチング作用により除去するエッチング工程と、を備えていることを特徴とする金型加工方法とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ成形用金型の加工に用いるのに好適な金型加工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズの成形用の金型を整形した後、型表面において必要精度を超える形状誤差が生じた場合、この部分(この部分を、以下、整形対象領域と称する)を研磨加工し型表面の整形を行う。このような整形加工として、研磨装置を用いて機械的に研磨する方法(例えば、特許文献1参照)や、エッチング液により型表面を腐食させて化学的に除去する方法が知られている。
【0003】
上記の機械的研磨では、研磨加工を行う際に、研磨工具を型表面の加工対照面に接触させ、加工対象面に微少な除去痕を形成し、その除去痕の深さをもとに、研磨工具の位置決めを行うようにしている。
この研磨工具の位置決めにあたっては、型表面の除去痕の深さを正確に計測する必要があり、この除去痕の計測には、30nm程度の除去痕が必要である。
【0004】
また、エッチングによる化学的な除去を行なう場合、型表面において、整形対象領域以外をマスキングし、金型全体をエッチング液に浸漬し、エッチング液による腐食作用で整形対象領域の型表面の除去を行なう方法が一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術では、以下に述べる問題があった。
上記特許文献1に記載されるような機械的研磨を行なう場合、上述のように、加工具の位置決めのために、30nm程度の除去痕が必要であるため、位置決め用の除去痕を整形対象領域に残さないようにするには、この除去痕の深さからさらに20〜30nm以上の研磨加工を行う必要がある。そのため、型表面において、深さ50nm以下の除去量の加工を行うことが難しかった。
【0006】
さらに、このような形状補正量が50nmの形状補正を行う場合、整形対象領域のみならず、その周辺部も研磨加工を行なう必要が生じる場合もあった。この場合、加工時間が長くなって加工に手間がかかるとともに、必要な精度が出ていた領域も加工することになり、逆に型形状を劣化させるおそれもあった。
【0007】
一方、エッチングによる化学的除去の場合、金型全体を浸漬させることのできる大量のエッチング液が必要で加工が大掛かりになるという問題があった。さらに、マスクが不十分なとき、正常な型表面などの意図しない領域がエッチングされて化学的に除去されるおそれがあるという問題があった。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決することを目的とするものであり、型表面の整形対象領域における微小な除去加工を可能とし、かつ、コンパクトなエッチング加工が可能であるとともに、意図しない領域のエッチングを抑制して加工精度の向上を図ることができる金型加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、金型の型表面の整形対象領域を除去して整形する金型加工方法であって、前記型表面の前記整形対象領域を包囲して、前記整形対象領域がエッチング液に曝されるエッチング液充填空間を形成する充填空間形成部材を、前記型表面に設置する充填空間形成部材設置工程と、前記エッチング液充填空間にエッチング液を充填し、前記整形対象領域を前記エッチング液に曝してエッチング作用により除去するエッチング工程と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金型加工方法において、前記型表面は、曲面形状に形成され、前記充填空間形成部材は、前記型表面の曲面形状に沿って密着可能な可撓性を有していることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の金型加工方法において、前記充填空間形成部材は、前記エッチング液充填空間の全体に亘って前記エッチング液を略一定の深さで貯留可能に、前記型表面に沿って配置される略一定高さの縦壁部と、この縦壁部に連続して設けられ、前記整形対象領域に略一定間隔で対向して配置されるシート部と、を備えていることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の金型加工方法において、前記充填空間形成部材は、前記縦壁部と前記シート部とが別体に形成され、前記充填空間形成部材設置工程は、前記縦壁部を前記型表面に接着させる縦壁接着工程と、前記整形対象領域を覆った状態で前記縦壁部に前記シート部を接着させるシート接着工程とを備えていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型加工方法において、前記エッチング液として、単位時間あたりの除去速度が異なる複数種類を備え、前記エッチング工程では、前記複数種類のエッチング液を、前記型表面の除去量に応じ、相対的に除去量が多い部分には相対的に除去速度が速いものを、相対的に除去量が少ない部分には相対的に除去速度が遅いものを選択的に用いることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型加工方法において、前記整形対象領域が前記型表面の複数個所に設定され、前記充填空間形成部材設置工程では、各整形対象領域を、それぞれ前記充填空間形成部材により独立して包囲し、前記エッチング工程では、各整形対象領域について、それぞれ除去量に応じてエッチング時間を独立して設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金型加工方法では、整形対象領域における除去を、機械的な研磨ではなくエッチングによる腐食作用により行うため、研磨加工具の金型に対する位置決めが不要であり、微細な除去量の加工が可能となる。また、除去量は、エッチング時間により制御することができ、高精度の除去量のコントロールが可能である。
しかも、型表面の整形対象領域を充填空間形成部材で包囲し、この充填空間形成部材と整形対象領域との間に形成したエッチング液充填空間にのみエッチング液を充填するようにしたため、金型全体をエッチング槽に浸漬するのと比較して、エッチング槽が不要で加工設備の小型化を図ることができるとともに必要なエッチング液が少量で済む。加えて、エッチング液充填空間からエッチング液が漏れたとしても、少量であり、意図しない領域が大幅に除去される不具合の発生を抑制できる。
【0012】
さらに、請求項2に記載の加工方法では、充填空間形成部材は、型表面の曲面形状に沿って密着可能な可撓性を有しているため、充填空間形成部材設置工程では、型表面が曲面形状であっても、充填空間形成部材により整形対象領域を隙間無く包囲することができ、エッチング工程におけるエッチング液漏れを抑制できる。
請求項3に記載の発明では、充填空間形成部材が、一定高さの縦壁部と、整形対象領域に略一定間隔で対向して配置されるシート部材とを備えているため、エッチング工程においてエッチング液充填空間にエッチング液を充填した際に、エッチング液がエッチング液充填空間の全域に亘って一定の深さで貯留される。したがって、整形対象領域の全域に亘って略一定のエッチング作用が得られ、エッチング液の深さが一定でないものと比較して、除去量の均一化を図り高い整形精度が得られる。
請求項4に記載の発明の充填空間形成部材設置工程では、縦壁部を型表面に接着させた(縦壁接着工程)後に、シート部材により整形対象領域を覆った状態で縦壁部に接着させる(シート接着工程)。このように、縦壁部とシート部材とを別体に形成することで、両者が一体のものと比較して、加工性に優れるとともに、作業性に優れる。
請求項5に記載の発明では、エッチング工程では、単位時間あたり除去速度が異なる複数種類のエッチング液を、型表面の除去量に応じて選択的に用いる。このため、除去量に応じて効率的なエッチングを行うことができる。
請求項6に記載の発明は、整形対象領域が複数存在する場合、エッチング時間を独立して設定し、各設計対象領域おける除去量を独立して設定できる。
したがって、エッチングによる化学的除去であっても、各整形対象領域において、異なる除去量で加工することができ、金型をエッチング槽に浸漬する場合のように、マスキングと浸漬とを繰り返す手間が不要であり、効率的な加工が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施例1の金型加工方法により整形する金型2,3および両金型2,3により成形されるfθレンズ1を示す斜視図である。
【図2】図2は金型2の整形対象領域20を説明するための図であり、(a)は金型2の平面図、(b)は金型2の側面図である。
【図3】図3は金型2の鏡面部2bの計測データと設計データの一例を示しており、実線kaが鏡面部2bの計測データ、点線kbが設計データである。
【図4】図4は図3の実線kaで示す計測値と点線kbで示す設計値との差分である誤差曲線kcの一例を示す図である。
【図5】図5は図4に示す誤差曲線kcに基づく除去量の一例の説明図である。
【図6】図6は実施例1の金型加工方法による整形対象領域20の整形後の誤差曲線keを示す図である。
【図7】図7は実施例1の金型加工方法による充填空間形成部材設置工程を示す断面図である。
【図8】図8は実施例1の金型加工方法の充填空間形成部材設置工程を順に示す図であり、(a)は鏡面部2bにおける整形対象領域20を示し、(b)は縦壁接着工程を示す平面図、(b2)は(b)のSb−Sb線における断面を示す断面図、(c)はシート接着工程を示す平面図、(c2)は(c)のSc−Sc線による断面を示す断面図である。
【図9】図9はエッチング工程においてエッチング液Eの注入後に注入穴42aを蓋用シート43で塞いだ状態を示しており、(a)はその平面図であり、(b)はその断面図であり(a)のS9−S9線による断面を示している。
【図10】図10は実施例1の金型加工方法で用いる4種類のエッチング液E1〜E4とその特性を示す図である。
【図11】図11は鏡面部2bにおいてエッチング液E4により2時間エッチングを行なった一例の白色光干渉による顕微鏡タイプの表面粗さ計で測定した結果を立体的に表した斜視図である。
【図12】図12は、図11のS12−S12線の位置における測定結果を示す図である。
【図13】図13は、実施例2の金型加工方法による加工対象である金型2における整形対象領域220を示す斜視図である。
【図14】図14は、実施例2の金型加工方法の充填空間形成部材設置工程において金型2に充填空間形成部材204を接着した状態を示す斜視図である。
【図15】図15は、実施例2の金型加工方法のエッチング工程においてエッチング液Eを注入した状態を示す断面図であって、図14のS15−S15線における断面を示している。
【図16】図16は、実施例3の金型加工方法により充填空間形成部材設置工程において鏡面部2bに充填空間形成部材304a,304b,304c,304dを接着した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1の金型加工方法を説明するのにあたり、デジタル複写機や、レーザプリンタの書き込み光学系に用いる、fθレンズを成形する金型の加工を例に挙げて説明する。
【0016】
図1はfθレンズ1および、このfθレンズ1を成形する金型2,3を示す斜視図であり、fθレンズ1の鏡面部1a,1bは、それぞれ、金型2,3により成形される。
金型2,3は、それぞれ、金型本体2a,3aおよび、鏡面部1a,1bを成形する鏡面部(型表面)2b,3bを備えている。なお、鏡面部2b,3bは、本実施例1では、Ni−Pメッキによる鏡面加工により形成されている。
【0017】
本実施例1の金型加工方法は、金型2,3の鏡面部2b,3bの整形に用いるもので、以下に、詳細に説明する。
金型2の大きさは、例えば、図2に示すように、長さL=200mm、幅W=30mmのものを用いており、鏡面部2bは、半径R=500mmのシリンドリカル面状に形成されている。なお、シリンドリカル面形状のレンズは、一方向に屈折力を持ち収束または発散する一方で、直交する方向では屈折力をもたないレンズであり、ライン照明や、一方向の画像圧縮や、レーザ走査光学系などに用いることができる。
【0018】
鏡面部2bは、型表面の除去による整形対象となる整形対象領域20(一点鎖線により囲んだ領域)が設定されている。この実施例1では、整形対象領域20は、長さa=80mm、幅b=10mmの領域とする。
【0019】
ここで、このような整形対象領域20を設定する一例について説明する。
図において、幅(W)方向を副走査方向、長さ(L)方向を主走査方向として、鏡面部2bの形状精度を測定した場合の副走査方向の計測データの一例を図3に示す。図3において、実線kaが鏡面部2bの計測データを示し、点線kbが、鏡面部2bの設計データを示している。この図において、実線kaと点線kbとのずれが、鏡面部2bにおける形状誤差となる。
【0020】
図4は図3の実線kaで示す計測値と点線kbで示す設計値との差分をとった誤差曲線誤差曲線kcを示している。この誤差曲線kcの最大値と最小値の差δ1が鏡面部2bの最大誤差である。
【0021】
鏡面部2bの形状が、上記の図3、図4に示す状態である場合、図5において、斜線部R1,R2の領域の鏡面部2bの表面(型表面)を除去することにより、誤差曲線の最大値と最小値の差である最大誤差を小さくすることができることが分かる。そこで、図において斜線部R1,R2で示す深さd1が除去量となる。
【0022】
したがって、この斜線部R1,R2が鏡面部2bにおいて整形対象領域20の幅方向の位置および幅寸法を示すことになる。また、同様の計測データと設計データとの比較を主走査方向に行って、整形対象領域20の長さ方向の位置および長さ寸法を設定する。
【0023】
このような斜線部R1,R2の型表面除去を行なった後の、鏡面部2bの誤差曲線keを図6に示している。この誤差曲線keに示すように、誤差の最大値と最小値の差はδ2となり、この差δ2は、斜線部R1の除去前の差δ1よりも小さくなっているのが分かる。図では、除去した領域と、除去を行なっていない領域との間に、段が発生しているが、この段の高さは30nm以下であり、鏡面部2bにおいて段によるレンズ特性の悪化は問題ないレベルに収まる。
【0024】
次に、実施例1の金型加工方法を、順を追って説明する。
(計測工程)
計測工程では、金型2,3の鏡面部2b,3bの形状を副走査方向および主走査方向に計測し、この計測データに基づいて、例えば、図4で示したような設計データとの差を求める。そして、この差分に基づいて、型表面の除去が必要な領域、すなわち、整形対象領域(20)および除去量(d1)を求める。
【0025】
以下、この整形対象領域が、図2で示した金型2の鏡面部2bの整形対象領域20である場合について説明する。
【0026】
(充填空間形成部材設置工程)
充填空間形成部材設置工程は、図7および図8に示す充填空間形成部材4を、鏡面部2bの整形対象領域20を包囲して鏡面部2bに設置し、整形対象領域20をエッチング液Eに曝した状態で充填空間形成部材4と整形対象領域20との間にエッチング液Eを封止および貯留可能なエッチング液充填空間40を形成する工程である。
【0027】
ここで充填空間形成部材4について説明すると、充填空間形成部材4は、エッチング液Eを通過させることなく封止できる素材で形成された縦壁部材(縦壁部)41とシート部材(シート部)42とを備えている。
縦壁部材41は、図8に示すように、整形対象領域20の外周を囲む長方形枠状に形成されており、この長方形枠状の内周の開口部41aが、整形対象領域20の外周を囲む大きさに形成されている。また、縦壁部材41は、本実施例1では、可撓性を有し、前述のようにエッチング液Eを封止可能な性質のポリエチレン基材などの一定厚シート状の樹脂基材の上面41bおよび下面41c(図7参照)にアクリル系接着材を塗布して接着面とした両面接着テープ状のものが用いられている。
【0028】
シート部材42は、図8に示すように、縦壁部材41よりも長さおよび幅が若干大きな長方形のシート状に形成されており、縦壁部材41の上面41bに接着されており、縦壁部材41と同様に、エッチング液Eを封止可能であるとともに可撓性を有したポリエチレンなどの樹脂製シートを用いて形成されている。なお、シート部材42には、注入穴42aが厚さ方向に貫通して開口されている。
【0029】
そこで、本実施例1の充填空間形成部材設置工程では、まず、図8(b)に示すように、金型2の鏡面部2bの整形対象領域20の外周縁部に、縦壁部材41を接着させる縦壁接着工程を実施する。
この縦壁接着工程は、整形対象領域20が図8(a)に示す大きさである場合、シート状の両面接着テープを、整形対象領域20よりも僅かに長い長さL=a+α1であり、かつ、その幅bよりも僅かに大きな幅W=b+α2の大きさにカットし、鏡面部2bの整形対象領域20の上に貼付する。そして、その貼付の後または貼付の前に、その両面テープの中央部に、整形対象領域20の大きさおよび形状に対応した長さL=a、幅W=bの寸法でくり抜いて開口部41aを形成し、かつ、開口部41aの位置を整形対象領域20の位置に一致させる。
【0030】
次に、縦壁部材41の上面41bに、図8(c)(c2)に示すように、シート部材42を接着させ、シート部材42を整形対象領域20に対し一定間隔で対向させるシート接着工程を実施する。
【0031】
これにより、図8(c2)に示すように、整形対象領域20と充填空間形成部材4との間に、外部に対して封止されたエッチング液充填空間40が形成される。このエッチング液充填空間40は、図7に示すように長方形の断面形状に形成され、かつ、縦壁部材41が全周で一定の高さに形成されているため、整形対象領域20は、その全長および全幅に亘って一定の深さに形成される。
【0032】
なお、このエッチング液充填空間40は、シート部材42に設けられた注入穴42aで外部に連通されている。この注入穴42aは、シート部材42の長手方向の端部に配置されており、シート接着工程では、この注入穴42aが、鏡面部1bを上方に向けて配置した際に、整形対象領域20において高い位置となる側の端部に配置する。
【0033】
(エッチング工程)
エッチング工程は、エッチング液充填空間40にエッチング液Eを充填し、整形対象領域20をエッチング液に曝し、エッチング作用により整形対象領域20の鏡面部2bを化学的に除去する工程である。
すなわち、図7に示すように、注入穴42aにエッチング液注入用のノズル5を差し込み、エッチング液充填空間40にエッチング液Eを充填する。このとき、注入穴42aは、整形対象領域20において高さが高い位置に配置されているため、エッチング液Eは、エッチング液充填空間40の高さの低い位置から充填され、最後に、注入穴42aの位置まで充填される。この状態で、図9に示すように、注入穴42aに蓋用シート43を貼り付けて注入穴42aを塞ぐ。なお、蓋用シート43も、縦壁部材41およびシート部材42と同様の、エッチング液Eを通過させることなく封止可能な素材が用いられている。
【0034】
本実施例1では、整形対象領域20は、図2に示すように、金型2の鏡面部2bの湾曲部分に設けられているが、エッチング液充填空間40は、縦壁部材41とシート部材42と蓋用シート43により封止されているため、エッチング液Eが縦壁部材41を乗り越えて溢れ出ることがない。しかも、縦壁部材41が一定の高さに形成されていることから、エッチング液充填空間40は、一定の断面に形成されており、エッチング液Eは、整形対象領域20の全域に亘って一定の深さで充填され、整形対象領域20の全体において略一定のエッチング作用、すなわち、一定の除去作用を得ることができる。
【0035】
ここで、エッチング液Eとしては、図10に示すエッチング液E1、E2,E3,E4を用いることができる。この図10に示すように、各エッチング液E1〜E4のそれぞれについて、あらかじめ温度に対する時間あたりの加工速度(除去量)が実験により求められている。したがって、各エッチング液E1〜E4について、除去量に応じた適正なエッチング時間を求めることができる。
本実施例1では、エッチング液Eとして、ポリプラ103(株式会社フジミインコーポレーテッド社の登録商標)に過酸化水素水を添加したエッチング液E4を用いた。図11は、鏡面部2bにおいて、エッチング液E4により2時間エッチングを行なった場合の鏡面部2bを、白色光干渉による顕微鏡タイプの表面粗さ計で測定した結果を立体的に表した一例を示しており、図12は、図11のS12−S12線の位置における測定結果を示している。
【0036】
両図に示すように、2時間のエッチングにより、10nm程度の除去量が得られており、型表面の除去が必要な場所である整形対象領域20に対して、型表面からの除去量で10nmレベルの加工が可能であることがわかる。また、この除去量は、上述のようにエッチング時間に比例するため、エッチング時間をコントロールすることにより、除去量を増減させることが可能である。すなわち、エッチング時間を2時間よりも短くすれば、10nmよりも小さな除去量とすることができ、エッチング時間を2時間よりも長くすれば、除去量は10nmよりも大きくなる。
【0037】
あるいは、図10に示すように、各エッチング液E1〜E4は、それぞれ、時間あたりの除去量が異なるため、異なる種類のエッチング液E1〜E4を使い分けることにより、同じエッチング時間でも、異なる除去量を得るようにすることも可能である。
【0038】
以上説明したように、実施例1の金型加工方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
a)整形対象領域20における型表面の除去を、機械的な研磨加工ではなくエッチング作用による化学的な除去により行うため、研磨加工具の金型に対する位置決めが不要であり、微小な量の除去が可能となり、整形精度を向上できる。
【0039】
b)エッチングは、充填空間形成部材4で包囲して封止した領域のみ行なうため、金型2,3の全体をエッチング槽に浸漬するのと比較して、エッチング槽が不要であるとともに、必要なエッチング液が少量で済み、加工設備の小型化および製造コストの低減が可能となる。加えて、仮にエッチング液充填空間40からエッチング液が漏れたとしても少量であり、エッチング槽に浸漬した際にマスキング不良が生じた場合と比較して、マスキング不良による意図しない領域の除去量が大幅に低減でき、これによっても整形精度の向上を図ることができる。
【0040】
c)充填空間形成部材4は、可撓性を有した素材で形成したため、加工対象の型表面である鏡面部2b,3bが曲面であっても、鏡面部2b,3bに沿って隙間無く充填空間形成部材4を密着させることが可能であり、エッチング液Eの漏れ発生を抑制して、高い加工品質を得ることができる。
【0041】
d)充填空間形成部材4は、一定の高さの縦壁部材41を備え、エッチング液充填空間40を一定の深さに形成したため、充填されたエッチング液Eの深さを整形対象領域20の全域に亘って略一定の深さとすることができ、整形対象領域20におけるエッチング作用による除去量の均一化を図ることが可能で、高い整形精度が得られる。
特に、fθレンズの金型2,3のように鏡面部2b,3bが曲面である場合、シート部材42を用いずに縦壁部材41のみでエッチング液Eを貯留しようとすると、縦壁が一定高さであると曲面の高さの低い部分でエッチング液が縦壁を乗り越えるため、曲面に沿って縦壁の高さが高い部分と浅い部分とを形成する必要があり、この場合、貯留したエッチング液Eの深さに差が生じ、除去量が均一とならない不具合が生じる。それに対し、本実施例1では、一定の高さの縦壁部材41をシート部材42で覆ってシート部材42を整形対象領域20に対して一定の間隔で配置したため、エッチング液Eが縦壁部材41を乗り越えることなく一定の深さに貯留でき、整形対象領域20の全域で均一な除去量とすることが可能となる。
【0042】
e)充填空間形成部材4を縦壁部材41とシート部材42とに分割し、縦壁部材41は、両面接着テープで形成したものを用い、縦壁部材41の鏡面部2b,3bへの接着後に、シート部材42を縦壁部材41に接着させて、エッチング液充填空間40を形成するようにした。このため、縦壁部材41は、整形対象領域20を視認しながら接着させることができ、高い接着位置精度を得ることができるとともに、作業性に優れる。
加えて、縦壁部材41には、両面テープを用いたため、上下面41b,41cに接着剤を塗布して接着するものと比較して、接着作業性に優れる。
【0043】
f)エッチング液Eとして、エッチングの単位時間に対する除去量が小さなポリプラ103(株式会社フジミインコーポレーテッド社の登録商標)を用いたため、除去量をエッチング時間により制御する際の精度が高い。
【0044】
g)シート部材42に注入穴42aを設けたため、エッチング液Eの注入が容易である。また、注入穴42aは、エッチング液Eの注入後に蓋用シート43で塞ぐようにしたために、エッチング液Eの漏れ防止のための作業が容易である。
【0045】
(他の実施例)
以下に、他の実施例について説明するが、これら他の実施例は、実施例1の変形例であるため、その相違点についてのみ説明し、実施例1あるいは他の実施例と共通する構成については共通する符号を付けることで説明を省略する。
【実施例2】
【0046】
次に、実施例2の金型加工方法について説明する。
この実施例2は、実施例1とは異なる充填空間形成部材204を用いた例である。なお、この実施例2では、図13に示す金型2の鏡面部2bの幅方向中央部分に整形対象領域220(実施例1と同様に一点鎖線で囲んだ領域)を設定している。
充填空間形成部材204は、長方形の帯状のシート部241と、このシート部241の4周から立設された縦壁部242とが一体に形成されて、図14のS15−S15線の位置での断面を示す図15に示すように、逆U字断面形状に形成されたものを用いている。なお、縦壁部242の下面には、接着面が形成されているものとする。
【0047】
充填空間形成部材設置工程では、図14に示すように、充填空間形成部材204により整形対象領域220(図14では図示省略)を包囲し、かつ、充填空間形成部材204の外周位置で縦壁部242の下面を鏡面部2bに接着させて、充填空間形成部材204と整形対象領域220との間にエッチング液充填空間40を形成する。
なお、充填空間形成部材204は、実施例1と同様に、エッチング液Eを通過させることがないとともに、可撓性を有した素材(例えば、ポリエチレンなどの樹脂)により形成されている。また、シート部241には、実施例1と同様に、注入穴(図示省略)が開口されている。
【0048】
エッチング工程では、図示を省略した注入穴からエッチング液充填空間40にエッチング液Eを充填した後、この注入穴(図示省略)を蓋用シート43で塞ぎ、エッチング作用により整形対象領域220の型表面の化学的除去が行なわれる。
以上説明した実施例2にあっても、上記a)b)c)d)f)g)の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0049】
次に、実施例3の金型加工方法について説明する。
この実施例3は、整形対象領域を金型2の鏡面部2bの4カ所に設定した例である。
【0050】
図16は、4カ所の整形対象領域に、充填空間形成部材304a,304b,304c,304dを設けた状態を示している。なお、各充填空間形成部材304a,304b,304c,304dは、実施例1で示したものと実施例2で示したもののいずれかを用いている。
【0051】
この実施例3では、各整形対象領域における除去量が異なる場合、それぞれ除去量に応じたエッチング時間を設定するか、あるいは、エッチング速度の異なるエッチング液Eを用いるかの、いずれかの方法を用いる。
【0052】
この場合、除去量が、各整形対象領域において10倍以上異なる場合は、エッチング速度の異なるエッチング液Eを用いることで、除去量の違いによるエッチング時間の差を短縮できる。逆に、必要な型表面除去量が、ほぼ同等であったり数倍程度であったりした場合は、同一のエッチング液Eを用いつつエッチング時間によって化学的な除去量をコントロールすることで、高い精度の除去を行うことができる。
【0053】
以上のように、実施例3では、複数の整形対象領域が存在する場合、各整形対象領域の型表面の除去量が異なっていても、エッチング時間のコントロールあるいはエッチング液Eの選択により任意に領域の除去量を異ならせることができる。これは、金型2の全体をエッチング液Eに浸漬する場合には、各整形対象領域のそれぞれについて、1箇所を除いてマスキングしてエッチングすることを繰り返す必要があり時間と手間が必要であるのに対し、本実施例3では、それぞれ、独立して同時にエッチングおよびその除去量のコントロールが可能であり、加工に要する時間および手間を大幅に削減可能である。
また、実施例3にあっても、上記a)b)c)d)f)g)の効果を得ることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【0055】
例えば、実施例1の金型加工方法を説明するのにあたり、fθレンズを成形する金型の加工を例に挙げて説明したが、金型であれば、レンズの成形用のもの以外の他の金型にも適用することができる。
【0056】
また、エッチング液についても、実施例1で示した各エッチング液E1〜E4以外のエッチング液も使用可能である。
【符号の説明】
【0057】
2 金型
2b 鏡面部(型表面)
4 充填空間形成部材
5 ノズル
20 整形対象領域
40 エッチング液充填空間
41 縦壁部材(縦壁部)
42 シート部材(シート部)
204 充填空間形成部材
220 整形対象領域
241 シート部
242 縦壁部
304a 充填空間形成部材
304b 充填空間形成部材
304c 充填空間形成部材
304d 充填空間形成部材
E エッチング液
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特開2006−159324号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ成形用金型の加工に用いるのに好適な金型加工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズの成形用の金型を整形した後、型表面において必要精度を超える形状誤差が生じた場合、この部分(この部分を、以下、整形対象領域と称する)を研磨加工し型表面の整形を行う。このような整形加工として、研磨装置を用いて機械的に研磨する方法(例えば、特許文献1参照)や、エッチング液により型表面を腐食させて化学的に除去する方法が知られている。
【0003】
上記の機械的研磨では、研磨加工を行う際に、研磨工具を型表面の加工対照面に接触させ、加工対象面に微少な除去痕を形成し、その除去痕の深さをもとに、研磨工具の位置決めを行うようにしている。
この研磨工具の位置決めにあたっては、型表面の除去痕の深さを正確に計測する必要があり、この除去痕の計測には、30nm程度の除去痕が必要である。
【0004】
また、エッチングによる化学的な除去を行なう場合、型表面において、整形対象領域以外をマスキングし、金型全体をエッチング液に浸漬し、エッチング液による腐食作用で整形対象領域の型表面の除去を行なう方法が一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術では、以下に述べる問題があった。
上記特許文献1に記載されるような機械的研磨を行なう場合、上述のように、加工具の位置決めのために、30nm程度の除去痕が必要であるため、位置決め用の除去痕を整形対象領域に残さないようにするには、この除去痕の深さからさらに20〜30nm以上の研磨加工を行う必要がある。そのため、型表面において、深さ50nm以下の除去量の加工を行うことが難しかった。
【0006】
さらに、このような形状補正量が50nmの形状補正を行う場合、整形対象領域のみならず、その周辺部も研磨加工を行なう必要が生じる場合もあった。この場合、加工時間が長くなって加工に手間がかかるとともに、必要な精度が出ていた領域も加工することになり、逆に型形状を劣化させるおそれもあった。
【0007】
一方、エッチングによる化学的除去の場合、金型全体を浸漬させることのできる大量のエッチング液が必要で加工が大掛かりになるという問題があった。さらに、マスクが不十分なとき、正常な型表面などの意図しない領域がエッチングされて化学的に除去されるおそれがあるという問題があった。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決することを目的とするものであり、型表面の整形対象領域における微小な除去加工を可能とし、かつ、コンパクトなエッチング加工が可能であるとともに、意図しない領域のエッチングを抑制して加工精度の向上を図ることができる金型加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、金型の型表面の整形対象領域を除去して整形する金型加工方法であって、前記型表面の前記整形対象領域を包囲して、前記整形対象領域がエッチング液に曝されるエッチング液充填空間を形成する充填空間形成部材を、前記型表面に設置する充填空間形成部材設置工程と、前記エッチング液充填空間にエッチング液を充填し、前記整形対象領域を前記エッチング液に曝してエッチング作用により除去するエッチング工程と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金型加工方法において、前記型表面は、曲面形状に形成され、前記充填空間形成部材は、前記型表面の曲面形状に沿って密着可能な可撓性を有していることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の金型加工方法において、前記充填空間形成部材は、前記エッチング液充填空間の全体に亘って前記エッチング液を略一定の深さで貯留可能に、前記型表面に沿って配置される略一定高さの縦壁部と、この縦壁部に連続して設けられ、前記整形対象領域に略一定間隔で対向して配置されるシート部と、を備えていることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の金型加工方法において、前記充填空間形成部材は、前記縦壁部と前記シート部とが別体に形成され、前記充填空間形成部材設置工程は、前記縦壁部を前記型表面に接着させる縦壁接着工程と、前記整形対象領域を覆った状態で前記縦壁部に前記シート部を接着させるシート接着工程とを備えていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型加工方法において、前記エッチング液として、単位時間あたりの除去速度が異なる複数種類を備え、前記エッチング工程では、前記複数種類のエッチング液を、前記型表面の除去量に応じ、相対的に除去量が多い部分には相対的に除去速度が速いものを、相対的に除去量が少ない部分には相対的に除去速度が遅いものを選択的に用いることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型加工方法において、前記整形対象領域が前記型表面の複数個所に設定され、前記充填空間形成部材設置工程では、各整形対象領域を、それぞれ前記充填空間形成部材により独立して包囲し、前記エッチング工程では、各整形対象領域について、それぞれ除去量に応じてエッチング時間を独立して設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金型加工方法では、整形対象領域における除去を、機械的な研磨ではなくエッチングによる腐食作用により行うため、研磨加工具の金型に対する位置決めが不要であり、微細な除去量の加工が可能となる。また、除去量は、エッチング時間により制御することができ、高精度の除去量のコントロールが可能である。
しかも、型表面の整形対象領域を充填空間形成部材で包囲し、この充填空間形成部材と整形対象領域との間に形成したエッチング液充填空間にのみエッチング液を充填するようにしたため、金型全体をエッチング槽に浸漬するのと比較して、エッチング槽が不要で加工設備の小型化を図ることができるとともに必要なエッチング液が少量で済む。加えて、エッチング液充填空間からエッチング液が漏れたとしても、少量であり、意図しない領域が大幅に除去される不具合の発生を抑制できる。
【0012】
さらに、請求項2に記載の加工方法では、充填空間形成部材は、型表面の曲面形状に沿って密着可能な可撓性を有しているため、充填空間形成部材設置工程では、型表面が曲面形状であっても、充填空間形成部材により整形対象領域を隙間無く包囲することができ、エッチング工程におけるエッチング液漏れを抑制できる。
請求項3に記載の発明では、充填空間形成部材が、一定高さの縦壁部と、整形対象領域に略一定間隔で対向して配置されるシート部材とを備えているため、エッチング工程においてエッチング液充填空間にエッチング液を充填した際に、エッチング液がエッチング液充填空間の全域に亘って一定の深さで貯留される。したがって、整形対象領域の全域に亘って略一定のエッチング作用が得られ、エッチング液の深さが一定でないものと比較して、除去量の均一化を図り高い整形精度が得られる。
請求項4に記載の発明の充填空間形成部材設置工程では、縦壁部を型表面に接着させた(縦壁接着工程)後に、シート部材により整形対象領域を覆った状態で縦壁部に接着させる(シート接着工程)。このように、縦壁部とシート部材とを別体に形成することで、両者が一体のものと比較して、加工性に優れるとともに、作業性に優れる。
請求項5に記載の発明では、エッチング工程では、単位時間あたり除去速度が異なる複数種類のエッチング液を、型表面の除去量に応じて選択的に用いる。このため、除去量に応じて効率的なエッチングを行うことができる。
請求項6に記載の発明は、整形対象領域が複数存在する場合、エッチング時間を独立して設定し、各設計対象領域おける除去量を独立して設定できる。
したがって、エッチングによる化学的除去であっても、各整形対象領域において、異なる除去量で加工することができ、金型をエッチング槽に浸漬する場合のように、マスキングと浸漬とを繰り返す手間が不要であり、効率的な加工が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施例1の金型加工方法により整形する金型2,3および両金型2,3により成形されるfθレンズ1を示す斜視図である。
【図2】図2は金型2の整形対象領域20を説明するための図であり、(a)は金型2の平面図、(b)は金型2の側面図である。
【図3】図3は金型2の鏡面部2bの計測データと設計データの一例を示しており、実線kaが鏡面部2bの計測データ、点線kbが設計データである。
【図4】図4は図3の実線kaで示す計測値と点線kbで示す設計値との差分である誤差曲線kcの一例を示す図である。
【図5】図5は図4に示す誤差曲線kcに基づく除去量の一例の説明図である。
【図6】図6は実施例1の金型加工方法による整形対象領域20の整形後の誤差曲線keを示す図である。
【図7】図7は実施例1の金型加工方法による充填空間形成部材設置工程を示す断面図である。
【図8】図8は実施例1の金型加工方法の充填空間形成部材設置工程を順に示す図であり、(a)は鏡面部2bにおける整形対象領域20を示し、(b)は縦壁接着工程を示す平面図、(b2)は(b)のSb−Sb線における断面を示す断面図、(c)はシート接着工程を示す平面図、(c2)は(c)のSc−Sc線による断面を示す断面図である。
【図9】図9はエッチング工程においてエッチング液Eの注入後に注入穴42aを蓋用シート43で塞いだ状態を示しており、(a)はその平面図であり、(b)はその断面図であり(a)のS9−S9線による断面を示している。
【図10】図10は実施例1の金型加工方法で用いる4種類のエッチング液E1〜E4とその特性を示す図である。
【図11】図11は鏡面部2bにおいてエッチング液E4により2時間エッチングを行なった一例の白色光干渉による顕微鏡タイプの表面粗さ計で測定した結果を立体的に表した斜視図である。
【図12】図12は、図11のS12−S12線の位置における測定結果を示す図である。
【図13】図13は、実施例2の金型加工方法による加工対象である金型2における整形対象領域220を示す斜視図である。
【図14】図14は、実施例2の金型加工方法の充填空間形成部材設置工程において金型2に充填空間形成部材204を接着した状態を示す斜視図である。
【図15】図15は、実施例2の金型加工方法のエッチング工程においてエッチング液Eを注入した状態を示す断面図であって、図14のS15−S15線における断面を示している。
【図16】図16は、実施例3の金型加工方法により充填空間形成部材設置工程において鏡面部2bに充填空間形成部材304a,304b,304c,304dを接着した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1の金型加工方法を説明するのにあたり、デジタル複写機や、レーザプリンタの書き込み光学系に用いる、fθレンズを成形する金型の加工を例に挙げて説明する。
【0016】
図1はfθレンズ1および、このfθレンズ1を成形する金型2,3を示す斜視図であり、fθレンズ1の鏡面部1a,1bは、それぞれ、金型2,3により成形される。
金型2,3は、それぞれ、金型本体2a,3aおよび、鏡面部1a,1bを成形する鏡面部(型表面)2b,3bを備えている。なお、鏡面部2b,3bは、本実施例1では、Ni−Pメッキによる鏡面加工により形成されている。
【0017】
本実施例1の金型加工方法は、金型2,3の鏡面部2b,3bの整形に用いるもので、以下に、詳細に説明する。
金型2の大きさは、例えば、図2に示すように、長さL=200mm、幅W=30mmのものを用いており、鏡面部2bは、半径R=500mmのシリンドリカル面状に形成されている。なお、シリンドリカル面形状のレンズは、一方向に屈折力を持ち収束または発散する一方で、直交する方向では屈折力をもたないレンズであり、ライン照明や、一方向の画像圧縮や、レーザ走査光学系などに用いることができる。
【0018】
鏡面部2bは、型表面の除去による整形対象となる整形対象領域20(一点鎖線により囲んだ領域)が設定されている。この実施例1では、整形対象領域20は、長さa=80mm、幅b=10mmの領域とする。
【0019】
ここで、このような整形対象領域20を設定する一例について説明する。
図において、幅(W)方向を副走査方向、長さ(L)方向を主走査方向として、鏡面部2bの形状精度を測定した場合の副走査方向の計測データの一例を図3に示す。図3において、実線kaが鏡面部2bの計測データを示し、点線kbが、鏡面部2bの設計データを示している。この図において、実線kaと点線kbとのずれが、鏡面部2bにおける形状誤差となる。
【0020】
図4は図3の実線kaで示す計測値と点線kbで示す設計値との差分をとった誤差曲線誤差曲線kcを示している。この誤差曲線kcの最大値と最小値の差δ1が鏡面部2bの最大誤差である。
【0021】
鏡面部2bの形状が、上記の図3、図4に示す状態である場合、図5において、斜線部R1,R2の領域の鏡面部2bの表面(型表面)を除去することにより、誤差曲線の最大値と最小値の差である最大誤差を小さくすることができることが分かる。そこで、図において斜線部R1,R2で示す深さd1が除去量となる。
【0022】
したがって、この斜線部R1,R2が鏡面部2bにおいて整形対象領域20の幅方向の位置および幅寸法を示すことになる。また、同様の計測データと設計データとの比較を主走査方向に行って、整形対象領域20の長さ方向の位置および長さ寸法を設定する。
【0023】
このような斜線部R1,R2の型表面除去を行なった後の、鏡面部2bの誤差曲線keを図6に示している。この誤差曲線keに示すように、誤差の最大値と最小値の差はδ2となり、この差δ2は、斜線部R1の除去前の差δ1よりも小さくなっているのが分かる。図では、除去した領域と、除去を行なっていない領域との間に、段が発生しているが、この段の高さは30nm以下であり、鏡面部2bにおいて段によるレンズ特性の悪化は問題ないレベルに収まる。
【0024】
次に、実施例1の金型加工方法を、順を追って説明する。
(計測工程)
計測工程では、金型2,3の鏡面部2b,3bの形状を副走査方向および主走査方向に計測し、この計測データに基づいて、例えば、図4で示したような設計データとの差を求める。そして、この差分に基づいて、型表面の除去が必要な領域、すなわち、整形対象領域(20)および除去量(d1)を求める。
【0025】
以下、この整形対象領域が、図2で示した金型2の鏡面部2bの整形対象領域20である場合について説明する。
【0026】
(充填空間形成部材設置工程)
充填空間形成部材設置工程は、図7および図8に示す充填空間形成部材4を、鏡面部2bの整形対象領域20を包囲して鏡面部2bに設置し、整形対象領域20をエッチング液Eに曝した状態で充填空間形成部材4と整形対象領域20との間にエッチング液Eを封止および貯留可能なエッチング液充填空間40を形成する工程である。
【0027】
ここで充填空間形成部材4について説明すると、充填空間形成部材4は、エッチング液Eを通過させることなく封止できる素材で形成された縦壁部材(縦壁部)41とシート部材(シート部)42とを備えている。
縦壁部材41は、図8に示すように、整形対象領域20の外周を囲む長方形枠状に形成されており、この長方形枠状の内周の開口部41aが、整形対象領域20の外周を囲む大きさに形成されている。また、縦壁部材41は、本実施例1では、可撓性を有し、前述のようにエッチング液Eを封止可能な性質のポリエチレン基材などの一定厚シート状の樹脂基材の上面41bおよび下面41c(図7参照)にアクリル系接着材を塗布して接着面とした両面接着テープ状のものが用いられている。
【0028】
シート部材42は、図8に示すように、縦壁部材41よりも長さおよび幅が若干大きな長方形のシート状に形成されており、縦壁部材41の上面41bに接着されており、縦壁部材41と同様に、エッチング液Eを封止可能であるとともに可撓性を有したポリエチレンなどの樹脂製シートを用いて形成されている。なお、シート部材42には、注入穴42aが厚さ方向に貫通して開口されている。
【0029】
そこで、本実施例1の充填空間形成部材設置工程では、まず、図8(b)に示すように、金型2の鏡面部2bの整形対象領域20の外周縁部に、縦壁部材41を接着させる縦壁接着工程を実施する。
この縦壁接着工程は、整形対象領域20が図8(a)に示す大きさである場合、シート状の両面接着テープを、整形対象領域20よりも僅かに長い長さL=a+α1であり、かつ、その幅bよりも僅かに大きな幅W=b+α2の大きさにカットし、鏡面部2bの整形対象領域20の上に貼付する。そして、その貼付の後または貼付の前に、その両面テープの中央部に、整形対象領域20の大きさおよび形状に対応した長さL=a、幅W=bの寸法でくり抜いて開口部41aを形成し、かつ、開口部41aの位置を整形対象領域20の位置に一致させる。
【0030】
次に、縦壁部材41の上面41bに、図8(c)(c2)に示すように、シート部材42を接着させ、シート部材42を整形対象領域20に対し一定間隔で対向させるシート接着工程を実施する。
【0031】
これにより、図8(c2)に示すように、整形対象領域20と充填空間形成部材4との間に、外部に対して封止されたエッチング液充填空間40が形成される。このエッチング液充填空間40は、図7に示すように長方形の断面形状に形成され、かつ、縦壁部材41が全周で一定の高さに形成されているため、整形対象領域20は、その全長および全幅に亘って一定の深さに形成される。
【0032】
なお、このエッチング液充填空間40は、シート部材42に設けられた注入穴42aで外部に連通されている。この注入穴42aは、シート部材42の長手方向の端部に配置されており、シート接着工程では、この注入穴42aが、鏡面部1bを上方に向けて配置した際に、整形対象領域20において高い位置となる側の端部に配置する。
【0033】
(エッチング工程)
エッチング工程は、エッチング液充填空間40にエッチング液Eを充填し、整形対象領域20をエッチング液に曝し、エッチング作用により整形対象領域20の鏡面部2bを化学的に除去する工程である。
すなわち、図7に示すように、注入穴42aにエッチング液注入用のノズル5を差し込み、エッチング液充填空間40にエッチング液Eを充填する。このとき、注入穴42aは、整形対象領域20において高さが高い位置に配置されているため、エッチング液Eは、エッチング液充填空間40の高さの低い位置から充填され、最後に、注入穴42aの位置まで充填される。この状態で、図9に示すように、注入穴42aに蓋用シート43を貼り付けて注入穴42aを塞ぐ。なお、蓋用シート43も、縦壁部材41およびシート部材42と同様の、エッチング液Eを通過させることなく封止可能な素材が用いられている。
【0034】
本実施例1では、整形対象領域20は、図2に示すように、金型2の鏡面部2bの湾曲部分に設けられているが、エッチング液充填空間40は、縦壁部材41とシート部材42と蓋用シート43により封止されているため、エッチング液Eが縦壁部材41を乗り越えて溢れ出ることがない。しかも、縦壁部材41が一定の高さに形成されていることから、エッチング液充填空間40は、一定の断面に形成されており、エッチング液Eは、整形対象領域20の全域に亘って一定の深さで充填され、整形対象領域20の全体において略一定のエッチング作用、すなわち、一定の除去作用を得ることができる。
【0035】
ここで、エッチング液Eとしては、図10に示すエッチング液E1、E2,E3,E4を用いることができる。この図10に示すように、各エッチング液E1〜E4のそれぞれについて、あらかじめ温度に対する時間あたりの加工速度(除去量)が実験により求められている。したがって、各エッチング液E1〜E4について、除去量に応じた適正なエッチング時間を求めることができる。
本実施例1では、エッチング液Eとして、ポリプラ103(株式会社フジミインコーポレーテッド社の登録商標)に過酸化水素水を添加したエッチング液E4を用いた。図11は、鏡面部2bにおいて、エッチング液E4により2時間エッチングを行なった場合の鏡面部2bを、白色光干渉による顕微鏡タイプの表面粗さ計で測定した結果を立体的に表した一例を示しており、図12は、図11のS12−S12線の位置における測定結果を示している。
【0036】
両図に示すように、2時間のエッチングにより、10nm程度の除去量が得られており、型表面の除去が必要な場所である整形対象領域20に対して、型表面からの除去量で10nmレベルの加工が可能であることがわかる。また、この除去量は、上述のようにエッチング時間に比例するため、エッチング時間をコントロールすることにより、除去量を増減させることが可能である。すなわち、エッチング時間を2時間よりも短くすれば、10nmよりも小さな除去量とすることができ、エッチング時間を2時間よりも長くすれば、除去量は10nmよりも大きくなる。
【0037】
あるいは、図10に示すように、各エッチング液E1〜E4は、それぞれ、時間あたりの除去量が異なるため、異なる種類のエッチング液E1〜E4を使い分けることにより、同じエッチング時間でも、異なる除去量を得るようにすることも可能である。
【0038】
以上説明したように、実施例1の金型加工方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
a)整形対象領域20における型表面の除去を、機械的な研磨加工ではなくエッチング作用による化学的な除去により行うため、研磨加工具の金型に対する位置決めが不要であり、微小な量の除去が可能となり、整形精度を向上できる。
【0039】
b)エッチングは、充填空間形成部材4で包囲して封止した領域のみ行なうため、金型2,3の全体をエッチング槽に浸漬するのと比較して、エッチング槽が不要であるとともに、必要なエッチング液が少量で済み、加工設備の小型化および製造コストの低減が可能となる。加えて、仮にエッチング液充填空間40からエッチング液が漏れたとしても少量であり、エッチング槽に浸漬した際にマスキング不良が生じた場合と比較して、マスキング不良による意図しない領域の除去量が大幅に低減でき、これによっても整形精度の向上を図ることができる。
【0040】
c)充填空間形成部材4は、可撓性を有した素材で形成したため、加工対象の型表面である鏡面部2b,3bが曲面であっても、鏡面部2b,3bに沿って隙間無く充填空間形成部材4を密着させることが可能であり、エッチング液Eの漏れ発生を抑制して、高い加工品質を得ることができる。
【0041】
d)充填空間形成部材4は、一定の高さの縦壁部材41を備え、エッチング液充填空間40を一定の深さに形成したため、充填されたエッチング液Eの深さを整形対象領域20の全域に亘って略一定の深さとすることができ、整形対象領域20におけるエッチング作用による除去量の均一化を図ることが可能で、高い整形精度が得られる。
特に、fθレンズの金型2,3のように鏡面部2b,3bが曲面である場合、シート部材42を用いずに縦壁部材41のみでエッチング液Eを貯留しようとすると、縦壁が一定高さであると曲面の高さの低い部分でエッチング液が縦壁を乗り越えるため、曲面に沿って縦壁の高さが高い部分と浅い部分とを形成する必要があり、この場合、貯留したエッチング液Eの深さに差が生じ、除去量が均一とならない不具合が生じる。それに対し、本実施例1では、一定の高さの縦壁部材41をシート部材42で覆ってシート部材42を整形対象領域20に対して一定の間隔で配置したため、エッチング液Eが縦壁部材41を乗り越えることなく一定の深さに貯留でき、整形対象領域20の全域で均一な除去量とすることが可能となる。
【0042】
e)充填空間形成部材4を縦壁部材41とシート部材42とに分割し、縦壁部材41は、両面接着テープで形成したものを用い、縦壁部材41の鏡面部2b,3bへの接着後に、シート部材42を縦壁部材41に接着させて、エッチング液充填空間40を形成するようにした。このため、縦壁部材41は、整形対象領域20を視認しながら接着させることができ、高い接着位置精度を得ることができるとともに、作業性に優れる。
加えて、縦壁部材41には、両面テープを用いたため、上下面41b,41cに接着剤を塗布して接着するものと比較して、接着作業性に優れる。
【0043】
f)エッチング液Eとして、エッチングの単位時間に対する除去量が小さなポリプラ103(株式会社フジミインコーポレーテッド社の登録商標)を用いたため、除去量をエッチング時間により制御する際の精度が高い。
【0044】
g)シート部材42に注入穴42aを設けたため、エッチング液Eの注入が容易である。また、注入穴42aは、エッチング液Eの注入後に蓋用シート43で塞ぐようにしたために、エッチング液Eの漏れ防止のための作業が容易である。
【0045】
(他の実施例)
以下に、他の実施例について説明するが、これら他の実施例は、実施例1の変形例であるため、その相違点についてのみ説明し、実施例1あるいは他の実施例と共通する構成については共通する符号を付けることで説明を省略する。
【実施例2】
【0046】
次に、実施例2の金型加工方法について説明する。
この実施例2は、実施例1とは異なる充填空間形成部材204を用いた例である。なお、この実施例2では、図13に示す金型2の鏡面部2bの幅方向中央部分に整形対象領域220(実施例1と同様に一点鎖線で囲んだ領域)を設定している。
充填空間形成部材204は、長方形の帯状のシート部241と、このシート部241の4周から立設された縦壁部242とが一体に形成されて、図14のS15−S15線の位置での断面を示す図15に示すように、逆U字断面形状に形成されたものを用いている。なお、縦壁部242の下面には、接着面が形成されているものとする。
【0047】
充填空間形成部材設置工程では、図14に示すように、充填空間形成部材204により整形対象領域220(図14では図示省略)を包囲し、かつ、充填空間形成部材204の外周位置で縦壁部242の下面を鏡面部2bに接着させて、充填空間形成部材204と整形対象領域220との間にエッチング液充填空間40を形成する。
なお、充填空間形成部材204は、実施例1と同様に、エッチング液Eを通過させることがないとともに、可撓性を有した素材(例えば、ポリエチレンなどの樹脂)により形成されている。また、シート部241には、実施例1と同様に、注入穴(図示省略)が開口されている。
【0048】
エッチング工程では、図示を省略した注入穴からエッチング液充填空間40にエッチング液Eを充填した後、この注入穴(図示省略)を蓋用シート43で塞ぎ、エッチング作用により整形対象領域220の型表面の化学的除去が行なわれる。
以上説明した実施例2にあっても、上記a)b)c)d)f)g)の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0049】
次に、実施例3の金型加工方法について説明する。
この実施例3は、整形対象領域を金型2の鏡面部2bの4カ所に設定した例である。
【0050】
図16は、4カ所の整形対象領域に、充填空間形成部材304a,304b,304c,304dを設けた状態を示している。なお、各充填空間形成部材304a,304b,304c,304dは、実施例1で示したものと実施例2で示したもののいずれかを用いている。
【0051】
この実施例3では、各整形対象領域における除去量が異なる場合、それぞれ除去量に応じたエッチング時間を設定するか、あるいは、エッチング速度の異なるエッチング液Eを用いるかの、いずれかの方法を用いる。
【0052】
この場合、除去量が、各整形対象領域において10倍以上異なる場合は、エッチング速度の異なるエッチング液Eを用いることで、除去量の違いによるエッチング時間の差を短縮できる。逆に、必要な型表面除去量が、ほぼ同等であったり数倍程度であったりした場合は、同一のエッチング液Eを用いつつエッチング時間によって化学的な除去量をコントロールすることで、高い精度の除去を行うことができる。
【0053】
以上のように、実施例3では、複数の整形対象領域が存在する場合、各整形対象領域の型表面の除去量が異なっていても、エッチング時間のコントロールあるいはエッチング液Eの選択により任意に領域の除去量を異ならせることができる。これは、金型2の全体をエッチング液Eに浸漬する場合には、各整形対象領域のそれぞれについて、1箇所を除いてマスキングしてエッチングすることを繰り返す必要があり時間と手間が必要であるのに対し、本実施例3では、それぞれ、独立して同時にエッチングおよびその除去量のコントロールが可能であり、加工に要する時間および手間を大幅に削減可能である。
また、実施例3にあっても、上記a)b)c)d)f)g)の効果を得ることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【0055】
例えば、実施例1の金型加工方法を説明するのにあたり、fθレンズを成形する金型の加工を例に挙げて説明したが、金型であれば、レンズの成形用のもの以外の他の金型にも適用することができる。
【0056】
また、エッチング液についても、実施例1で示した各エッチング液E1〜E4以外のエッチング液も使用可能である。
【符号の説明】
【0057】
2 金型
2b 鏡面部(型表面)
4 充填空間形成部材
5 ノズル
20 整形対象領域
40 エッチング液充填空間
41 縦壁部材(縦壁部)
42 シート部材(シート部)
204 充填空間形成部材
220 整形対象領域
241 シート部
242 縦壁部
304a 充填空間形成部材
304b 充填空間形成部材
304c 充填空間形成部材
304d 充填空間形成部材
E エッチング液
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特開2006−159324号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の型表面の整形対象領域を除去して整形する金型加工方法であって、
前記型表面の前記整形対象領域を包囲して、前記整形対象領域がエッチング液に曝されるエッチング液充填空間を形成する充填空間形成部材を、前記型表面に設置する充填空間形成部材設置工程と、
前記エッチング液充填空間にエッチング液を充填し、前記整形対象領域を前記エッチング液に曝してエッチング作用により除去するエッチング工程と、
を備えていることを特徴とする金型加工方法。
【請求項2】
前記型表面は、曲面形状に形成され、
前記充填空間形成部材は、前記型表面の曲面形状に沿って密着可能な可撓性を有していることを特徴とする請求項1に記載の金型加工方法。
【請求項3】
前記充填空間形成部材は、前記エッチング液充填空間の全体に亘って前記エッチング液を略一定の深さで貯留可能に、前記型表面に沿って配置される略一定高さの縦壁部と、この縦壁部に連続して設けられ、前記整形対象領域に略一定間隔で対向して配置されるシート部と、を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金型加工方法。
【請求項4】
前記充填空間形成部材は、前記縦壁部と前記シート部とが別体に形成され、
前記充填空間形成部材設置工程は、前記縦壁部を前記型表面に接着させる縦壁接着工程と、前記整形対象領域を覆った状態で前記縦壁部に前記シート部を接着させるシート接着工程とを備えていることを特徴とする請求項3に記載の金型加工方法。
【請求項5】
前記エッチング液として、単位時間あたりの除去速度が異なる複数種類を備え、
前記エッチング工程では、前記複数種類のエッチング液を、前記型表面の除去量に応じ、相対的に除去量が多い部分には相対的に除去速度が速いものを、相対的に除去量が少ない部分には相対的に除去速度が遅いものを選択的に用いることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型加工方法。
【請求項6】
前記整形対象領域が前記型表面の複数個所に設定され、
前記充填空間形成部材設置工程では、各整形対象領域を、それぞれ前記充填空間形成部材により独立して包囲し、
前記エッチング工程では、各整形対象領域について、それぞれ除去量に応じてエッチング時間を独立して設定することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型加工方法。
【請求項1】
金型の型表面の整形対象領域を除去して整形する金型加工方法であって、
前記型表面の前記整形対象領域を包囲して、前記整形対象領域がエッチング液に曝されるエッチング液充填空間を形成する充填空間形成部材を、前記型表面に設置する充填空間形成部材設置工程と、
前記エッチング液充填空間にエッチング液を充填し、前記整形対象領域を前記エッチング液に曝してエッチング作用により除去するエッチング工程と、
を備えていることを特徴とする金型加工方法。
【請求項2】
前記型表面は、曲面形状に形成され、
前記充填空間形成部材は、前記型表面の曲面形状に沿って密着可能な可撓性を有していることを特徴とする請求項1に記載の金型加工方法。
【請求項3】
前記充填空間形成部材は、前記エッチング液充填空間の全体に亘って前記エッチング液を略一定の深さで貯留可能に、前記型表面に沿って配置される略一定高さの縦壁部と、この縦壁部に連続して設けられ、前記整形対象領域に略一定間隔で対向して配置されるシート部と、を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金型加工方法。
【請求項4】
前記充填空間形成部材は、前記縦壁部と前記シート部とが別体に形成され、
前記充填空間形成部材設置工程は、前記縦壁部を前記型表面に接着させる縦壁接着工程と、前記整形対象領域を覆った状態で前記縦壁部に前記シート部を接着させるシート接着工程とを備えていることを特徴とする請求項3に記載の金型加工方法。
【請求項5】
前記エッチング液として、単位時間あたりの除去速度が異なる複数種類を備え、
前記エッチング工程では、前記複数種類のエッチング液を、前記型表面の除去量に応じ、相対的に除去量が多い部分には相対的に除去速度が速いものを、相対的に除去量が少ない部分には相対的に除去速度が遅いものを選択的に用いることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型加工方法。
【請求項6】
前記整形対象領域が前記型表面の複数個所に設定され、
前記充填空間形成部材設置工程では、各整形対象領域を、それぞれ前記充填空間形成部材により独立して包囲し、
前記エッチング工程では、各整形対象領域について、それぞれ除去量に応じてエッチング時間を独立して設定することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【公開番号】特開2011−241418(P2011−241418A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112806(P2010−112806)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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