説明

金属の表面処理液、表面処理方法、表面処理材料

【課題】環境に有害な成分を含まない処理液で、建材、家電等に使用されている熱延鋼板、冷延鋼板等の鉄材料の表面に、塗装後の耐食性または裸耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることを可能とする鉄材料用表面処理液の提供。
【解決手段】(a)ジルコンフッ化物と、(b)希土類元素のイオンおよび/または希土類元素を含む化合物と、(c)ポリアリルアミンと、(d)アルミニウムイオンと、(e)遊離フッ素イオンとを含有し、前記成分(a)中のジルコニウムの質量濃度Aが、10〜1000ppmであり、前記成分(b)中の前記希土類元素の質量濃度Bと前記質量濃度Aとの比K(=B/A)が、0.1〜30であり、前記成分(d)の質量濃度Dが、50〜250ppmであり、前記成分(e)の質量濃度Eが、0.5〜30ppmである、鉄材料用表面処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄材料の表面に皮膜を形成させるための鉄材料用表面処理液、それを用いた鉄材料の表面処理方法および皮膜付き鉄材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面に塗装後の耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる手法としては、リン酸亜鉛処理法やクロメート処理法が現在一般に用いられている。リン酸亜鉛処理法は、熱延鋼板や冷延鋼板等の鋼や亜鉛めっき鋼板に、耐食性に優れる皮膜を析出させることができる。
【0003】
しかしながら、リン酸亜鉛処理を行う際には、反応の副生成物であるスラッジの発生が避けられない。
【0004】
そこで、近年、金属表面をジルコニウムのような金属を含む薄膜で被覆することによって耐食性を付与し、更に、処理液中に有害成分を含まず、スラッジの発生を抑制した技術が開発されてきている。このような表面処理方法として、以下に示す方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、孤立電子対を持つ窒素原子を含有する化合物および前記化合物とジルコニウム化合物とを含有する金属表面用ノンクロムコーティング剤が記載されている。この金属表面用ノンクロムコーティング剤は、有害成分である6価クロムを含まずに、塗装後の耐食性および密着性に優れた表面処理皮膜を得ることを目的とするものである。
しかしながら、この金属表面用ノンクロムコーティング剤は、対象とされる金属素材がアルミニウム合金に限られており、また、塗布し乾燥させて表面処理皮膜を形成させるため、複雑な形状の表面を有する構造物を処理することは困難である。
【0006】
化成反応によって塗装後の密着性および耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる方法としては、特許文献2に、セリウム、ジルコニウム、リン酸およびフッ素化合物を用いた表面処理剤ならびに処理浴が記載されている。
しかしながら、この方法も、特許文献1に記載の金属表面用ノンクロムコーティング剤と同様に、対象とされる金属材料が素材そのものの耐食性に優れるアルミニウムまたはアルミニウム合金に限定されており、鉄材料(鉄系金属材料)の表面に表面処理皮膜を析出させることは不可能であった。
【0007】
特許文献3には、金属アセチルアセトネートと、水溶性無機チタン化合物または水溶性無機ジルコニウム化合物とからなる表面処理組成物で、塗装後の耐食性および密着性に優れる表面処理皮膜を析出せしめる手法が記載されている。この手法は、適用される金属材料がアルミニウム合金のほか、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛および亜鉛めっき合金にまで拡大されている。
しかしながら、この方法では熱延鋼板、冷延鋼板等の鉄材料の表面に表面処理皮膜を析出させることは不可能であった。
【0008】
特許文献4には、クロムフリー塗布型酸性組成物による金属表面処理方法が記載されている。この金属表面処理方法は、耐食性に優れる皮膜となりうる成分の水溶液を金属表面に塗布した後、水洗を行わずに焼き付け乾燥することによって皮膜を固定化するものである。したがって、皮膜の生成に化学反応を伴わないため、熱延鋼板、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム合金等の金属表面に皮膜処理を施すことが可能である。
しかしながら、特許文献1に記載の金属表面用ノンクロムコーティング剤と同様に、塗布乾燥によって皮膜を生成させるため、複雑な形状の表面を有する構造物に均一な皮膜処理を施すことは困難である。
【0009】
特許文献5には、ジルコニウムイオンおよび/またはチタンイオン、ならびに、フッ素イオンを処理浴に含有した金属化成処理方法が記載されている。この方法は、鉄系、アルミニウムおよび亜鉛の金属材料に適用が可能である。
しかしながら、処理中に化成処理剤中の鉄イオン濃度を酸化剤により制御しなければならないという処理工程上の制限がある。
【0010】
このように、環境に有害な成分を含まない処理液で、かつ、鉄材料を対象として、得られる皮膜が耐食性および密着性に優れ、更に操業性にも優れる表面処理方法は、従来知られていなかった。
【特許文献1】特開2000−204485号公報
【特許文献2】特開平2−25579号公報
【特許文献3】特開2000−199077号公報
【特許文献4】特開平5−195244号公報
【特許文献5】特開2004−43913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、従来技術では困難であった、環境に有害な成分を含まない処理液で、自動車用鋼板等に使用されている熱延鋼板、冷延鋼板等の鉄材料の表面に、塗装後の耐食性または裸耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることを可能とする鉄材料用表面処理液および鉄材料の表面処理方法ならびにそれにより得られる皮膜付き鉄材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
(1)次の成分(a)、成分(b)、成分(c)、成分(d)および成分(e):
(a)ジルコンフッ化物
(b)希土類元素のイオンおよび/または希土類元素を含む化合物
(c)ポリアリルアミン
(d)アルミニウムイオン
(e)遊離フッ素イオン
を含有し、
前記成分(a)中のジルコニウムの質量濃度Aが、10〜1000ppmであり、
前記成分(b)中の前記希土類元素の質量濃度Bと前記質量濃度Aとの比K(=B/A)が、0.1〜30であり、
前記成分(d)の質量濃度Dが、50〜250ppmであり、
前記成分(e)の質量濃度Eが、0.5〜30ppmである、鉄材料用表面処理液。
(2)pH2.0〜5.0である、上記(1)に記載の鉄材料用表面処理液。
(3)鉄材料を、上記(1)または(2)に記載の鉄材料用表面処理液に接触させる処理液接触工程を具備する、鉄材料の表面処理方法。
(4)鉄材料の表面に、上記(3)に記載の鉄材料の表面処理方法によって形成される、ジルコニウムを含有し、かつ、前記ジルコニウムの付着量が20mg/m2以上である表面処理皮膜を有する、皮膜付き鉄材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鉄材料用表面処理液を用いた本発明の鉄材料の表面処理方法によれば、従来技術では困難であった、環境に有害な成分を含まない処理浴で、鉄材料の表面に、塗装後の耐食性または裸耐食性に優れる表面処理皮膜を形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の鉄材料用表面処理液(以下、単に「本発明の処理液」ともいう。)、本発明の鉄材料の表面処理方法(以下、単に「本発明の処理方法」ともいう。)および本発明の皮膜付き鉄材料(以下、単に「本発明の鉄材料」ともいう。)について詳細に説明する。初めに、本発明の処理液について説明する。
【0015】
本発明の処理液による表面処理の対象は、鉄材料である。
鉄材料とは、鉄を含有する金属材料であれば特に限定されず、例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板等の鋼板;鋳鉄;焼結材が挙げられる。
本発明においては、2種以上の金属材料に、同時に表面処理を施すこともできる。この場合、2種以上の金属材料のうち、少なくとも1種が鉄材料であればよく、他の金属材料は、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、これらの合金等であってもよい。また、2種以上の金属材料同士が接触しない状態であっても構わないし、溶接、接着、リベット止め等の接合方法等によって2種以上の金属材料同士が接合しまたは接触した状態でも構わない。
【0016】
本発明の処理液は、成分(a)、成分(b)、成分(c)、成分(d)および成分(e)を含有する。
成分(a)は、ジルコンフッ化物である。ジルコンフッ化物は、ジルコニウムのフルオロ錯体であり、本発明の処理液中でZrF62-のようにイオンとなっていてもよく、電離していなくてもよい。
本発明の処理液中に成分(a)を含有させるためには、ジルコンフッ化物を含む化合物を用いてもよく、液中でジルコニウム化合物と他の化合物等により、ジルコンフッ化物を形成させてもよい。
ジルコンフッ化物を含む化合物としては、例えば、H2ZrF6(ヘキサフルオロジルコン酸)、H2ZrF6の塩が挙げられる。H2ZrF6の塩としては、例えば、K2ZrF6、Na2ZrF6、(NH42ZrF6が挙げられる。これらは2種以上を併用することができる。
ジルコンフッ化物を含まないジルコニウム化合物としては、例えば、ZrCl4、ZrOCl2、Zr(OH)2Cl2、Zr(OH)3Cl、Zr(SO42、ZrOSO4、Zr(NO34、ZrO(NO32、Zr(OH)4、H2(Zr(CO32(OH)2)、H2(Zr(CO32(OH)2)の塩、H2Zr(OH)2(SO42、H2Zr(OH)2(SO42の塩、ZrO2、ZrOBr2、ZrF4が挙げられる。これらは2種以上を併用することができる。
他の化合物としては、HF(フッ化水素酸)、H2TiF6、H2TiF6の塩、TiF4、H2HfF6、H2HfF6の塩、HfF4、H2SiF6、HBF4、HBF4の塩、NaHF2、KHF2、NH4HF2、NaF、KF、NH4F等のフッ素含有化合物が挙げられる。これらは2種以上を併用することができる。
【0017】
成分(a)中のジルコニウムは、優れた耐酸性および耐アルカリ性を有している物質であり、表面処理皮膜の主成分となる。
【0018】
成分(b)は、希土類元素のイオンおよび/または希土類元素を含む化合物である。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)およびランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLu)の各元素である。
希土類元素のイオンは、2種以上を併用することができる。
希土類元素を含む化合物としては、例えば、希土類元素の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物が挙げられる。
具体的には、例えば、塩化スカンジウム、塩化イットリウム、塩化ランタン、塩化セリウム、塩化プラセオジム、塩化ネオジム、塩化プロメチウム、塩化サマリウム、塩化ユウロピウム、塩化ガドリニウム、塩化テルビウム、塩化ジスプロシウム、塩化ホルミウム、塩化エルビウム、塩化ツリウム、塩化イッテルビウム、塩化ルテチウム、硫酸スカンジウム、硫酸イットリウム、硫酸ランタン、硫酸セリウム、硫酸プラセオジム、硫酸ネオジム、硫酸プロメチウム、硫酸サマリウム、硫酸ユウロピウム、硫酸ガドリニウム、硫酸テルビウム、硫酸ジスプロシウム、硫酸ホルミウム、硫酸エルビウム、硫酸ツリウム、硫酸イッテルビウム、硫酸ルテチウム、硝酸スカンジウム、硝酸イットリウム、硝酸ランタン、硝酸セリウム、硝酸プラセオジム、硝酸ネオジム、硝酸プロメチウム、硝酸サマリウム、硝酸ユウロピウム、硝酸ガドリニウム、硝酸テルビウム、硝酸ジスプロシウム、硝酸ホルミウム、硝酸エルビウム、硝酸ツリウム、硝酸イッテルビウム、硝酸ルテチウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化プロメチウム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウムが挙げられる。
希土類元素を含む化合物は、2種以上を併用することができる。
【0019】
成分(b)は、成分(a)の皮膜の析出を促進する効果がある。更に、成分(b)は皮膜中に含有させることも可能であり、これにより塗装後の耐食性および裸耐食性が向上することを期待することができる。
【0020】
成分(c)は、ポリアリルアミンである。
ポリアリルアミンは、アミノ基がフリー型であってもよく、塩型(例えば、塩酸塩)であっていてもよい。
ポリアリルアミンは、重量平均分子量が500〜10000であるのが好ましく、1000〜6000であるのがより好ましく、2000〜4000であるのが更に好ましい。
ポリアリルアミンとしては、例えば、市販されているものを用いることができる。具体的には、例えば、日東紡績社製のPAAシリーズが挙げられる。現在市販されているPAAシリーズの中では、重量平均分子量3000のPAA−03が好適に用いられる。
ポリアリルアミンは、2種以上を併用することができる。
【0021】
ポリアリルアミンの作用は、表面処理皮膜層の析出時にポリアリルアミンが析出することによって、皮膜形成反応を抑制するとともに得られる皮膜を改質し、更に、析出したポリアリルアミン自身によっても耐食性が向上するものであると考えられる。
【0022】
成分(d)は、アルミニウムイオンである。
本発明の処理液中に成分(d)を含有させるためには、酸化物、水酸化物、フッ化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、有機酸塩等のアルミニウム化合物を用いることができる。具体的には、例えば、Al23、Al(OH)3、AlF3、AlCl3、Al2(SO43、Al(NO33、2Al23・B23・3H2Oが挙げられる。アルミニウム化合物は、2種以上を併用することができる。
【0023】
成分(d)は、表面処理皮膜層の析出時にアルミニウムが析出することにより、耐食性を向上させる。また、処理液中の成分(e)遊離フッ素イオンと錯フッ素化合物を形成し、皮膜形成反応を促進する働きも示す。したがって、成分(d)を含有することによって、優れた耐食性が得られるだけでなく、遊離フッ素イオン濃度の制御も可能となる。
【0024】
成分(e)は、遊離フッ素イオンである。遊離フッ素イオンは、遊離しているフッ化物イオン(F-)である。
本発明の処理液中に成分(e)を含有させるためには、例えば、HF、H2HfF6、HfF4、H2TiF6、TiF4、H2ZrF6、ZrF4、HBF4、HBF4の塩、NaHF2、KHF2、NH4HF2、NaF、KF、NH4F等のフッ素化合物を用いることができる。これらは2種以上を併用することができる。
【0025】
本発明の処理液においては、上記各成分が水に溶解し、または分散されている。
【0026】
本発明の処理液においては、上記成分(a)中のジルコニウムの質量濃度Aが、10〜1000ppmである。上記範囲であると、十分な量の皮膜が実用的な処理時間で析出し、かつ、経済的に不利となることがない。
【0027】
本発明の処理液においては、上記成分(b)中の希土類元素の質量濃度Bと質量濃度Aとの比K(=B/A)が、0.1〜30である。上記範囲であると、成分(b)による成分(a)の皮膜の析出の促進効果が十分となり、皮膜付着量が十分となるため、耐食性が優れたものになる。また、上記範囲であると、鉄材料の表面の成分(a)の反応起点自体が十分に多くなり、成分(a)の皮膜付着量が十分となるため、耐食性および密着性が優れたものになる。
【0028】
本発明の処理液においては、上記成分(c)の質量濃度Cが、5〜200ppmであるのが好ましく、20〜70ppmであるのがより好ましい。上記範囲であると、成分(c)の析出量が適した範囲となり、耐食性および密着性が優れたものになる。
【0029】
本発明の処理液においては、上記成分(d)の質量濃度Dが、50〜250ppmである。上記範囲であると、表面処理皮膜層の析出時におけるアルミニウムの析出量が適量となり、塩温水試験および複合サイクル試験のいずれにおいても、優れた耐食性を示す。一方、質量濃度Dが50ppmより低い範囲では、表面処理皮膜層の析出時におけるアルミニウムの析出量が適量よりも少なくなるため、複合サイクル試験における耐食性が低下することがある。また、質量濃度Dが250ppmを超えた範囲では、表面処理皮膜層の析出時におけるアルミニウムの析出量が適量よりも多くなるため塩温水試験における耐食性が低下することがある。
【0030】
本発明の処理液においては、上記成分(e)の質量濃度Eが、0.5〜30ppmである。上記範囲であると、本発明の処理液の安定性が優れたものとなり、連続操業上の支障が生じにくい。また、上記範囲であると、鉄材料の表面のエッチング反応が過剰となって、耐食性を得るのに十分な皮膜量を析出させることが難しくなるということがない。
上記成分(e)の質量濃度Eは、遊離フッ素イオン濃度であり、市販のイオン電極を用いて測定することができる。
【0031】
本発明の処理液は、pH2.0〜5.0であるのが好ましい。
本発明の処理液は、鉄材料のエッチングを伴う化成反応により皮膜を析出させるのが好ましい。上記範囲であると、一般的に皮膜析出反応が起こりやすい。
【0032】
本発明の処理液のpHを調整する必要がある場合、用いられる薬剤は特に限定されない。例えば、塩酸、硫酸、ホウ酸、有機酸等の酸;水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アルカリ金属塩、アンモニア、アンモニウム塩、アミン類等のアルカリが挙げられる。
【0033】
本発明の処理液には、鉄材料のエッチング反応により溶出した鉄材料に含まれる金属成分、水道水および工業用水に含まれる金属成分および化合物等が混入してもよい。成分(b)が成分(a)の皮膜の析出を促進する効果により、成分(a)の皮膜の析出が他の金属元素や化合物に大きく影響されないためである。
【0034】
本発明の処理液は、硝酸および/または硝酸化合物を含有することができる。
硝酸化合物としては、例えば、金属硝酸塩が挙げられる。具体的には、例えば、硝酸鉄、硝酸マンガン、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸銀、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウムが挙げられる。これらは2種以上を併用することができる。
硝酸および/または硝酸化合物は、本発明の処理液中における成分(a)および成分(b)の溶解度を高めることによって、処理液の安定性を保つ働きを奏する。また、硝酸および/または硝酸化合物は、成分(b)ほどではないが、成分(a)の皮膜の析出を補助する効果も奏する。
【0035】
つぎに、本発明の処理方法について説明する。
本発明の処理方法は、鉄材料を、本発明の処理液に接触させる処理液接触工程を具備する、鉄材料の表面処理方法である。
鉄材料を本発明の処理液に接触させると、鉄材料の表面にジルコニウムの酸化物および/または水酸化物からなる皮膜が化成反応により析出し、密着性および耐食性に優れた表面処理皮膜層が形成される。
成分(a)の皮膜に含まれるジルコニウムの水酸化物を純粋な水酸化物として得ることは化学的に困難であり、一般には、ジルコニウムの酸化物に水和水が付いた形態も水酸化物の範疇に入れている。したがって、ジルコニウムの水酸化物は熱を加えることによって、最終的には酸化物となる。本発明における表面処理皮膜層の構造は、表面処理を施した後に常温または低温で乾燥させた場合は、酸化物と水酸化物が混在した状態、更に、表面処理後に高温で乾燥した場合は、酸化物のみの状態または酸化物が多い状態になっていると考えられる。
【0036】
鉄材料を本発明の処理液に接触させる方法は、特に限定されず、例えば、スプレー処理、浸せき処理、流しかけ処理が挙げられる。これらは、2種以上を併用することができる(例えば、浸せき処理およびスプレー処理の併用)。
また、浸せき処理における処理液槽内のかくはんの有無、スプレー処理におけるスプレー圧、スプレーノズルの種類等は、特に限定されない。
【0037】
本発明の処理方法においては、本発明の処理液の使用条件は、特に限定されない。
処理温度は、25〜70℃であるのが好ましく、35〜50℃であるのがより好ましい。処理温度が70℃以下であると、無駄なエネルギーの使用を抑制することができるため、経済的な観点から好ましい。
処理時間は、適宜設定することができる。
【0038】
鉄材料は、脱脂処理により清浄化されているのが好ましい。脱脂処理の方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0039】
以上、詳細に説明したように、本発明は、鉄材料の表面にジルコニウムの酸化物および/または水酸化物からなる皮膜層、ならびに、ジルコニウムの皮膜層と成分(b)の金属元素の酸化物および/または水酸化物からなる皮膜層が混合した皮膜層のいずれかを設けることで、鉄材料の耐食性を飛躍的に高めることを可能としたものである。ジルコニウムの酸化物および/または水酸化物からなる皮膜層は、酸やアルカリに侵されにくく、化学的に安定な性質を有している。
【0040】
実際の鉄材料の塗膜下腐食環境では、鉄材料の溶出が起こるアノード部ではpHの低下が、還元反応が起こるカソード部ではpHの上昇が起こる。したがって、耐酸性および耐アルカリ性に劣る表面処理皮膜は、腐食環境下で溶解しその効果が失われていく。
本発明により形成されるジルコニウムの酸化物および/または水酸化物からなる皮膜は、酸やアルカリに侵されにくく、かつ、本発明によれば、鉄材料の表面に薄く均一な表面処理皮膜を形成させることができるため、腐食環境下においても優れた効果が持続する。
【0041】
また、皮膜に含まれるジルコニウムの酸化物および/または水酸化物は、ジルコニウムと酸素とを介したネットワーク構造を作るため、極めて良好なバリヤー皮膜となる。鉄材料の腐食は、使用される環境によっても異なるが、一般には水と酸素が存在する状況での酸素要求型腐食であり、その腐食スピードは塩化物等の成分の存在によって促進される。
本発明により形成される皮膜層は、水、酸素および腐食促進成分に対するバリヤー効果を有するため、優れた耐食性を発揮することができる。
【0042】
上述したバリヤー効果を利用して、鉄材料の耐食性を高めるには、表面処理皮膜層の付着量が、ジルコニウム換算で、20mg/m2以上であるのが好ましく、30mg/m2以上であるのがより好ましく、40mg/m2以上であるのが更に好ましい。
即ち、本発明は、鉄材料の表面に、本発明の処理方法によって形成される、ジルコニウムを含有し、かつ、前記ジルコニウムの付着量が20mg/m2以上である表面処理皮膜を有する、皮膜付き鉄材料を提供する。
【0043】
一方、付着量が大きすぎると、表面処理皮膜層にクラックが発生しやすくなり、均一な皮膜を得る作業が困難となる。したがって、付着量は、ジルコニウム換算で、1g/m2以下であるのが好ましく、800mg/m2以下であるのがより好ましい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。即ち、実施例で使用した被処理素材、脱脂剤および塗料は市販されている材料の中から任意に選定したものであり、本発明の用途を限定するものではない。
【0045】
1.皮膜付き鉄材料の作製
以下の被処理材に、表面処理液を用いて以下の処理工程を行って、皮膜付き鉄材料を得た。
〔被処理材〕
被処理材の略号と内訳を以下に示す。
・SPC(冷延鋼板:JIS−G−3141)
・ハイテン(高張力鋼板:JIS−G−3135)
【0046】
〔処理工程〕
実施例1〜5および比較例1〜6においては、以下の処理工程を行った。
アルカリ脱脂→水洗→表面処理→水洗→純水洗→乾燥
比較例7においては、以下の処理工程を行った。
アルカリ脱脂→水洗→表面調整→リン酸亜鉛処理→水洗→純水洗→乾燥
【0047】
アルカリ脱脂は、脱脂剤1(ファインクリーナー(登録商標)L2032A、日本パーカライジング(株)製)を濃度2質量%、脱脂剤2(ファインクリーナー(登録商標)L2032B、日本パーカライジング(株)製)を濃度1.4質量%となるように水道水で希釈し、40℃で120秒間、被処理材にスプレーすることにより行った。
【0048】
水洗および純水洗は、それぞれ、室温で30秒間、被処理板に水または純水をスプレーすることにより行った。
【0049】
実施例1〜5および比較例1〜6における表面処理は、用いた表面処理液に応じて、以下に示す方法で行った。
【0050】
<実施例1>
ヘキサフルオロジルコン酸水溶液に硝酸ネオジム・六水和物、ポリアリルアミン(重量平均分子量1000)および硫酸アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、ジルコニウムの質量濃度A(以下、単に「質量濃度A」という。)を500ppm、希土類元素の質量濃度B(以下、単に「質量濃度B」という。)を250ppm(質量濃度Bと質量濃度Aとの比K(=B/A。以下、単に「比K」という。)0.500)、ポリアリルアミンの質量濃度C(以下、単に「質量濃度C」という。)を30ppm、アルミニウムイオンの質量濃度D(以下、単に「質量濃度D」という。)を150ppmとした。その後、フッ化アンモニウムおよび水酸化ナトリウムを極少量添加して遊離フッ素イオンの質量濃度E(フッ素イオンメーター(IM−55G、東亜電波工業社製)により測定。以下、単に「質量濃度E」という。)が8ppm、pH3.6である表面処理液を得た。
表面処理は、40℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を120秒間浸せきさせることにより行った。
【0051】
<実施例2>
硝酸ジルコニウム水溶液に硝酸サマリウム・六水和物、ポリアリルアミン(重量平均分子量2000)および水酸化アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを75ppm、質量濃度Bを375ppm(比K5.0)、質量濃度Cを70ppm、質量濃度Dを100ppmとした。その後、フッ化水素酸および水酸化リチウムを極少量添加して質量濃度Eが10ppm、pH3.8である表面処理液を得た。
表面処理は、35℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を120秒間浸せきさせることにより行った。
【0052】
<実施例3>
硝酸ジルコニウム水溶液に硝酸プラセオジム・六水和物、ポリアリルアミン(重量平均分子量4000)および臭酸アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを10ppm、質量濃度Bを280ppm(比K28)、質量濃度Cを60ppm、質量濃度Dを50ppmとした。その後、フッ化アンモニウムおよび水酸化リチウムを極少量添加して質量濃度Eが28ppm、pH4.4である表面処理液を得た。
表面処理は、45℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を90秒間浸せきさせることにより行った。
【0053】
<実施例4>
ヘキサフルオロジルコン酸水溶液に硝酸セリウム・六水和物、ポリアリルアミン(重量平均分子量6000)および硝酸アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを150ppm、質量濃度Bを300ppm(比K2.00)、質量濃度Cを20ppm、質量濃度Dを50ppmとした。その後、フッ化水素酸およびアンモニアを極少量添加して質量濃度Eが6ppm、pH3.6である表面処理液を得た。
表面処理は、50℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を90秒間浸せきさせることにより行った。
【0054】
<実施例5>
硝酸ジルコニウム水溶液に硝酸ガドリニウム・六水和物、ポリアリルアミン(重量平均分子量3000)および硫酸アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを950ppm、質量濃度Bを95ppm(比K0.10)、質量濃度Cを20ppm、質量濃度Dを250ppmとした。その後、フッ化水素酸および水酸化ナトリウムを極少量添加して質量濃度Eが0.8ppm、pH2.6である表面処理液を得た。
表面処理は、40℃に加温した上記表面処理液を、被処理材に60秒間スプレーすることにより行った。
【0055】
<比較例1>
硝酸ジルコニウム水溶液に硝酸ホルミウム・五水和物およびポリアリルアミン(重量平均分子量2000)を添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを100ppm、質量濃度Bを0.5ppm(比K0.005)、質量濃度Cを50ppmとした。その後、フッ化アンモニウムおよび水酸化ナトリウムを極少量添加して質量濃度Eが60ppm、pH3.2である表面処理液を得た。
表面処理は、40℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を120秒間浸せきさせることにより行った。
【0056】
<比較例2>
硝酸ジルコニウム水溶液に硝酸プラセオジム・六水和物およびポリアリルアミン(重量平均分子量4000)およびシュウ酸アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを10ppm、質量濃度Bを0.05ppm(比K0.005)、質量濃度Cを60ppm、質量濃度Dを50ppmとした。その後、フッ化アンモニウムおよび水酸化リチウムを極少量添加して質量濃度Eが30ppm、pH4.4である表面処理液を得た。
表面処理は、45℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を90秒間浸せきさせることにより行った。
【0057】
<比較例3>
ヘキサフルオロジルコン酸水溶液に酸化ユウロピウム・六水和物、ポリアリルアミン(重量平均分子量3000)および硝酸アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを2ppm、質量濃度Bを100ppm(比K50)、質量濃度Cを40ppm、質量濃度Dを60ppmとした。その後、フッ化アンモニウムおよび水酸化カリウムを極少量添加して質量濃度Eが20ppm、pH3.0である表面処理液を得た。
表面処理は、45℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を120秒間浸せきさせることにより行った。
【0058】
<比較例4>
硝酸ジルコニウム水溶液に硫酸セリウム・六水和物および水酸化アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを200ppm、質量濃度Bを200ppm(比K1.00)、質量濃度Dを200ppmとした。その後、フッ化水素酸およびアンモニアを極少量添加して質量濃度Eが10ppm、pH3.6である表面処理液を得た。
表面処理は、50℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を90秒間浸せきさせることにより行った。
【0059】
<比較例5>
ヘキサフルオロジルコン酸水溶液に硝酸セリウム・六水和物およびポリアリルアミン(重量平均分子量6000)を添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを150ppm、質量濃度Bを300ppm(比K2.00)、質量濃度Cを20ppmとした。その後、フッ化水素酸およびアンモニアを極少量添加して質量濃度Eが6ppm、pH3.6である表面処理液を得た。
表面処理は、50℃に加温した上記表面処理液に、被処理材を90秒間浸せきさせることにより行った。
【0060】
<比較例6>
硝酸ジルコニウム水溶液に硫酸セリウム・六水和物、ポリアリルアミン(重量平均分子量6000)および硝酸アルミニウムを添加し、その後、純水で希釈して、質量濃度Aを150ppm、質量濃度Bを300ppm(比K2.00)、質量濃度Cを20ppm、質量濃度Dを1000ppmとした。その後、フッ化水素酸およびアンモニアを極少量添加して質量濃度Eが6ppm、pH3.6である表面処理液を得た。
表面処理は、50℃に加温した上記表面処理液を、被処理材に90秒間スプレーすることにより行った。
【0061】
比較例7における表面調整およびリン酸亜鉛処理は、以下に示す方法で行った。
【0062】
<比較例7>
表面調整は、被処理材に、表面調整処理剤(プレパレン(登録商標)ZN、日本パーカライジング(株)製)を濃度0.1質量%となるように水道水で希釈した液を室温で30秒間スプレーで噴霧することにより行った。
リン酸亜鉛処理は、リン酸亜鉛系表面処理剤(パルボンド(登録商標)L3020、日本パーカライジング(株)製)を4.8質量%となるように水道水で希釈し、更に、フッ化水素ナトリウム試薬をフッ素の質量濃度が200ppmとなるように添加し、その後、全酸度および遊離酸度をカタログ値の中心に調整して得た43℃のリン酸亜鉛化成処理液に浸せきさせて、リン酸亜鉛皮膜を析出させることにより行った。
【0063】
2.表面処理皮膜の評価および付着量の測定
上記で得られた皮膜付き鉄材料における表面処理皮膜の外観を目視で評価した。
また、実施例1〜5および比較例1〜6においては、表面処理皮膜におけるジルコニウム付着量を蛍光X線分析装置(システム3270、理学電気工業(株)製)を用いて測定した。比較例7においては、リン酸亜鉛付着量を蛍光X線分析装置(システム3270、理学電気工業(株)製)により測定した。
【0064】
3.塗装性能の評価
皮膜付き鉄材料の塗装性能を評価するため、以下に示す工程で塗装を行い、電着塗装板を得た。
カチオン電着塗装→純水洗→焼き付け
【0065】
カチオン電着塗装は、エポキシ系カチオン電着塗料(関西ペイント(株)製)を用い、電圧200Vで膜厚が20μmとなるように行った。
焼き付けは、175℃で20分間行った。
【0066】
電着塗装板を用いて、以下のようにして塗装性能の評価を行った。なお、カチオン電着塗装完了時点での塗膜を「電着塗膜」という。
【0067】
(1)SDT1:塩温水試験における片側最大はく離幅(電着塗膜)
鋭利なカッターでクロスカットを入れた電着塗装板を、50℃の5質量%NaCl水溶液に240時間浸せきさせた。ついで、水道水で水洗し、更に、常温で乾燥させた。
その後、電着塗膜のクロスカット部のセロテープはく離試験を行い、クロスカットからの片側最大はく離幅を測定し、以下に示す基準に従って評価した。
【0068】
◎:片側最大はく離幅が1.0mm未満
○:片側最大はく離幅が1.0mm以上2.5mm未満
△:片側最大はく離幅が2.5mm以上3.0mm未満
×:片側最大はく離幅が3.0mm以上
【0069】
(2)SDT2:塩温水試験における一般面のブリスター総面積(電着塗膜)
電着塗装板を、50℃の5質量%NaCl水溶液に240時間浸せきさせた。ついで、水道水で水洗し、更に、常温で乾燥させた。
その後、電着塗膜の一般面に発生したブリスターの総面積を測定し、以下に示す基準に従って評価した。
【0070】
◎:ブリスター総面積が0%
○:ブリスター総面積が0%を超え0.5%未満
△:ブリスター総面積が0.5%以上1.0%未満
×:ブリスター総面積が1.0%以上
【0071】
(3)CCT:複合サイクル試験(電着塗膜)
鋭利なカッターでクロスカットを入れた電着塗装板を複合サイクル試験機に入れ、「湿潤(40℃、95%RH、2時間)→塩水噴霧(5質量%NaCl水溶液、35℃、2時間)→乾燥(60℃、1時間)→湿潤(50℃、95%RH、6時間)→乾燥(60℃、2時間)→低温(−20℃、3時間)」というサイクルを50サイクル施した。50サイクル後のクロスカットからの片側最大膨れ幅を測定し、以下に示す基準に従って評価した。
【0072】
◎:片側最大膨れ幅が3.0mm未満
○:片側最大膨れ幅が3.0mm以上3.5mm未満
△:片側最大膨れ幅が3.5mm以上4.0mm未満
×:片側最大膨れ幅が4.0mm以上
【0073】
第1表および第2表に、表面処理皮膜の外観および付着量の測定の結果を示す。
実施例1〜5においては、SPCおよびハイテンのいずれに対しても均一な皮膜を形成させることができ、かつ、目標とした皮膜付着量を得ることができた。
これに対して、比Kが小さすぎ、かつ、質量濃度Eが高すぎる場合(比較例1)および比Kが小さすぎる場合(比較例2)は、いずれもSPCおよびハイテンのいずれに対しても十分な量の皮膜を析出させることができなかった。これは、成分(B)による成分(A)の析出を促進する効果が十分に得られなかったためであると考えられる。
また、比Kが大きすぎ、かつ、質量濃度Aが低すぎる場合(比較例3)も、SPCおよびハイテンのいずれに対しても十分な量の皮膜を析出させることができなかった。
【0074】
第3表に、SDT1試験結果(片側最大はく離幅)を示す。
実施例1〜5においては、SPCおよびハイテンのいずれに対しても極めて優れた耐食性を示し、現在、カチオン電着塗装下地として一般に用いられているリン酸亜鉛処理を行った場合(比較例7)よりも優れていた。
これに対して、皮膜の量が十分でなかった場合(比較例1〜3)は、耐食性に劣っていた。
成分(C)を用いなかった場合(比較例4)および成分(D)を用いなかった場合(比較例5)は、耐食性にやや劣っていた。
【0075】
第4表に、SDT2試験結果(ブリスター総面積)を示す。
実施例1〜5においては、SPCおよびハイテンのいずれに対しても極めて優れた耐食性を示し、リン酸亜鉛処理を行った場合(比較例7)と同等であった。
これに対して、皮膜の量が十分でなかった場合(比較例1〜3)、成分(C)を用いなかった場合(比較例4)および質量濃度Eが高すぎた場合(比較例6)は、耐食性に劣っていた。
成分(D)を用いなかった場合(比較例5)は、優れた耐食性を示したが、実施例1〜5よりも劣っていた。
【0076】
第5表に、CCT試験結果(片側最大膨れ幅)を示す。
実施例1〜5においては、SPCおよびハイテンのいずれに対しても極めて優れた耐食性を示し、リン酸亜鉛処理を行った場合(比較例7)よりも優れていた。
これに対して、皮膜の量が十分でなかった場合(比較例1〜3)および成分(D)を用いなかった場合(比較例5)は、耐食性に劣っていた。
成分(C)を用いなかった場合(比較例4)は、耐食性にやや劣っていた。
【0077】
以上の結果から、本発明によれば、耐食性に優れる表面処理皮膜を形成させることができることが分かる。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(a)、成分(b)、成分(c)、成分(d)および成分(e):
(a)ジルコンフッ化物
(b)希土類元素のイオンおよび/または希土類元素を含む化合物
(c)ポリアリルアミン
(d)アルミニウムイオン
(e)遊離フッ素イオン
を含有し、
前記成分(a)中のジルコニウムの質量濃度Aが、10〜1000ppmであり、
前記成分(b)中の前記希土類元素の質量濃度Bと前記質量濃度Aとの比K(=B/A)が、0.1〜30であり、
前記成分(d)の質量濃度Dが、50〜250ppmであり、
前記成分(e)の質量濃度Eが、0.5〜30ppmである、鉄材料用表面処理液。
【請求項2】
pH2.0〜5.0である、請求項1に記載の鉄材料用表面処理液。
【請求項3】
鉄材料を、請求項1または2に記載の鉄材料用表面処理液に接触させる処理液接触工程を具備する、鉄材料の表面処理方法。
【請求項4】
鉄材料の表面に、請求項3に記載の鉄材料の表面処理方法によって形成される、ジルコニウムを含有し、かつ、前記ジルコニウムの付着量が20mg/m2以上である表面処理皮膜を有する、皮膜付き鉄材料。

【公開番号】特開2007−327090(P2007−327090A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158306(P2006−158306)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】