説明

金属フタロシアニン及びポリカチオンポリマーを含有するフィルター

1以上の金属フタロシアニン、例えば、銅フタロシアニン又は鉄フタロシアニンを含有し、さらに、1以上のポリカチオンポリマーを含有するタバコ煙フィルターを提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
タバコは、喫煙者に対して、かなりの病的状態及び死を生じさせる変異誘発性及び発がん性化合物を含有することは広く知られている。このような物質の例には、多環式芳香族炭化水素(PAH)及びニトロソアミンが含まれる。
【0002】
多環式芳香族炭化水素は、DNA分子内に介在されることによって毒性を発揮すると思われる。ニトロソアミンは、潜在的な発がん物質である求電子性のアルキル化剤である。ニトロソアミンは、新鮮な又は若いタバコには存在せず、燃焼の間にも生成されない。しかし、ニトロソアミンは、タバコの加工及び貯蔵の間における遊離の硝酸塩が関与する反応によって、又はタバコ煙中に存在する2級アミンの吸引後の代謝活性化によって生成される。
【0003】
喫煙者に到達する毒性及び変異誘発性化合物の量を低減する試みには、燃焼するタバコと喫煙者との間に配置されるタバコ煙フィルターの使用が含まれる。従来のフィルターは、活性炭を含む又は含まない酢酸セルロース製である。しかし、これら従来のフィルターは、喫煙者に到達する毒性及び変異誘発性化合物の量を低減させることに関して、部分的にのみ有効である。さらに、従来のフィルターは、不都合なことには、香り化合物をも除去してしまい、このため、喫煙者によって許容されることが少ない。
【0004】
さらに、タバコの喫煙者は、高ニコチン含量のタバコ製品を使用する際よりも多くの量の煙を吸引することによって、低ニコチン含量のタバコ製品から同じ量のニコチンを得ようとするため、ニコチン量が徐々に増加する傾向にある。このため、タバコの喫煙者は、高ニコチン含量のタバコ製品を使用する場合よりも、低ニコチン含量のタバコ製品を使用する場合のほうが、潜在的に、より多量の発がん物質に曝されることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、タバコ煙から毒性及び変異誘発性化合物を実質的に除去する喫煙可能なデバイス用の改良されたフィルターに関する要求がある。さらに、タバコ煙から毒性及び変異誘発性化合物を実質的に除去することができ、しかも、香り化合物を通過させることができる改良されたフィルターに関する要求がある。加えて、ニコチン/変異誘発性化合物の比を増大させる改良されたフィルターに関する要求がある。このような改良されたフィルターは、好ましくは、製造が簡単かつ安価であり、使い勝手の良いものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1具体例によれば、1以上の金属フタロシアニンを含有し、さらに、1以上のポリカチオンポリマーを含有することを特徴とするタバコ煙フィルターが提供される。1具体例では、1以上の金属フタロシアニンは銅フタロシアニンである。好適な具体例では、銅フタロシアニンは、染料C.I. Reactive Blue 21及び染料ORCO Turquoise Blue GGXでなる群から選ばれるものである。好適な具体例では、1以上の金属フタロシアニンは、鉄フタロシアニン、例えば、染料C.I. Reactive Blue 21の鉄類似体である。
【0007】
他の具体例では、1以上のポリカチオンポリマーは、1以上の1級又は2級アミノ基を含有するカチオン部分を有する。好適な具体例では、1以上のポリカチオンポリマーは、ポリ(プロピレンイミン)、ポリビニルアミン、ポリ(2-エチルアジリジン)、ポリ(2,2-ジメチルアジリジン)及びポリ(2,2-ジメチル-3-n-プロピルアジリジン)及びこれらの組合せでなる群から選ばれるものである。特に好適な具体例では、1以上のポリカチオンポリマーはポリエチレンイミン(PEI)である。
【0008】
好適な具体例では、1以上のポリカチオンポリマーは、約1000ダルトンより大の分子量を有するものである。他の好適な具体例では、1以上のポリカチオンポリマーは、分子量約1000〜100,000ダルトンを有するものである。好適な具体例では、フィルターは、さらに、酢酸セルロースを実質的に含まないセルロースを含有する。
【0009】
好適な1具体例では、1以上の金属フタロシアニンが銅フタロシアニンであり、1以上のポリカチオンポリマーがポリエチレンイミンである。他の好適な具体例では、1以上の金属フタロシアニンが鉄フタロシアニンであり、1以上のポリカチオンポリマーがポリエチレンイミンである。
【0010】
1具体例では、本発明のタバコ煙フィルターは、さらに、ポリカチオンポリマー以外に、1以上のpH変性フィルター添加剤を含有する。他の具体例では、1以上のpH変性フィルター添加剤は、無機塩、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム又は陽イオン交換樹脂である。他の具体例では、タバコ煙フィルターは、さらに、キチンを含有する。
【0011】
1具体例では、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーは、フィルター全体に、実質的に均一に分散される。他の具体例では、タバコ煙フィルターは、第1セグメント及び第2セグメントを包含しており、第1セグメントは、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーを含有するものであり、第2セグメントは、金属フタロシアニン及びポリカチオンポリマーの両方を実質的に含有しないものである。他の具体例では、タバコ煙フィルターは、第1セグメント、第2セグメント及び第3セグメントを包含しており、第1セグメントは、1以上の金属フタロシアニンを含有するが、金属フタロシアニンを実質的に含有しないものであり、第2セグメントは、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーの両方を含有するものであり、第3セグメントは、1以上のポリカチオンポリマーを含有するが、金属フタロシアニンを実質的に含有しないものである。
【0012】
本発明の他の具体例によれば、本発明によるタバコ煙フィルターを包含する喫煙可能なデバイスが提供される。本発明の他の具体例によれば、タバコ煙を濾過する方法であって、初めに、本発明による喫煙可能なデバイスを準備し、一体の刻みタバコに点火して、煙がタバコ内を通過して、フィルターに入るようにし、及び煙をフィルター内を通過させ、これによって、煙を濾過することを特徴とするタバコ煙の濾過法が提供される。
【0013】
本発明の他の具体例によれば、喫煙可能なデバイスを製造する方法であって、初めに、本発明によるタバコ煙フィルターを準備し、フィルターを一体の刻みタバコに装着することを特徴とする喫煙可能なデバイスの製法が提供される。1具体例では、該製法は、さらに、1以上のポリカチオンポリマーの溶液を、タバコ煙フィルターを構成する材料の上に噴霧することを含み、該溶液におけるポリカチオンポリマーの濃度は約0.5〜50%である。他の具体例では、製法は、さらに、1以上のポリカチオンポリマーの溶液を、タバコ煙フィルターを構成する材料の上に噴霧することを含み、該溶液におけるポリカチオンポリマーの濃度は約1〜10%である。他の具体例では、タバコ煙フィルターは、さらに、パルプ製のペーパーを含有するものであり、前記製法は、さらに、パルプを製紙用スクリーンに載置する以前に、パルプにポリカチオンポリマーを添加することを包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の1具体例によれば、タバコ煙用のフィルターが提供される。フィルターは、紙巻タバコ又は葉巻タバコ又は刻みタバコを含有する他の喫煙可能なデバイスと組み合わせて提供される。好ましくは、フィルターは、タバコから生じた煙が、喫煙者に達する前にフィルターを通過するような配置で喫煙可能なデバイスの一端に固着される。フィルターは、独立して、紙巻タバコ、葉巻タバコ、パイプ、又は他の喫煙可能なデバイスへの取付けに好適な形で提供される。
【0015】
本発明によるフィルターは、紙巻タバコの煙から変異誘発性物質及び発がん物質のかなりの部分を有利に除去する。さらに、フィルターは、満足できる又は改良されたタバコの香り特性、ニコチン含量特性、及び吸引特性を保持している。フィルターは使用者に受け入れられるようにデザインされており、既製の紙巻タバコの端部に付加されるようにデザインされた市販のフィルターのような、扱い難い及び見栄えのしないものではない。さらに、本発明によるフィルターは、安価、安全及び有効な化合物で製造され、標準的な紙巻タバコ製造機械のわずかな変更によって製造される。
【0016】
本発明の1具体例によれば、フィルターは多孔性基材を含有する。多孔性基材は、喫煙可能なデバイス用のフィルターでの使用に適する各種の無毒性物質(本発明の具体例による他の物質との配合に適する)である。このような多孔性基材としては、この開示を参照することにより当業者によって理解されるように、セルロース繊維、例えば、酢酸セルロース、綿、木材パルプ、及びペーパー;ポリエステル、ポリオレフィン、イオン交換物質及び他の物質がある。
【0017】
ここで使用するように、用語「含有する」は、他の添加剤、成分、数値又は工程を排除することを意味するものではない。
【0018】
湿潤剤を含有するフィルター
本発明の1具体例によれば、フィルターは、ここに開示する他の物質と共に又は他の物質を伴うことなく、1以上の湿潤剤を含有する。湿潤剤は、フィルターを通過するタバコ煙を湿式濾過するために、タバコ煙から水分を吸収し、これを多孔性基材に放出しうる。他の利点の中でも、本発明による湿式濾過システムは、タバコ煙からの粒状物質の除去を補助し、タバコ含有製品と一体的に製造されるとの利点を有する。
【0019】
湿潤剤としては、各種の好適な湿潤剤が使用される。例えば、湿潤剤は、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、乳酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム又はポリリン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カリウム、グルコン酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、及びグルタミン酸ナトリウムでなる群から選ばれる。
【0020】
好適な具体例では、フィルターに配合される湿潤剤は、ピログルタミン酸ナトリウム(2-ピロリドン-5-カルボン酸ナトリウム又はNaPCAとしても知られている)である。有利なことには、ピログルタミン酸ナトリウムは無毒性であり、含まれる粒子物質のタバコ煙からの除去に関して有効であり、タバコ煙の温度範囲において湿潤剤として機能する。さらに、ピログルタミン酸ナトリウムは危険物ではなく、安定であり、製造が簡単であり、かつ使用勝手が良い。ピログルタミン酸ナトリウムは下記の構造を有する。
【0021】
【化1】

【0022】
本発明によるフィルターは製造が簡単であり、安価である。製造方法の1つでは、湿潤剤、例えば、ピログルタミン酸ナトリウムを含有する溶液を調製する。ついで、多孔性基材を、この溶液によって湿潤する。湿潤した基材を乾燥して、多孔性基材の上又は中に分散した湿潤剤の残渣を残す。好適な具体例では、湿潤剤は、フィルターの乾燥質量基準で、約5〜約60%の量で存在する。
【0023】
本発明によるピログルタミン酸ナトリウムを含有するタバコ煙フィルターの有効性を下記のようにしてテストした。
【0024】
下記の3タイプのフィルターを、紙巻タバコの煙からのタールの除去に関する相対的な有効性についてテストした。
1)従来の酢酸セルロースフィルター(「Cell-Ac」);
2)本発明によるピログルタミン酸ナトリウム(「SoPyro」)を備えた酢酸セルロースを含有する湿式タバコ煙フィルター;及び
3)市販の湿式タバコ煙濾過フィルター(Aquafilter(登録商標):Aquafilter Corp.)。
【0025】
ピログルタミン酸ナトリウムを含有する酢酸セルロースフィルターを、初めに、市販の紙巻タバコからセルロースフィルターを取り外すことによって調製した。繊維の質量は約0.21gである。次に、10%ピログルタミン酸ナトリウム溶液約0.5mlを各フィルターに塗付し、フィルターを60℃において一夜乾燥させた。
【0026】
従来の酢酸セルロースフィルター及びピログルタミン酸ナトリウムを含有する酢酸セルロースフィルターを秤量し、標準的な紙巻タバコの外径と同じ内径を有するポリカーボネート管の40mmセグメントに挿入した。タバコ0.85gを含有するフィルターなし紙巻タバコを、フィルターの一端付近で、ポリカーボネート管の一端に挿入した。ポリカーボネート管の他端を、吸引ポンプに接続する管に取り付けた。各タイプのフィルターについて2回テストを行った。このテストで使用した各Aquafilterを、タバコ0.85gを含有するフィルターなし紙巻タバコに装着し、ついて、吸引ポンプに接続した管に取り付けた。
【0027】
フィルターを装着した紙巻タバコに点火し、断続的吸引、紙巻タバコ煙の模擬吸引を、点火されていない端から12.5mmの所までタバコが燃焼するまで行った。フィルターを、ポリカーボネート管から又はAquafilterから取り外し、秤量し、メタノール10ml中に入れて、フィルター上に保持されている煙からのタール及び他の物質を溶出した。フィルターのエタノール溶出物の吸光度(波長350nmにおける)を、フィルターに保持された煙成分の量の指標として使用した。煙通過の間にフィルターが獲得した質量を記録した。テストの結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
吸光度のデータによれば、本発明の1具体例によるフィルター(テスト3及び4)は、湿潤剤を含有しない従来の酢酸セルロースフィルター(テスト1及び2)よりも明らかに効果的であり、Aquafilter(テスト5及び6)よりも効果的である。
【0030】
ドライ・ウォーターを含有するフィルター
本発明の他の具体例によれば、ここに開示する他の物質と共に又は他の物質を伴うことなく、「ドライ・ウォーター」を含有する湿式のタバコ煙濾過フィルターが提供される。「ドライ・ウォーター」は、メチル化シリカ及び水の組合せでなる。1具体例では、メチル化シリカが5〜40%の量で存在し、水が95〜60%の量で存在する。好適な具体例では、メチル化シリカが約10%の量で存在し、水が約90%の量で存在する。有利なことには、ドライ・ウォーターは、本発明によるフィルターで使用される際に良好な安定性を有する。さらに、ドライ・ウォーターは安価であり、無毒性であり、環境に対して有害ではない。
【0031】
好適な具体例では、ドライ・ウォーターはフィルターの約1〜約20質量%の量で存在する。特に好適な具体例では、ドライ・ウォーターはフィルターの約5〜約10質量%の量で存在する。
【0032】
本発明で使用されるドライ・ウォーターは、例えば、閉じられた容器において、平衡エマルジョンが達成されるまで、過剰量の水をメチル化シリカと振盪することによって調製される。過剰の水をデカントし、乾燥剤、例えば、非変性シリカを、エマルジョン中のメチル化シリカの量の10%に等しい量で添加する。さらにエマルジョンを振盪して、乾燥剤を分散させる。
【0033】
タバコ煙フィルターにおいてドライ・ウォーターを使用することに伴う1つの問題は、タバコと喫煙者との間に連続層として存在する場合、ドライ・ウォーターはフィルターの孔を塞ぐ傾向にあり、これにより、気流に対する抵抗性を増大させ、喫煙の快感を低減させることである。この問題を克服するため、本発明の具体例では、ドライ・ウォーターを、ほぐれた繊維物質と混合することが提供される。この添加される繊維物質は、喫煙者によって吸引力が与えられる場合のシリカ粒子のフィルター材料への埋伏を低減する手段を提供する。このような物質の例としては、ドライ・ウォーターが流動性粉体として挙動できるように充分に短い繊維長を有するセルロース又は酢酸セルロースが含まれる。好適な具体例では、繊維長は約1mm未満である。好適な具体例では、本発明によるタバコ煙フィルターは、ドライ・ウォーターに加えて、ここで検討するようにポルフィリンを含む。例えば、本発明によるタバコ煙フィルターは、フィルター内において、又は従来のフィルター材料とタバコとの間のフィルターの末端端部において、ドライ・ウォーター、クロロフィリン及びセルロースが充填された約3〜6mmの区域を包含する。このようなフィルター内では、タバコ煙はドライ・ウォーター及びポルフィリンを通過し、この間に、ドライ・ウォーター及びクロロフィリン層内に発がん性の煙成分が保持される。
【0034】
本発明によるタバコ煙フィルターは、フィルターの製造の間に、ドライ・ウォーター及びポルフィリンの混合物を添加することによって調製され、又はフィルター内に又はタバコと従来のフィルターとの間の界面に前記混合物を注入することによって調製される。ドライ・ウォーター及びポルフィリンの混合物は、フィルターの軸方向の端部に、又は喫煙可能なデバイスの側部を介して、例えば、注入装置に取付けたカニューレを介して注入される。好ましくは、注入装置は、注入1回当りの注入された物質の量を計量できるものである。
【0035】
別法として、ドライ・ウォーター及びポルフィリンの混合物は、喫煙者によって、従来の喫煙可能なデバイス、例えば、標準的な紙巻タバコ、又は紙巻タバコフィルターに取り付けられるフィルター拡張部に包含される。フィルター拡張部は、ドライ・ウォーター及びポルフィリンの層及び、好ましくは、マトリックスとしての繊維物質を含有する。フィルター拡張部は、さらに、喫煙可能なデバイスの近位端部にフィットするように軸方向に伸張するスリーブを包含する。スリーブは、フィルター拡張部内にドライ・ウォーター及びポルフィリンを保持するために多孔性の保持部材に隣接している。好ましくは、スリーブは、さらに、従来のフィルター材料部分を包含しており、これにより、喫煙可能なデバイスに接続される際、フィルター拡張部及び喫煙可能なデバイスは、実質的に従来の喫煙可能なデバイスのように見える。
【0036】
カチオンポリマーと共に又はカチオンポリマーを伴うことなく金属フタロシアニンを含有するフィルター
本発明の他の具体例によれば、ここに開示する他の物質と共に又は他の物質を伴うことなく、1以上の金属フタロシアニン、例えば、クロロフィルの如きポルフィリンを含有する紙巻タバコフィルターが提供される。好ましくは、金属フタロシアニンは、鉄含有ポルフィリン又は銅含有ポルフィリン、例えば、クロロフィリン及び銅フタロシアニントリスルホネート(銅フタロシアニン、銅フタロシアネート)である。
【0037】
ポルフィリンは、いくつかの種類の変異誘発性物質及び発がん物質を不活性化する平面化合物である。ポルフィリンは、主として、疎水性相互作用を介して発がん物質を平面ポルフィリン構造に結合させることによって、平面変異誘発性物質及び発がん物質を不活性化する。従って、ポルフィリンは、理想的には、これらのタバコ煙の発がん物質を最適に吸収するため、水性環境に維持されることが要求される。ポルフィリンは、さらに、π−π結合を介して多環性芳香族炭化水素(PAH)と結合することによって発がん物質を不活性化する。銅含有ポルフィリンも、銅イオンとの反応を介して、いくつかのニトロソアミンを含む多くの種類の非平面変異誘発性物質及び発がん物質を不活性化する。各種の発がん物質を不活性化することは知られているが、タバコ煙フィルターにおいてポルフィリンを如何にして効果的に使用するかについては知られていない。
【0038】
クロロフィリンは天然産の銅含有ポルフィリンであり、クロロフィルに存在するマグネシウムが銅で置き換えられた安定型のクロロフィルである。クロロフィリンは下記の構造を有する。
【0039】
【化2】

【0040】
しかし、クロロフィリンは、タバコ煙フィルターの成分と化学的に結合することが困難である。従って、好適な具体例では、タバコ煙フィルターに配合される銅含有ポルフィリンは銅フタロシアニンである。銅フタロシアニンは、クロロフィリンよりも容易にタバコ煙フィルターの成分に結合される無毒性の合成クロロフィリンである。銅フタロシアニンは下記の構造を有する。
【0041】
【化3】

【0042】
銅フタロシアニンは、銅フタロシアニンをタバコ煙フィルターに直接添加することによって、タバコ煙フィルターに配合される。好適な具体例では、銅フタロシアニンは、綿に対して(「ブルーコットン」)、レーヨンに対して(「ブルーレーヨン」)又は他の好適な物質に対して共有結合リガンドとしてタバコ煙フィルターに配合される。他の好適な具体例では、銅フタロシアニンは、本発明の他のタバコ煙フィルターの具体例と組み合わせて、タバコ煙フィルターに配合される。1具体例では、銅フタロシアニンは、Hayatsu, Journal of Chromatography, 597: 37-56 (1992)(出典明示によって、その全体の内容を本明細書の一部とする)に開示されているように、染料C.I. Reactive Blue 21の形でセルロース繊維に付着される。前記染料は、セルロース繊維又は他の材料の遊離の水酸基に対して温和な条件下で安定なエーテル結合を形成し(クロロフィリン又は他のポルフィリンとは異なる)、これによって、「Blue 21セルロース」を生成する。他の具体例では、銅フタロシアニンが、染料ORCO Turquoise Blue GGXの形でセルロース繊維に付着されて、「GGXセルロース」を生成する。これらの染料はいずれも、Organic Dyestuffs Corporation (ORCO)(米国ロードアイランド州イーストプロビデンス)から入手した。
【0043】
セルロースはタバコ煙フィルターの製造に使用される基礎材料である。タバコ煙フィルターを製造するために使用される標準型のセルロースは、セルロースを無水酢酸にて処理することによって製造された酢酸セルロース繊維である。この反応によって、天然セルロース上に存在する遊離の水酸基が、より疎水性のアセテート基によって置き換えられる。ついで、酢酸セルロースをトリアセチン(グリセロールトリアセテート)にて処理する(この溶媒は、酢酸セルロースが、セルロースとは異なり、トリアセチンに部分的に溶解するため、酢酸セルロース繊維のいくらかを結合させる)。しかし、不都合なことには、水酸基のアセテート基での置換及びトリアセチンでのセルロースの処理は、銅含有ポルフィリン分子用の潜在的な付着部位の多くを消失させ、トリアセチン処理された酢酸セルロースを、未処理のセルロースよりもタバコ煙フィルター用の基礎材料として望ましくないものとする。
【0044】
従って、本発明の1具体例によれば、1以上のセグメント、すなわち、少なくとも第1セグメントを包含するタバコ煙フィルターが提供される。第1セグメントは、銅含有ポルフィリン及び無水酢酸又はトリアセチンにて処理されていないセルロースを包含する。好ましくは、タバコ煙フィルターは、さらに、トリアセチンにて処理されているが、銅含有ポルフィリンを実質的に含有しない酢酸セルロースを含有する第2セグメントを包含する。
【0045】
本発明の1具体例によれば、銅フタロシアニンを含有するタバコ煙フィルターを製造する方法が提供される。例示を目的として述べれば、当該方法は次のようにして行われる。染料をセルロース繊維に添加する。すなわち、初めに、蒸留水400mlにセルロース20gを添加する。次に、硫酸ナトリウム20gを添加、溶解し、続いて、染料2.4gを添加する。次に、攪拌しながら、炭酸ナトリウム8gを添加し、混合物を約30℃に35分間加熱する。ついで、温度を70℃に上げて、さらに60分間加熱して、セルロース繊維への銅含有ポルフィリンの共有結合を完了させる。次に、混合物をメッシュ上で集め、蒸留水で徹底的にすすぎ、最後にエタノール200mlにてすすいで、共有結合した銅含有ポルフィリンを有するセルロースパルプを得た後、室温において乾燥させる。この開示では、例として、特別な反応時間及び温度を示しているが、この開示を参照して当業者によって理解されるように、ビニルスルホン反応性染料の織物への付着に関する公知の方法に従い、反応時間及び温度のパラメーターの変更は可能である。好適な具体例では、銅フタロシアニンは、遊離又は共有結合したものにかかわらず、フィルターの乾燥質量基準で約0.1〜約5%の量で存在する。特に好適な具体例では、銅フタロシアニンは、フィルターの乾燥質量基準で、約1〜約3%の量で存在する。
【0046】
本発明の1具体例では、第1セグメントを包含するタバコ煙フィルターに装着された一体の刻みタバコを含有する喫煙可能なデバイスが提供される。好ましくは、喫煙可能なデバイスは、一体の刻みタバコに近接する第1セグメント及び喫煙可能なデバイスの近位端部に位置する近接第2セグメントを包含する。この構造は、有利なことには、喫煙可能なデバイスの使用者が、タバコ煙フィルターの第2セグメントを介して直接に煙を吸引することを可能にし、これによって、喫煙可能なデバイスを使用する間、従来どおりの雰囲気を得ることができる。
【0047】
本発明の他の具体例では、ここに開示したようなタバコ煙フィルターを製造する方法が提供される。当該方法により、製造プロセスの間は、フィルター内に均一に分散した状態に留まる傾向にあり、タバコが燃焼している間はフィルター内に水分が蓄積するため、使用の間は、フィルターの外に滲出する傾向にない銅含有ポルフィリン、例えば、銅フタロシアニンを含有するタバコ煙フィルターが製造される。
【0048】
この方法は、1以上の銅含有ポルフィリンが共有結合されたセルロース又は他の材料からフィルター物質を調製することを包含する。ついで、フィルター物質から、共有結合した銅含有ポルフィリンを有する物質の少なくとも1つのセグメントを包含するタバコ煙フィルターを製造する。タバコ煙フィルターは、実質的に銅含有ポルフィリンを含有しない物質の1個以上のセグメントを包含できる。共有結合した銅含有ポルフィリンを含有するフィルター物質の使用は、既存の機械を使用して、本発明によるフィルターが組み込まれた喫煙可能なデバイス、例えば、紙巻タバコを、高速、多量製造することを可能にする。
【0049】
方法は、初めに、1以上の銅含有ポルフィリン、例えば、銅フタロシアニンを準備することを包含する。好適な具体例では、銅含有ポルフィリンは、銅フタロシアニントリスルホネートのビニルスルホン誘導体、例えば、染料C.I Reactive Blue 21(Organic Dyestuffs Corporation(米国ロードアイランド州イーストプロビデンス)から入手可能なORCO(登録商標) REACTIVE Turquoise RP)である。
【0050】
下記の工程において示す物質の量は相対的な量であり、例示のためのみのものである。量は、この開示を参照して当業者によって理解されるように、商業的生産のためにスケールアップされる。銅含有ポルフィリンを準備した後、銅含有ポルフィリン:セルロース繊維の質量比約1.2:10、例えば、銅含有ポルフィリン約1.2g及び製紙パルプとしての使用に適する等級のセルロース繊維約10gを含有する混合物を調製する。混合物は、さらに好ましくは、塩素を含有しない水約200mlに硫酸ナトリウム約10gを含有する。
【0051】
ついで、混合物を約30℃に約35分間加熱し、その後、温度を約70℃に上げて、約60分間加熱して、セルロース繊維への銅含有ポルフィリンの共有結合を完了させる。次に、混合物をメッシュ上で集め、流水にて徹底的にすすいで、共有結合した銅含有ポルフィリンを含有するセルロース繊維を生成する。ついで、共有結合した銅含有ポルフィリンを含有するセルロース繊維を、商業的に入手可能な装置を使用して、タバコ煙フィルターのセグメントに形成する。ついで、フィルターを一体の刻みタバコに装着して、本発明による喫煙可能なデバイスを製造する。加えて、本発明は、タバコ煙フィルターの製造における使用のため又は他の用途のために、上記の如く製造された銅含有ポルフィリン含浸ペーパーを含む。
【0052】
商業的規模での製造のため、反応性の金属ポルフィリン、例えば、C.I. Reactive Blue 21を付着させるための共有結合反応は、好ましくは、パルプ磨砕タンク、例えば、製紙工場に存在するものにおいて行われる。さらに好ましくは、共有結合反応は、水中、パルプ負荷約5〜10%において開始される。代表的には、紙巻タバコのフィルターペーパーを製造するために使用されるセルロース繊維を、製紙スクリーン上で集める前に、約0.2〜0.5%に希釈する。共有結合反応後における当該別個の工程は、標準的な製紙操作を行う前に、ポルフィリン結合セルロース繊維を直接希釈することによって排除される。
【0053】
タバコ煙フィルターを製造する方法は、さらに、銅含有ポルフィリンに加えて、本発明のタバコ煙フィルターに、1以上の追加の物質を添加することを包含できる。好適な具体例では、1以上の追加の物質は、節足動物の殻から誘導される多糖のキチンである(キチン粒子は、金属ポルフィリン化合物、例えば、染料C.I. Reactive Blue 21に共有結合を介して付着される遊離の水酸基を高密度で含有する)。キチンは、乾燥質量基準で、セルロースの当量の約4倍の染料C.I. Reactive Blue 21を共有結合できる。好適な具体例では、キチン粒子(Sigma Chemical Company(米国ミズーリ州セントルイス)から入手可能)を、上記の反応(ただし、セルロースをキチンに置き換える)に等しい方法で、銅含有ポルフィリンに共有結合させる。下記の工程において示す物質の量は相対的な量であり、例示のためのみのものである。商業的な製造に関しては、量は、この開示を参照して当業者によって理解されるようにスケールアップされる。銅含有ポルフィリンへのキチン粒子の共有結合反応は、例えば、蒸留水133mlに染料C.I. Reactive Blue 21 0.8g及び硫酸ナトリウム6.8gを溶解させることによって行われる。ついで、キチン2.0gを添加し、混合物を30℃において穏やかに20分間攪拌する。次に、炭酸ナトリウム2.7gを添加し、混合物を30℃において15分間放置し、ついで、30℃から70℃まで20分間で加熱する。ついで、温度を70℃に維持しながら、混合物を60分間攪拌して、結合反応を完了まで進行させる。得られた銅含有フタロシアニンにて誘導されたキチンを焼結ガラスフィルターで集め、蒸留水で徹底的にすすいで、未反応のポルフィリン及び塩を除去する。
【0054】
キチンに共有結合した銅含有ポルフィリンを、乾燥質量基準で、キチンに共有結合した銅含有ポルフィリン:セルロースパルプの比約1:20〜約1:1でセルロースパルプと混合することによってペーパーに配合する。セルロースは、本発明による共有結合した銅含有ポルフィリンを含有することもできる。配合は、セルロースを水中にて柔らかくする間に(パルプをメッシュ上に載置し、プレス及び乾燥する以前)、製紙の初期工程においてキチンをセルロースパルプと混合することによって行われる。ついで、キチン含浸セルロースを、本発明によるタバコ煙フィルターの製造に使用する。
【0055】
好適な具体例では、1以上の追加の物質は活性炭又はリグニン(木材からのセルロースペーパーパルプの製造における副生物として製造される木材成分)である。これらの物質のいずれか又は両方を、特に、活性炭又はリグニンが配合されたペーパーの製造のために、本発明による銅含有ポルフィリンに共有結合されたセルロースに添加できる。存在する場合、活性炭又はリグニンは、上述のキチンと同じ態様及び割合でセルロースに添加される。
【0056】
さらに、好適な具体例では、上記の如く製造されたフィルターは、少なくとも2個のセグメントを包含するフィルターを製造するため、トリアセチンにて処理された標準的な酢酸セルロース繊維製のタバコ煙フィルターに装着される。好ましくは、トリアセチンにて処理された酢酸セルロース繊維を含有するセグメントは、銅含有ポルフィリン含浸セルロース繊維を含有するセグメントに近接しており(すなわち、喫煙可能なデバイスの点火された端部から離れている)、銅含有ポルフィリン含浸セルロース繊維を含有するセグメントは、一体の刻みタバコと、トリアセチンにて処理された酢酸セルロース繊維を含有するセグメントとの間にある。
【0057】
本発明に従って製造された2セグメントフィルターの有効性を下記のようにしてテストした。セグメント2個を包含するタバコ煙フィルターを調製した。各フィルターの近位セグメントは、トリアセチンにて処理した酢酸セルロース繊維を含有する。1のフィルターの末端セグメントは、上記の如き銅フタロシアニン含浸セルロース繊維を含有し、一方、他のフィルターの末端セグメントは、トリアセチンにて処理されておらず、銅含有ポルフィリンが含浸されていないセルロース繊維を含有する。ついで、2セグメントフィルターを、フィルターのない菅部分約0.5cmが残るようにプラスチック菅に入れ、紙巻タバコMarlboro(登録商標)からの長さ3cmのロッド状タバコを、フィルターに隣接する0.5cmの空洞端部に装着して、喫煙可能なデバイスを作製した。タバコに点火し、喫煙可能なデバイスを、タバコがプラスチック菅の端部で燃え尽きるまで、吸引ポンプにて、1服20mlで10服吸引した。フィルターを菅から取出し、アンモニアを含有するメタノール(50:1希釈)10mlに入れて、捕捉された多環式芳香族炭化水素をフィルターから溶出した。抽出液10mlを蒸発処理して1mlとし、ヘキサン5mlによる酸化アルミニウム上での薄層クロマトグラフィーに供した。多環式芳香族炭化水素の総量を、分光蛍光分析によって評価した。結果は、本発明による銅フタロシアニンを含有する2セグメントフィルターが多環式芳香族炭化水素80ngを保持し、銅フタロシアニンを含有しない2セグメントフィルターが、多環式芳香族炭化水素6ngを保持することを示した。この13倍の増大は、ロッド状タバコの燃焼の間に生成される多環式芳香族炭化水素の量が100〜200ngであると推定される点で特に重要である。従って、本発明による2セグメントフィルターは、タバコ煙からの多環式芳香族炭化水素の総量の約40〜80%を除去する。
【0058】
他の具体例では、本発明によるタバコ煙フィルターは、銅含有ポルフィリンの代わりに、銅含有ポルフィリンの鉄類似体を含有する。好適な具体例では、類似体は、この開示を参照して当業者によって理解されるように、染料C.I. Reactive Blue 21の酸性化、硫酸鉄の添加、ついで、好適な塩基の添加によって調製される染料C.I. Reactive Blue 21の鉄類似体である。別法として、鉄類似体を調製するために、染料C.I. Reactive Blue 21の初期合成において、銅塩の代わりに、鉄塩(例えば、無水の塩化鉄)を使用できる。染料C.I. Reactive Blue 21の鉄類似体も、タバコ煙フィルターの製造における使用又は他の用途のための、上述の銅含有ポルフィリン含浸ペーパーに相当する染料C.I. Reactive Blue 21の鉄類似体が含浸されたペーパーを製造するために使用される。
【0059】
他の具体例では、本発明は、1以上の金属フタロシアニン(例えば、鉄フタロシアニン又は銅フタロシアニン)及び1以上のポリカチオンポリマーの両方を含有するタバコ煙フィルターに関する。好適な具体例では、1以上のポリカチオンポリマーは、1以上の1級又は2級アミノ基を含有するカチオン部分を有する。1具体例では、1以上のポリカチオンポリマーは、ポリ(プロピレンイミン)、ポリビニルアミン、ポリ(2-エチルアジリジン)、ポリ(2,2-ジメチルアジリジン)及びポリ(2,2-ジメチル-3-n-プロピルアジリジン)及びこれらの組合せでなる群から選ばれる。好適な具体例では、1以上のポリカチオンポリマーはポリエチレンイミン(PEI)である。タバコ煙から変異誘発性物質及び発がん物質及び他の毒物を除去する点では、PEIの如き1以上のポリカチオンポリマーが有効である。ポリカチオンポリマーは、すべてのニコチンがフィルターをスムーズに通過することを可能にするよう機能し、これにより、ニコチンの送達:変異誘発性物質及び発がん物質の送達の比を増大させる。
【0060】
本発明のタバコ煙フィルターに配合された金属ポルフィリンは、タバコ煙中の変異誘発性物質及び発がん物質を捕捉又は不活性化すると共に、金属ポルフィリンは、ニコチンの通過を低減できる。この開示に示すように、好適な具体例では、タバコ煙フィルターに配合される金属ポルフィリンは、染料C.I. Reactive Blue 21のポルフィリン環に結合するスルホネート基の如き、1以上のアニオン基を含有する。ポリカチオンポリマーは、一部、フィルターにおけるニコチン保持に関するスルホネート基の効果を緩和するよう作用すると思われる。従って、金属ポルフィリンにて誘導されたセルロースへのポリカチオンポリマーの添加は、フィルター内に捕捉されるニコチンの量を減少させ、タバコ煙中の変異誘発性物質及び発がん物質を捕捉又は不活性化するタバコ煙フィルターの効果を無効にすることなく、タバコ煙中のニコチンの量を増大させる。このように、本発明のタバコ煙フィルターにおける金属ポルフィリン及びポリカチオンポリマーの組合せは、金属ポルフィリン又はポリカチオンポリマーが単独で機能する場合よりも良好に、タバコ煙中の変異誘発性物質及び発がん物質:ニコチンの比を低減するように相乗的に作用する。さらに、喫煙者は、ニコチンの満足できる吸引量を自己調節するように煙の吸引量を調整する傾向があるため、変異誘発性物質及び発がん物質:ニコチンの比の低下は、喫煙者によって吸引される変異誘発性物質及び発がん物質の総量を低下させることになる。これにより、喫煙者によって摂取される変異誘発性物質及び発がん物質の量の減少は、喫煙に伴う疾病率及び死亡率の低下を生ずるはずである。
【0061】
分子当りの単量体の数による分子量の一定範囲のポリカチオンポリマー(例えば、PEI)が使用できる。本発明の好適な具体例では、本発明のフィルターにおいて使用されるポリカチオンポリマーは、ポリカチオンポリマーがタバコ煙中に入る可能性を低減するように、約1000ダルトンより大の分子量を有する。特に好適な具体例では、フィルターにおいて使用されるポリカチオンポリマーは、約1000〜100,000ダルトンの分子量を有する。
【0062】
しかし、不都合なことには、ポリカチオンポリマー(例えば、PEI)は、酢酸セルロース繊維に対して物理的に適合性ではない。従って、本発明の1具体例によれば、セルロースよりもむしろ、酢酸セルロースを実質的に含有しないセルロースを含有する、及び金属フタロシアニン(例えば、鉄フタロシアニン又は銅フタロシアニン)及びポリカチオンポリマー(例えば、PEI)の両方を含有するタバコ煙フィルターが提供される。
【0063】
商業的規模での製造については、ポリカチオンポリマーの水又は短鎖アルコール(例えば、エタノール又はイソプロパノール)溶液を、フィルター製造用のペーパー上に噴霧する。ポリカチオンポリマー溶液は、ロールからのペーパーが捲縮機に引き取られる間に、又は初期段階(例えば、パルプが製紙スクリーン上に載置される前の初期製紙プロセスの間)に噴霧される。1具体例では、溶液におけるポリカチオンポリマーの濃度は約0.5〜50%である。好適な具体例では、溶液におけるポリカチオンポリマーの濃度は約1〜10%である。好適な具体例では、ポリカチオンポリマーは、製紙プロセスの間、パルプが製紙スクリーン上に載置される前に添加される。
【0064】
本発明のこの具体例によるタバコ煙フィルターは、次のように、フィルターの近位端部にある標準的な酢酸セルロースフィルター物質のセグメント及びフィルターの末端端部にある、金属フタロシアニン染料にて染色され、PEIによって処理されたセルロースのセグメントを包含するデュアルゾーンフィルターを構成することによって製造される。初めに、ペーパーフィルターの製造で使用されるペーパー(Tela-Kimberly Switzerland GmbH;スイス国バルスタル)を寸断することによってセルロースを得る。PEIを、粘稠な50/50水溶液(Catalog #P3143, Sigma Chemical Co.;米国ミズーリ州セントルイス)として得る。PEI溶液をエタノールにて希釈して、最終濃度5%PEI(水5%+エタノール90%中)とする。このPEIエタノール溶液10mlを、Blue 21セルロースパルプ10gの上に噴霧する。パルプを、直ちに、回転ブレードコーヒーミル内において、ほぐれた綿に似たテクスチャーを有するようになるまで離解させ、室温にて乾燥させる。同様にして、GGXセルロース10gを5%PEIエタノール/水溶液10mlで処理する。
【0065】
次に、Marlboro(登録商標)ライト紙巻タバコ(Philip Morris;米国バージニア州リッチモンド)からピンセットにてフィルターを取外すことによってフィルターを入手する。フィルターは長さ27mmである。紙巻タバコのフィルター空洞にしっかりと適合する薄壁プラスチック菅を27mmのセグメントに切断する。元の酢酸セルロースフィルターを1cmのセグメントに切断する。酢酸セルロースフィルターの1cm片をプラスチック菅に挿入し、残りに離解セルロース(金属フタロシアニン染料又はPEIと共に又は伴うことなく)85mgを充填する。酢酸セルロース及びセルロースを収容する菅を、フィルターが除去された紙巻タバコのフィルター空洞に、セルロースセグメントがタバコと接触するように挿入する。これにより、標準的な酢酸セルロース物質は、紙巻タバコの近位端部、すなわち、通常、喫煙者の唇と接触する端部にある。コントロールとして、未処理酢酸セルロースフィルターのテスト用紙巻タバコを、元のフィルターを長さ27mmのプラスチック菅に挿入し、ついで、これを紙巻タバコのフィルター空洞に再挿入することによって調製する。プラスチック菅は、煙組成物を空気にて希釈することによって煙組成物に影響を及ぼすフィルターを包囲するペーパーにおける通気孔を塞ぐように機能する。
【0066】
表2を参照すると、紙巻タバコグループから得られる煙からCambridgeフィルター上で捕捉された粒状物質中のタール(変異誘発性物質を代表する)及びニコチンの測定(1回の測定でテストグループ当り紙巻タバコ5本ずつを使用し、3回繰り返す)の結果が示されている。使用した喫煙条件は、35ml/1回の吸引、吸引期間2秒、及び吸引間隔60秒であった。すべてのフィルター(標準的な酢酸セルロースフィルターを含む)が、フィルター空洞内に挿入されたプラスチック菅に収容されているため、フィルターの通気孔は塞がれている(そうでない場合には、フィルターを通過する間に、煙が空気によって稀釈される)。次のフィルターグループをテストした:1)酢酸セルロース(CA);2)酢酸セルロース/セルロースデュアルゾーンフィルター;3)酢酸セルロース/Blueセルロースデュアルゾーンフィルター;4)5%PEIを添加した酢酸セルロース/ブルーセルロースフィルター;5)酢酸セルロース/GGXセルロースデュアルゾーンフィルター;6)5%PEIを添加した酢酸セルロース/GGXセルロースデュアルゾーンフィルター。
【0067】
【表2】

【0068】
表から理解されるように、Blue 21セルロースフィルター及びGGXセルロースフィルターへのPEIの添加は、ニコチン:変異誘発性物質(タールによって代表される)の比の顕著な増大を生ずる。
【0069】
加えて、各グループの追加テスト紙巻タバコからの全粒状物質(TPM)を、同じ喫煙プロトコルを使用して、Cambridgeフィルター上で集め、DMSOに濃度10mg/mlで溶解させた。さらに、集めた煙粒状物質のDMSO抽出物について、サルモネラ菌(Salmonella)のTA98菌株において、S9肝エキス活性化により、Ames変異誘発アッセイを行った。煙抽出物を、2つの用量、250及び500μg/プレートでテストした。Amesテストでは、プレート当りの細菌コロニー(「復帰突然変異体」)の数が、紙巻タバコ煙抽出物の変異誘発性活性の指標であり、変異誘発性活性も発がん能力の反映である。これらのテストの結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表から理解されるように、全粒状物質(主としてタール+ニコチン)に対する変異原性活性(発ガン能力の指標)の比は、煙を、染料C.I. Blue 21又は染料Reactive Turquoise GGXのいずれかによって誘導されたセルロースを含有する繊維を通過させることによって、未処理の酢酸セルロースと比べて低減される。さらに、PEIは、変異原性活性:煙TPMの比を低減させる。従って、金属フタロシアニン染料によって誘導されたフィルター物質へのPEIの添加は、ニコチン:タールの比を増大させ、変異原性活性:タールの比を低減させ、その結果として、ニコチンをスムーズにフィルターを通過させること及びフィルター内に変異誘発性物質及び他の毒物質を保持することの両方によって、PEIなしで金属フタロシアニンを含有するタバコ煙フィルターによって達成されるものよりも、煙中のニコチン:変異誘発性物質の比における、より大きな増大を生ずる。
【0072】
さらに、一定量のTPMの変異原性活性の指標として、TPM/復帰突然変異体の比を使用できる。下記の計算式では、上述の500μg/プレートテストからのデータを使用する。
【0073】
酢酸セルロースフィルターグループは、復帰突然変異体(変異した細菌コロニー)の平均値639個を有していた。従って、Amesテストでは、TPM 500μgは復帰突然変異体639個を生ずる(=TPM 0.783μg/復帰突然変異体)。酢酸セルロース(CA)フィルターグループは、ニコチン/タールの比0.0677、すなわち、0.0677mg(ニコチン)/mg(タール)を有していた。Blue 21+PEIフィルターグループは、同じタール量500μg/プレートにおいて復帰突然変異体の平均値474個、すなわち、1.055μg(タール)/復帰突然変異体を有していた。Blue 21+PEIフィルターグループは、ニコチン/タールの比0.0777、すなわち、0.0777mg(ニコチン)/mg(タール)を有していた。
【0074】
従って、タール/復帰突然変異体の比に、ニコチン/タールの比を掛けると、下記のように、ニコチン/復帰突然変異体の比(単位ニコチン当りの変異原性活性の指標である)が得られる。
【0075】
Cellulose Acetate:0.783×0.0677=0.053μg(ニコチン)/復帰突然変異体(すなわち、18.9(復帰突然変異体)/mg(ニコチン))
Blue 21+PEI:1.055×0.0777=0.082μg(ニコチン)/復帰突然変異体(すなわち、12.2(復帰突然変異体)/mg(ニコチン))
Blue 21+PEIをCellulose Acetateと対比すると、比0.082/0.053=1.54が得られる。
【0076】
従って、Blue 21にて誘導されたセルロースフィルターへのPEIへの添加は、標準的な未処理酢酸セルロースフィルターと比較して、ニコチン/変異原性活性の比について54%の増大を生ずる。
【0077】
本発明の他の具体例では、PEI以外に又はPEIに加えて、1以上のpH調節フィルター添加剤がフィルターに添加される。1具体例では、1以上のpH調節フィルター添加剤は、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム及び陽イオン交換樹脂でなる群から選ばれる無機塩である。
【0078】
本発明の他の具体例では、タバコ煙フィルターは、1以上のポリカチオンポリマー、例えば、PEIに加えて、キチンを含有する。本発明の他の具体例では、タバコ煙フィルターは、1以上のポリカチオンポリマー、例えば、PEI及び1以上の金属フタロシアニン、例えば、染料C.I. Reactive Blue 21に加えて、キチンを含有する。
【0079】
マイクロカプセルを含有するフィルター
本発明の他の具体例によれば、この開示に記載の他の物質と共に又は他の物質を伴うことなく、多孔性基材中に分散されたマイクロカプセルを有する多孔性基材を含有するタバコ煙用のフィルターが提供される。マイクロカプセルは、好ましくは、外部シェルを有する内部コアを含む。
【0080】
マイクロカプセルのコアは、少なくとも1の植物油を含有する。好適な植物油は、ヒマシ油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、ゴマ油、大豆油、及び菜種油でなる群から選ばれる少なくとも1の油を含む。好適な具体例では、植物油はベニバナ油である。この開示を参照して当業者によって理解されるように、他の油も適する。好適な具体例では、植物油は、約20〜約80%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)、好ましくは約30〜約70%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)の量で存在する。
【0081】
好適な具体例では、マイクロカプセルのコアは、クロロフィリンの如きポルフィリン又は銅フタロシアニンの如き他のポルフィリンも含有する。存在する場合、クロロフィリンは、好ましくは、約1〜約10%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)、好ましくは約2〜約5%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)の量で存在する。
【0082】
好適な具体例では、マイクロカプセルのシェルは湿潤剤を含有する。好適な具体例では、この開示を参照して当業者によって理解されるように、他の湿潤剤を使用することができるが、好適な湿潤剤はピログルタミン酸ナトリウムである。好適な具体例では、ピログルタミン酸ナトリウムの如き湿潤剤は、約10〜約90%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)、好ましくは約20〜約70%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)の量で存在する。
【0083】
他の好適な具体例では、マイクロカプセルのシェルはメチルセルロースも含有する。好適な具体例では、メチルセルロースは、約5〜約30%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)、好ましくは約10〜約25%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)の量で存在する。
【0084】
他の好適な具体例では、マイクロカプセルのシェルは、メチルセルロースに加えて又はメチルセルロースの代わりに、高分子試薬、例えば、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンを含有するか、又はポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンの両方を含有する。好適な具体例では、高分子試薬は、約2〜約30%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)、好ましくは約5〜約20%(マイクロカプセルの乾燥質量基準)の量で存在する。
【0085】
本発明によるマイクロカプセルの処方において使用する化合物は、当業者に知られている各種の製造業者、例えば、Sigma Chemical Co.(米国ミズーリ州セントルイス)から入手される。
【0086】
本発明での使用に適するマイクロカプセルは、当業者に知られている各種の方法に従って調製される。例えば、本発明によるマイクロカプセルは、植物油200gを、水中に低粘度メチルセルロース25g、クロロフィリン5g、ピログルタミン酸ナトリウム50g及びコーンスターチ150gを含有する水性懸濁液500gに配合することによって生成される。混合物を乳化し、スプレー乾燥して、マイクロカプセルを生成する。
【0087】
本発明のマイクロカプセルは、トウを円筒形フィルターに成形する前に、酢酸セルロースフィルタートウのシート上に噴霧することによって、紙巻タバコ製造機械の部位においてスプレー乾燥法により形成される。別法では、好適なマイクロカプセルは、この開示を参照して当業者によって理解されるように、プレ製造され、振動パンにより又は他の技術によりトウの上にマイクロカプセルを滴下することによって、酢酸セルロースフィルタートウのシートに添加される。さらに、マイクロカプセルは、トウをロールし、フィルター物質のロッドに成形する前に、マイクロカプセルをフィルタートウに撒き散らすことによって、予め形成されたフィルターに配合される。
【0088】
当業者によって評価されるように、本発明によるマイクロカプセルを含有するフィルターの製造は、従来のフィルター付紙巻タバコの製造装置のわずかな変更を要求するのみである。さらに、本発明によるマイクロカプセルを含有するフィルターの製造は、従来のフィルターよりも、わずかに高価なだけである。
【0089】
使用の際、マイクロカプセルの湿潤剤部分は、フィルターを通過するタバコ煙から水分を捕捉する。特に、乾燥形でフィルターに配合されるため、ピログルタミン酸ナトリウムが好適である。
【0090】
存在する場合、マイクロカプセルの油部分は、香り及び芳香生成化合物の流れを妨げることなく、ピリジン様のある種の有害な揮発性化合物を捕捉する。存在する場合、クロロフィリンは、タバコ煙の発がん性化合物の潜在的な不活性剤である。
【0091】
マイクロカプセルのメチルセルロース部分は、マイクロカプセルに構造安定性を付与するが、温められる際及び水分に曝される場合には分散する。最も一般的に使用されている粘性付与物質とは異なり、メチルセルロースは、温かい溶液から沈殿する。さらに、最も一般的に使用されている粘性付与物質よりも低い温度において溶解性である。
【0092】
ピログルタミン酸ナトリウム及びメチルセルロースのシェル及び植物油及びクロロフィリンのコアを含有してなるマイクロカプセルを含有する本発明によるフィルターは、タバコ煙を濾過し、マイクロカプセルは、タバコ煙から熱及び水分を捕捉する。メチルセルロースは繊維物質内に析出し、タバコ煙の湿式濾過に利用される有効表面積を増大させる。これは、ピログルタミン酸ナトリウムによって保持された水分がフィルター物質内に迅速に分散することを可能にする。クロロフィリンは、水性環境と油性環境との間をほぼ均等に分画し、クロロフィリンがただ1つの相で利用されるよりも、タバコ煙の粒状物質及び気相の毒性化合物及び変異誘発性化合物の不活性化をより増大させる。
【0093】
界面活性剤含有フィルター
他の好適な具体例では、本発明のフィルターは、タバコ煙フィルターの有効性を改善するため、この開示に記載された他の物質と共に又は他の物質を伴うことなく、さらに、1以上の界面活性剤を含有する。特に好適な具体例では、界面活性剤は、約0.1〜約10%(フィルターの乾燥質量基準)、好ましくは約0.1〜約2%の量で存在する。
【0094】
界面活性剤は、好ましくは、無毒性であり、この開示の記載を参照して当業者によって理解されるように、他の好適な界面活性剤を使用することもできるが、次の種類の化合物:(1)ソルビタン脂肪酸エステルのポリオキシアルキレン誘導体(すなわち、ポリオキシアルキレンソルビタンエステル)、(2)ポリヒドロキシアルコールの脂肪酸モノエステル、又は(3)ポリオキシアルコールの脂肪酸ジエステルを含む。好適な界面活性剤の例としては、エトキシレート、カルボン酸エステル、グリセロールエステル、ポリオキシエチレンエステル、アンヒドロソルビトールエステル、エトキシル化アンヒドロソルビトールエステル、エトキシル化天然油脂及びワックス、脂肪酸のグリセロールエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリアルキレンオキシドブロック共重合体、及びポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)を含む。この開示の記載を参照して当業者によって理解されるように、他の好適な界面活性剤を使用することもできる。
【0095】
追加の物質を含有するフィルター
フィルターは、さらに、タバコ煙の毒性成分又は変異誘発性成分を濾過又は不活性化する1以上の他の物質を含有する。このような物質の例としては、グルタチオン、システイン、N-アセチルシステイン、メスナ、アスコルビン酸塩、及びN,N'-ジフェニル-p-フェニルジアミンの如き酸化防止剤及びラジカルスカベンジャー;エンジオール化合物、アミン、及びアミノチオールの如きアルデヒド不活性剤;イオン交換樹脂、クロロフィルの如きニトロソアミントラップ及び発がん物質不活性剤;及びタンニン酸及び他の有機酸の如きニコチントラップが含まれる。好適な1具体例では、フィルターはコロイドシリカを含有し、該化合物はタバコ煙から2級アミンを除去でき、これによって、身体内での2級アミンのニトロソアミンへの変換を防止する。この開示における記載を参照して当業者に理解されるように、他の好適な物質も使用される。好適な具体例では、他の物質は、約0.1〜約10%(フィルターの質量基準)、好ましくは、約0.1〜約2%の量で存在する。
【0096】
この開示おいて記載した物質のある種の組合せを含有するフィルター
本発明の他の具体例によれば、この開示において記載の物質の組合せを含有するタバコ煙フィルターが提供される。好適な具体例では、フィルターは、湿潤剤、例えば、ピログルタミン酸ナトリウムを、ドライ・ウォーターと組み合わせて含有する。この組合せは、タバコ煙の湿式濾過を改善するよう相乗的に機能する。1具体例では、フィルターは、ピログルタミン酸ナトリウムを、ドライ・ウォーターの水性部分の約1〜20質量%の量で含有する。好適な具体例では、フィルターは、ピログルタミン酸ナトリウムを、ドライ・ウォーターの水性部分の約5〜10質量%の量で含有する。
【0097】
他の好適な具体例では、フィルターは、銅含有ポルフィリン、例えば、銅フタロシアニンを、ピログルタミン酸ナトリウムの如き湿潤剤又はドライ・ウォーター又は両方と組み合わせて含有する。これら組合せは、銅含有ポルフィリンが、水性環境において、より良好に発がん物質を除去するため、特に好適である。1具体例では、銅含有ポルフィリンの量は、ドライ・ウォーターの約0.5〜5質量%である。
【0098】
他の好適な具体例では、フィルターは、クロロフィリンを、湿潤剤又はドライ・ウォーター又は両方と組み合わせて含有する。1具体例では、クロロフィリンの量は、ドライ・ウォーターの約0.5〜約5質量%であり、湿潤剤の量はドライ・ウォーターの約1〜20質量%である。
【0099】
このような組合せの特殊な例は、ドライ・ウォーターと組み合わせたブルーレーヨン(銅フタロシアニンを含浸したレーヨン)であろう。標準的な酢酸セルロースタバコ煙フィルターの3mmのタバコ端部に約10〜100mgの量で存在する場合、この組合せは吸引を妨げないが、Amesテストにより、タバコ煙の変異誘導性物質75〜80%を低減する。さらに、これら成分は、安価であり、安全であり、環境に対して有害ではない。
【0100】
ドライ・ウォーターとポルフィリンとの組合せは、この開示における記載に従って製造されたドライ・ウォーターに、乾燥ポルフィリンを、メチル化シリカの量(質量)以下の量で添加することによって生成される。ポルフィリンは、ドライ・ウォーターが安定して乳化された後に添加されなければならない。メチル化シリカにおける乳化以前のポルフィリンの水への溶解は、不安定なポルフィリン/ドライ・ウォーター化合物を生ずる。好適な具体例では、ポルフィリンを、約0.1〜0.5g/g(メチル化シリカ)の量で添加する。ドライ・ウォーター及びポルフィリン誘導繊維、例えば、ブルーコットン又はブルーレーヨンの組合せを製造するために、同じ方法を使用する。2つの物質を組み合わせた後、組合せを振盪又は攪拌して均質化する。
【0101】
周辺バリヤーを有するフィルター
本発明によるフィルターは、喫煙者の手が濡れることを防止するため、好ましくは、外部、周辺、水分不透過性バリヤー又はケーシングを具備している。このようなバリヤーは、当業者によって理解されるように、高分子材料、例えば、エチルビニルアセテート共重合体、ポリプロピレン又はナイロンから製造される。
【0102】
フィルター内における物質の位置
この開示において記載された物質は、本発明によるフィルター内に、各種の配置でフィルター内に組み込まれる。例えば、物質は、実質的に均質な態様でフィルター全体に分散される。別法では、物質は、フィルターのただ1個のセグメント、例えば、近位1/2セグメント(喫煙者に対して最も近い端部)、末端1/2セグメント(タバコに最も近い端部)、近位1/3セグメント(喫煙者に対して最も近い末端)、中央1/3セグメント又は末端1/3セグメント(タバコに最も近い端部)に分散される。例えば、タバコ煙フィルターは、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーの両方を含有する1個以上のセグメント、及び金属フタロシアニン及びポリカチオンポリマーの両方を実質的に含有しない1個以上のセグメントを包含することができる。
【0103】
他の具体例では、少なくとも1の物質が、フィルターのセグメントの1個において分散され、少なくとも1の他の物質が、フィルターの異なるセグメントにおいて分散される。2個のセグメントは、オーバーラップする区域を有していてもよい。例えば、本発明によるフィルターは、フィルターの近位1/3セグメントにおいて分散された金属フタロシアニン及びフィルターの末端1/3セグメントにおいて分散されたポリカチオンポリマーを含有し、中央セグメントは金属フタロシアニン及びポリカチオンポリマーの両方を含有していてもよい。
【0104】
他の具体例では、物質はフィルターに組み込まれ、このフィルターは、ついで、標準的なタバコ煙フィルターの端部に装着される。好適な具体例では、物質は、標準的なタバコ煙フィルターの短縮バージョンに似たタバコ煙フィルターに組み込まれ、ついで、短縮フィルターが標準的なタバコ煙フィルターの端部に装着される。この具体例では、使用者は、喫煙可能なデバイスの末端端部に付加される市販のフィルターとは異なり、標準的なフィルターとの構造的な類似性のため、付加短縮フィルターには明確には気がつかないであろう。
【0105】
さらに、本発明による物質を、フィルターの残部を構成する繊維材料と、一体の刻みタバコとの間のフィルターの層に組み込むことができる。
【0106】
本発明によるフィルターを組み込んだ喫煙可能なデバイス
本発明の他の具体例によれば、一体の刻みタバコに固定された、この開示に記載するようなタバコ煙フィルターを含有する喫煙可能なデバイスが提供される。例えば、このような喫煙可能なデバイスは、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーの両方を含有するフィルターが組み込まれた紙巻タバコである。
【0107】
タバコ煙の濾過方法
本発明の他の具体例によれば、喫煙可能なデバイスにおけるタバコ煙の濾過方法が提供される。この方法は、初めに、一体の刻みタバコに装着された本発明によるタバコ煙フィルターを包含する喫煙可能なデバイスを準備することからなる。次に、一体の刻みタバコに点火して、煙がタバコ内を通過して、フィルターに入るようにする。ついで、煙をフィルター内を通過させ、これによって、煙を濾過する。
【0108】
喫煙可能なデバイスの製法
本発明の他の具体例によれば、喫煙可能なデバイスの製法が提供される。この方法は、初めに、本発明によるタバコ煙フィルターを準備することからなる。次に、フィルターを一体の刻みタバコに装着する。
【0109】
好適な具体例を参照して、本発明をかなり詳細に説明したが、他の具体例も可能である。従って、特許請求の範囲における精神は、この開示に含まれる好適な具体例の記載に限定されるものではない。ここに引用する参考文献は、その全体を参照して本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の金属フタロシアニンを含有し、さらに、1以上のポリカチオンポリマーを含有することを特徴とする、タバコ煙フィルター。
【請求項2】
1以上の金属フタロシアニンが銅フタロシアニンである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項3】
銅フタロシアニンが、染料C.I. Reactive Blue 21及び染料ORCO Turquoise Blue GGXでなる群から選ばれるものである、請求項2記載のタバコ煙フィルター。
【請求項4】
1以上の金属フタロシアニンが鉄フタロシアニンである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項5】
鉄フタロシアニンが、染料C.I. Reactive Blue 21の鉄類似体である、請求項4記載のタバコ煙フィルター。
【請求項6】
1以上のポリカチオンポリマーが、1以上の1級又は2級アミノ基を含有するカチオン部分を有するものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項7】
1以上のポリカチオンポリマーが、ポリ(プロピレンイミン)、ポリビニルアミン、ポリ(2-エチルアジリジン)、ポリ(2,2-ジメチルアジリジン)及びポリ(2,2-ジメチル-3-n-プロピルアジリジン)及びこれらの組合せでなる群から選ばれるものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項8】
1以上のポリカチオンポリマーがポリエチレンイミン(PEI)である、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項9】
1以上のポリカチオンポリマーが、分子量約1000ダルトンより大を有するものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項10】
1以上のポリカチオンポリマーが、分子量約1000〜100,000ダルトンを有するものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項11】
さらに、酢酸セルロースを実質的に含まないセルロースを含有する、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項12】
1以上の金属フタロシアニンが銅フタロシアニンであり、ポリカチオンポリマーがポリエチレンイミンである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項13】
1以上の金属フタロシアニンが鉄フタロシアニンであり、ポリカチオンポリマーがポリエチレンイミンである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項14】
ポリカチオンポリマー以外に、さらに、1以上のpH変性フィルター添加剤を含有する、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項15】
1以上のpH変性フィルター添加剤が無機塩である、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項16】
無機塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム及び陽イオン交換樹脂でなる群から選ばれるものである、請求項15記載のタバコ煙フィルター。
【請求項17】
さらにキチンを含有する、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項18】
1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーが、フィルター全体に、実質的均一に分散されている、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項19】
第1セグメント及び第2セグメントを包含し、第1セグメントは、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーを含有し、第2セグメントは、金属フタロシアニン及びポリカチオンポリマーの両方を実質的に含有しないものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項20】
第1セグメント、第2セグメント及び第3セグメントを包含し、第1セグメントは、1以上の金属フタロシアニンを含有するが、金属フタロシアニンを実質的に含有しないものであり、第2セグメントは、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーの両方を含有するものであり、第3セグメントは、1以上のポリカチオンポリマーを含有するが、金属フタロシアニンを実質的に含有しないものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項21】
請求項1記載のタバコ煙フィルターを包含することを特徴とする、喫煙可能なデバイス。
【請求項22】
タバコ煙を濾過する方法であって、a)請求項21記載の喫煙可能なデバイスを準備し;b)一体の刻みタバコに点火して、煙がタバコ内を通過して、フィルターに入るようにし;及びc)煙をフィルター内を通過させ、これによって、煙を濾過すること特徴とする、タバコ煙の濾過法。
【請求項23】
喫煙可能なデバイスを製造する方法であって、a)請求項1記載のタバコ煙フィルターを準備し;及びb)フィルターを一体の刻みタバコに装着することを特徴とする、喫煙可能なデバイスの製法。
【請求項24】
さらに、1以上のポリカチオンポリマーの溶液を、タバコ煙フィルターを構成する材料の上に噴霧することを含み、前記溶液におけるポリカチオンポリマーの濃度が約0.5〜50%である、請求項23記載の喫煙可能なデバイスの製法。
【請求項25】
さらに、1以上のポリカチオンポリマーの溶液を、タバコ煙フィルターを構成する材料の上に噴霧することを含み、前記溶液におけるポリカチオンポリマーの濃度が約1〜10%である、請求項23記載の喫煙可能なデバイスの製法。
【請求項26】
タバコ煙フィルターが、さらに、パルプ製のペーパーを含有するものであり、さらに、パルプを製紙用スクリーンに載置する以前に、パルプにポリカチオンポリマーを添加することを包含する、請求項23記載の喫煙可能なデバイスの製法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の金属フタロシアニンを含有し、さらに、1以上のポリカチオンポリマーを含有することを特徴とする、タバコ煙フィルター。
【請求項2】
1以上の金属フタロシアニンが銅フタロシアニンである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項3】
銅フタロシアニンが、染料C.I. Reactive Blue 21及び染料ORCO Turquoise Blue GGXでなる群から選ばれるものである、請求項2記載のタバコ煙フィルター。
【請求項4】
1以上の金属フタロシアニンが鉄フタロシアニンである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項5】
鉄フタロシアニンが、染料C.I. Reactive Blue 21の鉄類似体である、請求項4記載のタバコ煙フィルター。
【請求項6】
1以上のポリカチオンポリマーが、1以上の1級又は2級アミノ基を含有するカチオン部分を有するものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項7】
1以上のポリカチオンポリマーが、ポリ(プロピレンイミン)、ポリビニルアミン、ポリ(2-エチルアジリジン)、ポリ(2,2-ジメチルアジリジン)及びポリ(2,2-ジメチル-3-n-プロピルアジリジン)及びこれらの組合せでなる群から選ばれるものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項8】
1以上のポリカチオンポリマーがポリエチレンイミン(PEI)である、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項9】
1以上のポリカチオンポリマーが、分子量約1000ダルトンより大を有するものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項10】
1以上のポリカチオンポリマーが、分子量約1000〜100,000ダルトンを有するものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項11】
さらに、酢酸セルロースを実質的に含まないセルロースを含有する、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項12】
1以上の金属フタロシアニンが銅フタロシアニンであり、ポリカチオンポリマーがポリエチレンイミンである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項13】
1以上の金属フタロシアニンが鉄フタロシアニンであり、ポリカチオンポリマーがポリエチレンイミンである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項14】
ポリカチオンポリマー以外に、さらに、1以上のpH変性フィルター添加剤を含有する、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項15】
1以上のpH変性フィルター添加剤が無機塩である、請求項14記載のタバコ煙フィルター。
【請求項16】
無機塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム及び陽イオン交換樹脂でなる群から選ばれるものである、請求項15記載のタバコ煙フィルター。
【請求項17】
さらにキチンを含有する、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項18】
1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーが、フィルター全体に、実質的均一に分散されている、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項19】
第1セグメント及び第2セグメントを包含し、第1セグメントは、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーを含有し、第2セグメントは、金属フタロシアニン及びポリカチオンポリマーの両方を実質的に含有しないものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項20】
第1セグメント、第2セグメント及び第3セグメントを包含し、第1セグメントは、1以上の金属フタロシアニンを含有するが、ポリカチオンポリマーを実質的に含有しないものであり、第2セグメントは、1以上の金属フタロシアニン及び1以上のポリカチオンポリマーの両方を含有するものであり、第3セグメントは、1以上のポリカチオンポリマーを含有するが、金属フタロシアニンを実質的に含有しないものである、請求項1記載のタバコ煙フィルター。
【請求項21】
請求項1記載のタバコ煙フィルターを包含することを特徴とする、喫煙可能なデバイス。
【請求項22】
タバコ煙を濾過する方法であって、a)請求項21記載の喫煙可能なデバイスを準備し;b)一体の刻みタバコに点火して、煙がタバコ内を通過して、フィルターに入るようにし;及びc)煙をフィルター内を通過させ、これによって、煙を濾過すること特徴とする、タバコ煙の濾過法。
【請求項23】
喫煙可能なデバイスを製造する方法であって、a)請求項1記載のタバコ煙フィルターを準備し;及びb)フィルターを一体の刻みタバコに装着することを特徴とする、喫煙可能なデバイスの製法。
【請求項24】
さらに、1以上のポリカチオンポリマーの溶液を、タバコ煙フィルターを構成する材料の上に噴霧することを含み、前記溶液におけるポリカチオンポリマーの濃度が約0.5〜50%である、請求項23記載の喫煙可能なデバイスの製法。
【請求項25】
さらに、1以上のポリカチオンポリマーの溶液を、タバコ煙フィルターを構成する材料の上に噴霧することを含み、前記溶液におけるポリカチオンポリマーの濃度が約1〜10%である、請求項23記載の喫煙可能なデバイスの製法。
【請求項26】
タバコ煙フィルターが、さらに、パルプ製のペーパーを含有するものであり、さらに、パルプを製紙用スクリーンに載置する以前に、パルプにポリカチオンポリマーを添加することを包含する、請求項23記載の喫煙可能なデバイスの製法。

【公表番号】特表2006−515182(P2006−515182A)
【公表日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518880(P2005−518880)
【出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/004884
【国際公開番号】WO2004/074449
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(502155884)フィリジェント リミテッド (4)
【Fターム(参考)】