説明

金属フッ化物脱酸剤及びその製造方法、並びにフッ化水素濃度が低減されたガスの製造方法

【課題】 フッ化水素除去性能に優れた金属フッ化物脱酸剤及びその製造方法、並びにフッ化水素が非常に低い濃度にまで低減されたガスの製造方法を提供すること。
【解決手段】 金属フッ化物をフッ化カルボニル及びフッ素から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む前処理ガスと接触させる工程を含む金属フッ化物脱酸剤の製造方法及びこの方法により得られる金属フッ化物脱酸剤。金属フッ化物をフッ化カルボニル及びフッ素から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む前処理ガスと接触させて金属フッ化物脱酸剤を調製する工程;そして金属フッ化物脱酸剤をフッ化水素を含む被処理ガスと接触させる工程;を含むフッ化水素濃度が低減されたガスの製造方法。フッ化水素の含有量が0.1〜50vo1.ppmであることを特徴とするフッ化カルボニル。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
【0002】
本発明は、ガス中に含まれるフッ化水素を除去する方法に関し、特に、フッ化カルボニル(COF2)を含むガスにおいて、フッ化カルボニルを分解させることなく、簡単で効率的にフッ化水素を除去する方法に関する。
【従来の技術】
【0003】
ヘキサフルオロプロピレンを酸素で酸化してヘキサフルオロプロピレンオキサイドを製造する際にフッ化カルボニルが副生する。このフッ化カルボニルは半導体製造工程のチャンバークリーニングガス等として有用である。フッ化カルボニルは分解してもCF4等の温暖化効果の大きなガスを殆どまたは全く発生しない。近年、このような利点を有するフッ化カルボニルを半導体製造工程に積極的に使用することが提案されている。
【0004】
フッ化カルボニルガスには、通常、その生成過程でフッ化カルボニルと共に生成したフッ化水素(HF)が混入している。また、フッ化カルボニルは下記反応式のように雰囲気中の水分と反応してフッ化水素と二酸化炭素に容易に分解する。
【0005】
COF2 + H2O → 2HF + CO2
このため、フッ化カルボニルガスには、通常、不純物としてフッ化水素や二酸化炭素などの酸成分が比較的高い濃度で含まれている。
【0006】
フッ化カルボニルガスを半導体製造工程全般にわたり幅広く使用するためには、不純物として混入しているこのような酸成分、特にフッ化水素の濃度を制御する必要がある。即ち、フッ化水素は反応性、腐食性が高いので、半導体製造工程を精密に制御するためには、使用するフッ化カルボニルガスに含まれるフッ化水素濃度が精密に制御されている必要がある。また、半導体製造工程の設備やフッ化カルボニルガスを輸送する容器の腐食を防止するために、フッ化水素が可及的に除去されている必要がある。
【0007】
更に、フッ化カルボニルは有機合成反応で使用される試薬としても利用される。しかし、フッ化水素はフッ化カルボニルを利用した反応においてその反応触媒を失活させるという問題がある。このため、有機合成の分野においてもフッ化カルボニルからフッ化水素を除去する方法が望まれている。
【0008】
前述したように、フッ化カルボニルは加水分解しやすい。このため、フッ化水素を除去するために、一般に脱酸剤として使用されているアルカリ性水溶液やAl23、SiO2等のフッ化水素と反応して水を発生するような脱酸剤を使用することはできない。従来、フッ化カルボニルからフッ化水素を除去する方法としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等のアルカリ金属フッ化物からなる脱酸剤にフッ化水素を吸着させる方法が知られている。この方法では、脱酸剤に吸着されたフッ化水素は加熱により脱酸剤から脱離するので、脱酸剤を加熱再生して繰り返し使用することができる。しかし、このような通常の加熱脱着処理を行うだけでは、脱酸効率が低く、フッ化水素濃度を半導体製造工程や有機合成に有用な程度に低減することができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フッ化水素除去性能に優れた金属フッ化物脱酸剤及びその製造方法を提供することである。
本発明の目的はまた、フッ化水素が非常に低い濃度にまで低減されたガスの製造方法を提供すること、特に、フッ化カルボニルガスからフッ化水素を簡便な手段により効率良く除去してフッ化水素が非常に低い濃度にまで低減されたフッ化カルボニルガスを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、金属フッ化物をフッ化カルボニルまたはフッ素(F2)を含むガスで処理することにより脱酸性能の優れた金属フッ化物脱酸剤を得ることができ、この脱酸剤を使用することにより、フッ化カルボニルを分解させることなく効率的にフッ化水素を除去できることを見出した。本発明は上記知見に基づくものである。
【0011】
即ち、本発明によれば、金属フッ化物をフッ化カルボニル及びフッ素から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む前処理ガスと接触させる工程を含む金属フッ化物脱酸剤の製造方法、及びこの方法により得られる金属フッ化物脱酸剤が提供される。この方法において、前処理ガスがフッ化カルボニルを10〜100vo1.%含むこと、前処理ガスがフッ素を10〜100vol.%含むこと、前処理ガスが不活性ガスを含むことが好ましい。またこの方法は、金属フッ化物を前処理ガスと接触させる前に、金属フッ化物を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程を更に含むことが好ましい。
【0012】
本発明によればまた、金属フッ化物をフッ化カルボニル及びフッ素から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む前処理ガスと接触させて金属フッ化物脱酸剤を調製する工程;そして金属フッ化物脱酸剤をフッ化水素を含む被処理ガスと接触させる工程;を含むフッ化水素濃度が低減されたガスの製造方法が提供される。この方法において、被処理ガスが0.001vol.%以上0.5vol.%未満のフッ化水素を含むこと、被処理ガスがフッ化カルボニルを10〜99.99vo1.%含むこと、前処理ガスがフッ化カルボニルを10〜100vo1.%含むこと、前処理ガスがフッ素を10〜100vol.%含むこと、前処理ガスが不活性ガスを含むことが好ましい。またこの方法は、金属フッ化物を前処理ガスと接触させる前に、金属フッ化物を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程を更に含むことが好ましい。
【0013】
本発明によればまた、フッ化水素の含有量が0.1〜50vo1.ppm、好ましくは0.1〜10vo1.ppm、より好ましくは0.1vo1.ppm以上2vo1.ppm未満、最も好ましくは0.1〜1vo1.ppmであるフッ化カルボニルが提供される。
【発明の実施の形態】
【0014】
(作用)
本発明は、後述する実施例で説明するように経験的に見出されたものであり、いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明においては以下の反応メカニズムにより脱酸性能の優れた金属フッ化物脱酸剤が得られていると考えられる。
【0015】
即ち、金属フッ化物表面には雰囲気中の水分が付着しており、この水分が金属フッ化物表面の酸吸着性能を低下させていると考えられる。従来法により金属フッ化物を不活性ガス雰囲気下で加熱乾燥しても、金属フッ化物表面に付着した水分を十分に除去することができないと考えられる。金属フッ化物をフッ化カルボニルまたはフッ素を含むガスと接触させると、フッ化カルボニルまたはフッ素は、下記反応式:
COF2 + H2O → 2HF + CO2
2F2 + 2H2O → 4HF + O2
のように金属フッ化物表面の水分と反応して、フッ化水素及び沸点の低い物質を発生すると考えられる。これら反応により水分が除去された後の金属フッ化物表面は、フッ化水素を吸着しやすい状態になると考えられる。
(金属フッ化物)
本発明において使用する金属フッ化物は、常温で固体の化合物であるが、その形状は特に限定されない。好ましくは、前処理ガス及び被処理ガスとの接触面積を広くするために、金属フッ化物は粉末状、多孔質の粒状若しくはペレット状、又はハニカム形状などの多孔形状であることが好ましい。
【0016】
本発明で用いる金属フッ化物としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Ba、Zr、Hf、Ta、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Hg、In、Sn、Pb等の金属のフッ化物、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、脱酸性能及び入手の容易さから、アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物が好ましく、特に、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム及びフッ化カルシウムが好ましい。
【0017】
また、市販の金属フッ化物を制限無く使用することができる。市販されている金属フッ化物には水分が非常に多く含まれているものがあるので、本発明の脱酸剤の製造方法に供する前に、後述するように不活性ガス雰囲気下で加熱乾燥処理することが好ましい。
(前処理ガス)
本発明で使用する前処理ガスはフッ化カルボニルまたはフッ素を含むガスである。前処理ガス中のフッ化カルボニルの濃度は、10〜100vo1.%であることが好ましく、10〜99.5vo1.%であることが好ましく、50〜99.5vo1.%であることが好ましい。また、前処理ガス中のフッ素の濃度は10〜100vol.%であることが好ましく、50〜99.5vo1.%であることが好ましい。前処理ガス中のフッ化カルボニルまたはフッ素の濃度は高い方が少ないガス量で短時間で前処理を行うことができる。しかし、高濃度フッ化カルボニルまたは高濃度フッ素は高価であると共に腐食性が高い。このため、経費やプロセスの制御、装置のメンテナンスなどをも考慮して適切な濃度のものを使用するべきである。
【0018】
前処理ガスには、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオンなどの不活性ガスを含ませることができる。この不活性ガスは、例えば、前処理ガスにおけるフッ化カルボニルやフッ素の濃度を調整する場合に好適に使用することができる。
【0019】
通常、フッ化カルボニルまたはフッ素ガスにはフッ素含有化合物、二酸化炭素などの不純物がある程度含まれている。本発明ではそのようなフッ化カルボニルまたはフッ素の濃度があまり高くないガスも前処理ガスとして使用できる点で有利である。
【0020】
本発明では、被処理ガスであるフッ化水素を含有するフッ化カルボニルガスも前処理ガスとして使用することができる。この場合には、前処理ガス用タンクと被処理ガス用タンクが共用できるので、脱酸装置を簡易にすることができるという利点がある。
(脱酸剤の製造工程)
本発明の金属フッ化物脱酸剤は、上記金属フッ化物を上記前処理ガスと接触させることにより製造される。
【0021】
前述したように前処理ガスは反応性が高く、腐食性が高い。前処理ガスをあまりに高い温度で使用すると、金属フッ化物を触媒として副反応が起こる、装置が劣化する等の問題が起こりやすくなる。このため、金属フッ化物と前処理ガスとの接触は、室温(又は常温)で行うことが最も好ましい。
(フッ化水素が低減されたガスの製造工程)
本発明のフッ化水素が低減されたガスは、上記金属フッ化物脱酸剤を被処理ガスと接触させることにより製造される。
【0022】
本発明において被処理ガスは、フッ化水素を含むガスである。被処理ガスは、0.001vol.%以上0.5vol.%未満のフッ化水素を含むことが好ましい。被処理ガスが高濃度のフッ化水素を含む場合、公知のフッ化水素除去方法によりある程度フッ化水素を除去してから、本発明の方法に供することが好ましい。
【0023】
前述したようにフッ化カルボニルガスは不純物としてフッ化水素を含んでいる場合があるので、本発明はフッ化カルボニルガス中のフッ化水素濃度を低減するのに有用である。この場合、被処理ガスがフッ化カルボニルを10〜99.99vo1.%含むことが好ましく、10〜99.9vo1.%含むことが好ましく、10〜99.5vo1.%含むことが好ましい。
【0024】
被処理ガスのフッ化カルボニルガスとしては、ホスゲンをフッ素化する方法、一酸化炭素をフッ素化する方法などの周知のフッ化カルボニル製造法で得られるフッ化カルボニルガスが使用できる。また、ヘキサフルオロプロピレンを酸素で酸化してヘキサフルオロプロピレンオキサイドを製造する際にもフッ化カルボニルが副生するが、この副生フッ化カルボニルガスも本発明における被処理ガスとして使用できる。
【0025】
金属フッ化物脱酸剤のフッ化水素を吸着する能力は温度により変化する。フッ化水素を最適に吸着する観点からは、脱酸剤は室温(又は常温)〜200℃、特に80〜120℃の温度に保たれていることが好ましい。
【0026】
金属フッ化物脱酸剤と被処理ガスとの接触温度は、脱酸剤の能力に加えて、フッ化カルボニル中に混在するフッ化水素の濃度に応じても決定されることが望ましい。例えば、ペレット状のフッ化ナトリウムはフッ化水素が高濃度の場合、80℃以下では膨潤したり破壊したりする現象が見られ、圧力損失の増大や反応管の閉塞などを引き起こす原因となる。ペレット状のフッ化ナトリウムの膨潤や破壊を防ぐためには、脱酸剤と被処理ガスとの接触温度を約80℃以上、200℃以下とすることが好ましい。一方、脱酸剤と被処理ガスとの接触温度が高すぎるとフッ化水素の反応性が高まり、装置の腐食を引き起こす恐れがあるので注意が必要である。被処理ガス中に混在するフッ化水素が数%程度であれば、被処理ガスと脱酸剤との接触は室温でも可能である。
【0027】
本工程によれば、被処理ガスと脱酸剤との十分な接触時間が確保できれば、処理ガス中のフッ化水素濃度を10vol.ppm前後まで低減することが可能である。更に、被処理ガスを金属フッ化物脱酸剤と複数回接触させる、金属フッ化物脱酸剤を充填したカラムを複数個直列に接続してその一連のカラム内を被処理ガスを通過させる等の操作を行うことにより、被処理ガス中のフッ化水素濃度を2vol.ppm未満、特に1vol.ppm以下、更には0.1vol.ppm以下の極めて低いレベルまで低減することが可能である。
【0028】
本工程は金属フッ化物表面にフッ化水素を吸着させるという現象に基づいているので、フッ化水素の除去に際して新たに化合物を生成することがない。例えば、本発明の脱酸剤はフッ化水素の吸着に際して水を生成しないので、脱酸処理中に水とフッ化カルボニルとが反応して二酸化炭素が生成することがない。実際、後述する実施例によれば本発明の脱酸処理中に二酸化炭素が発生しないことが確認されている。本工程は、このような新たに生じた化合物を脱酸処理後のガスから除去する追加の工程を必要としないので、脱酸プロセスや装置の構成を複雑にすることなくフッ化水素を除去できるという利点を有する。
(脱酸装置)
本発明のフッ化水素が低減されたガスの製造方法及びその方法に使用する装置の具体的態様を図1に基づいて説明する。
【0029】
図1は脱酸装置の概略図であり、1は前処理ガス用タンク、2は被処理ガス用タンク、3は前処理ガス流量制御装置、4は被処理ガス流量制御装置、5は金属フッ化物充填管、6はフーリエ変換赤外分光計(FT−IR)、7はフッ化水素が低減された処理ガス用タンク、8は排気系を示す。金属フッ化物充填管5には、例えば、ペレット状の多孔質金属フッ化物が充填され、ガスは金属フッ化物ペレットの間の空間を通過する際に金属フッ化物表面と接触する。図示していないが、金属フッ化物充填管5の周囲はジャケットヒータで覆われており、充填管の温度が容易に制御できるようになっている。赤外分光計6はガス中の成分の濃度を測定するために使用する。フッ化カルボニル、フッ化水素等は赤外波長領域に特性吸収を有している。この特性吸収の強度を測定することによって、ガス中の各成分の濃度を測定することができる。図示しないが、装置には不活性ガスパージのための不活性ガスタンクが備え付けられている。不要なガスは、このパージガスによって排気系8を通じて装置外に排出される。
【0030】
本発明で使用する装置は、フッ化カルボニル、フッ素、及びフッ化水素に耐え得る材料で形成することが必要である。装置の材質としては、ステンレス、鉄、アルミニウム、ニッケル、インコネル、モネルなどのニッケル合金、銅、白金、銀、フッ素系樹脂を用いることができる。脱酸剤を加熱再生する場合は耐熱性の点からステンレス、ニッケル、インコネル、モネル等で装置を形成することが好ましい。
【0031】
装置内の圧力としては特に制限なく、減圧、常圧、加圧のいずれも採用可能であるが、接触効率の点から常圧以上での処理が好ましい。
本発明のフッ化水素が低減されたガスの製造方法は、例えば、図1の装置を使用して以下のように行われる。
【0032】
即ち、前処理ガス用タンク1内の前処理ガスは、前処理ガス流量制御装置3によって金属フッ化物充填管5に供給される。この充填管5内の金属フッ化物は前処理ガスと接触して、充填管5内に金属フッ化物脱酸剤が調製される。不活性ガスパージによって装置内の前処理ガスを排気系8から排出した後、被処理ガス用タンク2内の被処理ガスが被処理ガス流量制御装置4によって金属フッ化物充填管5に供給される。充填管5内に調製された金属フッ化物脱酸剤は被処理ガスと接触して被処理ガス中のフッ化水素をその表面に吸着除去する。充填管5を通過したフッ化水素濃度が低減された被処理ガスはその一部を赤外分光計6を通過させることによってフッ化水素濃度を測定され、処理ガス用タンク7に蓄積される。
(その他の工程)
市販の金属フッ化物には、水分、二酸化炭素などの不純物が付着していることがある。このような金属フッ化物を使用する場合、本発明の脱酸剤を調製する前に金属フッ化物を予め不活性ガスを流しながら加熱してこれら不純物を脱離除去することが好ましい。このような予備加熱工程における金属フッ化物の加熱温度は100〜400℃、好ましくは200〜300℃、より好ましくは200〜250℃である。加熱時間は吸着している不純物の量により適宜決定すればよい。不純物が除去されたか否かは、例えば、赤外分光計により知ることができる。ここで、不活性ガスとしては前述したものが挙げられる。
【0033】
また、フッ化水素を吸着して吸着性能が低下した脱酸剤は、上記予備加熱工程と同じ条件により加熱してその表面に吸着しているフッ化水素を脱離させて本発明の脱酸剤として再生することができる。本発明の脱酸剤を繰り返し再生し、フッ化水素除去後のガスに対して更に再生脱酸剤を使用することによって、フッ化水素濃度を2vol.ppm未満、特に1vol.ppm以下、更には0.1vol.ppm以下の極めて低いレベルまで低減することが可能である。
【0034】
(産業上の有用性)
本発明において、被処理ガスとしてフッ化カルボニルガスを使用した場合、フッ化カルボニルを分解させることなく効率的にフッ化水素を選択的に除去することが可能である。また、本発明の方法により得られた金属フッ化物脱酸剤、特にフッ化ナトリウム脱酸剤は加熱脱着によって容易に再生することができる。したがって、ヘキサフルオロプロピレンを酸素で酸化してヘキサフルオロプロピレンオキサイドを製造する際に副生するフッ化カルボニルを本発明により脱酸処理すれば、副生したフッ化カルボニルを有機合成、半導体製造工程で使用する高純度なフッ化カルボニルガスとして有効利用することができる。しかも、本発明の金属フッ化物脱酸剤は加熱によって容易に再生し、繰り返し使用できることから、本発明による脱酸プロセスは低コストである。このように本発明によれば、副生した化学製品を付加価値の高い化学製品に低コストで変換することができるので、本発明は産業上極めて有用である。
【実施例】
【0035】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示す装置を使用し、市販のフッ化ナトリウム(3mmΦx3mm、円筒形ペレット状で多孔質、森田化学工業(株)製)を2インチステンレス管に500g充填し、2L/分の流速で乾燥窒素を流しながら5時間250℃に加熱し、乾燥させた。その後1時間、2L/分の流速で乾燥窒素を流したまま常温まで放冷して、フッ化ナトリウムを調製処理した。この調製処理後のフッ化ナトリウムに、前処理ガスとしてフッ化カルボニルガス(COF2濃度:99vol.%)を1L/分で5分間接触させ、本発明のフッ化ナトリウム脱酸剤を調製した。
【0036】
得られた本発明の脱酸剤に流速0.5L/分で乾燥窒素を30分間パージし、被処理ガスとしてフッ化水素を1.3vo1.%含むフッ化カルボニルを1L/分で5分間流した。得られた脱酸処理後のフッ化カルボニルガスをFT−IRで分析したところ、フッ化水素濃度は9vol.ppmまで低減していることがわかった。また、この時、脱酸処理後のガス中のCO2の濃度の増加はなかったので、本発明の脱酸処理の最中にフッ化カルボニルが加水分解していないことがわかった。
【0037】
なお、FT−IRはMIDAC社製IGA−2000を使用し、ガス用セルはニッケル製で長さ(光路長)10cm、4mのものを使用した。検出器は液体窒素冷却型MCTを使用した。
【0038】
(実施例2)
フッ化ナトリウム脱酸剤の調製に前処理ガスとしてフッ化カルボニルに代えてフッ素ガス(F2濃度:20vol.%)を0.1L/分の流速で2時間流した以外は実施例1と同様にして脱酸剤を調製した。
【0039】
乾燥窒素で前処理ガスをパージした後、被処理ガスとしてフッ化水素を1.3vo1.%含むフッ化カルボニルを1L/分で5分間流した。脱酸処理後のフッ化カルボニルガス中のフッ化水素濃度は13vo1.ppmまで低減していることがわかった。また、この時、処理後のガス中のCO2の濃度の増加はなかった。
【0040】
(実施例3)
実施例1で脱酸処理に使用しフッ化水素が吸着したフッ化ナトリウム脱酸剤に2L/分の流速で乾燥窒素を流しながら5時間250℃に加熱してフッ化水素を脱離させ本発明のフッ化ナトリウム脱酸剤を再生した。この再生フッ化ナトリウム脱酸剤を使用して実施例1と同様にしてフッ化カルボニルガスの脱酸処理を行ったところ、脱酸処理後のフッ化カルボニルガス中のフッ化水素の含有量は15vol.ppmにまで低減していた。
【0041】
(実施例4)
実施例2で脱酸処理に使用しフッ化水素が吸着したフッ化ナトリウム脱酸剤に2L/分の流速で乾燥窒素を流しながら5時間250℃に加熱してフッ化水素を脱離させフッ化ナトリウム脱酸剤を再生した。この再生フッ化ナトリウム脱酸剤を使用して実施例1と同様にしてフッ化カルボニルガスの脱酸処理を行ったところ、脱酸処理後のフッ化カルボニルガス中のフッ化水素の含有量は1vol.ppmにまで低減していた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明に用られる脱酸装置の概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1:前処理ガス用タンク
2:被処理ガス用タンク
3:前処理ガス流量制御装置
4:被処理ガス流量制御装置
5:金属フッ化物充填管
6:FT−IR
7:フッ化水素が低減された処理ガス用タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素の含有量が0.1〜50vo1.ppmであることを特徴とするフッ化カルボニル。
【請求項2】
金属フッ化物をフッ化カルボニル及びフッ素から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む前処理ガスと接触させる工程を含む金属フッ化物脱酸剤の製造方法。
【請求項3】
前処理ガスがフッ化カルボニルを10〜100vo1.%含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前処理ガスがフッ素を10〜100vol.%含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前処理ガスが不活性ガスを含む、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
金属フッ化物を前処理ガスと接触させる前に、金属フッ化物を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程を更に含む請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれかに記載の方法により得られる金属フッ化物脱酸剤。
【請求項8】
金属フッ化物をフッ化カルボニル及びフッ素から成る群から選ばれる少なくとも1種を含む前処理ガスと接触させて金属フッ化物脱酸剤を調製する工程;そして
金属フッ化物脱酸剤をフッ化水素を含む被処理ガスと接触させる工程;
を含むフッ化水素濃度が低減されたガスの製造方法。
【請求項9】
被処理ガスが0.001vol.%以上0.5vol.%未満のフッ化水素を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
被処理ガスがフッ化カルボニルを10〜99.99vo1.%含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前処理ガスがフッ化カルボニルを10〜100vo1.%含む、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前処理ガスがフッ素を10〜100vol.%含む、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前処理ガスが不活性ガスを含む、請求項8〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
金属フッ化物を前処理ガスと接触させる前に、金属フッ化物を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程を更に含む請求項8〜13のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−282487(P2006−282487A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108293(P2005−108293)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【Fターム(参考)】