説明

金属処理方法

【課題】より簡易に金属を分離回収することが可能な金属処理方法を提供すること。
【解決手段】第1金属と第2金属を含有する金属含有物を処理する金属処理方法であって、第2金属と金属間化合物を生成し、第1金属とは金属間化合物を生成せず、且つ生成される金属間化合物の融点が第1金属の融点よりも高くなる添加元素を金属含有物に添加(S1)し、金属含有物と添加元素の混合物を加熱(S2)し、冷却(S3)をすることにより、金属含有物中の第1金属を抽出する、金属処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二種類の金属元素を含有する金属含有物は、例えば透明導電膜として利用されている酸化インジウム錫(ITO)のように、多くの産業分野において利用されている。
【0003】
ITO透明導電膜ではインジウムが使用されており、ITO焼結体をターゲット材としてスパッタ法によって基板上に成膜しているが、このITOターゲット材の使用率は10wt%程度と低く、約45wt%がスパッタ装置の内壁に付着したスクラップとして回収され、残りの約45wt%が使用不可能になったターゲット材のスクラップとして回収されている。
【0004】
インジウムは、存在量が非常に少ない、または特定の地域に偏在しているレアメタルであるため、スクラップや使用済み基板からインジウムを分離回収してリサイクルを行い、有効活用することが強く求められている。
【0005】
従来、インジウムなどの金属元素を処理する方法として、インジウムと錫を含有する金属混合物を硝酸浸出してインジウム含有液と錫含有残渣とに分離し、インジウム及び錫のうち少なくとも一方を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、ITOを塩酸で溶解して塩化インジウム溶液とし、塩化インジウム溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、溶液中の錫を水酸化錫として除去した後に、亜鉛によりインジウムを置換してインジウムを回収する金属処理方法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−297607号公報
【特許文献2】特開2002−69544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の金属処理方法では、酸溶液を使用しているため、金属含有物を溶液中に溶解させる工程、溶液と残渣を分離する工程、及び溶液のpHを調整し中和する工程が必要となり、工程が複雑となる。
【0009】
また、分離性よく溶解し回収するためには、酸の精密な濃度管理が必要となるといった問題や、分離工程後の廃液を処理するための設備が必要であるといった問題もある。
【0010】
このように、従来の金属処理方法では、酸を用いているため、工程及び設備が複雑化するといった問題があった。
【0011】
本発明は、上記従来の金属処理方法の課題を考慮し、より簡易に金属を分離回収することが可能な金属処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、第1の本発明は、
第1金属と第2金属を含有する金属含有物を処理する金属処理方法であって、
前記第2金属と金属間化合物を生成し、前記第1金属とは金属間化合物を生成せず、且つ生成される前記金属間化合物の融点が前記第1金属の融点よりも高くなる添加元素を前記金属含有物に添加する添加工程と、
前記金属含有物の融点、及び前記添加元素の融点よりも高い温度に、前記金属含有物と前記添加元素の混合物を加熱し溶融させる加熱工程と、
溶融させた前記混合物を、前記第1金属の融点から前記第1金属の融点+10℃までの範囲内の温度に冷却する冷却工程と、
冷却した状態の前記混合物から液体を抽出する抽出工程とを備え、
前記添加工程において、前記添加元素の添加量は、前記金属含有物中の前記第1金属に対する前記添加元素の量が、前記第1金属の前記添加元素への固溶限より少なく、かつ前記第2金属が全て前記金属間化合物となる量以上である、金属処理方法である。
【0013】
第2の本発明は、
前記第1金属はインジウムであり、
前記第2金属は錫である、第1の本発明の金属処理方法である。
【0014】
第3の本発明は、
前記添加元素は、鉄、バナジウム、クロム、及びアルミニウムのうちのいずれかである、第2の本発明の金属処理方法である。
【0015】
第4の本発明は、
前記第1金属はビスマスであり、
前記第2金属は錫である、第1の本発明の金属処理方法である。
【0016】
第5の本発明は、
前記添加元素は、鉄、銅、及びアルミニウムのうちのいずれかである、第4の本発明の金属処理方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より簡易に金属を分離回収することが可能な金属処理方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる実施の形態1における金属の分離回収方法の工程を示す図
【図2】本発明にかかる実施例1における金属の分離回収方法の工程を示す図
【図3】Fe−In二元系合金状態図
【図4】Fe−Sn二元系合金状態図
【図5】本発明にかかる実施例2における金属の分離回収方法の工程を示す図
【図6】本発明にかかる実施例3における金属の分離回収方法の工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の金属処理方法の一例である金属の分離回収方法の実施の形態について説明する。
【0020】
(実施の形態1)
本発明にかかる実施の形態1の金属の分離回収方法について説明する。本実施の形態1の金属の分離回収方法は、第1金属と第2金属の二種類の金属元素を含有する金属含有物から、第1金属を回収する方法である。
【0021】
図1は、本発明にかかる実施の形態1の金属の分離回収方法の工程を示す図である。図1に示すように、本実施の形態1の金属の処理方法は、第1金属と第2金属を含有する金属含有物に添加元素を添加する添加工程S1と、金属含有物及び添加元素の混合物を溶融する加熱工程S2と、溶融された混合物を冷却する冷却工程S3と、冷却された状態の混合物から液体を取り出す抽出工程S4と、取り出した液体を凝固させ回収する回収工程S5とを備えている。
【0022】
次に、各工程について説明する。
【0023】
添加工程S1において、添加する元素は、まず第1金属と第2金属を含有する金属含有物の第2金属と金属間化合物を生成しなければならない。
【0024】
また、第1金属の融点付近で液体と固体を分離し、第1金属を回収するためには、第2金属と添加元素の化合物は、第1金属の融点付近の温度では固体の状態でなければならない。
【0025】
さらに、第1金属が固体中に完全に固溶してしまった場合、抽出することが出来ないため、添加元素の添加量は、添加元素に対する第1金属の固溶限を超えず、かつ第2金属が全て金属間化合物となる量以上とする必要がある。
【0026】
そのため、添加工程S1では、第2金属と金属間化合物を生成し、第1金属とは金属間化合物を生成しない添加元素で、かつ金属間化合物の融点が第1金属の融点よりも高い添加元素が、金属含有物中の第1金属に対する添加元素の量が第1金属の添加元素への固溶限より少なく、かつ第2金属が全て金属間化合物となる量以上、金属含有物に添加される。
【0027】
尚、金属含有物中の第1金属と第2金属の含有率が未知の場合は、予めXRFなどの元素分析を行い、含有率を明確にすれば添加元素の添加量を決定することが出来る。
【0028】
次に、第2金属と添加元素を反応させ、第2金属と添加元素の間の金属間化合物を生成する必要がある。
【0029】
そのためには、第2金属及び添加元素が溶融し均一に混合されることで反応を促進させる必要があるため、加熱工程S2で、金属含有物の融点と添加元素の融点のいずれよりも高い温度に金属含有物と添加元素の混合物が加熱され溶融される。
【0030】
そして、液体状態の第1金属を分離回収するためには、分離回収の際に第2金属と添加元素の間の固体の金属間化合物を生成する必要があり、冷却工程S3での冷却により第2金属と添加元素から金属間化合物が生成する。
【0031】
更に、回収される第1金属の純度は、分離回収時の温度が第1金属の融点近傍であるほど高くなり、状態図から第1金属の融点から第1金属の融点+10℃の範囲ではほぼ一定であるため、第1金属を純度よく回収するためには、本発明の実施の形態のように、冷却工程S3で第1金属の融点から第1金属の融点+10℃までの範囲に冷却が行われ、抽出工程S4において、その冷却された温度状態で液体が抽出される。
【0032】
そして、最後に、回収工程S5によって抽出した液体が、凝固され、固体として回収される。
【0033】
以上のように、本発明の金属の分離回収方法は、二種類の金属元素のうち、一種類のみと金属間化合物を生成する添加元素を加え、加熱、冷却、抽出、及び凝固の工程を行うことで、二種類の金属元素を含有する金属含有物から、酸溶液を用いずに一種の金属を分離回収することができ、廃金属の混合物から所定の金属を抽出し再利用するリサイクル等の用途にも適用できる。
【0034】
又、二種類の金属元素を含有する金属含有物から、酸溶液を用いずに一種の金属を99wt%以上の高い純度で分離回収することができるため、次工程の電気精錬でインジウム純度を更に高めるための処理時間を短縮することができる。尚、本実施の形態1では、液体物を凝固し、固体物として回収したが、液体物の状態から電気精錬を行っても良い。
【0035】
尚、実際のリサイクルにおいては、分離回収を目的とする二種類の金属元素のほかに、不純物元素が含まれる可能性が考えられる。その場合、予めXRFなどの元素分析を行い、含有される不純物元素の種類と含有量を明確にし、必要に応じて不純物元素を除去しておくことが望ましい。
【0036】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0037】
(実施例1)
本発明にかかる実施例1の金属の分離回収方法について説明する。
【0038】
本実施例1では、インジウムと錫を含有する金属含有物から、インジウムの分離回収が行われる。インジウムの分離回収工程について説明する。図2は、本実施例1の金属の分離回収方法の工程図である。
【0039】
図2の添加工程S11において、本実施例1では、錫と反応して化合物を生成するが、インジウムとは反応しない鉄粉が添加元素として選択された。そして、含まれるインジウムと錫の重量比がそれぞれ85wt%、15wt%あるインジウム−錫混合物と、添加元素としての鉄粉が(表1)に示す割合でセラミックるつぼにいれられ、加熱炉に投入された。尚、本発明の第1金属の一例は、本実施例1のインジウムに対応し、本発明の第2金属の一例は、本実施例1の錫に対応する。又、本発明の金属含有物の一例は、本実施例1のインジウム−錫混合物に対応し、本発明の添加元素の一例は、本実施例1の鉄に対応する。
【0040】
【表1】

【0041】
そして、加熱工程S12において、加熱炉が、ITOの融点約900℃および鉄の融点1538℃より高い1600℃まで加熱されることによって、ITO及び鉄の混合物は、溶融され、攪拌されながら1時間保持された。
【0042】
その後、冷却工程S13において、加熱炉内が、インジウムの融点156℃+10℃の範囲内である160℃まで自然冷却され、5分間保持された。
【0043】
続いて、抽出工程S14において、加熱炉内の液体が、別のセラミックるつぼに取り出された。このように液体を取り出した後のセラミックるつぼには、固体が残存した。
【0044】
この固体の成分を蛍光X線分析(XRF)で分析すると、加熱炉内の固体は、鉄粉の添加量によって組成は異なるが、融点が510〜1538℃のFe-Sn化合物であった。このFe-Sn化合物が、本発明の金属間化合物の一例に対応する。
【0045】
最後に、回収工程S15において、取り出した液体が20〜25℃の室温まで冷却されることによって、凝固され、回収された。
【0046】
上記(表1)の1-2〜1-6の場合、液体の回収量はそれぞれ16.4g、34.9g、49.7g、67.2g、93.9gであった。
【0047】
しかしながら、1-1の場合、160℃で保持した際に液体は存在しておらず、回収することが出来なかった。
【0048】
このように1-1の場合にインジウムが回収できなかった理由は、次のように考えられる。
【0049】
1-1の場合、インジウム−錫混合物1g中に含まれるインジウムは約0.85gであり、99gの鉄と0.85gのインジウムの合計に対する、99gの鉄の比率は、次の(数1)で求められるように99wt%より大きくなっている。
【0050】
【数1】

【0051】
図3は、Fe-In二元系合金状態図であり、この図は、「BINARY ALLOY PHASE DIAGRAMS, SECONDEDITION, PLUS UPDATES」(ASM international社、1996年発行CDデータ)に記された図である。
【0052】
この図3は、縦軸に温度(℃)、横軸にFe/Fe+Inの割合(wt%)を示し、図3の斜線領域に相当する部分は、鉄中にインジウムが固溶することができる領域である。
【0053】
インジウムは鉄と反応しないが、この図3の斜線領域に示されているように、インジウムが微量の場合、鉄中にインジウムは固溶することができる。
【0054】
そのため、1-1の場合は、インジウム−錫混合物に含まれるインジウムがすべて鉄中に固溶してしまったため、160℃の状態で液体として回収できなかったと考えられる。
【0055】
そして、液体を回収することができた(表1)の1-2〜1-6の場合に、回収された液体が凝固したものに含まれるインジウムの含有量についてXRFで分析が行われた。
【0056】
その結果、上記1-2〜1-5では液体中のインジウム含有量は99wt%以上であり、インジウム―錫混合物の錫とインジウムの混合状態から、インジウムを分離して回収できていることが確認された。
【0057】
しかしながら、1-6ではインジウム含有量は93wt%で、残部には主に錫が不純物として含まれており、インジウムの純度が低下した。
【0058】
そこで、次に、1-5と1-6の間で、鉄の比率を5wt%ずつ変化させた場合の液体回収量及びそのインジウム含有率を明確にするために、(表2)に示す割合で、インジウム−錫混合物と鉄粉をセラミックるつぼに入れて加熱炉に投入し、上記S2〜S5と同様の工程を実施した。その他の構成、評価方法については同様である。
【0059】
【表2】

【0060】
上記(表2)の1-7〜1-9の場合、液体の回収量はそれぞれ70.2g、73.8g、77.7gであった。回収された液体が凝固したものに含まれるインジウムの含有量をXRFで分析したところ、いずれの場合も99wt%以上であり、インジウム−錫混合物の錫とインジウムの混合状態から、インジウムを分離して回収できていることが確認された。
【0061】
上記1-6の場合に、回収されたインジウムの純度が低かった理由は、以下のように考えられる。
【0062】
1-6の場合、インジウム−錫混合物99g中に含まれる錫は15g程度であり、15gの錫と1gの鉄の合計に対する、1gの鉄の比率は、次式で求められるように6wt%程度である。
【0063】
【数2】

【0064】
図4は、Fe-Sn二元系合金状態図であり、この図は、「BINARY ALLOY PHASE DIAGRAMS, SECONDEDITION, PLUS UPDATES」(ASM international社、1996年発行CDデータ)に記された図である。
【0065】
この図4は、縦軸に温度(℃)、横軸にFe/Fe+Snの割合(wt%)を示し、
Fe−Sn化合物となるための、SnとFeの合計に対するFeの割合とその温度を示している。
【0066】
図4の斜線領域に相当する部分は、SnがFeと反応しきれずにSnの状態で残存する領域であり、SnとFeの合計に対するFeの割合が20wt%よりも少ない場合である。そのことから、SnがFeと反応し、Snの全てがFe−Sn化合物となるためには、SnとFeの合計に対するFeの割合が20wt%以上、必要である。
【0067】
上記1-6の場合は、図4の斜線領域に相当するため、160℃で液体成分を回収した際に、インジウム中に錫が含まれることになり、インジウムの純度が低下したと考えられる。
【0068】
以上から、本発明の効果を発現するためには、添加工程S11における鉄の添加量として、鉄の含有量の下限値は、全ての錫が鉄と反応しFe-Sn化合物を生成するように、インジウム−錫混合物中の錫に対する鉄の重量比が20wt%以上となる量とする必要がある。
【0069】
なお、逆に鉄の含有量が多く、錫と反応しきれず残存する場合については、抽出工程S14において、残存した鉄は固体として存在しているため、液体を抽出する際に鉄は除去されるため問題は無い。
【0070】
一方、鉄の含有量の上限値は、鉄へのインジウムの固溶限を超えてインジウムが鉄にすべて固溶してしまうことを防ぐために、インジウムの鉄への固溶限である1wt%を超えないようにする必要がある。つまり、鉄の含有量の上限値は、インジウム−錫混合物中のインジウムと鉄の合計に対する、鉄の重量比が99wt%以下となる量とする必要がある。
【0071】
以上より、鉄の添加量は、全ての錫が鉄と反応する量以上であって、インジウムの鉄への固溶限となる量より少なくする必要がある。
【0072】
次に、加熱工程S12における加熱温度について検証するため、加熱炉の加熱温度を変化させてインジウムの分離回収を行った。
【0073】
加熱炉の温度をインジウム−錫混合物の融点以上かつ鉄の融点以下の1000℃とし、その他の条件は上記1-5の場合と同様とした。
【0074】
その際の液体回収量とインジウム含有量は、それぞれ76g、89wt%であり、不純物の錫が多く含まれていた。
【0075】
これは、加熱時に鉄が溶融しないために鉄が液体中に均一に分散されず、インジウム−錫混合物中の錫と鉄の反応が十分に進行しなかったためと考えられる。
【0076】
以上の結果から、加熱温度はインジウム−錫混合物、鉄の融点以上とする必要があることが分かる。
【0077】
更に、回収したインジウムの純度は、分離回収時の温度がインジウムの融点近傍であるほど高くなるが、状態図からインジウムの融点からインジウムの融点+10℃の範囲ではインジウムの純度はほぼ一定であることが分かる(図4の丸P参照)。
【0078】
そのため、インジウムを純度よく回収するためには、本発明の実施例1のようにインジウムの融点からインジウムの融点+10℃までの範囲に冷却した状態で液体を抽出する必要がある。
【0079】
以上のように、本実施例1における金属の分離回収方法では、従来技術のように酸を用いないため、簡易に金属の分離回収を行うことが出来る。
【0080】
(実施例2)
以下に、本発明にかかる実施例2の金属の分離回収方法について述べる。
【0081】
本実施例2では、実施例1における添加元素をバナジウムに変更して、インジウムと錫を含有する金属含有物からのインジウムの分離回収を行った。
【0082】
図5は、本実施例2における金属の分離回収方法の工程を示す図である。
【0083】
図5の添加工程S21において、本実施例2では、本発明の添加元素の一例としてバナジウムが選択された。バナジウムも鉄と同様に、錫と反応して化合物を生成するが、インジウムとは反応しない元素である。そして、インジウムを85wt%含むインジウム−錫混合物80gに、バナジウム粉20gが添加され、これらインジウム−錫混合物とバナジウム粉が入れられたセラミックるつぼが、加熱炉の中に投入された。
【0084】
なお、バナジウム粉の添加量は実施例1の結果を考慮し、インジウム−錫混合物中の全ての錫がバナジウムと反応しV-Sn化合物を生成するように、インジウム−錫混合物中の錫とバナジウムの合計に対する、バナジウムの重量比が下限値である21wt%より大きくなるようにバナジウム粉の添加量が調整された。この下限値は、V-Sn二元系合金状態図から得られる。
【0085】
かつ、バナジウム粉の添加量が、インジウムのバナジウムへの固溶限である約1wt%を超え、インジウムがバナジウムに全て固溶してしまうことを防ぐために、インジウム−錫混合物中のインジウムとバナジウムの合計に対する、バナジウムの重量比が99wt%以下となる量にバナジウム粉の添加量が調整された。尚、この固溶限は、In-V二元系合金状態図から得られる。
【0086】
以上のように、バナジウムの添加量は、全ての錫がバナジウムと反応する量以上であって、インジウムのバナジウムへの固溶限となる量より少なくする必要がある。
【0087】
次に、加熱工程S22において、加熱温度は、実施例1の結果を考慮し、バナジウムの融点である1910℃より高い2000℃とした。
【0088】
その他の工程である冷却工程S23、抽出工程S24、及び回収工程S25については、実施例1の冷却工程S13、抽出工程S14、及び回収工程S15と同様の方法で処理が行われた。
【0089】
その結果、加熱炉中に生成された固体をXRFで分析するとV-Sn化合物(融点約1600℃)であった。このV-Sn化合物が、本発明の金属間化合物の一例に対応する。
【0090】
液体の回収量は66.7gであり、インジウム含有量をXRFで分析したところ99wt%以上であり、インジウム−錫混合物から、インジウムを分離して回収できることが確認された。
【0091】
なお、本実施例1では、添加元素として鉄を、本実施例2では添加元素としてバナジウムを用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、錫と金属間化合物を生成し、かつインジウムと反応しない元素であればよく、例えばクロム、アルミニウムでもよい。
【0092】
(実施例3)
次に、本発明にかかる実施例3における金属の分離回収方法について説明する。
【0093】
本実施例3では、ビスマスと錫を含有する鉛フリーはんだから、ビスマスの回収が行われる。ビスマスの分離回収工程について説明する。図6は、本実施例3における金属の分離回収方法の工程を示す図である。
【0094】
図6の添加工程S31において、まず、錫と反応して化合物を生成するが、ビスマスとは反応しない鉄粉が添加元素として選択された。そして、ビスマスを58wt%含む鉛フリーはんだ中に鉄粉が添加され、該鉛フリーはんだと鉄粉が、下記(表3)に示す割合で、セラミックるつぼに入れられ、加熱炉の中に投入された。尚、本発明の第1金属の一例は、本実施例3のビスマスに対応し、本発明の第2金属の一例は本実施例3の錫に対応する。又、本発明の金属含有物の一例は、本実施例3の鉛フリーはんだに対応し、本発明の添加元素の一例は、本実施例3の鉄に対応する。
【0095】
【表3】

【0096】
本実施例3では、加熱工程S32における加熱温度は、Sn-58wt%Biはんだの融点である138℃および添加元素の鉄粉の融点1538℃よりも高い1600℃に設定され、冷却工程S33における液体と固体の分離は、ビスマスの融点271℃からビスマスの融点271℃+10℃の範囲内である280℃で行われた。
【0097】
その他の工程である抽出工程S34及び回収工程S35については、実施例1の抽出工程S14、及び回収工程S15と同様である。
【0098】
そして、加熱炉内で生成された固体をXRFで分析したところ、実施例1と同様に、鉄粉の添加量によって組成は異なるが、融点が510〜1538℃のFe-Sn化合物であった。このFe-Sn化合物が、本発明の金属間化合物の一例に対応する。
【0099】
回収した液体をXRFで分析した結果、ビスマスが主成分であり、その質量及びビスマス含有量は、(表3)に示されている。
【0100】
いずれの場合も、ビスマスを58wt%含む鉛フリー合金から、ビスマス含有量99wt%以上の純度でビスマスを回収できていることが確認された。
【0101】
なお、本実施例3において、鉄粉の添加量がいずれの場合でもビスマスを効率よく回収できているが、実施例1の場合と同様に、鉄の含有量の下限値は、錫が完全に金属間化合物となるように、鉛フリーはんだ中の錫と鉄の合計に対する、鉄の重量比が20wt%以上となるようにする必要がある。
【0102】
一方、鉄の含有量の上限値は、鉄へのビスマスの固溶限(≪1wt%)を超えてビスマスが鉄に全て固溶してしまうことを防ぐために、鉛フリーはんだ中のビスマスと鉄の合計に対する、鉄の重量比が99wt%以下となる量とする必要がある。尚、この固溶限は、Bi-Fe二元系合金状態図から得られる。
【0103】
又、回収したビスマスの純度は、分離回収時の温度がビスマスの融点近傍であるほど高くなるが、状態図からビスマスの融点からビスマスの融点+10℃の範囲ではビスマスの純度はほぼ一定であることが分かる。
【0104】
尚、本実施例3では、添加元素として鉄を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、錫と金属間化合物を生成し、かつビスマスと反応しない元素であればよく、例えば銅、アルミニウムでもよい。
【0105】
又、上記実施例1〜3では、金属含有物中の両金属の含有率が既知のものを使用したが、未知のものを使用することも可能であり、未知の場合は予めXRFなどの元素分析を行い、含有率を明確にすれば添加元素の添加量を決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の金属処理方法によれば、より簡易に金属を分離回収することが出来、リサイクル等の用途等として有用である。
【符号の説明】
【0107】
S1、S11、S21、S31 添加工程
S2、S12、S22、S32 加熱工程
S3、S13、S23、S33 冷却工程
S4、S14、S24、S34 抽出工程
S5、S15、S25、S35 回収工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属と第2金属を含有する金属含有物を処理する金属処理方法であって、
前記第2金属と金属間化合物を生成し、前記第1金属とは金属間化合物を生成せず、且つ生成される前記金属間化合物の融点が前記第1金属の融点よりも高くなる添加元素を前記金属含有物に添加する添加工程と、
前記金属含有物の融点、及び前記添加元素の融点よりも高い温度に、前記金属含有物と前記添加元素の混合物を加熱し溶融させる加熱工程と、
溶融させた前記混合物を、前記第1金属の融点から前記第1金属の融点+10℃までの範囲内の温度に冷却する冷却工程と、
冷却した状態の前記混合物から液体を抽出する抽出工程とを備え、
前記添加工程において、前記添加元素の添加量は、前記金属含有物中の前記第1金属に対する前記添加元素の量が、前記第1金属の前記添加元素への固溶限より少なく、かつ前記第2金属が全て前記金属間化合物となる量以上である、金属処理方法。
【請求項2】
前記第1金属はインジウムであり、
前記第2金属は錫である、請求項1記載の金属処理方法。
【請求項3】
前記添加元素は、鉄、バナジウム、クロム、及びアルミニウムのうちのいずれかである、請求項2記載の金属処理方法。
【請求項4】
前記第1金属はビスマスであり、
前記第2金属は錫である、請求項1記載の金属処理方法。
【請求項5】
前記添加元素は、鉄、銅、及びアルミニウムのうちのいずれかである、請求項4記載の金属処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246532(P2012−246532A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118799(P2011−118799)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】