説明

金属吸着剤およびその製造方法

【課題】 重金属を含有する様々な産業廃液に対して、安価で扱い易く、優れた金属吸着能を有し、かつ吸着能力の再生と焼却による最終処理が可能な金属吸着剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 イネ科植物の茎、根および葉の少なくとも1つを乾燥・粉末化した後、酸またはアルカリにより処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属吸着剤およびその製造方法、特に、重金属を含有する様々な産業廃液に対して、安価で扱い易く、優れた金属吸着能を有し、かつ吸着能力の再生と焼却による最終処理とが可能な金属吸着剤およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼産業をはじめとする様々な産業において重金属含有廃水の処理が必要とされている。廃水からの重金属の除去(回収)処理は、現在、主に塩化鉄や硫酸アルミニウムなどの無機系凝集剤が用いられているが、発生する重金属含有スラッジの固形物量が多くなるため、凝集剤添加費用やスラッジ処理費用が大きく、処理費用の低減が求められている。
【0003】
他方、発酵産業で生じる酵母やカビ類の菌体や様々な農産廃棄物(籾殻、ホップやクルミの殻等)が金属吸着能力を有しているが、その各種重金属に対する吸着能力や物理的強度は必ずしも満足できるものではない。
【0004】
また、特許文献1(特開平6−238162号公報)には、培養して得られる藻類を金属吸着剤として利用することが開示されているが、培養工程や藻類から成分を抽出して金属吸着剤を製造する過程で、抽出、煮沸、凍結乾燥という工程を経るため、吸着剤製造コストが高くなるという欠点を有していた。
【0005】
【特許文献1】特開平6−238162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、既存の生物資源を原料とした吸着剤や活性炭と比べ高い金属吸着能力を有し、かつ物理的強度や耐久性を併せ持つ新規な金属吸着剤およびその製造方法を安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0008】
請求項1記載の発明は、イネ科植物の茎、根および葉の少なくとも1つからなることに特徴を有するものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、イネ科植物は、乾燥・粉末化された後、酸またはアルカリにより処理されていることに特徴を有するものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1から2に記載の発明において、イネ科植物は、ヨシからなることに特徴を有するものである。
【0011】
請求項4記載の発明は、イネ科植物の茎、根および葉の少なくとも1つを乾燥・粉末化した後、酸またはアルカリにより処理することに特徴を有するものである。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、イネ科植物としてヨシを用いることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、河原や植栽浄化施設から回収したヨシを材料として優れた金属吸着剤を製造することができ、重金属を含有する様々な産業廃液に対して、安価で扱い易い金属吸着処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、この発明の金属吸着剤の一実施態様を説明する。
【0015】
この発明において用いるヨシ(Phragmites australis)は、イネ科の多年草植物であり、その生長の速さと優れた水質浄化機能とが注目され、植栽浄化水路や人工的ヨシ湿地が創出されている。
【0016】
しかし、窒素やリンの除去といった水質浄化に利用された後に残存するヨシを放置すると、ヨシに吸収された窒素、リンが再溶出することから、ヨシの刈り取り、有効利用が求められていた。しかし、刈り取られたヨシの茎、根あるいは葉を有効に利用する方法が提案されていない。一方、ヨシは、日本各地の河原に自然に群生していることから、金属吸着剤の原料として安価に入手できる状況にある。
【0017】
この発明のヨシの茎、根および葉の少なくとも1つからなる金属吸着剤は、採取したヨシの茎、根および葉の少なくとも1つを乾燥した後、粉末化する。乾燥の方法としては天日乾燥や機械乾燥を、粉末化方法としてはミル破砕、グラインダー破砕などを採用することができるが、特に限定するものではない。
【0018】
乾燥温度は、特に規定するものではないが、ヨシの細胞壁が熱によって変質しない常温から60℃程度が好ましく、粉末化する粒径は細かいほど吸着剤の比表面積が大きくなるため、吸着能力が向上するが、粉末化に必要な動力を鑑みて100μm前後が望ましい。
【0019】
次に、粉末化したヨシの茎、根および葉の少なくとも1つを酸水溶液もしくはアルカリ水溶液を用いて表面改質処理を施し、次いで、pHが中性付近になるまで水洗浄処理を行う。
【0020】
改質処理に用いる酸水溶液としては0.1規定塩酸水溶液を、アルカリ水溶液としては0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましいが、他の酸、アルカリ水溶液が安価に入手できれば、特に、0.1規定塩酸水溶液、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液に限定されない。
【0021】
この発明の金属吸着剤を用いて金属含有水溶液から金属を分離・除去するためには、この金属吸着剤を充填したカラムリアクター、あるいは、この金属吸着剤を懸濁させた流動床リアクターに、金属含有水溶液を通液し、吸着剤に金属を吸着させる。この際、金属含有水溶液のpHは4以上が好ましい。
【0022】
この処理により、水溶液中の重金属は、速やかに吸着剤に吸着され、分離・除去される。
【0023】
このようにして重金属を吸着した金属吸着剤から、重金属を回収するには、この重金属を吸着した金属吸着剤を、0.1規定の塩酸水溶液で洗浄処理すればよい。この処理により、重金属が吸着剤から脱離し、90%以上の収率で金属を回収することができる。
【0024】
このようにして、重金属を脱離した金属吸着剤は、pHが中性付近を示すまで水洗浄を行うことにより、再び金属吸着剤として使用することができる。その金属吸着能力は、10回以上の繰り返し使用の後でも減少せず、むしろ吸着能力が10%程度増加する。
【0025】
また、金属を吸着した金属吸着剤は、可燃性であるため、燃焼による最終処分と重金属の濃縮・回収を行うこともできる。
【実施例】
【0026】
実施例1(金属吸着剤の製造)
河原で群生していたヨシの地上部(葉および茎)を採取し、オーブンに入る長さに切断したもの100gを65℃の温度に加熱して乾燥させた。次いで、この乾燥させたヨシをフードプロセッサーにより粉末化して、40gの粒径90μmのヨシ粉末を得た。これを0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬後、取り出し、pHが中性を示すまで水道水により洗浄処理を行い、所望の金属吸着剤35gを得た。
【0027】
実施例2(金属の吸着処理)
表1に示す金属塩から構成される既知濃度の金属水溶液を調製し、その水溶液10mlに0.05mgの金属吸着剤を添加した。室温25℃で振とう条件下で12時間放置し、吸着平衡状態における水溶液中に残存する金属濃度を測定し、金属吸着剤と各種重金属間の吸着等温曲線を求めた。吸着等温曲線をLangmuir式により近似し、その定数から求めた各種重金属に対する最大吸着量を表1に示した。
【0028】
また、比較のためにヨシ以外を原料とする金属吸着剤について報告されている各種金属の最大吸着量も併記した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から明らかなように、この発明により得られた吸着剤の各種重金属に対する吸着能力は、既報のバイオマス系吸着剤や活性炭での最大吸着量を明らかに上回るものであることが分かった。
【0031】
なお、表1における文献は、下記の通りである。
(文献1)Rui A.R.Boaventura et al,. (2003) Cadmium(II) and Zinc(II) adsorption by the aquatic moss Fontinalis antipyretica: effect of temperature, pH and water hardness. Water Research. 38, 693-699.
(文献2)Y.Sag, T.Kutsal. (1995) Biosorption of heavy metals by Zoogloea ramigera: use of absorption isotherms and a comparison of biosorption characteristics. The Chemical Engineering Journal. 60, 181-188.
(文献3)Guangyu Yan,Thiruvenkatachari Viraraghavan. (2003) Heavy metal removal from aqueous solution by fungus Mucor rouxii, Water research, 37, 4486-4496.
(文献4)M. Iqbal et al,. (2004) Biosorption of lead, copper and zinc ions on loofa sponge immobilized biomass of Phanerochaete chrysosporium, Minerals Engineering. 17, 217-223.
(文献5)D. Feng, C. Aldrich. (2003) Adsorption of heavy metals by biomaterials derived from the marine alga Ecklonia maxima, Hydrometallurgy. 17, 1-10.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物の茎、根および葉の少なくとも1つからなることを特徴とする金属吸着剤。
【請求項2】
前記イネ科植物は、乾燥・粉末化された後、酸またはアルカリにより処理されていることを特徴とする、請求項1記載の金属吸着剤。
【請求項3】
イネ科植物は、ヨシからなることを特徴とする、請求項1から2に記載の金属吸着剤。
【請求項4】
イネ科植物の茎、根および葉の少なくとも1つを乾燥・粉末化した後、酸またはアルカリにより処理することを特徴とする金属吸着剤の製造方法。
【請求項5】
イネ科植物としてヨシを用いることを特徴とする、請求項4記載の金属吸着剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−75701(P2006−75701A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261155(P2004−261155)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月17日 社団法人日本水環境学会発行の「第38回 日本水環境学会年会講演集」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】