説明

金属担持窒化ホウ素ナノ構造体及びその製造方法

【課題】窒化ホウ素ナノ構造体(ナノチューブ,ナノシート,ナノコーン)に金属超微粒子を担持させた金属担持金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を高いエネルギー変換効率で製造することが可能となる金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属細線1に窒化ホウ素2を設け、この窒化ホウ素2を設けた前記金属細線1にパルス電流を通電し、この金属細線1を加熱しプラズマ化させて窒化ホウ素ナノ構造体を製造することを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属超微粒子を担持させた金属担持窒化ホウ素ナノ構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(hBN)は、a軸方向600W/mKと高い熱伝導度を有し、且つこれが結晶方位によって100倍以上異なるという異方性の強い材料であり、また、負性電子親和力を有し、電界放射電子銃などに好適な材料である。このため、六方晶窒化ホウ素(hBN)をナノチューブ(窒化ホウ素ナノチューブ),ナノシート(窒化ホウ素ナノシート),ナノコーン(窒化ホウ素ナノコーン)にした後、機械的或いは電磁気的に配列させることにより、放熱部材や発光素子への応用が期待されている。
【0003】
この六方晶窒化ホウ素(hBN)からなる窒化ホウ素ナノチューブ,窒化ホウ素ナノシート,窒化ホウ素ナノコーンを電界や磁界により規則的に配列させるためには、これらに伝導性若しくは磁性を有する超微粒子を付着させることが必要である。
【0004】
また、この伝導性若しくは磁性を有する超微粒子を六方晶窒化ホウ素(hBN)に付着させた金属担持窒化ホウ素ナノチューブ,金属担持窒化ホウ素ナノシート,金属担持窒化ホウ素ナノコーンは、触媒としての利用も可能であり用途の広い材料として注目されている。
【0005】
これら金属担持窒化ホウ素ナノチューブ,金属担持窒化ホウ素ナノシート,金属担持窒化ホウ素ナノコーンの実現のためにはFeやCoなどの金属微粒子を窒化ホウ素ナノチューブ,窒化ホウ素ナノシート,窒化ホウ素ナノコーン上で付着させる必要があり、そのためには、金属微粒子と窒化ホウ素とを同時に高温下に保持すればよい。具体的には、例えば水中で六方晶窒化ホウ素(hBN)にパルスレーザーを照射するレーザーアブレーション方法を用いた六方晶窒化ホウ素ナノシートが提案されている(非特許文献1)。しかし、このレーザーアブレーション方法に採用するパルスレーザーのエネルギー交換効率は1%〜2%と低く、よって、これまでは実施されていなかった。
【0006】
また、レーザーアブレーションを含む他の物理的蒸発法よりも1桁〜2桁高いエネルギー交換効率の超微粒子製造方法としてパルス細線放電法がある。このパルス細線放電法は、導電細線にパルス通電することにより、金属細線を蒸発させ超微粒子化する手法であり、例えば、雰囲気ガス中に有機物蒸気や霧を分散させ、その中で金属細線にパルス通電することにより金属超微粒子表面に有機物を付着させる方法や(特許文献1)、原料細線に有機物を塗布し有機物被覆金属超微粒子を製造する方法(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3790898号公報
【特許文献2】特開2007−254841号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Shoji,T.Nakayama,H.Suematsu,T.Suzuki and K.Niihara,“Synthesis of boron nitride nanosheets by an under methanol laser ablation method”,J.Ceram.Process.Res.,10 (2009) s23−s25
【非特許文献2】H.Suematsu,S.Nishimura,K.Murai,Y.Hayashi,T.Suzuki,T.Nakayama,W.Jiang,A.Yamazaki1,K.Seki1 and K.Niihara,“Pulsed Wire Discharge Apparatus for Mass Production of Copper Nanopowders”,Rev.Sci.Inst.,78 (2007) 056105.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高い電気抵抗を有する六方晶窒化ホウ素(hBN)は通電加熱による蒸発が生じないため、前述したパルス細線放電の原料として単体で用いることはできず、更に、この六方晶窒化ホウ素(hBN)は沸点が高く、雰囲気ガス(例えば窒素ガスやアルゴンガスなど)中に蒸気や霧として分散させることは困難であったため、パルス細線放電法を用いて窒化ホウ素ナノ構造体を製造することはできず、また、金属担持も不可能であった。
【0010】
本発明は上記問題を解決し、従来技術では不可能であった窒化ホウ素ナノ構造体(窒化ホウ素ナノチューブ,窒化ホウ素ナノシート,窒化ホウ素ナノコーンなど)に金属超微粒子を担持させた金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を高いエネルギー変換効率で製造することが可能な金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0012】
金属細線1に窒化ホウ素2を設け、この窒化ホウ素2を設けた前記金属細線1にパルス電流を通電し、この金属細線1を加熱しプラズマ化させて金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を製造することを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0013】
また、請求項1記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属細線1は、前記パルス電流を通電した際の抵抗が放電回路の内部抵抗よりも大きく且つ前記放電回路の最大電圧で蒸発可能な材質及び直径であることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0014】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属細線1は、Fe,Co若しくはNiの単体またはこれらのうち少なくとも二種類を含む合金からなることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属細線1は、直径0.05mm〜0.5mmに設定されていることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0016】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属配線1の加熱時間を0.1ms以下とすることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0017】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属細線1に前記窒化ホウ素2を0.01mm〜0.1mmの厚さで塗布することを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0018】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記窒化ホウ素2は、六方晶窒化ホウ素2であることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0019】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属担持窒化ホウ素ナノ構造体は、窒化ホウ素2からなる厚さ5nm〜500nmのナノチューブ,ナノシート若しくはナノコーンの少なくとも1つであることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0020】
また、金属粒子が担持された金属担持窒化ホウ素ナノ構造体であって、厚さ5nm〜500nmであり、また、前記金属粒子は、粒径10nm〜500nmのFe,Co若しくはNiの単体粒子または少なくとも前記Fe,Co若しくはNiのうち少なくとも二種を含む合金粒子であることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体に係るものである。
【0021】
また、請求項9記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体において、前記金属担持窒化ホウ素ナノ構造体は、窒化ホウ素2からなるナノチューブ,ナノシート若しくはナノコーンの少なくとも1つであることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体に係るものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、エネルギー変換効率の高いパルス細線放電法を用いて、金属細線に絶縁体である窒化ホウ素を設け、この金属細線にパルス電流を通電して加熱するから、同時に窒化ホウ素も加熱され、従って、金属超微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノ構造体、例えば、金属担持窒化ホウ素ナノチューブ,金属担持窒化ホウ素ナノシート,金属担持窒化ホウ素ナノコーンなどを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施例に用いるパルス細線放電装置の模式図である。
【図2】本実施例に示す製造方法で製造したFe−Ni合金微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノシートを示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】本実施例に示す製造方法で製造したFe−Ni合金微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノシートの粉末X線回折図形である。
【図4】本実施例に示す製造方法で製造したFe微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノシート及び窒化ホウ素ナノチューブを示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、金属細線1、例えばFe,Co若しくはNiの単体またはこれらのうち少なくとも二種類を含む合金からなる金属細線1の表面に、窒化ホウ素2、例えば六方晶窒化ホウ素2(hBN)を設け、例えば雰囲気ガスを導入可能なチャンバー3内にセットし、この金属細線1にパルス大電流を通電すると、金属細線1が電気抵抗によって瞬間的に急加熱され、この加熱された金属細線1からの熱伝導により、表面に付着している窒化ホウ素2も同時に加熱され、金属細線1と窒化ホウ素2とが蒸発しプラズマ化する。
【0025】
具体的には、金属細線1を、放電回路の内部抵抗よりも大きく且つ放電回路の最大電圧で蒸発しプラズマ化することが可能な材料及び直径とすることで、放電回路に蓄積された電気エネルギーを効率的に金属細線1と窒化ホウ素2とを蒸発プラズマ化するのに必要な内部エネルギーに変換している。
【0026】
このプラズマ状態となった金属細線1及び窒化ホウ素2はチャンバー3内に導入した雰囲気ガスによって冷却され凝固することで、金属細線1は金属超微粒子となり、また、窒化ホウ素2は、例えば窒化ホウ素ナノチューブ、窒化ホウ素ナノシート、窒化ホウ素ナノコーンなどの窒化ホウ素ナノ構造体となる。
【0027】
このプラズマ状態から金属超微粒子、窒化ホウ素ナノ構造体が形成される際に、雰囲気ガス中で互いに付着して窒化ホウ素ナノ構造体と、金属細線1の材料となる単体金属粒子若しくは合金粒子とからなる複合材料、即ち、金属超微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノ構造体となる。
【0028】
即ち、絶縁体である窒化ホウ素2は、単体ではパルス細線放電法を用いての通電加熱ができないが、このように金属細線1に設けることで金属細線1からの熱伝導により窒化ホウ素2も同時に加熱することが可能となり、これらを同時にパルス通電によって急加熱し、蒸発させプラズマ化することで金属超微粒子と窒化ホウ素ナノ構造体とを同時に高温下で存在させることができ、従って、金属超微粒子が窒化ホウ素ナノ構造体に付着し担持され、金属超微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を効率的に製造することができる。
【0029】
従来、窒化ホウ素2はパルス細線放電法を用いて通電加熱することができなかったが、窒化ホウ素2を金属細線1に設け、この金属細線1を加熱することで同時に窒化ホウ素2も加熱、蒸発、プラズマ化させることが可能となった。
【0030】
尚、金属超微粒子を窒化ホウ素ナノ構造体に付着させるには夫々の蒸発源が可能な限り近いことが望ましく、例えば、金属細線1に窒化ホウ素2を塗布すれば、夫々の蒸発源間隔を最も狭くでき、容易に金属超微粒子を窒化ホウ素ナノ構造体に付着させることができる。
【実施例】
【0031】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0032】
本実施例は、パルス細線放電法を用いて金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を製造する金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法であり、金属細線1に窒化ホウ素2を塗布し、この窒化ホウ素2を塗布した金属細線1にパルス大電流を通電し、この金属細線1を加熱することで同時に窒化ホウ素2も加熱して金属細線1と窒化ホウ素2の双方を蒸発させプラズマ化し、このプラズマ状態となった金属細線1と窒化ホウ素2とをガス雰囲気で冷却し凝固させることによって金属超微粒子と窒化ホウ素ナノ構造体とを形成するとともに、金属超微粒子が窒化ホウ素ナノ構造体に付着し担持されることで金属超微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を効率的に製造することができる金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法である。
【0033】
また、本実施例では図1に示すようなパルス細線放電装置を用いており、このパルス細線放電装置は、高圧充電電源4、コンデンサー5、スイッチ6を主構成部品とする放電回路部と、金属細線1にパルス電流を通電しプラズマ化させて超微粒子を形成するチャンバー3とで構成している。
【0034】
また、このチャンバー3には、雰囲気ガスを導入するガス導入口7と、真空排気口8とが設けられており、この真空排気口8に回収フィルター9を設けてチャンバー3内で形成した金属超微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を回収する構成としている。
【0035】
このパルス細線放電装置を用いて金属超微粒子を担持した金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を製造するには、直径0.05mm〜0.5mmのFe,Co若しくはNiの単体またはこれらのうち少なくとも二種類を含む合金からなる金属細線1の表面に、厚さ0.01mm〜0.1mmの六方晶窒化ホウ素2(hBN)を塗布し付着させて、チャンバー3内に設置した放電回路部の電極10間にセットする。
【0036】
この六方晶窒化ホウ素2(hBN)を塗布した金属細線1を配設したチャンバー3内を真空排気した後、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスをガス導入口7から導入しチャンバー3内の圧力を10kPa〜200kPaにする。
【0037】
次いで、高圧充電電源4によりコンデンサー5を1kV〜10kVの電圧で充電し、スイッチ6を閉じることで六方晶窒化ホウ素2(hBN)を塗布した金属細線1にパルス大電流を通電させて急激に加熱し、蒸発させプラズマ化させる。
【0038】
このプラズマ状態となった金属細線1と六方晶窒化ホウ素2(hBN)は、夫々不活性ガス中で冷却され凝固し六方晶窒化ホウ素ナノ構造体及びFe,Co若しくはNi超微粒子を形成しながら互いに付着し、厚さ5nm〜500nmの六方晶窒化ホウ素ナノチューブ(hBNナノチューブ)、六方晶窒化ホウ素ナノシート(hBNナノシート)、六方晶窒化ホウ素ナノコーン(hBNナノコーン)のいずれかと、粒径10nm〜30nmのFe,Co若しくはNiの単体粒子またはこれらのうち少なくとも二種類を含む合金粒子とからなる複合材料、即ち、金属超微粒子を担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノ構造体が製造され、この金属超微粒子を担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノ構造体を、チャンバー3内の不活性ガスを真空排気口8から排気する際に、この真空排気口8の途中に設けた回収フィルター9でトラップして回収する。
【0039】
また、本実施例では、金属細線1に採用する材質をFe,Co,Niの単体若しくはこれらのうち少なくとも二種類を含む合金とし、その直径を0.05mm〜0.5mmに設定する。これは、パルス通電によって放電回路に蓄積された電気エネルギーを金属細線1や六方晶窒化ホウ素2(hBN)が蒸発に必要な内部エネルギーに変換可能とするためであり、直径が0.5mmより大きいと、金属細線1の抵抗値が放電回路の内部抵抗よりも小さくなって短絡が生じ、また、直径が0.05mmより小さいと、放電回路の最大電圧で蒸発可能な電流を通電させることができなくなる。
【0040】
また、本実施例では、六方晶窒化ホウ素ナノ構造体に付着させた粒子は、粒径10nm〜500nmになるようにしている。これは、六方晶窒化ホウ素ナノ構造体への付着力及び、酸化などの変質防止の為である。
【0041】
即ち、この金属超微粒子の粒径が500nmより大きいと窒化ホウ素ナノ構造体への付着力が低下し、窒化ホウ素ナノ構造体に付着しても担持されず剥がれ落ちてしまう可能性があり、また、粒径が10nmより小さいと酸化などによる変質の可能性が高くなるのである。
【0042】
また、本実施例では、金属細線1に塗布する六方晶窒化ホウ素2(hBN)の厚さを0.01mm〜0.1mmに設定している。これは、六方晶窒化ホウ素2(hBN)の蒸発に必要な熱をコンデンサー5に充電したエネルギーから熱伝導により変換し、六方晶窒化ホウ素2(hBN)の蒸発を可能とするためである。
【0043】
厚さが0.01mmより薄いと放電時に金属細線1から飛散して蒸発出来なくなり、0.1mmより厚いとコンデンサー5に高圧充電電源4で充電したエネルギーで六方晶窒化ホウ素2(hBN)の蒸発に必要な内部エネルギーが得られなくなる。
【0044】
また、本実施例では、窒化ホウ素ナノチューブなどの窒化ホウ素ナノ構造体の厚さを5nm〜500nmとなるようにしている。これは、窒化ホウ素ナノチューブなどの窒化ホウ素ナノ構造体はある程度以上の厚さがないと湾曲など変形してしまい、厚くなりすぎるとバルク体と同様な物性を示すようになり、ナノ構造体としての利点が失われるためである。
【0045】
また、本実施例は、金属細線1の加熱時間を0.1ms以下としている。これは、加熱時間が長くなると熱伝導による損失が大きくなり放電回路に蓄積された電気エネルギーを金属細線1及び六方晶窒化ホウ素2(hBN)を蒸発させるために必要な内部エネルギーに変換する変換効率が低下し、金属細線1及び六方晶窒化ホウ素2(hBN)が蒸発、プラズマ化しなくなる可能性があるためである。
【0046】
尚、本実施例に用いるパルス細線放電装置のチャンバー3の体積は、1リットル〜30リットル程度とすることが望ましく、また、コンデンサー5は単一若しくは複数を接続した構成としても良い。更に、スイッチ6は、球ギャップスイッチ、トリガトロン、半導体スイッチなど本実施例と同等の効果を発揮するものであれば適宜採用し得るものである。
【0047】
本実施例は上述のようにしたから、Fe,Co若しくはNiの単体またはこれらのうち少なくとも二種類を含む合金からなる金属細線1の表面に六方晶窒化ホウ素2(hBN)を設け、これを雰囲気ガスを導入可能なチャンバー3内にセットし、このセットした金属細線1にパルス大電流を通電すると、金属細線1が電気抵抗によって瞬間的に急加熱され、この加熱された金属細線1からの熱伝導により、表面に付着している六方晶窒化ホウ素2(hBN)も同時に加熱され、金属細線1と六方晶窒化ホウ素2(hBN)とが蒸発プラズマ化し、このプラズマ状態となった金属細線1及び六方晶窒化ホウ素2(hBN)はチャンバー3内に導入した雰囲気ガス(不活性ガス)によって冷却され凝固し、金属細線1は金属超微粒子となり、また、六方晶窒化ホウ素2(hBN)は、六方晶窒化ホウ素ナノチューブ、六方晶窒化ホウ素ナノシート、六方晶窒化ホウ素ナノコーンなどの六方晶窒化ホウ素ナノ構造体となる。
【0048】
即ち、絶縁体である六方晶窒化ホウ素2(hBN)は、パルス細線放電法を用いての通電加熱ができなかったが、このように金属細線1に設けることで金属細線1からの熱伝導により六方晶窒化ホウ素2(hBN)も同時に加熱することが可能となり、これらを同時にパルス通電によって急加熱し蒸発プラズマ化することで金属超微粒子と六方晶窒化ホウ素ナノ構造体とを同時に高温下で存在させることができ、従って、金属超微粒子が六方晶窒化ホウ素ナノ構造体に付着し担持され、金属超微粒子を担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノ構造体を効率的に製造することができる。
【0049】
また、金属超微粒子を六方晶窒化ホウ素ナノ構造体に付着させるには夫々の蒸発源が可能な限り近いことが望ましく、本実施例では、金属細線1に六方晶窒化ホウ素2(hBN)を塗布しているので、夫々の蒸発源間隔を最も狭くでき、容易に金属超微粒子を六方晶窒化ホウ素ナノ構造体に付着させることができる。
【0050】
<実施例1>
以下に金属細線1としてFe、Niを用いて、Fe−Ni合金超微粒子を担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノ構造体を製造した際の詳細な条件を示すと共に、回収した微粒子の観察及び分析結果を示す。
【0051】
長さ20mm、直径0.2mmのFeと、長さ20mm、直径0.2mmのNiとからなる金属細線1に、直径10μmの六方晶窒化ホウ素2(hBN)を厚さ0.1mmで塗布し、チャンバー3内に配置した放電回路の電極10間にセットし、チャンバー3内を真空引きした後、ガス導入口7より窒素ガスを導入しチャンバー内3の圧力を100kPaにし、充電電圧5kVで放電した後、チャンバー3内の窒素ガスを、真空排気口8を通じて排気し、この排気の際に真空排気口8の途中に配設した回収フィルター9に付着した粒子を回収した。尚、放電時間、即ち、加熱時間が長くなると熱伝導による損失が大きくなり放電回路に蓄積された電気エネルギーを金属細線1及び六方晶窒化ホウ素2(hBN)を蒸発させるために必要な内部エネルギーに変換する変換効率が低下し、金属細線1及び六方晶窒化ホウ素2(hBN)が蒸発、プラズマ化しなくなる可能性があるため、本実施例における放電時間は、0.1ms以下とした。
【0052】
この回収した粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図2に示す。このSEM観察写真では、厚さ100nm〜300nmの六方晶窒化ホウ素ナノシートの表面に直径20nm〜300nmの球形の金属超微粒子が付着していることが確認できた。
【0053】
また、回収した粒子を粉末X線回折測定したところ、図3の上段に示すX線回折図形が得られた。この図形ではB(ホウ素)とN(窒素)の原子散乱因子が小さいため、六方晶窒化ホウ素2(hBN)の回折は観察することができなかった。
【0054】
しかし、図3の中段及び下段に示すX線回折図形に示されるFe,Ni単体金属の回折ピーク位置と比較した際に、図3の上段に示される図形の回収粒子のピーク値が、中段及び下段に示されるFeのピーク値とNiのピーク値との略中間位置にあることより、六方晶窒化ホウ素ナノシートの表面に付着している球形の粒子はFe−Ni合金であることが確認できた。
【0055】
従って、回収した粒子は、六方晶窒化ホウ素ナノシート上にFe−Ni合金超微粒子が付着した複合材料、即ち、Fe−Ni合金超微粒子を担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノシートであることが確認できた。
【0056】
尚、上記Fe及びNiを用いた金属細線1の代わりに、直径3mm、長さ20mmの六方晶窒化ホウ素焼結体を用いて、同様の条件で放電を試みたが、スイッチ6を閉じてもパルス電流は流れなかった。
【0057】
<実施例2>
以下に金属細線1としてFeを用いて、Fe単体金属超微粒子を担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノ構造体を製造した際の詳細な条件を示すと共に、回収した微粒子のSEM観察結果を示す。
【0058】
長さ20mm、直径0.2mmのFeからなる金属細線1に、直径10μmの六方晶窒化ホウ素2(hBN)を厚さ0.05mmに塗布し、チャンバー3内に配置した放電回路の電極10間にセットし、チャンバー3内を真空引きした後、ガス導入口7より窒素ガスを導入しチャンバー3内の圧力を100kPaにし、充電電圧5kVで放電した後、チャンバー3内の窒素ガスを、真空排気口8を通じて排気し、この排気の際に真空排気口8の途中に配設した回収フィルター9に付着した粒子を回収した。更に、この回収した粒子を圧力100kPaに設定した窒素雰囲気中で、1200℃で熱処理した。
【0059】
この回収し熱処理を施した粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図4に示す。このSEM観察写真では、大きさ10μmの六方晶窒化ホウ素ナノシートの表面に直径20nm〜300nmの球形のFe超微粒子が付着していることが確認できた。
【0060】
更に、直径10nm〜20nm、長さ1μm〜3μmの六方晶窒化ホウ素ナノチューブ、若しくは六方晶窒化ホウ素ナノコーンが付着していることも確認できた。
【0061】
従って、回収した粒子は、六方晶窒化ホウ素ナノシート上に六方晶窒化ホウ素ナノチューブ、若しくは六方晶窒化ホウ素ナノコーンとFe超微粒子とが付着した複合材料、即ち、Fe単体金属超微粒子と六方晶窒化ホウ素ナノチューブ、若しくは六方晶窒化ホウ素ナノコーンを担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノシートであることが確認できた。
【0062】
尚、本実施例では、回収した粒子の付着力、相、形態を最適化するために上記のような熱処理を行ったが、本実施例に限らず、酸化、還元など様々な雰囲気ガス中で熱処理を行っても良い。
【0063】
<実施例3>
以下に金属細線1としてCoを用いて、Co単体金属超微粒子を担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノ構造体を製造した際の詳細な条件を示す。
【0064】
長さ20mm、直径0.2mmのCoからなる金属細線1に、直径10μmの六方晶窒化ホウ素2(hBN)を厚さ0.03mmに塗布し、チャンバー3内に配置した放電回路の電極10間にセットし、チャンバー3内を真空引きした後、ガス導入口7より窒素ガスを導入しチャンバー内3の圧力を10kPaにし、充電電圧5kVで放電した後、チャンバー3内の窒素ガスを、真空排気口8を通じて排気し、この排気の際に真空排気口8の途中に配設した回収フィルター9に付着した粒子を回収した。
【0065】
この回収した粒子は、六方晶窒化ホウ素ナノシート上にCo超微粒子が付着した複合材料、即ち、Co単体金属超微粒子を担持した金属担持六方晶窒化ホウ素ナノシートであることが確認できた。
【0066】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0067】
1 金属細線
2 窒化ホウ素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属細線に窒化ホウ素を設け、この窒化ホウ素を設けた前記金属細線にパルス電流を通電し、この金属細線を加熱しプラズマ化させて金属担持窒化ホウ素ナノ構造体を製造することを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属細線は、前記パルス電流を通電した際の抵抗が放電回路の内部抵抗よりも大きく且つ前記放電回路の最大電圧で蒸発可能な材質及び直径であることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属細線は、Fe,Co若しくはNiの単体またはこれらのうち少なくとも二種類を含む合金からなることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属細線は、直径0.05mm〜0.5mmに設定されていることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属配線の加熱時間を0.1ms以下とすることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属細線に前記窒化ホウ素を0.01mm〜0.1mmの厚さで塗布することを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記窒化ホウ素は、六方晶窒化ホウ素であることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法において、前記金属担持窒化ホウ素ナノ構造体は、窒化ホウ素からなる厚さ5nm〜500nmのナノチューブ,ナノシート若しくはナノコーンの少なくとも1つであることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項9】
金属粒子が担持された金属担持窒化ホウ素ナノ構造体であって、厚さ5nm〜500nmであり、また、前記金属粒子は、粒径10nm〜500nmのFe,Co若しくはNiの単体粒子または少なくとも前記Fe,Co若しくはNiのうち少なくとも二種を含む合金粒子であることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体。
【請求項10】
請求項9記載の金属担持窒化ホウ素ナノ構造体において、前記金属担持窒化ホウ素ナノ構造体は、窒化ホウ素からなるナノチューブ,ナノシート若しくはナノコーンの少なくとも1つであることを特徴とする金属担持窒化ホウ素ナノ構造体。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−153551(P2012−153551A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12911(P2011−12911)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)